無声パレード




前回のあらすじ


廻廊を渡っていく長い夢から醒めてしまった。

コルン、コニック、ウイスと会話出来るようになった!
メルの賢さが1上がった。
メルの精神力が2下がった。


『…本当に声戻るんだな。普通に。』

喉痛くない。そう思いながらペンを走らせ、絵を描き殴る。
夢であったはずの時間で遊んでいた処の絵を描いた。

コルン達と茶会をしている処や、
マルカリータとウイスらとお菓子を作ってる処。
サワアと二人で仲良く遊んでいる処を描いて、
サワアの顔を黒く塗りつぶして胸を痛める。

彼の顔だけなんて悪いから、自分の目元だけでも
塗りつぶしてやったら、少し痛みが和らいだ気がした。
それはただ痛みに慣れてしまっただけだということに、
私は気付いて無視をする。

『あいたい』

会えない。会えるわけがない。

サワアに会いたい。触れる体温に、痛みを伴うだろうから。
現実の彼は、私を見てくれない。見る訳がない。
だって彼は、私ではない者を愛してくれているから。

会ってはいけない。会ってしまえば、私は

『(あの場所に、戻れるなら今すぐにでも戻りたい。
…でも、なんだか戻れる気配がしなくもない。)』

この場所に戻って来て早くも一週間が経とうとしている最中。
こうして何もない時は一人部屋で今までのことを整理しつつ
思い出しては書き記し、絵まで描いて保存している始末である。

勿論ウイスらが来る気配は監視カメラで分かるし
ブザーも鳴らす様に徹底している為必ず気付くようにしている。
その為この絵を見る者はいない。大神官ですら、だ。

とりあえず華樹の方には近づくなと言われ、
ほぼほぼ合法的に自宅待機が出来ている今現在。
個人的には組手もなしで割とやりたい放題出来て超絶ハッピーではある。

…そういや、図書館に最近行ってないな。

正確には日本語の意味を持つ本がある奥の部屋だ。
一応隠し部屋として作っていた場所があり、其処に華神らの意味を持っていそうな本を一式揃え保管しているスペースがある。
勿論自分の名前も其処に保管している。正式名称も含めて、だ。

『いくか』

思い立ったが吉日。メルは移動することにした。
エリーゼ達を待たせている感じも否めないのは
自分の髪の毛が短いことからに起因している。

『絶対この時間と向こうの時間並行していないよな。』

私が此処にいるということは、下手したら向こう、
廻廊側に私は眠っているか居ないかのどちらかになっている筈だ。
もし仮に眠っているなら、肉体が二つあるということになり、それはそれで厄介。
逆に居ないとなれば、えっどうなるんだろう?

どちらにせよこういう類の神話があったような気がする。

なんだかトンネルを抜けるなんて途轍もなく久しぶりな気がする。

どこか、悪いことをしているような気がして、酷く胸元がひんやりとする。
…怖い、早く本の在る場所に入ろう。奥の部屋にある、小さな自分の書棚に。

そう思っているとかなり近い処から足音が聞こえて来て
思わずトンネルから出た部屋にある戸棚の裏に隠れてしまった。
どきどきと心臓の脈打つ音が全身を打ち鳴らし続けている。


「それにしても、サワアお兄様を連れてこないのは何故なのでしょう?」
「そんなもの、彼女の波が大きく揺れ過ぎるからに決まっているでしょう。」

そう言ったのは誰か分からない。
だが、その答えを言ったのはコルンの声であることは判明した。

「波が?」
「ええ、どう考えてもサワアお兄様との関係性で
華の力が開花を遂げつつある。…いい意味でも、悪い意味でも、ね。」

何の話だ。

「本来華樹神はどんな願い事でも一つだけ願いを叶えられることが出来る。
それは華にまつわるものではないものに限ることではあるが。」
「消滅した者を復活させる力もあると?」
「勿論。それどころか、幻である存在らをあたかも
最初から存在させているかのように仕立て上げることだって
可能だと聞いております。」

それは、夢を現実に、正夢にするという意味そのもの。

「開花とは、まさかその効果が強まると?」
「強まるどころか、元に戻るのですよ」
「元に?」
「ええ。まぁ我々は言われるがまま彼女を導いてやるのみです。」

なにを、どこに?わたしを、何処に連れて行くつもりなの?

悪いことをしているみたい。いや、盗み聞きは悪いことだ。
図書館に入らなければいけないのに、身体の力が抜けきった感じがして、今は動けない。

とりあえず息を潜め、彼等が居なくなるのを待つしかない。

「…はぁ、私は余り気乗り致しませんがねぇ?」
「大神官様に逆らうと?」
「いえいえ、滅相もない。…ですが、本当に彼女があの願いを叶えて差し上げて貰えるとは到底思えませんがねえ。」
「必ず叶えますよ。否が応でも、叶えることになる。」

何の話をしているのか分からない。
でも、私が行きたい先は、この人達の手を取ったら
そんな場所にすら行けないことだけは分かった。

帰らなきゃ、あの場所に。廻廊に、戻らないといけない。

「まぁ、その前に帰れれば、の話しですが。」
『っひ』
「良い子ですねぇ?…真昼間メリディエム
『…っ!?なっんで、そ、のな、まえを』

隠れていた身体を動かそうとして前に行こうとした身体が左に崩れ落ちる。
一気に力が抜けて、頭の中が霞んで何も考えられなくなった。

「そのままお眠りなさい」
『…や、だめ、こる、ん』
真昼間メリディエム
『…っ、』

優しく抱きかかえて貰ったメルはコルンの胸板に頭を置いて目を閉じる。
何も考えたくない、何も、分からない。
怖いけど、怖さすらも、溶けて無くなっていく。
まるで最初から、何も、知らなかったかのように。

「寝たんですか?」
「…まだ意識はあるかもしれませんがね。
一応彼女の正式名称をお父様からお聞きして正解でしたね。
…まさか此処から抜け出そうとしていたとは。」
「正式名称ならある程度の身体を制御出来るとは
聞いていましたが…本当に出来るんですねぇ?」

それにしても可愛らしい寝姿なこと。
…ウイスさん?

「ふふ、失礼。…それにしても我々に伝えていた方を
カモフラージュに仕立て上げようとしたのも分かりかねますが
一体何方に向かわれようとしておられたのでしょうか?」
「やろうと思えば聞きだせますよ。聞いてみます?」
「それよりも早くお部屋にお戻しになられた方が宜しいかと。」
「分かっていますよ。それくらい。」

駄目だ、微睡む最中、ふわりと意識を浮上させる。
何処か分からない。見えないけど、声は聞こえる。
身体は揺れて、移動しているのを感じるが、手足は動かない。

「…おや、抗ってるんですかね?」
「流石に二度名を告げたので言う事を聞かない訳がありませんが…
まぁ力も抜けきっていますし、問題ないでしょう。」
「我々が気付いていないとでも思ったんですかね?」
「気付いているからこそ隙を見て動こうとしたんでしょうね。
ですが抜けるタイミングを見計らう余りに
気を取られてしまうとは、まだまだですねえ。」

ま、だからこそ貴方をこうして戻すことが出来ましたが。

そう言いながら自室ではないベットの上に降ろされる。
まて、此処自分の部屋じゃないな?

「お気づきですか。そうですよ、此処は貴方のよく寝ていた華樹の下です。」

白いベットに埋もれつつも空が赤い格子状になって彼等の顔が見えなくなる。

『…ま、って、なに、して、るの?』
「貴方が何処にも行かないように、ですよ?」
『い、かない、よ?』
「嘘つき。行こうとしていた癖に、一体何を仰るのやら。」

そんなことはない、とは言い切れない。事実そうでもあったから。
サワアの元に、戻りたいと、強く思っていたのは、事実ではあるのだ。

「っと、大体3分程度しか持たないのですね。」
『(っ動ける、が、身体の自由が其処迄良い訳でもない、か。)』

コルンが見つめて来ているから、なのだろうな。
気を練って動こうとした途端身体の力が抜けてベットに崩れ落ちた。
気分は産まれたての小鹿である。肘やら膝やらかくんと落ちてまた起き上がろうとする。

たぶんだが、この格子状を抜けて後ろにある華樹の中に入れれば私の勝ちだ。

あの中へ入るのはいけないと言われているが、
多分今現在廻廊に繋がっているからだろう。

…いや、それにしても

「金の首輪が無くても問題なさそうですか、ね?
…嗚呼いや、常時か一時的かの違い、と見受けました。」
「そう睨まないで下さい。我々とて
貴方を痛めつけようだなんて思っちゃいません。」

ただ、貴方は其処に眠り続けてさえいてくれば、構わないのです。

「まだ季節は夏になったばかりなのですから。」
『(大神官様は冬から春に変わるって言ってたのに?)』
「そしたら春が一瞬で過ぎ去ったというものですよ。
…まだ寝ているか、それとも…嗚呼貴方がお望みとあれば
強制的に寝かしつけてしまってもいいのですよ?」

そう言って格子状から入って来たコルンに
身体がピクリと反応する。

見られている間は自由が効かない、訳でもない。
かなり不定期で状態異常になる感じか。

隙を見て逃げようと思いたくとも、
コルンの背後にはウイスが立ち尽くしている。

下手に動けば彼が名を呼んで動きを封じるつもりか。

嗚呼あの直感を信じて戻っていればよかった…!!
だとしても彼等が私の状態を見て寝かせに来る可能性は否めない。

エフェメラルという名を彼等に呼ばれたくなかった。
適当に意味も分からない名を教えてやればいいと思って
ぽろりと前に聞いた自分の名を思い出して言ってしまった私が馬鹿だったと思う。

もうコルン達に知られたら怒られるどころか呆れられるだろうなぁ。
嗚呼、帰れない。帰る場所なんて、何処にあるのだろうか?


「此処にありますよ。」

そう言ってコルンが私の頬から耳の後ろに手を伸ばしてくる。
身体がぞわぞわして目をきゅっと閉じてしまえば
くすりと笑った声が耳元でしてきたのと同時に声が漏れる。

「可愛らしいですねぇ?」
『ひぁ』
「おや?此処が弱いのですか。」
『あ!あっ、らめ、やぁ』
「ふふ、気持ちいいですか?」

誰が気持ちよくなるか。あれこれ待てよ?デジャヴでは??
確か前にもコルンに軽く襲われてなかったか???
そう思っていると彼も気付いたのか知らないが
軽く首元にキスを落として身体から離れる。

くたりと力が入らず、まるで人形の様に
固まって身体一つ動かさなくなる。

「そのままお眠りなさい。」

寝たくない、なのに、
瞼がうつらうつらと落ちて、暗闇に飲まれる。
嗚呼、寝ちゃ駄目な気がするのに。
身体から何かがコロコロ落ちていく感じがする。

綺麗な金髪色の子が泣きそうな顔で笑って言う。

ー大丈夫、貴方が忘れたって、私は忘れないから。

誰か分からない子が、とてもとても、悲しそうに笑って居る。
綺麗な白い翼が、キラキラと光りに照らされていて。
まるで私が貴方を知っていたかのように言うじゃないか。

私は初対面だというのに。

ー大丈夫、大事に守ってあげるから。

だから安心して、その身を投げ捨てて良いというのだ。
なんて酷いことを言うのだろうかと思って鼻で笑ってしまったではないか。

金色の髪の子と、黒髪の様な、紫色の髪色の子がそっと抱きしめて消えて行った。
この深い深い、海の奥深くへと落ちていく私を置いて。泡になって消えてしまった。

泡になるのはこっちの方なのに。

人魚姫は願いを叶えきれずに泡になって消えてしまった。
私も同じ様に、消えて無くなるはずなのに、無くならないのは何と言う悲劇だろうか。


『(…なんだかこの海みたいな処、前にも来た気がする。)』

一体何時かは覚えていないけど、でも、温かくて、安心する。
誰の声かは分からない。でも、悲しそうに叫んでいる声がする。
一人だけの声が二人、三人って増えていく中で、はっきりした声がした。



「はやくおきて。もどれなくなるまえに。」



『っ』
「〜〜〜っメル様あ!!!」
『っえ?あ、あれ…わ、たし…なんで』
「ずぶ濡れの状態で倒れてたんですよ。」

そう言ったのはとても心配そうに見つめて来ていたコニックさんだった。
今は華樹の前にある大きな白いベットに寝かされていたらしい。
あれ?でも赤い格子状なんて何もない。アレは夢だったのか。

…夢、ではないのだろうな。

「メル様?どうかなさいましたか?」
『…ねぇ、どっちが夢?それとも、両方現実?』
「メル様?」
『マルカリータ達が迎えに来てくれた処の続き、見えちゃってた。
今居る場所。同じ様に、おねんねしてて、二人、三人声が聞こえた。』

二人、三人?

『ん。一人は金色の髪色した子で、もう一人は黒髪に近い子だった。
忘れても大丈夫って。自分達が守っておくからって言ってた気がするけど…』
「忘れても、ですか…」
『でも、私知らないの。』

会ったことないのに。ない、はずなのに。

『なんだかあったことがある気がして、なんだかとっても嬉しくなった。』
「…それはそれは、良い夢を見たのですね。」
『あともう一人声が聞こえたの。顔は見えなかったけど、見れなかったけど。』
「声が?」
『はやくおきて。もどれなくなるまえに、って。』
「…戻れなくなる前に、ですか…またなんとも奇妙なことを。」