夢見がちな




『…ん』
「起きましたか?」

おはようございますと言う彼に、おはようと声を掛ける。
眠たい感じが然程しないが、一体此処は何処だ。
確か白い部屋に居た気がするが、何故私は華樹神の樹木下に寝ていた。

その前は奥にある部屋で寝ていた気がするんだが。

「私が此方に戻しました。事情を説明するためにもね。」
「…スピス、やったのか。」
『…とと、さま?』
「ええ。しないとまずい状態でしたので。」

貴方の許可を取らずとも、もう此方側に来ています。
そう言う彼に、ルトラールが険しい顔をして此方を威嚇してみていた。
優しく抱きしめてくれた大神官の身体が離れると、
何時の間に居たのかサワアが抱きしめ直してくれた。

暖かい。気持ちが良くて、目を閉じる。

「ふざけるな…こんなこと、して良い訳がない。」
「ですが出来てしまいましたし、一応理にも話を通しています。」
「まぁ其処迄怒らないで欲しいルトラール様。」
「ヴァイス様、いやこの際良い。何故こうした。コレは禁忌に近い物だ。」

というか明らか処罰が下るものをという彼に、
ヴァイスはため息交じりに良くやり切ったなと答える。

「ええ。メルさんがとても協力的でしたので。」
「させたの間違いだろ。お前がこうもなるとは思っていなかったが。」
「それは此方のセリフですよ。貴方が此処まで過保護に守っていたとは。」
「そりゃ子供なんだから天使にならない様に加護を付けるに決まってるだろ。」
「貴方一応天使なんですよね?」
「当たり前だろ何処をどう見てそれをいう。」

そう言ってルトラールは大神官と似たような輪を見せる。
後ろには二つの蛍光灯と言われてもおかしくない様に綺麗な輪が見えた。

「ですよね。では何故彼女に天使にならない様に加護を付けていて?」
「…その子が原初戻りで魔女や悪魔に変わらない様にという印をつけていただけだ。」
「ですがならなかった。」
「それは結果論での話だ…!!かなりの確率で悪魔になる予定だったというのに、一体どういうことをしてそうなった!!!!」

ただでさえ気を取り込みにくい状態だったというのに。
どれ程の負荷をかけたと怒る父親に、メルは眠りから覚める。

『ととさま?』
「メル」
『ふぇ?』
「寝ていていいですよ?」
『でも』
「いいから」

そう言われてベットに寝転がらされる。
後ろでの声が気になるのに、ぎゅっと抱きしめられて目が閉じてしまう。
すやりと寝ているのを分かって、サワアがちらりと大神官と目を合わせた。

「彼等も頑張ってくれましたので。」
「…まぁ、もうなってしまったものは仕方がない。
三期に入ったということで間違いないな?」
「ええ。無事に受け入れてくれたのでああなっていますし。」
「はぁ……分かった。我々はそのまま外に出るとしよう。」
「大事にしますので、ご安心を。」
「全くだ。泣いて人間に殺されて死んだらただじゃ置かない。」

今度はこの理ごと壊す勢いなのを分かっておくんだな。
ええ、重々承知して置きます。

そう言って、彼等がふわりと空に飛んで行き、消え去った後。
もういいですよと言った大神官に周りに居た者達が全力で力を抜いて地面に倒れた。

「こ、こわかった…」
「ふふ、すみません。怒らせてしまいましたね。」
「ルトラール様怒ったら滅茶苦茶怖いではないですか。」
「まぁ子供を蔑ろにされたみたいなものですからね。」
「したんですか。」
「似たようなことはしましたねえ。」
「お父様??????」
「仕方がないと言えば仕方がないのですよ。メルさんが拒絶して死にかけていましたのでね。」

半分分かってくれなかったのですが、まぁ兄も馬鹿ではありませんし。
事の次第を外からでも分かってくれると言うものでしょう。

「あの、一つ聞きたいことがあるのですが」
「なんでしょう?コニックさん。」
「メル様の頭に付いているのは飾りですか?」
「いいえ、我々の天使である証の輪で間違いありませんよ?」
「わ?!?!?!?わ?!?!?!?!?」
「わ?!?!?!?」
「おや、分かりませんか?メルさんを起こせばもっとわかりますかね?」

メルさん起きて下さい。朝ですよ〜?
んにゃぁあああ!!!
おや、ご機嫌斜めですね。
そりゃそうでしょうよ、あれ程やったんですから。

そうむくれるサワアに、大神官が起こすのをメルが抱き着いて嫌がっている。
ぐずっているも、ぶわりと白い翼を広げ、出すもの間違えてますと言われて首を振るい翼が消えて無くなる。

白い輪が青い色に変化していく、その輪は、二つあっても場所が違う。

「ずれ、て、ません?」
「いや、幻覚、ではないですよね?」
「ええ。メルさんがそう望んだ形ですので。」
「望めば輪が変わる者なのですか?」
「この子の場合は人間から天使に変わったのでね。」

色々と諸事情があるんです。
はぁ。

「一応大神官としての補助になるのですから、これくらいはしておかねばね。」
「元々そのつもりで手取り足取り教えて差し上げていたくせに。」
「おや、狡いことを言いますねえ?」
「私に会わせたのも戻らせる様に仕組んでだと流石にわかりますよ?
全く、誰かさんに似たもので其処ら辺は結構早い段階でわかりましたが。」
「お兄様????」

メルがあれ程騒いだのだ。流石に嫌がることをされて
これ以上はさせるつもり等ない。
そう言わんばかりにぎゅっとメルを抱きしめて離さないでやる。
輪がちらりと見えているが、気にしない。メルはメルであるのだから。

ぐっと引き寄せて守ろうとするサワアに
大神官は彼の方を向いて答える。

「安心なさい。これ以上なんてありませんよ。
それに貴方のを奪うつもりなどないというもの。」
「…奪う予定だったのを諦めたとかではなくて?」
「余り言うと怒りますよ?」
「怒れるなら怒って見ればいいではないですか。」
「さわ」

言い切る前に、バチンと音が鳴り響く。
一体何が起きたのかと周りがざわつくが、見えた者が声を出した。

「…はじいた?」
「お父様の力を?」
「え?いや待って下さい、えっ?」
『…喧嘩するなら他所でして。』
「エフェメラル。」
『怒るよ…???』
「既に怒ってるではないで、すか。」
「お父様!?!??」

ギッと睨んでその気を鋭くさせスピスを切り刻もうと攻撃を入れる。
それを軽く避けて空に飛んでしまう彼に、メルが身体を向けたが
ぐらりと地面に落ちる身体をサワアが受け止めた。

「まだ天使になったばかりなんです。
気があるとはいえどそうやって無理すれば倒れますよ。」
『うう…わ、たしは。』
「寝かせておきなさい。」
「…すみません、メル。」

また後でと言って意識を飛ばさせたサワアはそっとその身体から離れる。
ぐったりと横になっているメルの頭には、青い輪が二つ見えていて。
黄色いタオルケットに身を包んで眠る彼女の上には、ざわざわと華樹が鳴り響く。

風など此処は吹かないのに、だ。

「警戒されているようですね。」
「お父様本当に何をしでかしたんですか???」
「少々無理に書き換えただけですよ。8割5分だった状態から天使にしたので。
無理させたことに父親だけでなく選んだ者にも怒られちゃいました。」
「お父様?!?!?!」
「まぁ今はゆっくりと休ませることですね。」

退散しますかと言う彼に、一同も宇宙に戻させられる。
二人きりになった途端、華樹が大神官に刃を向けた。
ざくりと入った痛みには流石に甘んじて受け入れるしかない。

選んだものに傷をつけたも同然のことをしたのだから、仕方がないだろうが。
まぁこれ以外他がなかったのだから、許して欲しいと言う物だ。

もしもメルが人間に堕ちるようならば、
この世界が消えて無くなる前提ではあったのだから。

「入れ替えの術。禁忌中の禁忌をしたんですから、
お咎めがない時点でおかしいんですがねえ。」

メルを天使に変えるなんて、本来はあっていけないというもの。
華樹神が別の枠組みに入ること自体禁忌であるものを大神官は成し遂げたのだ。
幸いなことにメルがまだ人間に心残りがあるから華樹神もどきにまでなっただけで
天使に変わらない状態で怒られたのは無理もない。

正確には理に近い天使という位置だが、そんなことはどうでもいい。
輪の形が理のソレにちかいということを、忘れてはいけないというのに。

「貴方は私の下に居ようとするのですから、おかしい話しなんですよねえ。」

本当は逆だと言うのに。貴方は隣に居るが為に此処に居ると。
こんなの本来だったら中立に背く行為であるので消滅してもおかしくない。
なのに生きているのは、彼女がそうさせているから。

自分が望めば彼等はその位置に居るというものを、分かっている。
だから最初から手を伸ばしていたとしたら?最初から、全て。分かっていたら?

「…元気になった時、お待ちしておりますよ。」

私のことを恨むことすらしない、天使の様な貴方を。


++++++++++


そうして完治しました。偉いです僕。
むくううと頬を膨らませて、目の前の者に威嚇する。

「おや、不貞腐れて。反抗期ですか?」
『遅れて成長期です。悪いです?』
「いえいえ。可愛らしいもので嬉しいですよ?」

大神官から貰った衣服を着ているメルはというと
その足で廊下を歩いてみる。
天使の枠組みではある為か、一人で歩いても其処迄きつくはない。

「どうです?歩けるでしょう?」
『待ってまさかこのために最初から外す前提で
貴方私を取りに来てませんですよね?』
「ふふ、言語がおかしいですが、
そう言う事にしておきましょうか。」

ですが貴方も割と面白いことをしたではないですか。
え?

「私のたくらみを分かっていてその行動に身を任せたというのに。」
『お兄さん?????』
「言っておきますがルトラールらは既にこの世にいませんよ。」

は????

「怒らないで下さい。死んだという訳ではない。
ただ契約満了ということで理の方に移動したんですよ。」

まぁ4代目になった時はどうなるかわかりませんが。
途中から魂が別の方に向かうことにはなるでしょう。

そう言う大神官にそういうことならとメルは気を落ち着かせる。
いやにしても本当に気を扱うのが上手くなったというか、なんというか。

「どうです?体調は良くなったでしょう?」
『まあ、すこぶる良いですが…このあっ、えっと、後ろの奴なんとかなりません?』
「っふふふふ、そう回ったら目を回しますよ。」

あうあうとふらつくメルに、そっと背中を取ってあげる。
後ろにある輪なんて久しぶりに身につけただけだろうに。

「久しぶりの感覚はどうですか?」
『うう、なれない。なれないですよお…
天使なんて何世代前だと思っているんですか。
それにこの感覚、お兄さん何を引き換えにしたんです?』
「おや、何も引き換えなどしていませんよ?」
『嘘だあ。これ最初期の天使と変わらない状態ではないですか。』

おかげさまで杖もこの通りです。
そう言ってメルは元々持っていた杖を取り出してみる。
一見大神官が付けていた設定の持つ杖だが、
内容がごろっと変わってしまっていたのだ。
最初に付けていた者から更に設定も増えて今は見たくないというもの。

『蘇生は勿論華神らの生成から何から何まで元通り。
加えて私一応曲がりなりにも華樹神ですよね?
これって初代である華樹神ルトラールの状態とほぼ同じですよ?』
「ええ。そうですね?」
『…過保護』
「勝手に仰っていて下さい。貴方の実力ではそれ程が妥当なんです。
何でしたら私を従えるレベルですし、全王様よりも偉い地位ですからね?」
『あーあー聞こえない。全然聞こえない。』
「めるう!めるだああ!!!」

あああ全ちゃんだああああああそう叫んで抱き着くメルに
可愛いと叫ぶ彼女へ二人の全王が甘えていちゃついている。

「元気になった?なった?」
『ええどこかの誰かさんのおかげで
フルパワーまで戻されましたよ全くもう…!!!』
「それは良かったではないですか。」
『誰が原初代まで戻せと言った誰が!!!!』

そう笑いながらも突っ込みを入れて杖で大神官を指すメルに
いえいえと大神官は首を横に振って否定する。

「私は天使にと貴方を導いて差し上げた次第ですよ?
其処迄の力なんて私めがあるわけないでしょうに。」
『煩いこの中間管理職。』
「うっ…メルさん?言っていいことと
悪いことがあるの分かってます???」
『分かってるけど今は言わせて!!もう!!!』
「メル怒ってる?」
「大神官が悪いの?」
『嗚呼違うそうじゃないんだよ。』

いい悪いで物事を差し計って消すという価値観は終わらせようね。
いい加減成長しろとメルが両手の指を下ろさせると
なんでえと声が上がる。ううむ、どうしたものか。

『悪いことでも後から理解してくれる良い子だったりするからさ。
様子見ということをそろそろ覚える時期にしようか。
余り私が教育に手を出すわけにはいかんが。』
「別にしても構いませんよ?」
『お兄さんの仕事でしょうがお兄さんの…!!!』
「一応補佐ですし。それ程の権限軽く渡せますよ?」
『私大神官までしませんからね?!?!?』
「っふふふ、流石に其処迄はさせませんが…したいのなら是非。」
『しないっつてるじゃん!?!??!』

焦って流石に声がどもるわ。敬語?何それ美味しいの?

『全くもう…でも勝手に今の状態から消されると私も悲しいよ?
全ちゃん一人の世界ではないんだから、何かあれば言ってね?』
「わかった。何かあればメルに相談する!」
「するする!!」
『あああ偉いねぇ。もう何する今日は!!!!』
「ふふ、元気ですねえ。」

++++++++++


「偉く落ち込んでおるの…」
『うう、へれすううううああああんへれすううううう!!!!』
「おおよしよし、どうしたんじゃ珍しい。」
『あああヘレスだ…うう、しゅき。いっぱいしゅき。』
「すみません、現在天使になって以来感情の操作が効かないらしくて。」
「大神官様!!」
「貴方方なら落ち着くと思いまして。」

まぁ効果が絶大そうで何よりですが。

そう言う大神官の目にはヘレスに抱き着いて暫くしたメルの姿だ。
先程まで白い翼から気も増幅して結構きつかったのだが、
綺麗さっぱり落ち着いて輪が浮遊しているままになった。

「何をしていたんですか。」
「ちょっと組手を。」
「煽ったんですね…。」
「ふふ、すみません。流石に此処まで暴れるとは思っていませんでしたので。」
「ブザーが鳴ったので何事かと思いましたよ。」
『しゃーーーー』
「日に日に嫌われてませんか?」
「ふふ、ついつい、ね。」

何だかんだ言っていたずら好きな処もあるのだ。
鈍っていたらいけないからと言う彼の言葉でなくても
メルはなんだかんだ言って動くこと自体は好きな方で。

そこらじゅうを走り回ったりもしているから良いとは思っていたが、
組手に誘われてあわよくば力をフルに出させるとは聞いていなかったと言う。

「ちなみに何を言われてそんな怒っておるんじゃ」
『…また夢と同じ様にヘレス達が死んだらどうするって。』
「お父様????」
「ふふ、夢の話ではないですか。何もほんきに」
『私は夢でも嫌なの。』

ぎゅっと大神官をツタで宙に拘束していた。
一体何時の間にと大神官やサワアが考えている間にメルが拘束を解く。

『全く、天使に戻るとかは聞いてないんだよ。
一度死んでからならまだしも。』
「おや、アレで死んでないとよく言いますね?
アレほぼほぼ死んだも同然じゃなかったのでは?」
『それが怖くて次そうならない様に
此処まで手を入れて来たのでは?』
「おやおや、いいますねえ。」
『ふん!!!』
「仕事減らしますよ?」
『すいませんでしたそれだけは許して下さい!!!!!』

普通逆なんですがねえ。そう笑う大神官に
サワアとヘレスは苦笑いでメルのことを見ていた。
だってだってと手をぶんぶん振るメルは幼子のようにも見える。

気自体はもうすっかり天使と変わらない状態で、
本当に天使になった、いや戻ったと言うべきだろうか。
彼女の本来居た地位に戻って来たというもの。

輪がずれた所でくっついたように光るその天使の輪が
父親らと同じ位置に居ることを強く知らしめてくる。

『むう、それにしてもヘレス、今日はまたどうして?』
「お主の合図を聞いて駆けつけただけじゃよ。」
『あう、それは失礼なことを…』
「よいよい。それでは。」
「ええ、お騒がせしましたね。」

せめてものということで、彼らを元ある場所に帰らせた大神官。
暫くぼけっと見ていると、名前を呼ばれる。

『はっ』
「いきますよ。」
『あっ待って待って待って下さい大神官様!!!』

仕事中はこうやって大神官様と声を掛けている。
彼も彼で目付きが変わるので少し怖いが、今ではちょっぴり慣れてきた。
見ていて分かるが、結構利口で、ウイス達の父親なんだなと改めて感じるものだ。

仕事の内容を説明したりとか、其処ら辺の仕草が似ているのだ。
考え込む感じはコルンに似ているし、仕事の書面自体はサワアに割と似てる。
攻撃の仕込みは多分サワアとウイスを足した感じだと思う。

まぁ父親なんだから息子や娘たちが似るのも仕方がないというものだろうし。
似ているというのが違う位置ではあるんだろうが、そんなんはいいか。うん。

「此処から此処までが第1で、こっちが第2です。」
『はーーー滅茶苦茶量ありますね。書庫かな???』
「面倒なので一つの部屋に収納するようにしているんですよ。
一応言っておきますが、理や華樹神らの部屋は別にあります。」
『えっ!!保管してたんですかこっちで!!』
「向こうのダミーですがね。内容は殆ど同じです。」
『待って待って待って下さい。ダミーってことはアレですよね?』
「ええ。貴方が考えていることであっています。」

つまりサラッと読んだら間違えるダミーが入っているということか。
私が良くしている脳内変換の上位互換が此処に残されていると。
そりゃあまぁ純環の黙示録クレアバイブルが此処に残されているのは怖い話か。

『流石に持ち出されてたりしませんよね?』
「してたらブザーが鳴ったりしますし、まぁあったとしても消えたりはそうそう」

そう言っているとそのブザーが鳴り響く。
気付いた大神官が行きましょうとメルに声を掛けると
メルもまたはいと答えてその後に続いて走る。