すれ違いざま、線香花火
第1宇宙、惑星ツヴェルク
物語のような絵本のような世界。
三次元よりも二次元に近い星。
記憶を留める額縁を作る種族がいる。
本当に止めたい、または戻りたい時間を
本人の記憶から切り取って飾る種族が、生きている。
アルトリアが生きていた世界だ。
…そう、彼女が、其処に、生きている。
キラキラと金色の髪色を降ろして、背中越しでもわかる。
『迎えに来たよ。アルトリア。』
「…ほんと、よくわかったね。」
『上野さんいや…成瀬翠鳥(なるせみどり)さん。』
「…よく作曲家名の方を言い当てたね。」
そう顎を引いて答える彼女に当然だよと答えた。
『あの日あの時、私達は罪を望んだ。滅びを望んだから。』
「…思い出したんだ。」
『うん。ごめんね、沢山悩ませちゃった。困らせちゃった。』
「…いいの、少なくとも貴方は罪なんてない。私の方が、」
『飛行機、落ちちゃったね。』
お空で、消えて無くなっちゃった。
そう言うメルに、そうだねと答える。
「流石に次の瞬間貴方に出会えるとは思わなかった。
あの時、不時着して貴方の事を思い出して笑ってしまったから。」
嗚呼願わくば、貴方のことを、貴方達と、演奏が出来ればと。
『…皆想いは一つだった。だから此処に集まったんだよ。アルトリア。』
「…メル、良いの?でもそれは、
そういうことはつまり、
貴方が一番を望んでいないという事なのよ?」
貴方はあの時
「演奏会に出たくなかったから、拒絶しなかったのでしょう?」
そう、そうだよ。
『私はもう、演奏を見るのも聞くのも、するのすらも、嫌だったからね。』
身体が拒絶していたのだ。もう、力が入らなくて、
医者には精神的に参っていると告げられていた。
確実に別の高校というか外に出た方が良いと言われ、
早い目にと言われたので、高校を卒業することもできずに
中途退学を宣言させられていたのだ。
嬉しさ半分、悔しさ半分。
元々身体も弱かった為、走ることもできなくなった。
身体からドンドンと力が消えていく感じが怖かった。
華やかな彼女らには、せめて自分の醜い状態を見せたくなくて。
だから毎日頑張った。沢山食べて、沢山吹いて、
そうして音すら忘れてしまえるくらいには。
機械的になったこの精神が、壊れたと告げる前に
死んでいたと気付いたのは既に遅かった。
だって音の聞こえない。演奏会など、そんなの、ないも同然でしょう?
『演奏会の当日、私達は全員違う場所に旅立った。
貴方は海外に、私は違う場所に、彼女らは演奏会に。』
「ええ。そして、奇しくも全員が同時に、悲劇に会った。」
7月31日、午後5時15分に。
全員が同じ時間に、同じ様に、願いを望んだ。
まるでその願いが、束ね一つになり、応えてくれと言わんばかりに。
「でも貴方が悔やむことはない。
それは肉体は勿論貴方自身充分頑張った証拠でしょう?」
『お母さんにも愛されなかった。』
「っ、」
『望まれるであろう愛情は、
音楽にすら縋り付いても、貰えるものはなかった。』
演奏会、聴きに来て欲しかったのに。
…エフェメラル、
『でも、もう良かったの。疲れちゃったから。』
これが、私達の全て。そして、これが、願い。
『私が繋げたの。三つ分、いや、四つも重ねてしまった。』
「…どういうこと?」
『私は演奏者であり、作曲家でもあり、編曲家でもある。』
そして、物を作る、創造者でもあるんだよ。
そう言ってメルはタクトを手に取り一振りする。
背後には黄金の髪の毛を降ろした男性が居た。
「…素晴らしい。全てを持ち合わせた感情は、
そんな物語の結末だからこそ得られるものだったんだね?」
『…トベラ、貴様。何が狙い?何を望んで彼女らを巻き込む?』
「さぁ?それは華の導きあるが故。」
『違う。華を廻して続ける最期は華樹の栄養を蓄えていくため。』
何が望み?何を成し得ようとしている?
その身に余る程の力をもたらして破滅以外の何物も生まないというのに…
ちらり、視界に過る。綺麗な笑顔。優しい時間。
『まさか』
新たな混沌そのものを創り出そうとしているのか?
『…そんなこと、私が許す訳がないだろう…!!!!』
メルは手に力を籠め怒りのままに振り下ろした。
避けられるのは当然だが、
このままこの地を崩壊に持ち越すのは余り得策ではない。
なら、やることは一つだ。
『アルトリア、君、戻れるね?』
「え?」
額縁よ!華の者連れて舞い戻れ!!!
そう言ってメルは金色の額縁を一つ作り上げ、その身を足で蹴り飛ばす。
ごめんと笑って手を振ったメルに、アルトリアが声を上げた。
ちゃぽんと音を立て落ちたアルトリアの姿を階段から上がって来た
コルン達が見つけて声を掛ける。
「っな!?」
「アルトリア様!?!?」
「っ駄目メル!!貴方しっ」
パリンと音をたて、割れたガラスから守る様にサワアが前に庇ってやる。
大丈夫ですか?と声を掛けると、ええと少し不安そうに答えて返す。
「…これは、一体」
「触れない方がいいよ。」
「アニュラス様」
「遮断されたね。…僕らも此処から出る準備をした方が良さそうだ。」
「何故ですか?此処にいれば安全なのでは」
「それは廻廊が終わる迄の話。廻廊以外の生物は
終わった後この場所から外に繋がる場所が消えれば最後、
もう二度と元の世界に戻ることは出来なくなってしまうよ。」
「なっ、なんですって?!?!?!」
急いでと走らせるアニュラスに、一同が下に居り続ける。
此処は最上階。今からいって入れる場所と言えば、
額縁が正常に使えていた処があった筈だが、
「…そんな、何処もかしこも、壊れているではないですか!!!!」
「…まずいですね。向こうの人間がこっちへの通路を覚えて
額縁ごと破壊しつくしているのでしょう。」
「そんなこと!!いや今はとやかく言っている場合ではありませんね。」
「皆さん走りますよ!!!急いで!!!」
そう走り出した天使らに上から何かが落ちてくるのが見えた。
崩壊が始まっているというのか。この地が、完成した直後から。
では、メルが一度終焉を司った時、彼女達は何故維持出来たのか。
「恐らく完成出来ていたからでしょうね。」
「完成が?ですが貴方方が全員集まっているではないですか。」
「それはあくまでも一部分の完成。あの子からしたら未完成状態なのよ。」
「…だからこの地は維持できず崩壊を辿ると。」
「一度崩壊が始まれば再度創り出すことは不可能。」
だからこそ下に走って行くという者。
「空を飛ぶとか落ちるとか考えないのですか…!?」
「馬鹿いえ!そんなことしてみろ!!
気を練れない状態でやれば落下死待ったなしだろうが!!!」
「えっそうなの!?」
「彼女の仰る通りです。我々は現在天使と人との狭間に位置する者。
その為本来あるべき姿の力を引き出すことは不可能。」
「ほぼ制限食らっているといいますか、なんといいますか。」
「いずれにせよ一番早い話がこの階段を急いで降りることですよ!!!」
成程、通りでお前達が焦っておりてきていたという訳だ。
そう言って破壊神達が続いておりろと言って叫び下の者達に声を聞かせた。
そうすれば気付いた者達が気付いてない子達を連れ、下に降り続けるではないか。
「まるで、廻廊みたい。」
「なんだよ。廻廊ってそもそも螺旋階段とは違うだろ?」
「嗚呼違う違う、前に楽譜見た時にさ、
螺旋階段みたいにこう追いかけるみたいな音楽あって。」
「ひょっとして
「そう!!確かメルもそんな曲書いてた気がするんだけど〜〜!!
嗚呼どうしてこういう時に記憶出てこないのかぁ!!!」
「それで何とか防ぐことが出来るのですか!?」
「一か八かやってみる価値はあると思う!!!」
ですが貴方、杖など何処にも…
そう言っていると此処にと手にしたのは、
「っ貴方それを何処で…っまさか」
「ふふ、華樹神が楽譜を作る者ならば、私達は音その者。
それ即ち、音一つだけを創造することなど容易いというもの!!」
「水面高校吹奏楽部はありったけの感情を思い出して!!!
魔女組は元の想い出を思い出して手に華に力を籠め続けろ!!」
「はい!!!」
「はぁい、やるだけやってみるとしますか。」
そう言って各々が手に力を籠め始める。
すると練れていなかった気が
彼女らの所だけ芽吹き始めるではないか。
壊れ崩れ落ちる最中、足を止めずにも気を練るとは…
「(修行をせずに、一発でことを成そうとは…
本当に、彼女は人に恵まれているというものですね。)」
コルンはふっと笑いつつも足を止めず周りの子達が
巻き添えになっていないかを確認しながら降りていく。
先頭は下にいた者達が走っているので
必然的に一番最初に辿り着いた者達が後方にいくもので。
「おや、楽しそうですね?」
「そうみえますか?お兄様。」
「ええ。実は内心私もわくわくしておりまして。」
「……人間に感化されていません?」
「おや?貴方はそうでないと言い切れるので?」
ではその心は一体どう説明をして頂けるのでしょうか?
…止して下さい。
「不思議ですよね。始まりの大地から分かれた紐が、
また一つに戻ろうとしているのですから。」
「…戻ってしまえばいいと思わなかったのですか?」
「正直申し上げますと、割と最初は戻ればいいと思っていましたよ。」
それこそ、今外にいる奴らと同じ考えを。
「っな!!!」
「勿論今は気が変わっています。
あんな考え浅はかだったなと改めて思いますよ。
寧ろあの考えで留まっている彼等が
いっそのこと憐れだなと思うくらいには、ね。」
「…何故心変わりをされて?」
「さあ?それは、エンドロールを終えた最後にでもお話致しましょう。」
「もう終わっているというのに?」
「いいえ?フィナーレすら、未だくすぶっているだけですよ。」
まだ、春は終わっていない。
そう笑ったサワアにコルンは目を丸くして驚く。
「ふふ、我々はただ一つ。大神官様のご命令通りに、
中立を維持し続ければいいという者。」
「例え誰かに良しと言われようとも、ですね。」
「ええ。それこそが、我々の守るべき「ルール」とやらでしょうからね。」
「…ほんと、彼女というお方は
バカバカしくなるくらいには
面白いことを仕出かしてくれますね。」
「ええ本当に、全く困った幼馴染ですよ。」
「ですが、そんな彼女が。好き、なんでしょう?」
「おや、こんな時まで兄弄りですか?
貴方も肝が据わっていますねぇ?」
ええ、そうですよ。
「だってあの子と同じ様に私もまた、
貴方の事が好きですので、ね。」
「……ほんと、叶いませんね。」
弟には困ります。
ええ、困り続けて下さい。
「でないと貴方が消えてしまえば、あの子が泣いてしまわれますからね。」
「…困らせないと消えないと思われて欲しくは無いのですがねぇ〜。」
仕方がないですね。今回限りですよ。
ええ、頼みますよ、お兄様。
「可愛らしい弟の頼みです。今回限りですよ。本当に。」
「…さて、そろそろですか。」
そう言っている間に、彼女らの気が変化を遂げる。
スカビオサの花がバラに変化を遂げたのだ。
それだけではない、アルトリアや、他の子達も花が変わる。
「これは…!!」
「アストランティア」
「え?」
「…そっか、ねぇ古都。貴方は本当に
何処までも、優しい子だったのよね?」
「アルトリア、様?」
「”華よ神よ魔の者在ろうとする存在よ、
我が主ヴァイス・ミア・エフェメラルの名に基づいて
我が名アストラ・ルトリアの名に置いて。
第一楽章第一番目の華の者環の者真なる者を、
今こそ儚き願いを継げ呼び覚ませ。”」
代償与えて、お願い聞いて
っなにを!!!
「”交響曲第4番「真昼間の白昼夢」第一楽章第一番”」
【希望の犠牲】
「…っそれなら!!
”華よ神よ魔の者在ろうとする存在よ、
我が主ヴァイス・ミア・エフェメラルの名に基づいて
我が名ギリア・カピタータの名に置いて。
第一楽章第二番目の華の者環の者真なる者を、
今こそ儚き願いを継げ呼び覚ませ、
代償与えて、お願い聞いて”」
「”交響曲第4番「真昼間の白昼夢」第一楽章第二番”」
【雨の気まぐれ永久の喜び今此処に】
そう言って彼女達は次々に杖を創り出しては
タクトを創り出して華を咲かせるではないか。
メルやアニュラスの様な理に成り得る者達では
なかったのかと思っている間に次へと話が変わって行く。
杖が出てきたその手の中は、綺麗な白い色を輝き放っている。
青色に変化を遂げては白に戻る処、
恐らくメルの力を定期的に貰ってのことだろう。
そうしたら彼女の負担がどうなるか、分かっている。
分かっているからこそ、コレを繋ぐしかないと思っていたのだ。
「”華よ神よ魔の者在ろうとする存在よ、
我が主ヴァイス・ミア・エフェメラルの名に基づいて
我が名アシュガ・ベイリーの名に置いて。
第一楽章第三番目の華の者環の者真なる者を、
今こそ儚き願いを継げ呼び覚ませ、
代償与えて、お願い聞いて”」
【
そこでアシュガの形が変化する。
女性の様な形が男性の姿に変化し、
髪の毛も少しだけは短くなった。
執行人だからなのか、ウイスらに近しい
神官の様な衣服に変化をする。
気の高まりが変わって行く。
それはまるで、想いが一つになり、
さらに強いエネルギーを
生成しているかのようにも見えた。
「”華よ神よ魔の者在ろうとする存在よ、
我が主ヴァイス・ミア・エフェメラルの名に基づいて
我が名アイビー・ヘデラの名に置いて。
第一楽章第四番目の華の者環の者真なる者を、
今こそ儚き願いを継げ呼び覚ませ、
代償与えて、お願い聞いて”」
【死んでも離れぬ不滅の想い】
現在廻廊5階層目。
なるべく早くと思っているのか早口になるも
きちんと力を引き出すところは流石元悪魔か。
彼等の願いは、まるでメルを思っているかのようにも見えた。
メルがかつて、彼等を、音を愛したその日が在ったように。
彼等も今、同じ様に彼女を愛して止まず、
願いを託していることだろう。
「”華よ神よ魔の者在ろうとする存在よ、
我が主ヴァイス・ミア・エフェメラルの名に基づいて
我が名…ビオランテの名に置いて。
第一楽章第五番目の華の者環の者真なる者を、
今こそ儚き願いを継げ呼び覚ませ、
代償与えて、お願い聞いて”」
【悲哀の心に酔いしれて】
優しい時間。愛おしい時間。確かに在った、その一瞬。
忘れなくて良い、忘れたっていい。だって在った存在した。
だから何も怖がらなくて良い。
だから何も寂しくなんてない。
約束は果たされるべきだから。
約束として、成り立っている。
「”華よ神よ魔の者在ろうとする存在よ、
我が主ヴァイス・ミア・エフェメラルの名に基づいて
我が名サキョワの名に置いて!!
第一楽章第六番目の華の者環の者真なる者を、
今こそ儚き願いを継げ呼び覚ませ、
代償与えて、お願い聞いて”」
【公正なる者、神草よ】
名を変えなくていい。姿を変えずでいい。
ありのままで、笑って前を向いていく。
それだけを、貴方は望んだ。
ならばそれだけでも、叶えてやりたい。
小さな願いばかりを出して、
本当に叶えてしまいたいもの、
取り外す幼子に、祝福を幸福を、
幸を続けて欲しいから。
「”華よ神よ魔の者在ろうとする存在よ、
我が主ヴァイス・ミア・エフェメラルの名に基づいて
我が名モネアの名に置いて…!!
第一楽章第七番目の華の者環の者真なる者を、
今こそ儚き願いを継げ呼び覚ませ、
代償与えて、お願い聞いて”」
【貴方を信じて、微睡んで】
どうか酔いしれ狂ってしまえ。微睡みに。
真昼間の中で息しか出来ない儚い存在、神様よ
貴方の居場所は此処しかないよ。
皆が待ってる、此処にいる。
白い世界ではない。貴方が全てを忘れたあんな悲しい世界では。
黒い世界ではない。貴方が全てを失ったあんなひどい世界では。
青い世界ではない。貴方が全てを知ったあんなつらい世界では。
此処は何処でもない、現実の世界。
夢でも永久でも一瞬ですらもない。
約束果たせし、奇跡の世界。
「”華よ神よ魔の者在ろうとする存在よ、
我が主ヴァイス・ミア・エフェメラルの名に基づいて
我が名カレンデュラの名に置いて…!!
第一楽章第八番目の華の者環の者真なる者を、
今こそ儚き願いを継げ呼び覚ませ、
代償与えて、お願い聞いて”」
【初日の想いを留めた瓶】
だから戻っておいで。怒ってないよ。
抱きしめてあげる。優しくするよ。
だからお願い、泣かないで。
其処に縋らず、こっちにおいでよ。
辛かっただろう、苦しかっただろう。
誰も責めない、射止めない。
ただただ君だけ、笑っているだけ。
もう大丈夫、いたくない。
「”華よ神よ魔の者在ろうとする存在よ、
我が主ヴァイス・ミア・エフェメラルの名に基づいて
我が名シベリアポピーの名に置いて…!!
第一楽章第九番目の華の者環の者真なる者を、
今こそ儚き願いを継げ呼び覚ませ、
代償与えて、お願い聞いて”」
【私が勝つ】
光が変わる。宝玉が空色に光り輝きを放ち始めた。
決意の示しを付けてしまえば、価値を見出したか。
それとも、彼女と、リンクして、しまえたか。
いずれにせよ、華神らの詠唱が続いて止まらない間は
徐々に気が練って練って練られ続け、その大きさは
今此処にいる天使らが元の状態に戻っても
きっと太刀打ち出来ない程にまで膨れ上がっていた。
其処から光を続け、途中で消したら
もう二度と力が引き出せないかのようにも見える。
それ程まで崇高で、尚且つ完璧ともいえる形だったのだ。
「”華よ神よ魔の者在ろうとする存在よ、
我が主ヴァイス・ミア・エフェメラルの名に基づいて
我が名エリーゼ・レウィシアの名に置いて…!!
第一楽章第十番目の華の者環の者真なる者を、
今こそ儚き願いを継げ呼び覚ませ、
代償与えて、お願い聞いて”」
【
華が変わりを遂げる中、現在廻廊9階層目。
何人かは着地が出来ると察知して
下に飛び降り始めているが
華神らは走り続け、前だけを見据えている。
その中で、一人、雲行きが怪しくなる子を、コルンが見つける。
「”華よ神よ魔の者在ろうとする存在よ、
我が主ヴァイス・ミア・エフェメラルの名に基づいて
我が名ティナ・ライトイーの名に置いて…!!
第一楽章第十一番目の華の者環の者真なる者を、
今こそ儚き願いを継げ呼び覚ませ、
代償与えて、お願い聞いて”」
【私を見て誓いを願って】
そう叫んだ後、音が続かないことにやはりかとコルンがぼやく。
「っアルカネット!!!早く!!!」
「…っ駄目、わ、わたし、は」
彼女はまだ、華を咲かせていない。
「っ崩れますよ!!はやく!!!」
そう言って消えかけている光を束ね、
ダリアが声を張り上げる。
こうなったらと杖を変化させ始めたのだ。
「ダリア様!!っやけにならないで下さい!!!」
「っはなせ!!仮止めしとかねぇと、せっかく…っあ!!!」
ふわりと光が消えて泡になって消え失せる。
ドンドンとがれきが落ちてくる中、扉に向かって走れば
扉の前では界王神らが防御結界を張りながらも
破壊神と協力して維持してくれていた。
瓦礫を破壊し、破片は界王神がガードで守る。
その中を潜り抜け、急いで入っていく皆に一人立ち止まる。
「…アルカネット、お前、いい加減にしろよ…!!」
「っ志村止めろ!!」
「華が咲かせれないからなんだ、音が出ないからなんだ!!
そう言って逃げて迷って泣いてりゃ助けてくれると思ってるのか!!!!」
「っ!!!」
声を荒げる彼女が更に言葉を発する。
「メルは…っ、古都はな!!音すら分からなくなったから私達と居れなくなったんだよ!!!!」
その言葉に、世界が止まるかのような感覚を覚える。
…今、なんと、
「今なんと、おっしゃいました?」
「…時効だからこの際はっきり言うが、あいつ元々身体が弱くてな。
身体の動きは良いのに走るのが好きでも医者に控えられてね。」
好きなことも拒絶され、走ったのが母親に見て貰える音だけだった。
まあ、そんな音すらも、途中から聞こえなくなってしまったが。
…そんな、
「ですがちゃんと音を取っているように見えました。」
「ええ、我々が向かった時はちゃんと、」
「それが、彼女の機械的な作業だとしたら?」
「……まさか、あの子は騙していたというのですか?」
その身すらも、誤魔化し続けていたと。
…嗚呼、そうだ。
「そうして続ければ、音どころか食事も落ちる。
笑う様にしていたのは笑うしか出来ない
環境にしか生きれなかったから。」
「…成程、だからあの子は怖い時に笑うのですか。」
助けて。もう、怖くてたまらないの。
そう、悲鳴が聞こえてこなくもない。
「それでも騙した結果、努力だけが報われてしまう。
作曲家に目を止められ、本当にあいつはプロになるはずだった。」
「…なるはずだった?お待ちなさい、それではまるで、
道半ばで中断せざるを得ない様に言いますね?」
「そうだよ。中断するしかなかった。
子供を守る為に、自宅に侵入した者に刺されてしまうからな。」
っな!!!!
「その間私達は音を飛ばし受賞した。
彼女が居なくても、どうとでもなった。
それが何よりも辛くて怖くて、嫌でたまらなかった。」
もういっそのこと、死んでしまえばいいとさえも思った。
それがいけなかったのか、それが良かったのかは、未だに分からない。
「それでも、あの日あの時、私達は死んだ。」
「…は?」
「演奏会をした直後に、帰り道でバスジャックにあってな。
事故で死んだんだよ。此処にいる全員が。」
そしてお前も。音を出せずに、怖がりながら怯えるお前も。
「本番中気付いてたぞ。手を抜いているんじゃない、
音を出すことに恐怖を抱いた。
だから音を忘れ、時を忘れ、それでも枯れない
魔にならないのは彼女が魔すらも愛していたから。」
「…だから貴方達は何をしても
暴走しなかったというのですか。」
「おそらくそういうことだろうね。」
「もう一度繰り返すのか。私は、いや、僕だから言う。」
「…朱音?」
「譜面に書かれた音を出すことが正しい訳ではない。
その譜面に描かれた音に触れ、お前がどう想い願いを飛ばすかが問題なんだ。」
あのお方の、時間を、無駄になんてしてもいい。
でも、その音を、諦めてしまえば、きっと
「あの人は…アイリスさんは、悲しんでしまうだろうから。」
「…ダリア、様?一体何を、誰の名を?」
「……私、っ、私!!!」
「っ危ない!!!」
そう言って大きな瓦礫が出てきたことに声を上げたリキールに
身体が反応してアルカネットの背後に回って飛ばしてやる。
「…大丈夫、貴方は優しい良い子です。」
「え?」
くすりと笑った顔が、離れない。
誰かが何かを言っている言葉だけわかる。
いや、分かっている。どんどんと周りが崩れていく最中、
もう駄目だと言う声が聞こえる。
ーお前がどう想い願いを飛ばすかが問題なんだ。
「(わかんない、そんな、音が聞こえなかったとしても
…わかんない、わかんないよっ!!!)」
ーねぇ、弓枝さん。
『弓枝さん?聞こえてる?お〜〜い!』
「っあ!!はい!!聞こえてます!!!」
ふふと笑う声に、顔に熱が上がって止まらない。
俯いてしまった自分の下には紺色のスカートがみえる。
あのねぇと言った子が此方を見てくれた。
『この曲って実は0楽章とかあるんだってしってた?』
「え?」
『いや作曲家の中にはめっちゃくちゃ文字汚くて
もう何が正解なんだってやつもいてさ、割と困っちゃうけども
寧ろ書き過ぎて設定在り過ぎて正解一つしかないだろってやつもいてね。』
後者の作曲家がこの曲作ったんだけどね?
まぁ調べてみたら面白いのなんのでハマっちゃって!
は、はぁ…みてないですけど。
『あら残念。一度くらい騙されたと思って見てみたらいいのに。』
「何かヒントとかないんですか?」
『あ〜これ12楽章あるじゃない?でも原本からは13楽章と0楽章があるって。
しかも13楽章はもう既に世に出てるって書いててさ。』
でもそんな感じ全くないから、多分勘違いか、入れ違いに起きちゃったのかなって。
入れ違い?
「どういうことですか?何かの勘違いなだけでは?」
『嗚呼ほら、生前この子が作った曲を、
誰かが受け取り、13楽章迄見つけてしまうことを
作ったこの子が分かっていたとかならどう?』
「…流石に考え過ぎでは?仮にそうだとしても、
何故見つかっていないのでしょうか?」
『そもそも楽譜は12楽章までしか存在しなかった。とか?』
「…それこそ考え過ぎでは。それって13楽章は
最初から同じことを繰り返すってことになりますよ?」
いやーだから面白いなって。
『隠された音符を浮かび上がらせて、違う音楽に変える。
最初からしているのに、違う曲になっているとか。』
「仮にそれが正しいとして、0楽章はどう説明するんですか?」
『ん〜〜そこなんだよねぇ〜〜!!ねぇ君ならどうする?
どうしたら0だと言い聞かせられると思う?』
「…逆から音を出すとか?」
『嗚呼それもいいね。』
「千代木先輩は違うんですか?」
『うん。違う。』
違うんだ。だから面白いなって。君の言葉。
『私は歌うと思ってる。』
「う、うたう、ですか?」
『うん。演奏者が音を歌っているのに、
指揮者が歌わないってなんかいやじゃん?』
「いや、嫌かどうかは分かりませんけど…」
『だから指揮者も歌わせる。作曲家と同じような
歌を同じ様に演奏者と一緒に奏でるの。』
そうしたら、そうしたらさ?
『誰もが笑ってその場で居続けられるじゃない?』
誰も何も、居場所を求めてしまわなくて、構わない。
『だって其処に、在るのだから。』
「…それだとしても、そもそも亡くなった作者の歌詞が
存在しない時点で同じ様になど不可能なのでは?」
『あっ!これまた一本取られちゃった!!!くそ〜〜〜〜!!!!』
うーん、じゃあどうしようかな〜〜。
そう悩んでいる彼女にクスリと笑いが込み上げてくる。
すいませんと謝るといいよいいよと笑ってくれる。
その笑顔は、何時も見ているのよりも、ずっとずーっと自然に見えて。
『私、貴方が笑ってくれるの、ずっとずっと嬉しいから。』
「………千代木先輩って本当に人間たらしとか言われたりしません?」
『えっ!?!?なんで?!??!?私セクハラしちゃった?!?!?』
えーどこだろーーー!!わかんない!!ねぇどこ!??!
「じゃあその代わりにもう一つ教えて頂きたいことが。」
『えっ何々?免除されるなら僕大歓迎!!!』
現金だなこいつとは思ってやらないことが良いだろう。
「ではこの作曲家、題名と副題があるではないですか。」
『嗚呼、スピラエの逡巡(しゅんじゅん)に続いた言葉ね。』
雨の気まぐれ永久の喜び今此処に
『結構おしゃれな言葉使うよね〜この人。主題が華と言葉になぞらえて、副題がその曲の感じを見せているってのがまたたまらんよね〜〜〜。』
「でもこの作曲者って確か産まれはドイツでしたよね?
この書き方って滅茶苦茶日本っぽくないです?」
『あ〜それ私も思った。多分ね、きっと前世日本人だったんだよ。』
「…またそういう話ですか?多分違うと思いますけど。」
えーきっとそうだって!!だって何年前だと思ってるの!??!
だとしても最近みたいな書き方って無理でしょう?
「タイムリープとかだったらまだ説明つきますけど。」
『たいむだいぶ?』
「それだと嗚呼まぁ意味合いは似てますけども。」
『あってるやったぜ』
「違いますって。」
しょげないで下さい。返答に困ります。
「タイムリープとは、時間にダイブ、
今居る時間とは違う場所に移動することです。
例えば今この瞬間私が過去に戻ること。
これがタイムリープです。」
逆も然りですがまぁここら辺は諸説ありますし、
空想上のお話ですから、
実際出来るかどうかは定かではありませんが。
「もしそれが可能なら、このような言い回しのドイツ語を使うのも頷けます。」
『確かシュヴァルツ・マイン・エテルネルってでもこの一曲だったよね。
噂によると生前1か月くらいはお師匠がいてその時に書かれたとかなんとか。』
「1か月って一瞬ですよね。ほんと瞬きしかない時間よくかけたと思いますよこんな大曲。」
『…エフェメラル、』
「え?」
嗚呼ほら、よくこの子達英語が混じってるじゃない?
『ひょっとしてアメリカかどこかの言語を覚えて時々英語が混じってるのかなって。』
「…だとしても、それがどうというのですか?」
『だからエテルネルって永遠って言うじゃない?お師匠って尊敬するんだからさ、きっと…きっと、逆を書いてあげたんじゃないかなって。』
そうしたら、寂しくないから。
世に知られてしまうとしても、忘れられてしまうとしても。
知られなくて良い、知っているのは、エテルネルと書いた者と、
それを知ってしまった、人達だけでいい。
『一瞬という儚い時間にしか生きれない音楽は、綺麗に咲く花と人の死と全く同じことだなって。
その一瞬に哀しみを味わうくらいなら、一瞬を続けて永遠にすればいいって。』
そうして何時か、笑えられる日が来るその日まで。
『どうかこの曲を誰かに伝わって、気付いて欲しいって。
…エテルネルは思って、名前を決めたんじゃないのかな。』
だってエテルネルの元の名前全然違うんだもの。
『黒い私の永遠だなんて洒落過ぎてる。
まるで正反対の名前があったかのように。』
「じゃあ何て名前だったと思います?その人の名前。」
『そうだなあ。』
私なら、こうするな。
「っサワアさん駄目!!!貴方が居なくなったら、
誰があの人を助けてやれるんですか!!!!」
「アルカネットさん!?一体何を」
「お願い…!!もうやめて!もう、もう、
これ以上、あの人から、奪わないで上げて!!!」
ヴァイス・ミア・エフェメラル
白い私の為の瞬きよ
「
【華の者救える輪の者救え】
その言葉により、瓦礫がふわりと華になり散り消えていく。
世界が正常に、時間がまるで巻き戻るかのように、戻っていくではないか。
その中で見間違えた気がする。
白い、セーラーを着飾った、女の子が、天使にそっと額にキスを落としていた。
アルカネットは其処で記憶が途絶える。