記憶とは違う世界






「事情は分かりました。ご協力させて頂きます。」
『アルカネット…』
「それにしても…よく無事で。」

そう言ってぎゅっと抱きしめてくれたアルカネットに、
メルは背中に手をそっと回してトントンと叩いてやると、
少し緩んだ身体がまた強く抱きしめてくれる。
その感情に、メルは首を傾げた。

「どうされました?」
『あ、いや…なにか、こう、胸がきゅって、なって。』
「一応貴方は精神が崩壊していましたからね。
言語化できなくなるのも無理はありません。」
「本当はああいうことが起きれば
時間を戻して差し上げればよかったのですがね。」
「時間を戻せるんですか?!!?」
「ええ。何でしたら蘇生も可能ですよ?」

まぁと言っても、華神らの蘇生はもっぱら華樹神官の役割ですが。
そう、なんですか。

「ええそうですよ?何度も蘇生出来ませんがね。」
「そうなんですか!?」
「ルトラール曰く全員分は不可能だと仰っておりました。
一人二人を蘇生するのは可能ですが、
流石に一度には無理なようでしてね。」
「その穴埋めをするくらいならば放置としていたのですかね。」

恐らくは。

「アルカネットさん。貴方がどれ程の力があるかはわかりません。
ですが、華神というのは、あくまでも願いを持った華を持つ神々の総称です。」
「大神官様…」
「貴方はこの方に仕えるも同然の扱いになります。
もしそれがお嫌でしたら今すぐに辞退して頂きたく存じます。」
「っ!?!?!?」
「私は」

そう言って止まった彼女は数秒考えて小さく、もう一度私はと声を上げる。

「エフェメラルから沢山貴方達の事をお聞きしています。
勿論最初はでたらめだと思っていました。
記憶喪失でその派生なんだろうなって。」
『アルカネット…』
「でも、それにしては私に触れてくれないし、
枯れた状態で触れて傷つけるなんて
もっと嫌だって言うのも事実だろうなって思って、それで。」

うまく、うまく言えないんですけど。

「私は出会うべくして出会ったと思っています。
こんな出来損ないの私でよろしければ、どうかよろしくお願いします。」
「…どうやら元々覚悟がお決まりだったようですね。」
『いい、の?』
「エフェメラル様…」
『私、ほんとに、悪い、子、だよ?』

貴方をきちんと守れなかった。良い子じゃない。
ううん、違う。

『え?』
「だって貴方は私を守ってくれた。現にこの天使さん達も全員。」
『え?え?え?え!?あっ!!いや!!でも!!!』
「身体ではない、心を。貴方は誰よりも何よりも
優先して手を伸ばして掴んで守ってくれた。」
『っ』
「不器用でも、出来ないと分かっていても。
それでも、やるだけやってみようと思う。
その感情そのものこそ、私を彼等を救ってくれているんだよ?」
「…彼女の仰る通りですよ?エフェメラル様。」

我々は何時だって、貴方に救われている。

「春にしか咲けない貴方に。皆狂い酔いしれているのですから。」
『…みんな』
「さ、お迎えに行って差し上げなさい。その子と共に。」

あの場所を巡るのでしょう?
…っはい!!!

『すぴすぴすっぴ!!』
「なんです?」
『いってきます!!』

そうアルカネットの手を取って走ろうとしていた足をくるりと回して
大神官、いや、スピリタスの名前を呼び手を上げて言うメルに
ニコリと笑い「いってらっしゃい」と答えて手を振ってやると、
メルは目を輝かせた後ニコリと笑ってから走り出した。

「…本当に甘やかして、全く。」
「ふふふ、可愛らしいでしょう?あの子。」
「全く何時まで経っても子供なもんですから…」
「一応成長する所は成長なさっておいでなんですがねぇ〜」
「…お父様?????」
「ふふふ、ちゃんと手綱。持っていて下さいね?」
「言われなくとも。貴方にお渡しするものは一つ残らずありませんので。」
「おや、言いますねえ?」

ええ、勿論。


++++++++++

そうして、元の場所に戻ってこれました。
長かったという声に、メルはクスクスと笑った。

『流石に名前を変えて話しても無意味そうだし、もうこのままいこうか。』
「エフェメラル…いいの?」
『ん。いいよ。』

だって、貴方は私を見てくれる。そう言ってくれたのだから。

『それならそれ相応の対処を。するべきでしょう?』
「…それ相応のものをっていみでしょ?対処ってなったらなんか違うきが」

あっご、ごめん。
ふふふふふ、いいよいいよ。

「何か仲良くなれた気がして。私、嬉しいから。」
『そっ、そ、そう?』
「ん!」

じゃあ何処行こうか。
とりあえず真っすぐじゃと言う中でふと何かを察知したメルが杖を構える。
またコルンらが出てきたのかと思っていると、どうやらそうではないらしい。

「おやおや、こんなところに可愛らしいお嬢さん二人とは。」
「俺達もついているもんだな。」
『ぐっ…盗賊か。』
「ご名答。金目のものがあれば置いて行けっても?置いて行くわけにはいかんがな!!」

避けて距離を取ろうとすれば背中に当たる樹に数時間前の情景を思い出してしまう。
また同じ人が来たら、また同じことが繰り返したら。そう思うと身体が止まる。
エフェメラルと声が上がることに気付いたのが遅かった。

腰が抜けて、腕で何とか頭を守ろうと前でバツ印を作って構えたその時だった。

「かわいらしいねぇ?たべてしまっ」
「っおやかっぎゃ!!」
『…?あれ?なんっ…!??!?!?』

其処には、大きな大きな狼さんが。
襲おうとしていた奴を加えて振り回していました。

いや、なんで????

「ひい!!くっくわれ、くわないでくれ!!」
「…ひょっとして、これ?其処ら辺を暴れてた猛獣って。」
「たのむ!いのち、いのちだけは!!!」
『…も、もしかして、いや、まさか、あっでも』
「なになになになに、何の話!?」

そうメルの身体に軽く引っ付いてくるアルカネットにメルはダメもとで声を掛けた。






『もしかして貴方、あの時のわんちゃん?』






++++++++++


「はぁ!?!?!?!?!前に従えちゃったあ!??!?!」
『いや〜〜お久しぶりだねわんちゃん!!元気してた?』

君あの時の子供だよね?大きくなったねぇ〜〜〜!!

そうクウクウと喉を鳴らして懐いて尻尾を全力で振っている大きな大きな狼に
メルはよしよしと言って頭をぎゅっと抱きしめて笑って答えてやる中。

時刻は夜。既に周りは暗くなり、盗賊は狼が村に落としてきたらしい。
どうやら悪い奴を見つけては倒して暴れまわっていたらしくてだな。
それが人を襲う猛獣という噂に変わっていたのを先程お巡りさんから聞きまして。

いや〜〜それにしても本当に、大きくなってまぁまぁまぁ。

『子供までまた出来てるじゃん…それも今度は双子か????』

というか君、オスだったんだね????
そう言うメルにそうだよ何当たり前のこと言ってるの?
と言わんばかりにふんと鼻息を荒らされて鼻水が飛んできてきたねぇと叫ばれる。

「まさかここら辺統治してる幻の猛獣まで従えてるとは恐ろしい子…」
『幻?あれこいつらってよくいたような?』
「何時の話をしているか分からないけど、その狼はフェンリルっていう種族で太古から恐れられてる悪魔の狼って言われてるのに…あっ悪魔。あっふーーーん????」
『何納得してるの…』

いいやなんでも。

「それにしても良く懐いてるね?もういっそのこと旅仲間にいれたら?」
『それはこっちとしてもかなりありがたいけど…君らの子供を巻き込むわけにもいかないし。』

そう言えばくぅんと言って耳を下げしょげにしょげまくる狼に
流石に心が痛むが、コルンが昔言っていたことを考えに考え、メルは提案を出す。

『じゃ、じゃあ!じゃあこうしよう!!この森を抜けて、川岸まで行くんだけど。其処迄!其処迄ね?!』

あと危険な時は貴方達を呼んでもいい?
勿論と言う様に尻尾を振り、頭を縦に振る彼に、良しいいやと答えた。

『基本的に子供を優先する。何かあれば私も秘策があるからね!!』
「それ緊急事態用って言ってなかったっけ…」
『ま、まぁ細かいことは気にするな!!!』
「そうかな…」
『前みたいにねんねする!?』
「エフェメラル?????」

前にと言って喜んだ狼が身体を丸めてそっと子供達が中に入ると
その白いフワフワの毛並みに埋もれ始めるメルには声を上げた。

『ほらほら、アルカネットもねんねしよ!!』
「ちょ、エフェメラル!?流石に風邪ひくよ!?!」
『大丈夫!杖を使って軽く防御結界張るし、タオルケットもあるよ!』
「そう言う問題じゃ〜〜〜!!ああもう!!!」

成せばなる!なにごとも!!!

そう覚悟を決めたアルカネットが中に入って横になると
あれと声が上がりその心地よさに歓喜を示す。

「なっ、なに、これ…!!めちゃ、ふ、ふわ、ふわふわ…!!!!」
『へへ、でしょう〜〜?きもちい〜〜〜!!!!』
「待ってこれで寝たらもうベットで寝れないんだけど〜〜!!!」

もうお供にしない?
いやいや、可哀想だよ。

『嗚呼でも、確か神話でフェンリルって
太陽と月を追いかけるなんか、あった、はず、なん、だけどな、』

どうだったかな。そう言いつつ、メルは目を閉じて何も言わなくなるのに
もう寝ちゃったかと笑ったアルカネットもまた、目を閉じてすやりと眠る。


「…全く、無防備もほどがありますよ。」
「まぁまぁそう仰らずに。」


我々が見ていると分かっての事なら尚の事です。

そう言うコルンにクカテルは苦笑いで答える。


「それにしても…感じますか?」
「ええ。勿論。」

びりびりと。

「彼女らが作ってくれた手製の防御術が
功を奏したというべきでしょうね。
こうやってトカゲのしっぽ切りをされたら
向こうもたまったものではないでしょうが。」
「まぁ我々とて諦めが悪いのでね。大神官様のご意向とあれども、
その上におられるお方が良い判断をしていればの話しでありますし。」
「そうでなければ此方も手を打つというもの」

幸いなことに、我々は彼女に恵まれているのです。

「全王様らもお許しになった、理にも愛されている、彼女その者にね。」
「破壊神らが記憶を保持しているかどうかは知りませんが…
あの様子からして、恐らく保持していなさそうですね。」
「そうでなければ第2の破壊神も天使をたぶらかしたりもしないでしょうが。」
「まぁ…にしてもあのお兄様が手を出すとは思えませんでしたよ。」

それをいいますか。

「貴方も思いません?クカテルさん。」
「いやそれは思いますが…本当に貴方変わりましたね?」
「貴方はまだ浅いかもしれませんが、
一応これでも彼女に携わることになっていますからね。
別世界軸の私ならば、こういうことも喋りませんが。」

そもそも外に出るのは夜の間のみ。
監視が出来る間ですし、彼女らの睡眠を妨げなければ問題ないでしょう。
まぁそうですが。

「あれ程長い月日を共にしているので、
間違いは多少起きるとは思いますがね。」
「時に任されれば皆同じだと?」
「ええ。まぁ流石にうちの所以外は知りませんが。
少なくとも此方では手出し等ありませんよ。」

多少可愛げは持ちますがね。それは何処も同じでしょう。
そ、そうですかね…

「うちの所は割とぶっきらぼうな処が多いですから。」
「へぇ、そうなんですか。」
「ええ。貴方の所は違うのですか?」
「そうですねえ、割と熱の入り方が激しい方が多いですかね。」

破壊神もかなり入れ替わりますし。
まぁ、そうですよね。

「前後はしますが持っても長くて二千億年程度でしょうか?」
「其処迄長く務めたことが?」
「大分古い話しですよ。しかも私ではなくコニックさん辺りだった筈です。
あの子は面倒見も良い上に相手の技量をすぐに判断してくれますからね。」
「成程、だから彼女の組手相手を彼に任せたのですか?」

まぁ、そういうものも、あるのだが。

「彼は私に似ていて、少しだけ強く。ご自身を責める子ですからね。」
「…あの時をまだ、悔やんでおられて?」
「ええ。…もう少し、何かあれば、と。そう思ったんですが。」

それでも、この子はきっと。その時間すらも愛してくれることだろう。
元に戻りたいと言っても、それでも前を向いて歩こうとする、この子を。
一体誰が止めて差し上げれるのだろうか。彼すらも、出来ないことを。

「この際お聞きしても?」
「ええ別に構いませんが、何をお聞きに?」
「コルンさんは本当に付き人になりたくて立候補されて?」
「…この私が誰かに指示されて就こうと?」
「嗚呼いや、そういう意味では。…素朴な疑問です。」

貴方はとても真面目で、尊敬出来るお方でもあります。
でも同時に、何処か遠くを見つめていて。

「天使らの生涯は消滅以外術がありません。
其処からは記憶が取り戻されても、本当に奇跡的なもの。」

そもそも消滅は何も残らないのが前提条件です。
人間の様に繰り返し何かから産まれるなんてことはない。
そう、それが、この世の理だったと、思っていた。

「彼女を見つけられ、初めてお会いした時のこと。覚えていますか?」
「…ええ、忘れも出来ません。あのお姿、あの振る舞い。」

そしてあの、透き通った気を持つそのお身体の状態。

「ウイスさんが作ったとは言えど、
器を綺麗に書き換えてまでして
形を無意識下で保持する存在など
百歩譲って人間が成し得るには看過出来ませんし、
元々神々だったとしても新たな神が誕生するとあれば
尚の事無視できませんからね。」

「本来下界の人間に其処迄して何もお咎め無しは幾ら何でもおかしいと思いましたし。」
「事情を聞かなくてもこれ程の力をお持ちとあれば、此方に取り入れるように手を入れるというもの。」
「にしても意外でしたよね。まさか廻廊の途中に出くわすとは。」
「…一応我々も会ってはいるんですがね。」

まあ、そう、ですが。

「気になるのですか?あの子が。」
「…フィズのことですか?」
「ええ。曲がりなりにも我々の末妹でしたし。」
「まぁ、気にならなくはありませんよ。」

あれ程可愛らしい子も早々いませんからね。
間違いなくエフェメラル様に感化されてますよね、あの子。
でしょうね、というか間違いないでしょう。

「どうします?彼女が誰かとお付き合いになるとか言い出したら。」
「とりあえず顔を見せに来るようには滾々と言い聞かせますよ。」
「おおこわい。まぁ私も同意見ですが。」
「おや、奇遇ですね?貴方と意見が合うとは。明日は槍が降り出すのでは?」
「ふふ、そうですね。何処かの誰かさんがそうさせるんでしょうが。」

そう言って二人してエフェメラルの方を向いてクスリと笑う。
本当に、破壊神の仲が悪い様に、天使らも割と仲が悪い処は悪いのだが。
彼女が傍に居るとどうしてもそんな気力も失せてしまうというもので。

ある意味破壊と創造があるように、何かの引力があれば動くものが
彼女のおかげで停止され、機能しなくなってしまえば
取り除かれようとするのは道理になっているというもの。

仕方がないと言えば仕方がないのだが。

「私は貴方の傍にお仕えしたいと私が思った次第なのでね。」
「お兄様…」
「気を引き締めて下さい。一応我々は護衛ですからね。」
「ええ。勿論。」

++++++++++

そうして夜は更け、朝になればだ。
起きなさいと言われて唸るメルに、珍しいとアルカネットが答える。
コルンが肩を揺らしても起きずに目をぎゅっと閉じて唸って小狼を抱えてぐずるのだ。

その姿に驚いていたアルカネットに、クカテルが何故?と聞き返す。

「いつもぐずって起きるのではないのですか?」
「え!?そうなんですか!?」
「いや、寧ろそうではないのですか??」
「えっ、え、ええ…基本的に私より早く起きますし、
そもそも睡眠要らないし食事も余り必要ないって
必要最低限以下くらいのことしかして」
「【エフェメラル様今すぐ起きねばたたき起こしますよ】」

びえ

そう悲鳴が出ると同時にコルンの腕が彼女の身体を掴んで剥がそうとするも
黄色いタオルケットの中は肌色一色で、朝からコルンの怒鳴り声が森中に響き渡ったのだった。




中略



そう言いたくなる程には、説教が滾々と続いていた。
メルは正座をして旅路の服に着替えさせられて話を聞く。
コルンはコルンで目の前で仁王立ちし、
神ともあろうお方がと永遠に続きそうな説教を垂れ続けている。


「懲りないことをなさらないで下さい
全く本当に貴方と言うお方は何度言っても聞きませんね…!!!!」
『うぐ…す、すみません。』
「まぁまぁそれくらいにしてやって下さい、コルン様」
「アルカネット様。いいえ、これしきでは事足りません。
彼女は慣れに慣れ過ぎているんです。
ちょっとやそっとじゃ言う事など聞きやしないのですから。」
「言う事聞かなかったら皆眠っちゃうよ?」
「っ」
『っあ…わ、わかった。』

おや、一発。
うぐっ

「師匠の顔もたちませんねえ?」
「何です?喧嘩なら後で受けて立ちますが。」
「っふふふふふ、では是非。また、後で。エフェメラル様、一つお聞きしても?」
『ん?なんですか?クカテルさん。』
「これからどちらに行かれる予定で?」
『ひとまずはハローネの異域の中にある廃都コトに行く予定。』
「廃都?また何故そんな場所へ。」

ひとつ気になることを聞いていてね。
きになる?

『うん。アルトリア達が話してたことだけどさ、廃都コトにあるグラドウ図書館の奥に眠ってる本を取りに。』
「またそんな辺境地に何故出向くので?」
『其処には魔法使いの文庫とも呼ばれていてね?』
「っまさか…貴方この世の理を記されてる書物を!?!?!」
「ことわり?」
「大昔にはなりますが、我々の妹が粗相をしましてね。理を記した書物を紛失されちゃいまして。」

そんなことあったの!?!?!
まぁ一応取り返しは付きましたが…

「あの後エフェメラル様の気がほぼほぼすっからかんになりまして。
すぐに回復するためにと皆で気を杖から分け与えるのでエフェメラル様が
そこまでしなくて良いと仰るものですから皆で意地悪してたんですよ。」
「嗚呼ありましたねそんなこと。」
『ありましたねじゃないが。アレマジでビビったからね???』
「なんです?嗚呼言うのがお望みとあれば後でやって差し上げても構いませんよ?」
『ほんとにやめよ???いやわちゃわちゃは好きだけど。』
「一応言っておきますが、彼女らこの現状知っていますからね???」

えっま?
事実です。貴方は知らないでしょうが。

「でなければお兄様が貴方を取り戻しになど出来る訳もないでしょう。」
『嗚呼〜拉致られてというか引き換えの件か。』

確かにあれは結構堪えたが、最終的になんとかなってすっかり忘れていた。
まぁヘレスとサワアの怒りっぷりがとんでもなかったと今ではサラッと思えるが、
ひょっとしたらアレを機に彼女らが過激になったのかもしれないな。

「その地には本しかないのですか?」
『正確には他にもあるけど、グラドウ図書館は本来
どんな人だろうがその人個人が一番必要とされる本を
見つけてくれるって場所で有名でね。』
「でもその話って伝説級の話しでしょ?」
『いやいや、それが事実なんだなこれが。』

アルトリアが旅の道中書いてくれていたのをリアさんが纏めてくれていたので。
それを見せてくれた記憶を思い起こして答えるメルに、事実あったんだと
意外そうにアルカネットが感嘆を口から吐き出した。

「すご、ほんとにあるんだ……」
『そのまま進めば行けるから、道中は特に問題ないんだがねぇ。』
「なんです?何か不満でも?」
『…いや、帰ってもいいよ?別に。』
「例え貴方が従えていたであろう狼が居たとしても我々はお供します。」
「貴方が好きにしてよいと仰ったではないですか。」

だからと言ってだね、肝心な時に出れなくても知らないよ?
うぐっ、い、いやですが…

「その時は此方から無理矢理抉じ開けて貴方を連れ戻せばいい話しです。」
「…クカテルさんって案外大胆に行くよね?」
『え?そう?私結構横暴な感じあるから普通なんだけど。』
「エフェメラル様はサラッと貶さないで頂けます?」

というか貴方本当に良く言う様になりましたよね?
えへへへそれほどでも
褒めていませんよ?一ミリたりとも。

そうじとりと睨むコルンにメルは軽く引き気味で前を向けばついたよと声を上げた。



まるで其処に、一度来たかのように。足を進める姿に、コルンは瞬きをしてみた瞬間に目を疑った。



「…は?」
「どうしました?コルンさん」
「嗚呼いや、なんでも(…そんなこと、あるはずがない)」


振り返ったメルの姿は、青い輪を二つと、草冠を頭に乗せ笑う。
レンガ調の石畳の先は色とりどりの建物が密集しあい、奥に豪華な白い建築が建てられていて。
緑が生い茂る、綺麗な場所に。誰かと歩いたことがあって。

それが何時の事なのか、分からない方が良いと。コルンはそう思いながら足を歩めたのだった。