壁に寄せられたベッド





「ではお気をつけて。」
「ええ。行ってきます。」
『…いってきます。』

そう言ってメルはウイスとヴァドス二人と共に世界に入って来た。
第6惑星アストミット。其処は空が何とも言えない色だった。
白よりの黒いや灰色寄りの白と言うべきだろうか。
白夜とも呼べそうなくらいに明るい空に、時刻は朝ですねとヴァドスが告げる。

「お姉様、此処は一体どのような場所なのでしょうか?」
「分かりません。私もこの地域に足を踏み入れたことはありません。」
『…知らない。』

メル様…そう寂しそうに声を掛けるヴァドスにメルは俯いた。
紙に書かれた言葉に、泣きそうな声を出したのだ。

ーシアージュ、狩人の華神。第6の者。華はアンチューサ花言葉は

『「大事な思い出」すらも、私は、知らないの…?』
「…先を行きましょう。きっと出会う方が
貴方の選んだ華神様でしょうから。」

くしゃりと用紙を握り締めて泣きそうな
声を出していたメルを励ます様にウイスが声を掛ける。
それにこたえる様にメルは頷き、
顔を少し腕で拭ってから前を歩きだした。

この星は直訳で「枝と共に」という意味がある。
文字通り枝には気が込められており、それを加工すれば
持つ者によりけりで杖が出来上がるという。

ある人は剣に、またある人は斧になったりするらしい。

その中でも、杖になり、宝玉が作られるもの。
その出来た宝玉は得意分野を示すと同時に
他の者達とは比べ物にならない程に威力を持つという。

尚色がない宝玉は色無し球と言われ
どんな色も生き写す悪魔と呼ばれるらしい。
なんでも、どんな力も意のままに操れるだそうで。

この星は大きく分けて二つの地域に分かれている。
戦争がはじまりそうで始まらない片方の名はレーテ。
主に孤島が幾つも点在している場所があるもソレは奥地。

星のど真ん中に大きな河川がしかれ
左右を分断するようになっているこの地形。

レーテは草原が青々としており、
水に恵まれて良そうな地域の方だ。
木々もあるが、深い緑の奥には狩人が住み着いている。

狩人のシャスール人だ。弓を創り出すのに特化した種族。
弓を扱い、ただ弓に風を送り込み仕留める者達だ。

対して河川の反対側は草原が黄金色になっている。
その奥地は砂漠になっているが、
奥は険しい山々が広がり、鉱石が非常に取れやすそうな場所
オリンポスとも呼ばれる地域。

其処には魔枝の額装師という者が住んでいるそうだ。
どんな力も絵画のような魔法を使う種族
尚枝は宝玉を司り、必ず色が塗られる。
ただ塗られない者は悪魔と呼ばれ忌み嫌われているそうだが。

一体何処に、彼等の逃げ場はあるのだろうかと言われたら、だ。


「孤島ですか。」

そう此処は孤島。出てきた場所は、
逃げ惑い助けを乞う者達の集まった場所だった。
出てきた場所がまずいなと
メルは直感で感じ取っていたが、それも間違っていない。

というのもメルが今まで何とか逃げれていたのは
何だかんだ言って空間があったからこそ。

此処は空を事実上飛ばざるを得ないので
力を半強制的に出さねばならない。
余り出さないのは今活動している
神々である者達に気付かれない様に。

というのもあるが、それは正直建前である。


本音は違う。


『(恐らく使えば使う程、私の力が強まっている気がする。)』


そう、メルの考えは的中していた。


メルが今力を使えば使う程、
今までの力を書き換えられる状態になっていたのだ。
その為使えば使うほどミラ達の様な
過去の華神らを忘れ去ることは間違っていない。

寧ろ忘れて当然というべき程まであるのだ。


「ん?お前ら旅の者か?見ない顔だな。」
「貴方は?」
「アーディル・ト・キフィル。
アーディルでもキフィルでもなんでもいい。お前達は?」
「ウイスと申します。此方は姉のヴァドスさん。」
「ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう…」
「そしてこちらは」
「メル?」

は?そう声が上がるのは、キフィルと言った者の方だ。

「お前エフェメラルか?」
『っえ?え?え?え?』
「嗚呼名前が変わってるから分からないのも無理はないか。」

そう白いおかっぱ頭を揺らしながら腰に手を当て答える。





「最悪の6魔女、サキョワだよ。」



++++++++++


「いや〜それにしても助かります。
こうもとんとん拍子にお話が進むと我々も苦労しませんので。」
「まぁ…こっちは心なしか困っている顔してるがな。」
『……ほんとにサキョワ?あの、サキョワ?』

あの縦横無尽に人間殺しまくってたあのサキョワ????
どのサキョワだよ。

「アタシで間違いないよ。一応言っておくが、此処は突如現れた惑星だ。」
「突如?それは一体どういうことですか。」
「色々説明すれば話が長くなるから端折るが
メルがエンドロールの向こう側に行った後
アタシ達は軽く旅をしつつこの宇宙を廻っていたんだよ。」

色々の目標が途絶えたからな。
まぁ勿論、メルが死にかけた話は何度も聞いたし
その度に殺しにいってやろうかと思ってはいたがな。

「ルールに則りそんな違反する訳にもいかない。
其処でアタシ達はこの今まで旅をしていた矢先で
気が付けばこの地に飛ばされていたって訳でだな。」
「…要は旅道中で強制的にこの地に飛ばされ出れないから助けろ、と。」

そういうことだ!!!

「アタシは既に華を咲かせている。何時でも飛べるぞ。」
『…こうもサラッと行くのはいいのか????』
「いいのではないですかね?話しが早くて助かりますし。」
「何なら観光してもいいぞ?」
『何この即目的達成したから気ままに観光する県外から来たノリは。』

意味わからんこと言うな。
そう背中を叩かれる。いや理不尽な。

「それにしても記憶がおありとは驚きましたね。他の方達も?」
「其処ら辺は分からん。アタシが組んでいたのはビオランテとモネアだけだ。
カレンデュラ辺りは途中会って以来だし、
なんならアイビーなんぞお前らと敵対した時以来だからな?」
「嗚呼あの時は本当に苦労しましたねぇ。貴方達本当にお強いんですから。」

それはお褒めの言葉どうも?

そうにやりと笑う彼女は浮遊して実家であろう家に入って来た。
一階のみのこじんまりした家がとても広く感じる。

席についていろと言われて遠くに行く彼女にメルは窓からの景色を見ていた。
背後は壁に寄せられたベットが置かれているが、本当に一人暮らしなのだろう。
流石に寝泊りしていくわけにもいかない。此処はある程度収集したら帰る方が無難だろうな。

「どうぞ。」
「ありがとうございます。…美味しいですね。」
「爽やかな香りと味ですね。」
「だろう?茶葉には色々手を出しててな。ニルギリって言うんだが。」
『ぶっ』
「ちょ、汚いですよ。」

いや咳き込みもするだろ。
そんな言葉を聞いて、ふざけていられるか。

『げほっごほっ』

ニルギリとはインド語で「青い山」を意味し、
12年に一度しか咲かない「クリンジ」の花が
山一面に青紫色の花を咲かせ麓から見たら
山全体が青く見えることからその名が付いたもの。

しかもニルギリ地方にしか咲かない神秘的な花であり
その年数と言い名前の意味といい花と言い
驚いて咳き込むのは無理ないと思う。

「大丈夫か?」
『んぐ、っ、げほっ、え、っええ、』

もうこういう言葉は忘れていると思っていたのだが
どうやら私はしぶといらしい。随分と覚えている。
まぁどうせ私の事だし記憶をすり替えたりしているんだろうな。

他の世界で覚え直しをしていたら、これくらいの言語覚えている説明もつく。
咳が無くなり落ち着いたところでメルは声を出す。

『…いやサキョワがサキョワしていて驚いただけ。』
「いみがわからん。」

分からずてよろしい。

ん?というか。

『あれ?ビオランテって言いました?お姉さん。』
「ん?あ、嗚呼言ったが。」
『ウイスさん』
「…ええ、ビオランテさんはお見えになられておりません。」
「は!?」
「代わりにシナリス・マリオットさんと仰る方が居られますが」
「……嗚呼多分それ、先代の名だな。」

アタシと同じ様なもんか。
先代?

「どういうことです?」
「アタシらだけでない。お前達で言う処の最果てや引継世代の人間達だ。
奴らも似たように全く違う名前を持っていたはずだが?」

それと同じ様なもので、アタシ達も前に名を持っていた。

「華を持つことで名が変わり、まぁアタシ達の場合は
咲狂い魔女になって事実上一度死んではいるがな。」
「華を持つ前の名、ということで?」
「そういうことだ。それにしてもビオランテが名変わりしたとは…。
正確には名戻りか?まぁ帰って話をしてみんと分からんな。」
『ほあ』
「ついていけてるのか?こいつ。」
「すみません、我々とて色々ありましてね。」




「はぁ!?!?!?華樹に会った!?!?!??」

それも、今までの華神ら全員記憶から外れてるだと!??!?!!?

「お前それ本当ならとんでもねぇことになるぞ!?!?!?」
「というと?」
「ちょっと待て、多分それならアタシ達が書いた奴は消えない筈だ。」

そう言って慌てて部屋に戻る彼女に、三人は首を傾げて待っていると
忙しなくドタバタ音を立てながらドンと音が鳴って次の瞬間ドアが開く。
どうやらドア自体に突っ込んで来ていたらしい。其処迄焦るか。其処迄。

「此方は?」
「アタシが旅してきた日誌だ。あ〜〜いつだったかなぁ〜〜〜。」

あったと言って出てきた言葉に、メルはピンとこない。
ただ、二人を除いて、だ。

「…サキョワさん?貴方コレを何処で手に入れ、いや言語をお知りに?」
「大昔の言語だからな。一応これでもアタシは
お前達の兄弟でいう処のサワアってやつと同世代だぞ。」
『わあ同い年だったの!!!』
「おう!我が兄弟よ!!!」
「違うでしょう。」

事実上は。
なんだよけち!!!

「いやケチとは…」
「それでこれは?」
「嗚呼そうだった。色々華神らの話が飛ばされてないか纏めていたんだよ。そこで面白い話を聞いてな。」
『面白い話?』
「嗚呼。この世界は大昔華神らが華樹神の命により宇宙を束ねていたという話は知っているな?」
「ええ」

その頃は未だ天使らの管轄外であるもの。
色んな事情を知っているのは天使でもサワアとクスの二人だけだ。

「その前、理が続けて入れ替わっていた時に一つの伝承が伝わっているそうでな。」
「伝承?」
「その者、青き瞳を秘めし者。その者、金色に選ばれし儚き者。」
「っその言葉…!!!」
「数多の糸を束ねしその者、定理を覆さん。」
『ていり…ていり???』
「定理とは成り立つことが誰かによって
既に証明されている命題の事を言います。」
「真の命題、真偽が決まる主張のことを命題といいます。
最初から与えられていて証明する必要性がない命題を
公理といい、公理と定理を使って証明した命題のことを定理と、いう、んですが…」

あの、ついていけてます?
あう

「…貴方に分かりやすく漸くすれば、
定義という当たり前の約束ごとを使って
証明されていることを、定理と言うんですよ。」
『ほう!!!!』

まぁ細かく言えば違いますが…そこら辺は良いでしょう。
いいんだそこ。
いいんですよ、そんなことは、どうだって。

「それよりも定理を覆すということは、
それ即ち定義すらも変える話になりません?」
「まぁなるだろうな。前提の話が変わってくるんだから。」
「それ元も子もないという意味がるのですが。」
「考えない方が良いだろうな。」

まぁ、いい。うん。良くないけど。

「そこで聞いた呪文をある程度纏めている。
ここら辺も持って行くことにするよ。」
「助かります。」
「良いってことよ。」
『あ、これ完成の文章違うね。』
「は?」
『嗚呼これ未完成と合わせて更に加えたら正解かな?』

ほら二つは一つって言うし。
め、める??

『光よりもなお輝きを秘めし存在。それは音速の意味か。
人の視覚には限度があるし、見える光も色も音すらもだ。
清き存在は気の濃度。煌めく金色の永久に居る支配者よかなこれは。』

支配者は恐らく華樹の事を指しているんだろうね。

『古の時より続く樹々の間に埋もれし華の輝きよ。
これは理よりも前にある華樹の中にある華を持つ者に対して言ってるのか。
混沌と秘めし、古の流れに導かれ、せいしん、所謂儀礼を持った者か?』

ここら辺は変えた方が良いだろうな。
そうブツブツ言いながら進めるメルに、手を止めさせたくても止めさせられない。
手が動かない、口が、まるで、声を出すことすら忘れたかのように、言わないのだ。

『幾星霜に連ねた華、流転、逆は静止でもただ止まるわけではない。
ひっそりと、物静かに、ただ因果の輪廻に流されて、移り変わると逆…
清閑せいかんに、万物が流転し、泡沫に、溶け消える、者。』

違うな、違う。万物は流転し、あまねく者、即ち
万物は一であると、共に一から万物が生まれる者。

『一つは、二つ、二つは、一つ。あまねく華の者、万物は。
流転し流れ、過ぎた泡沫、幾星霜。』

その瞬間、メルの瞳が金色に光り輝き、
隠していたであろう輪が突如浮かび上がって来たではないか。

『…光華に続きし、樹々じゅじゅの間に。草木に埋もれし華の輝きよ。
混沌秘めし、螺旋に留まる誓いの者よ。
暁よりも青き者、清冷せいれいよりも尚清き者…?』

『永劫極めし煌めきの、金色纏いし永久の支配者レクトル
我が血に眠りし、金色なりし華の源』

「だめだよ」

『…?』

「だぁめ」

そう言ってメルの目の前に金色の髪色を灯した女性が出てきたではないか。
ゆっくりと、そっと、片手で抱きしめているその隣には…

「っ」

見た瞬間に、意識を奪われてしまう、もので。


++++++++++


「…大丈夫ですか?」
「……こ、こは、」
「気絶したまま帰って来たんですよ。」
「っメル様は!!」

ご安心下さいと言って部屋に入って来たコルンが告げる。

「目覚めてはいませんが、ちゃんと生きていますよ。」
「…っ、よかった」
「そんなことよりも、アレは一体何事ですか。」

あれ?

「もう言いたいことが多すぎて何からお聞きすればいいのやら…」
「ひとまず最後に意識を飛ばす前に見た者ですよ。」

我々は見えなかったもので。
そう言ったサワアにそう言えばと言ったのはヴァドスの方だ。

「青髪、いえ、白い髪を持つ者でしょうか。同じような衣服、
白い衣服でメル様の肩を持って宥めている様に見えました。」
「白い髪、ですか。」
「ええ、確か名は…」
「言わない方が良いですよ。」
「お父様…!!」
「気分はどうですか?」

あんな気を直で受けたんです。多少の不調は出るはずですが。
そんなことは

「…?」
「やはり天使らと言えども万物には変わりない、ということですか。」
「どういうことです?」
「メルさんが告げた詠唱は端的に言えば理という概念を創り出した存在を召喚するものです。」
「つくりだ、え?」
「まぁ驚くのも無理はないでしょうね。貴方方に分かりやすく説明すればそうですね、昔悟空さんって方がいたでしょう?」

嗚呼、第7の、いましたね。

「悟空さんの立場からした私や全王様であるという位置のお方ですよ。」
「っそのような!?!??!」
「メルさんはどの位置なんでしょうか?」
「ウイスさん」
「お父様」
「……それは彼女の口からお教えいただいた方が宜しいかと。」

そう言って背中を振り返る様に動いた大神官の先には
扉の前で少しよろけつつも中に入ろうとしていたメルが居た。

「っと、だから無理すんなって言ってるのに。」
「エテルネル様、それにチェレステ様…!!」
「どうも。どうしても二人に会いたいって言う事聞かなくて。」
「…大丈夫ですよ、私達は生きてますから。」

メルはポロポロと涙を流しながら口をパクパク開けて首を横にふってベットに入る。
ごめんね、こわかったね、ごめんなさい。そう言っているのは痛い程良く伝わってくる。

詠唱した彼女の方が体調も悪ければ意識も朦朧としている筈だろうに
意識が戻ったらすぐに此方に来ていたのだろう。
それを見かねた二人が出て来て此処まで連れて来てくれたと思えば
彼等には世話を掛けたというべきだろう。

「詠唱が完璧だったからこそ下手な騒ぎにもならなかった。」
「…というと」
「あのまま完成させていたら色々まずかっただろうな。」
「まずい?どういうことですか。」
「あの詠唱はこの地に住んでいたであろうお前達でいう全王の位置に君臨していた者達だよ。」

正確には創造主。理すらも、あの地を創造した者達の名だ。

「かつて樹と泉があったという話は聞いているな?」
「え、ええ」
「恐らく二人見えたというのはその二人だろうな。」
「…という、ことは」
「片方はアコマリ様、もう片方は」
『れくとる』
「…エフェメラル…!!!」

その名を言う名と言っただろうと声を静かに荒げだす
エテルネルを止めるのはチェレステだ。

『…ごめ、なさい』
「メルさんが無事ならそれでいいんですよ。」
『……ういしゅ』
「ああほら、泣かないで下さい。」

ウイスとヴァドスが寝ていたその間で腰を下ろして
泣き続けるメルの目じりをそっと拭ってやる。
青い目が、金色の光を持つことは
もう、ないことだけが、安堵の思いに入り浸ってしまう。

「どうしても心配ならそのまま寝てしまわれていては?」
「え?」
「構いませんよね?お父様。」
「そうですね。このままメルさんを引きはがしたら夜中にこっそり此方に来そうですし。」

まぁ来る前に倒れてしまわれても困りますからね。

「数日の間此方で養生しておきなさい。」
「すみません」
「助かります」
『ごめんなさい』
「よろしい。後でお食事を持って来てもらいますから。」

きちんと食べるんですよ?
そう指を立てて言う大神官に
はぁいと幼稚な間延びと手が上がるのに
クスクスと笑ってしまう。

「よろしい。では私はこれにて。」
「ありがとうございました。」

そう言ってペコリお辞儀をするサワアと同じように
ぺこりとお辞儀をしたメルは、
ふぃと皆と肩を落としながら身体を彼女らの間に入れてしまう。

『めまいしゅるう…むい…』
「あれ程の気が放出されたんです。そもそも起き上がって
此処まで歩いてこようなんぞ馬鹿のすることですよ。」
「まぁそいつの言う通りだな。こればかりは擁護できん。」

サワアが言う事に対し、エテルネルも同時に頷く。

「それにしてもやることがまたとんでもないことをしでかしましたねぇ。」
『うう、言わないで…後から波のように押し寄せてる。』
「だからやること成すこと考えてからしろとあれ程申し上げたでしょうが。」

全く本当に懲りませんね貴方と言う子は。
うう、おっしゃる通りなもので。

『だって僕写し者なんだもん〜僕だって二人みたいになれるように頑張ってるのに。』
「…ん?」
『ちょっとヘマしたら皆してグチグチ言うんだもん。』
「…メル、様?」
『華のように華麗に舞う事も出来なければ
水面のように静かに息吐くことだって出来ない。
…僕は何方にも位置しないから?』

透明で、ある者だから?

そう言って枕を抱き寄せぐずるメルの姿は、
いつも見てる青い髪色と青い目色からかけ離れていて…
見ていた者達も固まってメルを凝視するしかできなかった。

透明、本当に、透き通る程には綺麗に透き通っていたのだ。
触れてしまえば其処に居るのは分かるが、それでも、色は戻らない。

メルの目はウイスの方を向いていた。
その目は、何処までも透き通っていて
何処かダイヤモンドのように光を乱反射させた
虹色を思い描かせるようにも見えて。

「め、る…様?」
『…ウイス?どうしたの?』
「ああ、いえ…なんでもありません。」

きっと疲れているのだろう。彼女も、きっとそうだ。
このまま寝てしまえばきっと、朝には元通りになっているだろう。

「すみませんお疲れのようですので、そろそろ寝かせても?」
「…え?あ、ああ…そ、うですね。」
『んえ?』
「おやすみ、エフェメラル。」
『んぁ!えへへ、おやすみ!さわあ〜!!』

軽くウイスを通り越し、軽くメルの頬にキスを落とせば
嬉しそうにけたけたと笑って答える。それに酷く安心を覚えた。
姿が色が変わっていても、彼女は彼女であるものだと、知らしてくれるのだから。

電気を消してやれば、暗闇になる。
その姿が、色濃くその場所を示している。

『…あれ?私髪の毛透明になってる?』
「エフェメラル様」
『ん?わ!えへへ、ヴァドスさぁんくすぐったぁい!!』
「寝てしまわれましょう?」
『え?でも。』
「ほらほら、早く寝ない子はこうですよ〜〜!」
『っきゃ〜〜〜!!!』

ウイスは感じ取っていた。勿論ヴァドスや、
其処に居たサワア、コルン、大神官、エテルネル達もだ。

「(この形こそが、本来のお姿だというのですね…)」

白く、透き通った髪色。ウイス達の白い髪色とは
また系統が違うのもあるのだろう。
メルの白さは透き通っているが、強いて言うなら
色味を強くさえしたら青色に近づくだろうかくらい。

対してウイスらの白さはどうあがいても白は白。
濃くしたら灰色くらいの黒さは出てくるかもしれない程度で
そもそもの色味が違っているからこそ、触れたくなる。

暗闇の中で光を放っているのだ。

引き寄せられるのも無理はない。

いつの間にか髪の長さは元通りになっている…いやそれどころか長い気もする。

「私と同じくらいの長さですかね?」
『そう?』
「…私もそう思っていました。それにしても綺麗な髪ですね。何か違和感あります?」
『違和感。ううん、あんまり?嗚呼でも僕、疲れちゃった。』

うつらうつらとし始めるメルが目をくしくしと乱雑に手の甲で掻きだしたので
流石にとウイスがその手を掴んで止める。

「これ、余り擦れば痕になりますよ?」
『んにゃぁ〜〜!!やっ!!!!』
「ふふ、嫌ですって。」
「んもう…ほら、寝たいならさっさと寝ましょう?」
『ふぁい』

何だかんだ言って風呂は終わっているので後は食事だけだったのだが
ウイスだけでなくヴァドスも正直食事の気分ではなかった。
メルの傍に居るだけで、何かが満たされ続け維持されている感じがして。

空腹すらも忘れさせてくれるのだろう。

ウイスの手を取り、クスリと笑っていいなあと答える。

『ぼくも、いつ、か…お、はな、つくっ、て、くれる、んだ』
「…そうですか。」

作ってくれる、その人に。
僕は僕のお名前を。
呼んでもらう。

「…それが、この地に舞い降りた理由なのですね。」

嗚呼でも、もう、気付いていないだけで叶っているではないですか。
あの小さな箱庭の小さな時間だけでも。いや、その前から。

泉のほとりで天使と悪魔がたわいもない話で花を咲かせていた、あの瞬間から。

きっと、あのお方達も喜んでくれていたことだろうから。