知る相手
「メル様」
『時間か。』
「ええ、どうぞこちらへ。」
御迎えが来た。もうそんな長い時間が経ったのかと思うが、
案外過ぎるのは早いものだ。最近時間間隔が本当になくなって来た。
コツコツと足音を立てる。
止まった先には、未だ向かっていない子達が此方を見てくれていた。
衣服をシュっと音を立てて気合を入れ足を前に出す。
『…サキョワ!』
「…なんだ。」
『架施は発動可能?』
「…その言葉を言うということは…お前、本気で行く気だな?」
『無論。』
恐らくこの先は戦闘になる可能性が高いと踏んでいる。
というのも、第4というのはメルにとってもサキョワにとっても
深い関わりがあったからであって。
「可能ではある。…だが、それは外す、という意味に捉えるがそれでも?」
「っな!!」
『無論。シナリス!』
「はい」
『貴方はありったけの薬剤をかき集めて
第10の部屋を軽い診療所にしてもらっても?』
「勿論。用意してきます。」
「ならお手伝いいたしましょう。」
そう言って名乗り出たのはカンパーリだ。
それには助かりますと顔色が明るくなる彼女を見て
少ししてから次にと真剣な顔でメルが指示を出す。
『エリーゼとアルカネットは此処で戦闘待機。』
「えっ!?私?!?!」
「意外ですね。サキョワさんではないのですか?」
『サキョワは分かってるでしょ?』
「嗚呼。此処で公平に、全てを判断すればいいんだろう?」
それくらい造作もない。
「あの野郎の顔なんぞ死ぬほど見てるからな。
偽造された者なら首どころか色々切り落としてしんぜようぞ。」
『…流石にそれはちょっと。』
「なんでだよ!!!!」
そこはのるところだろうが!!!
『マティーヌさんとアワモさんは準備が出来次第
此処で待機お願いします。』
「何を準備すればよろしいのでしょうか。」
出てくれたマティーヌさんにならとメルが明確な指示を出す。
マティーヌは衣類一式、アワモは食材一式を。
杖には細工をし、すぐに大神官とコンタクトが取れる様に
この場所でも通信のムラがないか徹底しておくことを伝える。
つい最近まで遊んでいたメルの姿などない。
今は真剣に、この先を見据える者が居た。
その姿を見て何も言うまいとコルンは少し一息息を吐いていた処だった。
名前を呼ばれて何です?とも言わず顔で指示を聞く。
『貴方は大神官様と一緒にこの場所をウイスさんとヴァドスさんの二組組んで周回して置いて欲しい。
私が戻って次の廻廊が始まればモヒイトさんとマルカリータさん。サワアとコニックさんが。』
サワアとマルカリータ、お二人には
少々ハードになるけど、それでも?
そう笑うと勿論だと二人が頷いたことで
メルは更にニヤリと笑い笑みを浮かべた。
そうでなければ、いけない。
『呼ばれていない者はいつも通りをキープすると同時に
他の子達の応援へと回って頂きたいです。よろしいですね?』
「「はい」」
『よーーーし!!!じゃあ、行こうか!!
サワア!マルカリータ!!』
「さて、出番ですか。」
「行きますですますわよ。」
ニコリと笑ったメルに、二人も
笑みを浮かべメルの両隣に立ち尽くす。
グワンと音が変形するのに対し、
メルが指を鳴らして取り出したのは
「なんだこれ。」
『インカム。通信用のアイテムね。
右のスイッチで全体か個通に設定可能。
こちら○○どうぞー的な感じで通信するから。』
「りょ、りょうかい?」
『そちらの移動も考慮して今回定期的に
連絡入れるから覚悟しとけよ。』
「何故其処迄気合をいれるので?」
「まぁ相手が相手、だからだろうな。」
ため息を吐いたサキョワにサワアが軽く首を傾げたあと
嗚呼彼ですかと何となく察したのにソレとサキョワが答える。
「確かに彼が本気で来れば少々舐めてかかると
泣きっ面を覚えますね。」
「そんなにですますの?」
「ええ。我々が本気で行くのも割と分が悪いので
適度に気を抜きながら行くとしますよ。」
その為の、インカム。でしょう?
…ええ、勿論。
『定期的にサキョワと協議してから実行を繰り返すから、
今回滅茶苦茶独り言多いので覚悟しておいてね。』
「わかりました。頭に入れて置いて差し上げましょう。」
「ではそろそろ」
いってきます。
いってらっしゃい。
そう言ってメルは額縁の中に入っていく。
それと同じくサワアやマルカリータも中に入った。
空は黄緑色の色に満ち溢れていて、
薄いシャボン玉の膜が空に太陽の光で反射して見え隠れしたことで
この場所が惑星ラフルートであることを知る。
惑星ラフルート
それは3つのシャボン玉が浮遊する惑星で
1つは樹木しか生い茂っていない狩人シャスール人が生息する地域。
1つは海しかない剣人リッター人が生息する地域。
1つは天空しかない杖師ゼプター人が生息する地域だった。
海しかないというのも、海の中に建物があるという意味であり
同じ様に天空しかないといっても土地が浮遊して地形があるにはある。
浮遊しても問題ないというのは彼等が浮遊出来るからであって。
「…此処は」
『此方メル。目的地ラフルートに到着しました。どうぞー』
ガガっと音が鳴り響いた後メルのヘッドホンから通信が入る。
ー此方サキョワ。惑星ラフルート了解。どうぞー。
『気温大体18度前後。湿度は知らん。割としっとり。
重力も割と負荷がかかる感じも軽くもない。
ただ空は黄緑色ですどうぞー。』
ー多分天空の都トシュタットだと思われますどうぞー。
『トシュタット?なんだそりゃ。』
ー天空にある妖精族の住む場所のことだよ。
杖師ゼプターの者が近辺に住んでいるとは思う。
確か奴はその産まれだったはずだからな。
そう言うサキョワに了解とメルは答え
インカムを少し下げてサワアらに声を掛けた。
『さっちゃんまるちゃん。』
「えらい砕けて聞いてきましたね。なんです?」
『お空ってお飛びになれます???』
「なに当たり前のことを急に言うので…まさか貴方。」
うん。
『えーんだっこーーー』
++++++++++
お空を抱き上げて貰って飛んでもらう。
うわーいたかいなーーーこわいなーーー。
まさかこの土地、浮遊が使えないとは驚いた。
何でかは知らないが、使えないったら使えない。
なのである意味奈落がみえるというのが怖い。
いやーーーゲームじゃないんだよな。
リアル落ちたらどうなるんだろう。
『そういやお二人に素朴な疑問をお聞きしたいのですが。』
「なんです?改まって。」
『私が知ってる惑星は主に二つ。
地球型惑星、岩石を含んだ固体型の惑星と
木星型惑星、気体型の惑星
その二種類しか知らないんですが…』
こういう惑星って、他にもあるんですか?
「んーそうですね。何処までを分類するかにもよりますが
もし仮に、その二種類で分けるのが地面のあるなしで行けば
この惑星は地球型惑星という位置で問題ないでしょう。」
『ではこの下どうなります』
「普通に磁力があれば地面に引き寄せられると思いますが…
…まぁ、落ちて宇宙に落とされるがオチ、ですますでしょうね。」
でしょうね。まぁ、そうですよね。
「なんです?そんなことを聞いて。
ひょっとして落として欲しいのですか?」
『何馬鹿なこあっ待って待って待って待って待って。』
「…お兄様、あんまりすると嫌われるですますよ?」
「ふふ、一体全体、なんのことでしょう?」
サワアがメルの身体を離すので、
メルが怖くてサワアにしがみついて
何とか維持をしようとする。
もう半泣きで怖いと抱き着いてくるのは
可愛らしいと思いやってしまったサワアに
マルカリータが引き気味にも妹ながら
忠告を入れてやるが、とぼける兄がいます。
「ほら、ちゃんと掴まっていないと落っこちてしまいますよ?」
『あっだ、だめ!やだ!やぁ、さわ、さわあ!!』
「ふふ、なんです?」
『ねっ、おね、お願いだから、手!テ!!て!!!て゛!!!!』
「おやぁ?手がどうしました?」
あっまって笑わせるな。
笑いだすと腕に力が入らずそのまま落ちそうになるので
手を伸ばす前に身体が静止する。
「大丈夫ですよ。ちゃーんと、私が。掴んでみせますので。」
「そうしなくても私が変わって差し上げても構わないのですますよ?」
メル様を持つのに腕が痺れちゃったのでは?
えっ
『そうなの?それならそうと』
「っ違うに決まっているでしょう?!何納得するんですか。」
『なっそ、そういう言い方ないじゃん!!』
貴方こそと怒りだすも、サワアの手はメルをしっかりと持っているし
メルはメルでサワアにう抱かれているということを知ってか
身体の力を抜きに抜いて肩へ殴りにかかっている。
そういう処をみると、どうしようもなく嬉しくなってしまって。
くすりと笑ってしまえば「なんで笑うんですか!」
と二人して此方に火の粉どころか
火炎放射をぶっ放してくる勢いで
言いかかってくるものだから
理不尽極まりないと思わないのだろうか?
まぁ頭がヒートアップしているんだから
そんなことも考えつかないのだろうけれども。
「別に?そんなことよりも、下。」
『した?しっぴ』
「…あんた達」
何この地で喧嘩してるわけ。
++++++++++
「いや、貴方も記憶がおありとは思いませんでした。」
「…と、言っても?アタシが知りうるのは
この子を殺す手筈だった頃の
記憶しか残っていないけれどもね。」
「ということはメル様に協力して
仲間になったことは覚えてないですますのね。」
「は??このアタシが?」
「何でしたら貴方元々彼女と
ご親友だったとお聞きしていますよ?」
「この馬鹿みたいな馬鹿と?」
『おいこらてめぇ』
アタシが????
そう驚く彼女、いや彼に対して
笑いながらもメルは中指を立てるので
やめなさいとサワアだけでなく
マルカリータまでメルの手をそっと下げてくれた。
こういう処は仲が良いんだけどな。
言い合いし始めると本当に私以上に
ヒートアップするから困ったものである。
まぁ、喧嘩する程程よい仲ごろごろ
とか言うしな。えっ?違う?そうか。
「にしても、アタシの所にとは
随分とそんな形で入るとは…舐められたものねえ?」
『…そういわれると思いまして。お兄さんお姉さんに一つご相談が。』
「あら、改まって聞くじゃない。なぁに?お嬢さん。」
場合によっちゃ、貴方を軽く殺せなくはないけど。
「っ」
「おおっとこれはアタシ達の問題よ?
…貴方がでしゃばる必要性は
何処にもなさそうなのだけれども?」
「っ彼女は我々に必要な存在です。
殺すとあれば話が大きく変わってきます。」
「中立を守る天使がこうも変わるとは
…ふぅむ。やっぱり、華は狂う。
処分する手筈の方が正しかったのかしら?」
「っあなた!!」
『おやめなさい。』
お二人共。
そういうメルの言葉に、
丁寧な口調を聞いて立ち上がった身体を止め
メルの方を向いて固まり目をぱちくりとして困る二人。
「え?」
『…単刀直入に言います。貴方、私の仲間に入りません?』
「なっ!!!!」
「ほぉ?そう言ってくれるということは
…メリット。あるんでしょうね?」
アタシが、飲み込める程の。メリットが。
そして、貴方が、飲み込めない程の、デメリットが。
「え?」
『ええ、勿論ありますとも。ご提示させて頂けるのですか?』
「あれば尚更聞かない話はないわよ?
その代わり、話が変わればこの場で貴方の首を切り落とす。」
どう?良い話しでしょう?
「貴方は愛しい人の前で嫌な死を遂げる。」
『おや、聞き捨てなりませんねぇ?嫌なものがあるものですか。
愛おしい人に看取ってもらえる程、幸せなことはないでしょう?』
「でも今ではない。…違わないでしょう?」
ぴたりと紅茶を飲む手が止まる。
揺れる波紋が消えるまで身体が動かなくなった。
「これ以上ない程の、幸せではない場所で。死を遂げる。
届く位置で、届かなくなる瞬間を知り、嗚呼やっぱりそうだった。
これは手にしてはいけなかったのだと想いながら目を閉じて死ぬ。」
それが貴方の、一番幸せな、幸福である死に方。
「其処に辿り着けずに旅半ばで諦めるしかないなんて、
一番されたくないことだと思っているのだけれども?」
『…なら、貴方の望みが叶う。そうだと思わない?』
ニヤリと笑い、メルは紅茶を一口二口含んで飲み込む。
そうだ、私は、願いを一つ、叶えてあげられる存在。
『貴方の願いを叶えて差し上げましょう。
…その代わり、私の仲間になって頂きたい。』
「…契約成立ね。」
「えっ、そ、それでいいんですますか!?」
「ええ。だってこの子はアタシに特大の幸福と
不幸せをプレゼントしてくれるというのよ?」
なら、アタシもアタシで腹をくくるってものよ。
「詠唱は」
『……華よ神よ魔の者在ろうとする存在よ、
今こそ儚き願いを継げ、代償与えて、お願い聞いて』
いいわよ。
そう言って彼は杖を手に取り出しその場から少し遠ざかる。
手を少し交差し、杖を前に立ててから低い声で詠唱を始める。
「…華よ神よ、魔の者在ろうとする存在よ。」
その時、メルの身体が反応し、
青い目が白く光り輝きを放ち始めた。
髪色が一気に白色へと変化し、
彼の願いに伴いメルの力も増幅されていくことが分かった。
「今こそ儚き願いを継げ、代償与えて、お願い聞いて。」
どうか、お願い。
「”彼等の願いが叶いますように”」
「へ?」
『え、あっ、ば。いや、いい、の?』
「ええ。構わないわ。」
だってあたしは貴方の元旧友、なんでしょう?
えっあっ、ま、まぁそうですけれども?
「なら今のお友達のお願いを
先に叶えて差し上げた方が良いと思ってね。」
アタシは充分、お願い聞いて貰えているだろうから
この状態な訳だろうし?
え、ええ?
「…あたしがアンタを殺そうとしたのは大きく分けて二つなのよ。」
『二つ?』
「ええ、一つは華自体が憎かったというのもある。
でももう一つは貴方が死ぬことで…っ駄目隠れて!!」
「メル!!!」
そう叫ばれて、後ろに下がるメルの背中がトンとぶつかる。
手を伸ばしたサワアの手が、メルに触れることはなかった。
「つかまえた」
「っメルさ」
身体が急速に離れる。腹元を掴まれて
空に飛ばされるのに対し、追いかけて来てくれる。
滅茶苦茶怒ってる。
分かってる、身体は、私が一番知ってるから。
これの解除方法、私知ってるけど、
どっちも怒ってきっと泣いちゃうから。
なるべくしてあげたくない。
それでも、嗚呼きっと、私はしたいのだろう。
もう、時間がない。
残り時間は、あと僅か。
「エフェメラル」
『(違う)』
「
『…っふふ、』
何がおかしいのですと言う彼に、ごめんねぇとメルは答える。
『私はメルでもエフェメラルでも、
翼を持つ者、持たざる者。
真の名相応たる名のその眼。
『ルールは「絶対に」。守り抜かねばならないのだから。』
「っ!!!」
メルはそのまま身体を透過させた。
それは、メルが掴んだ唯一の力、いや能力ともいうべきか。
駄目だと言う彼の手が、伸びたことが、嬉しかった。
例え、その手が心が、私その者を見ていなかったとしても。
それでも、ほんの少しだけでもいい。
私を見てくれていると錯覚出来れば。
もう、それだけで、それだけでいいのだから。
ぶわりと世界が一変する。黄緑色の空が青一色に染まりあがったではないか。
世界は誰一人として拒み、私すらも、拒んでいるようにも感じ取れる。
『…戻る確率が格段に上がって来たな。』
前にもあった。その昔、最初にした、廻廊と同じ現象だ。
記憶が一々消えていたと思っていたが、多分錯覚だろう。
そう、言い聞かせないと辛かったから。本当は分かっていた。
傍に寄り沿ってあげていたのだけど、本心は逃げていた。
だから忘れたと言い聞かせたし、そうなってしまったんだろうが。
でも、今は、寄り添って抱きしめてあげることが出来る。
だからこそ、私はこの場所に戻って来たも同然なのだろう。
それが、ルールだから。
私が望んだ、ルールであるのだから。
『さて、どうやって変えよう戻ろう。』
メルの手元には一冊の本が戻って来ていた。
今まで見ていたのは1,2ときて3番の本。
勿論この本は3の数字を切り刻んでいる。
もう最後であり、4の数字を切り刻むその時は…
きっと、これが全ての、本当の、おしまいになるのだろうが。
この本は未完成のままで、終わっているのだ。
ノートを開けば、今生きている場所は
少し乱雑に書き殴られているだけであり、
ちゃんとした文章ではないことは確かだ。
数ページ過ぎればもう何も書かれていない。
だからこそ、ルールなのだ。
書かれていない処に想い耽るなんて出来ないから。
だから此処に、戻ってきてしまいやすいのだ。
まぁ、彼等全員、そんなこと許していないんだろうけれども。
『…こうなれば、私が書き記すしか、術がないんだよなあ。』
でも、そうすれば、恐らくこの本の意味が無くなってしまう気がする。
というのもだ、もしこれが、パンドラの箱。
即ち本にしか封じれない魔物が住んでいたら?
それを続けるということは、封を開けるに等しいというものであり、
次開ければ最期。この世界は本当に終わってしまいかねないし、
なんなら別世界の人間らを巻き込む可能性だって非常に高いというもの。
流石にそれは気が引けるものがある。
迷惑はかけたくないからね。
でも、もう、嫌なのだ。
『トゥルーエンドを、望むモノ、だからね。』
メルはペンを取って、そのインクを紙に乗せた。