はじめは大嫌い
第一試合
ルトラールVSスピリタス
開始の合図は先程応援を与えていたエフェメラルだ。
いつの間に着替えているのか、
メルの白い衣服をみた大神官が
「今から交代して差し上げても構わないのですよ?」
とおちょくれば、「そんなの後で出来ますから」
と流されてしまって、少し驚いてしまった。
昔なら「ほんとっ!?あっでも、いまはちょっと…」
なんて慌てふためく彼女のふわふわした気持ちを
ちょっとだけでもつついてやって遊んで居たのだが、
どうやらそんなことは適わないらしい。
『お二人共、ルールをお伝え致します。よろしいですね?』
「ええ」
「構いませんよ。」
『…真剣勝負、このフィールドの範囲内であれば全力を出して貰って構いません。
制限時間は10分。互いに負けなければ制限時間を含め
最長20分とし、残りの気量で判定をします。
どのようなことをなされても構いませんが、
過度な毒やら殺害を促すようなことはご法度です。』
それは、華神としても力を使用しても構わないというもの。
『何方かが降参と言う、もしくは気絶するかで勝ち負けを言い渡します。
フィールド外に飛び出しても構いませんが、外に出れば一時的に膜が張られます。』
膜が綺麗に割れたら武外ということで一発負けと致しますのでご注意を。
『それでは、私審判者エフェメラルがお努め致します。
お二人共ご準備よろしくて?』
「何時でも構いませんよ。」
「おや、余裕そうですね?」
「そうでしょうか。」
『…それでは、これより、第1試合を執り行います。』
数メートル離れた後、息を大きく吸って吐いた。
目の前の気に押されるというものではない。
すっと上に上げれば構えの動きを取る。
引き金を引けば、すぐに距離を取らねばならない。
数秒、数十秒の時間が途方もなく長く感じる。
落ち着かせる。じっと、じっとさせる。
揺れる波が、ぴんと真っすぐに
糸が張る様に伸びた瞬間を見計らい、
勢いよくピストルの引き金を引いた。
ぱぁんと鳴り響くと同時に
メルは急いでポシェット片手に飛んで武外に飛び戻った。
さぁ始まりましたと開始の言葉を聞きながら、
おかえりーとの声にただいまとメルは答え前を向いた。
この試合、割と面白いことになっている。
勿論ルトラールとスピリタスという兄弟対決と言った意味ではただでさえ面白いんだがな。其処じゃあないんだよ其処じゃあね。
「にしてもよく考えたな。フィールド内で動く生物ならばどんな者でも視認出来るようにするとは…」
『ふふふのふ〜〜〜ぼくちん超天才じゃん????』
「隙あらば自己肯定感爆上げしていくわね、貴方って人は…」
そう何人かが冷や汗を垂らしながらメルの自信に対してげんなりする。
今回フィールド内とフィールド外での動きが違う…とかではなくて、
正確に言えば「フィールド内で動いている者達の時間間隔を狂わせる」というものだ。
と、いうのもですね。
『今回神々の中でも一番低い値で7。そして最高値の最高火力でも300は行く振れ幅のデカさ。
威力も馬鹿みたいに大きくなる上に、ハンデも色々与えないと話にならない。』
「まぁそりゃそうだな。」
『通常で戦わせるのは良いんだけれども、毎度毎度建物が壊れたのを修復〜って行けば馬鹿みたいに時間掛かるでしょう?』
「だからと言って、華樹の力使って常時修復し続けるとか…お前鬼か????」
今回の闘技場、かなり綿密に考える為にもエフェメラルを筆頭に
各神々の上位であるお方らを全員巻き込み会議に持ち越したもの。
題して
『”全ちゃん全力ぶち上げ作戦”大成功では????』
「相変わらずネーミングセンスが虚空行きだよな。」
「最早ブラックホールに吸われた方がマシなのでは?」
「そりゃダメだろ」
「なんでよ。」
「ブラックホールが可哀想だ。」
「嗚呼それもそうね。」
『嗚呼それもそうねじゃないのよ。ブラックホールが可哀想じゃないのよ。』
何変な話をしているんだお前達は。
今回フィールドに張り巡らせている半円ドームには
他にも特殊効果が盛りだくさんである。
「にしてもよく考えてるよね。これ外に出たらどうなるの?」
『一定時間内でドームの材質が身体に張り付きます。』
「あ〜アレか。気の量で周りの生物消し飛ばさない様にか。」
そう言う事だ。
合図は中にある設置された華時計での計測だ。
時間になれば音を鳴らし、
パンパンと何度かピストル音を
鳴らして終わらせればいい。
「にしても気を良く維持出来るようにさせるな?何を指せているんだ?」
『え?嗚呼それはですね。』
++++++++++++
「は、?気をこの闘技場に預ける????」
「…すみません、仰られている言葉が呑み込めないのですが。」
『あっれ、端的に話過ぎた?』
そう頭を掻くエフェメラル。
現在闘技場に入る15分前のこと。
初戦というのもあり彼らには細かく説明するために
個室に二人を入れて話をすることになっていた。
勿論私一人だけにさせるのはと我先に来てくれたサワアとコルンが後ろで待機してくれているが。
いや過保護だね?大丈夫だよ。この闘技場というか、無の世界から消えたら大神官様見てくれるだろうし。
そのようなことをそもそもなさるなと?嗚呼それもそうか。
じゃないのよ。
「あの〜〜〜エフェメラル?君、忘れたとは言わせないけどさ
ただでさえコイツの気は馬鹿みたいに多いんだよ?」
「むっ」
『はぁ…分かっています。逆に聞きますが、何故この世界でこれだけの神々が勢ぞろいしているというのにこんな通常時で話せれていると思います?それも通常の下界で生きる人間達の眼のまえで。』
そう言えば確かにとコルンがぼやく。
「戦闘力の欠片もない者達が我々一人ですら見つけるのは苦労するどころか、神々の地に降り立てば最後その身に有り余る程の負荷が物理的にも精神的にもかかっていく筈ですが…」
『さらりと恐ろしい解説をどうもありがとう。という訳で、皆が同じ土俵に立つといった点では
前に会議したものを応用して、フィールド内の周りに幕を張っていくつもりです。』
「嗚呼、華樹の根をこの地帯全域に降ろし這わせるアレだよね。」
嗚呼そうだとメルは頷く。
『通常華樹の根は降ろした本人のみの気を使っています。それを応用し、此処の世界は全華神になった者達全員の気を根に入れ、互いの気を打ち消し合わせているんですよ。』
「飽和ということですか?」
『ええ。』
「だから何もせずとも周りの子達が落ち着いていられるわけですか。」
本来華樹の場は下界は愚か、天使らでも割と集中しないと生きていけない場所ではある。
幼子たちに立ち入りを禁じていたのは気が碌に生成出来ない状態で行けば変な癖が出来るから。
まぁそれに気付いたのはサワアとメルが一緒に遊んで数年後の話であり、
当時かなり仲の良かった二人を割くなんて出来る訳もなかった。
外に出して遊ばせたら遊ばせたで色々面倒事は多発していたのだから致し方がない。
「それで?そちらを付ければいいんですか?」
『ええ。色は赤と青の二色で分かれていますが、中身は同じものです。』
「付ければどうなるので?」
『根に気を絶えず渡している形になります。』
「ばっ!!!!!!」
付けた後それを早く言いなさいと怒鳴るルトラールにご安心をとメルが答える。
『華樹神の付ける金の首輪と性質は大きく異なります。』
「え?」
『アレは強制的にシャットダウン、まぁ断ち切るに近いもの。
これは無理矢理渡す気の場所をとっつけ、かえる。
言わばケーブルみたいな役割のものですよ。』
アダプターとは、英語で「適合させる」という意味を持つ。
コンセントから入力する交流電流を使用する機器に合わせ
電力に変換して出力するものだ。
半円のドーム自体はそのアダプターで、首輪を付けることにより
アダプターとケーブルが繋がった状態になるのだという。
そう、半円ドームは戦う者達の気を常時リンクさせるからこそ
周りの人らの知能に合わせた動きがみえる様な
レンズの役割を指せることが出来るというのだ。
『気は絶えず流れ続けます。勿論攻撃しあえばその分体力も落ちますし、気も消滅します。』
「片方の気が消え、周囲に被害が及ぶ想定は?」
『ありますが、その為の華神ら全員集結というものです。
あやつら単体で見ればどうってことないと思いますが
全員集めてしまえばほぼほぼ何でもありの集団ですからね。』
「それは貶しているんです?それとも褒めているんです?」
褒めてんだよ褒めてるんだよ。
『回復出来る者もいれば蘇生出来る者もいます。
勿論時間を遅くさせる者もいますし、
華神らにはその都度対応するように
滾々と説明していますので。』
「気軽に戦わせる為に?我々を戦わせる為だけに作られたと言ってもおかしくない話ですが。」
『ま、其処ら辺はご自由にご判断下さい。
話は戻りまして、仮に気が消滅したとしてもご安心を。
ある一定以下の気を感知し次第此方でブザーが鳴る様に設定しています。』
まぁと言っても半円ドームの効果が完全ではなくなった場合のみだ。
それは片方の気がほぼほぼ底をつくというよりも、二人合わせて半分以下になった時のみ。
警告音みたいなもので、実質何か欠けるものが発生する迄には至らない。
『それにお二人だけでなく何名かには気を絶えず与える様に仕組んでいますのでね。』
「まさか理らに言っているのでは」
あ〜〜〜〜
「あの、頭を上げさせないおつもりです?」
「その件について我々いっっっさい耳にしていないのです、が???」
『あ〜〜〜ん!!!流石にダブルぱっぱの圧がすご〜〜〜い!!!!』
「いや逆に考えましょう弟よ。」
「なんです?まさか「あのエフェメラルが考えお願いを言うくらいなんだから物凄いレアなことが起きるのでは?と考えた理らの遊びに全力で挑まねば此方が消滅する可能性があるから戦うしかない」とか言い出すんじゃないでしょうね?」
「さらりと心情を読むんじゃないよ。さらりとさ。」
さ〜らりとした〜うーめーシュッ
「それだけです?」
『一応は』
「い、一応はって貴方ね…」
『嗚呼一応ないとは思いますが首輪が壊れたら私の名を呼び手を上げて下さい。
一時的に試合中断して新しい首輪を掛けます。
そうしないと貴方方の全力で色んな子達が死にかけるので。』
「嗚呼それくらいなら別にしますけれども…」
なら大丈夫ですよ。
++++++++++++
そう、ならね。
『(どちらが勝つか、だなんて明白に見えて案外そうではないのだ。)』
あの首輪、実は他にも要素がある。
勿論これは私だけが知っているというものであり…
『(二人の感情が此方に筒抜けであることくらい、気付いているのだろうか?)』
曲がりなりにも華樹神。いや今は華樹王というべきか。
根を張るのは華樹王であるエフェメラルが担当している。
その為根に気を送るのだから、
触れ合う者達の感情が直で入ってくるのは当たり前のこと。
其処ら辺分かっているなら別にいいのだが…
『(いやものっっすごく殺意たっっっっか。しかも大神官様の方がぶっちぎり。)』
エフェメラルは今回の件全員一致で不参加になっている。
理由は根を張るというのもあるが、
一番の理由は身体の中に居る胎児に影響が強すぎるというものだ。
とは言っても、ちゃんと試合には参加するつもりだ。
自分から戦いたくなるのはこの子のおかげだとでも言うのだろうか?
『(にしても動きに無駄がないな。)』
一見、足を前に出せば引いて次の一手を振り下ろすだけの機械的な作業にも見える。
ただのお遊戯かと思えるのはこの半円ドームと根の陰ながら絶えず続けている努力の賜物であることを、恐らく下界の人間は愚か、天使らでも分かっていないことだろう。
一応全王様には全てお話して許可を取っている。
その為多少見えづらくても我慢して頼むと頭を下げ許可が出ているのでそこら辺の文句は言わないだろう。
喋っていることはドーム外で聞きたい人は聞けるようにしている。
此処に来てくれている者達全員に配布しているし、その説明は一応している。
それとは違う、心の奥に眠った声が聞こえてくるのだ。
『(そっか、嬉しいんだな。私も、貴方も。)』
そりゃあ自分の子が、こんなところに来たら嬉しいことだろう。
華樹に選ばれたのは、華樹神の樹ではなく、華樹王である樹の方だったのだから。
何度も何度も廻り巡って、辿り着いた場所は、一番最初に出会ったあの青い世界のど真ん中。
白い世界でも、黒い世界でもない。
花畑の世界でも、草原の世界でもない。
透き通った青一色の世界であるのだから。
そして、この場所に、息をするというのだから。
喜ばない訳もない、か。
メルはため息をつきながらも、全王様の真下にある席で二人の試合をぼーっと眺め続けている。
華樹王になってから早くも半日が経過しようとしている。
その間、全くと言って何もない訳ではない。
全王が何故この宇宙で平然と居られるのか、それは慣れか?
いや違う、降りる場所が決まっているから。
対して私は降りる場所が決まらないまま宙に浮いている状態。
それを維持するのは少々骨が折れるというもので。
一番手っ取り早い話は手持ちの宇宙を持つことだろう。
かと言って誰が何処のという話を全くしていない上に
この件に関しては全神々を集めた会議をしなければいけない。
というのもだ、既にメルの中にあるのは紛れもないかつて生きていたであろう6つの宇宙が此方に来ているのだ。
それは同時に、もう6つの宇宙を自ら導いてやればいいというものであり、恐らく各華神らは枠組みに相当する位置を持っている。
頭上にある華冠を浮遊し消し去ってから髪をぼりぼりとかきむしる。
手櫛で遊んでいながらも、その目線は絶えず二人の試合を眺め続ける。
勿論頭の中は別件でいっぱいではあるのだがな。
『(夏は果てに居る位置の子達が天使ならば、秋は月代が破壊神。
冬霞が界王神にして、春は新樹組が全王様の管轄である彼らと
私の管轄である華神らの繋ぎという役割でいいかもしれないな。)』
破壊神が華樹神、天使が加護天使だとしたら
界王神は華神でいいかもな。
廻廊を移動場所の経路として組み込めば
もし仮にサワアらの処から襲撃を食らったとしても
此方側の世界に干渉する前に廻廊で遮断出来るようにも可能か。
それに此方側の管轄に入ればドアの移動で別世界にご入場できるならご退場も可能だろう。
あ〜そうするならいっそのこと此処丸ごとコピペしてしまえばいいか。
やっぱり上の方に時空を創り出すしかないよなぁ。元々あったし、其処が今もあれば良い話だが。
++++++++++++
「おや、此処で終わり、な訳もないでしょう?」
息を吐く回数が増える。
気を其処迄放出している訳でもないのは互いも、か。
「腕が落ちましたね。」
「…ええ、貴方こそ。」
そう言って大神官はルトラールに真正面から攻撃を仕掛ける。
前に出した腕を交差するかのように
受け止めたルトラールはそのまま下に流し
次の攻撃を交わす準備を作り出す。
此処で下手に攻めると自分の力を多く使う。
だからと言ってこのまま時間が過ぎれば
確実にこっちが負けるというもの。
気の差は歴然。曲がりなりにも兄である者。
自分の力から20程は上に位置する者だけでなく
幼い頃から組手の相手をしてくれていたのだ。
こっちの手は知れ渡っている。
だが、それは、こっちも同じというもので。
「っぐ」
瞬時に入った蹴りに飛ばされ、場外に着地する。
一応着地は出来たのがまだ救いというべきだろう。
カウントダウンが始まる音がした。
ピッピと高い音が妙に焦燥感をくすぐってくる。
「彼女は仰られていましたよね
…別に、何をしても、良いのだと。」
余り初っ端からこういうことは
したくありませんでしたがね。
お人がお人、場所が場所、なもんですから。
致し方がないというものだと言い聞かせる大神官に
落ちて来ていた場所は第9と第10の場外。
大神官はふっと笑い手を叩いた後、構える。
「私とて、貴方に勝たないだけで
留まるわけにはいかないのですよ…!!!」
「…それなら、此方も手を出すという者。」
ニヤリと上から下を見て笑うルトラールもまた距離を取り構える。
それを見たメルが嫌そうな顔をして口元に手を当てた。
『げ』
不味いと思ったメルは立ち上がりトトトと駆け降りつつ
耳元に手を置きごーめんと言いながら第2の方に走っていく。
『うん。手筈通りに。あいよー。』
声をかけ、場外に出ている大神官とルトラールの位置を確認しながら
その身体を動かし、特定の位置に付くかのように軽快に走っていくメルに
何処へ行くんですか!と声がかかるも無視する。
くるりんぱ、と足を飛ばし円を描くように平らになっている地点に膝をついて息を整えるメル。
その場所は闘技場でも観戦者が座る場所の中に点々とある変に何もない場所で。
『(さて、超過したら余剰分は移動しなけりゃならない)』
正直言わせて貰えば場外という時点でアウトだが、
どうせ彼らのことだ。大方片方の出方を考え、
初戦の上にギリギリまで高めすぐに戻ることだろう。
とあれば、幾ら半円ドームのゼリーみたいな膜に覆われていたところで、
放出した気に耐え切れず破裂すれば跡形もないというもの。
そう、だからこそ、このドームに種を植え付けたのだ。
エフェメラルの力で包み込み、その先にある場所に向けて戻す。
仕組みを簡単に説明すれば、要は磁石の様なものだ。
一度千切っても、大元が磁石の様に近くにあればあるほど早く引っ付くもの。
でも、それが磁場を持っていればの話。これは持っていない、作っているのだ。
作っている気は、一体何処からだと思う?
私の、エフェメラルの、種からというものだ。
「っメル!?貴方何をするつもり!?」
『黙って見てなってクス姉。』
メルは第10と第11の狭間にある少し出っ張った位置に身を降ろす。
息をとにかく整えながら腰を座らせ、
胡坐をかいて荷物をてきぱきと身体から取り外し始めた。
『…はいは〜い、此方メルちゃん、でーーす。
お兄さんお姉さん準備はよろしくて〜?
いくわよしますわよ〜?どうしますわよ?』
えー、しない?馬鹿言うな。アレぶっぱして周囲の影響ないわけないじゃろがい。
そう誰に言い聞かせているのか笑って耳元に手を当てて何を聞いたか知らないが腹を抱えて笑い出す。
『えーしーよーうーよーーー絶対駄目だって。私分かってるもう絶対ぜーーーったいこれ駄目だって。
あ?いやいやいやいやいや、よく考えてみんしゃい。
あのぱっぱとぱっぱの対決な上に場外アウトギリギリまであーほら戻ったほらーーー。』
でも絶対次来る。様子見してこっちも見てるくらいだからさ。
えーした方がいいって絶対良い。
『嗚呼ご安心を。一応配置に着きましたよ。ええ、手筈通りにね。
ぷっはは、い〜やぁ!私がー?それ続きあるって
言ってるようなもんですけれども!?
え?煩い。つべこべ言わずに仕事しろよお前ら。』
メルはひたすらに愚痴る様に笑って話す。
その間大神官らは元の場所に戻り、
高めたものをまるで今出すものではないと
保持しているかのように見えた。
いや、保持しているのだろう。機会を望んで。
そして、本気で戦ってくれることだろう。
その時がこの試合の見せ場というものだ。
それならこっちもバックアップを惜しまないというもの。
全王様が折角「譲るのに」と言ってくれたのだ。
ならば、一瞬だけでも、「譲ってもらおう」というものだ。
『”留めたこと、忘れられない。約束果たす、その時まで。
泡沫の中、溶けて消える。なんでなんでなんでなんで。”』
音を紡ぎ出す。指を鳴らし、
衣服が変化し、一瞬で白い衣服に戻してしまう。
手で身体を叩きながらリズムを取り、
指をくるくる回しながらも見る場所は
ただ攻撃をし合う最中のみ。
ニヤリと笑い、胡坐をかいていた
身体を少し崩してしまう。
左足を立て、もう片方はぶらりと
前に足を出してしまう。
幸いなことにこの場所、
少々人がいないというか、捌けられました。
悪いな、此処は私の席なんだよ。
『”逃がさないよ、貴方のこと。
奪わせたくはないよ、この
2つに戻る、箱庭へと。そっとそっとそっとそっと。
終わらせる前に、終わらせて。枯れ果てたこの場所で。”』
手を前に出し、手の中にあるものを
見せつけるようにした後だった。
メルの居る場所の反対側から
声が出てくるだけではない。
各場所から人が出現してきたのだ。
それも1人2人ではない。
「”
「”
「”
「”
「”
『”
「「「「「『“(
メルを含め、6名が、その地に身を降ろしていたのだ。
全員が声に出さずとも、同じ発音の動作をし、
同じ様に両手で前かがみになって
口を隠しぼやくように呟く振りを見せた。
指は全員が違えど、1、2、3、4、5、6
と手を変えた者達の姿が露わになり声が、
音がハーモニーを作り出す。
ひたすらに右足と左足を地に降ろし、
最後は両手を叩いてリズムを取るのだけは忘れない。
複数名で歌うことにより、
低音パートやリズム隊を作り出す
その音は一定を保っていた。
「「”いかないで、いかないでと。”」」
1と2が手を前に出して伸ばせば、
4と5が身体を後ろに引く動作をする。
まるで行かないでと手を伸ばす子を拒絶するかの動作だ。
「「”溶けて消える”」」
次は3と4が手を上に上げて、下げる。
ソレに続いて1と6がまるで身体を
抱きしめる様に腕をクロスしたではないか。
『「”
1と6はクロスした腕を開くように動かし声を出す。
次は3と4が下げた手を3は1へ、
4は5の方に指を差して胸に手を当てる。
「『「”返してくれ、渡したソレごと”」』」
「「「”返してくれ、託した華よ”」」」
指を差された者と6に位置する者がハーモニーを奏でると
それに続いて反対側の者が答えるかのように音を紡けば
両手を口元で伏せるように同じ声を出す。
ただ、一人だけは、声に出さずに。
ニヤリと笑い、目を、青い光に輝かせていた。
「「「「「”どうか”」」」」」
なんだなんだと周りも動揺するが、声が出ない。
それもそのはず、この場所はメルの独壇場になっていたのだ。
その姿は、確かに見てきた者。
「(嘘だろ…?まさか、生きていた者達が、此処に居るとか言うのか?)」
そう、朱音の判断は正しかった。
その地に、衣服を纏う者達の姿は、
かつて生きていた者達その者で。
1は
頭には草冠を置き、後ろは青い輪を二つ少し交差して浮かせている。
白い翼が頭上よりも高い位置にある処からみて、かなり大きい様にも見えた。
白い髪の毛に、金色の眼を灯した可愛らしい女の子だ。
裸足で、白いワンピース姿が特徴的。
2は
長いストレートの髪は胸元辺りまで伸ばし放置しているように見える。
鬱陶しいのだろうか、歌う度に髪を弄っては歌う。
他の者と違い、スポーツ選手だったのか、
先程まで着ていた青と白の審判者の衣服を着飾っているではないか。
それだけではない。
3は
青い瞳をギラつかせている彼女は、この中で一番男らしい女の子。
白いカッターシャツと黒いズボンは、何処か貴族出の印象を思い立たせてくるも
深く大きめのグレーに染まった古めかしいコートが邪魔をして出身地をぼやかして来ている。
4は
後ろ下のほうで一つ結びの様に三つ編みをしている彼女は、かつての母を思い起こさせる。
紺色のスカートとセーラー服の姿からして、恐らく夏服姿なのだと思わせる。
それは、あの日あの時に生きていた、彼女その者なのだろう。
5は
髪の毛は両方横髪を三つ編みして降ろし、後ろの髪は短めで肩上程で左右に縛っている。
浅葱色の衣服を纏う彼女は、確かに生きていた、大神官の補佐を務めていた時の姿で。
そして最後は、
6。一度声を出した張本人。
青い目で、髪色は青く光っているようにも見える。
何処か目の奥は金色にも光っているように見えるのは、
恐らく何処かを反射しているのだと思いたい。
衣装は変化を遂げ、太ももまで隠した肩出しの
白いワンピースを首元にかけていた
深い青色の上着で後ろは少しだけでも
隠れているように見える。
上着を外せばわかるだろうが、
そうでなくても見え隠れする
後ろの方についている
淡い青色のリボンがふわふわと動けば
浮いて此方に視線を送る。
左横腹から右下脇腹へと斜めに入った
青いリボンは手前で小さな勲章を輝かせて留めている。
左右の手は白く長い手袋で身を包み、
出来るだけ肌を露出しないようにも見えるが、
胸元がぱっくり開いている上に胸元左右からは
心もとないも肩を少しだけ隠している青いベールがみえる。
彼女の色は、
「「”入って来て、私の元。”」」
「「「”刻み付けて、縋らせてよ。”」」」
「「「「「『”1つに戻る、わたしのもの。”』」」」」」
1が、2が、3が、4が、
それぞれの方向を指差し、差された者が声を上げ音を紡ぐ。
この広い闘技場の米粒以下の姿を、
よくも見て確認しながら話せるなと思う。
指を一つに降り曲げ、そして前に出して笑いながら同じ動作をする。
片手は胸元に、各々咲いた、花に手を置き笑い言う。
まるで「コレが私の生きた証」だと言わんばかりに。
もうもう、そう我慢できないような声を出しながら
頭を左右に振って次の声を紡いでいく。
その間、ひたすらに大神官とルトラールは戦い続けている。
まるでこの状態を分かっていないかのように。
「「”終わらせれないのに、終わらせる。”」」
『「「「「「”祈り果てたこの場所で。”」」」」」』
まるで祈る様にポーズをとる。
すぐに指を折って先程歌った様にするも
その目を映した場所は誰も彼もが違う場所。
「”
1は真下の方を。
「”
2は両手を胸に当てつつ身体を前に倒し、右側を向いて。
そう、まるでサワアの方を向くかのように。
「”
3は頭を抱え、俯いているも、笑みは深まっていて。
「”
4は前を向いて、1の方に両手を伸ばしている。
まるでその時間に戻りたいように、縋りそうに。
「”
5は1の方を向いているも、視線が4より下のほうに見えた。
『”
6は左下の方を向いて、鼻で笑うかのように笑みをこぼす。
諦めたかのようにも見える印象が、何処か少し怖さを見せた。
「「「「「『“(
同じ様に、全員が声に出さずとも、
同じ発音の動作をし、同じ様に両手で前かがみになって
口を隠しぼやくように呟く振りを見せた。
ただ、先程と違う点は、全員が右側を向いたこと。
まるで、過去に想いを馳せるかのように。
その時だった。大神官らの気が一気に消え失せる。
それは、莫大な気を互いに打ち合う合図とも取れて、
メルらの身体もふわりとその地から離れる。
嗚呼と、息を吐いて、優しく、
雪の降りしきる静かさの中
甘い声が吐息と共に紡がれる。
「”いきていた、いきていたんだ。”」
貴方が、生きていた。良かった。
まるで死んだ人が生きていたことに
気付いて喜びをかみしめているかのように。
「”やっといま、いきづいたのさ。”」
息づいた。それは、死んでいた心に息が吹きだしたのか。
それとも、居たことに気付いたのか。それとも?
「「『”あいしている、あいしているのさ。”』」」
嬉しそうに、泣きそうな声で零す。
噛み締めるかのように、それは、
もう、会えない人にお別れを言うかのように。
泣きそうな顔で笑って、肩をすぼめて言うのだ。
仕方がないな、そう言いたそうに。
言えばいいんでしょう?そう、思っているように。
「「「”あいしている、あいしているのさ。”」」」
紡いでいない者達がハモりを入れ、同じ様に答える。
肩を降ろし先程紡いだ者達は固まったまま、動かない。
同じ様に、時が止まったと思った。
誰もが、同じ動きで静止したのだ。
然し、その火蓋を切った。
『”みつけた”』
その言葉で。メルが紡いだ言葉が、目が、音を止めさせない。
何を見つけたのだろうか。其処を、何処を、見て言うのだろうか。
前を向いて、まるで気付いたかのように、言うのだ。
其処には、愛おしい彼が座っている場所ではあるのに
何処か違う処を見ているように、ぼやいては、笑い手を伸ばす。
『「”会いに行く、会いに行くのさ。”」』
「「”彼方に居る”」」
”
「『「”駆け巡る、心が、
「「「”そうして、今、舞い戻るのさ。”」」」
”やっと”
そう、安堵を込めて、両手を胸に置いて言う。
クルクルと頭の上で円を何度か描いた後、
指を鳴らし、ふわりと居なくなった者達と同時にブザーが鳴り響く。