愛してる
「…えらく古い夢をみたもんだな。」
そう思いながら重い腰をあげ、衣服に身を纏い髪を結わえる。
性別も違う、かつての曲を手掛けた恩師の弟子でいたとは。
これまた驚きの情報源ではあるが。
「まさかエテルネルの名は私の方だったとは。」
確か彼女、エフェメラルは中に
エテルネルを持ち合わせていたと聞く。
勿論チェレステも忘れずにだ。
彼等の関係性が、此処で分かるとは思わなかった。
そう、彼等の名前は全員、作曲家名だったのだ。
他の子達の名前を知っている訳ではないが、
記憶を取り戻した今であれば色々考えがまとまるかもしれない。
それよりも、一番は。
「…貴方の描いた13楽章まで。」
この僕が、此処でなぞりえがくことに、いたしましょう。
++++++++++
コンコンとノックを入れてやれば入るよーと伸びた声が地に落ち地下深くまで下がり切る。
もう急降下。ジェットコースターであれば車線切られて下に急降下も待ったなしである。
『げっなにこれ』
「で、べーが此処にきて次の章に跨ぎ調が移動し他の子がおち沈み」
「…どうやら後で来た方がよろしいかと。」
『そうだね。』
パタリとドアを閉じてそっとして置こうと言ったサワアに対してメルも応える。
「それにしても楽譜ですよね、アレ。」
『そうですよね。あれ。』
「何かしってるので?」
『いんや〜〜???』
私は分からない。
そうですか。
『それにしても困ったなぁ〜〜ご飯食べる?』
「あの感じからして先に食べて置いた方が良さそうでしょうね。」
『じゃあ私よそってくる!!』
「あっちょ!…もう!皆で食べるつもりサラサラないんですかね。」
あの子はもう。
「…弟子と師匠が、此処には沢山いることですね。」
彼女の師匠がメルで、メルの師匠がコルンで、コルンの師匠がルトラールで。
これではいつぞやに言っていたマトリョーシカともいえる様な形ではないか。
その中に一体何を隠しているのやら。良く分からないことを考えても仕方がない。
メルがそう望むのならば、此方も手を出すというものであり。
「……それでこの面子が私の腹がすくまで待っていたと。」
「ええ。どうぞ、お召し上がりください。」
『だーーから言ったでしょ?絶対夜中くるって。』
「だからと言って風呂場にインカムつけてまでして監視する阿保がおりますか。」
えっそこまで???
いや貴方の邪魔をしたくないと一点張りでしてね。
「嗚呼なんか、ご、ごめん…」
「いえいえ。それで、書けたのですか?」
「まあ、綺麗には書けなかったけどね。」
楽譜には各題名が付けられていて。
ほう?
「一応全部で14楽章になる。」
『え?12じゃなかったっけ。』
「え?」
「メル様?」
『あっやーーーーべ☆』
貴方という方はですね
あふはははははあは
そう口をぐいっと開けられてジタバタするメルを他所に
サワアが此方はと声を掛ける。
「この楽譜はかつての作曲家が家を追い出されて作ったものだ。
思い出したからこそ、書き殴っていたけどね。」
「まさに執念ですね。」
「嗚呼。彼女の演奏はとても心地よいものばかりだった。
勿論非情な感じの曲も中にはある。」
名前も勿論、綺麗な言葉ばかり。
「でも全部で12楽章のみだ。発表されているのはね。」
「発表?どういうことですか?」
「私が見ていたのは時間軸で行けばCの過去に位置するだろうね。
ちなみに僕の前世は編曲家だった。」
「僕って…貴方」
「これでも男だったもんでね。」
えっそうなの
そこは覚えていないんかい。
『やーだって女の子みたいな顔つきしてたし。』
「それそっくりそのままお返しするよ。
全く、君が外で襲われなかったのが
奇跡中の幸いだと思わなかったもんかね。」
『お、おそっ、っていうかなんで私だってわかるの?』
「逆に聞くよ。なんで私が楽譜を言ってそうだと言える。」
うぐっ
…白状した方が身のためですよ?
『うう…実は私もさっき見て来ちゃって。』
「いつですか。」
『……手触れた時。』
「本当につい先ほどではいですか…!!!!」
何故言わないのです
だって言う状態じゃなかったもん!!!
『まぁ生前が流石にそんな男勝りだとは思わなかったけど
…にしても随分私自由奔放に歩いてたんだな?』
「いまでも自由奔放ですがね。」
そう言ったサワアに対してメルがサワアを見れば
サワアは別の方向を向いて逃げる。
「それで、その楽譜を用いて一体何をするつもりだったので?」
「それは」
『言っておくけど、依り代になろうだなんてこと。私が許さないからね?』
「エフェメラル……」
『その話が本当ならば…色々推察していたことにも腑に落ちる。』
「どういうことですか。」
『何らかの形で作曲家がこの世に落ち、気を束ねて力を持ったということだよ。』
ですが、それに確証は?
ある。
「どこに。」
『ねぇ、あかねちゃん。』
「…なに」
『ルトラールって作曲家。知ってる?』
「なっ」
「ええ。音楽の初期の初期でしょ?ノア・ルート・パーカー。
あんな有名なの知らない訳がってどうしたの皆そんな顔して。」
「……ひょっとして、ルメリア様とかも、ご存知ですか?」
なにルメリアって嗚呼ひょっとしてアレか?
「ヴァグナー・ア・ルメリアのことかな。
初期に近い所に居たけど…そういや恋愛もので
死んだとか心中したとか聞いたことあるけど。」
「っメル様!!!」
『その人達。此処で神様してたんだよ。』
「は???いやいや、何を冗談……えっまじまんじ?」
『まじまんじ。』
何意味の分からない言語を申すのですか。
「…えっ待って。アスティ・リッツォとかリミティー・フォンターナとか
えっちょあのアニュラス・テッド・クラークとかいたりするの?!?!?!?!」
「まぁ、聞いたことのある名前は出てきましたね。」
「あっだ、大丈夫ですか!??!!?」
「もうむりだめしぬ。」
『おきてーーーおきちぇーーーー』
そうぺしぺしと殴る様に叩くメルに
やめなさいとコルンがメルの腕を取って上に上げる。
軽くバンザイ状態にあーん、やめてよー、ひーどーいーよぉーー
と棒読みの声が上がるが、無視した方が良いだろう。
「マジかアニュラス様激推し民族なんだけど。待って辛い。」
「実際おられますからね。お会いになれますかね?」
「え」
『んー今は連絡一切取ってないけど、出来なくもないよ。』
と言うかそろそろしようとは思ってたけどね。
「待って心の準備欲しい。待って無理待ってあっちょっとまって?!?!?」
「今度は何ですか。」
「アニュラス様って元の世界の記憶とか保持してるの????」
「…それは聞いたこともないですし、なんとも言えませんね。」
「メルさんが貴方に触れて記憶を取り戻したように
アニュラス様も同じ様に触れれば可能性があるかと。」
「触れたら私死ぬよ??????」
「ギリア様?????」
いやだって推しだもん。最推しだもおおおん。
そう泣きながら崩れ落ちる彼女にさいおしとはと困る者達に
聞いてこられた見て聞いたと変な日本語を言い出す子に振り返る。
「最推しとは、それ即ち一番推している。超好きな尊敬して愛して止まない人のことをさすのであーーーる!!!!」
「……えっと、何方で。」
「あっすいません。エリーゼさんです。もーギリア様が気になるからって駄目だっていったのに!!」
そう困りながらも後から入るのはアルカネットだ。
前に見た時は少し幼いと思っていたが
どうも周りに変わってその姿も少しは変わるらしい。
ツインテールをしている彼女の雰囲気が幼い妹に見えていたのに
今ではお姉ちゃんに見えるのは不思議なものである。
「急に音が下からなんだろうと思って外に出たら彼女が走ってったので追いかけたんですよ。」
「嗚呼成程、そういうことでしたか。」
「えっ待って待って、作曲家の話してた?何々?誰の話し?」
「アスティ・リッツォとかリミティー・フォンターナとかアニュラス・テッド・クラーク様とか。」
「敬称が変わりましたね。」
そりゃあもうそうでしょうとわいのわいのしてる。
ちなみにエリーゼの最推しはトレースらしい。
こうやって盛り上がると必然的にメルが大人しくなる。
本来はわいのわいのするのが苦手としているのだ。
意外に見えるだろうが、事実である。
食べ物を食べたからというのもあるのだろう。
こくりこくりと頭が落ちるのに
もう寝ましょうとコルンが言えば
大きなあくびをして声を上げた。
「私は彼女を送ってきます。お前達も早く寝るんですよ。」
ちゃんと歯磨きをさせ、部屋に入ろうとする中一つドアを見つける。
『あれ?あそこ開いてたっけ?』
「…きのせいですよ。ほら、寝惚けてないで早くあがる。
嗚呼それとも私が抱いてあげましょうか?」
『……んんん〜〜〜!!!!』
「いやどっちですかそれは。」
両手を前に出してはバタバタとしている。
良いのか嫌なのかはっきりしないのにしかめっ面になってると
だっこと嫌そうな声でいうものだから
どっちか分からずに抱き上げれば違うと言われた。理不尽である。
それでも唸りつつもちゃんと抱き上げられ静かになるんだから可愛げがある。
何だかんだ言って甘えられなかった者なのだ。
今精一杯甘えていていいとは思うようになってきたくらい、絆されてしまった。
まぁ、絆されてしまったことを後悔するならずっと昔にしていたほうが良かったのだが。
「おやすみなさい。よいゆめを。」
『おやすみぃ』
そうへにゃりと笑った後、すやすやと寝息を立てれば安心である。
息を吐いて、席を外そうとした時だった。
「…余り此方の真意に気付かれると困るねぇ。」
「っな!!!!あっ」
「しー…折角寝ちゃえたのに、起きちゃうよ?」
「……アニュラス様、何故此方に?」
「色々話があってね。時間ある?」
「ええ。」
アニュラスが顎で外を示す。
どうやらメルの居る部屋より離れた方が良いとのことだろう。
念を入れて次の担当であるモヒイトを起こしてから彼が来てから話をすることにした。
++++++++++
「それで、ご用件は。」
「単刀直入に言おう。…こっちで意見が分かれてね。少々対立している。」
「…それは大丈夫では、なさそうなんですね。」
「嗚呼。加えてトベラ様とトレースが組んだ。」
「っな!!!それは」
そう、この世界の、戦争が起きると言っても過言ではない状態。
「何時からかは知らないけどね。今はもう僕もヴァイスも帰れない。
一応ヴァイスの持ちである現在生きてる華神らは全員保護済みです。
其処ら辺はご安心して頂けると。」
「…それは、ええ。」
急な話に目も覚める。
「それで、これからどうされるので?」
「君らが僕らの前世、正確には人間で在った時の
願いであるものに気付かれたら黙っていられなくてね。」
「まさか、戦いに参加して頂けるので?」
「本来はご法度なんだけどね。場合が場合だから。」
「…彼女は華樹神、もう次に世代が交代した。」
だから貴方方理は手を引くべきだった。
ええ、そうだよ。
「奴らの狙いが、例え原初に戻させるとしても?」
「…それは、」
「この世界そのものをひっくり返し、全てを泡沫に戻そうというんだよ。」
「そんなことが可能なのですか?」
「君らでいう全王様っているでしょう?アレと似たようなものだよ。」
「…いよいよ深刻な状況下に陥ってしまいましたね。」
我々は天使から抜けた状態。即ち神でも人でもない者です。
「対して外の人間らは私達天使が受け持つ状態を維持しています。
余りにも分が悪い。…いや、悪すぎますね。」
「トレース達も本来持っていた華神らを請け負っているからね。
力を眠らせているとはいえど、かつての力を持っているんだ。
死ぬことが出来ないからこそ、力を出せるというもの。」
「尚更まずいではないですか。」
でも、そうだろうか?
え?
「君ら天使は常に中立。たとえ神々の戦争が出ても手出しは無用。」
「内部の人間だとしても、とは限りませんよ?」
「仮にそうだとしても君らが太刀打ちしてくれるだろう?」
「それはそうですが…」
「彼女に関しては問題ない。もう、君が充分に、理解していることだろう?」
手を抜いていることすらも。お見通しな癖に。
…ぐっ
「いつから気付かれて?」
「結構最初から。彼女勘が鋭い上に力のセーブも上手いからね。
流石はルトラールの実子で産まれただけはある。良い子だね。」
「そりゃああのお方のお子ですから。当然と言えば当然でしょう。」
「迷ってるんだ。」
「何をですか。」
「あの子が手を染めるその姿を見ることが。」
それは、そう黙るコルンに、それもそうだよねと彼はこたえた。
「僕達だって、こんなにも人が巻き込まれるなら音を止めろとか言ったもの。」
「アニュラス様……」
「でも音はルールは止まらない。止める術など知らない。だからせめて、願いを華に、閉じ込めた。」
「…あのお方らが、止まることは。」
「ないだろうね。だからこそ、締結をと足を運んだんだよ。」
ね、スピリタス。
そう言って振り返るアニュラス様に大神官がええと答える。
其処には小さくなっているはいるが、全王様らもお見えになっていた。
「…ごめんね、巻き込んじゃって。」
「構いませんよ。此方の落ち度でもあります。」
「狡いこと言うねぇ〜お互い。」
「ええ、お互い様でしょう?」
クスクスとひとしきり笑った後、アニュラスが声を掛けた。
「2番目の廻廊が終わったと聞きつけた。上の者達は種を明かし、計画を進めだした。」
「…そうですか。それならば此方も本腰を入れるまで、ですね。」
「我々の目的はあくまでも彼等の阻止。それ以外の攻撃は原則出さない。」
「わかりました。頭に入れておきましょう。」
そういえば貴方、曲を書いていたとお聞きしましたが。
うっ……
「それは止してくれ…頼む。アレは色々と稚拙なことが多いんだよ。」
「ふふ、貴方を尊敬する者が折角出てきたというのに?」
「え?何処の誰だい?そんな物好きな子は。」
「さて、どういたしましょうか?」
「…私に聞かれても困ります。」
あと、聞いた彼女も困るでしょう。
++++++++++
「と、いう訳で、本日から参加されます。」
「【早期】純環の理管轄者であったアニュラスです。以後お見知りおきを。
ヴァイスは現在華神らの子達を守るに徹してもらっています。此処は私が来ました。」
外は現在中央であるあの華樹を支配しています。
そう言った彼に対し、メルはそっと周りを見渡す。
何処にも居ないと思っていたら、そういうことだったのか。
『…いずみ』
「え?」
『混沌の海の主。』
「何の話を?」
『ねぇ、アニュラス様。貴方ならどう思う?この世界がどんどん廃れていく。
華を愛でることなく、時を回し続け出した過去を知らない未来の者達。』
「…私なら、華を植え付けることにしますね。」
そう、それならいいと笑うメルに、貴方はと聞く。
赤い髪の毛が風に揺らいで。赤い眼が此方を見つめる。
「貴方は、どうするのですか?」
『……私なら、まず、一度種を全部引き抜く。』
「何故」
『そうしたら地盤がみえるから。
形を作ってから乱雑に種を飛ばす。』
「一度乱雑に飛ばしていたのを?」
『そういう風に見せかけるんだよ。順番を狂わせただけで、
最後に置いた種から引けば形が浮かび上がる。』
この、廻廊みたいにね。
『呪文が生きているということはそれ即ちその対応者も存在するということ。
死んでいなくて、死にかけているだけで、忘れ去りそうになっているだけで
その状態から蘇生するには、生きている者の魂自体が必要になってくる。』
なら、私なら、そうする。
『依り代になりそうであり、永遠から離れようとする存在を。
混沌の海に溶かし、回し続け、混沌そのものを復活させる。』
音も花も、入り乱れだした、この瞬間こそが、好機というものだろう。
『はっ…ならソレを利用するまでのこと。』
「め、めるさま?」
『音を忘れ葉を契り。そしてその先忘却の彼方。
ふふふふふ、面白くなってきたじゃないですか。』
加えてこれから出会うはかつての旧友たちと共に
最期は作曲家の元に立ち向かって勝ってくるんでしょう?
『ひとまず私は廻廊を進めていたほうがいいね。』
「ええ。準備がもうすぐの筈です。」
『じゃあ行ってくるわ。』
「では」
ついてこなくていいよそう手をひらひらとするメルに
いやですがとコルンが言うも、良いとメルの目が言うのだ。
『おりこに、いててね。』
「…メル様」
『じゃ、アニュラス様。彼女らを。』
「…うん。この場所は任された。いっておいで。」
『…ん!いってきます!!』
そう言ってメルは走り出す。
これからどんどんと、時間が進んでいくことだ。