まどろみ始めた
あれから幾年の時が過ぎて。
現在ブザーが鳴り響いた音で身体を起こし中央へと足を
メルは青い瞳を携え、その身体を鳴らしながら動いていることに真横から喝を入れられる。
「これ、そんな音を立てない。下品ですよ。」
『失礼』
「…貴方絶対思っていないことを言いますよね。」
『にゃはは、ばれちゃった?』
「バレバレですよ。」
コツコツと足音を立てつつも、草地に入って
音がコツコツからガサガサと草地を踏む音に変わる。
『次は第8だね。誰がくる?』
「我々が参りましょう。」
『おっカンパーリさんとクウ姉か。』
「正確にはスですよ。エフェメラル様。」
そう訂正するコルンに固いこと言うなと叩いたメルに
嫌そうな顔を見せるもメルには全く効いていない。
「では後のことは頼みましたよ。」
「ええ、お気をつけて。」
「メル様、お手を」
「…メル?どうしたのです?」
『…いってきます。』
「いってらっしゃい。」
サワアに声を掛けた後、
メルはニコリと微笑んだ後手を振ってから
カンパーリの手を掴んでクスの手を取り
そのまま走って飛び込んで消えていった。
++++++++++
惑星ロスフェリ
青緑色の空が広がるこの世界。
草木をかき分けて移動していた三組が声を上げる。
「本当に此方の方向で合っているんですか…?」
『多分あってる。』
「本当でしょうね」
「メルの勘はほぼ確実に合いますよ。」
「お姉様…」
まぁ現在進行形でかれこれ30分程道に迷われていますが。
そんなことで本当に?
そう言うカンパーリにおほほと笑って誤魔化すクス。
『生い茂る草木の植生が言ってる。此処は惑星ロスフェリで…』
「ん?」
『ん?』
「いいいいいやああああああ!!!!」
『ああああああああ!!!!!!』
互いに叫ぶのも無理はない。
だって身体を向けた場所に鼻がくっつく距離で人が出てきたんだもの。
そりゃあ叫ぶに決まってるだろ。急すぎる。
そう思っていたが、気持ち大きな樹から出てきたので
そりゃあ視界に入っていなければ気付かないのも無理はないか。
驚いたメルが後ろに下がりつつ背中をカンパーリさんに
補助してもらえたは良いが、彼女をこかしてしまった。
身体を起こさせようとしたが、
先にクスの手で起こされて手が宙で止まってしまう。
「すみません、うちのツレが申し訳ないことを。」
「い、いえ…それにしても貴方方は?」
「申し遅れました、私はクス。此方は弟のカンパーリで」
『すみません、ぶつかってしまって。メルと申します。』
「あ、ああ…ご丁寧にどうも…シナリスと申します。
シナリス・マリオット。」
そう手を出した彼女に対してメルも手を出し握手する。
旅の者で?と聞かれてそうですとメルが答えたことに
それはそれはと困った顔をした彼女に何か問題でもと聞いたのはカンパーリだ。
「ええ、ここら辺一体まだ紛争が絶えなくてですね。
ひとまず私の家に来てください。匿います。」
「いいんですか、そんな見ず知らずの者に良い様にされるかもしれないのに。」
「ふふ、そう言う人ならするつもりないでしょう?」
それに、とメルを見てからカンパーリの方を向いて答える。
「そんな子を連れたお連れ様が私の様な人を攻撃するとは思えませんから。」
「…良い目をお持ちのようですね。」
++++++++++
そうして来ました。彼女の、シナリスさん。シナリス・マリオットさんのおうち。
二階建ての至ってシンプルな家で、近くに泉も何もない。草木に生い茂られた中に建てられた木造建築…の様に見せかけた
「レンガですか」
「少し蒸し暑くなりますがね。今改装中でして。」
すみません。
ああいえいえ
「最終的にはこっちに敷き変えるつもりなんですがね。」
『…えっまさかこれ、羊毛????滅茶苦茶良いの使ってますね???』
「ええ。ご存じなんですか?」
『ん?嗚呼、建築資材は手を色々出していますが、如何せん素人知識でして。』
天然素材として使用される羊毛断熱材だ。
有害物質を含まない天然繊維である羊毛を使用した断熱材。
調質作用や水をはじく性能があることから
安定した湿度を保ち、水に塗れてもすぐに乾くことから
壁面内結露に強い素材とも言われている。超優れもの。
勿論一般的な住宅用断熱材であるロックウール(耐熱性能700℃)や
グラスウール(耐熱性能400℃)などの無機断熱材と比べると
耐熱性能は低く、価格は、グラスウールの各2倍〜3倍となる為
値段を考えて買うならば余りおすすめしないものではあるのだが…
「近くで取引させて貰っていまして、
其方に牧草という名の草を渡しているんです。
これは商品になりそうにない細かい羊毛ばかりでして。」
『まぁ壁材にしたら此処だと割ときついのでは…』
「なので別の素材を入れ、水の通りが良い繊維も混ぜてます。」
ほうほう。
「その為夏場は涼しいですが、冬になると寒いのでどうしましょうと悩んでたんですよ。」
『別に断熱材なんで温かくなると思いますがね。そっちよりもカビの方が心配になりますが…』
「其処に関しましてはご安心を。こっちの繊維と合わせたら防カビ対策にもうってつけなんです。」
しかもこれがまたいい奴でして。
嗚呼それならもうやればいいのでは。
「その調達の最中にこうなってまして。」
「おやおや。」
「とりあえず食べ物はあるんですが…」
『ふむ。カンパーリさんクスさんや。』
「何どこぞの時代劇みたいな言い回しをされているんですか。」
「分かっていますよ。手分けして分担しろと言う事ですよね?」
ですが短時間しか動きませんよ?
分かってます。
「クスさんは彼女の面倒を見て頂けますか?私はカンパーリさんと食材兼彼女の必要そうな材料を集めに行きます。」
「そっちですか。逆ではないのですか。」
『寧ろ貴方方お二人、此処の群生周知してるのですか?』
「うっ」
「そ、それは…」
『生活したことのある私の方がまだ知識もあるはず。皆で行動するにもコレは無理がありますし、怪我を負わせた私の責任として私が出るのが最善だと思いますが?』
「…いう様になりましたね、貴方も。」
それはどうも。何処かの誰かさんの、お導きによります故。
…ほんと、手が出せませんね。
「わかりました。カンパーリさん、後は頼みますね。」
「畏まりました。メル様では参りましょう。」
『私が先導するわけではないのか。』
「貴方に先を行かれると手が出せません。」
『えー後ろの方が怖くない?振り返ったらいないとか在り得そうでしょ』
「そんなことを仰らないで下さい…」
えーそうかな。
そうですよ。
そう言いながら歩き外に出て居なくなる彼等を見て
仲が良いんですねとシナリスがぼやく。
それにはええとクスが答える。
「私達。とても、仲良しなんです。」
++++++++++
『とりあえずこんなものか。と思って帰って来ました
ただいまマンモス。お帰
「何言ってるんですか。」
『えー?スモモの木下で冠を被り直そうとして手を上げると
実を盗むのかと疑われるから、木下で直すべきではないという
人から疑いを掛けられる行為は避けるべきである例えだよ。』
「現在進行形でなさっておられますが。」
あはは!!!そんなの気にしない!!!
はぁ…元も子もない。
「おかえりなさ…って随分取ってきましたね!?」
「メル様があっちもこっちもと見つけましてね。
流石に多すぎては困りますので強制的に引き返してきました。」
これくらいで事足りますよね?
十分すぎます…!!!
「どうお礼を申し上げればいいのやら…!!
こっちの食べ物とか中々採れなくて高級品なんです。」
『おややりましたな。僕ちちんぷるって子は。』
「これ」
「お食事出来てますので、手を洗ってから席に付きなさい。」
そう言われては何も言うまい。はーいと言って駆け足で行けば背後から走らないとクスに言われる。
きゃっきゃと笑ってメルは洗面台の方で手を洗い、急いで戻ってくればもう少しゆっくりとと言われる。
「まぁまぁ、お姉様そう言わずに。はしゃぐのも無理ないですよ。」
「甘やかさないで下さい。この子甘やかすと碌なことにならないんですよ。」
「お兄様方もそう仰いますが、本当になるので?」
「割と酷いですよ。こけたりしてませんでした?」
「…嗚呼、そういえば。」
瞬で受け止めてたので其処迄では。
十分ですよ。
「調子に乗ると本当に幼子同然と変わらないのですから。」
「昔からそうだったので?」
「初めて会った時の方がまだ幾分か落ち着いていた気がしますがねぇ?」
『…まぁそうだったかもしれない。』
昔はもっとおしとやかだったよね?くうねぇ。
ええ。そうですね。
「今では想像しえない程には。」
「ほぉ?それは見たいものですね。」
「開いた口が塞がらなくなりますよ。最初から見たら何となく呑み込めますが。」
急に見たら困りますよ。
「お二人共彼女とはご家族の者ではないのですか?」
「まぁ義理の姉には入りますかね?」
『ぶっ』
「これ汚い。」
貴方が変なことを言うからでしょうが…!!!!
「おや、違いました?何も間違っていないと思うのですが。」
『…まだ婚姻もしてませんよ。』
「あんなの口約束に近いでしょう?それとも形として受け取られた方が宜しいので?」
『あっすみませんでしたお姉様頼みますからそれだけはどうぞご勘弁を。』
「ふふ、よろしい。」
「…どんな関係なんですか。彼女達。」
「聞かない方が宜しいかと。」
あっそうですか。
そう流れるように食事を再開した二人達を他所に
メルとクスもまた、同じ様に食事をとる。
近くで採れたサラダがとてもみずみずしくて美味しい。
この地方ってドイツ方面だからか知らないが、サラダ系が非常に良いのだ。
日本の方だと流通系で賄っているだけだからな。自生という訳にはいかない。
その代わりこっちの方の肉や特に魚は考えない方が良い。
コメが恋しい。帰ったらお米を炊こう。コメをたけ。コメを。
「それにしてもどちらに向かって旅をされていたんですか?私が知っている範囲内ならお答え出来ますが。」
「それは」
『この地に花を持つ者を探していまして。…似たような人を見かけませんでした?』
例えば、そう、青い髪色を持った青目の女性に会わなかったか、なんて言った似たような方に聞かれたとか。
「これ」
「会いました」
「っ!?!?」
「その時は怪しかったので警戒してお引き取りしましたよ。
二度目だったのでさらに警戒しましたが、貴方の姿を見て何となく察知しました。」
此処には結界も念の為張っています。彼等が来ることはないかと。
…用意周到ですね。
「まるで我々が来るかのようにもお見受けしますが。」
「これをみたら分かると思います。」
「これは?」
「古い書物です。どうぞ。」
そう言って手を出されてノートを開いたカンパーリが声を上げる。
何々と食べ物を食べ終えたメルらもちらりと中を盗み見て、メルの身体が止まる。
「…これは」
「輪を持つ者、花を携え一瞬の時間を願う者。
その者永久を知り、刹那を分かち合う者。」
『ふぇる』
「…エフェメラル様」
頭の中に誰かが入ってくる。優しい子。緑色の深い髪色を纏めた子。
良い子ねと言って笑ってくれる、その目は何処までも優しくて。
「もう数億年以上もの昔に記された書籍です。コピー本に近いかもしれませんが。」
「そんなものが…」
「輪を持った者に出会えば天に召され、その地は崩壊へと結びつく。」
「…それなら我々が来たとしれば」
「間違いなく戦争になるでしょうね。」
『…出よう。』
「メル様」
『だって戦争の種になってるんだよ、私達。』
それなら彼等の幸せは、私達が居ないことを示しているようなもの。
一刻も早く見つけ出して消えた方がいい。
書かれていた書物は、かつて自分が作ったであろう一つだったのだ。
描かれたその場所は、大地が歪み、世界が混ざりあう中。
12の星の中に3点の星、更に中に2つの混じった緑と青の光を束ねる一人。
黄金の草花を生やし、冠を携える、輪を持った女性が
杖を持っている姿も見える。それは、この先を記したかのようにも見えて。
『…参ったな、ほんと。』
「処分致しますか?」
『いや、コピーが出回ってる以上は無理でしょうね。
それに、貴方の大事なものを傷つけるなんて私が許さない。』
「メル…」
『シナリスさん、でしたよね?』
「え?ええ…」
『コレは何処で入手されたものですか?』
数億年以上昔の本を此処まで原形を保って保管、だなんてこの地で使える者は二択。
『貴方、古代魔族の末裔ですね?』
その言葉に顔色が変わる。やはりと目を細め、杖を取ったメルに対して彼女も距離を取った。
かたりと席を立ったカンパーリにメルは片手で制する。
『人間の中にも魔法族と無族の者達が生きている筈です。
魔法族の中でも古代に生きていた神と悪魔を司る古代魔法族。
確か彼女が生き残りで、他には絶滅していたと噂を聞いていましたが…』
「何処の話しかは存じあげません。」
「バレた以上、生かして返せれない、と。」
『んん、おかしいなぁ。』
そう困るメルに、何をとクスが聞く。
『いや確かフェルが古代魔法族の末裔で
彼女以外は絶滅したって聞いてたんだよ。
だから私色々とお話を聞いては
メモを取って書き記していたんだ。
それがまぁこの本って訳なんですが。』
そう言ってメルはコンと音を立てて片手に本を一度ノックさせてみる。
『もし仮に貴方が古代魔法族だとしてもよ
心は純粋で穢れも無い、警戒すら知らない種族の筈。
まぁそれだからかフェルは人に嫌われ距離を置いて
魔女とも言われて遠くにいたんだろうけど。』
貴方の場合、少々面倒なことですらなさそうなのが、おかしいよね。
『神と同等の持ち主だからこそ、私達が見えて話しが出来ている。』
「…とりあえずお二人共杖を降ろしなさい。警戒されてどうするのです。」
『そういうクス姉様も。』
そう言ったメルにため息を吐いて杖を飛ばして消し去ると
メルも杖を同じ様に飛ばし消し去って立ち尽くす。
「…ほんとに、この本を、作った人?」
『何なら用紙とペンを用意してもらっても?描いてあげる。』
似たような絵になれるかどうか、分からないけど。
もう少し上手く描けそうなんだけどねぇ。
「…はい。」
『ありがとうございます。』
多分このままこうやって描くと〜〜〜
…ほぉ、お上手ですね。
「アタリを付けてそのまま使うんですか。」
『消すなんてことほぼほぼしないからね。』
「これで証明されましたか?」
「…いやただ模倣して作っているだけでは。」
まぁそれもそうか。そう笑ってペンを降ろすメル。
いつの間にかその用紙にはメル自身の絵だけが描かれていた。
それもお茶目に。ウインクを付けて。
『ご馳走様。食器はこっち?』
「ん?あ、ああお粗末様っていいよ!わたっ」
「余り無理をなさらないで下さい。彼女のご面倒は我々が請け負っておりますので。」
『ちょ、ご面倒って…私幼子違うんだがなあ。』
「割と間違っていないと思うんですが。」
えーそうなの?
そうですよ。ほら前向かないと食器割りますよ。
そんなっ
メル様?そう低い声が聞こえてすいませんとしょげる声で答える彼女の声に
カンパーリがクスリと彼女、足を痛めているであろうこの家の主シナリスと笑ってしまった。
++++++++++
お風呂も借りて、部屋もお借りしてもらい、現在日本時間で深夜の1時を過ぎた辺り。
メルはぱっと目覚め、部屋の外にいたカンパーリに目配せした。
明らかに居る気配はしない。でも嫌な予感が的中するものなので。
「…何か気配が?」
『予感だけ。』
「…わかりました。念の為彼女らを起こして参ります。」
お姉様は?
実は一緒に寝てました。割と元気ですよ。
…すみません。
そう困ったように答えるカンパーリ。
天使らも一応寝る様になったと同時に寝相も天使それぞれ。
クスは日によるが寝相が悪い為、それで起きたのかとカンパーリが想像して謝ったのだ。
まぁ間違ってはいないが、それで起きた。
…だけではない、と言う事だけは確かだ。
『…参ったな。予想以上に向こうも焦ってるのか?』
カンパーリが起こしてくる間、メルは顎を手で触りながら唸りつつぼやく。
現在これでも3人目になる彼女のことを、見つけて火炙りにしに来るとは思えないが。
外の様子も怪しく感じる。メルは杖を出して範囲を振り絞り警戒をあらわにする。
こういうのは敢えて誘き寄せた方が良いという者。
『…ごめんね、二人共。』
二階の窓に足を掛けて、メルはそのまま地面に降り立ち前に走り出す。
草木をかき分け、杖を仕舞って地面から木々に移ってから低い声を上げた。
『…そこら辺に居るんだろ!!!姿を現したらどうだ!!!!』
「…流石にバレていましたか。」
ギッと睨めばニヤリと紫色の目が細まる。
その姿が、夜闇で狩りをする梟の様にも光って見えて、
怖さはあるものの、メルの中ではその怖さが
それ以上大きく膨れ上がることはなかった。
『何を望む、何を願っている。
しゃらくさいことをしおって
…地獄に突き落とされたいのか?』
「随分とお怒りですね…我々が何をしたと?」
『付きまとっているだろうが。現在進行形で。』
「それは貴方がふらふらと出ているからですよ。」
『出ているも何も廻廊中だということが分からない?』
「はぁ…一体何を言いだすのかと思いきや。」
そう樹の上で立ち尽くすメルに対し、
同じ様に樹の上で立ち尽くし
首を横に振ってこたえる者、カンパーリが告げた。
「誰も居ない処で何を見ているというのですか。」
…誰も?何を?
『…お前ら、馬鹿になったのか?それとも馬鹿か?』
「何唐突に貶されねばならないのですか。」
「カンパーリさん。一種の夢遊病者に何を言っても無駄と言う者ですよ。」
夢遊病?いや、待て待て待て待て。
『私が?いやんなことあるわけが』
「では問います。彼等に天使の輪であるものはおありで?」
『あっ、て…』
あれ?でも、途中から輪なんて、何処にも…?
迷いだして下を向いたメルに続き、ふわりと風が巻き上がる。
上から声がする。いやな予感が胸元で、咲いた。
咲いた、咲いた、チューリップの、花が。
真っ黒な、チューリップの、花が。
並んだ、並んだ。赤・白・黄色。
「其処には居ませんよ」
『…じゃあ何処に行けば会える?』
「…え?」
『何処に行けば彼等に会える?彼等は模倣?だとしたらソレを消して現実に引き戻すのが貴方達の役目?』
「それは」
『天使は中立。いかなる場合に応じても。…戦闘は厳禁、でも可能なのは?理が書き換わる存在を抹消するために?』
「メル、様?」
『何処が本当かも、誰が真実を知っているかも、もう、私には分からない。』
「っなら尚更です!!もうこれ以上は危険です!!!貴方はもう分かっておられる筈です!!」
そう言ってカンパーリが声を荒げてメルの腕を掴み説得するが
メルは聞く耳を持たない。目が座って、敵意を向きだしている。
「…、このままいけば戻れないで後悔するのは貴方の方ですよ?」
『だから彼等を殺せと?お前らが出来ない尻拭いを、この私がしろと。』
「そうは言っていません…!どうか気をお鎮め下さい!!」
『彼等に見つかるから?それとも私が気付いていくのを知られたくないから?』
両方か。黙るカンパーリにメルの目が細まると、そのお呼びである彼等が姿を現した。
「メル様…!!!」
「…彼女を引き渡して頂きましょうか。」
「…時間ですよ。」
「はぁ…今回は引き下がります。ただこれだけは伝えておきましょう。」
そう言ってカンパーリが浮遊しながらクスと共に空へと舞い上がりいう。
「…ソレを進めたら、もう、二度と会えなくなることを。」
その言葉を置いて、彼等が消えて居なくなる後、メルはごめんと言って前を向いて固まった。
瞳に映されているのは、股の間からオレンジ色の花が咲き誇っている姿で。
急いで走り出したメルが彼女の肩を掴んで何をと叫ぶ。
「ごめん……思い出して。」
『……っ、!!!!』
「帰ろう。」
++++++++++
…華よ神よ魔の者在ろうとする存在よ、
今こそ儚き願いを継げ、代償与えて、お願い聞いて。
”彼女の知る私を教えて”
そう告げたと言うカンパーリに対し、
何も言わずに項垂れ続けるメルに声を掛けたのはクスだ。
「メル」
『…分かってる。コルン様を呼んできてくれる?』
「…ええ、」
ぱたりとドアを閉め、行ったのを見てカンパーリが声を掛ける。
「彼等に何を言われたのですか。」
『知らなくていい』
「…知られたくない、の間違いでは?」
『…』
「おお怖い、そんな見つめないで下さい。」
私は敵ではありません。
『…はぁ……私が夢遊病者だと言ってたんだよ。』
「…は?」
『だから夢遊病者。分かる?』
「…いや、存じ上げておりますが…またとんでもないことを言われましたね?」
だから困ってるんだよ。
『可能性がゼロではない。』
「…何か心当たりが?」
『華樹の性質は知ってるね?』
「ええ、どんな願い事でも一つ叶えられるとか。」
『大元はね。では…この世界そのものが夢幻だという可能性は?』
「…まさか、誰かがこの世界ごとを願ったとでも?」
ですがそんな大きな願い、叶えられるわけがないでしょう。
それが叶えられる可能性があるんだなこれが。
「というと?」
『華樹である者なら何でもねぇ?』
「…あのお方に直接願いを?ですがそれこそ不可能極まりないことでは?
そもそも彼女が生きておられたとしても、その地に辿り着くことは到底不可能とお聞きしております。」
『そう、神々でも辿り着くことは不可能。…とある呪文を除いては、ね。』
どういうことですか。
『華神らは特殊な呪文を扱うことは知っているよね?』
「ええ、何度も組手をして色々経験しておりますゆえ。」
『勿論この私も貴方に何度か繰り出したことはある。それってさ、何処からの派生か分かってる?』
「…誰かから借りている力だと言うのですか?」
『もしそれが可能ならば、彼女らの力が、どんな状態でも繰り出せるって説明成り立つのでは?』
いやだとしても。
「それは偶々技術が身に付いただけであり、それとこれとは話が別ではないのでしょうか?」
『華のエネルギーを使って、いや違うな。華その者の種自体が華樹の力その者。』
根源のあるべき者の詠唱を使えば、そのものの地に辿り着くことは容易。
『そして依り代があれば、この地に君臨させることさえも、ねえ?』
「…まさか彼等の狙いは」
『そう、私を依り代とし、華樹その者をこの地に君臨させ、新たなる王を作り出すこと。』
「それが事実ならば、会議ものですよ…!!!!」
何故今まで黙っておられたのですか!!!
いや、流石に証拠がない以上言っても無意味じゃん?
『かと言ってあの感じ、夢遊病者としたらこの状態がおかしいことになる。
勿論嘘の可能性だってあるから気にしちゃ負けなんだろうけどね。』
「…百歩譲って依り代となったとしても、貴方はどうなるのです。」
『まぁ事実上の死を遂げるでしょうね。』
それは、彼が到底許すことはないもの。
『だからこそ、探りを入れるんだよ。…ねぇ?コルン様。』
「…大体の話は聞きました。それで?私に何をお尋ねしたいと。」
『惑星ロスフェリに生きていた魔法族の末裔について。』
「……随分と突拍子もなしに言いますねえ?この私にその情報を渡してメリットがおありと?」
『あるよ。』
それはそれは。
「お聞きしましょうか。」
『君は私の予想通りになる。そしたら君の目標は達成したも同然になるだろう。』
「…私の目標?私が何時貴方に告げたので?」
『ルトラールから私の面倒を見る様に言ってたでしょう?強くしてやると。』
「それはお聞きしましたし、受けましたが」
『最終地点に行けば必ずそうなるという予想が当たるんだよ。貴方の返答次第では、ね。』
そう言ってメルはそっと左下を向いて答える。
不安なのだ、これが真実になるのが。恐ろしくて嫌になる。
でも、間違いなく当たっている。
どうか、嘘でもいいから、
違うと言って欲しいのに、きっと言わないから。
貴方は優しい。天使様であるのだから。
『…最後の華神である者の名は?』
「…そんなの、フェル様に決まっているではないですか。」
何を今更そう言ったコルンが固まる。
ぎょっとして固まったのは、メルの姿だった。
「っちょ!!めっ、な、ほ、本当にどうされたのですか…!!!」
『そう…それだけでいい。』
「よくないです…!!…どうして泣かれているのですか。」
ボロボロと静かに泣きだしたメルを見て驚きはしたものの、
すぐに足元に膝を立ててハンカチでそっと涙を拭ってやる。
するとメルは首を横に振って違うと言う様に否定し、
そのハンカチを持っていた腕を片手で止め、
返す様に前におしやった。
この涙の理由なんて、よくわからないに決まっているじゃないか。
『いいって』
「よくありません、貴方は何時だってそうです。
肝心なことはご自分で考えて走り出す。貴方の悪い癖です。」
『なんで』
「なんでって…」
『いつも言ってるじゃん、ちゃんと、考えてって』
「…それは貴方が変なことを仰るからです。
言わなくても良いことをツラツラ並べたてるから。」
ソレは寧ろ言わないといけないことでしょう?
「奥に押しやって爆発した時、貴方は笑って前を向いていられますか?」
そう言えばメルは首を落として少しだけ横に振る。
「…なら言って下さい。言えないなら人を変えても構いません。
何でしたら聞かなかったことにもして差し上げましょう。」
『そんなに?』
「ええ。そんなに。」
『……知らないの。』
「何をです」
『ふぇるって、だあれ?』
その言葉にコルンの目が見開いた。
固まって目をぱちくりとさせた後、
だ、れとはと言葉が止まりつつも返答を返す。
「…あなた、忘れた、のではないのですか?」
『分からない』
「わ、わからないって…」
『普通記憶を忘れたら、其処だけがくりぬかれるでしょう?
でもないの。くりぬかれた穴ごと、存在しないの。』
ねぇ、前にもあった。ミラって子。その子だけじゃない。
他の子も、名前が分からない処か知らない。話を聞いても、分からない。
『まるで今居る華神らに上書きされたみたいに』
「…っ!!!」
『ねぇ…怖い、怖いよ、こるん。』
「…大丈夫です。貴方が忘れても、
彼女らが寂しがるなんてことはありません。」
寧ろ笑って初めましてと言い出すでしょう。
でも、そう言って泣き出すメルの身体を優しく抱きしめ、背中を叩いてやる。
何時しかメルがコルンにしてやったようにしているのを、彼女は知らない。
これが、初めてだと、思っているのだろうと知ればコルンの胸が少し痛んだ。
「大丈夫、大丈夫です。」
そう言い聞かせてやるしか、術が無かった。