永遠に冷めないスープ
そんなこんなで修行も進み、現在はというとだな。
「そんな顔をしても駄目です。」
『むう〜〜〜〜〜』
「駄目です。」
「駄目なのか?」
「駄目に決まっているでしょう。何考えているんですか。」
「ん?何を揉めていらっしゃるのです?」
嗚呼ウイスさんですか。
「聞いて下さい。メルが彼等が喋れるようになったんだから一緒に寝たいと言い出したんですよ。」
「別にそれくらい許して差し上げればいいのでは?」
「そこを許せば今度は風呂にまで連れていくとか言い出しかねませんからね。」
『む』
「ほれ図星でしょう。思った通り。」
駄目ですからね。人形とは言えどもちゃんと人格があるんです。
「百歩譲ってヘレス様は許容しても構いませんが
人形の状態で綿の中迄水浸しになってごらんなさい。
溺死させる様な状況下に陥れるつもりですか。」
「…そうなるのか?」
「可能性が無きにしもあらずということです。」
「メル、やめよう。こんど、な?」
「ヘレス……」
お前見ないうちに潔くなったな?
黙れ!!!
「メルのことをなんも分かっとらんからそういうことが言えるんじゃ。」
『うっへれすう』
「うっ……」
「痛みに付け入られていますよ。貴方の破壊神。」
「はぁ……勘弁してくださいよ本当に。」
もう少しの辛抱ですから。
「このまま順当に事が進めばいずれこの者達も元の姿に戻るはずです。」
『…私がそう思わなかったらどうするの?』
「それは貴方が
だとしても書き換えることなどコツさえ掴めば容易な筈でしょう?」
今回は落ち着いて下さい。頼みますから。
そう言ったサワアにメルは渋々応じることにした。
これ以上模索しても今は収穫が無いのだ。
華と音、決められたルールに基づいた、その基盤。
頭がごちゃごちゃして苛立ちもあるのは充分分かっていた。
「流石に我々、例えこの私だとしても。
貴方のお気持ちを全て汲み取ることは難しい。
…だからこそ、今一度、冷静になって頂きたい。」
これ以上、狂わず、踏み外すことの、無いように。
そう言ったサワアに気付いてメルは顔を落とす。
その姿はビルスらから容易に見て取れて。
「(…いつもお前はそんな顔をして反省していたのか)」
場所的にも、身長的にも、俯いたら顔が見えるわけもない。
仮に見えたとしても、それは一部分であって、全ては見えない。
メルはなんだかんだ言って彼等のことが大好きであって
素直に聞いてくれる、いい子であるのだ。
誰かに言われて怒ることもあるだろうに、
へらへらと笑って流したりしている癖に、
心の中では人一倍努力して、傷付いて…
そうして、受け止めて前を向いて来てくれる。
だからこそ、この天使らはメルに対して
精一杯の恩情を与えているのだろう。
破壊神らも知らない程には、敬意を表して、だ。
「…ほんと、羨ましいったらありゃしないね。」
『ん?』
「だな。」
「全くじゃなぁ〜。」
『あれ?お三方何の話?』
「「「なんでも?」」」
そう声がハモってしまったことに、メルが笑い出せば
ビルスらもクツクツ笑いだす。ひきつられ、困った様に天使らもひと時笑ってしまい、終わりにと一人が声を上げた。
「ではこのまま訓練を始めましょうか。メル様そちらの方々を彼等にお渡し願いますか?」
『はぁーい。良い子でいてね?』
「誰が餓鬼みたいに接しろっつった。」
『やーんかわいい〜!!』
「ちょ、馬鹿!!こら乱暴にするな!!!」
偉いんだぞそう言うビルスに偉いの威厳も何もへったくれもありゃしないではありませんかと
ウイスに言われてぎくりとしつつもメルから受け取る為に両手をそっと前に出してみる。
そうすればメルとて渡さない訳にもいかない。
ウイスにハイどうぞと両脇にヘレスとリキールを抱えつつ渡すと
それに続いて此方にとサワアがメルからヘレスをもらい受けることに。
「おい」
『えへ』
「何考えてる。」
『ねぇコルン様〜』
「なんです?」
『コレ持ったまま戦っても?』
「……成程、そういうことですか。」
「おい」
「制限時間は?」
『大体3分程で。』
「ウイスさん」
「は〜い♡三分設定致しましたよ〜。」
もういつでも。
そう言うウイスに、おいコラと話を聞けと言っても
二人して聞かないのに嫌な予感が的中することになる。
『っと』
「うわ!!!」
「流石に避けられますか。」
クルリと回して開始したことでか、
それともコルンが先にしかけたことで開始したのか
其処ら辺は分からないが、それでも……
「ちょ、おい!!!」
『ははっ!!コル、んっ、さま!
あっまい、じゃ、ない、ですかっ!?』
「そう、いう、貴方こそっ…隙がありますよっ!!!」
『っぴゃ〜〜こーっわ!!貴方の破壊神様殺す気ですか!!』
「貴方が言い出したことですよ。これも技の修練です。」
どうかお覚悟を。
そうにやりと笑った彼に続いてメルもニヤリと笑って見せる。
いつの間に此処まで似た者同士になったのやらとリキールは
メルの腕の中で考えつつ、この時間が早く過ぎ去ることを祈るしかなかった。
少なくともこの身体、破壊神とそう変わらない程の露出なのもあるのか知らないが
「(くそやわっこいな…こいつ。)」
そう、リキールが一番困っていたのはメルの腕の中という点だったのだ。
特になんだかんだ言って恋仲であるサワアに目を付けられたくはないのだ。
如何せん破壊神とはいえど、天使らに勝とうとしてまで挑む心は持ち合わせていない。
と言うか奪うつもりもないし、フェル自体戻って来てさえくれれば
正直言えば、こっちはどうとでも良いという者でもあるのだ。
なので協力関係はまだよくても敵対なんて以ての外である。
変なことを考えさせられるくらいならば
距離を離すのは誰とてする行為であろうが。
この天然お嬢ちゃんはそんなこと考えることすら毛頭ないのだろう。
なんならコルンから逃げる度に身体の距離が近づいて
今現在はほぼほぼ胸元にくっつけられているも同然で。
「(…アイツ、絶対ワザとだな????)」
コルンににらみを利かせてみれば、ニヤリと笑ったことで確信を得た。
もうこれはメルが気付いて恥じらった瞬間に足を掬う魂胆なのだろう。
非常に遺憾だが…まぁ、役得と言われたら役得ではある。
身体つきが昔よりもまだ見て心配しない訳でもないが
それでも程よくなりつつあるのは間違いない。
と言うか、もう今でも十分なくらいにはふわふわしている。
女性とこう比べるのは悪いかもしれないが、
ヘレスだと鍛えている分もあって割と固めではあるが弾力がある。
それは女性特有の柔らかさがあってからこそなのだろう。
対してメルやフェルは鍛える処が違う。
そもそもヘレスみたいに破壊を目的とした活動でも
戦闘を我先にと出るものでもない。
加えて付き人のサワア自体が余り筋肉質を好まない性格なもので
女性に付いている時点で彼も好都合があったのだろうとは思う。
「(まぁお嬢ちゃんが良いなら別にそれで構いやしない…が、うん。しない。)」
メルが訓練をこうやって積んでいるのはあくまでも上に位置するから。
勿論フェルらも破壊神と同様の形であれば尚の事経験は積むべきであろう。
だが、彼女らの位置は本来大昔に位置する場所であり、現在は自分達が請け負っている場所。
変な話仕事を渡して別の仕事を見つける旅に出るくらいして欲しいものであって。
まぁ、其処ら辺は彼女ら華樹神らの考えることだから首を突っ込むわけにもいかないが。
動きが本当に見ていてよくなったとは思う。
筋が良いとは思っていた。
何度か戦ってみてはいるが、教えてやれば
コツを掴んでいけば応用を自分で取っていくのも早かった。
その上素直で言う事を聞く良い子なのだ。
そりゃあコルンも気分が良いモノだろう。
…まぁ、そんなのは最初だけ、とも思ったが、どうやら違うらしい。
組手を見ている限り、お互いに考えつつ次の一手を模索している。
メニューが前よりも変わっているとはいえど
何だかんだ言ってコルンは身内に甘いところがある。
「(こればっかりは相手に恵まれたと言うべきだろうなぁ)」
メルはとてもいい子だから。故に、彼等にも恵まれるのだろう。
もしくは、彼等を書き換える程の、純粋さを持ち合わせているのか。
いずれにせよ恐ろしい子なことこの上ないものである。
いやだとしてもだ。
「(もう少し場所を変えることはしないのか)」
「ところでつかぬ事をお聞きしますが」
『っなに』
「守るのはいいですが、余り乱暴にしては守り切れないと思いますが?」
『へ?』
隙が生まれる。きょとんとした顔でコッチを見て此方も流石に驚いた顔をしたが、
ふわりと舞い上がった風の中、その一瞬を俺は逃さなかった。
「っ」
うっすらと、青い瞳の奥に、金色の色が光った気がした。
まるで「今は気付くな」と言われている気がして、怖くなった。
破壊神ともあろう、者が、だ。
『っわ!!!』
「勝負あり、ですね。」
「全く、相変わらず隙があるんですから。」
『えへへ』
「(違う…お前、ワザと、じゃ、ないのか…???)」
本当はあれくらい避けられるし、防げる筈。
なのに、しなかった。なにも、しなかったのだ。
まるでこの時間を、嗚呼、そうか、そういうことか。
ならば、尚更、お前と言う奴は……
「救われないな」
「何がですか?」
「いいや、なんでも。」
受取りながらぼやいたリキールにコルンが聞くも応えないのに首を傾げる。
メルは気付いているのだ。このエンドロールの最期がどうなることかを。
だから、気付かれるまでは、どうか、その時間を噛み締めていたい。
いつか来る、その最後まで。
それまではどうか、甘えさせて欲しいというのだ。
もうとうの昔から、甘えるなんて望んでいなかったというのにも。
それでも、お前は。
「報われないことばかりだな」
「…リキール様?何かおかしくなったので?」
「…そうだな。少し、な。」
当てられたということに、してやろう。
そうリキールは誤魔化してからそれ以降は口を開ける事などしなかった。
++++++++++
お人形さんの時間が過ぎるのは早い。
メルは昼間っから資料を片っ端から集めて書類を生成し
コルンに右へと渡して一通り解読させていた。
「何してるんですか。」
「見てわかりませんか?解読してるんですよ。」
「…いや本当に何してるんですか。」
そう二度も聞いたのはモヒイトである。
メルが、と言うよりかはコルンがやけに遅いと思って探しにきたらだ。
担当であるウイスの姿が見えない上にコルンが隣に居たのが驚いた。
「彼女が書いた用紙は基本的に消えてなくなりますからね。
解読した上で清書して差し上げているんですよ。
この子なんだかんだ言って頑なに神々の言語を使わないんですから。」
『だって日本語ってやつの方が何か身体に染み込んでるんだもの。』
仕方がないでしょう?
「仕方がない訳ないでしょうが。コレを機に神々の言語を書けばいいでしょう?
それに私が教え……嗚呼、ひょっとして分からないから書き記しているので?」
『うぐっ』
「そうと言えば教えて差し上げるというのに。」
『…だとしても、私が書いたものが消える時点で駄目でしょ。』
いつこの記憶もなくなるか分からないのに。
「だから無駄だと?」
『…ん。』
「そうは思いませんがねぇ?」
『え?』
「素直に受け止めてくれる貴方だからこそ。
何度教えても良いと言ってくれるのですから。」
「モヒイトさん?」
「おや失礼。余りこういうことは教えて差し上げない方が宜しいので?」
そんなことをなさるから、彼女に引かれるんでしょう?
うっ…
「…師弟が仲良くし過ぎると厄介でしょう。」
『そうなの?』
「そうらしいですね?まぁ言いたいことは分かりますよ。
余り甘やかして此方を舐めてかかられると困りますし。」
『…べろべろばぁ?』
「メル様????」
『あっ違う……』
「これくらいの知識で仲良くしたらどうなるとお思いで?」
「…嗚呼成程。」
何が成程!?!?!?
「まぁ言いたいことは分かりますが…そろそろお時間ですよ?」
「もうそのような時間ですか。
…いけませんね、最近時間を忘れてしまいます。」
「いえいえ、それ程没頭出来るとは良いことだと思いますよ?」
「おや、もういかれるんで?」
「ええ、時間だそうですので。それでは。」
『ばいちゃ〜〜〜!!!』
そう手を振るメルにコルンはぺこりと
軽く会釈してからモヒイトと共に席を外す。
そんな中、ウイスがコルンの座っていた位置に座り込んだ。
「何を書いておられていたので?」
『……此間言ってた例の件。』
「…嗚呼、成程。」
コソコソと話し出したメルに続き、ウイスも似たように喋ってやる。
この話は大神官にすらまだきちんと説明をしていない話であるのだ。
メルがどの位置に居るのか、そして華神らといい華樹神ら、理を含めた
この神々が一体どういう位置に立っていて、それがどう変わるのか。
色々と壮大な形に変わっているが、真相が突き詰めていけない以上
説明のしようもない、というものなので、ね。
報告以前に纏める処か、情報を確立してから話を纏めないと
話すにも話せないというもの。
「それで、何かお判りに?」
『…めどは立った。でも判定が難しい。』
ひとつはメルが指揮者であるということ。
コレが正しければフェル達、前に居た華神ら全員を
忘れ去っていく理由も何となく分かる。
だがそれなら全員一気に忘れてしまえばいい話であるし
そんな尾を引く様な真似をして
どういうメリットがあるのか分からない。
譜面に描かれたものだとしたらば
余計にフェルらを思い出してウイスらだけでなく
攻撃手段として有効活用できるというものだろうが…
そんなこともないので、未だ此処は不明。
ひとつはメルが作成者であることだ。
コレが一番有力候補ではある。
と言うのもルールを作ることは勿論のこと、
音を束ねて力を振るえるのは記すことが
出来る者が全てを握っているというもの。
だが、華神らの力が何処から来ているのかの判断が出来ない。
仮にメルが作成者だとしたら理が同じ立ち位置なのか
メル自体が違う者なのかの区別が付けれないのだ。
何か、メル自体に区切られた決定打が見つかれば話が別なのだが…
ん?区切られた?
「そういえば、メルさん。貴方前に我々が見えない者とお喋りされていたでしょう?」
『ああマコちゃんのこと?』
「あのお方はどうなのですか?」
彼女が今居る他の華神らや、貴方の対にもなっていそうな
理の一部になる筈のエテルネル達も関係してくるはず。
まぁ対と言うよりかは三角関係と言うべきだろうが、
其処ら辺は面倒なので省いていいことだろう。
ウイスが言いたいのはこうだ。
もしメルがアコマリと同じならば。アコマリが製作者だったらば。
メルは華神らと話が出来ればアコマリもまた、華神らがみえるし会話出来る筈。
だが、それは不可能だった。
現にメルが其処ら辺確かめていたのだ。
次の華神らであるアルカネット達はアコマリを認知できない。
となれば、一つに絞られる。
製作者のみが、華神らの音に触れられるというものだ。
そしたらアコマリが製作者ではないから華神らが知ることは出来ない。
逆に言えばアコマリが製作者であれば華神らはアコマリを知れる。
作った創造主を、知れない訳がない。
もしそれが事実ならば、では理は?
『彼等にどうにかして会える手段があれば…色々分かるんだけどね。』
理が鍵になっているのは間違いない。
ドアの数からして、恐らく音に連ねたものだろう。
初代の音が、そもそも音自体無ければ?
数を数えれば6つ。そして音楽の流れも、6つに区分け出来る。
もしそれが正しければ…それは。
「知らずてよい」
『…マコ、ちゃん』
白い。ただ、世界が白くなる。たった二人だけ。
この世界に息が出来る、二人だけになる。
「お前は早く知ろうとする癖があるな。」
『…私、作る側の人間なんだよね?だから貴方は私と会話出来るけど華神らは分からない。
干渉もなにも出来ない。したらそれは同じ位置に到達してしまうから。』
「…ほんと、賢いなあ?お前は。」
やはり此処は合っているのだろう。
『なら教えて。ルールって何?決められた掟ってなんなの?』
「それはお主が作ったことそのもの。お主が想い出すほかはない。」
『じゃあ言い方を変える。…何故彼等は私を依り代にしようとする?』
「…それこそ愚問じゃな。」
お前が知る行為そのもの。
「ルールはルール。守るべきもの。それから踏み外すことはならない。」
『ねぇ、私って何者なの?人間?神様?天使?悪魔?』
ねぇ、貴方って、何者なの?
私達は一体、何処に向かって走っているの?
『もう、分からないの…皆、巻き込んじゃってる。』
例え此処が、楽譜の中にある、音に塗れた居場所だとしても。
『どうすれば正解にいく?どうすれば笑ってくれる?』
「それは、相手が決めること。お前が決めることではない。」
『でも』
「いつだって、正解は最初にある。」
『え?』
「メルさん?どうされました?」
え???そう言うメルにウイスがきょとんとしている。
どうやら時が進みだしたようだ。嗚呼ごめん寝ぼけてたと言って
さらりとウイスの顔を褒めて照れて誤魔化してやれば話が流れていく。
深く聞いてくれない以上、本当に良いこと極まりない。
でも、先程の件で理解出来た。
嗚呼、私は、隣にすら、居させてくれないんだ。
ならば…それならば、その中に、生きればいい。
音に、なって、笑い続ければいい。
嗚呼だから、貴方は創り出したの?
私を、完成されている音楽の中に、一滴、落としてきたの?
いや違う…私の名前が変わればどうなっていた?
花が変わり、感情も変わっていた。
それは、私が名を持つという者であるべきであって。
『(私がもし題名であるならば、何と名付ける?)』
この狂った長い長い、交響曲に、名付けるなら。
その時こそ、私の生きる、理由が分かるというもので。
この旅の最期に、きっと、分かるのだろう。
あの、花冠と共に。笑って居られる、時間に。
生きたい。私、生きたいよ。例え、暮らす場所が違うとしても。
貴方が落とした様に、私だって、落として匿ってやる。
その中で、強く光り続ける、意志を持って。