囚人のための病室
枝を取って来て、魔枝を作り終えた辺り。
メルの容態はというと
「…余り宜しくありませんね。」
『髪の毛、戻らなくなっちゃった。』
「…大丈夫ですよ、いずれ戻ります。」
「そうですよ、帰り道が分からなくなっちゃっただけでしょう?」
「待って下さい流石にそんなことで騙される訳が」
『へへへへ』
騙されないで下さい。
そうため息を吐くコルンにはサワアも苦笑いを零す。
「それで、治るんですか治らないんですかどちらなのですか。」
「ちょ、アタシとて出来る範囲が限られてるんだよ。」
「なんです、魔法のようになんでも叶うと
貴方が仰られて居たではないですか。」
「だとしても管轄外過ぎるだろ!!!」
コレとそれとは話が別問題だ!!!
「…占うことは出来る。メル、なんでもいい。
何か一つ考えてコレに触れてくれないか?」
『…壊れちゃわない?』
「嗚呼」
そう言ってメルはちらりとサワアの方を向いてみる。
不安そうなメルの顔を見て微笑んでやれば少しだけ顔色が晴れる。
少し意気込んで、一つだけの言葉を思い浮かべ、目を閉じて触れてみればだ。
パキリ
「っえ?」
『いっ、た…』
「大丈夫ですか!?!?」
血が出て、そういうメルの手に、棒立ちに立ち尽くしていた
サキョワに何か手伝えばとコルンが言うも止まる。
彼女の顔色は、酷いものだったのだ。
「…そだ」
「え?」
「メル、お前、何を想った?何を、望んだ?」
『…駄目だって。』
「在り得ない。そんなの、有り得ない。」
「なっ、お、落ち着きなさい…!サキョワさん、サキョワさん!!!」
暴れ出すサキョワにコルンが腕を掴んで制御する。
だってと声を荒げて言うのだ。
「割れるなんて、そんなの絶対叶わないもどうぜ……っ」
「…サキョワさんはつい先ほど杖を作ったばかりです。」
だから、失敗しただけ。そうですよね?
……ああ、そうだ。
そうにちがいない。そうでなければいけない。
そうでなければ、こんな、こんなこと
『(皆と一緒に、いれないだなんて)』
酷い。酷すぎる。
この最後は、もう、二度といれないのだ。
また、またあの時間の様な時間が戻ってくる。
色の無い景色。味のない食事。
貴方の居ない、私だけの世界に。
戻らねばならないというのか。
あそこが現実で、私は理になれと。
彼と一緒に、充分笑えただろう。
とでも言うのだろうか。
夢を見させたから、現実を見ろと、でも…いう、のか。
嗚呼それなら、いっそのこと、見なければ良かった。
そしたらこんなつらい思いなんてしないのに。
嗚呼でもそんなこと、思わないのだ。
貴方に会えて、私は何よりも幸福で在れたのだから。
彼女達を迎えたくない。
廻廊に、入りたくない。
此処に、生きて、居たい。
そう思っても、時間は残酷で、過ぎ去っていく。
次は6年と9か月。
その間に力を付けなければいけない。
「っ」
『(もっと)』
もっと、もっと、もっと。
強くなって、彼等を守れるようになれたら。
そしたら、そんなこと、ないもんね?
皆と居れなくなるだなんて、そんなの、嘘だよね。
そうだ、きっとそうだ!
これが白昼夢であれば?
「…今日はやめましょう。」
『できるよ?』
「ですが」
『大丈夫。前がみえなくても、動かなきゃ
いけない時だってあるでしょう?』
「…少しでもふらついたら終わらせますよ。」
構えるコルンに、ぐずりながらも応える。
白昼夢じゃない。それなら、何故彼等とこうやって話せるの。
何時から白昼夢だというの。昼間の時間は、何時までなの。
目覚めたら何処に戻るというの。分からない怖い。
カンという杖と杖の音が響き、背後に落ち、
首元に刺さりかける杖の先に其処迄と声が出る。
「上の空ですよ。どうされました。」
『…ねぇ、コレが夢だったら、どうしよう。』
「…在り得ませんよ。」
『でも』
「大丈夫。」
そう言って、前も同じだった。もう大丈夫だって、
また、花冠を交換しよう?って言ったら戻ってしまった。
だから同じことを繰り返さないようにって思っている。
頑張って踏みとどまっているんだよ?
でも、つらい、辛いんだ。
ボロボロと涙を流す。花弁になっていた物が次第に雫に戻っていく。
嗚呼人で、在れるのなら、私はもう、それだけでいい。
貴方の居ない、そんな世界で生きるなんて、もう出来ないから。
だから、せめて夢の中だけでも。貴方と二人きりで、息をしたい。
嘘つき
望んでいない癖に、そうやって、貴方を理由に閉じ籠るのか。
空の中に閉じ籠って、自分が惨めだと言い聞かせて嬉しいか。
こんなのは、辛くない。
大丈夫。
『…うん。』
首に手をかけようとして止める。
こんなことしなくてもいい。
しなくても、笑える。
そう、今は笑えられるではないか。
二度と会えなくなるなんて、いまではない。
だって会えている。こうして、笑って居られる。
『そうだよね、大丈夫。』
右手が痛い。
目をぱちくりとしてしまえば、その場所が変化する。
嗚呼ルールだから。これは、〈ルール〉であるのだ。
『(…戻るのか。こうやって、花冠と時間を想うことだけで。)』
それがルール。私に課せられた、義務であるものだというのか。
一時的に、と思って試しにやってみたら、これだ。
白いベットの上で、白い衣服に身を纏い、目の前の人らを見つめる。
まるで遠い日の夢を見ているかのように、うたた寝から目覚めたかの気分だ。
酷く眠たい。もう、先程まで戦っていた彼の前まで戻りたい気分なのに。
彼等はそうしてくれない。だってこれは〈ルール〉だから。
何度も何度も繰り返される出来事だから。仕方がないのだ。
「おはようございます。随分と眠たそうですね?」
そりゃあ寝ていた処をぱっと目覚めて起きたからに決まっているだろうに。
何をこの天使はほざいているのだろうか。首が座っているようで座っていない。
こくりこくりと頭を上に下に赤べこのように上下へ揺らすメルに
余り揺らすと痛めますよと言われてから地面とこんにちわする。
「おやおや、本当に眠いのですか?」
いや本当に眠いんだわこれが。
誰が目の前に居るのかすら分からないくらいに。
身体を横にしてまるまって目を閉じてしまう。
日差しが木々を伝って差し込んでくるこの時間が気持ちいい。
『…んむ、おね、む…なの』
「ふふ、寝惚けていらっしゃいますね。」
「…本当に寝ているのですか?」
「いえ、一応起きてはいますよ。ただ寝惚けてはいますが。」
春にうたた寝をしてしまうものと同じことでしょう。
…はぁ。
「大神官様の御前だというのに、この態度とは如何なものかと。」
「構いませんよ。」
『…るだから』
「はい?」
『るーるだ、から……だか、らね?ぼく、おき、たの…』
「っ!!」
ねぇ、えらい?
…ええ
「とても、偉いですよ。エフェメラルさん。」
『えへへ、そっかぁ。』
褒めて、くれるかなあ。
そう言ってメルはポロリと涙を零す。
目を開けてしまえば、目の前で見ていた彼らの顔が一変した。
『あれ、でも…だれに、褒めて、貰うんだっけ?』
「…誰でしょうね、それは私にもわかりません。」
それが、ルールだから。
教えられない、ルールだから?
『嗚呼でも、僕覚えてるの。』
「何をでしょう。」
『…僕を呼んでくれた子が居ることを。』
あの人らは沢山のお花を束ねていたから。
なら、僕も、お花を束ねてみてみたくて。
『はなかんむり、を、くれる、子に。』
僕は、会いに来たの。
それが、ルールだから。
僕が決めた、ルールなのだから。
『僕を呼んだ子、どぉこ?』
「それはお答えかねます。」
『何処にも居ないの?』
「それも…すみません。」
『そっかあ。』
居ないんだ。何処にも。
それは、白昼夢の中にしか、生きていなかったのか。
そうヘラリと笑うメルの顔は寂しそうで。
いや、寂しいのではなく、悲しいのだろう。
ボロボロと泣いているのに、口元は笑って居た。
無理に笑って居るというしか他ならない。
居ない訳がない、そうでなければ、出てこない。
それどころか、降りてくる訳すらないというのに。
水面下にしか生きていない、幻の少女。
白い髪色を持ち、キラキラとした
虹色にも見える白い瞳を持つ、彼女こそ…
『でも僕、そんなお名前知らないよ?』
「…は?」
『僕にはお名前が無いのだから。』
無名。それが、僕の名前。
『僕のお名前は僕を呼んでくれた子が。
花冠を交換してくれる子こそが、
僕の名前を知ってるのだから。』
「その権利がおありだと、そう申されているのですね?」
願いを叶えられる権利が。
『…そうかもしれないね。僕は分からない、分からないの。』
神様の願いを叶えられる、唯一の存在。
それが、私だということを、この時私は知ったのだ。
++++++++++
白昼夢
それは真昼に夢を見ているような、非現実的な空想。
それは日中、目覚めている状態で、現実で起きているかのような
空想や想像を夢のように映像として見る非現実的な体験、
または、そのような非現実的な幻想にふけっている状態。
願望を空想するもの。
『きもちいいね』
空は青い。何時だって、私が歩く場所は青く澄み渡る。
地面は清らかな水面下に変化していく。
まるで此処が私の生きる場所だといわんばかりに。
『ね、すぴす。』
「…それは良かったですね。」
上を向いていた顔を前に向け、そのままクルリと
後ろを回ってみれば、そこには大神官が立っていた。
後ろに手を追いやっているのか
置いているのかは知らないが、
相も変わらず身なりが整っている。
今が何処か分からない。天使らも追いかけて来ない。
これは、私がこっちに戻ってきたら余り強く出ないように。
私が追いかければ彼等も追いかけてくるように仕組まれている。
それが、ルールだから。
私の作った、白昼夢のルールだから。
黒に近い青色の髪色をしていたのは
私が「地上」に降りていたから。
白に近い青色の髪色をしているのは
私が「天空」に戻って来たから。
下に降りれば降りる程、人らしさが増し
逆に上に上がれば上がる程、人らしさは減る。
記憶も薄まり、無かったことになる。
だってそれは、ただの「空想」であるものだから。
私がルールを作った者。だから、私の思うがまま。
でも、そんなの、あんまりだと思うから。
非現実が、現実になってしまえばいいと、思ってしまった。
『この物語の終わりが、見てみたい。』
「貴方が望めば見られるではないですか。」
見せてくれないのですか?
そうだね。
「おや、狡い返答を頂いてしまわれました。」
『ねぇ、スピリタス。』
「なんでしょう。」
『現実で会ったら、どうか私を褒めてくれる?』
「…ええ、勿論。貴方が私を、見つけてくれたその日には。」
私が貴方を褒めて差し上げましょう。
…そっか!
『なら、僕。頑張って走るね。』
「…ええ、お待ちしております。」
どうか、此方側に来ることを。
「その日を楽しみに。」
そう強く光る紫色の瞳に、メルはにやりと笑って白い目を細めて答えた後振り返る。
目の前を向いて、この青しかない限りの場所に、目を向けた。
此処が〈目覚めている〉場所だということを、私は知っている。
白昼夢、それは覚醒した状態で見る夢幻の状態。それ即ち、私が目覚めたと判定すればソレは醒めるも同然で。
まだ夢微睡みの最中だというのに、何故中断してまでしてこの場所に戻って来たのかと言うと、一つ気になることが出来て現実に戻ってきたのだ。
『ねぇ、僕は誰?』
「それは君が一番知っていることでしょう?」
そう背後で聞こえる、優しい声にメルは首を横に振った。
自分が誰かも分からない程に迄、深い夢幻に酔いしれてしまってはいけない。
でも、あの場所が現実にしか見えなくなるくらいにまで、居続けてしまった。
『彼等は居るの?』
「それは、君が一番分かっている事でしょう?」
居ない。何処にも、存在すら、しえない場所に。位置している。
私が生きているのは…もう、果てしなく遠い未来に位置する場所。
最果てに、息をしているのだ。
ましてや、私は、
『彼等に会ったこともないというのに。』
なんという、夢を見続けているのだろうか?
++++++++++
前回のあらすじ
この物語全ての時間が夢幻でした。
おしまい。
んで終わる訳があろうかと言う者ですよ。
はい、そんなこと許されるのは小学生の保育園
上がり一年生の夏休み終わるかな程度くらいの
期間迄なんですよね〜〜何言ってるんだこいつだって?
そんなの私が一番言いたいわ此畜生めが。
こんな中途半端な所で終わらせる訳にはいかない。
何とかして私は今から元の時間帯に
戻らねばならないのだが
色々と考え事をして整理を付けて
今此処で頑張って戻ろうと
試行錯誤をしているところだ。
と、いうのも。何故私が
この場所に戻って来たのかと言うとだね。
『私が私で在るべき存在だというものを知りたかった』
それは今現在彼女が居たことで立証された。
この場所自体が夢幻ではないかって?
それも考えて、私が思わない様な事を
してもらって立証してもらえました。
ただ、私の名前は分からないままなんだけれども。
そして私が僕だと言い続ける理由も、何となくは分かった。
恐らく彼女らの一人称が「私」だから勝手に「私」と言っていた。
では「僕」は一体誰が言い出したかって?
それこそ、私の求めている本来の目的である者なのだろう。
世界は、終焉を待ち望んでいる。
私はそれに、応えてやらねばならない。
でも、こんな最果ての世界でそんなことが出来るのだろうかと問われたら、
応えてあげるが世の情けというものではないだろうか?
まぁそんな世も
そんなことはさておいて、だ。
『これ以上引き延ばすのも悪いしなあ。』
彼等に気付かれてしまいながらも話しを進めるのは、
些か申し訳ないというものだが、仕方がない。
こっちが知ってしまった以上は、
そのまま身を流すしか術はないのだ。
笑わせてくれるよな。
出会ったこともない者達に、夢を馳せるだなんて。
そんな、かつてあったであろう
おとぎ話にしか存在しえない物語の話しに
想いを馳せ続け、眠ることすら出来ずに
夢幻に落ち我が身すらも忘れてしまうだなんて。
…きっと、其処に、答えがあると、私は知っているから。
だから、戻るのだ。
こんな綺麗な物語が中途半端に切られているだなんて
私は嫌だから。未完成で終わらすなんて、嫌だから。
もしも、この物語の作者ならば、最後は一体どう締めくくっていたのだろうか?
「きっとサワアお兄様と一緒に、幸せに。末永く居られたと思いますよ?」
『…あ〜〜〜等々幻聴迄聞こえてきたのか私は。』
「貴方が作ったルールに基づいて来たんでしょうが。」
こっちの責任転換にしないで頂きたいものですね。
…そりゃどーもごめんなさいね?
『お師匠様』
「…お迎えに来て差し上げたのです。光栄に思う事ですね?」
『はぁ…いつの間にか誰も居ないし。』
「帰ったら沢山人がいますよ。」
そうですね。
『こんな寂しい場所に居るなって、皆言いそうだしね。』
「ええ、何当たり前のことを仰るんですか。」
そう言ってコルンが手を差し伸べると、メルは自然と手を取りそのまま身体を引き寄せられたまま目を閉じてしまう。
このまま微睡んで、死んでしまえれば、一番良いのになんて思っても居ないことを思うのだ。
「死なせませんよ。」
そうだね、死ねないのだから。意味もないけれども。
身体は冷たい気がするのに、温かいと思えばすぐに温度を知る。
自分の温度すらも分からなくなってしまったというのに。
「貴方はエフェメラル。儚い時間にしか生きていなかった
お父様の兄君であるルトラール様のお子なのですよ。」
嗚呼そうだといい。そうであれば、どれだけ良かったか。
それは物語の主人公なだけであって、私は、私は違うのだ。
目じりにジワリと涙が浮かんでいく。目を閉じていても分かる。
この痛みが、目を開けたら膨らんで目の前の現実を突きつけることを。
だから開けたくないのに、涙が邪魔でつい目を開けてしまう。
手を握って片手は腰元にそっと置いて落ちていく彼の目と目が合った。
何処までも、優しい目。誰かを思いやる、目をしている。
私に向ける目ではない。
違う、彼は
嗚呼、そう思えば、どれ程この胸が痛むというのだろうか?
触れる体温も、この感情も、全て、全て、
捏造した延長線の上に位置しているというのならば。
これ以上の残酷な結末は、
何処にも存在していないのではなかろうか?
「貴方は勘違いをしている。」
『え?』
「此処に貴方は生きている。それは白昼夢でもない。幻でもない。夢でも、幻想でも、空想でも、架空の存在ですらないのです。」
『…じゃあ、どうして戻ってこれるの?どうして、こんなにも無機質に感じられるの?』
寝ても覚めても、夢は夢。幻は、幻であるものなのに?
それが私の作った、ルール上の螺旋に位置するというのに?
『それでも貴方は、夢ではないと言ってくれるの?』
「ええ。」
貴方がお望みとあらば。
「何度だって告げて差し上げましょう。
…これは夢ではない。現実に起きていることです。」
『…そっか、』
それなら、それならどれ程良いだろうか?
分かってる、分かってるのだ。
これが、言わせていることくらい…もう、分かってる。
辛い、もう醒めて欲しいのに、醒めたくないと思ってる。
物語の中に入り込んでさえいれば、もう、寂しくなんてないから。
嗚呼そうだ、私は寂しかったのだ。
ずっとずっと、独りぼっちで寂しかった。
この水面下にしかいない、
私の存在と、一冊の大きくて長い長い本しかない。
この世界に、落ちていく以外、術を知らなかったのだから。
『嘘から出た真』
もしも、これが嘘ならば。どうか真になって欲しい。
どんな願いでも、叶えられるというのならば。
どうか、この、願いを叶えてよ。
ねぇ、何処かに生きてる、神様よ。
貴方に会えた、そんな夢を。
私に見させて、くれていいのよ。