緩やかに朽ちてゆく









綺麗な額縁に飾られた、大きな樹の下で笑う人々。
その真ん中には、綺麗な青い髪を
降ろした女性が嬉しそうに笑って居る。


彼女の名前は「エフェメラル」

儚い時間に生きた、人の名前だ。




輪を潜り抜け、その息がしづらい場所にと降り立つ。



この場所は何時だって胸の辺りが
苦しくなって仕方がない。


誰もいない、この場所こそが、
私の生きれる、唯一の場所であるのに。





『…いつ、か、なん、て…ない』





掠れた声で、そんな悲しい言葉を吐いた。
嗚咽が汚い。どうか音を立てないで欲しい。


触れた指の感覚が欲しくて、たまらず
浅黄色のベールに身を包んで抱きしめる。



抱きしめたって、あの時間は
戻って来やしないのに。


嗚呼夢だった。あんなの、
たまたま、そう思っていた時だった。

『っ?!』
「そのままで」

本当に、急に身体が抱きしめられて
驚き動こうとした自分の耳から
入って来た声に固まる。

パタパタと涙が零れ落ちた。

『…っ、ふっ、』
「泣かないで下さい、
と、言いたいですが…泣きたいのであれば
此処でしか泣けないのであれば、
お願いですから、どうか泣いていて下さい。」

誰も見ていません。
誰も、貴方を知りませんから。

そう言う彼の声が余りにも優しくて、
涙がボロボロと零れ落ちる。


ぐずぐずと鼻水を啜りつつも
嗚咽を漏らす自分の声によってか
それとも、私が彼の胸にすり寄ったことからか、
彼の腕の力が少しだけ強まった気がする。

嗚呼、これは、夢で在って欲しい。

『ゆ、めを、みてる、んだ…ね?』
「っ……!!」
『嗚呼、ゆめ、なら、いっ、か。』

そっか、ゆめなら、いいよね。

だって夢ならば、いつかこの温もりも、
目醒めてしまえば、忘れてしまう。

心から触れられない、
あの時間がまた続いて行くのだ。



嗚呼なんなら、あの触れた指すらも、
きっと夢だったのかもしれない。

暗闇で、眠った後に、応えてくれた言葉も
貴方が見てくれた、あの時間だって。


ぜんぶぜんぶ、ぜーんぶが、ゆめだった。



嗚呼そうだ、きっとそうだ。だって在り得ない。
天使らと私が出会うことは禁止行為であるのだから。

彼等がそんな禁止を破ってまで
出会おうとは思っていないだろう。

ましてや大神官が見張る中、
そんなことをするわけもない。

『いるね…?言ってたもんね?
僕は此処に、生きてるから、大丈夫だって。』
「…そうですね。言っていましたね。」
『うん』

嘘つき。貴方はそんなこと思ってもいやしない。
分かっている、コレは優しい、夢の嘘なのだと。

貴方からの、優しい贈り物うそであることくらい。
現実であるのは、分かっている。分かっているのだ。

こんなリアリティーのあり過ぎる温もりなんて、
夢だったほうがおかしいくらいで、
クスクスと笑いが込みあがって
来てしまうからおかしいものだ。

嗚呼、何時ぶりだろうか?こんな笑える時は。
幾ら模倣を作ろうとして止めた手を、
そっと胸に抱きよせ泣いた時間が繰り返そうとも。


こんな日が来るなんて、
夢にも思わなかったというのに。


ああ、たのしい。たのしいよ。
これがずっと、ずっとずっと、ずーっと。

つづけばいい。



『ねぇ、誰か知らないお人。』
「なんです?」
『どうか名前を教えないでおくれ。』
「それ普通逆じゃないです?」
『っふふふふふ、そうだね?そうだよ?』

そうなんだよ。

でも、でも言わないで欲しい。

『言ってしまえばコレが現実だって
分かってしまうから。』
「分かったら駄目なんですか?」
『ええ、駄目。駄目なんだよ?』
「何故かお聞きすることは、駄目ですか?」
『うーん、駄目、かなあ。』

だって貴方に掛けた呪いが。
きっとその時、解けてしまうだろうから。

だからね?そっと、
この胸に秘め続けておくのだ。


そうして待ち続けた後、
枯れてしまったことを
嘆いても、もう、遅いというのに。


私はそれでも、春を待ち遠しいと思い込んで夢を見る。


もう春は過ぎ去り、夏になったというのにも関わらず、だ。



『だってね?もしもコレが夢だったら、
きっと目が覚めた時悲しいからさ。』
「そんなことありません。
現にこうして触れられているではないですか。」
『あるよ。あるんだよ。』

だからそんな、
寂しいことを仰らないで下さい。

そう言った声が、布をはごうとする。

「僕の名前を呼んで下さい。…エフェメラル、」
『っ!!おもいだしたの!!!っさ』









ゆっくりと、シーツが擦れた後の光が
瞼の裏から入って眩しくて。



目を開けて、ばっと顔を上げ、
その名前の後を喉元触って
息を吸ったその瞬間、






白い天井に、息が止まった。音がしない。







ドンという音と共に、身体を外に飛ばしてしまう。
誰かの叫び声が聞こえて、身体を掴んで
必死に何かを言っている気がする。
でもそんな音なんて聞いている暇はないのだ。





嗚呼、名前を、呼ばせてもくれないのか。






夢だった。なんて酷い夢だったのだろうか。
余りにも、作り過ぎた、夢だった。
今は何処だ。何時だ。彼に会った日か。
それとも、あれすらも…夢だったというのだろうか。

分からない。分からないけど、胸が痛い。
真っ暗闇の中で眠れる夢を見ていたかったのに。
額縁にすら、貴方の亡骸にすら、もう出会えないというならば。

私は此処で、生きる意味など、見つけられないというのに。

それでも息をするのだ。この身体は、
この心は、決して死ねないというのだ。

もう死んだ。もうとうの昔に、
死んでいるというのに。
何をふざけたことを抜かすのだろうか。

私の名前は、もう、エフェメラルではないというのに。

その意味が、酷く、私の心を傷つける。


午後の真昼間ポスト・メリディエム


それが、私の名前であるというのを、
彼らはきっと、知らないのだから。


『(私はエフェメラルなんかじゃないの)』

ーじゃあ誰がエフェメラルだというの?

そう言った青い髪色の女性が立ち尽くして答える。
上を向けば、此方を向いて寂しそうに笑って見る子が見えた。

『(違う、私は、違う。貴方になんか、なれない)』

ー貴方はエフェメラルだというのに?

『(違う)』

ー額縁の中にいる者は自分ではないと

そうだという私に、それはね、と声が上から落ちてくる。

ー貴方がそうだと言えば、きっとそうだし、きっとそうなるの。
…でも、仮にそうなった時、その胸はどう思う?

『(どう?)』

ーあの人に触れた時みたいとは違う?

『(それは…)』

違う。満たされたとは、真逆の方向を向いている。
何もない。空白になった、空っぽの場所に、
ジワリと痛みを帯びて、胸を掴んで丸くなった。

ー…額縁の中はね?何時だって本当に在った時間なんだよ?

『え?』

ー貴方が夢見た、醒めない夢が。

切り取られて飾られた。貴方だけの時間。

ー貴方が彼らを何よりも大事にしたいと思ったから、
だからそこに飾れられるんだよ?

エフェメラル

そういう彼女に、模倣に、メルは首を横に振った。
自分がこの名前を持ってはいけない。
彼らに呼ばれては、いけないのだ。

なのにこの子は嬉しそうに笑って私を抱きしめてくれる。
ボロボロと涙が零れ落ちてとまらない。止まってくれない。

夢か現実か、分からないけど、
ずっとずっと、泣いている気がする。

ーでも、羨ましいよ。彼らが何よりも誰よりも。

『…な、んで?』

ーだって、自分を沢山助けてくれる子が、
誰よりも自分を見つめてくれて。

無邪気に笑って手を取ってくれて。
抱きしめてもくれる優しい子が。

自分らのことを何よりも誰よりも、
大事にしてくれるのだ。

例えそれが、ありふれた何処にでもある、
些細な出来事の一欠片だとしても。

それすらも、貴方は綺麗に飾って
守り続けているのだから。



ーでも、縋る程に執着するくらいなら、きっと、悲しんでしまう。

『…っ、でも、そこし、か、みれなっ』

ーそうね。見れないね?今は、見れなくていいの。

今は?何時か、見てしまうの?

ー…私はずっと、貴方の味方であるのよ?エフェメラル。

『…エフェメラル』

ーだから泣き止んで?私の為に、笑っていて?

貴方がそれで、泣き止んでくれるのならば。

私はもう、それでいいと
彼女は言って頬に手を触れ、
そっとそのまま抱きしめてくれる。


手を回そうとして、
そっとその手を止めてから、
下に降ろして目を閉じた。


ぎゅっと、抱きしめてくれる感覚が無い。
この感覚に、酔いしれていたくて。


手を回せば縋ると同意義に感じたから。
だからしないようにと思ったのだ。



『ねぇ、める…あなたは、たのしかった?』
「…エフェメラル、貴方…声が」
『ねぇ…会いたい。……会いたいよ、   さわあ


口パクで、音になんてさせない。
その痛みが、胸でずっと回り続ける。
神様が天使に、恋をした…だ、なんて。
そんなバカな話が合ってたまるものか。

メルは息を吸って吐いて、目を開けた。

『(ごめんね、寝起きが悪かったね。)』
「…まぁ、正直寝起きの悪さとは
言えないくらいの暴れん坊だがな。」
「ティーナ。」
「それで?気分はすっきりしたか?」
『(まぁまぁかな?ご飯食べれる様に
まずはお片付けからにしよっか。)』
「おお、いい子なことで。
後始末は全部、自分で出来ると。」
『(ええ、勿論。)』

++++++++++



時間が来た。



どうやら先程のは本当に夢だったらしい。
エテルネルが約束をした時間に
きっちりメルは外に連れ出される。
勿論きちんと浅黄色のベールに身を包んでだ。

目の前には大神官が、既に何人かの
天使を連れてこの場所に降り立っていた。

それを見て、メルはそっと目を細めた。
胸にわだかまりが出来る。
嫌だと、拒否しているのか。

奴らは、私の知る者ではないのだと。
そう、言ってるのか。


「おや、もう来て下さったのですね。」
「お久しぶりです。大神官スピリタス様。」
「っな!!」
「その名を何故彼らが…!!!」

そう周りがざわつくのに対し、
大神官が手を上げるだけでぴたりと止まる。

「ええ、お久しぶりですね。
それにしても相も変わらず、
素晴らしい力ですね?リサ様。」

「そうお褒めにならないで下さい。
至極当然のことをしたまでのこと。」

「いやいや、そんなご謙遜をなさらないで下さい。
この者達の器を作り上げるだなんてそんな芸当、
この世界では貴方一人しか出来ませんよ?」

「おや?そうですか?あの地はもう存在しえないと?」

「ええ。皆さんに悲しいお知らせが幾つか、
と嬉しいお知らせもありますよ。」


それはそのうちの一つです。


「貴方が守っていた、かつての太古に生きた惑星
全12惑星は既に消滅致しましたことを確認済みです。」
『っな!!んっげほっごほっ』
「…咳?」
「一体何処から…」
「そうですか。」

それは、残念ですね。
そう言ったアルトリアに
すみませんねと大神官が答える。

「一応惑星は惑星、ですので。
私が管轄する訳にも参りませんから。」
「天使は常に中立。私欲で
惑星一つ守るだなんてできますか。」

「例え仮に出来たとしても、
万が一大神官様にでも知られたら
軽く消滅で済ませられたら
可愛らしいものでしょうね。」

「おや、そんなことありませんよ?
彼女のお願いとでも仰られておられれば。
私はそれくらい許容する予定でしたからねえ。」

「彼女?」
「…はぁ、貴方達の修行不足が垣間見れるというものですね?」


全くもう、私はそれ程柔に育てた覚えはないのですが。


「……あの子らとは大違いだ。」
「お父様?」


なんでもありません。

そういう大神官が此方に
そっと手を前に出して来てくれた。

首を傾げたメルに対して、
大神官はニコリと微笑み笑ってくれた。


「どうぞ、手を。」
『』

それは、嬉しかった。

お礼を言ったメルに、何故と聞かれたので答えたのだ。
彼らを褒めてくれて、ありがとうと。
それにはくしゃりと笑って、どういたしましてと答えるのだ。

「やはり貴方が居ないとこの世界は管轄出来ません。」
『(そんなことないですよ)』
「いえいえ、ご謙遜なさらないで下さい。
歴然ではないですか。私の育てる今の天使コレらと
貴方の育てた過去の天使ソレらとでは。」
『(そんな酷いことは言わないで下さい。)』
「ふふ、失礼。」



そう言われたら取るしかない。

メルは何も言わず、
そっと手を前に出し、
その手を取った。


「ふふ、相変わらず臆病な方ですね?
何も致しませんよ?」
『(う〜〜〜わぁ、酷い。
絶対そんなこと無い言い方
してるじゃないですかヤダなぁもう。)』
「…!?」
「こ、声が、何処からですか?!?!」
『(ねぇすぴすぴすっぴ〜〜〜)』
「すっ!??!」
「おや、随分と久しぶりに
その名を呼んでくれますねえ?
なんです?何か欲しいものでもあるんですか?」

試しに仰って頂けたら叶えますよ?
お父様?!?!?!?

『(じゃあ一つだけ、聞いても良い?)』
「いいですよ?なんでしょう?」
『(アレは成功しているってことで、間違いなぁい?)』
「…ええ、貴方からしたら。
これが、いや、これこそが。良い知らせ。
と、言った方が宜しいのでしょうね?」
『(…うん!そうだね。すぴすぴすっぴ〜〜〜!!)』
「ふふ、本当に元気になられて私も嬉しいですよ?」

そう周りをぴょこぴょこと飛んで見せるメルに、
大神官は本当に嬉しそうに笑ってくれるので
メルは目をキラキラとさせてまたニコリと笑った。

『(そうそう!!すぴすぴすっぴ〜〜〜
みてみてきいて〜〜!!)』
「今度はなんです?」
『(今日の主役!!えっ君とチェレ君で〜〜す!!!)』
「ちょ、」
「こっ、馬鹿!!」
「おやおや、それは構いませんが…
私も貴方に会わせたい子達が居るのをお忘れですか?」

そう言う大神官にメルは首を傾げた。

「さ、此方に。」
「…よろしいのですか?」
「ええ。寧ろ貴方が行かないと面白…
いえ、喜んでくれませんので。」
「今更っと面白くないのでって
仰られようとしませんでした?」

ねぇ、ねぇ。そうです?そうですよね??
気のせいですよ。
そ、そうですか。

「それにしても、何処にも姿が見えませんが。」
「そりゃあ私の気を練りに練りまくって
作った特製の布地に隠しているんですからね。」
「お父様の!?!??!」
「…また随分と手を込んでいますね?
どれ程可愛がられておられるお人なんですか。」
「今に見てわかりますよ…
まぁ、私の知っている彼女の姿とは、
随分と変わられてしまいましたが。」


そう言って大神官が見た先に居たのは。


自分から布を前に降ろして姿を現した、
白と浅黄色の衣服に身を包んだ女性だった。

青い髪色が背中辺りまで降ろされており、
その目はかなり暗く、
何も先を見つめていないかのような…

数日前にみた姿とは、別人のように見えた。
白い衣服に身を包まない。そのお人は。


「…っ」
「気が、とてつもないですね。」
「…まだ不調ですか。」
「そりゃあそうでしょう。
何当たり前のことを仰るのですか。」
「あれから一千憶年以上もの月日が経とうが
なにしようが変わる訳がないでしょうよ。」
「いっ」

そんな古くからのご友人だったのですか。
そう聞くコルンに、ええと大神官が答える。
目の前に居る、彼の背中をみつつ、
メルの目を見て、目を細めて答えた。




「とても優しい、お子ですから。」








まるで夢を見ているかのようだ。




白い髪色に、紫色の瞳。
オールバックで、髪を後ろに流し、
肩より下で揃えて整えたその姿。


黄色の衣服から上に天使ガイドである
仕える宇宙のマークを刻み
その手には杖を携えて立ち尽くし、
此方を申し訳なさそうに見つめてくれていた。



『(…ごきげんよう)』
「ええ、先日は大変申し訳ございませんでした。」
「っ、おまえ」
「ご無礼をお許し下さい。」
『(…構いませんよ。許しましょう…スッピーの顔に免じて。)』
「おや、珍しい。嬉しいことを仰りますね?」



午後の真昼間ポスト・メリディエム



そう言う大神官に、周りの者達がぎょっと顔を変えた。



『(…ええ。そう言ってくれて、
私も嬉しいですよ?…大神官スピリタス)』
「ああもぅ…ほんと、酷い子ですね?
貴方と言うお子は。では、皆さんに自己紹介を。」
『(ええ。…皆さん初めまして・・・・・、ポスト・メリディエムと申します。
ポストでも、メリディエムでも、何方でも構いません。)』

以後お見知りおきをというメルに、
此方こそと天使らはぺこりとお辞儀をしてくれた。
…嗚呼、誰も、なんにも、疑問を抱かないのが、
酷く心地よいと思うこの感情が狂っているとだけは感じ取れる。

『(大神官様)』
「なんでしょう?」
『(私も良い知らせと悪い知らせがあります。
どちらを先に申しましょうか
…少々悩んでいるのですが、
どっちが良いですかね?)』
「…では、悪い知らせを。」

嗚呼狡いなぁ、ほんと。
言いたかった方を、言わせるだなんて。

『(…理への融合が決定致しました。)』
「ことわり…?」
「…お待ちなさい。それは何時ですか。」
「お、お父様?」
『(未定ですが、恐らく、もう…そう遠くない時間になりますよ。)』
「大神官様、理への融合とは?」
「貴方方には関係ない話ですよ。いや」


























そうだね。
うん、そう、なるんだよね。

そう言い聞かせながらメルは胸に手を当てると
そっとアルトリアがメルの背中をさすって寄り添ってくれる。

「そうですか…それは、悲しいお知らせですね。」
『(長い間、本当にお世話になりました。
出来れば春が来るまでにと、思っていましたが。)』
「肉体を維持出来ればすぐにでも理へと昇格するつもりです。」
「エテルネルさん…誰が主となるご予定で?」
「一応は私の方が、と思っています。」

空色の色を持つ彼だからこそ、ともいえるのか。
チェレステが手を上げると、そうですかと答える。

「貴方はそれでよろしいのですか?」
『(ティーナと同じことを聞くね?)』
「そりゃあ勿論そうでしょう?こんなことを言うのもアレですが、
此処で仰るということはコレが最期になる可能性が高いというもの。」

違いますか?

そう睨んだ彼に、メルはニコリと微笑んで笑って返した。

きっと、違うよ。

『(春が来る前にか、夏になってしまってからかは、分かりませんが。
いずれにせよ逃れられぬ定めであるのは間違いない。そうでしょう?)』
「…ですが、あのお方達はそれで了承をされているのですか?」
『(…まぁ。)』
「一応全員から許可はつい先日ですが取得して来ました。」
「我々二人はもう心は決まっています。」

後は彼女の心が、ものをいうだけなのだ。

『(あの人達は嫌だって言うから。)』
「…そうでしょうね。少なくとも私だって嫌ですよ?」
「大神官様、」
「だってそうなれば、もう二度と。貴方に会えることなど出来なくなってしまう。」

何処に行っても。過去にも未来にも。現在だって。
夢でも幻でも、どんな場所に走ったって。

何処にも存在していないかたちに、消えて溶けて無くなってしまう。

残されるのはチェレステ。ただ一人だけになる。

「もう一度春が来るのを待つ、とはいかないのですか?」
『(……。)』
「これ程まで待ちに待たせてるんです。流石にコレ以上は。」
「…そうですか。では、良い知らせというのは?」
『(あの日の時間が動きだしました)』
「っ」
『(私は、あの日から動き出した私なんですよ。スピス様。)』

メルはクシャリと笑ってみせる。

『(彼の身体が、今は指だけですが、反応を見せました。
暗闇も光が差し込んで来ていて、時期に空白へと姿を変えるでしょう。)』
「…時間が動き出したと。」

そういうことだ。

「成程、もう、待ってはくれないというのですね。」
「そういうことです。物凄く長い付き合いにもなりましたが、
そろそろお暇させて頂くことになるでしょう。」
「寂しくなりますね。意外と私、
貴方達のことを気にっていたのですが。」
「私達もそう思います。いずれにせよ、
華樹神が暗闇に染まっている以上
華神らの命は尽きるも同然ですからね。」
「かじゅ?」
「っアルトリア!!!」
「っあ、失礼…聞かなかったことにしてくれますか?」

すみません、場を弁えていませんでしたね。
そうしょげるように答えるアルトリアに、ではと彼が答える。

「もう」
『(ん?)』
「もう、春を待つのは、おやめになるのですか?」
「大神官様…貴方、まさか。」
『(やめれるわけがないじゃないですか)』
「めっ…」

メルと言おうとしたフェルに、アルトリアが
彼女の前に手を出し、首を横に振って制した。


『(私は何時だってあの日の暗闇から動けないでいるし、
何時だってあの時間に戻りたいと願い続けているんですから。
やめようとしてやめれるなら、もうとうの昔にやめていますよ。)』
「…それもそうですね。」
『(私からは以上となります。長い間世話になりました。)』

本当に、本当に。そう深々と頭を下げるメルを見てか
アルトリア達も深く頭を下げてお辞儀をして顔を上げた。

『(そうは言ってもまだ居りますし、またお仕事下さいな。)』
「あれ程捌いてまだしたりないと?」
『(ええ!もちろん!!)』
「そういえば良い知らせを幾つか聞いていない気がしますが…」
「嗚呼そうでした。そろそろ時間ですかね…。」

そう言って杖を出した大神官にメル達は首を傾げる。

「飛ばしますよ、皆さん。」

そう言った途端、バッと手を広げた大神官にメルらは目を丸めて言葉を失った。


「……な」
「うわ…。」
『なんで』
「っメル!!声んぐ」
「める?」
「っ馬鹿もう帰るよ私達は!!!」

流石にコレ以上居るとネタバレ処ではなくなりそうで、
そうアルトリアが言うと華神らである者達は捌けることに。

「じゃあ僕達もはけるとするか。」
『(え?待って?それ私単体だけにならない??)』
「そこを一人って言わない時点で焦ってるだろうが、
まぁいいじゃないか。ほら、付き合い長いだろう?」
『えっ馬鹿じゃないの。』
「っ!?!?」
『待って?普通に待って?私夢でも見てるの?』
「夢でもなければ幻でもないからね?」

嫌馬鹿でしょ。

『なんで全員集合してるの?え?嘘マジで言ってる?
第1から第12まで居るんだけど。馬鹿。』
「馬鹿馬鹿言ってるとお前が馬鹿になるぞ?」
「チェレステごめん。もう手遅れ。」
「あっ、、、なんか、ごめん。」
『なんで謝るかな????お前ら纏めて叩きのめすぞ???』
「ほーーー??やれるもんならやってみな???」
『ぱぴぃくん入れてやろうず。』
「いや、いねぇやつ入れるなよ。」

全く何言ってんだお前と三人でわちゃわちゃ笑う者達に、
飛ばされてきた者達も含めて天使らが目を丸めていた。

『え、うそ、、え、うそだ』
「嘘じゃないですよ?ねぇ?(エフェメラルさん)」
『あっ馬鹿そう言う処だけテレパシーでするとか馬鹿でしょ。この馬鹿スピス。』
「ばっ?!?!!?」
「おやおや、酷いことを仰りますねぇ?
(貴方の真似をして差し上げてるのですよ?
ま、と言っても?貴方以外には聞こえない様にしていますが?)」
『あっ馬鹿私の上位互換しやがってるこいつしやがってるぞこいつ!!!』
「分かった分かった。テンションをそう上げない上げない。」

あとでしんどくなるのはお前の方だからな?
だってだってだってだって!!!!

『わ〜〜凄い!!スピスったらいつの間に「模倣」を習得しちゃったの?』
「も、もほう・・???」
「ええ。凄いでしょう?ほぉら本物そっくりではないですか?」

見てみて下さいというスピスが
第2の方に寄ってきたのに、第2の者らが驚き慌てふためく。

「今の破壊神らは貴方が見ていた時間と全く違うでしょう?」
『そうだよ。なんなら二人くらいしか知り合いいなかったしって
うわぁ〜〜〜すごぉい!!!これヘレスでしょ?』
「ええ。そうですよ?そっくりでしょう?」

軽く大神官から「下手な動きをしたら怒りますよ?」とテレパシーで脅されたじろぐヘレスに
メルは目をキラキラとさせ始めてきたことに目を丸めて固まった。

「…気が、変わっていく?」
「どす黒い気がどんどん澄み渡って…」
「一体何が…」

『さわあ』

「っ、」

『ねぇ、すぴす』
「なんでしょう」
『今も尚、天使らと私は接触禁止状態なんだよね?』
「は?!?!!?」
「ええ、そうですよ?当たり前ではないですか。」
『そうだよね。夢や幻くらいじゃないと、会えないもんね?』
「ええ、もちろん。」

だからあんなことをしてみせたんですよ?
そう言って大神官は彼らを飛ばしたかのように見せたというのに
メルはクスクスと笑ってそうだねと答える。

『…きれいだ。嗚呼、綺麗に作れちゃって、いいなあ。』
「…っ」
『あいたい』
「(エフェメラルさん…)」
『あいたいよ、すぴす。…みんなに、あいたい。』

そう言いながら、サワアの顔を見てボロボロと涙を零しだしたではないか。
おろおろとし始めるサワアに、メルは首を横に振って静かに涙を流す。

『あのね?今日夢をみたの。サワアに抱きしめて貰える、そんな夢!』
「っ、」
「そうですか。それはそれは、とてもいい夢でしたね?」
『うん!現実だと思ってたのに…夢だったから、凄く辛かった。』

胸がきゅって、痛くなって。何かを吐き出したくなっちゃった。
それは辛い経験をされてしまいましたね。

「現実ではお願いされないのですか?」
『接触禁止なんでしょう?なら駄目だよ。』
「ですが目の前に居らっしゃるではないですか。」
『え〜〜〜??だって、滅茶苦茶完成度高いとは言えども模倣だよ?』
「なら構わないのでは?」
『いいよ。サワアがサワアじゃないと、私は嫌だよ。』

記憶を持って、私を見てくれる、あの人ではないと。
私は私として、息が出来ないのだから。

『それにあの子は此処にず〜っと、生きてくれてるんだもの。』
「それは喋れないのでは?其方でしたら一応喋れますよ?」
『私が作った模倣の方がずっとず〜っと喋ります〜〜だ。』

べーと舌を出して反応するメルに、では作ればいいではないですかと答える。

「作れない、いいや、作りたくないが正しいでしょう?
その理に成らない様に。作ったら完成してしまうから。
そうしない様にしているのは、
彼が貴方を想い出すことを待つようにしているから。」
「っ」
「もう春は来ました。約束は、果たされなければ
ならないのですよ?ねぇ、春の一瞬にしか生きれない子。
私の兄であるルトラールの、唯一のお子である、エフェメラルよ。」
『その名で呼ばないで。』

例え模倣だとしても。その名で彼らの前で、呼ばないで。

いつの間にか、エテルネル達は消えていて。
この地に居るのはメル一人になっていた。

「いいえ呼びますよ。貴方が彼らを置いて、その華を手折るというならば。」
『…折らせてくれないの?』
「折らせません。仮に折ったら、
私は彼になんと詫びたらいいのですか。」

私勝てませんよ?あの子に勝てるわけがないではないですか。
サワアにでしょ?なんで?だって勝てるでしょ?

「それは武術でのお話です。
貴方に勝てる者は彼以外何処を探したっていない。
現にその心が、気が、証拠として提出出来るというものですよ?」

今の貴方はあの日に死んだ、
神々の横に横たわる前の貴方その者なのですから。

「っし?!?!!」
「だっ」
『え〜〜?そうかなぁ。』
「なんなら喋りまくっているではないですか。
あんなに死んだ目をして口も開かない人形だったのに。」
『そうかなあ〜〜』

そうですよ。

「澄み渡った様な気をお持ちの貴方が。
彼らが死に、天使ら全員が停止したあの日あの時に。
貴方は死に、そして今も死んでいるというのに。」
「死んで…?でも、彼女は生きて」
『神は居ない。何処にも居ない。だから私は此処にいる。』

生きている。嘘つきだね。

『…馬鹿な女だ。憐れだと思えばいい。もう、とうの昔に死んでいるというのに。』

こんな形を持った者に縋りついてもう千億年程の月日が経てども尚も、望んでいるというのか。

『…触れるなんて、おこがましい。名前を呼んで、なんて。もっとおこがましい。』
「そうでしょうか?」
『そうだよ。死に目に背中で答えた私が、この者に触れる権利など私が許可しない。』

させたくない。例え模倣でも、したくないのだ。

『何時だって許されるのはあの日死んだ、あの暗闇の中で眠る彼等のみ。』

横たわって、疲れ果て、眠りについた天使らのみにだけ、許されるのだ。

『綺麗だね。…優しい、酷く優しい、模倣だね?』
「それは良かった。頑張った甲斐があるというものです。」
『嗚呼、これも夢なら…いや、現実であった方がいいのか。』

手を伸ばしてはそっと降ろす。
首を横に振って、これではないというのだ。

『優しいよ、すっぴー』
「ソレは嬉しい言葉ですねえ。」
『ほんと、狡いくらいには。』
「そうですか?」
『うん。…ありがとう。ほんとうに。』

いたいよ。ずるいよ。

『こんなことされちゃったら、此処に、ずっと、居続けたくなっちゃう。』
「居ればいいではないですか。なんなら今日一日お貸しできますよ?」
「なっ!!!」
「ちょ?!?!」
『駄目だよ。模倣でも貴方の気を使い続けたら本物さん達が怪しんじゃう。』

特にコルンやサワア辺りは危険だからね。
おや、そうですか。

『あの二人は間違いなく勘鋭いからねぇ〜〜〜?
一応僕はコルンさまさまの弟子なんで。』
「おや、弟子の目を見抜いてしまうのがお嫌だと?」
『当たり前でしょう〜!?沢山向こうでしごかれたんだから
何時かお師匠とまた戦ってぎゃふんと言わせてみるんだから。』
「…なら、今此処で、別に戦っても構わないんですよ?」
「コルンさん…!?」

正気ですかという声に、ええ別にとコルンが答える。

「私の弟子というならば。それ相応の実力があるでしょう?」
『…勿論。まぁでも?今はしないよ?』
「おや、私の弟子である者ながら引くのですか?」
『こんな人の居る場所でしたら大変だよ!』

こういうのは、ひっそりと時と場合を見繕ってやるもの。

『僕のお師匠ならば。時間を合わせて。
何処かでひっそり二人きりで。するものだろうからね。』
「…それでこそ、ですね。なら今度お手合わせを、是非とも。」
「それにしても何故ひっそり???」
『あ〜〜〜いや、気にしないで。』

この人やたらめったらやって加減しないんだもの。
嗚呼、それは言えてますねと周りが苦笑いを零す。

「女性にまで手加減しないとは、しかも大神官様のお墨付きから」
「なんですか。それ相応の対応を取るというものでしょう?」
「まぁ大抵加減しないのは貴方の方ですし、
本気出し過ぎてキャパ越えで吐血したり
ぶっ倒れたりしてサワアさんを呼び出して
叱られていたのが日常茶飯事でしたがね?」
『ちょっ〜〜〜と!黙って!!!!
貰えませんかね?!?!スピスさん!!!!』

いやいや、事実のことでしょうが。
そうですが!!!!

『まぁ…いつか、でいいからね?お手合わせ。』
「ええ。お待ちしておりますよ?」

いつか、ね。

そう、そんな日など来ない。来るわけもない。
模倣に幾ら言っても無駄だし、仮に本物でも私はしないだろう。
記憶のない彼等に相手をされたって、そんなの無意味でしかないのだから。

『あ〜あ。こんな全員集結させちゃったら
本当に会いたくなっちゃうじゃんかぁ。
スピスのば〜〜〜か。』
「ふふふ、お願いしてくれたら
何時だって呼びつけて差し上げますよ?」
『嫌だよ。お仕事沢山頑張ってる
皆の邪魔なんて私がしたくないんだから。』
「おやおや、それはそれは。
ですが貴方のことを全て知ったその時には。」

全員そんなことどうでも良いと言って
貴方のことを優先してくれると思いますがねぇ?

『い〜の!私は。模倣や、幻や、夢の中で。
あの、額縁に入った情景に縋り付いて
眠りにつくくらいだけで、丁度いいのだから。』
「…そこですらも、貴方は彼に触れないとでも?」

そう。そうだよ。

『彼は私の名を呼ばない。まぁ今日の夢は呼ばれちゃったし
その直後で目が醒めちゃったから泣いちゃって騒いだんだけどね。』
「嗚呼、暴れたって言っていましたがそういうことでしたか。」
『わあ〜愚痴られてる。』
「それにしても、本当に元通りになられてるではないですか。」

その気は、その姿は。かつての貴方その者ですよ?
いいや、私はもう、死んだ者だよ。

『そっくりじゃない。だって現実に居る天使らだけでなく、
神々は全員まとめて、私を知らないのだから。』
「知らなければ死んだも同然、ですか?」
『嗚呼そうだよ?でも、私の心の中では、生きている。』

だから、だから、辛うじて、息だけはしているんだよ。

『エテルネル達が頑張って耐えてくれたおかげで、
私は息が出来てしまっている。
貴方の居ない、この世界で。』

私は、独りぼっちで息をし続けてしまっている。

それが何よりも、どんなことよりも、辛くて、辛くて、たまらない。

『願わくば。会って、あの日の続きの様に、お話が出来たらいい。
ただたわいもない話しで喋って、お互いに何があったのか話し合って。
手で触れて、陽だまりの落ちる樹の木漏れ日の下で。』

そよ風に揺られた髪の毛を編んで、
ゆっくりと横たわってお昼寝出来ればいい。
まぁ、といっても?天使は寝れないんだけれども。

『会いたいなぁ…会いたい。会いたいよ。』
「エフェメラルさん…」
『布越しでも良いから、現実で、いや、夢でもいい。』

模倣でも良い。作られた人形でもいい。
抱きしめて、そして、生きていることを知らせて。

『貴方が私を想い出せることなど皆無に等しい、この時間で。
私は貴方の記憶が戻ることを待っているだなんて。』

そんな愚かなゲーム、一体誰が報われるというのだろうか?

「記憶が?」
「どういうことですか」
「彼女の精神が完全に崩壊し、死んだ時に作ったものですよ。
貴方達天使が、次の破壊神に付くその時には。」

あの子の存在全てを無に葬り去る様に設定されていてね。
そんなことが出来るのですか?

「ええできます。なんでしたらあの子一人ではなく、三人の力を合わせたものなのでね。」
「早々簡単にはがせる呪いではないと。」
「そういうことです。」
「ゲームをしましょう。」
『げーむ?』
「ええ」

もし我々が記憶を全員取り戻したら。

「我々は貴方の願いをなんでも一つ、叶えて差し上げます。」
『っ』
「もし貴方がその理になるその時まで、記憶を取り戻さなければ。
貴方が我々のことを好きになさるというのはどうでしょうか?」
『絶対私が勝つよ?それ。いいの?』
「ええ構いませんよ?どうせ我々が絶対勝ちますから。」
「おや、言いますねぇ?サワアさん。何か手があるので?」
「いいえ。」

そう言うと周りの者がずっこけるのに
おやなんでこけるので?とヘレスに聞くサワアに
おまえが変なことを言うからじゃろうがと声が上がる。

「不思議なことですが、そうなる気がするのです。」
『…その勝負、のった。』
「それでこそ、大神官様のお墨付き、ですね。」
『ねぇすぴすぴすっぴ、これ本当にものほんじゃないんだよね?』
「ええそうですよ?」

これで本物ならどうするおつもりで?

『いや、普通に全員の記憶消し去ってまた引きこもるに決まってるでしょ。』
「そういえば何故我々と対面拒絶を?」
『単純に私らが付けた呪いの効果が薄れやすくなるから。』

会って気付けば気付く程、効果がきれるから。
おやおや。

『でも個人差はあるだろうし、それにこっちだって上書きしていくからね。』
「成程、そう簡単には想い出させないと。」
『勿論。ま、そもそも会えるなんて思わないことだね。』

今こうやって居る、私なんて。

『貴方達は二度と会えなくなるのだから。』