いまこの瞬間にも




落ちていく、何処までも、暗い闇の中。

朝日もない。光もない。何も。何も。


ー大丈夫、貴方は強い子よ?


誰?誰の声だろ。聞いたことある気がする。

そっと抱きしめてくれる。温かい。


ー全ての者が貴方を嫌おうとも、私は貴方を好きで居る。


そう?嬉しい。でも、我慢しなくて良いよ?

私は悪い子弱い子悪魔の子。天使じゃない。堕ちた悪い子。


ーそんなことない。貴方は強い子良い子天使の子。悪魔じゃない。


そんなことある。そんなことあるんだよ。


ー貴方が望めば、何だって叶えられるのよ?

そう?そうだと、いいな。嗚呼、もしも。
もしも、そうならば。私、私ね?あの人達と一緒に居たいの。


あの陽だまりの下で笑い合う額縁の中に。


叶えられない。叶えたくない。叶った後が怖い。怖いんだ。
もう二度と会えない気がして、だから叶わなくて良い。
会えないくらいなら、その姿と共に眠り続けるくらいならば。
それなら、いっそのこと、この精神が崩壊し続けたって構わない。

貴方の向く目が、私以外に映ってしまうくらいならば。
それなら、いっそのこと、この身体が無くなったって構わない。

私の知らない処で、貴方が笑い続けられていられるならば。
私はもう、それだけで、いいのに。良いはずなのに。
繰り返していくたびに、嫌だと拒絶反応が光を強く知らしめてくる。


目が開けれない。零れ落ちていく涙に笑みが浮かぶ。
嗚呼、この心は生きている。
決して、壊れることがない。壊れてくれない。

死ぬことが怖かったのに、
今は何よりも、生き続けるのが、怖い。

貴方に触れ続けていないと、
こんなにも世界が怖いとは思わなかった。

これならいっそのこと、
貴方を知らないで生き続ければよかった。

そうしたら、誰も彼も、傷付くことなんてなかったのに。

だとしても、私は笑って生きていられただろうか?


…いいや、生きれなかっただろう。
ガラクタのまま、何も出来ずに消え続けていたことだろう。
でも、もう、それも。おしまいにしなければならない。

私は帰るべき場所があるのだ。見つけた。
あの場所しか、私は帰りたくない。


この印を、付けてくれた、


優しい優しい、悪魔の様な天使の元に。



ー貴方は何を望む?貴方は何を願う?


私は、私は、ただ、ただ、誰もが持つ幸福を、いや違う。

どれもこれも違う、違うのだ。


『…待っていて欲しい』


私が、お願い。言う。その時まで。


そう言うと、分かったわと声が聞こえる。
優しい声。一体誰かは、分からないけど。

でも確かに聞こえて、心の底から笑えたんだ。

私これ、知ってる。これね?この感情の、お名前知ってるの。


瞼の裏が光に入る。眩しくて、今度は眩しさで目が開けれない。


ー怖がらないで。どうか、受け入れて。


そうしたら、そうしたらきっと。


ー貴方はどんな華よりも、綺麗な華を咲かせることが出来る子。


世界で一番、優しい神様に成れる子なのだから。



++++++++++


目が眩しくて目を開ける。

陽だまりの中で、風が気持ちよくて。
そっと開けた目からは、白い髪の毛が垂れ下がっていて。

「……おはよう、エフェメラル。」
『………お、はよぉ、』

ニコリと微笑んだメルに、くしゃりと笑って答えてくれる。
嗚呼夢なのかな。夢ならいいな。こんな、夢も。良いな。
でも、現実であって欲しい。ねぇ、誰か分からないお人。

私の夢か現実かに出て来てくれたお人。

受け入れたら、なんでも、お願い叶うのかな。

嗚呼、そしたら、そしたらね?私、私ね。

『”束の間の場所を、本来在るべき場所に戻してやりたいの”』
「…え?」
「っ、何ですかこの地響きは!!!」
「お兄様!!エフェメラル様を連れて外に!!!」

そう言ったメルの言葉がきっかけになったのか、
精神世界から飛び出したサワアらだったが
その廻廊が変化を遂げていく場所に、周りがざわつく。

「っなんですか、これ」
「色が、鮮明になっていく…?」
「…夢で何をしたのか、教えてくれますね?」

エフェメラル

そう言われて、メルはこてんと首を横に傾けていた。


++++++++++


「恐らくソレは本来の在るべき華樹の声ですね。」
「華樹の?」
「華樹神でも特に選ばれし者しか
声を聞けないという伝説があります。
理ですら恐らく選ばれた者でしか
聞けない声でしょうね。」
「そんなものが…」
「受け入れて良い、加えて元の在るべき姿に、ですか。」

なんとも恐ろしい話ですね。

「本来在るべき華樹神とは、
一体どのような立ち位置なんでしょうか?」
「もう何でもありだと言う話はお伺いしております。」

そう言うのは大神官だ。以前その手の話は
ルトラールから色々聞いていたという。

「人の蘇生は勿論、時空の歪みや修正。
ありとあらゆる基盤の仕組みを変えることも造作ない。
それこそ、全王様の様なお方以上の存在であると。」
「本当にチートというべきものですね。」
「願いを代償問わずに無制限で叶えられるとされています。
ですがそれはあくまでも、選ばれし者でしかなれないと。」

ルトラールもそのまた昔、かつて華樹神であった頃は
その力に等しい状態だったとお聞きしています。

等しい?

「その者ではなかったのですか?」
「声が聞こえてくるは来るのですが、
はっきりとしていなかったようです。」
『…聞こえてたし、目を開けたら見えたんだと思う。』
「エフェメラル様…」
『触れてくれて、とっても、温かかった。』

凄くね、心の処が、満たされた感じがしたの。

「それで…このような場所になったと……」
「恐ろしい子ですよ。我々二人で頑張ったのが水の泡に感じます。」
「まぁこっちが手を加えたからこそ、導かれてくれたならば話は別ですがね。」

そうだといいですねえ。
そう呑気な声を空に上げて言うこの場所はというと。

大きな筒状に伸びた廻廊である場所の中央に位置している筈の場所。
地面は何かしらの紋章が描かれており、外壁には蔦やら木々が生い茂り
木の実やら花やらが咲き誇り綺麗な場所で姿を見せつけて来てくれる。

それだけではない。階段側の上り口横にある
内側の方には5つの扉が設置されており、
緑、青、白、紫、赤の五色が開けろと言わんばかりに設置されていた。

元々あった一つだけの扉があった場所はトンネルに変化し
その先は廊下で、大きな華樹が実るあの華樹神の神殿に繋がっていたのだ。

地下は精神世界に移動出来る様になっているが、
花畑の場所から綺麗な水平線へと姿を変えていて。

此処が本来在るべき場所なのだと思えば
もう此処で色々賄えられる、というか

「此処で一生を過ごす筈の予定だった場所だとは…」
「お父様、この地はとんでもないですよ。」
「華樹神の神殿内部に設置されているドアは全て移動可能です。」

それも外側は我々の宇宙へ。
内側は彼女が歩いて来たであろう
土地に戻れることが判明しています。

「それだけではありません。
ドアをノックすれば場所や移動も変化します。」
「華樹の奥にあったドアが撤去され、
その向こうは左右廊下になっていました。
其処から各場所に移動出来る様に整備されています。」
「一番奥にあった場所にも移動出来る上に中の物も
全て元々あったであろうものばかりでした。」

コレは一体どういうことだとざわつく天使らに
お静かにと大神官の声に一同が黙る。

「さて、エフェメラルさん。お話出来ますね?」
『うぐっ…えと、その…だからね?夢の中でお話したんだって。
受け入れて良いんだったら、どうせならこの地で住んでくれる天使さん達や
廻廊の子達が楽に生活できる環境をつくりたいなぁ〜〜って。』
「だとしても地下にまで潜れるように設計を作りますか???」

そう、華樹神の樹に行く前の廊下、本来であれば
全王宮からの移動出来たであろう扉の処を外された場所左側から
地下に移動できる廊下が出現していたのだ。

それは全王宮でスピスが作ったに等しいであろう
仕事用の小さな華樹神の場所に近いものではあったが。

「何故に我々の住んでいた部屋を再現しますかね…」
「貴方我々の部屋に来られたことありましたっけ?」
『いいえとんでもないです。あとみたことありません。』
「とあれば、想像したよりも我々がしたい様に、
という願いに続いたんでしょうね。」

いやだとしてもだ。華神らが寝る場所は恐らく内側のあのドアに行くだろうし、
この場所が元の世界と理の間に入っている以上出入り可能な場所は限られている。

外から誰かが侵入してくる可能性はと言う者にそれはないよとメルが答える。

『外からの侵入は一切出来ない。此処はある意味閉ざされた場所。
我々が住むであろう世界軸から此方に移動することは決してできない。』
「…え、ふぇめ、らる、様?」
『出来るのは選ばれ、受け入れられし者達のみが成立する。
人間でも、天使でも、神様でも、悪魔でも、化け物でもない。』

私はエフェメラル。一瞬に生き続ける者。

『私は華樹の者。私と貴方は、二人で一つ。』

嗚呼、ねぇ、私。やっと気づいたよ。

そう言ってメルはそっと空に手を上げて、その場所に触れる。
まるで頬に手を置いて撫でおろす様に仕草をつけて。

『アコマリ』

コデマリを咲かせる、華樹本来の、者。

++++++++++

「あこ、まり、?」
「…余りその名を軽々しく呼ばない方が宜しいですよ。」
「え?」
「…おられると?」

ニコリと笑って涙を零せば、其処から綺麗な白い花弁へと変わる。
その姿に周りが驚いているところではない。
メルの身体がふわりと浮かび上がったではないか。

身体は白い花弁が身を包んでくれていけば、ドレス姿にも見える。
その姿に、そのまま見上げることしか出来なかった。

『わわ!えへへ、く、くすぐったいよ〜〜!!』

きゃっきゃと笑う彼女の髪色は白く染まりあがり、
目の色は青色に染まりあがって光を帯びる。
白い翼が出たと思えばその翼は花となって消えて溶けなくなる。

その代わり、後ろに大きな白い花のリボンと変化を遂げ
頭の後ろには青い輪が二つ、少し下で重なる様に
光を纏い始めて姿を現してきたではないか。

「…お、すがたが、もとに、もどっ」
「あ、れは?」
「本来在るべき姿でしょうね。」

くすくすと笑って手を広げるメルに対して
華が幾つも咲いて花束を作り上げていくではないか。

誰と話しているかは分からないが、
姿が見えているのだろう。
嬉しそうに何かを話しているのだけは分かる。

ちらりとこっちを向いてから、すぐに下へと降りていくメルに
お元気になられて良かったとサワアが答える。

『うん!此処、とっても息がしやすいの!
アッ紹介するね?こっちはアコマリのマコちゃん!!!』
「まっ!?!?!?」
『とっても可愛いの!!華神なのかな?えっ違う?えっじゃあ、神様?
えっそれも違うの?!!?えっえっ天使?んな訳ないと。』

そうおどおどするメルに違いますと答える。

「エフェメラルさん、私は少なくとも
そのお方の姿がお見えになりません。」
『え?』
「皆さんも、ですね?」
「…すみません、ご紹介にといきたいのですが、
何方を向いて良いかわかりかねますので。」
『まこちゃぁ……』

そうしょげるメルだが、そう?
と上を向いて話す処、恐らく上に居るのだろう。

また笑い始めてきたので多分面白いことを
言ってくれて笑わせてくれていることだろうが。

『あのね、マコちゃん曰くエフェメラルが
お世話になっていましてすいませんだって!!』
「嗚呼いえ、此方こそ。」
『この場所は好きに使って貰って構わないし、
貴方達の事は信用しているから
額縁からの出入りは無制限にしたって。』
「っえ?!?!」
『なんなら外に出たとしても廻廊中に入れば何があろうとも
死なないようになるから安心して護衛してだって!!
…えっそうなの?マジで言ってる???』

ひょっとしたらと声が上がる。

「…そちらのお方に会う為に彼等も狙っていたのかもしれませんね。」
「アコマリ様に、ですか?」
「ええ。エフェメラルさん、彼女にお聞きしても?」
『ん?いいよ?』
「彼女は本来在るべき姿になったと言っても過言ではないですか?」
『…そうだって!ん?ん〜〜えっと、マコちゃんこう言ってる。
華樹神であるべき姿になっているから、大丈夫って。』

私が加護に入っていればもう問題ないって。
…左様ですか。

「なら心配はご無用ですね。」
「え?え?」
「え?」
「我々からしたらある意味、ひと時の休息と言った処でしょう。
此方からの仕事としたら貴方の護衛と言う形でお間違いないですね?」
『…そうだって!』
「わかりました。でしたら一通りの世話やら何やらは当番制に致しましょうか。」

そう言って大神官が指揮を執り、此処のルールを決めてくれる。
本来はメルがするべきことだろうが、
彼女の負担を考えて率先して前に出てくれたことに。

メルはと言うと、

『大神官様、ありがとうございました。
ルール、作ってくれて凄く助かりました。』

感謝を述べていた。

そのことに、地下に相当する場所

メルが生活をしている筈であろう
土地の地下にある彼の寝室にと足を運び
頭を下げてお礼を言うメルに、
いえいえと本を読んでいたものを
机に置いてメルの方を向いて答えてやる。

「貴方も随分ととんでもない者を抱えておられるようですし。
…と言っても、生まれ変わりからの派生、と言った処でしょうが。」
『派生?』
「ま、今は構いません。それよりも、彼女はどうでしたか?」
『アルカネットのことですよね?
ウイスさん達が面倒見てくれていまして
一応本人の話は一通り聞いていますし、
願いは一つだけだから
大事に取っておいてって言ってやってます。』
「それが良いでしょうね。」

それにしても巻き込まれやすいですねえ?
うぐ、そ、そういうものだと思うことにしました。

「まぁ此方としては良い退屈しのぎが出来るというものですし、
大歓迎程ではありませんが、いいんじゃないでしょうかね。」
『…怒らないんですか。』
「それは何に対してですかねえ?
貴方が逃げれる筈の瞬間に逃げなかったことですか?
嗚呼それともサワアさんの警告を
ことごとく無視した件についてですか?」
『う゛っ…!!!!』
「まぁアレに関しては彼から仕置きを貰いなさい。
私が手を出すまでもないでしょうし。
それに、貴方も分かっておいででしょうからね。」

人がどれだけ欲深いか。神がどれ程欲深くなるか。
裏切りが起きることか。信じても過信をするなと。
そういう大神官の言葉には耳が痛いものだ。

「ま、今回の件は特に褒められたものではないですが…
アレで正気を取り返したところに関しましては
褒めて差し上げましょう。」
『すっ、すっ、すっ、ぴぃ〜〜〜!!!』
「ふふふ、それにしても驚きました。
まさか中央に位置する華樹の者が
貴方を選んでいたとは。」

一体どれ程の徳を積めばそうなるので?
ど、どうでしょう…???

『余りよくわかってないです。
自分でも、あの子が凄い子だって
分からないですし、私もですから。』

「…受け入れてくれれば、貴方はなんでも願いが叶えられる。
ソレは同時に願いを叶えられなかった自分を殺すことになる。」

だから、貴方は今も尚、セーブしている。違いますか?
…うっ、そ、そうです。

「この感じで行けば一度理に成ってから
二期にお会いする形になるでしょうねぇ。」
『うっ…』
「…ま、そう困らずに。また、お会いしましょう?」
『すっぴぃ』
「ふふ。それで、何時頃元の場所に戻られるので?」
『一応三年程間を開けて移動するとの話です。』
「おや、かなり開けますね?理由をお聞きしても?」
『敢えて先程外に出てアルカネットと華を出し、
契約する素振りをして帰って来ました。』

正確には本当に契約は成立しているのだが
彼女自ら望んでの華を咲かせたことは一度もない。

幸いなことにメルの図書館は生きている為に
アルカネットの花が分かったからこそ、
メルが力を使ってアルカネットの髪に
華を咲かせて偽造することが成功したであろうというもの。

その為外に出ても天使らがこっちを見ることはないだろうし
そう言うベールを作ってくれているらしい
アコマリ様には頭が上がらない。

神々に見えず、人間には見えるようにしているらしく
それは天使らも同様で、その代わり全員人間の状態と
全く変わらない方向に変わる為に、その訓練とも相まって
長い年月を掛けるというものだったのだ。

『一応睡眠から食事等のものから
一通りレクチャーしなければなりませんので。
気を操るのにも一苦労だと思いますので。』
「わかりました。時期が来れば教えて頂けると助かります。
私もそうなる予定の範囲内だからこそ、教えて頂けたのでしょう?」
『勿論です!頑張って教えます!!』
「ふふ、期待しておきますね。」

うう、怖いよおと笑って怖がるメルには笑ってしまう。

嗚呼、本当に、面白い子だ。