すべてそうやって溶けてゆく






天使と戯れ、眠ったその後。
大体半年くらいが経ったくらいだろうか。

随分と破壊神や天使らとも仲良くなり、
仕事も順調に回って、各宇宙を遊びに行っては慣れてきたある日。

「次はどちらに行かれる予定ですか?」
『ん?嗚呼一応第2に向かう予定ですよ。』
「久しぶりではないですか?」
『そうなんですよ〜〜〜なので着物どうしようかなって!
もういっそのこと一周回って元々着ていたお洋服着ちゃおうかなって!』
「嗚呼、もしかして第11番目の白い衣服です?」

そうそう!肩出しワンピース!!!
アレ凄い好きなんだよねえとメルは答える。

『でも皆そろそろ忙しいでしょ?
だからサワアにお迎えに来てもらうのも
ちょっとって思ってまして。』
「まぁ付き添いは不要でしょうね。」
『え?』
「もう印も定着しましたし、そろそろ一人で
移動出来る様になってみるのも手かと思いましてね。」

理の皆さまともお話しましたが、
華樹神として本来位置するべきの役に
身を置かせてみてはとお達しがきまして。

「下界に居る長さは大体体調にもよりますが
まぁ大体一日程度であれば許容しましょう。」
『ほんとに〜〜!?!?やったああああ!!!!』
「ですが下界ならきちんと各宇宙の子供たちに
失礼のないよう振る舞って頂きますよ?」
『は〜〜〜い!!!』
「ふふ、方向はばっちりですか?」
『勿論です!!ちゃんと皆さんのガイドを
すっかりちゃっかり盗み見てますからね!!』
「そうですか。」

思考なんてもう読めてしまうし、
その記憶をさかのぼることだって
出来るというのを彼女は忘れて居るのだろう。
そんな努力を隠したってバレバレであるのに。
可愛らしい処はこっちも見ないふりをしておくべきだ。

そうでもしないと二度と見せてくれないかもしれないから。

「そう言えば午後から既に休暇取れますが、
サワアさんにはご連絡しておられて?」
『一応していますが、明日の午後予定で予約取ってます。』
「おや、一日で足を運べると?
確か破壊神星だと早くても二日はかかるはずですが。」
『へへ!実はサワアさんの方から
こっちに出来る限り飛んできてくれるらしくてですね!!』
「嗚呼待ち合わせですか。それはまた考えましたね。」

いや〜向こうの世界でも似たようなことはしたが、
まさか宇宙規模で出来るとは思っていなかったんだ。

「余り寄り道して迷子になっても知りませんからね?」
『は〜〜い!!それじゃ、荷物纏めてそのまま行ってきます。』
「ええ。お気をつけて。何かあれば杖を通じて連絡をくださいね?」
『勿論です!!それじゃ、行ってきます!スピスさん!!!』
「ええ、いってらっしゃい。」

ニコリと微笑み、大神官はメルの姿を見終えた後、自分の業務に戻る。




すーっと飛んで行くメルを水晶で少し見届けた後、
それ以上は良いかと考え、仕事に戻ることにした。

それが、いけなかったのだと、
スピスは後に後悔することを、この時は知りもしない。


++++++++++


『おっでかけ〜〜おっで、かけ〜〜〜!!!』

まさか一人で、しかも空を飛べるとは思わなかった。
これも理様達の力によるものであるのだ。

いやにしても滅茶苦茶嬉しいもんだ。
まさか一人でなんて。まぁ最初滅茶苦茶反対買ったが、
華樹神がどれ程力を持って、尚且つ本当に天使らがいない状態で
その身を降ろせないのかも知りたいということで行われる今回の作戦。

一応天使らが見ていなくても、理らが私を見てくれているのだ。
何かがあれば向こう側から連絡も行くと思う。
よ〜し、今日は張り切って遊ぶぞ〜〜〜!!!!

『ん?あれって確か…ヘレス様のところの人?』

一足先に星に到着したメルは見知った者に声を掛けた。

『ティオ様!!ティオ様ではないですか!!!』
「ん?嗚呼!エフェメラル様!!丁度良かった。」
『どうされました?』

そう降り立つというか空に浮遊しながら彼の目線より下に浮いて聞くメルに
彼は残念ながらとしょげて答える。

「実は天使様からご伝言で、本日お会い出来ないと承っていまして。」
『えっ!!!マジか…そっか〜〜残念。』
「丁度緊急で足を運ばねばならない場所が出来たそうで。すみません。」
『良いですよ別に、寧ろ教えて頂きありがとうございます。
それでしたら帰りも割と危ないのでは?』
「いえ、自分で帰れますよ。此処からですと三日あれば到着しますし。」
『みっ!?!?駄目ですよ!!流石にそれは!!!』

自分の距離から換算しても半分以上の時間はかかっているではないか。
こういうことは本当によくあり、他の宇宙を入れると割とあるもので。
でもサワアだったらこんなことするなら通信の一つくらい入れているような気がするが…。

そうメルが杖を見ようとした時、ティオが声を掛ける。

「今日は通信はお控えた方が宜しいかと。」
『えっなんでまた』
「丁度数日前破壊神様らと大喧嘩して気が立ってる時でして。」
『嗚呼いつもすいません。ご迷惑をお掛けしまして。』
「いえいえ。」
『お詫びにお送りさせていただきます。』
「そんな悪いですよ。」
『いえいえ、大神官様、メルです。』

なんですか?と声が聞こえる彼に、すみませんとメルは答える。

『実は緊急でサワアさんがお仕事の予定が入ったそうでトンボ帰りするんですが
その前に教えて下さった付き添いの方を破壊神星までお送りしたい、んですが〜〜構いませんかねってお話でして。』

ー構いませんよ。気を付けて帰って来て下さいね。彼にも世話をかけること断っておくように。

『はい!それでは。』
「どうでしたか?」
『大丈夫そうでした!!それでは参りましょう!!』

そう言ってメルは浮遊し、杖を使ってその地から飛び出した。

「それにしても、とんでもないお力ですよね。」
『ん?私ですか?』
「ええ。その様なお力を持っても、何故振るわないのですか?」
『嗚呼ヘレス様みたいな破壊をですか?
私にはアレ等不向き極まりないですよ。』
「そうでしょうか?貴方程の力であれば
破壊等軽々と出来る様に見えますが。」
『ん〜〜界王神様や他の神々らの管轄内ですからね。』

私が手を出して良い訳ではないのだ。

『人の仕事を取ってまでして仕事をしたいとは思っていませんし。
私が出来るのは自分の身を護ることと、
近くに居る子達を守ってあげるくらいですかねえ?』
「…そうですか。」
『それがどうかしました?』
「いえ、貴方の様なお方がこの宇宙を司れば、
どんな世界がみえるのかと思いまして。」
『ふふふ、それこそ夢幻の様な世界ですね!』
「え?」
『そんなもの、一つしか答えはありません。』

ニコリと笑って彼に応えてやる。

『無ですよ。』
「…無、ですか?」
『ええ。きっと何一つとして、残らせない。
白紙の白い世界しか生み出せません。』
「それは、何故?」
『え?』
「どうして、そう思うのですか?」
『それは…えっと、その。』

あれこういうのは言っていいんだろうか。
華樹神の立場の中の話しに直結するから
出来れば話を逸らすべきだろうな。

『何となくですかねえ〜〜〜』
「な、なんとなく、ですか。」
『ええ。それとすみません、少々お手洗いがつかえまして。』
「嗚呼でしたらあちらの惑星に降り立つと良いですよ。」
『ん?あちら?どちら?こちら?そちら?』
「嗚呼こっちですこっちですって!!」

そう指を指した緑色の星に、嗚呼わかりましたと言った時だった。
ん?と何か本能的に嫌な気配を察知し、その場に止まる。

「…どうされました?」
『あ、いや…あれ、あの星って確か入ったら良くなかった、ような?』
「それは別の星ではないでしょうか?」
『そう、だったかな?あれでも、ここら辺で緑の星って駄目だった気が。』
「でもお手洗い、行きたいのでしょう?」
『あっ!!!まってマジでもれる!!!』
「ちょ、止めて下さいよ!?!?!?」

そう急いでメルはその緑色の惑星の中に彼と一緒に降り立つ。
ぷつんという杖の音に気付いて振り返るも、
気のせいかと思って下に飛んで行った。

++++++++++

『ふぃ〜〜〜めたくそすっきりした!!!
超安心!!もうもれない!!!こぼれない!!』

一滴たりとも!!きゃ〜なんてはしたない!!!
そうメルは少しテンションが高いことを考えつつも
仕方がないとうんうん頷いて杖を持ちながらその場を後にする。

『えっと、ティオ様ティオ様ど〜こだ!!あれ?どこだろ。』
「お待たせしました!」
『嗚呼、いえいえ此方こそ!すみません、それでは戻りましょうか。
ってあれ?まって?なんで?』
「どうされました?」
『杖の反応がおかしくて…気がまとまらない…。』

なんでだろ、こんなこと今までなかったのに。

「そうですね、でしたら…此方とかは?」
『此方?こちらって、な、にを…っ』
「…此方BWU。作戦Vが成功しました。これより移動します。」

ふらりと身体が倒れ、杖を落としたメルが目を閉じる。
地面に落ちたのは杖だけで、
メルの身体をそっと抱き上げその場を後にした。


++++++++++

「大神官様、ご無沙汰しております。メル様はどちらに?」
「嗚呼コルンさんですか。お久しぶりですね。
彼女でしたらサワアさんに会いに向かわれましたよ。」
「入れ違いでしたか。お一人で向かわれて?」
「ええ。今回が初ですがね。先程連絡がありまして
なんでもヘレスの付添人である者が急に予定が入ったからと
待ち合わせ場所に居てくれたようでして。」
「それはまた運が悪いですね…。」

偶にあるんですよね。こういうこと。

「メルさん調子が良い時は良いんですが、
悪い時は本当に運がついていませんので。」
「…ちなみに、その人間を信用していない
というのではないですが、
お兄様には連絡をお取りになられて?」
「ええ。一応裏取りも確認済みですよ。
彼女が一番懐いている人間らしくてですね。
こういうことは何度かあったそうで、
丁度連絡しようとして忘れて居たので
後で断りを入れると聞いていますから。」
「なら安心ですね。」

サワアのことだからメルに音を出さずに
録音形式で断りを送っていることだろう。

何だかんだ言って外に出て飛ぶのは
これが初めてになるというもの。

何度か天使らも手を加え、
彼女の浮遊には非常に手を焼いてきたのだ。

コルンだけでなくサワアや
大神官の許可を出したはいいが
それでも初めては怖いというもの。

運転中に何かしらの音を出させて
落ちるなんてことをしてはいけない。

ましてや人を連れているときたら尚更だ。
少々心配ではあるが、あれ程安全に行けば
早々ぶつかることはまずないだろう。

「それにしても仲の良い人間ですか…あの子も凝りませんね。」
「まぁサワアさんも多少目を見張ってくれていますからね。
あの人間の中から選出していますし、大丈夫でしょう。」
「万が一があったらどうするんです?」
「その時はその時ですよ。はい、今日は此方の本ですよね?」
「ありがとうございます。メル様にはこちらをお渡しして頂いても?」
「構いませんよ。連絡もさせる様にしておきましょう。」
「助かります。連絡次第で此方へ戻りますので。それでは。」
「ええ。」

そう言ってお辞儀をしてコルンは其処から旅立ってしまう。
その姿を見て、少し、本当に少しだけ、気になったのだ。

「…ですが、流石にメルさんに私から声を掛けたら
不時着ものになりかねませんね。」

かと言ってコルンさんからは猶更ですし、
此処は無理を承知で連絡してみますか?
いや、ですが流石に理様らも見て下さっていますし…

「……いや、まさかそんな。」

大神官様と声が聞こえ、其方の方に目を向けた。

「なんでしょう」

ーすみません連絡を取れていませんでした。何かご用件でしょうか?

「…?いえ、とくには在りませんが…すみません、一つお伺いしても?」

ー?ええ、構いませんが。

「サワアさん、今貴方何方におられます?」

ーヘレス様と少し急用でとある星に来ています。
メルは無事に彼と出会って合流しましたか?

「ええ。先程通信がありましてね。
流石に悪いからと言って彼を送り届けてから帰って来るようですから、
早くても此方に戻るのは明後日辺りになるかと思います。」

彼女の速度からしてそれくらいが妥当だろう。
下手したらもう少し遅くなっても別に問題ないという大神官に
すみませんとサワアが謝る。

ー一応連絡しておきましょうか?

「いえいえ、先程して頂いておりますから。」

ー…先程?すみません、大神官様。メルがどちらに向かわれたかわかりますか?

「ん?そうですね、A地区から貴方の方面にですので、東の方へと進んでいったはずですが。」

ー…ヘレス様。お聞きしましたか?
ー嗚呼、変わってもらっても?
ーすみません変わります。

そう少し緊張感が漂う声と姿に目の色を変える。

「何かありましたか?」

ーええ、今とある惑星に来ておりまして、其処で妙な話を知りまして。

「妙?」

ー我々の宇宙で通信等にアクセスできる者がいまして、そのうちの一人が行方不明になっていまして。

「…それで?」

ー惑星自体は破壊する予定でしたので、一応民らと話をして交渉してから移動してもらうことに落ち着きまして、その中で行方不明になる者達の場所が余りよろしくなくてですね。
ーメルが向かった場所が丁度その地点に近くて少し心配だということで。

「…私からも連絡してみましょう。」

ーたすかります。
ー一応我々も此方が終わり次第向かうことにします。

「何か手助けが必要であればすぐにお知らせください。
理様らにも連絡をとっておきます。」

ーおねがいします。

そう言って切った通信の後、すぐに全王様に連絡を通し、理様らに声を掛ける。

「…スピリタスか。」
「すみません、メルさんの件ですが、彼女は今何方に居られるかわかりますか?」
「ん?待て、その件って来週の話しではなかったのか?」
「……いえ、今日の予定です。」

嫌な予感が的中した。大神官はすぐに人を集める為に全天使に連絡を入れる。

「皆さん緊急事態です。メルさんが行方不明になりました。」

ーっな?!
ー本当ですか!!!

「今理様らに来ていただいていますが、
予定が違って居まして見られておられず
何処に居るかわかりません。」
「…駄目だな、見えない。」
「こっちも駄目ですね。」
「おいエーリン駄目か?」
「無理無理無理無理!!!そんな早くなんて無理ですって!!!」
「…すみませんが手の空いている方は第2へ向かわれて頂きたいです。
少々嫌な予感がしますので、出来れば何かわかり次第すぐにご連絡を。」

分かりましたと言った者達が通信を切って各々動き出したのを感じ取ると
ふうと声を吐いたことに、ごめんねえとエーリンがぼやく。

「まさか来週の話しだったとは…メルもたまに予定間違えることあるから」
「いえいえ、此方の失態ですからお気になさらず。」
「それにしてもまさか一人でいくとは」
「…実は一人ではないんですよ。」
「え」
「一人だけ付添人がいまして。彼と一緒に居るはずなんですがね。」
「…拉致か?」
「余り考えたくはないですがね。」
「印は?」
「一応付けていますし、範囲も辿っていますが…途中で切れているんですよね。」

止まっているにしては、流石に時間が長すぎる。
話をしていて、食事をとっているとかならまだしも。
そこら辺の位置は確か、
サワアもメルに言い聞かせていた危険区域が入っている処で。

「あの子のことなので何度か言われたり
その場所に行けば悪いところだと避けるでしょうから。
余程のことがない限りは見境なしに動くことはないと思いますが。」
「…まさかトイレで入ったとか?」
「いやまさか〜〜〜」

やりかねん。

「だとしても空にとべ……いや、あの区域は確か。」
「でもそこ以外に危険区域はあるんですよね?」
「ええ、しかも所々にありますので何処に降りたかにもよりますよ。」

流石に印とはいえど、完ぺきではない。
余り離れすぎると場所もわからなくなる。
それに惑星はなんだかんだ言って動くものだ。

彼女を辿った跡があったとしても、
その星が何処かは推察する範囲しか考えられない。

確定で此処だとは言えないのだ。
そこで理様らの出番である。

彼等ならどんな場所でも映し出せることも、
見ることもできるし、その場所に降り立つことだって可能だ。

大神官とメルの位置は何だかんだ言ってもメルの方が上。
その為メルが大神官の位置を知ることは出来ても
大神官がメルの位置を知るには印からの線を辿って行かねばならない。

なので必然的に理らと話を合わせ、様子を伺うのが大前提であること。
しかも先程から連絡を入れても全く応答がないというのがまた不自然なところで。


「何もなくて、ただ通信が遮られやすい場所に
迷子で泣いているだけであればいいのですが……」


++++++++++

そんなことなんて、有り得る訳が無かった。


『えっここ、いずざ、どこぉ……??????』

メルは目を覚ました処に、違和感しか持てなかった。
あれ、確かティオ様を連れてトイレ直行して、
さあいざゆかん元の場所へと言わんばかりに意気込んで
空を飛ぼうとしたら杖が使えなくて…あれ、そう言えば杖は?

『っやば!!!杖どこ!!!!!』

あっでも待って?思念使えば杖確か戻って…もど、もどっ

『待って戻ってこないが?!?!??!?!』

焦るな落ち着け。息をしろ。

ひっひっふーひっひっふー

それは子供産むやつな?
それも古いからもうしてないが。

『…此処、でも何処なんだろ。』

何か地下と言うのは分かる。
あとなんか知らないが身体の衣服が心なしかない気がするが。

「目覚めましたか」
『(誰だ)』
「流石に警戒されますか。まぁ仕方がないですね。」
『(余り声を出すわけにもいかない)』

サワアや大神官様、コルンとお約束をしたのだ。
下界でもしも万が一、杖という連絡手段すらも紛失した場合。
メルは基本的に声を出さない様にと誓っている。

もしも声を出して誘導する系の者ならメルの力だけでは
解くことが難しい可能性を考慮してのことだ。
むやみやたらに近づかないことや、警戒をとにかく維持すること。

幸いなことに離れても一時間くらいは耐えられるし、
サワアから貰った髪留めもつけて、つけ、つけ????

『っえ゛ヘアバンドないが!??!?!あっしまった!!!』
「声が出るではないですか。何故黙っておいでで?」
『…んぐ』
「……まぁ声など出せると言いますか、出さないといけなくなりますが。」

どういうことだ、話が呑み込めない。

「嗚呼気を察知しても無駄ですよ?貴方の助けは此処に来ない。」
『…なんですって?』
「此処は惑星プロエリウム。」
『っ!!!』
「賢い貴方ならご存じの筈ですが、此処は通信機器は勿論のこと、
人間や生物の気は基本的に察知することが不可能です。」
『…私の付き添いに居た子はどちらですか。』
「おや、彼がまだ貴方の味方だと?」

場合によりけりではこいつぶち殺したいんだが。
ティオ様がそんなことするはずも……

ー貴方は例え敵でも味方にしようとしますからね。

…いや、そんな、違う。そんなこと。

「…まぁ別に構いませんが。此方はちゃんと報酬を得れましたし。」
『っティオ様!!っんがっ!』
「エフェメラル様!!!」
『いだい!!!なんだよこのバリケード的な奴は!!』
「特殊防御壁ですよ。貴方が其処から出れない様に。」

嗚呼こっちの方が分かりやすいですかねと言って
黒い鉄格子のドームに変化し、その色にびくりと反応する。

黒い鳥籠の様な半ドームの鉄格子
白いシーツに何もない状態
薄暗い中、音も静かになる処

身体の震えと、過去の記憶で思考がぐんと落ちてしまう。

「…此方の方が良いですか。」
「っ約束が違うではないですか…!」
「おや、私は彼女を見てみたいとは言いましたが、
何も手出ししないとは言っていませんよ?」
「っ!!!そのお方にだけは手出ししなっ」
『……てぃ、お?』

ぷしゃりと嫌な音と鮮血がその場所に落ちる。
立ち上がろうとする彼の肩に足で踏みつけて
野太い悲鳴と共にお前なあと声が上がる。

怒鳴り声と叩く音に、怖くなってメルは
檻の後ろ側まで遠ざかりその身を丸め縮こませた。
怖い、怖い、でも、助けないと、でも、怖い。

息を何とかして、彼を助けてやりたい。
でも、敵だったら?いや、あんなこと味方内でしない。
きっと騙されたか何かだろう。
…そうだ、きっと、きっとそうに違いない。

もうやめたのだ。誰も彼もを見ないなんてことは。
だから見る様にしたのだ。強く持て、感情を、情を。

「……ほぉ、これはこれは、素晴らしい。」

胸に秘め、その威力をとにかく上げてあげて上げまくる。
感覚など不要。誰が力が出ないだ。誰が見れないだ。
そんなの口からの出まかせなら幾らでも吐けるというもの。

だって此処に、綺麗な華が咲き誇ってくれているのだ。

「花を咲かせる種族が願いを叶えると聞いていたが…
流石に気の質が違えば惑星の処理等凌駕するということか。」
『…っ!!その子を、踏まないで貰っていいですか…!!』
「そうだとすれば?」
『〜〜〜っ!!!やめて!!!』

声すらも出ない様な音に耳を手で塞ぎ首を横に振る。
胸が露わになっていることに気づき、すぐに髪留めを外してから
髪で胸を隠し通すようにすると、クツクツと喉から笑う声が出てきた。

「っふふふふふっははははははは!!!!」
『…なにが、おか、しいの?』
「いや?本当に、純粋だからこそ
綺麗な花が咲き誇るのだなと思ってな?
気に入ったが、此方も手筈が整ってしまっていてな。」

嗚呼でもだからこそ、綺麗に咲き誇ってくれると信じている。
そう言ってこっちに来る彼に、行くなと足を掴んででも止める彼に
メルは駄目と声を上げるも、その悲鳴は虚しく。

「…汚らわしい」
『………』

酷い

あのままだと駄目だ、多量出血で死んでしまう。
檻に触れて、その檻から手を伸ばす。
明らかに遠くて、伸ばしたって届きやしない。

でも、でも伸ばさずにはいられない。

嬉しそうに笑ってくれた彼が、
警戒していたサワアの目を盗みつつも
必死に努力してくれていたことだって知っていた。

あの中で何処までも何よりも上を向いて真っすぐ見てくれていたお人。
嗚呼こんなの、あの時と全く同じではないのだろうか?
誰よりも人間で、何よりも天使だったあの子と約束した、あの時間に。

場所も時間も全て違うのに、
何処か似通っている気がして、震えが止まらない。
怖い、自分も同じ様にされるのが?
違う、それもあるけど、そっちじゃない。

『…もう、やめて』

同じ様な結末にしか向かわないことが怖いのだ。
彼もサワアらの冷めた目に向けられ、消えて居なくなるのが怖い。
其処に居てくれたのに、努力したのに、全てが水の泡になるのが。

生きていた者がこれ以上居なくなるのが
酷く怖くなっていることに、今更気付いても遅いというのに。

人が死ぬことは余り興味が無かった。
いや、知りたくなくて目を背けていたのだ。
一度目に何度も人の死を見てきた。

どうせまたこの人は死ぬんだと、
分かり切ってから慣れている者だと思い込んでいた。

違う、慣れていたんじゃない見なかっただけだ。
背けていて、分かっていなかっただけで。

人の死がどれ程残酷な結末に向かうか。
そしてその結末を手助けしてはならないということが
どれ程しんどいことか、分かっていなかったのだ。

出来るならば、今すぐ彼の元に寄り添って回復をしてあげたい。
何なら、この華を持ってしてでもだ。
アレくらいの負傷であればまだ力をフルに使わずして救えるはずだ。

…だが、そうして、彼は折咎めを貰えるか?
死んだ方がマシか?いやそれを選べるのは彼と理その二択のみ。

自然に身を任せるしかないのだ。

「…純粋であればある程、その残酷さを見せつけてしまえば
壊れやすいとは思っていたが、予想以上だな。」

余りに残酷であれば声すらも失ってしまうのか。
涙一つも出てきやしない。嗚呼、情など無かったのだ。
最初から、人間ではなかったから。

「まぁ、これくらいしていたらいいか。」
『っ!?なに!??!』

がくんと下が揺れ、身体を後ろに倒してしまったが
股の間からヤツの顔が見えた。紫色の目が、酷く怖い。

人を殺す目だ。アレは、殺意しかない。
真逆の目で、息をするのすら一瞬忘れた。

「メインディッシュといこうではないか。」

上からの光に、まぶしいと思ってぎゅっと目を閉じていた。
その歓声に、その情景に、嘘だと言い聞かせたくなった。