ある師弟
「4楽章「スピラエの逡巡」8楽章「ミオマルクの邂逅」
2楽章「オクシスの廻廊」…なぁ、コルン様。」
邂逅って、知ってるか?
そう言った彼女に、知っていますよと答える。
「思いがけなく出会うことでしょう。」
「8って数字はこうやってかく。横にすれば無限という形の記号に変わる。」
「それは思いがけなくではなく、必然的にだったと?」
そう。
「この作曲者はとても利口だったと聞く。
唯一と言ってもおかしくないくらいには
曲に対しての解説付きで書かれていたんだよ。」
それも本が何冊も出せる程度には。
…とんでもない熱量ですね。
「全部で12楽章あって、正確には幻の0楽章と
13楽章なるものがあるらしいんだがな。」
「幻の?どういうことですか。」
「この曲を作った者がクイズを出していてな。
曲を頑張って解いたら0楽章と13楽章が出てくるから
頑張って読み解け野郎共ってな。」
「…なんだか既視感がある言い方と言いますか、書き方と言いますかですね。」
そうひやりと冷たい目で言うコルンにだろう?と笑うギリア。
「逡巡は迷いに迷うことを言う。
戦闘で迷わない様に教えてやっているのだろう?」
「ええ。戦いの場で迷いは死に直結しますからね。
幾ら天使に近いとは言えども彼女は神。
華が散るか出血多量で死亡するとあれば
そこらの人間と大差ないですから。」
「スピラエはシモツケ。」
「…まさか、貴方。」
「愛しているのは彼女の方だった。」
ただ、それだけだよ。
そう目を細めて答える。
まるで、貴方こそが、作者だったかの様に言うが…
いや、そんな、まさか、な。
「大昔の曲だ。音を拒絶した時代の、埋もれた時間。
それをリメイクした者がいてね。」
「そんな古い曲が今になって?」
「まぁソレを作ったのがこの私だが。」
「ぶっ」
きたないな。
いや、さらっと言うからでしょうが!!!!
「なんならアルカネットは期待の作曲家だったぞ?
まぁメルを含めて後一人いたけど、誰だったかなぁ。」
「…それで、そのバスジャックとやらは良いのですか?」
「…ん?嗚呼、もう、いい。かな。」
そう目線を逸らす。どうやらこれ以上は話さない方が良いらしい。
コルンは咳き込み、ではお送りしますと席を立つ。
良いと言うも、なりませんよと答えた。
「貴方は大事なお方ですから。」
「それはお兄ちゃんの奥さんになる人の友人として?」
それとも、作曲した者達の、仲間として?
「どうとでもお取りになって下さい。」
「はいはい。」
++++++++++
ぱたりとコルンに見送られ、部屋に戻る。
はぁと深いため息を吐いた後、席について資料を見比べる。
「…やっぱり、繋がっていたか。」
ギロリと睨んだのは壁一面に
貼られていた楽譜やメル達の姿らだった。
関係性や、この世界の均衡やらなにやらを
書き殴っていると一つの線が浮かんできた。
「この世界は元々一つに束ねられていて、
その紐が線一本と解かれ分裂していっただけ。」
それが、3つに分断された由来であるだろうと踏んだのだ。
「…やはり楽譜を書き直すしかないか。」
一応頭の中に叩き込まれている楽譜。
それを出すとなれば、少しどころかかなりの時間が掛かる。
となれば、話は一つしかない。協力を仰ぐにしたら、一人しかいないのだ。
「…そこで私、ですか?」
「頼みます。界王神様、ピアノ作ってくーーださい!!!!」
「何を頼み込みに来たと思えば、うちの界王神に何頼んでんだあんたは……」
次の日、メルは現在調整に出てピリピリしているそんな中。
ウイスの元にやってきて頭を下げ、界王神に頼み込んで来ていたのは
「ギリア様、顔をお上げください。それでも私は無理ですよ。」
「でもなんでも作れるって」
「それは本来の力があればの話だ。今の俺達に縋ってもなんら意味ないぞ。」
「ビルス様の仰る通りです。時期が来ればご想像のものもお作りに出来るでしょう。」
「なら逆にピアノがある部屋とか知ってるか?」
「それは…」
「あるんだろ!?!?いかせてくれ!!!」
「…其処迄して、何故ソレに執着する。」
そう言ったビルスに、それはと答える。
「その作曲者がメルだと言い切れる根拠は?」
「……」
「あったとしてもあいつが望むようなたまかとおもうか?」
「これ、ビルス様。」
「言わせておけ。」
「あいつは。」
「ん?」
あいつは、寂しがり屋だから。
「全部が分かったその時、きっと泣いてしまうから。」
「…ウイス様、私からもお願いします。」
「っシン!お前!!」
「彼女をあの場所に。」
「……はぁ、余り怒られたくはないのですが。」
そうとあれば仕方がありませんね。
そう言って連れ出した場所はとういうと。
「此方になります。」
「っけほっこほっ」
「なんだ、この、ほこりは!!」
「彼女が無理矢理鍵をかけ閉じ込めて数億年は経過してることでしょうし。」
「すっ!?!?!?」
「まずここら辺の掃除からになりますが、それでも?」
「ありがとうございます。後は独りでやります。」
「ダリア…お前」
「あの曲は、皆に聴いてもらうべきだろうから。」
たとえ、私が書き殴った、狂った曲になったとしても。
「私はあの曲を、誰かに聞いて欲しいと思ったから。するだけ。」
だって、私は。
「(貴方の弟子であるのだから)」
++++++++++
「お師匠、お待ちください!!話はまだ終わって」
『嗚呼煩い!もういいだろ!?!?』
僕の邪魔をしないでおくれ!!
そう扉を閉められて、しょげる彼が可哀想だが
こうしないと出て言ってくれないから気苦労が絶えない。
西暦1004年。
現在和睦が締結されたと言う巷では、自由ではなかった。
曲を書いたら何が何でも処罰ものだったのだから
外でこうやって騒がれると困るもので。
確かに彼の様に希望に満ち溢れた目で
音を繋げればどれ程良いだろうか。
青い髪の毛を乱雑に束ねた女性がかたりと
音を立てて落ちたであろう写真立てを手で持ちあげた。
『…出来るならば、あの日に戻りたいよ。』
でも、戻れない。それなら、この家の地下
奥深くに眠らせるだけでなく、散らせるしかない。
何時か、この曲が、誰かの願いに、届くのであれば。
それは、その時こそ、私が眠れる、唯一の時間であろうから。
『書かなくちゃ。描かなくちゃ。』
そうして、私は私で在れる。
そう思って前を向けば先程追いやったであろう者が
真反対で仁王立ちしむすっとした顔でコッチをみているではないか。
はぁとため息を吐いてがらりと開ければ、中に入ってくる。
まぁ土足厳禁にしているので、
さらっとそこら辺丁寧に靴を脱いでくれるのは嬉しいが。
『だから何度も言っているだろう。私はもう曲を書かない。』
「でもこんな中途半端なんて、僕は許しません!!」
『だから』
アイリス・シュミットさん!!!
「貴方が書かないなら、僕が完成させます。」
『…それは私が描く筈の想像よりもかけ離れた、
狂いに狂った曲になり果てるとしても?』
「うぐっ、そ、それは…その。」
『はぁ…一応弟子は取らないと、豪語していたんだがなあ。』
「っでは!!!」
『名を継ぐということは、契りを交わす。いいね?』
アイゼン
勿論!!!
そう青い瞳が此方を覗く。
「アイゼン・クラインです。」
『知ってる。百億回は聞いたくらいだ。
私の弟子になるというのだから、
どういう意味か分かるだろうなあ?』
「ええ。悪魔とののしられようが構いません。
どちらにせよ周りは呆れていますし、
貴方が外で呆れているので僕の我儘が出ているだけだと
子供の言う事だからなんだで放任されるでしょうし。」
『…お前、策士だとか言われないか?』
さらっと言い出した言葉が怖いんだが。
いえいえ!!
「僕は貴方が、貴方の作る、この音楽が。
何よりも誰よりも、気持ちがいいと思ったのですから。」
『…他にも有名な作者は居る。
私は巷に出ているように編曲家でもあるんだ。』
コピーを作っている、魔の者。
それがどうしたのですか?
『は?』
「コピーとはいえど、模倣でも貴方が描いた曲ではないですか。」
『いや、だから、えっーーと、君幾つだ?』
「む、僕は確かに9つで歳もないですが、想像力はありますよ!」
『そういうんじゃなくてだな…』
子供の戯言だと言うのもまぁ、頷ける。
それに救われる、者も…また、然り、か。
『なぁクライン。』
「なんです?アイリスさん。」
『…私の名を呼ばせるとは言っていないんだが。』
「弟子なので。」
『外で言わないならいい。』
「あっダメもとおっけーやったぜこのやろ。」
『あんだって??????』
この時代にはとても似つかわしくない言葉が
出てきた気がするが、気のせいだと思うことにしよう。
誰だって間違えて言い出すやつもいるだろう。
そうだ、そういうことにしておいてやろう。
『それにしても家系は継がないのか?』
「そっくりそのままお返ししますよ。
何故鍛冶屋を継がなかったのですか?」
『…兄も姉もいるからね。妹や弟達も。』
「だからって縁を切るまでしなくても…。」
『曲を持つということはそういうことだ。』
御前に知られたくなんてないんだよ。
『なのにずっと言うから最近ご近所で御宅に来る子、
最近しょげているからいい加減腹くくって
弟子入りさせたら?とか言われだすじゃないか。』
「もう既成事実出来ましたね。」
『だあそうなんだって??????』
もう訳が分からないよ。
「ふふ」
『いやふふじゃねぇ。あとこんな
男の恰好していて良く私が女性だって気付いたな?』
「だって顔を見ればわかりますよ。貴方は女の方です。」
『…巷では騙せているというのに。』
「あれは見る目がないというものです。…それに、曲は正直です。」
端から端まで愛が詰まっている。
「貴方がとりかかっているあの大曲も、もうあと僅かではないですか。」
『と言ってもまだ半分も満たされていないがな。』
「でも構想は練れているんでしょう?」
『嗚呼勿論。』
「なら後は描くだけではないですか。
何故やめるだのなんだの言っているんです。」
『…怖くなったんだよ。』
「こわく?」
『音に、嫌われたら作曲家は終わりだからね。』
席を立つ彼女に、子供も席を立った。
咳き込みだして崩れた彼女に大丈夫かと声を掛ける。
何時か、嗚呼、何時かでいい。
『っけほ、ぼっ、けほっ、い、つか、』
「なんです?」
『…いや、私の下僕にならないかって』
「まぁある意味そうですね。」
『いや冗談だろうが。聴けよ。』
なんです聴かせてくれるんですか!?音楽を!!
だから音は鳴らせないって。
「え、ピアノ弾かずにどうやって作曲を?」
『そりゃ頭の中で作れるだろ。』
「うわーーーーこれだから天才ってやだなーーー」
『お前私に弟子入りしたんだよな???』
数分前の出来事消えたか????
「アイリスさんの手がける曲なんです。
あっ僕がこの世に広めますよ!?」
『私は誰にも知られたくないんだが。』
「えーーーそんなーーーーー」
『それに作曲家の処の名前は絶対に変えろ。
出来れば手袋を付けた状態でかいていろ。』
「え?どうして?」
『筆跡が掴まれるからにきまってるだろうが。』
「それで誰かに盗まれたらどうするんですか。」
『あ?盗まれる訳ないだろ。』
「え?」
だって、そう言って彼女は子供の顎をくいっと掴み
その手にペンを握らせる。
『その目で私の筆跡を。編曲してくれる神のご加護に導かれるのだから。』
「〜〜〜っ!!!!あいりすさあああああ!!!!!!!」
『だああああ!!うっとおしい!!!はなれろ!!!!馬鹿!!!!!』
それは、もう彼に編曲を全てを任せたも同然の言葉。
例え沢山の力が彼に注がれても、彼は一滴たりとも飲み込まない。
分かってくれている。そう彼は思っていたのだ。
そう、思っていた。
宙ぶらりんになった身体と、小さな置手紙と共に。
出会ってから、たったひと月だけの仲だった。
手すら中々繋がなかった。そこで気付いた。
嗚呼僕は、恋をしていたのだと。
彼女に恋をして、見てくれて、幸せだったと。
ならば、この恋を終わらせるなんて、嫌になって。
「…貴方も同じ、気持ちだったのでしょうか。」
それならば、この恋を忘れない様に、
色濃く残せるものを探しましょう。
そう思いながら、彼は一つの絵画に導かれる。
綺麗な額縁に、額装師が声を掛けた。
「おや、君見ない子だね?」
「あの、これは幾らで買えますか?」
「ん?嗚呼其処は使えないものだから捨てようとして
置いてるだけだよ。良かったら好きにどうぞ。」
「ありがとうございます!!!」
彼女に言われて一つの額縁を家に持ち帰る。
正確には彼女の、死んで今は居ない、アイリスの場所。
「アイリスさんアイリスさん。僕貴方の書いた曲、名前、全部分かりました。
この額縁に飾られる展覧会を作ればいいんですよ!!」
絵は額に飾られるべき。人々に見られ、守り続けられるべき。
「貴方が生前選んだ名前を、此処に書いて。僕が守り抜いて差し上げます。」
そして僕も、貴方の世界を、彩るのです。
「そうだなあ。そうは言ってもどれから選ぼうか…そうだ!
僕と貴方はたったひと月だけの、一瞬で生きていたのです。」
なら、作曲家の名はこうあるべきで。
〈エフェメラル〉
「貴方の名は、ヴァイス・ミア・エフェメラル」
私の白い、ひと時の時間。
それが、貴方の付けたかった、作曲家名。
そう言えば、風がぶわりとなびいて紙を落としていく。
嗚呼いたずらっ子なんですからと言った用紙にぴたりと目線が止まった。
ー拝啓、クソ弟子へ。
コレを読んでいる頃には私は貴方の加護にある神へと導かれていることかもしれない。
嗚呼下手すれば悪魔に導かれそのまま奈落に落ちている頃合いかもしれないな。
私の名前を付けたら、君は戦争が終わってから
14年程経ってからその曲を披露すればいい。
いいか?絶対に私の正式名称を中に書くんじゃないぞ?
したら絶対に奈落に突き落としてやる。今度こそだ。
「ふふ、いいですよ。それくらい、一緒に突き落とされる覚悟で来たんです。」
そういえばお前の作曲家名がまだなら、名前が欲しいだろう?
別に適当に書いてみたんだが、選んでいいし、どうでもいい。
「は」
紙は少し分厚く、空白の無い用紙に嫌な予感がよぎった。
彼女はとても賢い者で、文章の中に書きなぞらえていた。
”もやせ”
それは、紙を燃やして文字を浮かばせる古い昔の遣い方だ。
まさか、この曲は燃やしたことで13楽章目が浮かび上がるというものなのか!?
そう思いいたった彼は燃やすに燃やしていく。
すると思う通り、曲が浮かび上がって来たではないか。
一度食べて二度美味しいとはまさしくこういうのだろう。
いや正確には違うかもしれない。
でも、その感動を誰かに伝えようとしても、伝わらない。
この感情は、外に今出してしまえば最期。処刑者であるのだ。
ー文字を見たらお前も同罪。まぁ私に出会った時点で同罪だろうが。
戸棚に隠している赤い封筒を持って玄関の裏に貼ってある緑の封筒にある住所へと迎え。
お金は青い封筒に隠してあるから何処かから探ってしまえばいい。
「おい。其処はかいてないのか。」
++++++++++
そうしてやってきたのは彼女の家から遠く離れた森の中だ。
今にも動物が出て来そうな中、木々を掻い潜ってやってきたのは小さな古民家。
「…あら、珍しいお客さんね。」
どうぞと言われて紅茶を出される。
ぺこりとお辞儀をしてこれをと紙を渡せば
僕と声を上げたあと黙った。
アイリスの名前を言って、どうとなるのだろうか。
「……そう、この子が。なるほどね。貴方名前は?」
「えっと…エテルネル。」
「そう、エテルネル。貴方はこの子の弟子で間違いないのね?」
そう赤い封筒をぴらぴらさせて聞く彼女にハイと答える。
「僕はエフェメラルの逆を行く者です。」
「…儚い存在と永久の存在ね。良い名を付けたじゃない。気に入ったわ。
此処に好きなだけ居るといいわ。部屋を貸してあげましょう。」
「やった!!!!」
「親御さんは?」
「一応縁を切りました。」
「…貴方も色々あるのね。」
曲を書くから出ていく。そう言えばすぐに了承してくれたと言うらしく。
それに成程と納得の表情をみせた彼女。本名を言うには、もう、遅い。
それから数十年の月日が経ち、約束通りエフェメラルの曲を
自分の名前ではなく形として出した。
勿論今で言う大バズリを遂げ、彼女の曲が良いと各地域だけでなく国まで賛同し始めたのだ。
まあ当然のこと。彼女はとても優秀だった。
でも、そんなことも束の間で、彼女の編曲が外に出回り
そっちの方が有名になってしまい、此方には何もでなくなった。
「…すみませんお師匠。楽譜を燃やされ消されました。」
一度燃やしている原本は、流石に次はない。
火力の強い放火魔で、時すでに遅し、何も残らないままであった。
こんな状態ならば、もう、要らないと思っていたのに、
それでも人間、描きたいと思うのだ。
僕はその日に生きる、貴方の時間を。
「ですが、貴方が笑ってくれたように、僕も、描きます。」
今度は偽造しない。この素手で。
「僕は貴方を、愛したから。」