花に咲き乱れた光




「…はい、どうぞ。」
『し、つれい、し…ます!』
「何か御用で?」
『えっと…直球に申し上げますと貴方ではなくて
破壊神様と界王神様にご用件がございましてですね。』
「少々面会には出れないらしくてお引き取りを。」

あ〜〜〜〜ん!!!なんでえ〜〜〜〜!!!

「もう見え見えですよ。どうせ抱きしめて
あわよくば寝ようと企んでおられるのでしょう?」

そう扉のドアに手を掛けて項垂れるように答えるのは

『だって〜〜……あの髪の毛お人形さんでも
もふもふするのかなぁって思っちゃったら
気になっちゃうじゃないですか。
モヒイトさんもそう思いません?』
「思いませんし気になって触りたくもないですよ。
寧ろ私がそうしたら色々と問題があるでしょうに。」
『そうかな?』
「そうですよ。はぁ…まぁ、と言っても
このままお引き取りなんてしたら
戻った際彼等に何言われるかわかりませんし、
お茶するくらいなら構いませんよ。」

中に入ります?
いいんですか?!じゃあお言葉に甘えて!!

そう言って中に入るメルにモヒイトが他の天使は?と声を掛けた。

『嗚呼、他の天使らに呼ばれて席を外しました。
モヒイトさん処に遊びに行くって言ったら
快く了承してくれて。クカテルさんが。』
「成程、そういうことでしたら構いません。」

後で彼女の所に行きましょうね。
え〜〜〜
ええではありません。此処で寝るとかそれこそ駄目ですからね?

「ちゃんとご自身の寝室で寝られて下さい。あと強く抱きしめてやらない。」
『あーん!!しどらさまあ〜〜〜〜!!!!』
「はぁ…逆に人形のお姿で良かったですねぇ?
これくらい現実で愛でられると
貴方の地位も威厳も全くありませんよ。」

まぁそもそも無いに等しいくらいには
…他の宇宙から比べ、お仕事していませんが。

そう軽く不貞腐れる彼とは裏腹に、
メルはキラキラした目で
シドラを両手で脇を持って上に上げるものだから
人形側から汗が垂れる様に見えなくもないのは、
きっと気のせいではないのだろうなと思う。

メルにどうぞと声を掛けて手で指示をすれば
ぴょこぴょこと軽く小走りで走ってから席にちょこんと座る。

こうしてみれば人間でいう処の
近所付き合いの深い子供が遊びに来たとでもいうものだろうか。
嗚呼そう言われたら納得がいくな。

『むぅ、なんか今要らぬことを思われた気がするう…』
「ぷっくくくく、そうです?そう思うならきっとそうでしょうね?」
『あ〜〜!酷い!!ねぇシドラ様〜!モヒイトさんっていつもこうなの?』

そうだよ!

そう言って裏声で言うものだから置こうとした紅茶が揺れて思わず零しそうになったのに息が止まりかけたではないか。

絶対にそんなことは言わないだろうし、彼の魂がもし万が一入っていたら本当にどうするおつもりなのだろうか…

「メル様は」
『ん?』
「嗚呼いえ…紅茶でよろしかったですか?」
『…ん。』

ストレートで?
ええ。

「お飲みになられるのですか?」
『…まぁ、少しは…ね。』
「…そうですか。お口に合えばよろしいのですが。」
『モヒイトさんお上手そうだし、大丈夫でしょ?』

そう言いつつ心の中で頂きますと声をかけてから一口飲んだ。
うん、やっぱりすっきりした味がして好きだなあ。

『それで?何を言いかけてたんです?』
「嗚呼いや…これから、どのようにされるのか、と。」
『と、いうと?』
「今現在、我々が住んでいた世界はほぼ無法地帯も同然でしょう?
あの地に戻るよりも、いっそのことこの地から始めるというのもお考えにはならなかったのですか?」
『…何度も思ったよ。』

何度も、そうならいいと、思っていた。

でも、あの地がいい。そう心の奥で思い出すのだ。

「それは…お兄様、いえ…サワアさんと、約束を果たす為に?」
『…。』

そう。でも…そうした時には、もう、私は、あの地で生きることは出来なくなる。

それくらいは、きっと皆分かってくれていると思っていた。
でも、もし、もしも誰も分かっていないのならば。

私は、一体、どうしたいのだろうか。


『わからないの』
「わからない、ですか。」
『…私ね、昔から優柔不断なの。』
「貴方が、ですか?」
『驚いた?』
「ええ…よく悩んでいる素振りをするだけで内心は決まったものがあるとお見受け致しておりますので。」

そうだろう。でも、それは、つい最近のことであって。

『昔はクス姉ちゃんに良く決めてもらってたんだよ。』
「お姉様に、ですか?」
『うん。あんまりにも決めてると困るからってよく突き放されてたけどね。』

人間にしては感情がなさ過ぎるって
皆して心配そうな顔をしていたし。
…そんなことが。

「この件に関しまして、お兄様方は?」
『知らないでしょうね。…私もどうしていいか、分からない。』
「エフェメラル様…」
『シドラ様は良く悩んでおられたでしょう?星とか特に破壊する時。』
「…ええ、そうですよ。明らか破壊してもよさそうな星な癖して
やれ未来がどうのやれ他の惑星がどうので放置しておりましたし。」

極めつけは界王神様と言い合いして界王神様自ら
私に破壊行為を頼みこんでこられたりもしておられましたよ?
わあ。

「我々天使が破壊行為をなさらないとお考えなら、
どうかこの場で捨て去る様にして頂きたいものですね。
…正直な話、貴方程の清らかなお方に触れるなんて
こんな汚れた手で触れた時には
枯れてしまいかねないと何度思ったことか。」
『そ、そんなに…?』
「ええ。長く天使を務めれば務める程、
創造はまだしも破壊をしています。
お兄様らも貴方に触れるのを躊躇したのは
其処ら辺をお考えだったはずでしょうし。」

血に染まった様な手で、こんな穢れも知らない様な子を。

ましてや、自分に攻撃を仕掛けてきた者達
たった二人だけの命を吹き飛ばしただけで
此処まで絶望に身を染めてしまったくらいの
純情な子に触れるなんて、恐れ多いにも程があるというもの。


「まぁ、と言っても。貴方も同じ管轄のようですし。」
『か、んか、つ?』
「おや、お気づきでないと?
この地がどういうものかなんて私でもわかりますよ?
大体想像はついています。貴方もついている筈ですが?」

心臓がどきどきと音を鳴り始める。
口を開けた奥から何かが零れそうになって止まる。
ぐるぐると回って、その気が、息が、
廻るだけで停滞していくような、そんな感じ。

「元々あった形が狂い始め、そして収集が付かなくなっている。
宇宙のブラックホールと似たような現象ですが
逆にホワイトホールの様な現象も起こりうる様ですし。」
『…も、ひいと、さ、ん?』
「お兄様方がどうお考えなのかはわかりません。
ですが、もし、短絡的にお考えならば
是非とも今一度、ご検討の程宜しくお願いします。」
『…ねぇ、間違ってない、なら、もし、ねえ』

間違っていないなら、こう、言いたいの?

『あの世界は捨て去り、この地で新たな地を求めないと命はないぞって。』
「…そこまで言える立場ではございませんので。」
『それ、どういうことになるか、本当に貴方分かってるの?』

私が生きているのはあくまでも「サワアと花冠を交換すること」が「未達成」だから生きれている。
逆に言えば、達成出来れば私は存在しなくなる。それ即ち、華樹その者に戻ってしまうということ。

だから私は死ねないのだ。死んだとしても種になってまたどこかで芽吹き、同じことを繰り返す。
絶滅なんてものは種自体が存在しなくなれば済むことだが、そんなことは在り得ないというもの。

ある一定が保たれれば、必ず種は出来て芽吹きその地に君臨してしまうのだ。

『狂った状態で地を作れば、混沌で済む話じゃない。』
「それすらも統治出来るお力があるというのに?」
『…っ、』
「貴方は人間と天使の狭間におられる者。
勿論今現在は我々天使もその位置ですし、
あの全王様ですらお人形に変えられる時点で
貴方の方が力でも地位でも上の立場だと立証済みというものです。」
『それは、あくまでも私が考えているだけで、本物じゃない場合もあるんだよ?』

此処の状態ですら。

「ですが、もし仮にそうだとしても。
現にこうして彼らをお人形へと変化させている。
生半可な気を使って彼等を物に封じ込める芸当なんぞ
地位も気も優位に立っておられなければ成せない。違いますか?」
『…いや、だとしても、私が生きれるのは
その場所があると信じるだけであって』
「この地でもやろうと思えば出来るでしょう?」

いや、話が合わない。話が合わないのか、そもそも飲み込みたくないのか分からないが。

シドラたちの件は確かに酷いとは思う。
もう目も当てれないという言葉が
此処まで相応しい人は恐らく
彼くらいなのではないかと疑う程にはある。
と言うか疑うまでもないくらいにはある。

でも、この地を繰り返せば、同じことを繰り返すと同じ事になる可能性の方が高いと見えた。

マコちゃんに言われた時の様に、まだ色々と情報が足りなさ過ぎるものなのだ。
華樹神という地位やら何やらは確かに分かったとは思う。
でも、理らを含めたその形というか、基盤と言うか色々ごちゃごちゃしていて分からない。

そもそも小難しい話は私自体理解が追い付かないのだ。
もっとはっきり言って欲しいが、
それはそれで傷付いてそれ何処ではなくなってしまうし。

『もし仮に出来たとしても、それは廻廊の中でのみの力になる。
廻廊の外側から押しかけられたり、
そもそも外側が消えれば元も子もないことになります。』
「では、あの地を統治するおつもりが?」
『それは…ちょっと……』
「全王様以上に位置する貴方の指標がなければ、
あのお方らもお困りになります。」
『…迷わなくて、いい、と?』
「ええ。」

まぁ…マコちゃんも言ってたよ、な。
…私が望めば、受容さえすれば、
この地は世界はどのようにも変化するし、
願いだって叶えられると。

でも、本当に、それでいいのか?
なんでも願いが叶って、その先って、本当に幸せか?
物語は何時だってハッピーエンドに幸せで幕を終える。

でも、本当に、それで終わるか?
それはあくまでも物語の架空の存在なだけであって、
私が居るのはリアルであり、架空ではないのだぞ?

確かに適当に決めようとしたのは、正直な話反省点ではあると思う。

…でも、そうして迷って迷って迷い狂った先で、
誰かが泣いている姿を見るのは、もっと嫌なのだ。

『…すみません、ご期待に沿えないかもしれません。』
「エフェメラル様…」
『先に告げておきますが、私は自分で決めたことに対して
責められるのが嫌だから、責任逃れをしているわけではありません。』

2人殺して、言う事聞けずに、堕ちて染まった、成れの果て。
そんな迷いに迷っている私がこの地を統治出来る訳がない。
それこそ短絡的に考えているというものである。

私は、この子達に混じってはいけないのだ。

綺麗な額縁に目を向けた、あの時間が脳裏から離れない以上。
私は、もう、顔向けなんてしては、いけないというのに。

『ねぇ、秩序ってどんな意味?』
「え?急になにを」
『』
「…秩序、とは、物事の正しい順序・筋道
社会などが整った状態にあるための条理です。」
『せいかくには?』
「正確、と、仰いますと…一体なにをお聞きになりたいので?」

そう困る様に聞くモヒイトに、メルは一呼吸おいて答える。

『秩序とは、調和が取れていて安定している望ましい状態・順序又は関係や
混乱・対立・破綻等の目だった懸念がなく、全体が整った安定している
状態を常に維持しているさま。』
「それが?」
『ロウ』

ロウの、別名だよそう言うメルに、モヒイトの目が丸くなった。


「っは??いや、貴方もごぞんじ、の、は、ず、です、よね?
とてもじゃありませんが、彼がそんな秩序のちの字も持っているようには」
『シドラってね、スペインの北部で作られる林檎で作ったお酒を指しているんだって。』
「今度はなんですか、」
『林檎の花言葉は「優先」「好み」「選択」他にも「選ばれた恋」の意味もあるけど
優先以外の由来はギリシャ神話のパリスの審判からが由来で、
黄金の林檎を渡す相手を決めなければいけない状況にちなんだってされてるんだよ。』

ねぇ、私が、食べたものが、本当に華樹の、果物?


『これはなあに?』
「っ!?!?!?!?」

そう手に取りだしたのは、綺麗な色をした、金色の林檎、の様な形をしたものだった。


『優柔不断ってね、決心が付かず煮え切らないことを指すんだよ。』
「…それが?」
『優柔は意見がはっきりしない。不断は決断力に欠けている。
でも逆に言えば、慎重で何事にも注意深く、
色んな可能性に配慮出来る優しい人ってことになる。』
「破壊を務めるお方がそれに付きまとうのもいかがなものかと。」

でも、そうなら何故大神官様は放置してる?
それは…

『短絡的な決断に流されない。』
「っ」
『破壊し、絶える力を持つ絶えない者と、
創造し、創り出す力を持つ安定した者。
ふふっ、おかしいね?どちらも全く不釣り合いなのに。』

だからこそ、私は愛おしいと思うんだよ?

『貴方はどのような選択をしてくれる?
貴方なら、この先どう見てみるの?ねぇ、教えて?
…ねえ、教えて、教えてよ…シドラ様、ロウ様。』
「…エフェメラル様」
『秩序が良いことが、この世界の良いことで、いい子なの?
私、良いことは勿論良いけど、悪いこともあって良いと思うの。』

それじゃあ、駄目?そうしたら、皆喧嘩しちゃう?
でも悪いことを許しちゃうと、
喧嘩も受け入れた方が良いってことにもなるでしょう?
それはそれで嫌なんだよ?我儘で拉致があかなくてイライラしてる?

『なら喋ってよ。怒ってよ。貶しても、侮辱したっていいよ。
…ねぇ、おいてかないで。一人に、しないでよ。』
「…帰りましょう、もう、お疲れになったでしょう?」

首を横に振ってメルはロウとシドラの人形をそっと抱きしめて蹲る。
よくみれば、その手は少し震えていて…

「…すみません、エフェメラル様。」
『え?あっ!だ、め…も、ひい』
「お許しを」

これ以上彼等も何もできないと言うのも酷だろう。
モヒイトはメルを強制的に眠らせ、意識を奪い椅子から落ちる身体を受け止めてから杖を置いて人形をまず机に置いて逃がしてやる。

「すみませんがそちらにおられて下さい。私はこの子を送り届けにいきますので。」

すまんな、よろしく頼む。

そんな声が聞こえてくるものだから、本当に気が狂ったのだろうなと思ってしまう。

くたりと眠り込んでいるメルの姿は疲れて眠っているように見える。
先程の状態を維持すれば、余り宜しくない方向に向くのも何となくわかった。
正直自分が口出しをしていい場所ではないと分かり切っている。

でも、迷い迷ってこの子が泣いている処に手を差し伸べないと、
それこそ罪深き行為な気がして居ても立っても居られなくなったのだ。

「おや?モヒイトさ…メル様?」
「すみません、疲れている上にシドラ様らを離さなかったものでして。」
「嗚呼よくあります。」
「よくあります????あの、失礼なのを分かってお聞きしますが、恒例なんですか???」
「ええ。昨日だったかヘレス様を抱きしめて寝るから駄目やだって言う事聞かなくて部屋で走り回されましてね。」
「嗚呼…それはそれは、大変ご苦労を…」

いえいえ、貴方も追いかけまわされてないですよね?
流石にそうなったら声をお掛けします。
まぁ、それもそうですか。

そう言いつつもメルを受取るサワアに、モヒイトは苦笑いで答えた。

「つい先日ですとイワン様姿のお人形さんも抱きしめたいと仰られておりましたし。」
「貴方の所までいっていたのですか…本当に見境が無くなってきてますねぇ。」
「いえいえ、迷惑とかではありませんが…少し、気になることをお話しておりまして。」
「ひょっとして各破壊神らの由来、なんて話では?」

おや、貴方もですか?
…ええ

「正直申し上げますと、その件で色々厄介な方向に目を向けそうでしたので、つい。」
「嗚呼成程そういうことでしたか…でしたら納得がいきますね。」
「この地から」
「ん?」

「この地から、また再出発をしては如何なのですかと」

すいません、出過ぎた真似をしたのは私の所為です。
嗚呼いえいえ、貴方を責めるなんて致しませんよ。

「この子が言う事を聞かない時は強制的に
眠らせて頂くように言おうと思っていたところですし。
寧ろご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありません。」
「嗚呼いえ、とんでもない。」
「それで?彼女はなんと返事を?」
「いやだ、と。仰っておりました。」

短絡的に、考えたくない。そう。
…そうですか。

「実にこの子らしいお考えですねえ。」
「優柔不断のようにされるのが、ですか?」
「ええ。」
「分かっておられたのですか。」
「そりゃあ勿論?…本当に極々稀なんですがね、寂しがる様に内側が見え隠れするなんて。」

きっとホームシックになられているんでしょう。
こんな機会なんて中々ないでしょうし。
…そういう、ものですかね。

「ええ、そういう、ものですよ。
アワモさん、すみませんが先に食堂へ向かって頂いても?
私はこの子を寝かせに行きますので。」
「わかりました、では後程。」

そう言って別れる最中、メルが目をぱちくりと瞬きをして目を覚ます。
おや、起きましたか?そう言いかけようとした時だった。

ソノ目が、黄金色に光り輝いている処以外、目に付かなければ言っていたのに。

『…まだ、迷うか。』
「……あ、なたは、一体、」
『迷っても必ず此処を用意する点、本当に器量がいいのか馬鹿なんのか何なのか分かったことじゃないな。』

そう溜息を吐いた女性らしき者に、一同が固まっている処、彼女がぼやく。

『至急中央へ全員集めろ。話がある。』