きれいな円でつくった檻で
「おや」
「寝られているのですか?」
「少々疲れていそうでしたから。」
廊下でサワアと会う。
いやはや、噂をすれば影が差すというのか。
「そちらはメル様の部屋では」
「…ついてきてください」
そう言って一階の部屋の奥にあるドアで止まる。
開けろと言うのだろう、そっとドアを開けると
其処は小さな部屋になっていた。
「きっとこっちの方がこの子にとって落ち着くでしょうから。」
「…私は」
「うん?」
「私は、例えアレが仕方がないとしても、酷いことをしました。」
「…抑えきれなかったと?」
眼が細まるサワアに、スコーピオンは告げる。
メルの身体をおろし、そっとシーツを掛けて。
「私は、貴方がこの子がどう思うが関係ありません。」
「…」
「でも、どうか笑って欲しいと思うのです。願わくば、あの日の様に。」
「…っ、まさか見ていたのですか!?」
「しー」
「…すいません」
つい声を荒げたサワアに、人差し指を立てたスコーピオン
「すいません、多分ですが全員見てますから。あのご両親も。」
「…待って下さい、私今ルトラール様に会えて死なない保険ってありますかね?」
「っくくく、メルに似ましたねぇ〜〜〜。」
貴方なら大丈夫ですよ。そう笑うスコーピオンにそんなわけとサワアが言う。
弟達の前ならば、冷静に前を向いて言うのに、本当に。
「貴方は臆病で自信が無くて、その上気が小さいときた。」
「…っ」
「でも、そんな貴方だから、この子は傍で貴方を見たんでしょうね。」
「え?」
「人間ってね、不思議なことに、似たようなものをみると錯覚を起こすんですよ。」
それは
「自分と他人を入れ替えて、なんてね?」
「…メル様は、私の願いを言ったと言うのですか?」
「さあ?本人に聞けばわかりますよ。ね?メル??狸寝入りは駄目ですよ。」
『っぐ』
「何時までも逃げてないで下さい。どうせ二回目はルールが変わる可能性が高いのです。」
嗚呼あと
「この部屋のドアと窓に言わないと出れないように封じますので、あしからず。」
『〜〜〜〜!!!!!スコーピオン!!!!!』
「っははは、ではごゆっくり。」
そうドアを閉められた後、風が靡いた音がした後にガチャリと鍵のかかる音がする。
金属音の音で、メルはあああと頭を軽くかいた。
サワアの方を向かず、ただ横になって寝るようにするメル。
それを、椅子に座って背中を見ているサワア。
カチカチと時計のなる中、メルはゆっくりと起き上がりながら、私ねと言う。
『貴方に初めて会った時、どうしてそんな驚いた顔をするんだろうって思ったの。』
「…11番目の時ですね?」
こくりと頷くメルに、続けて下さいとサワアが言う。
『それで、ウイスさんに各宇宙の天使さんの話を聞いたの。
サワア様は自分達のお兄ちゃんだって話は後から知って驚いたけど。』
「嗚呼、12番目の時ですね。」
流石にあれはないと思った。本当に。びっくりした。
『でも、同時に納得した。嗚呼そっかって。』
「……」
『色んな世界を旅してきた。色んな人の中で息してきた。
息継ぎをして、最果てを見た。世界は残酷だった。』
何処に行っても、貴方はいない。
『隠れていた仮面が徐々に零れ落ちていく。
手で何度振り払っても、分からなかった。
だから決めつけてたの。嗚呼この子はミユなんだって。』
0番目で見つけた子供だったって。
でも、それではなかった、それよりも、前の話だった。
『白い髪の毛が見えて、すぐに拒絶した。
きっとミユにしたかったんだと思う。
そうして心を保ちたかった。』
「…メル様」
『怖かったの。否定されるのも、拒絶されるのも。
自分にすら、その現実を叩きつけられるのが。』
目の前で母を殺され、大事な友を傷つけられた子。
その子の背中が、ただでさえ小さいのに、さらに小さく見えた。
『陽だまりの中、二人の手を取りたかった。
それは間違いなくルトラール父様とルメリア母様だった。』
「…」
『その隣に、私の隣に、一人いたのよ。』
ねぇ、私空白の部屋で言ったよね。
受容したのだと。言ったよね。
メルはぎゅっと胸にある何かを掴んだ。
ハンバーグのタネのように手から飛び出してしまいそうに。
手に残ったタネは、一体どれ程だっただろうか。
『……』
「…最初初めて見た時、なんてこんな小さな子が神になるのだろうかと思いました。」
『…サワア様?』
「自分よりも小さな気で、細い上に弱く、その上よく転んで身体をぶつけてよそ見なんて出来なかった。」
『あはは、ごめん。』
「そんな貴方が、私の、いえ。僕の前で笑ってくれる。」
あの時間を、忘れるなんて難しいのだ。
「だから僕は願ったのです。どうか、“この時間がずっと続きますように”と。」
『………そ、れ、まさ、か。』
「同時に願いました。“どうかこの子の願いが、叶いますように”と。」
同じだ、あの日、あの時に願ったのと、全く同じこと。
目を見開くメルに、やっとこっち見てくれましたね
と言われて避けようとしたのを取り押さえられる。
後ろは壁で、左右に逃げたくても逃げれそうにない。
「だから貴方の願いが必ず叶うことになった。叶わない訳がない。だって貴方が望んだ。」
『…っ嘘』
「嘘なんか言いません。こんな状況なら猶更。」
僕、言いましたよね?昔。
「一度気に入ったものは手放さないって。」
『……っ、でも』
「貴方が誰を選ぼうと、私は構いません。」
『…サワア』
「そんな悲しい顔をしないで下さい。私は貴方を一度殺した者です。」
あんなもの、殺したも同然なのだ。
そう言うサワアに、違うとメルは言う。
あれは出てくるものだと、そうなったものだと。
「…でももし、もしも、それでも許されるならば。」
『…サワア?どうし』
「貴方と、もう一度、あの場所で。」
ーねぇ、どうか、いつか!
「僕と一緒に、居てくれませんか?」
ーこの場所で会おうよ!!
「願わなくても」
貴方の為に。
++++++++++
その言葉を聞いて、飲み込み切れなくて、胸が締まった。
確かに色んな世界を見てきて、恋もしてきた。
恋をした彼女達の映像はとても綺麗で、儚かった。
その散るのが一瞬で、可哀想だった。
ずっと続けばいいと思ったのに、
続いたら飽きるというのもまた知っていたから。
綺麗なものを触って壊した時もあった。
だから自分が壊すものだから駄目だと思った。
気付いてみることすら、臆病になってった。
そんな私を、ちらりと見つめた天使がいた。
『(なんであんな驚くんだろう…?)』
黄色の服が妙に気になった。
黄色い肌とかはまだしも、
あんな鮮やかな黄色を全身着て
更に正装するなんてあるのだろうか。
それからちょっとだけ、本当にちょっと気になってた。
千年程ウイスと話をしていた時も、サワアの話はよく出てきたのだ。
だからウイスは部屋に入った時、いいのかと本気で言ったのは私も思ったのだ。
彼がもし、私の事を想っていたら、そんなの許さないのではと。
まぁあの空間自体一番キレていたのは恐らく彼だろうが。
それはそれ、これはこれ。
でも、すぐに納得したのだ。
小さなときに、約束を。
唇を触った。
『(キスしたんだよな、最初に)』
本当に仲良くなってからではあったが、
恐らく親族をガン無視したら彼が最初だ。
多分本当の本当に最初は多分だがルトラール。
それかルメリアのどっちかだろう。
まぁそれ以外親族いないっちゃいないが。
…色々考えたら大神官とルトラールは血縁って
サワアとは従妹にならないか?色々大丈夫か?
そう思ったが、多分うん、きっと、うん大丈夫。
そう、天使だし。
そう思いながら、メルは夕方になりつつある空を見上げて思う。
月が綺麗に、上がるのだ。
会いたいと思い手を伸ばす。それは何時だってあの綺麗な花畑の中。
その中に居た人を、私はずっとずっと、思い出したかった。
11番目で、すぐに、察知したのだろう。
嗚呼、この人だって。
だから無意識的に追いかけ続けた。
それを彼は、気付いているのかは、定かではない。
でも、もう一度、あの場所で、貴方と共に。
『そんなの』
「…メル、様?」
『否定なんて、出来ない。』
「………それは」
『私ね?』
「はい」
そう言ってサワアの胸を押して身体を立てる。
お姉さんすわりのまま、ちょっと姿勢を戻しながら言う彼女を、サワアはじっと見つめていた。
『花畑をずっと追いかけてた。』
「…ええ、存じています。」
『その場所に二人は居たのに、それはカモフラージュで』
「…メル様」
『ねぇ、どうしよう、どうしたらいいと思う?』
「…っ」
願っちゃ駄目だ、駄目だと警告される。
言ってはいけない。きっと悪い方向に堕ちていく。
かつてがそうだったように、これからもそうなるように。
ぱしっと手を取り、違うと声が上から落ちてくる。
「もう、答えが出ているじゃないですか。」
『〜〜〜っ』
「ね…………メル」
胸が痛い、ずきずきして、苦しい。
こんなの、こんなの今までなかった。
誰もの世界を見ても、映像でしかなかったから。
でも、これは違う。
これは、現実だったから。
「好きです」
嗚呼、華が、咲く
「僕の手を、取ってくれますか?」
貴方が、褒めてくれた、あの花が
ふわりと腰元に咲く華を感じ取った。
嗚呼何時だって、私はあの時間に居るのだ。
『…………はい!』
オキザリスの花の上で。
++++++++++
ガチャリと開いたことに、やはりこれでしたかとサワアが言う。
「さ、メル。行きますよ。」
『えっ、まっていくって何処に?』
「まぁ報告に?」
『待って何を?』
「人間で言う付き合うという契りを。」
待て待てマテまてまて!!!
『殺されにいくのは私とめるよ流石に!!!!』
「えっ何故です?何でそんな食い気味なんです。」
『付き合いましたとか言って死なないと思える?』
「…逆に隠して死なないと思えます?」
『ぐ』
「そういうことです。それに、私は貴方以上に長い年月考える余地がありました。」
『それは…』
まぁ、そうだ。彼はずっと待ち続けた方の人間だ。
そりゃあもう待ちくたびれて困り果てていることだろう。
「それでも尚、貴方を望んだ。この意味、分からない貴方ではないでしょう?」
つまり、私以外は付き合う予定もなければ、恋をする必要性もない。
あの日あの時以上の時間なんて、来るわけもないのだから。
『…狡い。』
「っくく、言ってて下さい。貴方の方がずっと狡いですよ?」
『うううう、でもあの、えっと。』
「…その顔他の者の前でしないで下さいね?」
『え?な、なんてかお?』
「欲情させるような顔」
わなわなと震えるメルに、クスクスと笑って冗談ですと言うサワアに軽く飛びかかって吹っ飛んだのを見たメルが叫ぶ。
『あああああああサアちゃああああああああああああ!!!!!!!!!』
「っはは、ドア開くってなったら絶対殺すっては〜りきってたからなぁ〜〜!」
『ちょ、ライラさん!??!』
「よ。スコが伝言でね。良く出来ましただとよ。」
嗚呼あいつ、力使ったのか?いやそんなはずも。
部屋に入ってきたライラが、メルと声を掛けるので顔を上げる。
「…良い顔になったな。」
『…ライラ、貴方、まさか力を。』
「私は再会の華神だからな。」
嗚呼、こいつら、本当に
『馬鹿』
「ははっ、主が主だからなぁ?」
『言ってろ』
決定づけられていたのだ。
この願いは、叶えられないと言いきかせなくたって。
叶えられる前提で、動いていたのだと。
今更気付いても遅すぎるというものなのだ。
『で、アレって救える保険ある?』
「加入は事後では入れませんよ!」