壊死した言葉を花壇に埋めた




『どうして私は出れないんですかどうして!!!!!!!!』
「メル様、落ち着いて下さい。」

そうなだめるのは、

『そんなことを言ってもですね、ウイスさぁん!!
だって私既にサワア様とコルン様
一人ずつこの世界渡り歩いてるんですよ!』
「そうは言ってもですね、この空間を出るには
そちらに書かれているお題をクリアしなければ
出たくても出れないのでは?」

ううと、蹲るメルに、第7天使のウイスは更に加えて話をする。

「それに、既にサワアお兄様とコルンお兄様
お二方と出会われたのですよね?
一応進んでいると決めても問題ないのでは?」

流石にずっと、なんてことはあり得ないとは、思いたいウイス。
確かにメルだけが取り残されているのが、なんだか嫌な感じだが、
それでも人が変わっている以上、進展がないとはいえないものだ。

『うう』
「泣いている暇なんてないですよ。さっさとやりましょう。」
『いやでも距離感バグ起きそうなお題しかなくてですね。』
「まぁ、10分見つめるというのは恥ずかしいかもしれませんが。」
『うんうんそうだよね?????』

待って?君も日本語読めたっけと思い出すメルに
もうお忘れですか?とウイスが聞き返す。

「貴方と共に過ごした時間での記録を、私は忘れないというのに。」
『………過去の私を殴りたい気持ちです。』
「おほほほほほほ!それはそれは。
元気でいいことですが、殴ってはいけませんねぇ〜〜。」

自分から告げる方が恥ずかしいと思うウイスだが、
そこまで考える余裕は彼女にないのだろう。
何故なら三度目だから。

彼女が此処に、閉じ込められたと言っても
強ち間違っていなさそうな、数。

「ま、とりあえずメル様、選んでください。
最初キツイ方をするか、簡単な方をするか。」
『うぇえ、じゃ、い、一応、きつい?』
「どの程度がきついかお聞きしても?」
『え、ウイスさんはきつくないんですか??』
「この程度貴方とあれば問題ありません。」

そうさらっと告げるウイスに、メルは目を丸くする。

『いやだって片方がもう片方の膝に乗って向かい合ったり
10分見つめあったり、1時間手を繋いだりってこれもう
恋人がおうちでいちゃつくのと同等レベルなんですよ!?!?』
「人間はそういうものなのですか?」
『そうです!!!!!』

私とは、嫌ですか?

そう聞いたウイスに、狡いとメルは答え縮こまる。

『べ、べつに、い、いやとは、いってない、です、けど。』
「…ならいいではありませんか。ではどちらがきついです?」
『お兄さん楽しんでません?!?!!?』
「ええ、楽しいですね〜〜メル様とこうして久しぶりに話しますし。」

それに

「合法的に、触れ合えるのですから。」
『ひえ』

ベットで縮こまるメルの頬にウイスがそっと近づいて触れる。
ぐいっと身体を伸ばしたウイスに、メルが後ろに引こうとするが、
ずれる前に、身体がぽすんと音を立ててベットに倒れる。

「同時はきついかもしれませんが、一気にいきましょう。」

ニコリと微笑み、ウイスはそっと左手をメルの手に合わせる。
握手をと思っていたメルだが、指を絡めだしたウイスにメルの顔色が変わる。

「おや、意識してくれるのですか?嬉しいことをしてくれますねぇ?」
『あっ、わっ〜〜〜〜〜〜〜!!!』
「っふふ、困ってもこれをしなければ外に出れなくて困るのは此方の方ですよ?」

ほら、早く出してくれるのでしょう?
そう言ったウイスに、メルの顔が更に赤くなる。
眉は下がり切って、困惑しきっている。

それが、自分のことで、となればウイスとて喜ばないわけもないのだ。

「まぁ最後にご褒美は取っておくというものですし、
ひとまずは一時間耐えましょうね♡」
『ひぁあああ、無理無理無理無理ですって、手、手がて!!!』
「なんです?繋ぐのも嫌だと?」
『あっや、そうじゃなくて』
「では何故、嫌なのです?」

そういじわるに問い詰めるウイス。
えと、あの、そのと詰まるメルが右へ左へと顔を逸らす。
それに伴い、ウイスも右へ左へと顔を動かすと、
ううと困り切った彼女がウイスの顔を見つめていう。


『だって、手汗、気持ち悪くないです?』
「……手汗、ですか?」
『はい』
「いいえ、これしき全く問題ないですよ。
いやはや、それにしても小さな手ですねぇ〜。」
『いやウイスさんの方がでかいだけでしょう。』
「これくらい普通では?」
『規模が違うんですよ。規模が。』

貴方方天使達と一緒にしないでください。
正直ただでさえ身長の高い面々なのだ。
ずっといると流石に首が痛くて仕方がない。

「ならば舞空術を使って空に飛んで話をすればいいではないですか。」
『それだとなんか失礼な気がして申し訳ないので。』
「寧ろ私達の方こそ、申し訳ないのですが。」

ずっと首を上に向けて、痛めないか心配だと
此間コルンがため息交じりにクスの元で
話をしていた時に耳にしたものだ。

勿論クスが似たような身長だから聞いたのではなく、
単純に女性は上を向いて痛くならないものなのか、
知識のありそうな長女であるクスに相談しただけだろう。

クスもクスで、「痛めない訳ではないでしょうが、
好きでやっていることでしょうし、
そこまで気にすることではないでしょう。」
とはっきり言い切ったのだ。

まぁコルンがそういうのを気にするというのもだ。
周りの子が余りにもじっと見つめてくるものだからであって。
本来ならば破壊神と一対一。
あっても大神官様達でもひと時の間だけであって。

こんなに長い間上を見ている女性陣が多いときにもなるのだろう。


「首を痛めないか心配しますよ。」
『いやいや、痛かったら距離取りますし、顔見ないですよ。』
「それなら別にいいのですが…」
『そういえば、ウイスさん』
「なんでしょう」
『ハンバーグとか、卵かけごはんは食べたことは?』
「はんばーぐ、と、たまごかけごはん、というものですか?」

聞き覚えがないのか、ひらがなのように、ゆっくりと言うウイス。
それにメルはうんと首を縦に振った。

「ん〜そうですねぇ、はんばーぐというものでしたら、食べたことはありますが、
たまごかけというものは聞いたことも、見たこともありませんねぇ。」
『なら、帰ったら作りましょうか?』
「まぁ!よろしいのですか?」
『滅茶苦茶簡単なんですが、白米と卵そして出来れば砂糖と醤油が丁度良い品であれば。』
「そういえば、メル様はその卵かけごはんとやらを此方で召し上がりに?」
『ええ、サワア様とお題に出てきた内容を見て、
簡単な料理でよければと思って試しに造ったんですよ。』

内容的には料理を作って完食するだったので、
混ぜることが料理に判定されるのであればと思っただけのこと。
結局判定に入ったのか、それとも完食の方が強かったのか分からないままだが。


「それはそれは、サワアお兄様も大層喜んだことでしょう。」
『滅茶苦茶驚いてましたよ。そりゃあもう見たこと無いくらい。』
「おやおや、それはうらやましいものですねぇ。」
『サワア様って驚かないものです?』
「…いえ、まぁそうですが。」

ウイスが言ったのは、メルの手料理を先に食べたという意味であって
別にサワアの驚いた顔が見たかった話ではなかったのだが、
まぁ言っても別に関係ないことだろうしと飲み込むことにしたウイス。

「差し支えなければ、皆さんとこなしたお題をお聞きしても?」
『ええっと、確かサワア様が最初で、此処と同じ様に3つのお題だったんです。』
「ええ」

眉を掻きながらそっと身体をずらすメル
起き上がろうかと思ったが、このままでもいいかと思ったのだ。
ウイスに聞いたら「別にこのままで構いませんよ」といいつつも
指を鳴らし上の衣服を消し去り、中のロングワンピースである
ワインレッド色の服のみになる。

ゆっくりと身体を横にして、話を続けるメルにウイスはええと聞く。

『お互いが作った料理を完食することと、お互いにお願いを聞くこと。
あと5分間ハグをしてました。』
「おや、ハグですか、それは羨ましい。」
『そうです?あとでハグしましょうか?』
「…メル様、慣れてきました?」

一応ムードというものを作ろうかと思っていたウイスに
メルは慣れてきちゃったと笑って答える。

『でもコルン様の時は普通だったんですよ。
大したことでもないけど、何となく隠している秘密を言い合ったりとか』
「おや、コルンお兄様にもそんな秘密があるのですか?」
『言いませんよ』
「それは手厳しい。」
『コルン様とお約束しましたし。』

花言葉に、二人の秘密というものがあった。
それは遠回しに、今回起きたことは内緒にしましょう。
という意味を込めたものだとメルは推察したのだ。

「ではそれ以上聞くのは野暮というものですね。
一つだけだったのですか?」
『いえ、あとはハンバーグを作って食べたり、
花畑から花束を作ってお互いに送りあったりしました。』
「それも秘密、だと?」
『ええ』

その花の意味を含めてのものならば。
私は素直になんて、なってやるものかと思う。

「ではここまで密着するのは初めて、と。」
『そうですね、こうも手を繋いだり見つめあったりなんなりは。』

そう目を逸らすメルに、いけませんよとウイスが近づいて言う。

「何のためにこうしているのですか。」
『う』
「そんなに上を見たいのであれば、上にまたがるしかないですねぇ。」
『あっだっ』
「駄目、ではないでしょう?」

いじわるぅ、と情けない声が聞こえて、ウイスはクスクスと笑った。
彼女を跨ぎ、片手でベットを押し、もう片方で手を握り締める。

「10分程我慢されてください。
こうして気を紛らわすように
お話をしているではないですか。」
『気を紛らわすにしてもそのえっと』
「それとも、なにを、お考えに?」

耳まで赤くなっているメルの力がすっと抜ける。
恥ずかしいという気持ちが前に出過ぎて、泣きそうな彼女に
いじわるしすぎたかと思い謝ろうとしたウイスだった


『だっ、て、ウイスのことばっか、考えちゃうから』
「…………」
『話すの、すごくえっとその』
「…メルさん、貴方一体何処でそれを習得されて?」

サワアお兄様からです?コルンお兄様がそういうのを教えるわけもないですし。
そう淡々と言うウイスに、メルは違いますがと答える。

「もし教えられてないなら質の悪い子ですねぇ。」
『たっ!!』
「ま、教えた方がいらっしゃいましたら、その方よりも前に、
貴方の口から問い詰めるべく、ありとあらゆる手段を考えましたが。」
『えっ』

恐ろしいことを聞いた気がした。

「それとも、本当に誰かから教えてもらって?」
『というかなんの話ですかさっぱりで!?!?』
「…はぁ、思ってもいないのに誘うなんて、酷いことをしますねぇ。」
『さっ!?ばっ!!!』
「ずっと顔を赤らめ、此方を潤んだ顔つきで見るのです。
加えて自分以外考えられない等と言うのですから、
誘っていないというのもおかしい話です。」

さらさら水のように言うウイスに、そんな赤くないと思うというメル。
おやそうですかとにやり笑ったウイスが近づいて声を掛ける。

「こうしても?」
『〜〜〜〜〜〜!!!!』
「ほほほ、ほんと、愛らしい方ですねぇ。
力が抜けても私の手を繋ぎ続けて。」
『っそれは、此処を出るためのもので、』
「別に私は手を放したっていいんですよ?」

貴方を独り占め出来るものならば。
この意味の分からない、白い空間に二人きりで。
そう言ったウイスに、メルの顔から熱が下がる。


『それは嫌だよ』
「っ」
『あの場所だから、私は居続けたいと思ったの。
ちょっと眠るのが長いビルス様の付き人をしている貴方がいるあの場所から。』
「ほんと、嬉しいことばかり仰る。」
『天使だからじゃない、貴方だから私は近くに寄ったの。』

数多の天使に、輪のある天使でも、羽根の生えた天使でもない。

『だって貴方は私をちゃんと見てくれる人だから。』

本当に、欲しかった、その瞳を、貴方はくれるのだから。

「…はぁ、耐える此方の身にもなって頂きたい。」
『んん?』
「此方の話しですよ。ほら、10分経ちました。」

案外早いねぇと言うメルに、ウイスは目をぎりぎり逸らさずに堪えた自分をほめてもらいたいものだ。
真っすぐに、彼女は見つめてくれるのだ。

恨まれても仕方がないのに。


「貴方は、許せるのですか」
『え?』
「私達は曲がりなりにも中立を背いた者達の末裔。
貴方が本来貰えるはずだった愛情も居場所も、
私達天使は貴方から全て奪ったというのに。」
『でも、それは原初の天使であり、貴方ではない。』

それはコルン様にも言ったんだけどねぇ。

『言っているでしょう?私は天使でもない、ウイス。
貴方だから私はあの場所に居座りたいと思ったのだと。』
「っ」
『それに、私記憶の廻廊に逃がされて本当に良かったと今では思ってるんだよ?』
「何故そんなことを」
『だってそうしなければ貴方達には二度と会えない。』

きっと、もし、もしもだ。

天使が何もしなければ、記憶の廻廊だって出来なかった。
逃がす必要性だってなかっただろうし、
何方にせよ天使は華神の力が加護天使として変わった力をリメイクしたもの。

威力はけた違いなのは分かっているし、
それを制御するためにも、戦闘を禁止しているに過ぎないだろう。
まぁようは、自分がどうなろうとも、結局は戦闘禁止令は免れない話なのだ。

『だから、堕とされてよかったし、こうして出会えて本当にうれしいんだよ。』
「…貴方と言う方は、本当に、上限というものを知りませんね。」

これ以上貰っては、どう返していいか分からないではないか。

『終わりなんて追い求めたって無意味だよ。
その感情に、終わりがないから
人は人で在り続けられるのだから。
だからと言って、無謀に走っては
それこそ意味ないんだけど。』
「…ほんと、悟空さん達に言い聞かせてやりたいものですね。」

彼らもまた、人間として産まれた者達。
終わりを求めてはいないが、
強さ一つだけに絞り過ぎているのは些か問題ではある。

メルの言っていることは正しく、
無謀に走り続けることは無意味で
意味を持って走り、其処に終わりがないからこそ
人は人で在り続け、その力は無限大になるというのに。

そう思ったウイスに、そんな言っても聞かない人達だってわかってるでしょ?
とさらっと酷いことを言うメルにウイスは笑ってしまった。


「それじゃあ、こうしても?」
『え?わっ!!』

腰をぐっと引いてその勢いで膝に彼女を乗せる。
ベットに腰を掛けたウイスの膝上に跨って乗るメル。

「貴方は、私を嫌わないというのですか?」
『…っ』

ガチャリという大きな音が聞こえる。
それにぴたりと止めたウイス。
目を閉じていたメルに、ウイスが声を掛けた。

「冗談ですよ」
『へ?』
「ほら、いきましょう?」

あっちょ、そういって歩き出すメルに、ウイスは先へと歩き出す。
彼女が付いてい来ることを分かっていて。


「…ほんと、貴方は狡い方ですね。」




天使を狂わせる、恐ろしい華だ。