君に触れるための手





前回のあらすじ

親方宇宙そらから女の子が!!!!!


以上。


「…全く、何故私がこんな後始末をすることに。」
『にゃう』
「…その品の無い言葉をおやめなさい。」

全く、何故私が。

そうため息を吐いている彼の前では。
メルと呼ばれた子が足をぶらつかせて寝室のベットに座り込む。
正確には寝室というよりも、華樹の樹の下でだ。

ルトラールが開けた後、幾つか説明をして
今回からコルンらをはじめとする天使らが
メルのことを面倒見て、調子が乗ればそのまま神として仕事を任せると言い出したのだ。

かと言って華を束ねることはしなくなった今現在。
強いてやることがあるとすれば、


「カウンセラーですか?」
「ええ、彼女がもし、華を束ねていた
この世界が溶けて消える前の神々であれば。
それはとてつもないエネルギーを秘めしものです。」
「変に教育すれば此方の敵にもなりかねないと。」
「充分に考えられるだろうな。」

まぁ其処でだ。

「私が産んだ覚えは更々ないが彼女の言う事と
この世界が溶けて消えた説を考えたら一致する話。」
「あのようなおとぎ話を???」
「それ以外説明がつかない。あれ程清らかな気を束ねることが出来れば
水面にも耐えられるどころかどっぷり浸かって助かるというものだろう。」
「どっちょ、お兄様???」

煩い。こいつらに言えるくらいに落としてやってるんだ。
…そうしなくても彼等、一応大人になりましたが。

「おっと失礼。いやごめんね、赤子の時の癖が離れなくてつい。」
「彼女の前で父親面をした、ということで?」
「そういうことだ。まぁ大体分かってくれただろうけどね。」

貴方が父親ではないと。
嗚呼そうだ。

「帰らなきゃとも言ってただろう?だから戻る術を知ってはすぐに帰る筈だ。」
「それなら放置していけばいいのでは?」
「そうは問屋が降りないというもの。…いいかい?君達天使らとは違いはあれど、アレも天使だ。」
「アレも?」
「嗚呼そうだ。それも太古の存在。色々縛りが無い時の天使だからね。」

力を使わせたらすぐにわかる。
輪が君らの父親が持っているように出るはずだ。
それも二つも。

「二つもですか?」
「そんなことが」
「そうでなければ成り立たない。あれ程の状態を突如として誰もが出していないなら猶更。」
「…帰ると言っても、一体何処に?彼女が帰りたがっているのは、もう溶けて消えて無くなった世界では。」
「…そうだね。でも、きっと其処じゃないと思うよ。」
「え?」
「……大丈夫。君らもきっと、理由が分かるよ。」


この子が此処に、落ちてきた理由が。


「……私にはわかりかねます。」
『????』
「何故私に、この子の面倒を命じたのですか。」

そう思えば、メルの表情が少し変わる。まるで、申し訳なさそうにするのだ。
それに眉間に皺を寄せればメルがびくりと反応してそのままベットの中にうずくまる。

…彼女も可哀想なものだ。

知っている人達ではない者達が、此処にいる。
分かっているのだろうか?それを、分かって、見ているのならば。
それは、

「…私は帰ります。何かあればご連絡をご自身でなさってください。」

それではと消えるコルンに、暫くしてからいっちゃったとメルが声を上げた。


『うにゃう…どうしよう……さわあ。どうしたらいい?』

そう言ってタオルケットに声を掛ける。
まぁ勿論声が返って来るなんて在るわけがない。
彼等の様な状態で、またもう一度なんて、望んでいないのだから。


いやそれにしてもだ。


『まさかこの地に戻って来れるとは思わなんだ。』

もう親の顔よりもみた風景である。

『…ひとまず杖らの確認はっと。』

そう言ってメルは杖を取り出す。一応機能しているらしい。
それをタクトに変えてみれば、反応はするが、
華神らが居ないのが原因かただのでくの坊。いや木の棒である。

この土地の周りを探るとして、
辺りを回ることにしたメルは身体を動かす。
ひとまず杖に黄色いタオルケットを仕舞っておく。
こっちの方がまだ安心できるからだ。

『さて、移動するか。』

後ろを向けば、一応部屋がある。

部屋のドアを開けば、
其処は自分が前に暮らしていた風景そっくりで。
一応時間的には、次の廻廊が始まった程度くらいの、
隔離していた時の状態を維持しているように見えた。

下手すれば地下がなんて期待したが、そんなことはない。

一応触れていた記憶も何もかもある。
でも、やはり抜け落ちているのだ。

『Aでの記憶どころかBでの知識もごっそりと。』

その為彼等の情報が全く分からない。
何故手を取り合わないと話せないのかもだ。
其処ら辺は追々何とか出来るかもしれないが…

とりあえず此処の知識を入れない限りには話にならない。
かと言って例のアレをしたら、色々知っても知らなくても
コルンあたりが怒鳴り散らしに暴れ狂うだろうな。

流石にそれはしたくない。うんうん。触らぬ神に祟りなし。違うか。

ひとまず暫くの間は外のベットを使おう。
慣れてきたら奥の部屋も使ってしまおうと思う。
大神官らが一体何処まで自分を知っているか分からないからだ。

下手に知って、また同じ過ちを繰り返すのだけは勘弁願いたい。
折角平穏に過ごしているのだ。コルンの手間も省きたい処。

それに、あの感じからして嫌がっているだろうし…まぁ無理もない。
仕事好きな彼のことだろう、人の面倒を、それもお師匠とは言えど
急に降られたら話も驚くし否定も入る拒絶だってするだろう。

ましてや今回、彼の命を私がしていないのだ。

尚更拒絶しても構わないというもの。
いっそのこと、彼と離れて…。

『…っ』

ぼたぼたと涙が零れ落ちる。
嗚呼駄目だな、涙腺壊れたな。

会いたい。嬉しそうに笑ってくれたあの目が。
此処が夢だと思いたいのに、夢ではないのだ。

全てが現実。何処にも夢は、存在していなかった。

廻廊を繋げたくても、この状態で繋げると危険に晒してしまうだろうし
ましてや彼女らを繋げるならば、華神らが生息する宇宙が必須になってくる。
でもあの感じからして恐らく途絶えていることだろうし、
それにルトラールからの話し方からして華樹の力を綺麗に引き出していない感じが見て取れた。

というのもその杖からして風貌だ。

何時もならおちゃらけても適当に返して何とかするが
彼の気真面目さが少々前に出ている処を見てみると
恐らく人との交流も少なかったと見た。

それは華神らとの交流すらもなかったというものであって。
華をではどうやって使っていたのかという話ではある。

まぁ十中八九、形が出来てるからソレに入れました。
的な感じのノリで流れに流れただけだろうが。

…だからとして、私が何かをすれば最後だろう。
まあ、死ぬのは痛いの勘弁なんだが。

痛覚を遮断してもらってから出血多量で死に絶えたいところだ。
そうして、帰っても誰もいやしないのに。それでも、帰るのか。

水面の中に、入ったとしても、泡にすらなれないというのに?

誰も彼もは、泡になって消えて無くなれるのに。

私は、彼女らと同じ場所だから。消えて居なく成れない。
彼等もまた同じだ。そうだ、彼等と余り仲良くなってはいけない。
そうしたらまた、同じことの繰り返しになってしまうだろう。

なら、私のすべきことは、一つである。


「…本をですか?別に構いませんが、お話し相手とかは?」
『要りません。必要ありませんので。』

ではと言って手を離し彼から多くの本を借りてきた。
コレが読み解けるまでは暫く此処に滞在しても良いだろう。

終われば?そうしたら、どうなっていく?

分からない。終わらないかもしれない恐怖が拭えない。

それに縋っても無意味だ。私は私のすべきことをする。
だって彼等と約束をしたではないか。私は演奏が出来ていない。
もう、生きていないのに?いや、私が筆を取ればいいだけの事。

でも、そうはしない。だって、嗚呼、ごちゃごちゃだ。
頭の中がごちゃついて、話がまとまらない。
そういうときこそ、勉強であるのだ。

一度は練習した。


『うむ』


したんだろうがな。流石に知識がないすっぽりと抜け落ちている以上、
既に書かれている文章が何を指すのかなんて点で分からない。

大神官が必要ないのですか?と聞いたのも頷ける。
コルンが作ってくれていたあの本は本当に作ってくれていたのだろう。
かと言って今の彼に絵本作れと指示して作ってくれるだろうか?

もし仮に出来たとしても、放置がオチだろう。
まぁしてもらっていいのだが、色々もやもやが残る。

出来る限り彼とは話さない方が良い。
まぁ勿論コニックやサワアらもだ。

『…想い出があればあるほど、鎖になり、やがて死に絶えてしまうもんね。』

そうだ、それならいっそのこと。

『誰にも頼らないで生きればいい。』

それだけでいいのだ。彼等が笑って居る。
それがわかれば、もうなんだっていい。
そう思ったではないか。夢がかなった。はいおわりだ。

『よし、そうと決まればがんばるぞいぞい!!』

これでも何歳生きていると思ってるんだ。
もし仮に此処が溶け消えた世界の末路であればこれは好機だ。

サワアも言っていた。この、花冠もある。

ん?花冠???


『あああああああああああああああああああああああああああ』


ないないないないない!!!!

何処にもない。

そう項垂れ肩を落とす。嗚呼どうしよう。
何事ですかと声が聞こえてくるも、振り向く力もない。

嗚呼どうして、どうして無くしてしまったの。

貴方と折角、約束果たせたその時間が。
溶け消えたあの海の中?それとも落ちたその場所で?
嗚呼一体何処に行ったの、何処にあるの。

急いで走ろうとするメルに、待ちなさいと杖で止められる。

「何処にいこうというのですか。」

彼が何を言っているかは大よそ検討が付く。
多分何処に行こうというのだね!だ。えっ違う?
多分あってると思うんだけど。

でも、彼等に言ったって無意味だ。

彼等は記憶がない。だって会ってもいないから。
この世界の時間軸ではあるものの、彼は無関係。
それなら彼等に聞いても意味なければ、
助けを乞うのはお門違いであろう。

首を横に振って指を指せば成りませんと言われる。何故故に。

「貴方は此処で暮らすと言ったではないですか。」
『でも探し物。』
「何のですか。言えば探してしまいますよ。」
『私が見ないといけないの。』

アレは、漸く努力を重ねて手に入れた花冠だ。
アレが無いと話が始まらない。

でも何処で落としたかもわからない以上話にならない。
この広い宇宙、消えゆく最中に今すぐ見つけに行かないと
取り返しのつかないことになっているかもしれない。

私が第7宇宙に落ちていくとしたら、
恐らく左右の第6か第8のどちらかの宇宙に落ちている可能性だってある。
確かサワアから貰ったのは彼の気が入り混じったとても強い力が入っている筈。

加えて私が居た状態なので、両方の気が練り込まれた特殊な花冠。
その状態で通常の人間が触れたら間違いなく四肢はもげる。
神々としても割とキツイ代物になっているだろうから、
下手に触れない方が良いのだ。というか禁忌呪物と化しても良いはず。

この世界があの溶け切った世界から一体
どれ程の月日が経過しているか分からないが、
奇しくも同じ時間を三度目繰り返している
と言っても過言ではないこの世界。
もう繰り返しをし過ぎて吐き気もよおして
なかろうかと心配になるレベルである。

いやそんなことを思っている場合じゃない。

手を離そうとすれば抜けない。
アレまって、力強いね????君?????

「外には出せませんよ」
『なんで』
「言語も分からない知識もない子を外に出すつもりはないというのです。」
『…鳥かごの中の鳥は飛ぶことすら知らないと?』

そんなわけがない。私が力を使えば、恐らくこの世界もまたどうにかなるだろう。
でもそれをしたくないのだ。そうしたら、きっとまた、繰り返すから。

此処で終わらせたい。もう冬に辿り着いて良い頃合いだ。
春なんて来ない。この冬の中で、眠り続けていればいい。

あの時間は秋だった。秋に溶けて、冬が来た。それだけ。

春の様な穏やかな時間を感じて、微睡んだだけ。
冬の温かさに、春を少し思い出すだけ。

それだけだ。

「ええ」
『…だとしても、私はっ!!』
「言いましたよね?知識がない子を外に出すつもりはないと。」

ん?

『えっつまり…色々分かったら出て良いと。』
「ええ、貴方に仕事を任せたいことが出来ていますし。」

なんでやろう。

『…一応先に念を押しておきますが、
私華を束ね願いを通すつもりは更々ありませんよ?』
「構いませんよ。別に叶えて貰いたい願いなどありませんし。」

なんなら知識がすっぽりないだけであって記憶などはご健在。
即ち攻撃らの体術やら何やらはイメトレでも出来れば
ちょっと杖の使い方を思い出せば普通に敵を出して練習も可能だろう。

本当に話す知識がないだけなのだ。
でもそれは流石に神々としては看過出来ないという。

まぁそれもそうかと妙に納得してしまい
流石にコレ以上迷惑をかける訳にもいかないと手を引けば
少し驚いた顔をされるも、ご協力感謝いたしますと
なんならお礼言われてしまいました。とほほ。


++++++++++

そうこうしているうちに。
早くも月日は流れて三日が経ちました。
毎日懲りずに大神官様が様子を見に来てくれます。

この場所は私が統括をし始めてからというものの
大神官様らが騒いでいたように清らかな気を感じ取ってか
この場所自体が水面に変化し、華樹の姿も忽然と消え失せてしまっている。

…まぁ、少し水面を見てしまえば、
映し出されるのはかつての世界なのだが。
まるで此処は鏡の世界みたいなもので。

草原の中、誰かが居るのは分かる。大きな華樹の樹の下で。
一体何の話をして、誰と居るのかは定かではないが。

それでも温かい陽だまりを感じ取っては、人が来て綺麗に消え去るのだ。
まるで相手には知られてはいけないと思うような感じ。
まだ、知られてはいけないのか。もう、知られてはいけないのか。

それすらも、わからないけれども。

「こんにちは、エフェメラルさん。」
『(こんにちわわ。大神官様。)』

こうやって杖を使えば通信が出来ることを
昨日知ってからというもの使いまくってる。
暫くすれば杖すらも取り上げられてしまいかねないので、
一応本は読み漁って漁りまくっている。

そんな中、コルンさんは?
と聞かれたので少し考えた後答えてやった。

『(お仕事が忙しそうでしたのでお引き取り願いました。)』
「…そうですか。私はコルンさんが此処に来たかを聞いていませんがね。」
『あっ』
「ふふ、構いませんよ。貴方が我々と線を引きたいのも分かります。」

ですが、余りそう先を急いでは彼等も困ってしまいますからね。

「それでも。貴方は戻りたい。無くしてしまった、
愛する人から頂いた華の欠片を集める為に。」
『っ!!!!!』
「これでも私は瞬く時間程、貴方と出会った者
ですからね。貴方が覚えているかは知りませんが。」

なんなら、それも貴方が見せた
夢幻の可能性だって十二分にあります。

だって貴方は代々我々大神官らに
伝わる者の末裔だとお聞きしていますから。

『(なんだって?????なんの末裔だって?????)』
「…その者、青い世界を映す者。
その者、世界の水面を統べる者。」


生きとし生ける数多の存在
華を持ち理を持ちえし者。


「空から落ちるその光もて。
再び大地に命が芽吹かんとね。」
『(いや、別のお人では。)』
「ですが貴方は青い。髪色は青くも目も違います。」

でも、青をとにかく思い描けるお方であることは確かです。

「それに仮説があっていれば貴方は崇高なお方。
私がこうやって軽くお話をしているのも
貴方がお許しになっているからこそでしょう。」

本来は私が貴方とこうやって
お話しするなんて恐れ多いことでしょうし。
まぁ、といっても?貴方がそう思っている
様にはみじんも感じ取れませんが。

「それに一度知識を得ているものです。
コツさえ掴めばすぐにお話も出来る。
それともなんですか?彼等を思い出して
今生きる子達に悪いとでも?」

図星ですか。まぁそんなところだと思いましたよ。

「私でも貴方の様な状態になれば
きっと混同してしまうでしょうから。」
『(そう、なの?)』
「ええ。寧ろ貴方は賢く賢明なお人だと
つくづく思い知らされますよ。」

こうして天使らの警戒をも受け止め
自身の力に変えようとご尽力されているのですから。
…うっ。

「バレていないとは言わせませんよ?
…全く、お兄様のお子であるとはお聞きしていましたが、
こうも似ているとは思いませんでした。」
『(ととさまも私みたいに閉じ籠って?)』
「まぁそこら辺は違いますけどね。
寧ろ一度ふらりと出たら帰って来るのは
一体何億年かかるか否かくらいで。」

いや遅すぎるわ。

「どちらかと言えばその自身の力だけで
何とかしようとするところですかね。
もう少し周りを見て頼るということを
覚えて頂きたいものです。」

うっ、それは…前に生きていた彼等に
嫌な程には言われ続けた内容ではある。
まさか時が変わって人が変わっていたとしても、
言われるとは思わなかった。

『(まあ…わかった。うん。)』

そう言ってメルは本を漁りだす。
その姿を見て、ふうと息を吐き大神官は離れた処で杖を取り出した。

「お待ちしておりましたよ、コルンさん。」
「…。」
「貴方が彼女を拒絶するのも無理はありません。
彼女自体が嫌なのではなく、あの気に耐えられなくなるから、そうでしょう?」
「…やはりお気づきになられて。」

ええ。

「ルトラールが貴方を心配していましたからね。
華の者が居ないおとぎ話でしかない力の使い方を
数億年以上もすっぽかしていると聞いていますし。」
「…怒らないのですか。」
「怒るを通り越して呆れているんですよ。」

すみませんと言う彼に息を吐く。
これに懲りたらと思うが、きっと真面目な彼のことだ。
すぐに兄に連絡を通し現在も付きっ切りで修行をしている事だろう。

「メルさんはとても寂しそうでした。貴方に嫌われたと勘違いされています。」
「…すみません。」
「私に謝っても仕方がありませんよ。
貴方に大層懐いていましたし、溶ける前の時間では
貴方が良く面倒を見ていたことでしょうからね。」
「そうでしょうね。触れてすぐに理解しました。」

だからこそ、ですか。

「そのこと彼女にお伝えは?」
「いいえ」
「…せめて少しの間だけでも耐えれるようになったのならばお話しておいでなさい。」

今なら誰もいませんから。
…では、失礼します。

そう言ってコルンはその扉の中に入って見る。
すると、世界は全く違う景色に変わっていた。

此方に気付いていないのだろう。

水面の真下反対側には、草原の中彼女と瓜二つの姿をした者が見えた。
その近くには、

「(サワア、おにい、さま?)」

隣で確かに何かを被っているように見える。
少しぼやけているが、確かに彼その者だ。

手を伸ばし、口を開けて何かを言っている。
言葉は分からずとも、首を振るっているところ
余り此方が考えてはいけないことくらいは、見てわかる。

胸が痛くなる。何が耐えられないだ。愚かしい。

彼女はきっと、元居た時間に戻りたくて仕方がないことだろう。
知識がなくとも、自分にあれ程懐いてくれていたということは
きっと、この私も。沢山彼女に愛を注いでやっていたことだろうから。

でも、私は知らない。だって、それは。溶ける前の世界の話しだから。
例え生まれ変わったとしても、記憶なんて、持ち合わせていないのだ。

知っているのは、その水面に移った者達だけである。

嗚呼だから、貴方は涙を流して笑って居るのですか?

もう、戻れないから。波紋に写った瞬きだけに、想いを馳せるというのですか。

「…皮肉ですね。儚い時間に殺されそうになるものだとは思いもしませんでした。」
『っ!!!』
「……失礼。出来れば逃げずにお話をと来たんですよ。」

そう目を見てしまえば、気付いたのか身体の力が抜け落ちる。
嗚呼、そうやって私のことも見てくれたのですか?
サワアお兄様達のことも?それなら、きっと、楽しかったのでしょうね。

「…すみません、先日は無礼なことをしましたこと、お許しください。」
『…ううん。いい、ですよ?えっと』
「貴方の事は色々お聞きしております。
先にお尋ねしても?」

構いませんと行儀よく話す彼女に少し好印象を持つ。
どうやら話すこと自体は出来るらしい。

「私は貴方の気に耐えきれず貴方のことをほっぽりだしていたのですよ。」
『…そう、でし、たか。』
「すみません。彼等の兄とは言えど、無礼を犯しました。
つきましては何かお詫びをと考えているのですが。」
『っなら!!一つお願いが!!!』

なんでしょうと聞いてみる。

彼女が良いと言うと思っていたから意外も意外だった。
ビンタとか言われるかと思いきや、
もっともっと、驚くことを言いだしたのだ。


『あの!お話の仕方!教えて貰えませんか!!』
「………………は?」
『あっえと!此処にある本みんなというか全部というか。
もう何を書いているのか分からなくて!
あ、とか、い!とかこう単語すらも読めなくてですね!!!』
「……そ、それだけで、いいんですか?」

いや、もう少し他にあっただろうに。 

『え?それだけって。私からしたら
かなりのお詫びに相当致しますが…』
「…っぷっくくくく、っふふふふ」
『えっ!?!?!?私なにかした?!!?!?』

嗚呼おかしい。本当に、考えていた私が愚かだったくらいには。
そもそもこうやって手を繋いで話が出来るのもおかしな話で。

「いえ、もっとこう、殴るとか罵るとか
なさられると覚悟しておりましたので。」
『なっ!!ぐるのはこうわかりますけれども、
ののってなんです????』
「……そのまま一生知らずで構わないかと。」
『なんでかな?!?!??!?!』

これは最早天然記念物相当だと思う。
うん、間違いない。

「時に聞きますが、貴方、溶ける世界の前では私とどういったご関係で?」
『えっと…お、お師匠と弟子?』
「何故疑問形なのかはこの際流して差し上げましょう。
…ふむ、だから私にべったりしてきたんですね?」

あっあれはですね!!あう、すみませんと謝るメル。
喜怒哀楽が本当に激しい子だなと思う。

「別に構いませんよ。ただどれ程構っていたのか気になりまして。」
『…気を悪くしないので?』
「まぁ余り此方を避けられるよりかは、
私がどういうお付き合いをなさっていたのか知れば
貴方との交流のヒントにもなり得ますし。」

それに貴方は知識が得られます。
これは割とお得だと思いませんか?
うんうん!!!おもうおもう!!おもいます!!!

「それにしても、もう少し怒るとか何か思わなかったので?」
『どうして?』
「え?」
『だって、コルン様は私とお話したくなかったでしょう?』
「いやそれは、」
『確かに嫌われちゃったかなっておもちゃったし、怖かった。
でも、そうしなかったら私、きっと前のコルン様と見間違えたから。』

だから、頭を冷やすきっかけを貰えて寧ろ助かったと、言うのだ。
…嗚呼、だから、だから貴方は、清らかな気を放っているというのか。

「…成程、これは甘やかすのも道理が行きますね。」
『え?』
「いえ、此方の話しです。
ではこのままお勉強と興じますか?」
『いいんですか?!?!?!』
「ええ。寧ろ何かお読みしたい本があれば
仰って頂ければお話致しますよ。」
『えっ!!!どうしよ!?!?
え〜〜!?!?えーーー!!!!』

そう目を輝かせ、こっちを向いたり本を見たり
あちこち見たりと忙しない。
これでも片手は繋ぎっぱなしである。
そうでもしないとお互いに言語が分からないのだ。


嗚呼願わくば。


「(どうかこのまま、彼女と共に、居させて頂きたく存じます。)」