君と生きるための命
「そこまで!!」
その合図で動きを止める。
息をふっと吐いて汗を腕で拭い去ってしまうと気分が幾分かマシになる。
近付いて来た彼がお疲れ様でしたと声を掛けてくれる。
「キレが格段と良くなりましたね。日々の修練の賜物でしょうか。」
『…ありがとうございます。』
「休憩後お手合わせ願い方が来ます。」
『…え?でも今日はこれで終わりじゃ。』
「少々時間をずらしてしまいます。その代わり明日は一日早めに休日をと。」
分かりましたと答え、
では30分後にと言われてその場に腰を掛け休憩を取る。
あれからアイビーとは喧嘩別れ宜しく、
反応すらしなくなってしまった。
一応試しにと武術以外で練習中に唱えたが、
一切反応しない処使いたくても使えなくなったのだ。
それだけではない、他の子達も詠唱を唱えれば反応しないままだったので、
それ以降私がタクトに変えて攻撃することも数が減ることは時間の問題ですらなかった。
…全くこれだから自分以外を信用しなくなるというもので。
悪い考えなのは十二分に分かっているし、キレが良いのは自分の事だけではない。
他の事を遮断している為周りの事を考えないおかげで余裕があるのだ。
皮肉なものだろうな。こういうことって。多分。きっと。
『(ひとまずさっきの手は余り何度もするもんじゃない。
…もう少し動きを変えるか?いやそうして下手に動けば相手にバレやすい。
癖はとにかく付けるもんじゃあないし、かと言って何もしない訳には。)』
「あの」
『いっそのこと初心忘れべからずでアレを使うか?いやでもな。』
「えっと、エフェメラル様?」
『アレを使えば大目玉間違いないし、
いやだとしてもそれに怯えて使える手札を腐らせるには
「メル様!!!!」ひゃいなんでしょう!??!?!』
嗚呼話を聞いてなかった。滅茶苦茶集中していたのに気付いているのか、
深いため息を吐いて時間ですと言われえっもうとメルは驚き周りを見る。
確かに時間は既に過ぎ去っていた。それもまぁ五分前ではあるが。
『…えっと、其方の方は????』
「二組貴方と組手されたい方がおりましてね。」
「正確には三組、いや四組か?」
其処には紫色のフードを被った者と、何かの紋章か何かを被った者。
そしてその奥にはオレンジ色のフードと青色のフードを被った者も見える。
先程ウイスらと組手をしていたが、ビルスも加わって近くで様子を見ているように見えた。
『ああ、初めましてですよね?エフェメラルと申します。以後メルと言って頂いても構いません。』
「ご丁寧にどうも。そうじゃなぁ…わしの名前は…ふむ。トゥット、と呼んでもらっていい。」
「っな!!!!」
『ん?』
「嗚呼いえ、なんでも…」
『トゥットさん、でいいんですよね?』
すみません私人の名前覚えるのとても遅いので何度かお名前間違えるかもしれませんが。
ほっほっほ。よいよい。
「こやつはサチェルドーテ。まぁサチェルとでも呼んでくれて構わん。」
『は、はぁ。』
「そいつらの説明はいいのか?」
「ではお言葉に甘えさせて。すみませんメルさん。どうしてもお相手願いたいと仰られまして。」
『あ〜〜〜〜……ひょっとしてウイスさんところのお弟子さん?』
「おやご存知だったのですか?」
嗚呼いや何となくですけどね。
『確か前にもウイスさん弟子とってたような〜〜とってなかったような〜〜嗚呼アレどういう位置柄なんだろう?まぁ似たような立ち位置の子は覚えています。名前とか忘れちゃったんですけどね。』
「では私からご説明を。此方のオレンジ色の方が…カロッテさん。青色の方がゲミューゼさんと呼ばれる方です。」
『わわ。えっと、トゥットさんにサチェルさん?にえっとえっと。』
「おほほほ!!どちらからお手合わせをされましょうか。」
では私からと言って出てきたのはサチェルさんだ。
宜しくお願いしますと言ってお辞儀をする。
お手柔らかにお願いしますと返事が返って来た辺りで
コルンが声を掛けた。
「制限時間はいつも通り一人当たり30分と致します。
共に何を使っても構いませんが、殺害は勿論の事
毒類もお控え頂けると幸いです。」
『はい。』
「何でしょう。」
『何をとは、いつも通り使っても?』
「架施の件でしたらどうぞご自由に。」
「架施?」
「彼女の特殊技と説明したらよろしいでしょうかね。」
そう言って出てきたのは大神官だ。
様子を見にと時々来てくれるのであって。
お呼び立てした張本人であろうなとメルは内心直感で思っていた。
「それにしてもどれ程の解放を?」
『最悪4いや最終までの予定です。』
「え」
『どうも本気でいかないと太刀打ち難しそうなので。』
「おやおや、よろしいのですか?先に調子を上げると後が苦しいのでは?」
『…それも加味して、動くのでご心配なく。』
これでも念には念をいれて考えてきているのだ。
周りの期待を裏切りたくないとかそういうものじゃあない。
『(私の本心が一体何処にあるかを見極める作業でもある。)』
「…良い目をしますね。それでは、宜しくお願いします。」
「では…はじめ!!」
その合図で下から入ったメルの腕を軽く受け止める
彼のフードから見える目にメルはにやりと笑った。
成程、そうと決まれば、身体を自在に動かしても支障がないそうだ。
彼から言う左から動きが入ってソレを交わせばもろに食らう処を瞬で出した杖で何とかカバーして距離を取られる。
飛ばされてから、良い動きをされますねと褒められた。
「一瞬驚きました。予想以上に速い動きをされますね。」
『(相手の策が見えない。反応したら気が乱れる以上無視が得策。)』
「…無駄口も効かない。実に良い。」
そう言った彼もまた、杖を召喚する。白い宝玉の杖に一瞬反応したが、すぐに立てなおす。
カンカンと音を立てる中、押されつつも次の一手を隙を狙うも、全く感じさせない。
いやさせないように動きを不定期にしているだけだ。こっちが敢えて隙を伺えばいい。
力を緩め入って来た動きに流して彼の肩を突いてそのまま背後に入ってしまうも
やけに怖くてそのまま足で背中を蹴り飛ばしてしまった。
『っわ!!!ああああごごごごごめんなさい!!!!』
「……いや、本当に驚くことしか致しませんね。」
「…すみません。指導が足らず。」
「いえいえ。咄嗟の判断は彼女自らの知恵ですから。其処迄は求めていませんよ。」
ですが面白い子を育てていますね。毎日楽しいのでは?
…否定は致しません。
ふふ。
「良いことではないですか。…ちょっぴりだけ、羨ましいというものですし。」
『…???』
「おや、来ないなら…此方から、いきますよっ!!!」
『うわっ!!!おっ、たっ、わわ!!!』
カンと高い音を立てて何とか防いだが、軽くもう片手も攻撃するので
両手で杖を持って防ぐのが手一杯のメルは急に焦って相手の波に呑まれてしまう。
流石にこのままではまずい。でも、白昼夢を使うには不安定な今使うには惜しい。
ならば、そう思ってメルは一手を入れた後距離を取り杖を前に出して声を荒げつつ詠唱する。
『”架施の発動を開始します!!我が華樹の名に基づき在る者よ!!
統べる我が手に余る彼の者に相応すべし力よ今此処に解き放て!!”』
「…漸く出しますか。」
『”華樹の理。定理者の名の元。架施状態レベル4を発動します。…堪えて。”』
そう言ったメルが手をタンタンと叩いた瞬間
周りの空気が一変したではないか。
人間で言う重力を感じるというものか。
すると直後空が赤く光り、ブザーが鳴り響く。
メルとは違う音がその場を包み込むではないか。
”感情の消失を確認しました。再起動を行います。
エラーが発生しました。発動を行いますか?”
『”イエス”』
”開始します。現時刻より架施の解除を発動して下さい。”
メルは左手で持っていた杖を右手でかざす。
すると青い宝玉が黄緑色の光りに光始めるではないか。
光栄に思うが良い。とこしえに、囚われてしまった感情を
今この時を持って、この私が落として差し上げるというのだから。
「…ええ、どこからでも。」
構えた彼に対しニヤリと笑ったメルが
杖を前に出して腹から声を出し答える。
『華よ神よ魔の者在りとしする者よ!!!!
我が名ヴァイス・ミア・エフェメラルの
名に置いて、華の者環の者真なる者を
今こそ我が華樹導く、導よ呼び覚まさんことよ!!』
突如現れた杖が綺麗に小さくなって宝玉の方を手に取りブンと一振りしてしまう。
カチャリと音を立て構えたメルを見ている周りがとてつもない気だと震えだす。
「おやこの程度で困っていたら戦闘は難しいでしょうねぇ。」
「ひえ…あ、あいつ、一体なにもんだ?」
「これ、恐れ多いですよ。…あの方はこの世界が溶け切るその前に生きていたお方。」
この世の理統べるお方でもあられる者。
「ヴァイス・ミア・エフェメラル様である方です。」
『(貴方達が力を貸してくれないとかそういうことじゃあない。)』
私だって、使える手札は幾つかあるという者…!!!!
『”華よ神よ魔の者在りとしする者よ!!
華片の願いを連ねて捧げし一束揺らぎし一遍よ!”』
「…ん?」
「どうしました?」
「いや、いつもの詠唱とは異なります。」
『”今こそ我が力、我が魂を解き放ち!
留めた時間よ暴発最中に核を撃て!!!”』
手に持っていた杖の中にある宝玉が青から黄緑色へ
そして黄緑色から緑色へと変化したではないか。
『”始まることすら忘れ去る、
誘われるは、見紛う見てくれ瓦解の絵画。我が主ヴァイス・ミア・エフェメラルの名に基づいて
彼の者破滅の道へと誘わんことを!!!!”』
さぁ!!序曲よ、奏でてごらん。
希望も絶望も、全て統べて、飲み込んで。
『…”
交響曲ではない。その空気に、メルが笑う。
【
『”さぁ!決められた枠の中で息をしましょう!!
動かず止まったその絵の中に。嘲笑って貶したっていいよ。
泣き縋って留まるのもいいよ。みっともない身姿晒して、
その先末路を知っても変えぬというならば!!!”』
「っ、うた?」
『”さぁさぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。
此処は
約束果たす?しらばっくれるも甚だしい!!!!”』
…だって、お前は。忘れる癖に。
そうぽつりと嘆くように囁くメルの手にはタクトがずっと握り締められていて。
テンポをリズムをずっと身体で刻んで指揮を取っている。
かんたーたってなんだ?という声に、カンタータとはと説明を入れるのはコルンだ。
「それは声楽作品のこと。
それは単声又は多声の為の器楽伴奏付き作品。
元来は歌う、歌われるものを意味するもの。」
「え?」
「簡単に申し上げれば、歌を歌う音楽の名ですよ。
彼女は生前音楽家で作品を綴っていた。」
「そうなんか!?!?」
「っこら!!下手に声出すなバレるぞ!!」
「っわわ。」
「…使わないということは、拒絶ということを意味するんですよ。…この馬鹿弟子が。」
そんな話をしていることもつゆ知らず。
メルはギラギラとさせ目を輝かして目の前の敵に一点手中していた。
この作曲は正直病みに病みまくっていた時間に綴っていたもので、
正直公に出すつもりはなかった、一度書いて捨て去った作品の一つだ。
なので作品自体は一つしかない。
もっとも、繋げてしまえば全部で6つ程作れなくもないが。
『”ぶった斬るよ、貴方の為ならこの想い。
待ちに焦がれて明ける空。
目覚めた場所は、一体何処だろなんて。
分かっているだろ気付いていただろ。この時間。”』
虚構の想到、趣向の落胆、仕掛け騙しの道化た見世物
矯正、終了、嘲笑、冷笑、簡単でしょう?そうでしょう?
貴方の為なら手を取るなんて、見かけ騙しもいい処。
『”ぶった斬るよ、貴方の為ならこの想い。
待ちに焦がれて暮れる空。
良い子偉い子優しい子。だからきっと願いは叶う。”』
そんな、居場所、存在しない癖に。
そう言ったメルはにやりと笑い、手に力を籠める。
フードがはげるどころか、綺麗に吹き飛ばされ姿が見えた瞬間
嗚呼と声を愛おしそうに吐いて指揮を振った。
やっぱりそうだ、貴方なんだと笑って言うのだ。
『”嗚呼描いて描いた理想の虚構、
綺麗に飾った理想の絵画。ねぇねぇそれって美味しいの?ねぇ美味しいの?
胸を締め付けるこの名を書いてよ。唱えてよ。”』
そんなことも、しない癖に。一体何を望むのか。
メルは杖を振りつつ彼の攻撃を作った絵画の中に飛ばし反射し続ける。
それが通用する訳もなく、近距離戦に持ち込まれては指揮の形を変える。
歌も音も言の葉も、全て同じ。一緒の居場所。
だって戻るは、貴方に捧げるソレだけの為。
だってねぇ、そうでしょう?
貴方達が私を扱うならば、私も貴方達を扱ったって良いのに。
嗚呼きっと違う、これは、貴方達を使ったことで、
出来なかった時を恐れている私が悪いのだ。
勿論この詠唱が本当に相手への攻撃が使えるか
どうかという点も加味したかった。
『”嗚呼これは愛唱、愛の歌。貴方と会えない、夢の時間。
対称均等甲斐甲斐しい。無いものねだりで憐れ憐れ。
対象墜落甚だしい。元から無かった。そう、ただそれだけ。”』
浅はかな感情に、肝臓が悲鳴上げる。違う違う心臓で在るべき。
ではどうしてこの右手は痛みを上げるのおかしいの。
繰り出す攻撃が、今まで想像もつかなかった動きをするからか
それとも楽しんで敢えてやらせようとしているのか。
定かではないが、そんな考える暇など惜しい。
だって、やっと、終わらせれる。
こんなに楽しい日が来るなんて。
私ね、ホントに、嬉しいんだよ?
『”嗚呼やっとわかった。此処は何処にも無い儚い時間の夢幻
見てくれ願うも叶わない。だって此処に、貴方は存在しないのよ。”』
それでも此処なら私は笑える、皮肉だね。
『”此処は私の物語、音の展覧会。会場劇場器楽の激賞。”』
縋った居場所は何処にも無いの。
ない無い亡いナイ内覧会に、手を伸ばしても届かない。
あい合い相い逢い愛に塗れてぐじゃぐしゃだ。
嗚呼誰かどうか、教えて助けて、戻してよ。
そう言ったって、叶わない。狼少年嘆いて眠るんだ。
パンと音を立て彼の首元に棒を立てる。
腰をついた彼に、メルは息を肩から吐いているとこで
止めの合図が鳴った。
「メル様の勝ち、ですね。」
「…驚きました。聴いていた話とはまた違って。」
『っは、っはっ、っふ…っなにを、聴いたのか、わかりませ、んけど。』
「お水ですよ。」
手が震える。タクトを傍に置いてから座り込んだところで口に当てつつ飲み込んだ。
勝ったことにも驚いて身体が震えているというのもあるが、きっと怖かったからというのもある。
昔からそうなのだ。怖いことがあれば、勝てる時になればこうなる。
だからそれを知らずに生きようとして逃げてきたんだが…まぁこうなるよね。
次の手段が消え失せるというもので。
「それにしても貴方あの曲以外にも持ち合わせが在ったとは。」
『…声楽なら幾つかレパートリーはあるからね。』
「何故今まで出さなかったのですか。あれ程の威力ならば我々を倒す等造作もない筈。」
『はぁ……そこのお父さんがめたくそ強いから出したんですう〜〜〜〜あーーーむりーーー』
「おっ!!!」
「おや、何時お気づきに?」
フード被ってるのみてから。
おや、中を覗いてからではなかったのですか。
『ん。すみません、今身体の力全部溶けてる。』
「いえいえ。」
「気力もほぼほぼ溶かしてるじゃないですか…先程の忠告は。」
『聞いてましたがテンション上げました。』
「……。」
もう目も当てれないみたいな顔してる。
ふふふと笑えば何がおかしいと言われる。
「あとお父さんではないでしょうが。恐れ多いもほどがありますよ。」
『えへへ』
「構いませんよ。スピリタスも名を明かしていると聞いていますからね。」
「…すみません。躾がなっておらず。」
「いえいえ。改めまして、初めましてですね。エフェメラル様。
私は貴方で言う処の第三世代初期にこの世界の大神官を務めていましたサチェルです。」
『…第三世代第三期華樹神のヴァイス・ミア・エフェメラルです。』
すみません色々ご無礼を。
いえいえ、お手をどうぞ。
そう言って倒れていたメルの元に膝をついて手を伸ばす彼に
お言葉に甘えて両手で掴めばぱっと起こしてくれる。
揺れる身体に支えて貰うとは、如何せん駄目だなこれも。
『詠唱の簡潔もまだろくに調整が出来ない以上外に出すは無謀だったか。
だとしても波に乗るのが此処しかないと思った以上出さざるを得んし。
嗚呼もうこれ癖だな。んん、困ったな。』
「何をお迷いに?」
『え?あっまた口に出てますね????』
いや駄目だなほんと。最近。
『実はお恥ずかしながら、先程の曲は生前捨てたハズの作品なんですよ。』
「おや、それは惜しいですね。あんなにも綺麗な音を出す者は中々おりませんよ。」
『お褒めの言葉有難いですが、アレ、恥ずかしいので早々出さないんです。』
「何でしたら我々一度たりともみていませんからね。」
そう言うコルンに嫌だってねぇとメルは苦笑いで答えた。
『あの作品集は気の迷いで作った者達。
…まぁ迷ったからこそ、導かれた、いや…
今だからこそ使えたというものでもあると
考えれば良い収穫ではあるけどね。』
「よく考えられる方ですね。…実に素晴らしい。」
『割と馬鹿しかしてませんよ?この子。』
「ですがちゃんと彼等の話をご自身の考えに
当てはめて理解なさろうとしている。」
その素直さは称賛すべきものですよ。
はぁ……。
『プライドいくつ重ねたって駄目なもんは駄目ですし。
そんなプライドへし折って粉々に砕けさせてから
良いモノ得るモノ吸いつくしてなんぼと言いますか。』
「っふふふふ」
『あえ???私何か間違ったこと言いました???』
「…いえ別に。」
いやこわい。大神官様がそう言うの怖い。
いや正確にはスピリタスか?
「これは手を出した甲斐があるというものですね。
いやはや、こうなるなら最初っから言ってくれれば
私ももう少し手を尽くせるものがあったというのに。」
『何の話ですか。』
「いいえなにも?そんなことよりも、どうされますか?」
「…その状態なら、私が手を出すまでもなかろう。」
『わあ、ひょっとして全ちゃんのぱっぱ?』
「っエフェメラル様?!?!!?」
いかにもと笑う彼に、入って来た全王様がぱぱあああと抱き着いてった。
嗚呼可愛い。なんだあの生き物。よしよしとしている。嗚呼なんだあの生き物。
『…くっそべらぼうにぎゃんかわいい。無理。』
「……下品なことを並べ立てて言わないで下さい。」
『でも良いんですか?本当にしなくても。』
「別にしても構わんが…少々ルールを入れるが。それでも?」
『え、ええ。構いません。』
二言はないなと言われ、嫌な予感がしたが、嗚呼と受け入れることに。
開始は更に30分後とし、その間に何をするのかと聞かれメルが答える。
『この間に自分の反省点、後は相手側の反省点らを加味した
お師匠からの総評が行われます。勿論水分補給をしながらですが。』
「そういう訳で、ご自身の反省点言えますよねえ?エフェメラル様。」
『………彼女ら無視して自分の思う存分気を使いつくした上に
時間も忘れルールも無視して大変申し訳ございませんでした。』
「よろしい。」
分かっているなら何故使ってやらなかったのです。
…だって。喧嘩しちゃって。
……それしきの、
『っそれしきってなんですか!!私は、私はただ…。』
「ただなんです。まさか自分が巻き込んだから使わない、
等と甘えたことを仰るのではないでしょうねぇ?」
『っぐ…それが、わるいと。』
「悪いとは言っていません。甘えたことを、と言ったんです。
…私は言いましたよね?相手の持ち手が分からない以上
自分から下手な手を出すなと。」
溶ける前もそう言っている筈です。
…お、おっしゃる、とお、りでう……。
「はぁ…確かに気の量は質も含めると
以前から比べれば格段に向上しております。」
『…でもだからと言って酷使したら次の手取れないから
調子に乗るなこの馬鹿弟子がってことでしょう?』
「……何故分かっていたらそうなさらないのです。」
『いだだだだだだだ!!!!ねぇ!!
まって!!!いたいよ!?!?!?!』
そう笑っても駄目ですよ!!貴方本当にこうしないと…!!!
きゃ〜〜〜〜!!!!んきゃ〜〜〜〜!!!!
そう笑いながらもジタバタするメルに、
メルの頭をぐりぐりと手で弄るコルン。
子供が悪いことをしたから叱る母親の様な姿に、
オレンジ色のフードを被った者が笑う。
「あんたほんとおもしれぇな〜〜!おらおでれぇたぞ!!」
『ん?あんた?おら?』
「っです!!」
「いやですだけ言っても…」
『ま、まぁいいか。どうも?』
話しを戻しますよと言われて嗚呼そうだったとメルは目を向き直す。
「私が言う事ではないと分かっていますが、それでも言いましょう。
エフェメラル様。貴方は人に対して優し過ぎる。
それはご自身の愛情の分も注いでいるだけ。」
違いませんよね?
…はい。
「薬は用法を守ってこそ本来死ぬ筈の肉体が維持でき、
容量を守らねば毒になる。薬と同じ様なことで
貴方がやっていることは些か過剰すぎます。」
彼等の毒を吐かずに栄養を与えれば毒が加速するのも同然でしょうが。
「よって、次の試合は以前から使用している真昼間のみをご使用下さい。」
『っえ?!?!?いやでも!!!!!!』
「二言は」
『…な、いです。』
「よろしい。…大神官様のお父上、様
からは…何かあります、でしょうか。」
「そうですね…非常に楽しいひと時でしたので、
もう一戦してみたいとは思うくらいでしょうか。」
『そういえば私のことやたらめったら褒めてましたけど、
アレ隙を出すつもりで言ってただけで
本心じゃないって思っていいんですよね?』
「貴方にお任せ致します。」
あっわからんなった。急にわからんなったぞ?????
「ですが一手一手良い動きでしたよ。タクトと言うんですかね?
アレが出る前の動きも非常にキレがあってよかったです。」
『嗚呼其処は素直に嬉しい。メッチャ嬉しい。』
「これ」
「構いませんよ。動きが甘くなるのではなく隙を敢えて見せているのも実に良かった。
ただ右側の隙が多いですね。左利きですか?」
「え?いや彼女は確か右利きでは」
『えっ!!!!よくわかりましたね…。』
そうです。実は左利きなんですよ。
…そうだったんですか。
「では何故右ばかり」
『嗚呼目くらましです。右手を敢えて狙わせたら
もし仮に右手右腕吹っ飛ぶとするでしょう?』
「さらっとそういったものに…嗚呼いや進めて下さい。」
『右利きならエネルギーの操作が右に偏る。
敵ならそっちを蹴り落せば隙も大きく出て形勢逆転間違いなし。』
思う基点をごろっと変えるんですよ。
メルはそうふふふと低い声で笑い答える。
『まず敵に知られない為には味方を己すらも騙すことが先決。
大抵の戦闘は素が出やすいですからねぇ?
其処で常に右手を維持し右利きだと周りに仕向ける。』
「ではそうしたら左利きが通用しなくなるのでは?」
『そうならない為に左も使うんですよ。
ペンを持つ。食器を持つ。
手はありとあらゆるところで使うものです。』
少し意識をすれば感覚も戻りますし、常に維持すればいい。
頭の訓練にもなりますし、一石二鳥といいますかね。
『そうして敵に合い、万が一にも手が吹き飛んだ場合。
敵が大きな隙を出してくれるので、
其処で左手の融通を効かせるぐっとタイミングって訳です。』
「まぁ左側の攻撃が重くて何度か拍子抜けしましたからね。」
そう言った点ではよく考えていることでしょうが。
まだまだ詰めが甘いですね。
うっすいません。精進します。
ふふ、そうなさってください。
「それにしても随分と熱を入れていますね?この子を守り神にでも仕立て上げるおつもりですか?」
「なっ!!そ、そういうわけでは」
『まもりがみ???』
「この宇宙には様々な神々が存在します。その中でも戦闘、即ち天使らの力を凌駕した者達も生まれてくることもありますからね。」
「大神官が相手出来るのは全王様のお言葉ただ一つのみです。お稽古であれば構いませんが、限度があります。」
「そこでこの宇宙を存在を「守る」為の「守り神」なる者が居たんですよ。」
まぁ、それも随分と昔の話しですが。
はわ〜〜〜〜〜。
『それが私だって?』
「っこれ!!」
「ええ。守り神は神聖なる力を持つ者が相応しいですし。…これ程の技量を注いでいる時点で、考えているのかと思っていたのですが。」
「…お言葉ですが、彼女はその位置に持って行くには難しすぎます。
血一滴すらみれば驚き嘆いて隙だらけになるというのに。」
「おや、そうならねば完成するというのでは?」
「え?」
「エフェメラルさん。貴方、一度試しにアレを殺してごらんなさい。」
あれと言われ指を指された場所は、彼と同じ様なもの。
偽物だと分かっているならば、話は早いのだが…。
『…制限時間は。』
「5分です。架施も忘れずに。」
『…架施よ、状態レベル2に戻せ。常に廻して。構えて。』
敵が来る。音が鳴ればメルも構え動き出して杖を剣に変える。
詠唱無しで使えるとは思っていなかったが、すぐに消えるのは分かった。
大昔、灰色の最中。砂嵐の中で見える、その箱に写った映像のように動きを変えた。
さくりと入った身体に、手を添え引き抜いてしまう。
ぱっと剣を振るえば血が周りに飛散する。
『終わりました』
「…っ」
「流石ですね。迷いはなかったのですか?」
『不思議と。まぁ本物では無かったですし。』
「おや、本物がアレだとしたら?」
『…っ』
流石にまだ難しい、いや…清らか過ぎるんですね。
そう言って近寄った彼に、メルは首を横に振って固まる。
頭をそっと撫でられて、顔を上げ首を傾げた。
先程の記憶を改変したのだ。アレはただの、幻だったと。
そう思わせれば、はっと周りを見るメル。
…使いどころによっては、恐ろしい脅威となる。
それは相手をした者達が全員首を縦に振る言葉だった。
「自身の欲が、生涯の環境でセーブされているだけマシだと思うべきでしょうね。
寧ろ彼女自ら行った努力の賜物でしょう。…生かされているのは此方側。ですよ?」
「…ええ、肝に銘じておきますよ。お父様。」
「よろしい。」
それでは本番と参りましょう。