君の「助けて」を見逃した
夕食は本来風呂の前に摂るはずだったんだがな。
予想以上に腹が空かなかったので前倒しで風呂に行き
そのまま誰もいなくなったであろう屋上にと戻って来た。
メルはというと、何を食べようか悩みまくっていた。
髪の毛は一応乾かして貰い、もう寝る寸前ではある。
其処に音を立てて入って来たのは
「おっ、メルじゃねぇか。まだ寝てねぇのか?」
「悟空さん、もしかして小腹が?」
「へへっまぁな。」
『私もお腹すいちゃって。』
「じゃあ一緒に食っても良いか?オラ其処迄じゃねぇけんど食べてからじゃねぇと寝れなくてよ。」
「我々は構いませんよ。」
ヘレスは先に就寝へと戻り、現在はサワアとメルだけの二人になって居た。
メルもサワアも悟空に対して其処迄嫌なことはない。
料理を取り、席に付いて手を合わせて食事を摂り始めるメルを見て
少しだけでもとメルが気にしていそうな料理も取ってきて置いてやる。
食べれなければ自分が食べれば良いし、最悪彼に渡してしまおうかと思ったくらいだ。
『…おいひ!!』
「っんぐ、へへ、だろ〜?こっちもうめぇぞ?」
『わ〜〜!!ほんとら!!あふあふ』
「そう急がないで下さい。火傷しますよ?」
ふぁい。
そう眉間に皺を寄せ、足をばたつかせるメルに
水を持って行けばコクコクと音を鳴らして水を飲み干す。
ふろ上がりというのもあるのだろう。
どうやら身体の水分が飛んで喉が渇いていたらしい。
「にしてもメル見ないうちに滅茶苦茶強くなってんだな?オラおでれぇたぞ。」
『…ほんとは要らないんだけどね。』
「エフェメラル…」
『戦わなくていいのに。…どうして皆仲良く出来ないのかなぁ。』
「戦わない方が一番だけんどな。」
そう困ったように笑う悟空にメルもうんと頷いた。
進んで食事を摂るなんて、本当に最近出来るようになっただけで。
昔は出来なかったのだから、割と不思議なものだ。
出来ないのが嘘だったかのようにみえるのだから。
「あんがとな」
『え?』
「大会。全ちゃんがまた宇宙を消しちまうかもしんねぇから、苦手なのにやってくれてんだろ?」
「…悟空さん、貴方何時から」
「へへっ」
『…いいよ。それに大好きな人達にまたあえたから。』
「おっかあと、おっとうか?」
そう。そうだよ。
『いい子で居なきゃって思わせてた。そうしたらきっと、此処に残ってるものも分かるって。褒めてくれるって、思ってたから、沢山頑張った。』
「…褒められましたね。」
『うん。やってよかったよ。…悟空とも長い付き合いになってるしね?』
「ははっ、何だかんだな?」
『へへっ』
食べながらこうやって会話するなんて、何時ぶりだろうか。
楽しい時間があっという間に過ぎ去っていく。
本当は明日がきてほしくない。戦いたくない。
…でも、明日を乗り越えないと、きっとこの先後悔するから。
「するってーと、全ちゃんが王様ならメルは王女様ってやつになんのか?」
『悟空からそんな偉い言葉出てくるとは思わなかった。』
「エフェメラル?流石に見下し過ぎでは?」
分からなくもないですが。
さ、サワアさんそりゃねぇぞ…
「ふふっ、なんだか貴方にさん付けで呼ばれるとこそばゆいですね。
特別に貴方であればサワアとお呼びするのを許して差し上げましょう。」
『えっと、じゃ、じゃあ…さ、サワアさん?』
「貴方人の話を聞かないですね。悟空さんに対してですし、なんなら敬称抜きの話しですよ。何取ってつけてるんです?」
『え〜じゃあ、サワア様?』
「……次言ったら口ききませんよ?」
なんで?!?!?!?!?
『ねぇ待ってなんで??!?!ねぇなんで?!?!?』
「ぷっくくく」
「…おめぇ、案外意地悪だな?」
「ふふ、そうですかね?」
『そうだよ!?!?!?こーいつまーーじで意地悪なの聞いて悟空!!』
「あっちょ、何言おうとしてるんです!?おやめなさい!!!」
というかもう少しお食べになって下さい!!!
やぁ〜〜〜〜!!!
「ほら口開ける。」
『ふぐっん〜〜〜〜!!!!』
「全くもう…そんな様子でどうするんですか。
赤子が出てきたらどう躾るんだか。」
『…一緒に駄々こねる。』
「おやめなさい。」
子供が二人とか私嫌ですからね?
え〜〜?
『君はお姉ちゃんになるの嫌かなぁ?』
「…エフェメラル?」
『あうっ』
「ぷっ、くくくくっ」
ごめんごめん!
「いやなんだかおもしろくてよぉ」
「面白い?」
「だってそうやって話してたらオラたちみたいだなって。」
「人間と?」
「嗚呼!」
そんなまさかと目をぱちくりするサワアに
それはそれで嬉しいなぁとメルは答える。
『ね、悟空。』
「ん?」
『たのしい?』
「…ああ!」
『えへへっ、ならよかった!あっ悟空コレ食べたことある?』
「おっそれねぇな〜くれるんか!?!?」
どうぞ〜
さんきゅ!
いえいえ!
そう会話をする二人にふうと
サワアは一息つき、紅茶を一飲みする。
人間で在りたいのは、あの方達と共に過ごしたかったから。
そして、人間である、孫悟空の器自体に収まれば…
此処にずっと居続けられるから。私の元にずっと。
浅はかな感情一つでヤッケになってはいけませんね。
「私もまだまだ修行が足らないというものですか。」
『ん?なんかいった?』
「いいえ。それよりも口に付けてますよ。」
『どこ?』
「此処。」
そう手で掬い取りぺろりと舐めれば
ぶわりと顔が赤らむので面白くて笑ってしまう。
悟空さんがこっち側の席に座っていなくてよかった。
可愛らしい貴方の顔を見るのは、僕だけでいいのだから。
そんなこんなで食事もとり、後は寝るだけ…ともいかない。
部屋に戻せば先にルトラールとコルンが部屋の前で話をしていた。
どうやらつい先ほど合流したらしい。
『おやすみ、さわあ!』
「…ええ、おやすみなさい。」
軽くぎゅっとしてしまえばふわりと離れ、部屋に入る。
よ〜しはりきるぞ〜!と元気な声が聞こえて
また笑いが混みあがってきたではないか。
このままなら別に下へ降りても大丈夫だろう。
そう思ったサワアは自分の階に戻ることにする。
「サワアさん」
「ん?お父様?」
「ちょっと」
++++++++++++
そうこうしまして。
現在起床六時半。
此処から身支度して、チェックアウトも兼ねて
荷物の整理をしておかねばならない。
荷物は全部向こうに持って行く予定だ。
とは言っても、ある程度の身支度が済めば
全て杖に仕舞い込むだけなのだがな。
『あ〜ん、ちちぃ〜〜〜だっこ。』
「はいはい。飛ばすよ?」
すいませんすいませんすいません
ソレだけは勘弁してください!!!
起きたねぇと笑うルトラールにコンコンとノックが入る。
「おや、起きられていたんですね。おはようございます。」
「嗚呼おはようサワア君。ほら愛しの旦那が来たよ。」
「る、ルトラール様?!?!?」
「っふふ、じゃ、僕は第二を見てくるよ。」
「っちょ!?!?るとらああ、行ってしまわれた…。」
ヘレス様達大丈夫だとは思うんですが…。
朝食を取りに行ったらすぐに部屋へ戻りチェックアウトを確認する。
勿論天使らも各階層ちゃんと見て最後に大神官様とルトラール様が確認後
この場所自体を綺麗さっぱり撤去する方針だ。
エフェメラルは思い入れがあるから欲しいと言っていたが
残してもそうやって続けば後の始末が面倒になる。
勿論毎年開催するとか使うならば話は別だろうが
そうすれば彼女の負担がかかり過ぎるので
天使らで穏便にことを鎮めてしまったのだ。
まぁその件に関しては少し苛立っていたが
其処迄ぐずらなかったので良しとした方がいい。
下手に考えていると妙に勘が良いからバレるのだ。
唸るエフェメラルを連れ、屋上に上がる。
早い子達は既に会場へ向かって最終調整をしているかもしれない。
まぁこっちもしていっても構わないが、疎かにしてこの子がまた違う処に飛んで消えてしまうことだけは避けたいものだ。
この子一人ではない。子供を身籠っているのだ。
どれ程大事であるのか、本当に分かっているのか。
「おはようございます。サワアお兄様…と、」
「…起きてるのか?」
『ふみゃい、おはよおこるう?あれちかい?』
「ふふっ、すみません、私はコルン様ではありませんよ〜。」
すみません
いえいえ。
そう両手をふらふらと揺らして手を取ってくれたのは第8宇宙のイル様だ。
先程まで起きてたんですけどね、急に眠くなったようでと困るサワアに
メルはうつらうつらと本気で眠たそうで。
「…もう少し寝かしつけて差し上げれば?」
「そうしたいのは山々ですがね、
これからの日程上そろそろ
起き上がってもらわないと困るのですよ。」
「あ〜それなら僕らがやろうか?」
「うわっ!!!!」
ぱっと杖が出て来て杖の宝玉からぬるりと上半身出してきた子に
思わずイルが驚き引けば、そのままメルが重心を取ってイルごと倒れ込んだではないか。
嗚呼もう、起きて下さいって…!そう嫌そうな顔でしゃがみ起こすサワアに
見ていたコルンや到着していた第9の者達が苦笑いで温かく見守っていた。
「サワアさんだっけ?この子の面倒は任せて下さい。」
「貴方も支度があるでしょう?」
「え?嗚呼いやですが」
「ほらほら。さっさといくいく!!」
「ええ?!あっちょ、お、おさないでください…!!!」
背中を押され、サワアも第2へと戻らせている間。
さてと〜そう言う彼女の声にメル〜と声がかかる。
「はいはい、あんよはじょうず〜あんよはじょ〜ず〜」
「いや、おもっきり弄ばれてるじゃないですか。」
「起きるわけないだろ」
『ふふっ、ふふふふ』
「起きるんだ」
「ほ〜らほらほら。おくちあーーけーーてーー!!」
「ばんばんばんばん」
『待って待って待って!!ねぇ〜!!!誰ひっっくい声でドア叩く真似してるヤツ…!!!』
ドアをあーけーてーだんだんだんだんだん!!!!
ひぃ、だめ、むりっ、やめっ、朝からわらわせんじゃねぇ!!!
一発で起きたのに軽く引いているサワアに
だから言ったでしょとブイサインする。
流石というべきか、春の新樹組に彼女の面倒を任せた方が割とスムーズなのではと思うくらいには勘違いしてくる。何だかんだ言って幼少期しかいないのだ。なんならアルトリアの方がメルの面倒を見させた方が良い程だろう。
元々華樹神官の位置にいたのだから、そりゃあそうだろう。
サワアでなければ彼女がその位置にずっと居たという話も聞くくらいだ。
それ程優秀なのだから別に自分の席を空けなくてもいいのにとは思ったりしなくもない。
まぁそんなことを聞くのは野暮というものだ。
この日以降は特段人間らの出番はほぼほぼない。
神々のお遊びみたいなものだから付き合って貰わなくていい。
そういう訳で二日目の夜に人間らは解散になっており、
忘れ物どころか人自体が少ない。
第2は割と残っているが、他の宇宙になると途端に人が少なくなっている。
まぁ殆ど全員残っていると言えば第6と第7、第9近辺だろうが。
「にしても元気ね。」
「ま、元気なくらいが一番いいよ。寧ろあれ程和えられてたら会場到着する頃には起きてるでしょうし。」
「今回の一番の肝だからね。」
「きも?」
「主役という意味ですよ。」
そう答えるウイスにそうだと言わんばかりにミシュメールが頷く。
一体何処で知識を蓄えてきたのか問いただしたいが、今しなくてもいいだろう。
「にしてもエフェメラルが300とか未だに信じられないんだけど。」
「300?何の話?」
「え?戦闘力の話。」
「「「「はぁああ?!?!?さんびゃくうう!?!?!?!?」」」」
そう大声を出したのに、しーと周りから言われて何人かが口に手を入れる。
声に驚き目覚めたというのもあるが、三百と言った声に気付いたのは全王だ。
「メル300もあるの?」
『んぐっ…んん、あるというかなんというか、最高火力だから維持が出来ないというか…したら軽く消滅する可能性がぐぐっと高まるのでぶっちゃけしたくないといいますか。』
「勿体ぶりますねぇ。」
『しないとしてって言われた時困るでしょうが。』
「してくれないの?」
『嗚呼はいはい今度しますね!??!?!』
ふふ、無理なさらないで下さいね。
わかってますけれどもね…?!?!?!
『うう〜〜全王様のお願いは流石に叶えてやりたいじゃないですかぁ。こんな可愛い子のお願い全部叶えてやりてぇもん。』
「うふふふ、でも無理は駄目だよ?」
「そうそう、メルが出来る範囲でいいんだよ?」
『うえええ〜〜〜〜。』
「…ほんと頭が上がらないな。」
全王とて馬鹿ではない。対等に来てくれる子には対等に見てくれる。
まぁだとしてもメル自体本来全王様の座に君臨する者である。
まさか席を渡す為だけに、こんな途方もない神々らを使わせていたとは誰も想像つかないだろうて。
「そういえば、ねぇねぇメル。今日は戦い、するんでしょう?」
「するんでしょう?」
『ん?…嗚呼まぁする、けど。』
「けど?」
『えっ待って待って何をお望みです???
余り過剰なものは許可出来ませんよ?』
「えーーー」
「駄目なの?」
『うぐっ』
「エフェメラルさん?」
胸を掴んで軽く逆側に倒れるメルに、大神官が声を掛ける。
一応生きているらしいが、白旗をパタパタと上に上げている処
どうやら可愛らしさで悶えているだけらしい。
大神官が苦笑いで笑って居る間、メルーと声がかかる。
本当に全王様らから引っ張りだこである。
あの夜に、ぼそりと呟いていたことを思い出す。
ー戦わなくてもいいのにね。
そう、闘わなくて良い。
貴方がその身を落とすなんて、しなくていいのだ。
崇高なるお方である、存在なのだから。
その手を染めなくても、いいというのに。
その座を守ってくれていた子達にすら、
貴方は嫌だとしても、重い腰を上げてやるというのか。
「サワア?」
「どうしました?」
「いや、不安そうな気がして…気のせいか。」
「…ええ、気のせいですよ。寝ぼけてらっしゃるのでは?」
「なっ!!誰がするか…!」
ふふっ…嗚呼誰も気づいていないんだろうな。
本当は起きていることも。
周りをみて、反応をみて調べていることも。
そうやって、どんどんと周りに「仕方がない子」と思い込ませているということを。
「(敵対するのが怖いというのは、私の方だというのに。)」
彼女は、ソレを知っているのか否か。
それは彼女のみぞ知る、というものだ。
++++++++++++
そうしてとんとん拍子に事が進み、
現在ホテルは解体され、荷物を各会場の場所に置いて競技を見ることになった。
その開会式後。
「ではこれより推薦選抜試合を執り行います。」
「…えっと?」
「皆さんお手元にカードがあると思います。」
其方に名前を記入してください。
戦って欲しい者を書くのですよ。
「例えば悟空さんとベジータさんに戦わせたい場合は
この容姿に名前を書きます。
勿論名前が分からない方は各天使に尋ねて下さい。」
一通りの名を覚えさせておりますので。
『いつの間に…』
「ふふ、では五分間時間を取ります。」
お好きにどうぞと言われ、悩みに悩む。
誰と誰を戦わせたいかと言われたら
やっぱりここの組み合わせかな。
スラスラと書いた後、ふわりと綺麗に用紙が消えて溶ける。
時間になり、会場の画面にぱっと表示された言葉に全員の声が上がる。
「っな!?!?!?」
「えっ!?!?!?!?」
「…投票は以下の通りになりました。」
第一試合の方は各東西裏側にお集まりください。
そう言われ、足を運ぶ。
『よっ』
「おや、こっち側ですか?」
『へへっ、どうです?心境は。』
「昔は良く相手して頂いたのですがね、最近はめっきりでして。」
『弱気だぁ〜〜〜。そんなすっぴーにおまじない。』
「おや、かけてくれるのですか?」
『二人は一つ、一人は二つ。』
そう指を立てて交差し二本立てたものを
放す時に一つ折ってしまう。
「ご忠告承ります。」
『頑張ってね。…ご武運を。』
「ありがとうございます、では。」
〈さぁ!三日目、神々の神々による神々の為だけの武術格闘技大会第一試合の戦いは!!!!〉
全王様に仕える天使であり、各宇宙の天使らの父でもある大神官様スピリタス様です!!!
そう声援の中、前に足を歩める。前を向いて、対するはと声に目を向けた。
〈かつて存在していた天使も悪魔も人間も。全てが其処に集結していた。〉
ユートピア。その地に今で言う全王様の地位に君臨していたお方。
我らが華神の華樹神官であり、大神官スピリタス様の実のお兄さん!!!
〈ルトラール様でーーーーす!!!!!!〉