懐かしいはずもないのに





前回のあらすじ

脈略等一切ありません。

異常だよこの野郎。

いやせめていうならアマというのでは、とか冷静な分析どうもありがとう。
皆の理成り代わりました。三代目エフェメラルことメルです。
華樹神見習いから無事に初心者マークを取り付けて早くも一か月が経過しようとしています。

ええ、とです、ね。


現在の状況は、僕正座してコルン様が仁王立ちしてます。
正確には普通に直立しているだけなんですが、

「どういうことか、説明。して頂けますよね???」
『ひゃぃ……』

事の発端はというとですね、今から一時間前くらい遡りまして。
たまったま大神官様に用事があった
コニックさんとマティーヌさんお二人が此方に来てくれてですね、
図書館ならぬ図書室に身を置いていた私が彼女らというか彼等に
日本語のお勉強というか文字を見てたのがですね、発端といいますか。

最早私が原因を作ったとしか言いようがないと言いますかですね。


現在はその後大神官様に用事があったコルンさんが
探しにこっちまで来てくれて、すれ違っていたのか何なのか。
私が言ってしまったとある言葉に出てきまして。


「まさか今の今迄言語翻訳機能をオートキープし続け切り方すら知らなかったから教えろ、等と何と言う…。」
『うう…すいません。』
「まぁまぁ、コルンさん。エフェメラル様も悪気があってしたわけでも…。」
「だとしてもです。それもお師匠様、いえルトラール様の中でも極めて面倒極まりない方を自分でかけているとは…!!!」

翻訳機能も多種多様。流石に各宇宙全ての言語を産まれた時から知っている。
何て有能な天使は何処にも一人っ子一人いやしない。
普通に努力してみんな身に着けているというものだ。

その中でも、流石にずっと生活をするにしても分からないこともある。
そんなところで役に立つのがこの翻訳機能。
通常だと神々の言語と各宇宙の土地の言語に変換するだけの至って普通の機能ではあるのだが…

「しかも寄りによって多言語固定変換を使っているとは…」

多言語固定変換。
それは天使らの中でも余り知られていない変換機能の一種で
華樹神らの廻廊において最も重要性が高い変換機能。

その人生において、もっとも欲深く、知識が多く、
日常生活で長い時間を共にする言語を決められ、
他の言語は通常の会話ならば
普通に何処でも誰でも会話出来るものである。

現在メルは一番目に降り立った日本語の言語が固定化され、
皆が日本語を喋っているように聞こえるのは、
実を言うと、全てこの多言語固定変換のおかげである。

寧ろコレが無ければメルは生きていない
と言っても過言ではない程、超必須機能であってだな。

『お願いしますから切りっぱなしだけは
どうぞ勘弁下さいほんとに
ほんとこれだけは駄目ですってば…!!!!!
ねぇ!!!!!!待って!!!!!!!!』
「駄目です」
『………、』

「…そのような顔をしても、………駄目です。
良いですか?エフェメラル様。
確かに喋れるならば幾らでもできます。
ですが貴方はもう廻廊から外れ、
これからは立派な華樹神として
役目を果たす義務があるはずです。」

そう、もう廻廊に戻らなくたっていいのだ。
なので漸くと言った方が良いのだろうが、
この多言語固定変換機能とはおさらばするべきである。

いや、だが、だけれどもだな。

『幾ら何でも今からずっとは死にますというか言葉ほんとに』
「ならば教えます。テレパシーであれば言語無しでもコミュニケーションは取れますから。」
『…そのテレパシーすらも分からなければどうすれば』
「………。それも教えますから。」

もう半泣きである。

いや本当にだってだな、怖い物は怖いのだ。
現在サワアさんはルトラール様と大神官様お二人と一緒に
全王様の所に出かけています。
話しを聞くに、華樹神官の昇格のご相談から天使の引継ぎの相談。
その他諸々を一気にしてくるとのことで、
数時間は軽く帰って来られません。

ええん。普通に泣いてるよもう僕はほんと。
ええん。ええん。助けてちんちくりん。

「まぁまぁ、そう気を落とさずに、ね?」
「そうですよ、幼い頃にクスお姉様やサワアお兄様らとお話しておられたのでしょう?
大神官様からもご教授頂いてたとお聞きしています。」
『…。』
「マティーヌさん、救いの手を叩き落す様で悪いですが…
多言語固定変換機能はその名の通り固定変換。
つまり一度固定化すると前の勉学は全て白紙に戻されます。」

正確には勉強した分が変換に費やされるというべきか。
どちらにせよ一から勉強し直しなのは間違いないのだ。
それも筆記だけならまだしも、口頭でもだ。

メルにとって天使らとの会話は命に等しいもの。
話しをするのが楽しいというだけではない。
彼等の知識やその生活はメルにとって不思議でしかない。
好奇心をくすぐられ、時間を忘れ去ってしまえる唯一の時間。

そうその時間が綺麗に消える可能性が今訪れているということなのだ。

「どちらにせよ余り過度な運動が出来ない以上、
これを機に勉学にも励んで頂ければと思いますが。」
『いやこれもう日本語しかほんとに分からない
留学生になってまうのはやめよおよお……。』

せめて、せめて言語知ってる人を付けて欲しい。
アルトリアは一応自分の所に居たからある程度は分かるけど
実は彼女、私並みにっていうわけでもないのだ。

どっちかっていうと海外留学生の彼女。
生まれはウィーンである。びびった。
私もビビったし、彼女もビビってた。
どうやら隠されていたようです。なんでだろう。

「もう此処から何処かに行くご予定とかあるのですか?」
『そりゃ無いに決まってます!!折角サワアと会えたのに、また、だなんて……。』

そんなの、あんまりだ。

「…ならば猶更です。確かにお兄様に教えて
頂ければすぐに覚えるでしょうが、それだけだと偏る、
…いえ寧ろ肝心なところを教えないまでありそうですからね。」
『いやまさかそんなことは』
「…いえ、コルンさんの仰っていることは正しいですよ。エフェメラル様」
『え゛』
「サワアお兄様はああ見えて優しいのではなく厳しいのです。
ある程度は教えますが、出来ないと恥ずかしい所は教えなかったりしますからね。」

まぁ何度かされて流石に猛勉強したのだが。
そういうコルンに、嗚呼とメルは遠い目で話を流した。
確かに、うん。やらないことは、なくもないかも、しれない。

ごめんサワア。僕は君を守れないよ。

「ですので、良い機会です。私が教えるというのですよ。」
『何処にいい機会が隠されておると…?』
「お師匠様から貴方の面倒を見て欲しいと言われていましたので、
今漸くこの約束が果たせるというもの。」
『ああそういう…一生果たさなくても良かったのに。』
「何か言いましたか?」
『いえなんでも!!!!!!!!』

彼に逆らうのは駄目だと本能が警告している。
絶対にこいつだけは敵に回してはいけないのだと。
いやぁ、鬼教官って凄いパワーワードが…。

おっといけない。これ以上彼の前で考えては。
彼等は曲がりなりにも天使。思考回路はもう知られていると言ってもおかしくない。
寧ろ現在進行形で見られている可能性だってあるのだ。
普通に人権侵害を越えて居ると思う。
だから向こうの力を作ったというのだから、私の身にもなって欲しいものだ。

「…分かっているのか分かっていないのか分かりかねますが、
まぁ、時々様子を見に来ますので、
暫くは切ったままで生活をしてもらえれば助かります。
お兄様にもお伝えしますし、いい機会ですから。」
『うう、反対して欲しいけど絶対反対しない気しかしない。』

絶望に絶望を重ねることはしない方が良い。
メルは仕方がなくはぁいと答え、正座からそのまま彼の前で直立する。
頭を軽く下げ、その頭にそっとコルンは手を触れる。

大きな手だなあ。そう思って目を閉じていると、何か端的な言葉が聞こえた。

多分だが、「もう顔を上げて貰っても構いません。」という意味合いだろう。
言い方的には「顔を上げて下さい」くらいか?いや「頭をお上げなさい」くらいだろう。
もっと短い単語が聞こえたけど、全く本当にもう

『なんで全くわからんのじゃ此畜生が!!!!此処何処ザ何言語だこれは!!!!』

ごめんちょっと三人で適当に会話してて本当に。
そう手を前に出して言うメルに、はぁと言った様な顔をされる。
少しして、彼らが何かを話しだしたのにメルは凝視した。

『…ドイツ、にしてはニュアンスがおかしい。
ギリシャ語?ええ?ラテン?違う古代ギリシャ言語か???
いやにゃーめれあーみにああああん????』
「ぷっくくくくく」
『いやなにわろとんねん。私の言葉わかるんか。』
「(分からなくもないですよ、エフェメラル様)」
『いいいやああああああなんか聞こえるうううううう
こいつ、直接脳内で会話をしてきやがったとかの
これアレきちゃあああああこれええええええ』

興奮してますねぇ。そうマティーヌさんの声が聞こえる。
そりゃそうですよ!なんたって脳内で会話出来るんですからね!
…あれ、これでもうまんたいでは?

「(そんな訳ないでしょうが。それに貴方翻訳機能付け直し出来るんですか?)」
『出来たらそもそもこんな話になる訳ないでしょうが。阿保ちゃうか馬鹿垂れが。』
「(そんなこと言い出したら放置しますよ?)」
『すいませんでしたぁ!!!!!!!』

潔いのが私のモットーである。いや困ったら皆ちゃんと大人しく謝ろうね。お姉ちゃんとの約束だぞ☆

「(まぁとにかく軽く発音するだけでも覚えて下さい。)」

+++++++++++

エフェメラル様が、まさかお師匠様の恩恵をしかも自分から使っていたとは。
幼いながらもかなり賢かったという噂は耳に入れていたが、
産まれて間もない間に多言語固定変換機能を使えるというのは、極めて危険な行為であるというものなのだ。

というのも、その多言語固定変換機能、どれ程まずいかというとですね。
体内所謂産まれてから現在に至るまでの知識量をラインとしてから
変換できる量を取ってきて、無ければ生命エネルギーから前借する形になっているのです。

なので、子供が真似てすれば生死を彷徨うどころか一発アウト。
死に直結するというものなので、極めて危険極まりない行為。
幸いなことに使い方を余り知らなかったからか、
それとも集中力が切れただけなのかは知らないが
何度も複数回唱えていないのだけは良かったというべきだろう。

解除と掛け直しだけでもその分吸われるもので、
もうこの世界にはその知識など焼却処分されているのだから。
この術を知るのは私の代で止めているというもの。

弟や妹達に知られなくてもいいと思ったのだ。
こんな危険極まりないものを、それも我が子が使うとは思っても居なかっただろう。
いや、最終的にはやらせるつもりではあったのだろうが、
あんな小さな身体で、力で、
これ程生き続けられたのは最早奇跡に近いことである。

目の前の彼女が泣きべそ…いや、もう全力で泣いてるに
等しいくらいには感情の起伏がとても高いというか、
荒い。普通に叫んでくるので、余程嫌なのだとは分かる。

だが、此方とて容赦をするわけにはいかないのだ。

「(貴方は此処で、この地で、生きると決めてくれたのです。)」

言語を放置して生き続ける。
それはお兄様を裏切る行為にも値するというもの。
だからこれを機に、いやむしろ早く気付いて良かったというものだ。

定着し過ぎると返って良くなかったりするというか
現在進行形でもうそうなっているのだから、困ったものだろう。

「貴方達は帰って頂いて構いませんよ。」
「ですが…」
「大丈夫です、私が其処迄厳しくすると思います?」

名付けて貰っただけでなく、命を救ってくれたに等しい恩のある者に、
そんな厳しくし続けるつもり等サラサラないというもの。
それに気付いた彼等が分かりましたと素直に聞いてすぐに立ち去る。

まぁ下に居る本人は置いてかないで
と言いたそうに手を前に出して立ち尽くしているが。

はぁとため息を吐いた後、コルンはメルの背中をそっと押す。
指を指してやると、どうやら言いたいことが分かったらしい。
席についてちゃんと一から説明をしてやるというのだ。

「…ほんと、私も甘くなり過ぎましたね。」

一体誰のせいだというのだろうか。
全くもう、お師匠が全面的に悪いとおもう以外他ならないと思う。

「エフェメラル様」

そう言うと、名前だけはわかるのだろうか。
こっちを見て「なぁに?」と言いたそうにしょげた顔で目を合わせてくる。
エメラルド色にも見えるその目が今だけは自分を見ていると思うと

「いけませんね、ほんと。」

こんな感情彼に知られたら恐らく叩き落されるのはこっちであろう。
まぁ、取るつもりはないが…もし、もしも彼が彼女の手を振り払ったならば

「私が貴方を娶ると言えば、貴方は私の手を取ってくれるでしょうか?」

いや、絶対に取るつもり等ないだろうに、何をおかしなことを言うのだろうか。
彼女は何度も何度も兄であるサワアのことを追いかけ続けて来た。
それも決まりきって、子供を孕んで産む前に死んでいるというのだ。

何度喜んで何度嘆いたのだろうか。
そしてその現実を知っていた、サワアは、
一体どんな気持ちでその百年を生き続けたというのだろうか?

小さな子供が、二人だけで。

この箱庭の中だけで息をして居られたら。
どれ程楽な人生だったのだろうか。
そんなことを嘆いても無駄だというのに。

「エフェメラル様、まずは発音からしましょうか。」
『???』
「(私の発音を真似ていって下さい)」
『ん』

こくりと頷くメルの目が覚悟を決めた様にキッとにらみつけてきた。

…嗚呼、だから良いなと思うのだ。

彼女の目は、誰かを優しく包み込むように愛おしそうに見ているのに、
こうやって真面目な面と向かって話をすれば目を変えて来てくれる。
真剣に、その時間を見つめて来てくれるという真面目さには、本当に心から尊敬する。

「あ」
『ぅあ?』
「あ、です。」
『ぅんあ????』
「ぷっくくくくく」
『〜〜〜!!!!!』
「(すいません、貴方がつい変な口調で言うものですから。)」

赤子の様な口調には流石に笑ってしまった。
ひょっとしたらお父様もこんな気持ちになっていたのかもしれない。
いや、きっとそうなのだろう。こんな、こんな

「何処までも真っすぐ見続けるその愛らしさには、誰にも負けませんねぇ。」
『んん?とあじゅうあ?』
「失礼。あいうえお、ですよ。」
『ぅああいんぬう?』
「っくくくくく」
『ーーー!!!!』

頬を膨らませて怒っているのに、こっちが笑ってしまえばなんのその。
くすりと笑った後、ケタケタと笑い返してきてくれる。
嗚呼、早く一緒に話がしたいと思うのは、何故なのだろうか?

こんなに真っすぐに、見てきてくれた子が
居なかったからとでもいうのだろうか?
それとも、彼女だからこそ、というのだろうか。

本当に、彼が羨ましくて堪らないと思う。
こんなにも愛らしい彼女が一途に見続けてくれるのだから。

まぁ、今だけは、いやこれからも。
彼女の指導は私が担当するというもの。

早く一緒に話がしたいのに、遅くていいと思う。
矛盾しているが、この時間を大事にしてやるべきなのだろう。
まずは発音をきちんと言える様にしてから、次に言語を真似て言わせていこう。
其処からある程度話せるようになれば筆記に取り掛かればいい。

焦らず慌てず、確実に。

「…ま、流石に一度になんてするわけがない。」

流石に彼女には酷である。
一応古すぎる言語機能を使わせるのは悪いので、
新しいタイプでかなり簡易の方を
この話が終わった後にでも掛け直しておくとしよう。

まぁ、古い方を使ってもいいが、
詠唱した者の知識を奪っていくというのを知った彼女が
自分の知識が無くなったと知れば、きっと泣いて抱き着いてくるだろう。

どうしてそんなことまでしてくれるの、なんてそんな狡いことを言うのだ。

「精々私の言葉を分からないでいて下さいよ、エフェメラル。」

この言葉を知った時、貴方は誰を見てくれるのでしょうか?
いや、ほんとうにバレたら殺されますね。これは。
でも恐らく狙っているのは私だけではないのです。

「華樹神官という地位は、貴方が選べるというもの。
逆に言えばこっちが貴方を引きずり上げれば叶う地位。」

なりたくてやるものではない。
単純にこの果てしなく長い永遠に、ぱっと降って現れた天使の様な者に
誰もが手を伸ばさずにはいられないという者だ。

ウイスや案外モヒイトも狙ってくるかもしれない。
女性陣に至っては恐らく既にマルカリータ辺りは狙っているだろうが。
それに彼女が一体何時気付くか、気付いた時にどんな顔をしているのか見物というもの。

一瞬しか生きれないに等しい華を、今愛でずに何時愛でるというのだ。
天使らが貴方を大事にするのも、貴方が大事に見てくれるからというもの。

一緒に食事をした時から、いや下手すればもっともっと、ずっと前から。

我々は貴方と一緒に生きたいと思っていたのだろうから。

「本当に、困りましたねぇ〜。」

自分の思う様に仕込めると思えば笑いが込み上げてきて仕方がない。
彼には悪いが、こっちはこっちで仕切らせて貰いたいというもの。
信頼に値することを、私はしてやるというのだから、有難く思って貰いたいくらいだ。

メルは未だに「うう」とか「ああ」とかしか言えない。
まぁこれくらいが丁度良いのかもしれないが。

さて、流石に悪いのでとコルンは席を立つ。
術を掛け直すと言って軽く立つと頭を下げてきた。
本当に、全くもう、

「貴方には警戒心という物を持って頂きたいのですが…」
『…わあ、声が聞こえる!!!ありがとうございますコルン様!!!』
「いえ別に大したことはしていません。後出来れば前の様に喋って頂ければ。」
『え゛いいんですか。』
「寧ろ何故其処迄直す必要があるのです。…貴方のしたい様にすればいい。」
『っ!!』

嗚呼、本当にいけない。踏み入れてはいけないから無理してまで踏みとどまっているというのに。
この子と来たら、困った様に眉をハの字にして照れるのだから。
一言一言で顔を心を変えてくれる、華の様なお方。

優しい優しいこの子の華を手折るなんて、してはいけないというもの。

「ほら、お迎えをしなくていいのですか?」
『御迎え?あ!!!おかえりなさい!!』

そう言って嬉しそうに笑って走って行く彼女。
まるで花を咲かせる様に顔色も目も変わった先に居るのは

「お疲れ様ですね、お兄様。」
「…ええ、すいません面倒を見て下さっていて。」
「いいえ。お師匠様のお約束が果たせそうで私は何よりですから。」
「約束?何をしてたんですか?」
「なんでしょう?」
「おや、とぼけておられるとは…
この方を頼んだと言ったのは貴方の方だというのに。」

何をいまさらと言うコルンに、嗚呼とルトラールが声を上げた。

「サワア君に全部頼むなんて流石に悪いと思ってね。
もし手が空いているならば一番弟子の君にって
昔僕が声を掛けてやったんだよ。」
『父様そんな酷いことを…!!!!』
「っくくく、でも優しく相手してくれたんじゃないのか?
凄く良い顔をしているようにしか見えないが。」

そう言ったルトラールにコルンもちらりとメルの目を見た。
先程見ていた顔色よりもずっとずっと表情も血色も良い。
目はキラキラとして、まるで大事そうに言う。

いや、きっと彼女の中では大事なのだろう。
あんなに嫌がっていたというのに。

うんと頷いて笑って言うのだ。
とっても楽しかったのだと。

嗚呼、本当に、狡いお人なことだ。

やましい感情も、浅はかな感情も、
貴方は全部拭い去ってまっさらにしてくれる。
だから皆は貴方に優しく手を差し伸べるというのに。

きっと彼女はまだ、気付かないのだろう。

「なら改めて、娘をよろしく頼む。」
「このコルン、喜んでお受け致しましょう。」
『あれ此処にかてきょ生まれた???待って???』
「かてきょ?」
『家庭教師の略ですね。待ってくるの?来てくれるの???』
「貴方の指導を任させて頂けたのです。
ご安心を、きちんと業務はこなしてから来ますので。」
『うひぁ』

また青ざめる彼女だが、表情はあかるげである。
本当に、自分は疎外されがちに居るのだが、
彼女と言う子は、不思議なものである。

「嫌なら今のうちに言うべきですよ?」
『ん〜あんまり嫌じゃないからいいかなあ?』

だってコルンさん、私のこと見てくれるでしょう?
私が上だからとか、私が可哀想だからとかで見ない。

『私を私として見てくれる。真面目な貴方だから
そんな貴方だから、別にというか、ね。
私の「先生」で在って良いなぁって思ったので。
だから、これからもよろしくお願いいたします。』
「…此方こそ、ご期待に添えるよう、尽力いたします。」