光あふれる庭で
前回の久しぶりあらすじ
廻廊のど真ん中に立ったら吸い込まれて
何処の時間軸かも分からない場所で
半分記憶喪失になりながらも
足腕捻挫+軽く剥離骨折した身体を
治してもらうためにも居候を始めました。
どうも、エフェメラルことメルちゃんです。
どうしてこうなった(n回目)である。
いやマジでどうしてこうなった。
『(とりあえず…本当に頭おかしくなったのだろうか。)』
それともコレが通常…いやそうなんだろうな。
あれから一応日記を書きたいと言って
無理言って買って貰った青色の日記に時間帯の数を書いて数えてみた。
大体12時間帯程度時が過ぎた辺りだろうか?
夜になって眠くなれば一応寝ているが
此処は頑張れば室内をむりくり夜に出来るので
体内時計を酷使させて無理矢理時間計算を行う処、
此方に来て早くも4日程度が過ぎている気がする。
まぁ正確にはずれるかもしれないが、
もし仮にコレが正しければ、私の身体は割とおかしくないのかもしれない。
全く治らない。正確には治るどころか悪化していく一方だ。
まぁ熱は高いし風邪薬に手を出したくない。
この世界が向こう側即ちCの場所に近ければいいのだが、
明らかにAの世界に居る以上無理な話だろう。
だってこの世界がCだなんて私信じたくない。
えっCんじたくないって?もう頭もおかしくなったらしい。
ははは、どうせ私サワアに見つけて貰えずに死ぬんだここで。
そう精神的にも応えている間、本当に大丈夫?と声を掛けられる。
「確かに副作用が出るとはいえども、
其処迄くるともう薬を打つしか他ないわよ?」
『っ、で、でも…』
流石に血を採血されるのだけは待った方が良い気がする。
良くも悪くも華樹神である以上、
髪の毛一本たりとも部外者に渡してはいけない。
下手に華神らを増やす種になったら元も子もないのだ。
だって華神を増やす為に
降り立っているわけでもなければ
偽物神様達から逃れつつ
新たな枠組みの華神らを迎えに行っているだけだし。
むやみやたらと取りに来たわけではないからこそだ。
それにこの世界での薬はかなり危険。
前にクノフィリスが居るところで
ある程度の薬剤を12全部からかき集めて投薬した所、
9割方副作用が強く出てきたのだ。それも秒で。
一度や二度なら少し心配していた天使らだったが、
流石に3度目から躊躇が抜けて来て
5度目から全力で止めにきていたからな。
まぁ勿論私だけでなく他の子達もデータを取るからと
説得してやりきった甲斐があっての作用効果が
この頭に印されているというもの。
つまり何が駄目かを大体で検討がついているのだ。
そう、主に風邪薬や解毒剤に関わる
熱を飛ばす作用全般が無理だということに。
それ普通に薬が駄目って言っているようなものでしょ?
って思うでしょう?そうです。そうなんです。
だから私は頑なに薬を飲まないと言っているんですよ。
そんなことは知らない彼女に包み隠さず言えばどうなる。
普通に脳内お花畑にやられた可哀想な子として
精神科まで追加して送り届けることになるだろう。
…まぁ、脳内お花畑は物理的に
正解なので問題なくはないとして、だ。
普通に精神科まで追加されるのは
少々精神的に堪えてしまう
というものでだなだな。不思議だな?
『だ、いじょ、うぶ…』
「でも…」
『ごはん、たべてれば、ね?』
それにこうやって熱に魘されながらご飯を食べたりもしてた。
あれ?でも何時からこうやってしてたんだっけ?
どうして此処まで慣れているんだっけ?
足とか腕とかよく怪我したり、腫れたりしてても
熱が出て何とかなったとかって、一体何時、そうなったんだっけ?
わからない。最初の方で在るはずの記憶が、
凄く、曖昧になっている。
一度は確かに思い出した気がする。
でも、また薄くなって消えていくような、そうまるで
『(最初から無かったかのように、消えていってる気がする…)』
何か分からないが、これだけは覚えておかなきゃ
って思ってることが先に消えていっている気がする。
何かが分からない。本当に、分からない。
このままサワア達の名前まで忘れちゃったらどうしよう?
そしたら本当に、何処にもいけなくなってしまう。
寝よう。流石に疲れているだけだ。
熱は身体の傷からのものだろうし、
炎症も起きているなら回復をすべきなのだが…。
嗚呼せめて、外に出たい。
「どうしたの?」
『お、そと』
「え?」
『おそ、と、で、たい』
「流石にそれは無茶よ!!ってこらこらこらこら!!!」
そう起き上がるメルに止めを入れるもメルは虚ろな目でお外とぼやく。
もう熱に浮かされて少しでも冷たい処に行きたいのだろう。
幸いなことに次の時間帯は朝が続くので、まだ大丈夫と言いたいところだが…
此処は高山地帯、余りにも高い熱で息も荒いと下山させる以外術がない。
「…メル、もう流石に下山しましょう。」
『え?』
「薬を投薬しなくても病院いこう?」
流石にそのまま死なれると私も苦しい。
そう言われるが、いやだと言って言う事を聞かない。
あれ、昔もこうやって病院行くの嫌がってたな。どうしてだっけ?
どんどんと分からなくなっていくのが、こわい。ただただ、こわい。
助けて欲しい。誰か、誰でも良い。神でも人でも悪魔でも天使でも誰だっていい。
この熱を取り除いて。そして、この知らない記憶を教えて欲しい。
外に行こうとするメルに電話が鳴って出ていた
エリーゼが待ってと声を上げるもメルは無視していく。
ふらつきながらも外に出れば其処は綺麗な青い空が待ち受けていて。
草原の青々としたものは一見なだらかに見えるがかなり急こう配になっている。
下手にこければそのまま落ちていくだろうなと思っている矢先に倒れてしまった。
嗚呼地面が気持ちいい。
目を閉じて息を吸って吐いていると、
頭上から声が掛かって来た。
「メル!!!駄目よ!そんな状態で外にでちゃ!!」
「…今、なんと仰られて?」
「え?メル、ですけど…貴方達は一体どなたで」
「…モヒイトさん」
「ええ、分かっています。メル様?メル様ですよね?」
そう声を掛けるとメルがか細い声で
「さわあ」と言う言葉に間違いないと答える。
「サワアお兄様が心配されておりましたよ?」
「…これは、」
「すみません、私がしたものではないんですが…」
「いえ、事情がどうやらおありのようですね。
もしよろしければ彼女が寝ていたベットにお返し致しますが。」
その代わりお話をお伺いしても?
ええ、構いません。
++++++++++
「…成程、そういうことでしたら、モヒイトさん。」
「ええ。一応ゲートは作れるようにしています。
何時でも帰還可能ですが…」
「あの、私もついてっていいですか?」
「それは勿論、構いませんが…」
「寧ろよろしいので?」
「この子がこんな状態になって放っておけるものですか…!!!」
お願いします!!食事しか作れませんが!!!
…寧ろ有難いです。
「連絡した所、是非ともとお声を頂いております。
申し遅れましたが、私はコニック。
そちらは弟のモヒイトさんです。」
「モヒイトです。この度はメル様がお世話になりました。」
「いえいえ!私こそ元気づけられてとても嬉しかったものですから…」
「では参りましょう、うかと言いたいところですがね。」
どうされたので?
そう抱き上げて首を傾げるモヒイトに
そっと振り返ってコニックがいけませんとぼやく。
「へ?」
「ですから、道が通じないのです。」
「…交代してみましょうか?」
「お願いします。」
そう言ってモヒイトはメルをコニックに渡して
自分の杖で通信を試みるが、一向に戻れる気配が見えない。
「…ひょっとしたら、この子の肉体と精神が
宜しくないというのが原因では」
「在り得ますね。ですが困りました…
此方から手を打つならば
気を少々分け与えねばなりません。」
「あの、前から思っていたのですが」
「なんですか?」
「気ってなんですか?その子も良く
気がどうたらって困っていたんですが…」
「嗚呼、体内における力の総称を指すものです。
我々は少々とある件で気を使わない様に
制限を受けていましてですね。」
彼女もその一人なんですよ。
そうだったんですか…
「もしかしてお薬とかそれも原因のうちに?」
「お薬?何かお困りごとでも?」
「ええ、私ではなくて、この子なんですけど
どうも解熱剤を飲まないのに理由も教えてくれなくて。」
「…嗚呼、熱で浮かされてきちんとした
判断もろくに出来ないんでしょうね。」
そう言ったコニックがエリーゼに話をする。
その状態に顔を青ざめてからすぐに安堵をみせる。
「そんな…!!嗚呼良かった、無理強いして
投薬するつもりだったんですが、
そういうことなら本当にしなくて良かった。」
「それはそれは…ある意味不幸中の幸いといいましょうか。」
「ですがどうします?この地はどうやら
不定期な磁場を持っているのが原因かもしれません。」
「一応通信は可能ですが、これも長く続くかと言われると…」
「それなら北の最奥にある洞窟ならどうでしょう!!」
「洞窟?」
ええ!
「其処に行けば一日の時間帯が一定に過ごせる場所があるとかなんとか。」
「そちらでなら移動出来る可能性もありますね。」
「熱が少し落ち着くまでは居らせて頂きたいですが…
この感じですと荷物を整えていつでも出られるように
しておいた方が良さそうですね。」
そう言ってメルの顔色を窺うと、
もう息をするしかできない程にぐったりとしていたのを見て
三人は強く頷き何が必要なのかをエリーゼから聞いて
準備を進めることにした。
「エリーゼ様、これで構いませんか?」
「え、ええってはっや!!あっ、ありがとうございます!!!」
「いえいえ、これくらいお気になさらず。」
軽く笑って答えるコニックに感動しているのか
目を丸めた後に少し震えて思わず強く声が上がる彼女に
くすりと笑ってかまいませんと答えた。
「これしきのことでお喜びになられると先が持ちませんよ?」
「あはは、そうですね。」
「ですが本当によろしいので?」
「ええ。元々独り暮らしでしたし、
私が請け負う商売も旅歩きで賄えるものばかりですから。」
「類は友を呼ぶ、とでもいうんですかねえ?」
「何か仰いました?」
嗚呼いえ、ただの独り言です。
「お気になさらず。そんなことよりこれくらいで充分ですか?」
「ええ。あのお兄さん方は」
「正直帰り道が閉ざされた程度で其処迄困ることはありませんよ。」
寧ろお供しても?
それくらい願ったり叶ったりです!!
「是非ともついて来ていただけると助かります!!!」
「…えっと、だ、大丈夫、ですか?」
「え、ええ…」
「なんとか。」
人間が此処まで苦痛を伴っているとは、
予想だにしていなかったとコニックは後に語る。
現在高山の山頂でもないまだ中腹に位置する場所で
軽く動いていたら、まさかの高山病
一歩手前に来ているとは思いもしなかった。
此処まで肉体が衰え…いや違う。
これは逆だ。衰えていくのではなく、
若返り続けているのだ。
ならば話が大きく変わってくる。
適度な運動も過剰に動いているに等しいのだ。
加えて荷物の多さで重量も変わってくる。
いやはや、メルがいつも身体以上の荷物を持って
こけずに走り回って息切れているのが普通によくわかる。
と言うかかなりの量を走って息切れている彼女も彼女で
馬鹿みたいな体力をしているような気がするが、
気のせいと言うことにしておかないと
本当に酸素が切れてしまいかねない。
幸いなことに杖を使って気を余り使用しなくていい様に
酸素を定期的に送り続けることで何とか凌いでいるものの、
それでも人間と天使の狭間はほぼほぼ人間と
同列だということを痛い程良く知らしてくる程には、
体力が余りにもなさ過ぎて
息切れを起こしてきているというものであってだな。
要約すると、普通にきつい。ということだ。
「…いや本当にこの子が何時も息切れを起こすのも頷けるというものですよ。」
「杖を改良していなければ今頃我々死んでいたのでは。」
「洒落にならないことを仰らないで下さい。ただでさえ面倒なことだというのに。」
「お兄様、流石にソレは言い過ぎでは」
「そんなこと…嗚呼、分かりました、分かりましたから。すみません謝ります。」
謝りますからどうかそう、背中で押し付けないで下さい…!!!
そう軽く後ろの方を向いてコニックが手を上げて答えるのも、だ。
おんぶをしていたコニックが腰を掛けている間、
メルもそのままコニックの背中に胸をぺたりとくっつけていた、
その胸を押し付けて意識させようとしていたのだ。
メルとて普段そのようなことは一切しない。
口が出ない以上身体で物を言うしかないというもので、
コニックが一番困りそうなものがそれだと判断しての行動には
普段弱音など吐かない処か速攻手を上げることのない彼も
コレに関しては速攻で降参の声を上げた。
「何をあやまって?」
「嗚呼、メル様は我々の仲が悪くなるとああして何かしら喧嘩を仲裁するように声をあげるのですよ。」
今回は声が出る気力すら無い為に身体で嫌がらせをしてきたんでしょう。
嗚呼そういう…
「でも確かに喧嘩はよくないわよ?仮にも妹が見ているんだから」
「へ?」
「え?あっ違うの?てっきり貴方達の距離的にご兄弟かと思ってたんだけど。」
コニックさんってお兄ちゃんって感じするし。
そう、なんですか?
「ええ。なんなら頑張れば親子みたいにもみえなくもないけど」
「おっ、おやっ…ちょ、お、恐れ多すぎます…流石にそれはちょっと」
「ええ?そんな偉い子なの?この子。」
「偉いと言いますか、凄いと言いますか…」
「まぁ、間違いなく我々が軽々しく慕っていい存在では無い筈、ううん、無い筈なんですがねぇ……」
気付いたらこうなっていましたよね。
ホントどうやったらこうなるんでしょうねぇ?
「メルはいつもどんな感じの子なんです?」
「どんな感じ、と、いいますと?」
「こう、面白いことを言ったりとか。嗚呼此間なんかシーツ片手に「くっ右腕が疼く!」だなんて一発芸してきちゃって私飲み物吹き出しちゃったりしちゃって困ったんですよ?」
「…流石に其処迄お茶目なことはなさっていない様な気がしなくもないような」
「お茶目」
「単純にエリーゼ様の沸点が非常に低すぎる様な気がしますが…」
ええ?そうですかねえ?
恐らくですが、多分当たっているかと。
「まぁ面白いお方と言えばそうですね。前にマルカリータさんからコニックさんの真似をしようとして全く出来なくてすねておられたと愚痴をこぼしておられたのをお聞きしましたし。」
「ぶっ…けほっこほっ…ちょ、ま、お、お待ちなさい。
……その話初耳なんですが。」
「そりゃあそうでしょうね?話しておりませんし。」
彼女も話していなければ貴方の耳に届きすらしませんし。
…いやそうかもしれませんけどね。
「サワアさんの次は私ですか。この子一体どれ程真似ようとすれば気がすむのやら」
「何の話です?」
「髪型の話しですよ。我々の兄にサワアさんというお方がおりまして。」
「嗚呼その子ですか。」
「その子?サワアさんをお知りで?」
そう少し目の色が変わるモヒイトに嗚呼そういうんじゃないんですと訂正を入れる。
「この子が良く夜の時間帯に泣きながらぐずって名前をずっと呼んでいたので…」
「嗚呼、そう、でしたか…」
「さわあ、さわあどこ?ねぇ、おいてかないで。傍に居てって…ずっと、ずっと寂しそうに、いたので。
私此処にいるよ?大丈夫だよ、置いてかないよって言ったんですけど、嘘つきって言われちゃって。」
「…それは、大変失礼なことを、すみません。」
「いえいえ!まぁ、嘘つきって点ではある意味嘘ではないと言いますか、
私ではない彼に聞いているのに私が答えても意味がないという点では嘘になりますし。」
でも、凄くその時は嬉しそうだったんです。
嬉しそう?
「ええ。うそつき。おいてっちゃうくせして。大丈夫じゃないくせに、って。」
「…そうですか。それはそれは、帰ったら沢山またあえられそうですねぇ。」
「他にもご兄弟が?」
「ええ、全員で12人おりますよ。」
「おお!!!!えっ!!!すっごいですね?!?!?!
お父さんとお母さん頑張り過ぎでは」
「「ぶっ」」
あれ?私そんな凄いこといいました?
げほっごほっ…いや、失礼、なんでもないです。
「それにしてもコニックさんの
髪の毛って重力ガン無視決めちゃってますよね?
一体どういう状態なんですかそれ
…というかちゃんと前見えてます?」
「嗚呼いや、見えていますし、別に問題ないかと思いますが…」
「へ〜〜〜。まぁ真似したくなるのも分かる気がするなあ。」
「と、いいますと?」
「ほら、よく言いません?
仲良くなるために真似っこしちゃうとか。」
人間でよくある行動ですよ。
「憧れや親しみを持ってないと
真似るなんてことする訳もないですし。
単純にコニックさんが見る世界をこの子も
自分で見てみたかったんじゃないんですかねえ?」
「…だ、そうですよ?」
「言わないで下さい。」
照れちゃってます?
…怒りますよ?
「ふふ、それは困りますので、今回は引いておきますよ。」
「…、」
「そう怖い顔をなさらずに、ね?」
「はぁ…今回限りですよ?今回限り。」
「ええ。」
そう二人が笑う中、羨ましいなぁとぼそり呟いた言葉にはっと手を隠してしまうも、時すでに遅し。
声を聞いてしまった天使の二人がきょとんとした顔で此方を見て一人が声を掛けた。
「羨ましい?何がです?」
「嗚呼いや!すみません!やだなあ私ったら喧嘩する程仲が良いって言うっていうかえっと嗚呼違うそうじゃなくて」
「ゆっくりで構いませんよ。なんでしたら先程の発言はなかったことにして頂いても構いません。」
どうして?そうぽつりと言葉を紡ぐ。
彼女の目は、何処か遠い、遠い場所を見つめている様で。
金色の瞳がちらりと光ったのを二人は見逃さずに
警戒をしたが、すぐに気のせいだったことを知る。
いや、気のせい…だ、ということにしておいてやろうと思った。
それ程に、彼女の気は非常に大きく揺らいでいたのだ。
まるで風で巻き起こされたろうそくの火みたいな、そんな揺らぎ。
いますぐにでも消えてしまいそうだと思いきや、
大きく掻き立て広がる炎の様な、そんな火。
「私、小さい頃から一人で暮らしてまして
…昔兄が居たんだって、
ふもとのご老人夫婦の方が教えて下さっていて。」
でも、私全く記憶がないんです。
…そうでしたか。
「兄弟が居たらこうやって甘えちゃったり
喧嘩しちゃったりするんだろうなぁって思うと、
なんだかそれすらも羨ましくなっちゃって。」
「まぁ、賑やかであることは確かですね。」
「ええそうですね。ですが、この方が来られてから、というものですし。」
「メルが?」
「そうですよ。メル様が、です。」
元々此処まで我々、穏やかに会話なんてしてなかったんですよ?
えっ
「そ、そうなんですか?!」
「まぁ我々とかも仲が悪い方ですし、ねぇ?モヒイトさん?」
「それを口に出してくる処、貴方も変わりましたよね、ほんと。」
「ふふ、この子のせい、とでも言いましょうか。」
「ふふ、そう言う事にしておきましょうか。」
利害の一致、ですねえ?
ええ、そうですね。
「つい笑みが零れちゃうくらいには幸せだ、というものでしょうか。」
「それって滅茶苦茶幸せじゃないですか。まるでお花みたい。」
「っ」
「ん?どうかしました?」
「嗚呼いや、なんでも。(…時々確信を突いてくる言葉を発現するが、恐らく無意識なのだろうな。)」
そうコニックはスープを一飲みして彼女の言葉を思い出していた。
焚火も消え、各々が眠る中、メルの面倒はじゃんけんでコニックが担当することになった。
念の為杖も用意し、すぐに動けるように体制は整えているが、
「(…ほんと、人間の情とやらは、我々にとって毒以上のものなんですよ。)」
この子の記憶が曖昧になっている。
それに気付いたのは熱に浮かされながらもぼやいていた言葉を聞いてだった。
山頂に行く道中、背中越しに聞いた言葉に胸を痛める中、此方の顔を見ないであろう後ろで歩いていたモヒイトにはどうか声が届いていないことを祈り続けていた。
ーぴあの、だれに、おしえて、もらえた、の?
そう言った言葉は、何時しか彼女が教えてくれた、綺麗な旋律のピアノという楽器。
創造で創り出して端から端まで完成品を作り続けること大よそ三か月程の集大成らしいものに
メルが弾いている処目撃したコニックがこれはなにかと問った時があった。
メルは『お母さんに教えて貰ったんだあ』と、凄く嬉しそうに噛み締めるように答えてくれた。
同時に、とてもとても、寂しそうに言ったのだ。まるで、もう二度と会えないかのように。
嗚呼違う、会えないのだ。間違ってはいない。
彼女の魂は既に、この世界の何処にも存在しないし、
ましてや他の世界に飛ばされているわけでもない。
ただ、消滅を確認したのを知り『…そっか。』とだけ零し、礼を言った後から何もその件については触れていない。
いや、触れられないのだ。そうしたら、彼女が消えて居なくなりそうで。ただただ、皆が怖がっていたから。
そして同時に彼女も、酷く怖がっていたのだろう。少なくともピアノとやらは彼女が消滅してから以来、一度も弾いている処は目撃していないし、ましてやその場所に立ち入る姿を見たこともない。何なら鍵をかけていた上に紛失してしまったとまで来たのだ。
それは、もう、鍵を開けることなど、しなくて良いかの様な、そんな意味にも受け取れて。
「(…そのまま、忘れてしまえばいい。)」
貴方を守る、唯一の鍵は…貴方の一番大事にしていた、記憶そのものを消し去るというもので。
…皮肉なものだと思う。多くの情を物をダミーとして偽造し、明け渡して誤魔化していたのに、
その情こそが、貴方の一番大事なものと同時に、貴方の糧になるものだとは。
誰も、想像していなかったのだ。
「(どうか、忘れて下さい。…そして、また笑い合いましょう?)」
あの陽だまりで、嬉しそうに笑いながら、その地で花を咲かせ続けていればいい。
彼女に縛られることなんて、しなくていい。もう、なにも、なにも考えなくて良い。
ある意味コレは好機というものではないだろうか?彼女が本来笑えるべき居場所に行ける。
そんな、好機。
「(…ピアノ、弾けなくなっちゃいますね)」
意外にも、彼女は楽譜を別世界から持ち出していなかったのだ。
記憶から引き出して演奏をしているから問題ないとのことで、
流石に譜面に書き起こさないのかと問えば答えはノーときた。
記憶と寄り添うことこそが、音の居場所なのだから、と。
だから、文字に書き写してしまえば形となって残ってしまう。
そうしたら、覚えていた情すらも、忘れ、離れてしまいそうだと、いうのだ。
そんなことないと言いたかった。なのに、その顔をみてその言葉は喉の奥に仕舞い込んでしまった。
そうでなければ、貴方は、息が出来ないと言いたそうに、寂しそうに笑っていたのだから。
「(夜が明けて、次はどんな日を迎えるのでしょうか)」
朝が来ればいいが、昼が来たり、また夜が続いたりとするのだろうか。
此処は本当に時間が狂っていて、思考も不安定になってくるというものだから結構堪える。
ピアノを弾いて、笑い合う親子が、瞼裏で見え隠れする。
春の陽だまり、午後2時半過ぎの時間。
そよ風に揺られつつ、ピアノを弾いている母親の隣で身体を揺らす少女。
貴方はずっと、其処に、居たいのですね。
もう、額縁にすら、居れなくなると、分かっていても。
それでも、貴方は、
「…帰りたいと、縋るのでしょうか。」