彼が愛した私は死んだ
失礼します。そう声を掛けて大神官はドアを開けた。
その場所に座り込む女性に、目を見開いた。
「…エフェメラルさん、ですね。」
『』
「そのままで構いません。貴方の名前はエフェメラルですよ。」
私は大神官。貴方の中におられるエテルネルさんのご友人です。
「スピス…そう、スピリタスと申します。」
『…』
「…ええ、スピスでも、何方でも構いません。」
壊れている。見てすぐに理解出来た。
黄緑色の目ではないのが幸いか、
それでも青い透き通った目は何処にもない。
気もどす黒く、もう見れたものではない。
此処まで逆転していれば、寧ろ天使らも困惑する。
確かにこの場所から外に出し、
そして尚且つ触れられると厄介極まりないだろう。
「私は貴方が作ってくれた約束のおかげで
天使らが次の破壊神に仕えた時、
貴方の事を忘れてしまいます。」
『…っ』
「勿論天使らも、貴方の事を知りませんし、
次の破壊神らは全員貴方を知りません。
貴方を最初から知っているのは理らである
ヴァイス様…いえ、エーリン、と貴方はお呼びしていました。」
彼女だけではない。
「後は此方から移動出来る春星の惑星、
アトランティスに貴方のご友人が沢山おられます。」
全員で48名でしょうか。多いでしょう?
「貴方の事は全て存じ上げております。
昼間の間は其方にお住まい下さい。
何かありましたら彼女らが対応して下さります。」
私が貴方と今後関わることは殆ど無くなります。
「ですが貴方の仕事は私の管轄と同じです。
少しずつで構いませんのでお手伝い宜しくお願いいたします。」
ぺこりとお辞儀をすれば、ぺこりとお辞儀をし返す彼女にクスリと笑う。
嗚呼、こんなにも忘れがたいとは、思ってもいなかった。
「天使らも貴方を知りません。嗚呼天使らというのは私の子供達の事です。
貴方の天使である枠組みとは少々異なりますので、ご了承ください。」
彼等が貴方に関わることも、暫くの間は禁止させていただきます。
「此方も記憶を取り戻し次第、特に目を見張ります。
貴方の掛けた優しい約束なんて、破り捨ててしまいましょう。」
私は悪魔です。悪魔だった、天使ですからね。
「ですので、その間はどうか、此方でご養生の程、宜しくお願いします。
…頼みますよ?フィズさん、そしてアルトリアさん。」
「…ええ、分かりました。天使の監視はお任せを。」
「エフェメラル。さぁ、こっちへおいで。」
そう手を取って歩き出すアルトリアに、メルはそのまま移動する。
何も声を出さない。ただ、その目は心は、気は、かつての光など見せない。
まるで、あの日に、一番目の時間に戻ってしまったようで、
アルトリアは泣きそうになった気持ちを奮い立たせた。
「大神官様。それでは、手筈通りに。」
「ええ、彼女を頼みました。」
「スピリタス」
そう言う声に、身体を止める。
「エフェメラル」
呼ばれた声に、身体を動かす。ただの機械的な動きだ。
上を向いたメルの頬にそっと温かい手が触る。
「よく生きて帰って来てくれたね。」
「…っ、ふっ、うう、っ」
「ゆっくり、休んでいいからね。」
「〜〜〜っ、っふ」
「大丈夫。怖かったら、その暗やみの中で寝続ければいい。」
『…い、いいの?』
「っ!!!」
いいの?本当に?そうまるで何時もの様に言い出すメルに、顔を向ける。
暗い色が、明るみを帯びて、まるで夢だったかのように、いつも通りになる。
「…嗚呼、いいよ。だれも、責めたりしない。」
『ほんと?』
「嗚呼、ほんとだ。」
『…嬉しい。じゃあ、ず〜っと、一緒に、いれるんだね?』
「〜〜っ、める、ごめ、っひっ、うう、ごめんね」
『あの場所で、いて、いい、んだよ、ね?』
そうボロボロと泣きだして縋るメルに、いいよとルトラールは答える。
綺麗な、澄み渡った気を、今だけ、今だけは、光り輝かせていた。
「気の済むまで居ればいい。大丈夫。誰も、怒らないから。」
『…っうん!ねぇ、ると、ひとつ、きいていい?』
「いいよ。」
『める、いいこだった?』
ずっとまえから。
そうメルは涙を零しながら上を向いて聞くのに、
嗚呼勿論だとルトラールは涙を溜めて答える。
「お前はずっとまえから、いい子だったんだよ?」
『…そっか。うれしい。』
「私が自慢できる、唯一の、お子なのだから。」
『…うん!ありがとお。私もルトがお父さんで、嬉しいの。』
「それは、嬉しい言葉だねえ。」
ぎゅっと抱きしめるメルに、ルトラールはぎゅっと抱きしめ返してやる。
まるで最後の別れかのように見えて、見に来ていたフェル達が涙を流していた。
『だいじょうぶ。める、ず〜〜っと、あそこにいるよ?』
「…嗚呼、元気で生きていれば、私はそれだけでいい。」
君はエフェメラル、儚い時間にしか、生きれない。瞬きの春の時間。
『またあえるよ?また。また、いつか!!春が巡る、その日まで。』
「…その時は、君に会えるとでも?」
うんと頷いて笑うメルに、そうかとルトラールは答え、涙を拭って答える。
「なら、その日まで維持し続けるんだな?」
『…うん。』
透き通る青い瞳に、よしとルトラールはこたえる。
「さ、おいき。」
『…またね?』
「ああ、また。春が来たら、呼んでおくれ。」
その日にまた、抱きしめてやろう。
そう笑うルトラールに、メルもうんと頷き、
そのまま本当に華樹の中に消えて居なくなってしまった。
「……さて、と。まだ記憶が残っている間に、後始末を付けるか。」
「お兄様」
「一部始終を見終えてどうだ。感想は。」
「…楽しかった、と言えますね。」
本当に、気が狂う程には。
そう言う大神官に、そうかとルトラールは答えた。
「あの子が付けた呪いは、私からのプレゼントでもあると言えよう。」
「…ええ、勿論、甘んじて受けますよ。」
「あの子は言い切った。また、春がくると。」
「ええ」
「お前が選ぶまでもなく、天使らが。
彼らを導き、そして、お前の呪いが解けてしまったその日には。」
「彼等に会わせると?」
「嗚呼。」
それが、贖罪だとルトラールはスピスににらみを利かせた。
「天使らも同じく、まるで、あの日の様に会わせてやって欲しい。」
「…11番目の様に?」
「嗚呼…きっと、皆驚くぞ?」
「っくくくく、貴方も狡いですね?」
「そうだろう?私は元華樹神だからな。」
こうしたら、あの子の呪いも緩和するだろう。
「地獄の様な日々が続くだろうが、何時かは春が来る。
冬に入るこの日をもって、どうか、安らかに見守っていて欲しい。」
「ええ、勿論。このスピリタス。従いましょう。」
貴方が望む、その時間に。
「…さ、お前も寝てしまいなさい。」
「狡いですね?もう少し彼女に寄り添わせてくれないのですか?」
「嗚呼そうだ。今現在和えられて困ってるだろうからな。
それとも何か?今すぐ奴らの中にいれてやろうか?」
「それはご遠慮しましょうか。」
そうだろう?
「じゃあ、おやすみ。…僕の可愛い、弟よ。」
「おやすみなさい。…お兄様。」
ゆっくりと目を閉じ、ルトラールは杖を使って
その胸に一突き刺しこんだ。
ブンという音と共に、さようならと呟いた瞬間。
世界が白く光り輝き、綺麗に散って消えて居なくなった。
「…はて、何故此方に来ているのでしょうか?」
ここは?
「大神官〜どこ〜〜?」
「全王様、此方ですよ。」