ひとりにしないで
「此処は?」
『(結婚式では花冠を互いに交換するのが仕来りですからね)』
此処で編めというのかという彼に、メルはそうだと答える。
ならばと言わんばかりにメルの隣へ座ったヘレスが花を千切って
冠を編もうと手を回すが…
「むう、すぐに折れるのお」
「はぁ…そう無理矢理に力を入れるからですよ。」
そう言ってサワアがヘレスの前に座り、彼女の前で花を編んでやる。
上手に編めるなあと言う彼に、其処迄ではありませんと答えた。
真っ暗闇の場所が、ふわりと緑色の光が
入ってきて気付くヘレスにメルが答えた。
『(ホタルですよ。
この時期になれば此処はこの子達が来るので。)』
「この場所は生物が住んでいるのですか?」
『(ええ。受粉等の虫系統ですし、
この子達は季節になったら出てくるだけですがね。)』
流石に犬猫を飼っているとか、
何処からともなくクマや鹿が迷い込んでいるというわけではない。
夏になれば蝉が鳴くように、
ホタルや蜂とかも出てきたりしているのだ。
綺麗と言うヘレスにメルは
ため息を吐いた後、そっと花に手を触れたが
「あ…」
『(そっか…貴方も、私を。拒んでしまうのね。)』
「メリディエム様…」
仕方がないものだ。
ある意味自分は悪魔に近しい状態であろう。
触れる植物全てが枯れ果てる状態で、
華樹に触れるなんてしたくない。
此処に閉じ込められているも同然なのだ。
今の、私の状態は。
枯れることが無くなれば、
アストランティアにも戻れるだろう。
何だかんだ言ってあの場所は
華樹を通して動いているのだから、
下手に触れられると困ってしまうだろう。
メルは指を鳴らし、杖を取り出してから、
軽く一振りして白い手袋を取りだした。
てきぱきと手袋をはめてから、
その花を千切ってやれば、
ヘレスらも目を丸くした。
「…っな、」
『(素手でなければ枯れないのです。
ほら、こうやって編むんですよ?)』
「ちょ、は、はやいです、どこですか。」
もたもたするヘレスに、
メルはこっちと指を指してから
特段ゆっくりで見せつつ編み込んでいく。
もう、二度と、誰かの為に、
自分が花を編むなんてないと
思っていたのだが。
まさかこんな日が来るとは思わなかった。
愛するお人が別の愛するお人とたわいもない話で笑い合うのを、
そっと、隣で、見つめ続ける夜の最中に居られるなんて。
…そんな酷い悪夢、早く目覚めたいと思うのにな。
会えるだけで、この胸は満たされていくのだから
本当に現金なものだと思う。
「ぷっふふふふふ、くたくたではないですか。」
「〜〜っ!!そういうお主だって歪な癖に!!
メリディエム様のを見てみるがいい!!
こんなにも綺麗な冠を作り出しているではないか!!」
「貴方が自慢げにすることではないでしょうが。」
『(まぁ事実ですね)』
「っな!そ、そんな、いや、じ、事実ですが…」
ぷっ、くくくくく。
…?
『ふふふふふ、っ、けほっこほっ』
「嗚呼無理に喋ろうとするからですよ。大丈夫ですか?」
そう言ったサワアにメルは手を前に出して
大丈夫だと言って首を横に振るった。
嗚呼、彼等と居ればこんなにも、
ゆっくりと色を戻していくものなのか。
触れてくれている、この体温が異常に熱くなる。
視界に入る色が途端に鮮明になっていく。
紫色の瞳は、ホタルの光で黄緑色にも見える。
…嗚呼、綺麗な色。私の大好きだった、お色。
これでは本当に、何処にもいけないではないか。
一体どうしてくれよう。どうしてやれば、理になれる?
どうやったら、この想いを、塞いで留められる?
溢れ出てやまない感情が、落ち着く場所なんてもうない。
ないのに、無い筈だというのに。
そうして、導き出した答えに、
メルは笑ってしまったのだ。
胸は未だに、枯れた華が咲き続けている
引っ込めないのは、今が夜の、真夜中だから。
貴方が生きる時間。エテルネルが存在する時間。
暗闇に、貴方達はこの華の意味を知る訳もない。
だってこの地は貴方らが此方に干渉出来ない場所だから。
私のこの顔に張り付けた仮面の裏すらも、
貴方は気付かないのが嬉しくてたまらないのだ。
嗚呼!おかしいったらありゃしない!
私は今も尚、貴方の帰りを待ちに待っているというのだから。
『(お礼を言いたいのはこっちの方だというのに。)』
「メリディエム様?」
『(ありがとうございます。貴方のおかげで、
ほんの少しだけ色を取り戻せた気がしました。)』
「っ!?!」
「本当ですか!!…それは、良かった。」
そう安堵する彼女が、可哀想になってくる。
私が企んでいるこの全てを知った時、
貴方はそう笑ってくれるだろうか?
嗚呼きっと何処にも存在しない。
笑うどころか怒って叩いてくるだろうな。
彼女の魂も、この事実に気付いていたとしても、
止めないでいるのだから。
つまりは、そういうことだろう。
彼女は心の底から…彼を愛してくれている
という決定的な瞬間を目の当たりにして、
メルは息をそっと吐いてしまった。
嗚呼、心地が良い。
酷く脆く、歪んだ、愛情なものだな。
今翼を広げたら真っ黒い羽根になっているのでは
ないだろうかと思って見せるのを止めた。
これ以上して大神官にバレた時が大事である。
あーーあ、絶対、怒るだろうなあ。
意志が固まった。
嬉しそうに笑った顔を見て、決意した。
もう、揺るがない。揺るがしては、いけない。
『(こうやって編むんですよ。分かりました?
分かったらおうちでも練習しておきなさい。
貴方の花冠をこの子の頭に置いてやるのですよ?)』
「頭に?貴方にではなくて?」
『え?』
「え?」
え????????
一体何処からどうなったら
そういう結末に落ちる??????
『え?まっ、え?』
「いや、素手で編めないから、
自分の頭にと思っていたんですが…」
「元々花冠は貴方が持つ者です、し、ってあれ?」
どうしてそう思ったのでしょう?
そう二人が首を傾げたことに、ホタルの光が消える。
幸運だね。
暗闇ならば、貴方らを騙せるのは。
揺らがず固まった意志が、途端にぶれた。
もう、やめて。
おねがい。
『(もう寝ますから、お帰り下さい。)』
「…確かにこれ以上は悪いですね。
帰りましょう、ヘレス様。」
「ああ」
そう言って先に立ったサワアが手を差し伸べた。
それに手を出そうとした自分の動きには自分でも驚いた。
『(では、私はこれで)』
「おやすみなさい」
『(ええそちらこそ。…良い夢を。)』
花冠は持ってってくれて構わないと言って
彼等を見送ることもなく、メルは自室に足を歩める。
パタパタと廊下に落ちる水に
足を取られない様に速度を速めた。
『っふ、っうう、っ』
バレていない。バレていない。バレていない。知られていない。
そう言い聞かせ、自室のドアを閉じて
そのままドアの前に身体を降ろしてしまった。
横たわり、胸に咲いていた
枯れた華を抱えたまま、
メルは声を出しながら泣く。
手を取られないのも無理はない。
目を向けられないのも無理はない。
だって彼は彼女を見つめているのだから、
先に私をなんて、なんて浅はかな情なのだろうか?
勘違いもほどほどにしておいてほしい。
此処は一体何処の時間だというのだろうか。
まだ、まだ、彼が帰ってくるかもしれないと
待ち続ける時間の方がずっとずっとよかった。
ひょっとしたら自分を見て
思い出してくれるかもしれないなんて、
浅はかな期待を持って眠れる時間が、
何よりもの幸福だったと
今更ながら突き付けられる。
後悔は、死ぬほどしている。
その分、華に気が狂い
咲き誇り始めるのを見て、
また涙が溢れ出てしまった。
『っふ、っ、ああ、あああ、っ』
起き上がって肩を降ろし、
空に向かって顔を上げて泣き続ける。
この頬から零れ落ちる涙を掬ってくれる人など、
もう、何処にも存在しない。
なんなら、自分で首をしめているのを、
私は分かっていない。
きっと、分かってなどいやしない。
確かに花冠は儀式だ。
相手に想いを渡し、
互いに共有する綺麗な場所。
でも、私はそんなこと出来ない。
素手で触れれば華は全て枯れ果て、
相手に渡せるものなど、どこにもない。
もう、花冠を交換するなんてものは出来なくなったのだ。
願いが叶わなくなった。いや、元から叶えられなかった。
叶えようとしたら、彼は離れ、別の誰かを愛している。
嗚呼ほら、思っていた通りだろう?
望み手を伸ばしてしまえば最期なのだ。
その願いを吐き出してしまえばどれ程楽だろうか?
その時間を抱きかかえて笑えたら、どれ程良かったか。
もうこの心を埋めてくれる人など、何処にも存在しない。
楽になんてなれない、地獄の様な、煉獄にある場所。
『っふ、っうう、っあ、っひっ、っひっう』
辛い苦しい嫌だ悲しい。それら全てがずっと胸で回り続け、
赤紫色の光が胸に広がり続けると、黒い色を染め上げてきた。
このまま堕ちれば、皆悲しむだろうな。
今はまだ天使でギリギリ保っているが、
此処から落ちればもう、戻れない。
悪魔に染まって、天使なんて忘れて
今度こそ堕ちてしまうだろう。
全て忘れて、たった一つだけ、
願いの欠片だけを胸に抱き、
その地を滅ぼす程の威力を放つ者。
魔女らが可哀想だと思っていたが、
此処までの辛さを知った上で
自分がどういう位置に持って行かされたのかを
神話上としてではあるものの
フラッシュバックの様に見せつけられるのは
幾ら何でも些か酷というものではないのだろうか、神様よ。
『っあああ、っひっ、ぐずっ、っう、ああっ、っぐず』
鼻水をティッシュでふき取りたいが、そんな余裕はない。
まるで地面に根が生えたかのように
その場所から動けなくなってしまった。
嗚呼会いたい。貴方に、会いたい。
先程会っていた貴方でもいい。
もう、模倣でも、幻でも、
夢のあの暗闇にいる、
本物の貴方でも良い。
会いたい。嗚呼でも、会えるのだ。
『っふ、っさわ、っああっ、ごめっ、ひっ、うう』
貴方のことを、手折る約束を、千切ったのだから。
…貴方の手を手放してしまって。ごめんなさい。
でも、どうか幸せになって欲しい。
貴方を想う人は、他にもいるのだから。
嗚呼でも、彼女に会いたかった。
白い髪色の、紫色の瞳を灯した、愛しい我が子を。
抱きしめてやって、今度こそ、
その名前を呼んであげたかった。
中間に位置する子。まるで、真昼間の様な子を。
もう、もう、会わせてやれない。
4代目にすらなれなければ、
貴方に会う機会等何処にも存在しない。
だって彼女はサワアとの子供だからこそ、生まれて成すもの。
その力は威力は誰が勝つこともできない。
史上最強になるであろう者。
嗚呼理は、それを望んでいなかったとでもいうのか?
最初から、あの始まりの地に、彼女を閉じ込めるつもりで?
エーリンに、もう、一体何時から会っていないだろう?
そう思い出せばさらに涙が込みあがって来た。
下を向いて首を横に振った。
貴方にも会いたいけど、貴方に会えるのは華が咲き誇っている時のみだ。
枯れた魔女らの者達が、理に触れるなんて見ることも感じることもできない。
傍に居るかもしれない。
何かを言ってくれているかもしれない。
でも何も分からない、
触れも出来ない、見ることもできない。
なんならそれすらも、
私の作った幻だったのかもしれないと
そう思えてくるくらいで。
『胸が痛い。ね、いた、いよ。』
助けてなんて、もう、言いたくない。
いうものでは、ないのだ。
華が戻るなんて無理だ。
枯れたら最期、戻るなんて不可能。
もしも自分の身体に華が戻った時は、
それこそ夢だと思う。
もう、二度と醒めないであろう夢の中に、
自分を引きずり入れてしまえば、楽になるのに。
そんなこと、私が望んでいないから、此処に居続けるのだ。
助けて、助けて、助けてよ。
貴方に助けて欲しい。
貴方だけが、欲しいというのに。
うそつき。どんなことがあっても、
たすけてくれるって、いったのに。
あなたがいない、こんなせかいで、
わたしは、ひとりぼっちで。
あいしていたのに、しんじていたのに。
ねぇ、かえしてよ。わたしのおはな。
あなたが、わたしを、みないならば。
そのねがい、わたしにねがわせ、いのらせて。
もう、貴方が二度と、此処を見ない様に。
そんな願いを灯し、祈りを継げる日を。
私は街に待ち侘びているというのに。
首を絞めて死ねるならどれ程良いだろうか
消滅すらも奪われた私は死ねないというのだ。
感情が戻っていくのが怖い。また壊れての繰り返しで、
本来の自分が分からなくなるのが一番怖いのだ。
あの額縁にすら、色が無くなってしまえば、
もう、ほんとに取り返しがつかない。
時間を巻き戻せば、
世界も変わるだろうに
…ん?時間を巻き戻す?
『(そう言えば…私が戻るなら
それ相応の力が必要になっていたはず。)』
なら、サワアらであればどうだ?
いやだとしても、それは無理だ。
現状華が咲いていない今なら…いや、
『…夢幻の華樹がリンクしていれば?』
試すだけ試したいが、それは後に取っておこう。
それにしても、あのサワアがだ。
『まさか、華を捨てていたとは』
ー華ですか?嗚呼いつの間にかあったやつですよね?
そんなものとっくのとうに捨てましたよ。
そう言ったサワアの言葉に、メルは耳を塞いで笑った。
コルンはどうなのかは知らないが、きっと捨てているだろう。
仮に捨てていなかったとしても、
みっつの華が揃わない以上
この理が成立することは
二度とないというもの。
メルは適当に扱っていたのだ。
自分の華を、サワアに扱わせた。
そうすれば自分が理に成る確率は非常に低くなる。
というか自分の狙われる確率を考慮しても、
相手に渡しておいた方が無難というもの。
これであの時、華を喰われて願いが成立してしまっていたら
どうなっていたのか思い出してもぞっとしてしまう。
鼻をティッシュで漸く拭いてからベットの中に身体を埋める。
衣服が邪魔で、ぽいぽいと服を脱いでまとめて籠に入れてしまう。
シーツに身を綴んでしまえば、あの日の状態に元通りだ。
こうやって寝るのに慣れて、
一体どれ程の月日が経ったことだろうか?
だからこそ彼等に見られたくないというのを、
大神官らは知っていてやるなら
本当に質が悪いのだが。
白い部屋にも戻れていないのは、
つまり互いの感情が通じない
というべきだろうなと確信した。
自分の行く道はことごとく倒され、
たった一つ後ろを振り返る以外
他が無くなっている。
正面には、一体どんなものが待ち受けているのか、
メルはそっと目を閉じてしまう。
未だ泣き続ける為、
流石に身体をベットで起こしてしまって、
シーツに身体を包みつつも目を向けた。
嗚呼、この場所にいない。
誰もいない。
貴方の、花冠を、私は、もう。
「望めば与えれるというのに、何を泣いているのですか。」
『っ!!!!!!』
「全く、本当に困った子ですね?」
嘘だ。
この場所に存在するはずもない声が聞こえる。
もう脳がおかしくなったのか、
それとも、魔女になり果ててしまったのか。
ばっと目を向けた場所には、
いつも通りに立ち尽くす彼がいてくれていた。
ニコリと微笑んだ彼の目が、酷く優しく、
まるで今迄のが夢だったかのように思い起こさせる。
手を伸ばしてしまえばいいのに、
しないことに気付いた彼が手を伸ばしてくれた。
「ほら、この手を取って下さい。」
『(いやだ)』
「そんな駄々をこねないで。ね?」
近付く彼が怖い。優しいと思っていた目が、
研ぎ澄まされていたことに気付いて身体を後ろに持って行く。
幻覚まで見るのかこれ。ほんとなんかヤッてるんじゃないのか。
まぁ華の状態が相性が悪かったら
薬物にもなるのでは
と思えば納得いかなくもないが。
いやいかないわ。駄目だよ。
なんでだよ。こんちくしょう。
『(あなたじゃない)』
「僕ですよ?貴方が望む、最適解の僕ですよ?」
ちがう、違うのだ。
現実に居る、彼が良いのだ。もう見向きもしない、
彼だからこそ、手を伸ばそうと思えるのだ。
模倣が名乗り出るなんてそんなこと、私は許さない。
なんで、どうして、今出てくるの?
酷い狡いよ、もう、約束を交わしてしまったのに。
貴方を忘れて、会わない約束。果たすその日が、来なくなる。
『…っ、あな、た、じゃ、いや、なの。』
あの人でないと、嫌なのだ。
でも、もう、何処にも居ない。
「何処にも僕はもう、生きていやしないというのに?」
『い、きて、る。あ、のこはっ、げほっごほっ』
「…そうやって、貴方はそっと
その華を枯らせ、朽ち果てるというのに。」
あの子は一体何をしているのだろうか。
そう低い声でぼやいた気が、
殺気にぞわりと背筋に感じる。
この、気。間違いない。流石に分が悪い。
すぐに杖を取り出すも手を出されたのが早かった。
『った』
「駄目ですよ?乱暴にしない様にしているというのに。」
まずい、この状態で見つめれば
魔女から悪魔に堕ちるのは間違いない。
流石に其処には行きたくない。
赤い瞳に、黒い髪色の存在。
この地に何もないから、
誰も彼もを殺すという存在に
成り果てる訳にはいかないのだ。
だってそうは望んでいない。
私が望むのは、ただ一つだけ。
あの子が、どうか、笑って暮らせる。
それだけを、望んでいたのだから。
嗚呼違う、違うのだ。
願わくば、その隣で、私も。
傍に寄り沿わせて欲しかったのだから。
ああ、そう、そうだ。
なんで、大事なことを、忘れるのだろうか。
「っ、た……」
『いや』
爪で引っ搔いて警戒をあらわにすると、
こっちに向ける目が変わる。
圧に身体が心がひしゃげて
しまいそうになるが、そんなのしらん。
彼は長い月日をかけて待ち続けてくれたのだ。
私も同じ年月耐え続けなければ隣に居れる訳がない。
例え模倣でも、私はもう、貴方に触れることを許さない。
望めるのは何時だって、私を見てくれたあの人のみ。
例え自分が望んで出してしまったとしても、
ソレにゆだねるのはお門違いというものだ。
帰れ。空白に。お前が私に触れる権利など、何処にも存在しない。
メルは手に力を籠め、そのまま胸に触れて気を廻り始める。
いちかばちか、どう転がるかは分からないが、試す価値はあるだろう。
正直こんなもの、やってみてだからどうだというものではあるが。
精神が崩壊しているということは、道は一つだけ。
「…やはり殺すしか手はないと」
『っ!!!』
杖を避け、その場を後にする。
ちょっと自分の杖は取る暇を与えてくれないそうだ。
黄色いタオルケットに身を包み、
メルはそのまま全裸である状態が
心苦しいが走ることにした。
ちょっと妙ですもん。あの人。
絶対私が作った模倣にしては幾ら何でも出来過ぎている。
天使を余り信じるなとは、まぁ〜あの人言ってましたし?
まぁ妥当な判断だよね?ね?そうだよね?ね?ね?ね?ね?
だってアストランティアに入れるのは
華神らが許す者達のみなのだから
この地に出てきた以上、メルの命を狙う輩は
ごまんといればこの機を逃さない訳にもいかないだろう。
メルが死ねば、大神官は愚か全王様の意識迄奪える
ということが知れていれば、一体どうでるかは
もう大体の察しがつくというもの。
メルも馬鹿ではない。
この地に了承を得たのも昔の記憶と今が
漸く別区分に出来る様になってきたからだ。
まだ感情に歪性はあるが、
それでも昔よりかは随分とマシになった。
声を出すにも外に出れない、正確には
『っ!!!(トンネルを封じられてるのか!!)』
この場所から逃げれないが事実。
部屋に戻るにも一本道。
明らかに彼を倒してからではないと連絡は不可能。
「さて、どうします?大人しく僕に捕まって貰えませんか?」
余り痛いことはしたくありません。
そう言う彼に、メルは首を横に振った。
『あな、たに、つか、まっ、たら、わた、し。
きっと、もどれ、なくなる、から。』
「ええ、そうですね。貴方は悪魔に変わり、
私以外を忘れてしまうでしょう。」
やはり、そのつもりで来たのか。
つくづくこの時間は悪魔に誘われるというものだ。
もうどうやったらこれ終わる?待って私理になればいい?
というか理に成ったと思えば放されてを
繰り返してる気がするんだが、
気のせいはないよな?な?そうだよな?
そもそもお前は何故此処にいる。ヘレス様はどうした。
お前の帰りを待ちわびている破壊神を放置してきたとか言ったら
私が天使になってヘレス様に仕えてしまうぞこの野郎。
…あっ待って?それ割と名案では????
だって私ヘレス様控えめに言っても大好きだし?
サワアに渡すよりもヘレス様に
シフトチェンジした方が楽では???
私も頑張ったら性別転換可能だろうし、
いっそのことこの季節は狙う標的変えちゃう?
待ってヘレスの好みとか
軽くサワア全部だったらどうしよう。
私力使わないと白髪にならないんだけど
それチキチキマシン猛レースにならない???
いやでもサワアに悪いかと思ったけど
そんなことないっか〜〜〜!!!!
嗚呼この際ヘレスを奪うっていうので
思い出させるのとか悪魔の所業ではないだろうか?
誰が好いていた破壊神を奪われられてから、
奪う本人が愛していた人だと思わせると????
もう、悪魔だろこいつが。
そう思いメルはクツクツと
内心から込みあがって来た笑いに
笑みを浮かべて笑う。
何がおかしいのですと睨む彼の姿が、
ちゃんちゃら面白く見えてきた。
まぁ一番面白いのは脳内お花畑な
私の頭と同時にシーツ一枚の全裸である僕ですがな。
『…いいや?お前が、わたしを?捕まえられる?
…ちゃんちゃらおかしい。馬鹿なこというんじゃない。』
「…なに?」
『わたしは、かじゅが、えらんでくれたの。』
逆に言えば、感情を巡らせることが
出来れば、この枯れた華が戻るというもの。
…一体何処まで逆戻りするかどうかは、
不明だが、それだっていい。
きっとエーリンだって
それを許してくれることだろうから。
華樹神は瀕死になれば必ず導かれる場所がある。
それは、かつての神様が作ってくれた究極の場所。
そして、それは、作り方を知っている者ならば
誰でもどこでも作れるというのだから…!!!
メルは後ろに下がり、そのドアノブの感覚にニヤリと笑った。
その現実に気付いた彼が待ちなさいと動くも、もう、遅い。
ガチャリと押して自分の身体が暗闇に吸い込まれていくのを、
ドアから出てきた彼の姿をみて、再確認できた。
…話はこうだ。
純環の理、第3世代目の、2期が終わりを告げるのは
華樹神、並びに華樹神官が権利を放棄又は死亡した場合のみ。
一度放棄すれば必然的に3期へと突入する。
3期の華樹神は華を咲かせ、
樹木を育て上げれば、
もう其処から離れるには
権利を放棄又は死亡した場合にのみ
適用されるのであって、
精神的と肉体が同時に消滅しなければ不可能。
でも、理に選ばれた者はどうあがいても死ねるわけがない。
理なのだから、その存在自体を抹消しなければ話にならないのだ。
その為必然的に、生き延びることになってしまう。
そう、メルが次の理に繋げるには
メル自らが権利を放棄する以外
術がないというもの。
その為ありとあらゆる手を使って、
メルが権利を放棄するように
術を施してしまえばいい。
そ〜〜〜〜んなことで堕ちる馬鹿なら
自分から別の方に落ちちゃったら
話にならないよなぁ?!?!?!?!
そうだよね〜〜〜!!
だって落とせる場所は一つだけなのだ。
それに、華樹神が肉体
又は精神が崩壊してしまえば
一度回復期に突入する。
そう!!!!廻廊の様に!!
『っ来た!!!!』
白いこの世界に、私は戻って来れたのだ!!!