君を抱くための腕
サワアと秘密の時間を共有してからというものの、
メルの時間は一瞬と言う言葉を覚えたのか
彼と一緒に居る時は本当にあっという間に
時間が過ぎ去るようになっていった。
「サワアさん、交代ですよ。」
「おや、もうそんな時間ですか。では私はこれで。」
『ありがとうございました。』
「いえいえ。また来ますね。」
では、よろしくお願いします。そう言いたそうに交代で入って来たのはクスさんだ。
相も変わらず可愛いなという心の声は押し殺し、メルはこんにちわと声を掛けた。
「こんにちわエフェメラル様。ご機嫌そうで何よりです。」
『えっ!?そ、そう???』
「ええ。…もう少しサワアさんに渡しておけばよかったですか?」
『っえ゛?!?!?!?!?』
「あらあら。」
ニコニコと笑うクスに、メルは顔を真っ赤にさせて
そんなこと無いと身体を動かせば動かす程
ドツボに嵌まることを覚えそっと自重することにした。
うう、頭と言うか顔の熱が引かないよお。
「ふふ、あの子も春が来たというものでしょうね。」
『え?』
「いえ、なんでもありません。
そんなことより何をなさっていたんですか?」
『嗚呼第2宇宙の惑星についてお話してたんですが、
えっと確か第10宇宙でしたよね?クスさんの管轄って。』
「ええそうですよ。」
『こんな言語を使う宇宙っていました?』
あっこういう時は「ありました?」って言うべきですかね?
そう言って取り出したのはノートで、広げれば
幾つかの言語が書かれているところをみるに、
メルが書き記していたのだろう。
じっくり見たいために、お借りしても?
と声を掛ければどうぞどうぞと手を出されるので
クスはその手に取ってよーく各文字を読み解いていく。
「…あ、此方でしたら読める処があると思います。」
『へーーー。』
「サワアさんところは何方が読めると仰られていたんですか?」
『こっちの言語を指指していました。』
「色んな言語を覚えているんですね。」
ええ。
『先に日本語という言葉を覚えてしまいまして、
其処から各言語を今覚えている最中なんです。
その方が此処の言語中心部になってるようなので。』
「あら。それは勉強熱心なんですね。
…余り煮詰めて熱を出さないで下さいね?」
『うっ』
「…既に前科がおありですか。」
ふふと笑えばお恥ずかしい限りでとメルが答える。
『じ、実はお恥ずかしい話ですが…
此間物語本がまさかの1階層全部まるまる、
ある処を見つけてしまいまして。
続きが読みたくて読みふけっていたら夜更かししちゃって
しかも寄りによってお師匠の日にぶち当たってしまい…』
「あらあら。」
『暫く図書館の本カード制になってしまいまして……。』
うう、私の管轄なはずなのに何故彼が権限を持つのだろうか。
それは普通に私が欲望に逆らえずに
読みふけっていたのがバレたからである。
はいすいません。大人になれない私がいけないんですよ私が。
メルの手元には一体何時から持っているのか、
すっと長方形の図書カードが握り締められていた。
ちゃっかり本の名前と日付。あと誰に借りたのかを
天使らの名前が記載されている。とんでもなくご丁寧に。
そうやられるとメルも嘘が付けない性分。
仮についていたとしても天使らの記載には
微量ではあるが気を練っている為
誤魔化そうにも誤魔化せない。
よって無事本による睡眠障害は解消されていました。ええん。酷いよお。
まったく、此処は学校ではないのに学校のチャイムは鳴るわ
帰りのチャイムとかもなるんだから時々笑い出すんだよ。
此間なんか食べてる時に思い出し笑いで
カンパーリさんの前で吹き出してしまったわ。
嗚呼思い出しただけで熱が増える。
なんでこうも増やすことをするんだろうか。
「ふふ、本当にメルさんってとても感情豊かなお方なんですね。」
『え?そうですかね?私にとっては
こっちが偽造しているに等しいんですが。』
そう言えば最近なんだか仮面を被ろうとしても難しいな。
なんだろう?
「なら嘘が真となった。という事ですね?」
『…それはそれで私としては大問題なんですが。』
それはつまり、願いによる代償が直撃をするというもの。
今まではまだ掠っているというか、瀕死状態でも致命傷程度で
奇跡が起きて何とか堪えて来ていたが。
今度は直撃一発喰らえばおじゃんの
死亡確定コースにベクトルがグルンと向かう形に
シフトチェンジする羽目になるということだろう?
いやだわ。普通に。地味に。いやなんだわ。
控えめに言ってお引き取り下さい。
えっ駄目?そんなごむたいなぁ。
「それにしても聞きましたよ?
なんでもあのコニックさんに負けを言わせたって。」
『まってとんでもない噂になってません?????』
違いますよ???一体どういう尾ひれ羽ひれが付いてしまった????
『ただの耐久無しのなんでもあり状態で力を使っての戦闘での話です。
それにコニックさんだけではなくて当時お師匠も加わってでした。』
「なら猶更自信をもっていいのでは?」
『いやいやあれ程で何度も冷静さを欠いた上に
時間の感覚を忘れ落ち溺れる私の背徳感の無さには
いい加減危機感を持った方が良いと思います。』
というかそもそも華神らを駒のように使うしかできない以上
自分の力ではありませんし、仮にそれでいいとしても私が嫌なのです。
『だってあの子達もまた、生きた人生があったというもの。
…こんな杖の一部になるだなんて、幾ら何でも可哀想が過ぎる。』
それも、自分の願いに連なった者達だとしたら、尚更だ。
「…貴方は本当に人想いなんですね。」
『え?』
「普通自分の力と過信し、もう少し欲張ったりすると思うのです。
なのに貴方はしない。…そう、例えその気持ちがあろうとしても。
それを公に公表するどころか綺麗にそっと、閉じ込めてしまう。」
何時かその感情が、何かの種になれればと、気持ちを込めて。
…それは。
「隠してもバレるものはバレますよ。いつか必ず。隠してしまえばね。」
『…本当は、怖いんです。』
「怖い?」
『皆の背中を隣で生きている今より、強くなってしまったら。
その目の前には誰もいない。今度は私が振り返らないといけなくなる。』
「その分我々が強くなればいいというものですよ。」
『そしたらこの宇宙全体のレベルが底上げするというもの。』
「…貴方は一体何処まで救おうとしているのですか?」
それは、救わなくてもいい筈の底辺すらも、
手を伸ばすという行為ではないのか。
いや、そうなのだろう。でなければ
何故この子は悲しそうに落ち込んでいるのだろうか。
其処迄見なくて良いと、
きっと他の天使達も言っていることだろう。
それでも聞く耳を持たない。
まるでそれしかないと言い聞かせるように。
その世界でしか、生きれなかったかのように。
『かつて戦争があった。それはこの世界が溶け切る前の時間。』
「…聞いたことがあります。其処は3つもの世界が存在していたと。」
そして、ひょんなことでその世界から幾つかの魂は移動していたと。
『かつての者達はタクトを持ち、
その身に付けた感情を音に擦り付け互いの為にと戦った。
残ったのは、感情に呑まれても関係ない者達だけで。
彼等の願ったものは何一つとして残らなかった。』
戦争も同じ。何処に行っても、人が増えればその分争いも増える。
ソレを見守るのも、介入するのもその人次第。
でも、それでも、私は音を、彼等を、生きていた者達を。
そんな感情論だけの武器に仕立て上げる者が許せないのだ。
ましてや、その戦争の渦中の中に居た者だとしてもだ。
『あいつらのように成り代わるくらいならば。いっそのこと
タクトをへし折っても良いとすら思える程なんですが…』
「…それは出来ない。」
『ええ…だって、この子達と二度と会えないということになるから。』
そんなの、あんまりだ。使い使って捨てるも同然。
そんなこと、許されたくても許されない行為になる。
物として扱う方が万倍マシというものだろう。
この黄緑色の光が、青い色を染め上げるその日には。
私は何度も何度も幸福の中に身を落としている。
自分が自分ではないかのような感覚が酷く恐ろしい。
あの時間こそが、私の本来生きるべき神の時間だというならば。
私は一生このまま未完成のままで良いとさえ思ってしまうのだ。
「…彼等が貴方を愛する気持ちがよくわかります。」
『え?』
「タクトと呼ばれる貴方のその杖の内部に居ても。
自ら居るかのように出来るのは。
そして貴方の敵対する者達に刃を向けるのは、
貴方が彼等の事を何よりも想っているから。」
だから身の丈に合わない敵だとしても、想像を超えた威力を発揮する。
「それは間違いなく、貴方の力なんですよ。
…寧ろ、貴方だからこそ扱えると言えるべきもの。」
その辺は本当に誇って良いと思うんですがね。
…そうですかね。
ええ。
「それこそお師匠さんのご指導の賜物というべきでは?
前々からコルンさんに教わっていたのでしょう?」
『そっ、それは…そう、ですけど。』
「ならきっと。かつてのコルンさんは大層気分が宜しいことでしょう。」
『え?』
「だって言語も一つたりとも言えなかったお子が。
ご自身の名を付けたであろう、か弱い師匠の子である者が。
時を越え、溶けたその先末路にて。自身の教えたことが
実となり花となって漸く咲きに咲き誇っているというものですから。」
『……っ!!!』
そう言ってしまえば、メルは目をキラキラさせて感動を表す。
本当に言葉一つで顔が姿が変わるものだ。
全く、彼女の師匠には敵わないという者だろうな。
あんなに嫌がっていたコルンも今では
メルの事になれば目の色が変わるまで来ているのだ。
まぁ昔から厳しいことを言う子だったし、
嫌われることはあれど好かれるなんて
ましてや尊敬して背中を追いかける子なんて
人っ子一人いやしなかったくらい。
…いや、居た。いては、いるのだ。
でも、もう彼女は既に…嗚呼そう言えば、
あの子も確かに青々しかった。
こんなふうに、いやまさかな。
もし仮に彼女を想うならば、それはきっと。
自責があると、いうのだろうか。
少しずつでいいと。これ以上、二度を増やしてたまるものかと。
「あの子も成長したというものでしょうね。
それとも、生まれ変わりか何かを信じた、か。」
それこそ在り得ませんが。もしそうならば、
可愛らしい処があると思いますね。
そう笑うクスに、メルはひたすらに首を傾げているのに
気付くのが遅れすみませんとクスは丁寧に断りを入れた。
貴方が知らないことで笑ってしまっては、困るのも当然というものですね。
『…ね?』
「え?」
『わ、私…お師匠に、褒められちゃいますかね…?』
「………ええ、きっと。」
そっか。そう寂しそうに笑うメルに、嬉しそうに笑ってやるしかできない。
彼女が望むのは何時だって溶け切る前の世界線であって。
返してやりたいのは山々だが、仮にそうしても、彼女が溶け切れたらいい話。
何も残らないようにすれば、それこそ時空を歪めることになる。
天使らだけでなく神々も手を出さない区域なのだ。時間を歪めるのはご法度。
まだ時間そのものを巻き戻すことは良いとしても、限度がある。
仮に戻したとしても、それはあくまでもこの世界そのものの時間であるもの。
つまり彼女に作用するかどうか未知数な時点でむやみやたらに使ってはいけないというものだ。
現に彼女自体杖をみるに天使らと同じか下手したらそれ以上の上位互換品だと見受けた。
そもそもかつて生きていた者達を物のストック宜しく
複数人を常時入れているものなんて聞いたことも見たこともない。
そういう特殊な種族が居たとしても、
大方その使い方は生物ではない物であるし。
ましてや少しのズレで大きく移動が変わる様な時空の塊に入って
人型で尚且つ自身の記憶や感情論全てを保管出来る処か
何度も往復出来るという時点で論理から逸脱されているのだ。
まぁ、天使らの時間管理も人間で言う処の
論理から逸脱していると言われたら其処迄の話ではあるのだが。
「そちらの本は何て言うんですか?」
『え?嗚呼此間読んだ「都忘れ」って
本の著者がどうやら同じらしくてですね。
こっちは「貝細工」って本なんですよ。』
著者自体は名前すらない訳ではなくて。
都忘れも探せば見つけたので、まぁ文章の書き方からして何となくは想像ついたのではあるが。
『全部数えてはいないですけどまだまだ見つけられる気がしまして。』
「今は何処までお読み何ですか?」
『嗚呼今は半分を越えた辺りですかね。』
「どのようなお話で?」
『えーっと。恋愛小説ではあるんですけど、
お相手に会えない女性視点の話でして。
お仕事は…えっとなんだったっけ。』
没頭して読むだけになって居る気がする。
それはそれで申し訳ないな。
「簡単で構いませんよ。」
『そうです?んー端的に言えば小さい頃に近くで住んでいた子と約束をしたんですよ。』
「約束を?」
『ええ。何時か必ず、この場所に戻ってくるから。それまでどうか待っていてって。』
でも、そんなことを待ち続け早くも数十年の時が過ぎた処から話が始まる。
居酒屋でアルバイトをしている大学生の子が、
ひょんなことで約束をしていた子の父親と遭遇するのだ。
話を聞けば自分の通っている大学の同年代に紛れ込んでいたことを知り、
広い大学の中一体何を頼りにすればいいのやらと、思っていたら見つけてしまう。
それも、自分が住んでいる実家ではなくて、
大学で借りていたアパートのお隣さんだった。
という処からドンドン話が進んでと言えば
声が聞こえないのでちらり覗けば
目を輝かせて聞きに入っているクスにぎょっとする。
「そ、それでそれで?!」
『えっあ…えっと…確かそのまま話をしようとするんだけど
滅茶苦茶近い割にバイトとかで会わずにしてたはずです。』
日常生活を主に書かれていて、嗚呼こういう日常もまたいいなって思える作品だ。
でも最後の方に行くたびに、不穏な話になってきているのが、また事実であって。
『会える日なんていつかも分からない。
知らない暗闇その最中にて、
私は一体何処に向かって歩けばいいのだろうか。
って言葉が妙に胸にくるといいますか、何と言いますか。』
「…素敵な恋をなさっているのですね。その方は。」
『え?』
「だって小さな頃に約束を交わして、やっとかなったんでしょう?」
『…そう、ですね。』
それ以降は是非とも読んでください。
そう言えば読めないので読んでくれという始末だ。
アレ何かこれデジャヴだな。主に先程してた気がする。
『嗚呼でもほら、私まだ綺麗に読み解けてないので。読み切ってからお話しても構いませんか?』
「…仕方がありませんね。では次があれば是非とも。」
『ええ、勿論。』
約束ですね。ええ約束ですよ。
そう言って話を区切り、今日の鍛錬について話を進める中、メルは少し先程の事を考えていた。
++++++++++
「随分と肩入れするねぇ?」
『…お呼び出ししたつもりは更々ないんだけど?アイビー』
「いやいや。貴方が独りになろうと時間をずらすもんだから気になってねぇ?」
ちっと舌打ちすればおお怖いと聞こえてくる。
「…余り介入すると痛い目を見るわよ。」
『それは長生きする人からの忠告?それとも親友を想っての?』
「どっちとも。」
『それは難しいお願いだね。』
「…時すでに遅し、ってことね。」
嗚呼そうだ。
『…ねぇ、この子も、綴っていたのかな。』
前に大学生であった時期の話をしていたことがある。
記憶がかなりあやふやだが、
最近読んでいる「貝細工」という題名の本が酷く似ているのだ。
自分が生きていた、時間の、一つだというならば。
きっとこの本にも意味があるものであって。
『貝細工ってね、アンモビウムっていう花の別名なんだって。』
「…エフェメラル、あんた。」
『不変の誓い、永遠の悲しみ。…ねぇ、この子は幸せだったのかな?』
もう知っている。物語を読み終えた。
この話の結末は、二冊読み終えて分かった。
何方もその恋が叶う事など、二度となかったのだ。
ただ、夢幻の中にだけ、生きる様に、
まるで縋り付くかのような形で幕を終えている。
きっと、他の本もそうなるのだろう。
「都忘れ」は文字通りの花。
「慰め」や「憩い」といったポジティブな意味のほか、
「しばしの別れ」と言った切ない意味をもつものだ。
この花を見ていれば、都でのことを忘れ去られる。
そう言う意味があったはず。そう、日本語という
言葉を覚えればすぐにその現実を思い知らされる。
『此処は愛に溢れ塗れている。…きっといつか誰かに忘れ去られたくなくて。
だからこうやって綴ったのかな。でも不思議なんだよ。』
「何が。」
『この本、違う処からの出版なんだよね。』
「……どういうこと。」
『私が此処の場所を作った本来の目的は知っているよね?』
「…ええ。貴方が幼いながらに落ちた先で
記憶を保管出来る本に映しに映しまくっていたことでしょう?」
それがどういう意味を?
『私が記した時間は何処もかしこ探したって同じ時間軸を繰り返した処。』
「…まさか違う世界軸からも抜き取られているとでもいうの。」
『分からない。でも大学生の時代ってかなり曖昧なんだよ。』
まるで、枠組みが違う蓋をした箱のように。
其処に在るということだけは分かるのに
一体何を目的として置いているのか分からなくなった。
ただの段ボール箱のような形。
中身を見る為にあければ思い出すのに、それまでは分からない。
でも手を取るには億劫だから、手を取らない。
『可能性としたらBの世界軸な感じはするんだよね。』
「…もしそれが本当なら貴方の考えが一変することになるわよ。」
そう、メルは元々この時間を含めて5回の転生だと思っていた。
正確には6回という形。一度目は天海。二度目は天使。三度目は作曲家。
四度目は高校生。五度目は天使と人間の間柄。そして六度目にこの場所だと。
…だが、それは違う。
『五度目と六度目が同じ位置にいるとしたら?』
「…くっつけてその時間が組み込まれていたと。」
『それなら話が分かる。』
「だけど貴方が言って居るのは六度の転生をして
もう一度元に戻るという者でしょう?
だとしたらそれでも一度は数が合わない。」
仮に大学の時間を高校生に入る前に入れたとしよう。
一度目は天海。二度目は天使。三度目は作曲家。
四度目が大学生。五度目は高校生。
そして六度目が天使と人間の間柄にしても…いや。
「まさか、くっつけずに…?」
『…私すらも、一度泡沫に消えて無くなってしまっていたら?』
「いやだとしても…や、だからこそ、か?」
そう、私は一度、綺麗さっぱり死んだ身。
そうだとしたら、この時間が回ったのも辻褄が合う。
だって6回の時間を繰り返し元に戻って来たのだから。
『六度目即ち最後の時間、世界が溶け切るその前に。約束を切って綺麗に終わらせた。』
「…だというのに戻ってきたのは、意味があると?」
『まだ花冠も一輪にすら満たない程度でしか見つけていない。』
そう言ってメルは手に青と白い花弁が付いた華を取り出す。
花遊びをした後かのように、千切れている花を見せた後はすぐに閉まってしまったが。
「帰れると本当に思っているの?」
『…戻れないのに集めるのがそんなに笑う?』
「いや寧ろ逆よ。笑えないのよ。あんたがそう縋ることこそが。」
…みんな、あんたを心配してる。
そう。
「そうって…あんたねぇ!!!」
『ねぇ、私馬鹿でしょう?』
「は?」
『お馬鹿さんはね。見てもくれないんだよ。』
「…そうやって殻に閉じこもって誰かに助けて貰おうとしてるの。」
『人間って凄いんだよ。夢の中なら皆最強なんだ。
本の著者なら、音を作る創造者なら。
そう、思っていたのにさ』
完璧なものは何時だって誰かの心に保管されて、
見てもくれなくなるんだよ。
「…何を言って。」
『不思議だね。まさに紙一重だよ。馬鹿も完璧も。』
だれだって、みやしないのだから。
『なら問う。何故この物語は幕を終えない。』
「…それは人間がいや神が生き続けるそれまでは。」
『何度も繰り返しているというのに?
死んだと思ったら生き返っているというのに?』
「それは…」
『花冠ではない。全ては水面に、隠されている。』
そう、私は睨んだ。この世界に残っている
資料をありとあらゆる場所を見たが、
それでも気になるところが水に浸かって
文字が濁って読めない様にしてきているのだ。
しかも寄りによって、最奥にある一軒家の二階奥、
つまり私が良く閉じこもっている部屋の本棚全てが、だ。
幾ら何でもおかしすぎる。
まるで其処が答えだから読んではいけないと。
ネタばらしを防止するかのように。
無理矢理濁らせるのは意味わからんが。
『あの場所が水面から変わらないのも不思議な話。』
「…まさかあの反対側に戻れると?」
『確証はないけどね。』
「馬鹿も休み休みに言いなさい…!!
もし仮に出来たとしても、こっちに戻ることは不可能になる!!
そもそも聞いているいや分かっているでしょう!?
時空の歪みに身を置けば、その身がどうなるかの末路だなんて。」
それこそ、真っ暗闇の最中恋に歩みを止める彼女と同じ末路を辿ることになる。
全てがメリーバットエンドにすり替わって、幕を終え死んでしまうなんて。
そんなの、此処にいる子達全員が拒絶すると言ってもおかしくない、いいや絶対そうなる。
少なくとも、アイビー自体は大反対だった。
「いい?アタシが協力しているのは
あくまでも貴方との約束を果たす為なの。
…それは他の子達も同じ。」
『じゃあ私自体を見ていないの?』
「っそれは」
『でてって』
ごめん。酷いけど。
…いや、いい。アタシも熱を冷ましてくる。
そう言って綺麗に溶けて消えた彼に、
メルは深いため息を吐いてその場に腰を下ろした。
つい欲が出てしまった。そうだろうとは思っていたけど。
結局は私の縋る場所は、友情や愛という形を見繕った
ただのガラクタしかないというのか。
ハリボテでも構わないと思った私が馬鹿だった。