踏み拉くように掴んで




嘘でしょ?

まさか


『(行進曲マーチ変ホ短調Op.7ジーベンがなんで此処に在るの…!??!?!)』

それもご丁寧に吹奏楽用に編曲し直されてる!!
いやまぁ確かに演奏したかったなぁとは想像していた時もあったけれども!!!
だとしても今っていうタイミングが良すぎやしませんか?!?!?

『(確かに一部結婚式で扱われてもいいくらいには
綺麗なハーモニー作ってはいたけれども。)』

悲しい曲調が途中晴れる処があるし、
其処から先は基本的に晴れやかな曲ではあるのだ。
紙とペンが巡って来てみれば、どうやら各楽譜のカット場所が書かれているようでして。
メルもまたオーボエから貰ったモノを使って楽譜にサラサラと書き込んでいく。

周りが何やら話し込んでいたりざわついているのが非常に気になるが、
今それどころじゃない!!!超てんぱってる!!!
主に私の新しい夏の子が今この目の前に居るんですよ!!!

あれまって私その指揮棒取りにいかねばならない感じ?
というかこんな本番中に私どうやって抜け出し捕らえるの???
私普通にヤダからね???頼むので彼女らが終わってから一気に来てくれるとありがたいのですが。

指揮棒を取った彼に、祈るしかない。

それでは聞いて下さいと大神官が声を掛ける。

「行進曲【祝福】」

その言葉に指揮棒から淡い黄緑色の光が飛び上がる。
音が鳴り響く中、出てきた光に止めようとする周りにメルが止めるなと叫びあげる。

『そのまま皆演奏切らさないで!!!はやくふけ!!!!』
「っ」
『ごめん先生ちょっと棒借りったあああいのに!?!?!?』

杖が手に縛り付けられ、取れないままこっちに振られれば、淡い色が降りかかってくる。
流石の出来事に前の者達も驚きこっちに目が向くも来るなとメルがひと叱りする。

『先生そのまま耐えて…!!!』
「っ分かった!!!」
『なんだ、なんで出てきたこの状態で。』

確かに結婚式いいなとか思ってたよ。でも蔦を生やして攻撃してくるとか妨害の何物でもない。
伸びた先に在る者に、メルは靴を脱ぎ捨て裸足で空を駆けだし手に力を籠める。

パンと音を立て、花嫁の前で花が散り咲き誇る。その花は、

「かさぶらんか?」
「え?」
『っやっぱりそうか…!!ごめんね二人共!!ちょっと式の邪魔するよ!!!』
「フェルこっちに!!」
「っメル!!!」
『大丈夫。ほら、ちゃんと子供の手を取っていっとけって。』

そう言えば落ち着いて履けた彼女に息を吐きつつも
向かってくる刃を受け止め花に変え続ける。

『(とは言っても、私とて全力でいきたくはない。)』

この腹に入っている子の為にも、余り乱暴に動きたくはないのだ。

音が響く。愛し合う、その最中。


浅黄色、いや、緑が強めの花緑青色に髪を染め目を染めた子が見てくる。
姿が現れ始めたらこっちのもんだ。手に力を籠め似たようなタクトを創り出す。
いや、こっちが本物であって、あれはすり替えていたと言えば、どんな顔をしてくれるだろうか?

メルはにやりと笑い、空に飛びあがり声を上げた。

春風揺らぐ、深緑見紛うその花緑青。
歩いて迷ってそして歩く。その狂おしい時間。


『…覚えてる覚えてる。知っている知っている。』

分かっているよ、君が何を言いたいかなんて。
君とはずっと長い時間生きていたから、覚えてる。
忘れたなんて言わせたくないくらいには。

クルクル回って狂狂くるくる迷う。


「…輪舞ロンドを踊ろう。何時か終わるその時まで。」
『揺らぎ廻る音の葉の中君と舞う何時まででも。』
「君は分からないこんなひと時の中なんて。」
『けれどどうか覚えていて忘れないで続けていて音が続くその時だけだけ。』
「僕は生きてる此処に生きていた分かっていてと嘆く音の古都の葉たち。」
『ならば問おう。証明してしまおう。この音にこの願いに、酔いしれ続ける奇跡の音色たち。』
「引き寄せられると言うならば、どうか知らせてその音で。」

分かってる。彼女はちゃんと、私の言葉に合わせて答えてくれる。
だから私も音に合わせて攻撃をし続けるのだ。
空中で舞い、攻撃が華になって散り消えていく。
その花だけを見続ければどれ程良かっただろうか。
ぼーっとその場所だけに居られたらどれ程幸せだっただろうか。

そんなこと、させてくれるわけもなくて。

『価値等無い意味等なんてないそんなの此処に在ると言うだけで良いじゃないか!!!』

深緑に、ある、若葉の様な姿。
綺麗な足取りに、オレンジ色の光が何処かで灯される。

両手を広げて笑ってしまう。
ふわりと身体が落ちる。

『迎えに来てよ。』

ばっと飛び出した子が自分の身体を掴みかっさらい上に戻してきた。
浮遊しながらボロボロと泣いて首を横に振る彼女に、いい子だと背中を叩いてやる。
少し置いて、メルはちらりと指揮者の方に移動するようにと声を掛けた。

もういいだろうと顎で大神官に指示を出せば、続けようと言うのだ。
更に続けていけば、恐らくその次も見えてくる。

「っメル大丈夫なの!?!?」
『なんとか。それより…演奏、出来るね?』
「え?」
『先生そのタクトで頑張って下さい。』
「は?!?!おいおい嘘だろ…マジかよ。」

まじまんじと言って空に飛びあがる。ねぇと声を上げて笑って見せた。


『どうか音で酔いしれてよ!!』


君と一緒に、笑ったあの日みたいに!!!


++++++++++

「いや本当に貴方という方は恐ろしい方ですね。」
『えへ〜それほどでも!!』
「まさか一人どころか二人も叩きだすとは。」

結婚式も終盤。黒歴史を晒し上げ怒りを買っている気がしなくもないメルはというと演奏会の中に未だ紛れ込んでいた処サワアらに声を掛けられていた。流石に言いたくなったのだろう。お色直し中に来てくれていた。

あの後セルリアという花を持つであろう楽譜も追加で来てくれたのだ。

『いやいや、一番すごいのは此処にいる人たち全員ですよ。多分かつてない功労賞だと思う。出せるよというか出した方が良い。』
「何故ですか」
『私二曲とも頭おかしい譜面作ってたはずなんよ。』
「控えめに言って死ぬかと思いました。」
「こら何処だと思って」
「いやだってフラット馬鹿みたいに多いの初見とか逆に良く手元狂わなかったなって思いますよ????」

マジ凄い。本当に凄いとメルは拍手を送るレベルだ。
彼女が拍手をするなんて早々ないと言うか下手したら初めてレベルで意外も意外。

『君達の努力あってこーーーっのお騒がせ組を捕まえることが出来ました。』
「にゅわ!えっまってひょっとしなくても僕達のこと言われてる?」
「うーーーん、多分言われてる。」
『ひょっとしなくとも多分でもなんともない。
普通に言われてるんだよこの馬鹿ども!!!!』

私言ったよね?!?!?あとで出て来いって。
だってー今かなって
フライングしたら意味ないでしょうが…!!!!

「でも最初と中間で丁度いい塩梅だよ?」
『待ってそれ控えめに言って最後一人出てくるみたいに言わないで。』
「まぁ無事出てるけどね。」
『ほんとに待って一体全体何処にですか?!?!?!?!?』
「「あっちーーーー」」
『適当なこと言わんといて!!!!』

ばっと振り返るも誰も居ない。
この会場の中に紛れ込んでいたら
確かにちょっと探すのに一苦労する。

先程のこともあってメルは
余り一人で歩きたくない。
絶対色んな事皆に言われるからだ。

一応あのまま暴走されたら
割と溜まったもんじゃない程の
威力があったんだよ実はこれさ。

本当に二人共力が強いんだから困るんだよ。
こんなん軽い子犬程度なら手綱引くのも苦労せんて。

者が違うんだよ者が。誰が暴走牛を赤子に握らせようとしてるんだ。
それ程の格差があるっていうくらいなんだよ。まだ暴走牛ならいいかもしれない。
ひょっとしたらやさぐれ熊かもしれない。もっと駄目じゃん。

「でも皆同じ願いだよ。」
『え?』
「メルだから見つけられる。僕らも同じ時間だから。」

ねーという二人に、いやそんな訳もない。
確かに他の楽譜もあるが、メルの思いつく限りでは
結婚式で扱える曲は正直もう出し切った筈。

ましてやもう一人の子は結婚式で扱う曲ですらない。
自由も自由に作った曲なので、何処に行っても
まぁ適当に流せれば合わせられるかも?
くらいのレパートリーが多いだけなのだ。

それに行進曲の方は正直のらりくらりとし過ぎていて
どうしていいか分からずにお蔵入りさせていた筈の曲。

どれもこれも、途中で匙を投げ見て見ぬふりをしていたものばかりで。

『…見てくれとでもいうのか。あの時間を。』
「メル?」
『…なんでもない。とりあえず楽譜が出ていない以上楽譜上ではないことは確かか。』

ふわりといつの間にか消え去っていた二曲に、メルは息を吐いた。楽器に手を掛け、ごめんねとぼやく。
何だかんだ言って急いで演奏を取りやめてほっぽり出してしまっていたのだ。そりゃあ謝る以外他ないだろうて。

牡丹の咲いた華の楽器。それは、まるで言い聞かされているような気がしていて。
此処にいる者達全員が、華神であると、言われている気がしてならないのだ。

だって牡丹の花言葉、いや別名は

「花神であるのだから。」
「お前…」
「古都葉ちゃん。」
『…ずっと見守ってくれているんですね。月城先生。』
「ふふ、やだなぁそう言う言い方しなくたって。」
『バレてますよ。月城先生いやバレッっ』
「しーー」

今はまだ。そう言う彼女に、全くと言ってため息を吐いた。
指揮を持っていた者もまた、同じものだというのに。

『…戦場調査って処?』
「は?」
「ふふ。どうとでも?」
『はぁ…分かりました好きにして下さい。』

どこ行くの?
ちょっと花嫁のとこ。

そう言って席を外すメル。コツコツと音を立てて走って行くのは裏側だ。
速度を速めて駆け足で辺りを探し回る。天使らの名前なんて呼ばれている処も聞いていないのだから他に誰がいるかなんて知らない。というか覚えられない。

一体誰が来るかと思うが、もしこれが唯一音にまつわる者であれば?

紙吹雪コンフェティ花雨フラワーシャワーが乱れるその中一瞬だけに聞こえる一つの音だけに。
彼女が出てくると言うならばそれは最後でもなければ最初でもない。
あれば別にいいなって言えるだけの、歌であるもの。

腹が痛くなって息が切れ、立ち止まる。
これ程まで走ったり移動したのは久しぶりだと思う。
だからあれ程訓練は欠かさないと駄々をこねたんだが
メニューが通常の十分の一以下に落とされているのだ。

そりゃあ流石に体力も割と落ちる。
正直こっそり追加でしていたので
何とか維持しているが、それでもキツイ。

あの場所に誰も見ていない花が咲いていたはずだ。
淡いアプリコットの色と乳白色が特徴的なあの八重咲きするお花を。

『……っ、た』

腹部の痛みが増す。これ以上は無理だと言われている。
ぐらりと眩暈がして、その場に座り込んでしまった。
駄目だ、今意識を飛ばせば、一体誰があの地で彼女を出迎えると言うのだろうか?

保てと言えども、一度で限界に近い程力を使っているのだからこれ以上は難しい。
目を閉じてはいけなければ、そもそもこの地面で横になってはいけないのに。

くらりとして、地面に倒れ横になり目を閉じる。
気持ちが良い。何処までも溶けてしまえそうになる。
息が上がっていくのは、きっと熱をもってしまったからだろう。

嗚呼これ絶対風邪引いたなと確信した。

お願い、あとちょっとなの。花嫁に、せめて花冠を渡してやって欲しい。
祝福する、その歌を、捧げながら…いっそのこと、私の代わりになってほしい。

「わかりました。そうとあれば、私がその主役を引き継ぎましょう。」
『(だれ?)』
「大丈夫、貴方が彼と共にその日を続ける時が来れば、姿を現しますので。」
『(…そう、なのね?)』
「ええ。だから今はどうか、ゆっくり休んで下さい。」

そんな優しい声に、メルはそっと心の目を閉じた。
意識が飛んだことを確認した後、
呼びかけていた女性は足音に気付いてふわりと姿を消した。

「…気のせ、いです、か?」
「メル!!」
「っ!!メル様!!」

ぐったりとして倒れたメルをそっと抱きかかえると熱があることに気付いたサワアが声を上げる。

「っ!!こんな熱を…!!!」
「意識は」
「なさそうですね。すぐに部屋へお連れします。後のことは任せましたよ。」
「わかりました。」
『っや、だ』
「エフェメラル様…」
「駄目です。流石にこの高熱に浮かされるようでは彼女らも心配します。」
『い、るのに』

足を進めるサワアに力の限り服を掴む。その非力の無さと言えば何と言うべきか。
そっと掴んで頬を擦り寄せてくる。熱が高くて少しでも当てて熱を飛ばしたいのだろう。

「駄目です。もうそのお身体は貴方自身だけの者ではないのです。」
『(お花の、紙吹雪。見てみたかったのに。)』

そう思いながらメルは目を閉じる。微睡んだその最中、
青い空に色とりどりの花と紙が世界を舞ってくれている。
目の前には、嬉しそうに笑ってくれる、お人がいて。

嗚呼綺麗だなあと思ってしまった。