ふたりきりで生きてみようか
『別にそんなかしこまらずにしてよい。表をあげよ。』
「…ですが」
『我の言う事が聞けぬと?』
とんでもないですと言って一同が起き上がり立ち尽くすと
それでいいと黄金色の目が少し揺らぎつつも声が柔らかくなった。
『ふむ。』
「っ、な、なに、か」
『エフェメラルだったか?こやつの名は。』
「え?え、ええ…」
「あの、失礼なことを承知でお聞きしても?」
『なんじゃ、我の名か?』
ええと言う者が、アコマリ様ですか?
と聞くといかにもとニヤリ笑って答える。
『我はアコマリ。理に咲く華樹その者じゃ…といっても、
こうやって話をするなんてものは
この子が望んだからしておるようなものじゃし。』
「どういうことで?」
『先程何処かの誰かさん処で話があったのと、
他の者達も気になっておるようじゃから話をするが、
この地はあくまでも別世界の、宇宙そのものの始まりではない。』
此処は、宇宙から切り離された場所に位置しているだけであり、
再出発をしてやればどうなるかは目に見えている。
「というと?」
『お前達天使らはあくまでも元居た宇宙で産まれたのが天使だから
今現在もこうやって維持できる。まぁこいつの影響下に入っておるから
多少の誤差は出て来ておるが。』
天使と人間の狭間は多少の誤差どころじゃない気がするのだが。
『先に言っておく。このまま進めばお前達は天使ではなくなる。』
「っ!!」
「一体どういうことか、ご説明出来ますね?」
「お、お父様…」
『…本来華樹は何もない処から生まれ出た泉のほとりに出来た種からなったものだ。』
その泉はどんな状態でも本来在るべき状態に戻すことが出来ると言われており、
其処に辿り着けるものは神々でも容易ではない。
『例え肉体でなくとも、その者だと判明すれば、記憶ごと取り戻すことが可能だ。』
「そんな場所が…」
『続けても?』
「どうぞ」
『穏やかに育ち続ける中で、泉と華樹から生命が生まれた。一つは永遠を司れる者、そしてもう一つは一瞬でしか生きれない者。』
では、人間その者は…
『生きとし生ける者全ては我の葉先で育って散り行った者達。
…ま、この子だけは、例外なんじゃがな。』
「彼女が、ですか?」
『天使らになりたくとも成れないし、逆も然り。
天使らが人間になりたくとも成れない。では何故なれるようになっているか。』
「…間が生まれたと、」
そう、そういうことなのだ。
『樹と泉の狭間に気を生成し、生命を誕生させたのが
こやつが言っておる原初の天使らの元になる者達。
…故にどちらにも行けるが、何方にもいけなくもなる。』
「どちらにも?」
『一度踏み外すと受取人がおらんのでな。』
「嗚呼成程、華樹から生命が生まれた者であれば貴方が
逆に泉から産まれた者ならば泉の主が救えるものだと。」
『左様。まぁ、といっても?その泉はとうの昔に枯れ果てたがな。』
「…流石にそれは、」
現に、神々を生み出すサイクルは果実に変化しておる。
そう言うアコマリに、思い当たる節を感じてぽつりとコルンが呟いた。
「…まさか、界王神らの樹が?」
『目の付け所が良い上に話が早くて助かるな。
そやつの言うた通り、消えた者の情報は此方が受け取る。
その為泉にあった知識を何とか自分の手で変えて今に至るというもの。』
「では全王様がお作りになられたのでは」
『変な話手を付けたのは全王様とやらや、其処に居る天使の王なる者くらいかのお?』
「王だなんて、恐れ多い。」
別に間違っておらんと思うがなぁ。
『話を戻すが、本来であれば華樹神は
泉と華樹の狭間にどころか此方側の管轄内。
故に此方で手を打てるのじゃが…』
「理様らはその狭間に位置しておられると…?」
『左様じゃ。まぁ我がこうやって会話出来るのも一重にこやつのおかげというべきもんじゃがなぁ〜〜〜。』
「と、いいますと?」
『こやつの想像力が我の存在と恐ろしいくらいに一致したが故にこうやって話せておれるんじゃ。
…本来であれば此処までのんびりと居れる者などおらんし、我も此処まで正気でおれんはずなんじゃが…。』
そう苦い顔をした彼女に、一同が軽くため息を吐いて首を横に振った。
どうやら同じ意見だそうで。
『ま、そんなことはどうでもいい。折角肉体を借りられておれるんじゃからな。
言っておくが我の名はアコマリでも華樹様でもなんでもよいぞ。
嗚呼別にこやつみたいにマコちゃんなどという言葉で聞いても構わん。』
「…ま、まこ、ちゃん?」
「まっ!?!?!?」
『おうおう〜♪なんじゃ〜?愛い奴よのお〜〜〜???』
お主名は?
マルカリータで
「っ!?」
『…成程、そういうことか。』
「っアコマリ様!!彼女に一体なにを!!!」
急に活動停止モードに入って膝から崩れ落ちそうになったのを
隣で話を聞いていたモヒイトが受け止め、コルンが声を荒げた。
手を上げてしまえば荒げることもできずに止まるコルンに対して
まぁ落ち着けと低い声が入る。
『…ふむ、成程、嗚呼〜そういうことか。だからお前は、そうも落ち着いておられると。』
「…何が分かったのでしょうか?」
『お父様とやらは誰じゃ?』
「この私ですが。」
『こやつを生んだ生みの親で間違いないな?』
「ええ。」
お主、割と策士か?それともただの、ううん。
えっと…すみません、もう少し距離を離して頂けると。
『ああすまんすまん。つい距離を誤ったな?』
「それで、何かお判りで?」
『嗚呼、単刀直入に言えば、こやつ、つまりマルカリータとやらと同じ様に接する間に
我と泉の再認知を理解した上で元の場所を維持しておる。』
「…ええと、つまり、マルカリータさんとメル様が関わっておられれば
我々が生きていたかつての宇宙が永続的に続いていると?」
『正確には停止の位置じゃがな。…驚いた。コレは下手すれば全員に割り振っておるな????』
名を明かして貰っても?
ええ、構いませんよ。
++++++++++
そうして検査すること日本時間で大体三時間程度。
エフェメラルの顔が非常にしかめっ面になってきています。
正確にはエフェメラルの中にいるアコマリである者ではあるのだが。
『…確かに我は望んだぞ?人で在れば、泉の様な神で在れば、
狭間にも位置すらしない、我のアレで居られたらと。』
「あれ…」
『じゃがだと言うて全員に割り振り、尚且つ四季、時、感情それら全部に分け
消されたとしても再生成出来る様な半永久的なシステムを作り上げる馬鹿がおるのか』
「そちらに居られる者がそうだと…」
そうサワアが手をアコマリに向ける。
勿論アコマリではなくエフェメラルに対してという形ではあるが。
『此処まで来ると最早これで元の位置にいかなければ運が悪いとしか言いようがないな。』
「其処迄完璧に作り上げようとしておられるので?」
『嗚呼、加えて再バックアップも用意しておるしで…
お前見た目で誤魔化したら後は野となれ山となれとか
出来るだろうと鷹を括っておったな????』
そう胸元に向けて言うアコマリにはすみませんとしか言いようがない。
サワアが謝るとよいよいとアコマリがため息交じりに応えた。
『お主らが天使で居られるのは泉が確認出来るかどうかにかかっておる。』
「泉が…」
『まぁ逆に何故維持出来るかと言えば、こやつの力と我の力があいまったこと。
正確にはこやつの親であろうルトラールとやらの成果ではあるが。』
「ルトラール様の?」
『嗚呼。各華樹神らの話は良く耳にしておる。ちゃんと会話はしたことがないがな。』
奴は特に覚えがある。まぁあれ程面白い者は正直こやつ以外におらんしな。
「一つお聞きしても?」
『構わん。』
「このまま廻廊を進めれば我々は消滅するとのお考えで間違いないでしょうか?」
「っ!!!」
『正確には天使という地位がかき消されるというところじゃな。』
「では神々の位置はどうなるので?」
「…いや、まさか」
「そんなはずは」
『…お前の子らは何となく察しがついておるが?』
一応念のため、ですよ。
『はぁ…元の位置に戻される。』
「やはり、そういうことですか。」
「お父様、何かお気づきだったのですか?」
「…ええ、例の件を覚えていますよね?彼女が殺されかけたとされるあの日。」
「ええ、忘れも出来ません。それが何か。」
「彼女は仰られておりました。…本来在るべき場所に、と。」
「…まさか、全王様がお納めになられている
今現在を元々あった形に取り戻すことが、本来の目的だと?」
「だとしても彼女を狙う意図が分かりません。」
それに戻るにも戻れない。本来華樹神の願いは叶わないもの。
仮に彼女が華樹神となったとしてもだ。願いは叶わない筈。
廻廊を回せれたとしても、理になれたとしても。
そもそも全王様が介入してくればひとたまりもないだろうに。
『まぁ言えておるな。流石に華樹神らも元は人間であり我の管轄内。
全王らの力で消し去ろうと思えば出来なくはない。』
…泉の水を、持ち出してない、限りは。
持ち出す?
「そのようなことが可能なのですか?」
『できなくはない。…まぁ、できなくは、な。』
そう言ってアコマリはメルの胸元を優しくさすって目を閉じた。
「…では、我々は一体何をすればいいのでしょうか?」
「お父様…」
『お主らがもしも、新しい世界を見たい
というならこのまま放置すればいい。』
「もし、元の状態に、といえば?」
『この子の記憶を消して無くせ。』
「っ」
『狂った上に歯車まで止まらんのだ。
記憶を一度消してしまえば多少の時間は稼げる。』
「彼女がそのままうまく話を戻せるとは思えないのですが…」
まぁ、我もそれは十分に考えておる。
『外の人間らは泉や狭間に位置した者達の
成れの果てらがお前らを動かしておる。
その為ある程度の融通は効くが、消そうとしても無意味。』
「本来在るべき場所にと戻れる者達だから、そうですね?」
『嗚呼そういうことだ。』
「では彼等から永遠に逃げ続けつつ、
エフェメラル様を我々が居た場所に
導いて差し上げねばならないのですか…。」
「これは相当骨が折れる話になってきましたね…。」
普通の素直な子ならまだしも、筋金入りの子なのだ。
サワアですら話を聞かないときたらもう目も当てれない。
『流石に此方側に居る上に彼女が許せば多少の話はしてやろう。
嗚呼勿論この話は彼女と共有は出来ない。
故にお前らの心の中で留めて置いて欲しい。』
「わかりました。」
『ところで、そちらで気にして居る子が、今回の子達か。』
「っ」
「…おはいりなさい。」
そう声を出した者に、姿を現したのは
「アルカネット様…」
『ふむ、』
「っ!?!?」
呼ばれた名前に目を光らせ、
アルカネットの身体を封じて距離を近づけた
アコマリに全員がぎょっと目を開いて固まる。
まさか自分から名を出すのではなく、
名自体を理解すればなんでも可能なのか。
『…迷い。似た者同士、か。
まぁ12から始まればそりゃあそうでもなるか。』
「っ、こ、れは」
『持っておけ。あと次はお前の居る土地ではない別にいく。』
「は?」
「嗚呼いや、ですが一つずつ戻らねば廻廊は導かれないのでは…」
『それはあくまでも、狂わない状態であれば、の話し。』
此処は狂いに狂って落ちてきた最下層の場所。
『暗闇を見続けて理解した今だからこそ、
狂った時間から戻れる唯一の光なのだぞ?
…次の時間は何時になるか分からんが、
そう遠くない時間に始まりだす。』
「では彼等から逃れられると?」
『そうは思わない方が良いな。何だかんだ言って
上辺はその姿でも本質を知られている以上
こっちに目を向けようと意識は此方に向き続けるじゃろうし。』
「わかりました。警戒は怠らないように致しましょう。」
メルが忘れれば、サワアらも生きて帰れるし、本来メルが望んでいた時間に戻れる。
メルが覚え続けていれば、サワアらは天使として生きれないし、メルの望まない時間に動き出す。
「両方なんて選択はないのでしょうか…」
「お姉様…」
「あの感じからして無理いや、正確にはかなりの奇跡が起きない限り不可能に近い、と言いたそうな感じでしたね。」
そう言うのはメルの身体からほどけ、彼女が眠りだす間に部屋へと戻る天使らの一人であるコニックだ。
「一緒に行けばちゃんと全部元通りになりますよ」
「サワアお兄様…」
「他の破壊神らの方がもう少し手もかからずに此方も楽に動けたのですがねぇ〜」
「それは強く同意出来ますね…」
「同じく…ですが、彼女はそう、おもっておられない。」
「おや?そうですかねえ?」
「ウイスさん?」
「私には…貴方達も含めて、そう思うのですが…」
顎を引いて答えるウイスに、我々が?と言ったのはモヒイトだ。
「何を根拠にそう言うのですか?貴方彼等をご存知の筈ですよねえ?」
「ええ、存じ上げておりますとも。手のかかる子程可愛らしい、とでもいうべきでしょうかねぇ?」
「…気色の悪いことを仰らないで下さい。」
「同意ですね。愛だのなんだの天使が思って仕えていたらそれこそ世界の終わりですよ。」
「泉からの出とは知りませんでしたがね。」
「なんでしたら知れば消滅級のお話をされていた気がするのですが…きのせい、ですかね?」
「…気のせいってことにしましょう。」
「そうですよ、そんな在るわけないですよ。」
ドンドンとフラグとやらが組み立てられている気がする。
そう先に行く弟妹達を見ながらコルンは冷や汗を垂れ流した。
「お父様もついておられますし、一度今日はお開きに致しましょう。」
「ええ、ではおやすみなさい。」
そう言って1から6の者達と7から12の者達で分かれる。
ぺこりとお辞儀をして背中を向けつつ
歩き出しては一人ずつ扉の中に消えていく。
何事もなく、ただ喋ることもせずに入っていく彼等を
背後で確認しつつサワアは自室に戻り、
ただいま戻りましたと答えてやる。
何が起きているかも分からない。
彼女らが普通の人形だったらいいのだが。
恐らくメルの状態から色々考えて、
そんなことは在り得ないだろうと踏んだ。
「大体予想ですが、一週間後辺りに次の華神を知りに向かうそうですよ。」
貴方達はお留守番になるでしょうが。
そう怒らないで頂きたいです。
「…色々話をお伺いいたしましたので、
一応、一応念のため、貴方達にもお話しておきます。」