隠れ咲く優しさ




前回のあらすじ
天使になって本を無くして戻してきました。

『はーーーー終わったマジで終わった疲れて本当に疲れた』
「お疲れ様です。お茶にしましょうか。」
『本当にお疲れ様です。あれからどうです?』
「反省していますよ。貴方のやり方本当にあっているのが怖いくらいには。」

あーやっぱりかとメルはにやりと笑った。
彼女がこっちに嫉妬しているのは前々から分かっていたし
どうせ例の者が絡んでいることもメルは掴んでいたのだ。

なので敢えて放置し、その事の次第を叩きだしたというもの。
因みにこの行為自体は大神官に相談しており、
サワアらも何となく察してくれたというもので。

だから皆何も言わずにニコニコと笑って気を与えてきたのだ。
まぁ半分以上が嫌がらせみたいなものだろう。一人二人ならまだしも
五人に増えた時の叫び様と思えば、未だに笑いものになっているだろうよ。

まぁ彼等の笑い話になるんだったら本望という者だ。
うんうん。今日も平和にいこうね。

「それにしても手際が良くて助かりますよ。本当に。」
『そうです?私からしたらもっと出来ないと難しい気がしますが。』
「初めてにしては充分過ぎる程です。流石廻廊を旅してきただけありますよ。」

通常の天使からしたらとてもじゃないが出来過ぎて困るくらいだろうと言う彼に
嫌々褒め過ぎですよと謙遜してお茶をすするメル。
作法は機械的に見せかけない様にしているが、まだぎこちないのがバレる。

「流石コルンさんの指導が行き届いているというものです。変換もばっちりですよ。」
『ほんとかなぁ〜〜スッピーが褒め過ぎてるだけでは?』
「おや、それなら事実を申し上げて良いと?」
『あっすいませんもう少し寝かせて頂けると助かります。』
「ふふ、そうだと思って言っているんですよ。
まぁ変換はまだしも仕事量はとんでもなく速いことは事実です。」

正確さを重視してもらえると助かります。
うう、頑張ります。

そう仕事の話をして肩身が狭くなるメルに話を逸らしてやる。

「そういえば体調はどうですか?アレから数日経ちましたが」
『すこぶる元気です。寝なくて良いって言うのが分からなくて寝ていますが。』
「まぁ睡眠や食事は引き続きとっていた方が良いでしょうね。
一応契約を通していますが、いつの間にか剥がれていて
餓死しているとか洒落になりませんし。」
『うっ怖いこと言わないで下さいよ。まぁ今の所問題ないですね。
一昨日辺りにコニックさんと手合わせしたんですが滅茶苦茶褒められました。』
「ほお?彼とですか。割と貴方からしたら強かったのでは?」

いやもうそりゃあもう強かった。

最初の流れが掴めなくて向こうから入って来た時もだが、
逃げるしかしなかった私にコルンが注意するが、
杖の使い方も天使の力も久方ぶりの私からしたら結構きつかった。

慣れてきた処から杖の扱いも反射的な動きも出来る様になって良くなったが。
流石に最初から良いというのはなかった。なのに、コニックさんめちゃ褒めてくれたん。

『コルン様は甘やかさないで下さい。何処でもこけだすのでと言ってくれるんですけどね。
まぁその後サラッとコルン様に抱き着きながらこけちゃったんですが。』
「ふふふ、怒っていませんでした?」
『滅茶苦茶怒ってました。もう今では笑えていますけどね?』

いやなんかの呪いかなって思いますもん。

『でも動き方は前より格段に良いんです。
まぁ初代の時に近いからっていうかほぼソレだからでしょうが。』
「おや、ソレは良かったではないですか。」
『よくありませんよ…全く、全盛期の私がどれ程の位置か貴方ご存知です?』
「私程の力はゆうにあるでしょう?」
『それが嫌なんですよそれが…!!!』

寧ろ手加減される方が嫌がりません?
ううそれもそうですが。

「それにコルンさんも強くなれば嬉しがるし一石二鳥とやらでは?」
『私は嬉しくないですが…』
「ですが力の操作は前の状態より断然良いと思いますよ。
これくらいでしたら私がいなくても動けていることでしょうし。」
『絶対戦闘させないのによく皆さんしごきあげますよね?
なんです彼等たちは私への嫌がらせか何かです?』
「ふふ、ただの戯れですよ。エフェメラルさん。」
『こんな天使の戯れなんぞ聞いたことも見たこともないですよ。
私の時代はもっとやわかった〜〜〜!!!!』
「時代が違いますからね。」

そりゃそうだ。初代とえらい違いなのも仕方がないというもの。
あの青い時間になんて戻りたくても戻れないし、戻るつもりもないのだが。
まぁ戻らせたくても彼らをまず蹴散らしていかねばならないから無理だろう。

敵になんて回したくないのだこちとらは。

「そういえば休暇はどうされるんです?」
『ん、休暇?』
「別に休まなくても構いませんが、
肉体というか精神が追い付かないでしょう?
流石に休まれてはと言う話ですよ。」

他の方達は私の子ですし、最初から天使ですが
貴方の場合は一度人間の状態が長く続いてから戻って来た者。

「ある程度は流石に人間の状態を様子見させてもらいます。
嗚呼勿論人間に戻ろうなんぞ思っていたら手を出しますが。」
『…待って下さい、白い例の部屋でしたみたいなことします?』
「嗚呼良いですね。そうしましょうか。」

貴方の灸に一番良さそうですし。
そうじとりと見てきた彼に良いですと叫んで答える。
アレをもう一度なんて本当に止めて欲しい。

ずくりとしてしまって身体がもぞもぞしてしまうではないか。

「…そうでなくてもしたいというのは人間的な欲求不満とやらでしょうか?」
『スピスさん!??!?!!?』
「ふふ、冗談ですよ。それにしても彼女の前でその名を呼ばなかったのは意外ですね。」
『だから私時と場合を選ぶって言いましたよね?
あとコルンさんとモヒイトさんが居るのだって分かってるんですよ????』
「おや、バレていましたか。」
「何時から居ると思ってました?」
『待って流石に何の話をしていたのかまで思い出せませんごめんなさい。』

潔いですね、座っても?
ええどうぞ。

そう言って大神官とメルの間に入って来た二人にメルが茶を入れてやる。
てきぱきと動く彼女は一応ある程度教えているが、
メル自体が元々淹れるのが上手いというのもあった。

「美味しいですね。向こうで作られているのを使っているのですか?」
『ええ。華樹神の内部にあるものもですが、今回はブレンドしました。』
「ブレンド?何方のを入れているんです?」
『ティーナ様達が居るアストランティアの方面ですよ。
珈琲系も苗から完備してるとか聞いたんで、今度行こうと思って。
確か好きでしたよね?コルン様。貰ってきましょうか?』
「まぁ嗜み程度ですが。頂けるなら受取りましょう。」
『じゃあそのつもりで行くか。大神官様。』
「おやもう休憩はおしまいですか?」
『うぐっ…す、すぴ…うう。』

お父様?まさかと言うコルンに大神官はすみませんと答える。

「メルさんが余りにも仕事に熱心なので。
仕事中以外は名前で呼ばせているのです。」
『人がいる前では恥ずかしくて言えないの
分かってやってるんですよこのお父さんどうします?!?!』
「すみません、我々にはどうにもできないので。」
「耐えて下さい。あとお父さんではなくお父様です。」
『ううんですよね頑張るね?!?!?!わかってるけど!!』

ついつい言っちゃうんだよ。

「まぁ次の休暇でなら構いませんよ。行ってきても。
ですが付き添いは必須です。何方と行くつもりですか?」
『ええ』
「そのような顔をしても無駄ですよ?
今では貴方の実力とあればそこら辺の人間程度あしらえるでしょうが、
技量は明らか貴方の方が劣っていますし。まぁ優しさに付け込まれて
華樹神を抑えられる金の首輪を付けられたら話になりませんでしょうしね。」
『わかっ、うう…』
「何も言い返せていないではないですか…」

困って笑うモヒイトに対して
コルンは嘆きながら肩を落としたメルに声を掛ける。

「ですが割とお強くなられたとお聞きしていますよ?」
『それは気のコントロールや肉体の動きが初代である
時間軸の己に近くなったわけでありまして。
本当の実力とあればこんなものじゃすみませんので。』
「おや言いますね。昔はもっとお強かったと?」
『…今の十倍程度なら動けたでしょうね。
もう少し純粋でしたから、気の速さが違ってましたが。』

今じゃ知識もあるので多少の計算が出来るがその分勢いも衰えている。
威力はこっちの方が大きくなりやすいが、貫通力的には昔の方が良い。
数日前にも見せてみたが、ああいう呪文系統の方が私は強いのだ。

幾つかのパターンがあるが、時間さえかければ
正直此処の誰よりも強い気を練りだせる自信はある。

まぁそんなの戦いにおいて無理な話ではあるが。

『いずれにせよ昔の方がずっと動きは早かったと思いますよ。
その分知っているのは意外にも此処には一人もいませんが。』
「おや、サワアお兄様すら知らないと?」
『彼と出会った時間帯は全て戦闘など皆無でしたし。
もし仮にあったとしても彼が全て賄ってくれていましたので。』
「愛されてますねえ。」
『どっちが惚れた腫れたかわかりませんがね。
全く此処までの道のりになるとはちょっと思っていなくて
正直予想外過ぎて笑ってしまいますが。』
「後悔していると?」
『ん〜〜〜〜どうでしょうねぇ〜〜〜〜?』

後悔、しているのかなあ。
でも彼を好きになったことに後悔なんてしていない。
なんならヘレスという可愛らしい女性迄ついてきたのだ。
えっまって私第2で暮らしたら滅茶苦茶良いのでは。

多分幸せで楽しい。まぁそんなことしたら仕事にならないだろうが。

「こうこの場で聞くのもなんですが、仕事は辛くないですか?」
『いいえ?全く。びっくりするくらいには。楽しいですよ寧ろ。』
「エフェメラルさんは苦痛も快楽に変換させる子ですからね。
寧ろこっちが気を使って仕方がないという者です。」
『ごめんね???でも割と楽してるの分かってるでしょ????』
「ええ。だから心配するんですよ。
普通これくらいの業務嫌がるはずなんですがねぇ。」
「お父様、一体何をさせているんです?」
「ただ書物を書き記させているだけですよ。貴方達の書いて来た者達をね。」
「…待って下さいどれ程の量やらせています????」

そう流石に声を出したコルンに、
全部とはいきませんが半分以上はと答えるスピス。
頭を抱えるコルンに、メルはクスクスと笑っている。

「メル、貴方絶対分かってやってないでしょう?」
『えへへ〜〜〜』
「その感じですと、分かってやってないでしょうね。」
「まぁ今はとにかく慣れですから。
書かせるだけでも勉強というものですよ。コルンさん。」
「…別にそれでいいなら構いませんが。余り無理なさらないで下さいよ?」
「一応私が付いていますのでその点は安心して下さい。」
「ならいいのですが。たまにこっそりやりますからね。」
「嗚呼今みたいに次の仕事を考えることとかです?」
『うっ』

胸を掴んで唸るメルに、
そうですとコルンがため息交じりに紅茶を飲み干す。

「一度やりだすと本当に歯止めが聞かないとは
サワアさんから聞いていますが、
まぁ大分落ち着いた方ではないかとおもいますよ?」
「それなら良いですが…まぁ言う事を聞かなければ何時でも仰ってください。」
『待って何をするつもりです。』
「場合によりけりでお兄様に通達します。」
『ちょっとそれはやめて貰えると助かります本当に止めて本当に。』
「日に日に頭が上がらなくなりますよね、貴方。」

普通逆なんだがというコルンに、
まぁ普通ということでいいのでは?と大神官が答える。

「まぁそろそろ頃合いですし、丁度良いですのでついでに向かいましょうか。」
『え?何方にです?』
「第9に。モヒイトさん界王神星に飛んでも?」
「ええ、別に構いませんが…何故此方に?」
「それは行ってからのお楽しみです。」

では、移動しましょうか。

そうコルンと別れ、
メルはモヒイトの手を取ってその地に降りてきた。

華樹神としての力はちゃんと残っている為、
放すと気を放出しかねないと言う大神官の元、
メルはモヒイトに一言断りその手を取って移動している。

『あの…一つ聞いても?』
「なんでしょう?」
『手、大きいですね???』
「そうです?割と一般的かと思いますが。」
『身長高いから皆手が大きいのかなって思ったんですが…』
「お兄様達よりかは小さいと思いますよ?」

流石に其処ら辺は分かっているモヒイトに
いや充分デカいとメルは答える。

こうやって握っていて分かるが、
多分自分の手の高さは
彼の第3関節程度に位置するだけだろう。
良くて第2関節くらいか。

『普通にでかいんだよな。普通に。』
「ふふ、メルさんも後々大きくなると思いますよ?」
『ええ〜〜?スピスさんや、流石にそれはないでしょ?』
「おや、どうしてです?」
『成長期はとっくの昔に終わりましたよ。』
「反抗期が来ていると言うのに?」
『お兄さん!??!?』
「ふふ、でも付きそうですよ?」
『え?わああああ!!!』

界王神惑星に到着したと同時に界王神であるロウが声を掛けてくれた。
業務報告やらの話を大神官がする中で、メルと声がかかる。

「ついでですし、貴方はモヒイトさんと散歩してきてください。」
『え?』
「嗚呼、そう言う事でしたら。メル様、此方へ。」
『え?え?待ってそれだけです?あっちょ、モヒイトさん!?』

立ち止まるメルを無視してモヒイトがこっちこっちと言わんばかりに動き出す。
手を伸ばすメルだが、ぺこりとロウにお辞儀をしてから駆け足で彼の速度に合わせた。

『すみません大神官様の思い付きでちょっと此処まで来てしまって。』
「別に構いませんよ。そんなことより体調は如何です?」
『え?まぁ、ふつう、ですが。』
「では、そのまま空へと。」
『へ?!?!?!』
「おや、飛べないんですか?」
『あっ飛べなくはないですが…』
「嗚呼先に言っておきますが華は閉まって下さいね。」
『酷いこというね!??!?!』

そう叫ぶメルに、クツクツと笑ってみせるモヒイトにメルは半泣きである。
一応翼も駄目ですよと出してから震えてこっちを見る子に、苦笑いで答えてやる。

『ううう〜〜〜モヒイトが意地悪すりゅ……』
「ふふ、すみません。ですが一応お願いされていますので。」
『お願い?誰にです?』
「さあ?難しいならもう片方の手を出して下さい。」
『え?こ、こう?』
「失礼します。」
『えっまっ…〜〜〜〜〜〜〜!!!』

腰元をガッと掴まれ、縦抱きで空を飛び出したモヒイトに、
思わず顔にしがみついてしまう。あっごめん!!でも無理!!!

「目を開けて下さい。」
『うう、でも』
「絶対に放しませんから。」
『ほ、ほんと…?ウイスみたいにしない???』
「したんですかあの子は…ええ、しませんよ。だから目を開けて下さい。」

そう言われてそっと目を開ける。すると綺麗な青い世界が空を見せてくれた。
奥の方に向かって見えるその世界に、目が輝いて仕方がない。

「どうです?此方は。」
『綺麗…!!!お空、飛んでる?』
「ええ、私が、ですが。」
『凄い…凄いよ!!!綺麗〜〜!!』
「…ソレは良かった。ロウ様もお喜びになられることでしょう。」
『それにしてもどうして…』
「メル様は余り我々らの星々を転々とさせれませんし。
かと言って閉じ込めるだけもきついと思いまして。」
『嗚呼だから界王神惑星で?』
「ええ。本来は破壊神の、というのもありましたがね。」

現在シドラ様は他の破壊神らと旅行に向かわれておりまして。
ついでにということでちらりと此方に連れてきてはと。

「それで、どうです?空の旅は。」
『えっ待って動いてる?うわ!!ほんとだ動いてる凄い!!』
「どうやら楽しんでくれているようですね。」
『うん!!モヒイトさんありがとう!!!滅茶苦茶凄い!!』
「其処迄凄いことをしていませんが…喜んでくれて何よりです。」
『今度お菓子焼こうか?』
「おや、よろしいので?」
『こんな良いことされて何もしないの悪いですし…!』
「ふふ、良いことでもない気がしますが。…寧ろこっちが役得というものですし。」
『んん?やくとく?』
「いえ、なんでもありませんよ。それよりも何を与えてくれるので?」

アッと言ってメルがニヤリと思いついたように笑って言う。

『バアムクーヘンとか?』
「っ!!!!…貴方も狡いお人ですねえ?」
『へへ!あの子程ではないけどね。』
「意味を覚えていたんですね。」
『幸せが続きますようにってね。』
「続いてます?」
『現在進行形で!!でもモヒイトさん重たくない?辛くない?』
「寧ろ軽いくらいですよ。本当に食べてます?」
『ねぇ待ってお兄さんまでそれ言う?』
「おや、皆さんそう仰られていると?」

そうなのーとメルが答える。

『此間コニックさんと組手した時とか
細すぎて折れそうだって言われちゃってさ。
腕の肉付きとかもう無理なんだけど…!!』
「っくくく、そりゃあそうでしょうねぇ?
貴方の身体なんてちょっと力を入れたら折れそうで
こっちも扱うのに細心の注意を払っているというのに。」
『…頑張って太るけど、期待しないでね????』

っていうかこれでも太った方なんだけど。
それでです????

『うっ、うん…絶対ヘレス達に言えないんだけどね。』
「それは…まぁ、言わない方が吉でしょうね。
前からそういう体質だったのですか?」
『元々ね。前は食べ物も少なかったし、
バリエーションもなかったから尚更だったけど。』
「今は未だマシだと…。
まぁ、少しずつ改善されていくでしょう、ね。」
『モヒイトさんは身長って食事な訳ないですよね?』
「ええ、我々天使は食事で改善など在り得ませんし。
それこそエフェメラルさんの方がお判りなのでは?」

うう実はですね、元々の天使はそうでもないんですよとメルが答える。

『本質は人間そのものです。貴方達天使になったのはもう少し後からなんですよ。』
「おや、そうなんですか。てっきり最初からだと思っていたんですが。」
『そう思うでしょうね。まぁ事実そうなんです。
私が持っていた全盛期は半分食事半分睡眠くらいでしたので。
今の現状がその状態に近いんですよね。』
「だから自然と気も増えて保管できると。」
『天使になって保管できるようにしたってビビりますよほんと。』
「いずれ空を舞うことも出来るでしょうね。」
『…待って下さい、その為にこうやって?』
「ええ。空の旅は楽しいです?」
『滅茶苦茶楽しいですよ。モヒイトさんこんな景色いつでも見れるんですよね?』
「そりゃあまあ。」

いいなあと言う声が上から聞こえてくるが、
お願いされなくても何時だって見せるというのに。
彼女は一度もこういう願いをしないというのだから、不思議なもので。

「メルさんはその昔、こういった星を回ってたりしたのでは?」
『まぁ翼を使っての浮遊が主ですね。そうでなくても杖だったりは出来ました。』
「ほお?なら杖で浮遊とか考えなかったので?」
『そうしたかったんですが、本来華樹神は杖を其処迄扱わないらしくてですね。』
「おや、杖自体も封じられていたと。」

杖からの気を送って浮遊も浮遊判定とみなして
落とされていたのを聞いて絶望していたのを思い出した。
それにはすいませんと言われたが、知らないのだから仕方がないというものだ。

『今の状態でも多分そうなんですよ〜
あ〜〜自分で空飛べるように戻りたいなあ』
「まぁ自分で動けるというのは楽ですからねえ。」
『あっそうだモヒイトさんって何か好きなものないです?』
「強いて言うならバアムクーヘンとやらが食べたいくらいですかねえ?」
『むうう!!酷い!!モヒイトさん酷い!!!』
「おかえりなさい。何の話をしているんです?」

ただいま戻りましたと答えるモヒイトに、もうおしまい?
と、メルが少し寂しそうな声を出して自分ではっと気付いて訂正する。

『あっちが、違います!!もういいです!!充分です!!!』
「…大神官様、もう暫くお借りしても構いませんか?」
「ええ、帰って来るならモヒイトさん付き添いであれば構いませんよ。シドラたちは?」
「シドラ様達は破壊神旅行で暫く帰って来られませんので。」
「嗚呼そうでしたね。なら猶更です。丁度そろそろ休暇を持たせる予定でしたし。」
『え?え?え?え?あれ?モヒイトさん!?!?どうして浮きだすのかなあ!??!』
「せっかくですし、このまま破壊神惑星か、他の場所に移動をと。」

何処か行きたいところとかありません?
そう言われてううむと、メルが唸る。
流石に遠い処なんて彼に悪いというもので。

どうせならクスに会いに行きたいとは思ったが
気分的にはクスではないと言うと彼女に悪い。

でも今は女子に会うつもりはない。
と言うのもこっちとて作戦とやらがあるのだ。
ふふふ、次回に持ち越しだ。次の休暇で作戦を練っているのだ。

だが、

『本当に良いんです?結構な長旅になりそうなんですが…』
「別に構いませんよ。数日お借りするなら
今のうちに言っておいた方が良いでしょう?」
『うう……出来れば、サワアの方まで行きたいなあって。』

でも第9から第2って結構な距離ではないですか。
そう困ってしょげるメルに、別にその程度とモヒイトが答える。

「確かに此方からでしたら片道5日程度はかかりますが…」
『うん!!やめよう!!!!』
「一度全王宮に戻られて行けば片道3日程でしたら。」

全速力で行けば何とかもう少し省けますが、
貴方の状態を考えて余り急ぐものでもありませんし。

「それに一言断っておけば彼等も快く受け取ってくれるでしょう?」
『…うう。でも』
「ではこうしませんか?私が貴方を其処迄送るのをバアムクーヘンで手を打つと。」
『…本当にそれでいいの?』
「ええ。おまけで紅茶も頂けると嬉しいです。」
『〜〜〜!!!!』
「別に数日くらいなら開けて貰って構いませんよ。それ程の業務をこなして貰えていますし。」

ではその手筈で。
何かあれば連絡を。
分かりました。

そうメルを一度下ろし、体勢を変え、杖を出して浮遊し始める。
四角いキューブ型になったと同時に身体が浮き出してきょろきょろした。

『あっ、スッピー!!それじゃあ行ってきます!!!』
「ええ、気を付けて下さいね〜〜。」