四季のない庭




「そこまで!休憩にしよう。」
『ああああああああ』

動けないすらいえなくなったメルに、カランコエがけらけら笑う。
彼女の力は確かに凄いもので、プラティアを喰うたのは事実。
本当に歯が立たず、なんならプラティアも苦戦する程だったのだ。

そりゃあ分離している身の子達と、綺麗に喰らったやつとでは比にならない。
上には上がいるなあと言ったプラティアに、お主らほどではないと答える。

「だが実力、力量は圧倒的にお前が高いだろ。」
「それはそうじゃが、知識やその技量はお主の方が圧倒的じゃ。」

そしてそれに気付き想いを繋げるものも。
そうひいひいいう彼女の周りに、子犬が寄ってたかる。
嗚呼むりむりやめて起きるから起きます起きますからあああ
と言い出すのも無理はない。現在進行形で彼女は犬に顔を舐められているのだ。

にげようとしても食いついてくる様に嬉しそうにする子犬たちにじゃれだすメル。
この世界はカランコエが願えば動物など普通に出せるのだ。
勿論人も出せるが、それはしない方がいいとはっきりいった。

IFに居る以上本物が居ないからだ。
彼女の知る本物は別世界にいる。

此処は限られた者達の世界。
通常異世界と言えば、この世界から違う別の場所というもの。
だが此処は世界の中にある彼女の記憶から移動した場所。

つまり本物が来るにはメルという本体が居ない限りには難しい。
加えてその本体丸ごと、廻廊の中にくるりと丸まり引っ込んでいる状態。
彼らが来ることは間違ってもないというもの。

まぁ来たら奇跡か、何かだろうな。

「でもあれ程なら定期的に運動して頭を動かすのが妥当。」
「休憩後は資料を見せる予定か。」
「嗚呼。」
「手伝おう」
「助かる」
『でづだっでえええええ』
「ぷっはははははははなんじゃその姿は!!!」

腹を抱えて笑うカランコエにプラティアもつられて笑う。
メルはほぼ子犬たちになめられ過ぎてべたべたになっていたのだ。
なんなら抱っこしている犬になめられている始末である。

『可愛いから放置したらこうなったのお〜〜〜〜』
「わかったわかったけしてやるから風呂はいってこい。」

そう指を鳴らして消したカランコエに、
息を吐いて裏口から風呂に入りに行くメル。

風呂場からきゃーーーと声が上がったが、
あの声色的に新しいおもちゃを見つけて
感極まっているのだろうと
カランコエとプラティアは察して息をついた。

「あいつしんみりなど知らぬくらいには元気じゃな。」
「しんみりというか、最初来る時泣いてたからな。」
「まあ、むりもない、か。」

やっとわかった、やっとしった。やっときづいた。
その願いその想いを。手にしたというのに、引き裂かれたというもの。
ずっと居たいと思うだろうに、それに縋っても無意味と知っているのもまた事実で。

ヘレスに食いついたのは驚いたが、
今思えばそれはメルの精神を保つ
一つのルールにのっとったものであった。

「薄々は気付いておるじゃろうな。」
「…なら」
「もしそれも知って、此処に来たら?」
「まさか。あいつがそうするわけが…」
「ま、我を助けたいとか思っておったらはたき倒すが。」
「ありえそうだな」
「じゃろう?なぁするならこっちがいいか?それともこっち?」
「なんでそういう昭和的な古風のハリセンが出てくるんだ。」

お前居たかその時。
おらんに決まっておろう。アレはメルの記憶じゃ。
タライ落とすぞ???

「まあよい、それより勉強会じゃ。」
「嗚呼まあ菓子も一応準備しておくか。」
「お主にまかせても?」
「まあいいよ。」

資料を取ってくると言った彼女に、手を振った。
キッチンに入り、メルの好きそうな菓子を
思い出しながら引き出しを開く。
本当に夢の様な場所で、割と好きだった飴玉が出てきた。

まあケーキとか食いながらやるものではない。
中央に飴で鞭を打ちまくるとするかと別の事を考えている中、
空から声がかかってきた。

〈プラティア、メルを連れて地下に隠れておけ。〉

天使が嗅ぎ付けてきた。そういった彼女に、メルと声を上げるも、ぱっと身体が移動した浮遊感にぎっと睨み付ける。

「変な気が見えたので何事かと思ってきましたが、貴方でしたか。」
「……あたしはあんたに会いたくなんて無かったよ。大神官」

それとちらりと見た彼らに笑う。

「此処は私が対応します。貴方方は奥へ。」
「ですが」
「いきますよコルン、ウイス」
「っとさせるわけがねぇだろ?」

メルを守れと言われたのだ。そりゃあそうするに決まってる。
だがメルを元の場所に戻すのは無理なのは分かっている。

「時間稼ぎしても無意味ですよ?貴方達は帰れない。」
「っそれでも今お前達に会わせるわけにはいかねぇ!!!」

結界を創り上げたプラティアに、流石に難しいですねと顎に手を置いた大神官。
ぴんと指をはねてもびくともしない上に、

「ふんっ」
「っ!?」
「駄目ですねえ」

少し力を強めて拳で叩いた大神官の力を軽くはじき返す始末だ。

「メル出るんじゃねぇ!!」
『っでも!』
「身体を出すな!!」

メルさん其処にいるんでしょうと言う大神官の声に、メルがびくりと反応した。
今丁度衣服は汚れて洗濯に回しているのだ。あるとしても胸元の紐とイヤリング。
気を感じ取れないはずなので、恐らく此方には気付かれていないだろうが。

「少々お話したいことがありますので、出てきてもらえると助かります。」
『(声の質がおかしい、何か企んでそうな感じがするなこれ。)』

カランコエの言葉は恐らく正しいはずだ。
彼らに見つかるとかなりまずい。
部屋に戻るにしても地下に行けば袋小路になるはずだが、
とりあえず予備の服を部屋に取りに行くとメルは思って二階に駆け上がる。

『(声は聞こえにくいけど、明らかに怪しい。)』

二階に上がり、外を覗き込もうとしたが流石に開けているガラスに腰が引ける。
かたりと音が鳴ってばっと腕をバツ印に組んで防ぐと、植物が攻撃を防いでくれた。

「おや、流石に拒絶されますか。」
『っこ、るん、』
「すいません、お父様の命令は絶対なので。」
『っや』

怖さが勝つ。胸の青い光に気付いたのか、ちらりと見たコルンが力を打とうとして止めたのにホッとしたのが悪かった。
ぐっと近寄ってきた彼の動きに、パンと防御壁が音を鳴らす。

『っあ!!やだ』
「…流石に痛いですね。」

ぼたぼたと落ちる血に、はくはくと血の気が引いていく。
ぱちんと指を鳴らし杖を出した彼に、すぐ下に降りようとしたが静止される。

『っ…ウイス、あなたも』
「すいませんメルさん、欠片と言えど流石に怪しかったので。」

やはり本物でしたかと言うウイスに、びくりと身体が反応する。

「躾されていませんでしたか?本音を言われても反応するなと。」
『っしまっ』
「っと逃がしませんよ?」

客室の方に逃げようとしたが、何時の間に入っていたのか、モヒイトが杖を前に出してきた。

後ろは壁になっているが、破壊をすれば外に出れる。
だが外に出てもプラティアは大神官ととちらり外をみたが、
ぐったりしているのを見つけて声を上げた。

『プラティ!!!あっ』
「背後を見せるなとも言われているはずですが。」

金色の首輪をかけられたのか、力が出ずにばたりと倒れるメル。
胸元の紐は綺麗に焼け焦げて効力を失っていたのだ。
イヤリングを外させられ、力がふわりと起き上がるのに目を細められる。

「…やはり、貴方でしたか。エフェメラル様」
『っや、だ、め、みんな』
「すいません、命令ですので。」

少しでもと暴れようとするメルを、そっとウイスが姫抱きにして起こす。
息が上がるだけで、力が抜けて胸に身体を預けることしかできない。

「藻掻いても無駄ですよ。ソレは貴方専用に作ったに等しいものですし。」
『っわ、たし、の?』
「大神官様」

そう見た時には、プラティアは横にぐったりなって目を閉じている。
封印されているのか、少しずつ灰色になっているのが気になるが。

「おや、これはこれは」
『っだ、い、さま、どう、して』
「久しぶりにその名前で呼ばれましたね。お久しぶりですメルさん。」
『っから、こえ、は』
「彼女には今現在外で眠って貰っています。」

恐らく他の奴らが彼女を封じたのだろう。同じような首輪で。
首に手を掛けるも、無意味な上に、さらに力を持っていかれて手を放す。

「触れない方がいいですよ。気を吸い取っているので。」
『っど、うして、こんな、ことを』
「すいません、こうでもしないとお話させてくれないと思いまして。」

怖い、怖いと感じ取り、涙がぽろぽろと零れ落ちる。
泣かせるつもりはなかったのですがという大神官に、反応したのか
焼け焦げた青い紐がぱちんと蔓で手を叩く。

「…いや、ですか。」
『っ、ご、めんな、さ』
「いえ、そう思われても仕方がないことですし。」

息をするしか出来ない。
ウイスの胸にある上の服をきゅっと掴む。
それに気付いたウイスが此方を覗いてみてくれた。

「…すいません、苦しいでしょうが、どうかそのままで。」
『っ、ふっ、っ』
「足掻くと余計にきついですよ。」

だとしても、怖いものは怖いのだ。
言われることは大体想像がついている。
思うのは気付くのはまだいいのだ。
でもそれ以上なんて私にはつら過ぎる。

『さ、きに、ひ、とつ、おしえて』
「…ええなんでしょう?」
『ここも、おなじ、こと、したの?』
「それは…貴方の状態を、前に同じ様にしたと。」

私ではない、私に。そう思ったメルがこくりと頷く。
いいえと大神官は首を横に振る。

「彼女は話すどころではない状態でしたので。」
『(おいお前らこの声が聞こえるんだろう)』

そう強気に思念を送る。

空が徐々に暗くなっているということは、
此処を管轄するエネルギーが消えていっているということ。
この場所が消えて無くなるということはないだろうが、
いずれは消えていくだろう。

『(どういうことだ、なんでカランコエを止める必要性がある。
私を生贄に出す魂胆なら少々粗すぎやしないか?嗚呼?)』
「口を慎みなさい、大神官様の前ですよ。」
「構いませんよ。確かに荒過ぎましたが、
こうしないと貴方に近づくに近づけないと判断しました。
貴方の性格上コルンさんやウイスさんには弱いと思いまして。」

成程、だから先に彼ら二人を送ったのか。
少しずつ道を狭めていけば混乱するからと。
いや本当にその通りですし、

というかですね、お兄さん。

多分これかえって知られたら凄い
怒られるのと謝られるの同時にされそうで
私は今から帰るのすら嫌になったんだが
一体この気持ちをどうしてくれたら
いいんだこんちくしょう。ほんとに。

『(作戦は大いに大成功ではあると思います。
現に私二人の事に頭上がりませんし、
ってか捕まってる何なら腕の中イン
エフェメラルだし。)』
「…本当に本人なんですね。」
「偽物だと思いました?」
「彼女のことですし、やりかねないでしょう。」

前科ありますし。前科あるんかい。
いや何をした。あいつは一体なにをしたんだ。

「いえ、別に大したことでもないのですが。」
『(ええどういう)』





「その願いを此処で使って欲しいと思いまして。」


















はて








「おや、気付かれていないのですか?」

ゾクリとするその感覚に、メルは目を開けたまま彼をみるしかできない。
手に少し力が入る。首を横に振っても、開いた口なんて閉じてやくれない。

「…まあ、お察しの良い貴方のことです。
どうせ気付かないようにダミーをいれているのでしょう?」

そう身体を近づけて胸に手を軽く入れる。
っ駄目だと思っても遅くて、全てが、遅すぎていて。

「…やはり、華を咲かせていましたか。」
『っあ、やあ』

次祈ったらどうなるかだなんて私でも知っているというか、察しがついている。
この願いはもう二度とかなわなくなるどころではない。
もうこの身体自体が限界を超えているのだ。

普通に動いて食べて寝てをするくらいしかできない状態。
次華を手折ろうが、枯れようが消滅は間違いないのだ。
もう廻廊に戻る力すら、残り切っていないのだから。

「なら猶更話が早い。この世界の華樹神になっていただけませんか?」
『…それは』
「元の場所にはカランコエを渡せばいい。」

そんなの、あんまりだ。
キッと睨んだメルの力が綺麗に飽和して溶け消え去る。
ううっと身体を起こそうとして腕の中で軽く暴れる。

「すいません、流石に言い過ぎましたね。
ですがこの世界が生き残るにはそれ以外出来ないのです。」
『(いや、第一元々破壊神や界王神らがいるだろう)』
「システム上そうはいかなくなりましてね。
華神らの状態がないと正直管理が難しいのです。」

ようは楽をしたからもとに戻したくないと。
そう言いたいのだろうとメルは冷めた頭でそっと考える。
違うこいつらは違う者達だ。

別世界の人間で、IFの存在。

だからこれはある意味正真正銘の夢物語。
彼らがこういうことを企んでいる天使らではないし、ましてや

「数日後式を此方で行う手筈になっていまして、
参加してもらえるだけでいいのです。」
『(しなければ?)』
「この状態で出てもらうことになります。」
『(さあどうしましょうこの状態お姉さんどうする?
いやお姉さん居ないわ現在寝ているわ此畜生。)』

ここで新しいカランコエよ!とか出しても欠片以下である。
精々喋る妖精の無駄になるだけで、
それは彼女も分かり切っているだろうから出てこないのだろう。

といっても

『(は、違うでしょ?どうせこの首輪を外すつもりは二度とない。
手に力が入る前から抜けきるこの完成された首輪の性質的に
脳内での会話をさせるように誘導させている他ならない。)』

脳内での会話なら、筒抜けになってしまうから。
へたなことを考えると本当に素っ裸になるのだから困る。

幸いなことに彼等は私の過去を見れる者ではない。
まあそれだから脳内で会話させて、
無理矢理ほじくり返そうという
魂胆だったら本当に殴っていいよね?分かった殴る。

シャーと猫の様に威嚇するメルに、クツクツと笑う大神官。

とんでもない場所に迷い込んできたものだ。
確かにカランコエが徹底して守ろうとするものだ。
逃げる余地すらこっちになかったというか、私が盛大なヘマをしただけだが。

『(ん?待てこの場所にお前ら来れるわけがないだろう)』
「何故です?」
『(この場所は私かカランコエが許した者達、を、だすもので)』

嗚呼そうか、本当に馬鹿だ私は。
彼女が駄目でも、私が良ければ此処には入れるのだ。
目を見開くメルに、気付いていただけて何よりですと言われる。

力がだるんと抜け落ちる。
息が徐々に戻ってくるのが、嫌になってくる。
その代わり震えが止まらなくなる。
怖い、怖いのだ。

「彼女を頼みましたよ。」
「わかりました」

どうやら撤収するらしい。良かったと思ったが、三人は私の介護に回るようです。
ねぇ本当に待って???お前ら仕事あるだろう??????

「貴方の世話が仕事になりましたので。」
『(うるせえ黙れ私の心を許した奴らはおめえらじゃねぇこっちくんなみんなきづいてみるな!!!!)』
「とんでもなく威嚇されてますね。」
「っと、其処迄のことしていないはずですが、何か吹き込まれましたね。」

頭をぽりぽりかくモヒイトに、メルは手を出した彼の手にかみつこうとして威嚇をする。

『う〜〜〜〜〜〜シャーーーーーー』
「猫ですね」
『(煩い大体あの子の事と此処を見たらすぐに分かった)』

手入れの怠った状態、枯れた一部の菜園。それは諦めたことを意味するというもの。
その菜園の中で枯れた花がどういう悲鳴をあげているのか、メルはすぐに知ったのだ。
だから天使であろうとも、威嚇をしている。なるべく逃げれるなら逃げることも考える始末だ。

「逃げようとも無駄なこと、分かっているでしょう?
貴方の事はすぐに考えていること全て此方に伝わります。
言っておきますが此処の空間は一応保っています。」

なので貴方の思うことは違う。そう指を指されて目を丸くする。

「その首輪は天使に直接言葉を受取れるようになっています。
なので考えていることは殆ど筒抜けになる。勿論思い出すのもです。」
『(成程じゃあ考えないよう努めるか。)』
「ま、それが出来る貴方であればの話しです。」

要はシャットアウトすればいいだけのこと。
手折るようにはいかずとも、それくらい出来ると
そう、そう思っていた。

『(あれ、あれ?え?なんで?えっまって?まじ?え?)』

12を完成させ、0に戻り、全ての記憶と全ての力がある状態。
それはちょっとやそっとで変わることはないというわけで。
シャットアウトが出来ないことに、ヒュッと喉が鳴った。

メルにとってかなりのダメージである。
周りにこの痛みが感情が抜けるというのは、
同じような痛みを伴う事。

「貴方は心優しい方ですから、我々にすら傷付くことも受け入れてきたことでしょう。」
『(っだめ、みないで、いやだ)』

それは、大事に大事にしたあの綺麗な額縁すらも見られるということ。
子供が母親の言う事を聞かずに連れて帰ってきた子犬を守るように。
大事なものを、取られるのに、身体を盾にして守る。

此処に来るまでに入れた綺麗な時間に、涙が零れ落ちる。

「…知られたくないなら考えずにすればいいのです。」
『(違うそれは忘れてしまう)』

確実に忘れて、この世界に居座ることになる。
嗚呼そうか、それを考えているのか。
なら猶更、戻りたくなってくるというもの。

光の入る目に、本当にあきらめの悪いとコルンが息を吐いた。

「ではその映像ごと上書きをすればいいのですよね。」