「嘘にも居場所が必要だ」




『こんにちはモヒイト様』
「こんにちは…あの、エフェメラル様?」
『はい』
「何をしていらっしゃるのでしょうか。」
『何とか此処を出る強制魔法を創り上げようとしてます。』
「…流石にやめた方がよろしいのでは。」

なんで、いや何故と言われても。

「貴方から気を一切感じません。」
『ううやっぱり?』
「ええ」
『じゃあこうしても?』
「ええ、ただ腕を振っているだけですね。
力を入れようとしています?」
『勿論』

そう言ってメルはモヒイトに蹴りや殴りを入れるが、
その動きを見つつモヒイトは避けながら答え返す。

「此処はどちらでしょうか」
『魔女の呪いが掛った例のあの部屋異空間です。』
「嗚呼、前に話をしていたアレですか。」
『ちなみに私は此処で四度目です。』

しかもれんちゃん。

「れん、?」
『連続で来ているという意味です。さてサラッと終わらしますか。』
「あの、此処に何方と?」
『最初はサワア様次にコルン様次にウイス様で貴方が四人目です。』
「全員天使ですか。」
『ええ、他の天使にも当たりそうですが、お兄さん此処に来る前サワア様達からご連絡は?』
「一切来ていません。この場所は外の時間と流れが違うようですし、
それを伝える前に此方に飛ばされたと判断した方がよろしいかと。」
『まぁ時が流れない以上は連続でときたら、そりゃそうか。』

いやはや、殺しに来ている。
そんな気がしてならないが、まぁお題がお題。

「してあの文字はなんでしょうか。」
『神の言語の元と言われるものの姿、日本語です。』
「ほぉ、こちらが、それにしては今の言語とかなり離れたように見えますが…」
『まぁローマ字が元なので。ちなみにローマ字だとこう書きますよ。』

そう言ってメルはペンと紙を想像し取り出し
立ったまますらすらとモヒイトに書いて見せる。
モヒイトはそれを見ながら内容を見て頷いた。

「なるほど、かなり近しいものですね。」
『でしょう?』
「してこれがお題の一つと」
『いいえ、ただ教えただけです。』

崩れ落ちるモヒイトに、いやぁとメルが笑って答える。

『興味津々で聞いて来たからつい燃えちゃって!』
「関係ないことをぺらぺら喋らないで頂きたい!!
あの3つはなんて書いてるんですか!!」
『お互いの秘密を一つ話す、相手を泣かす。
耳元で相手の名前を囁くって書いてる。』

最後のは流石に、とモヒイトに続きメルも嫌そうな顔をした。
流石に恋人同士がしそうな内容でちょっと嫌になる。

「此処は魔女が望んだ場所、そんな陳腐な願いに身を捧げたとは、愚かな方々ですね。」
『陳腐とは失礼な。案外思った以上にキツイ状態だったかもしれないんですよ。
例えば、アルトの様に流れに身を任せるしかない状況下とかね。』
「…それは失礼。」
『分かればよろしい。』

だとしてもだ、こうもお題が続くと作業の様に進めるのは仕方がないこと。
だが、


『モヒイト様を泣かすというのは無理ですが、
私が泣くって言ってもいや力が暴走しないからいいのか?』
「私は貴方を泣かしたくは更々ないので、
出来れば泣いてもと思いましたが…」
『泣いたことあります?』
「いいえ」
『で〜〜〜すよねぇ。』
「ですが、泣くという単語を要はクリアすればいいのでしょう?」

そう言ったモヒイトが目じりにポロリと涙を零し、
それにメルはしばし身体を止めていた。


『あsdfかそdふぃあsdfかjsどふぃ!?!?!?!?!?!』
「嗚呼種明かししますから、落ち着いて下さい。」

泣かせたという罪悪感からか、それともどうして泣いたのか分からない不安からか
今度はメルが半泣きになって首を横に振り、モヒイトに縋りついている状態だ。

「敢えて目にゴミを入れて泣いただけですよ。」
『あえて』
「ええ、まぁこの場合流石に相手ではなく自身なので無理でしたか。」

流石に重きは相手にあるらしい。
余り泣かせたくはないのだがと言うモヒイトに
嗚呼焦ったぁとメルはほっと息を吐いた。

『私が泣かせちゃったと思ったじゃないですか』
「…泣いて欲しければ泣きますが。」
『泣いたこと無い人が何を言いますか。』
「正確には泣いたことがない訳ではないですよ。」

誰かに泣かされたという意味では泣いていないというだけだ。
そう言ったモヒイトに、メルは苦笑いした。
まぁ流石に長い時間を生きているだけはある。
ない訳もないかと笑ったのだ。

「それにしても相手を泣かすというのが一番のネックですね。」

他は何とかできそうだが、
先に面倒なのは潰したいモヒイトに
メルも同意見だった。

『普通に私が泣いたらいいのでは』
「私それバレたらどうなるかわかりますよね?」
『ううん、でも私がモヒイト様を泣かせたらどうなるかもわかりますよね?』

軽く罪悪感に押しつぶされて魔女になる未来しか見えなかったメルに、
いやと否定したくてしきれず止まるモヒイト。

『ならその砂埃を私にぶっかけたらいいのでは』
「ぶっ…そう言いますが、結構痛かったですよ?」

加減はしますが、いいんです?そう言ったモヒイトが杖を握り直す。
それにメルはよし来たと腰を落とし覚悟を決める。

「はぁ、それでは。」

そう言って杖を軽く叩くモヒイトに、メルはぎゅっと目をつぶる。
流石にそれでは埃が入らないではないですかと言った彼に、
メルはだってと言って目を開けた。

『い゛っ!!!!!!』
「入りました?」
『い゛た゛い゛』
「嗚呼、ちょっと入り過ぎましたか、ほらこっちを見て下さい。」

自分の加減よりもかなり少なくしたのだが、
そう思いながらモヒイトはメルを近くに寄らせ、顔を上げさせる。
涙をぽろぽろ流しながら目をこすろうとする手を掴み下ろす。

「あまりかいてはいけません。」
『だっていたい』
「流させるのがベストです。後は軽くすすぐのですが、」
『もひいと?』
「……いえ、すみません。今流します。」

手を腕に置いて早くとせがむメル。
眉が下がり、赤く腫れた目を見て考えたことを
すぐにかき消したモヒイトは
ため息を吐きつつも水を出し流させる。

「これでいいでしょう?」
『わあ、ありがとう!』
「いえいえ、此方こそ無礼をお許し下さりありがとうございます。」
『流石にモヒイト様を泣かすなんて私無理なので。』
「…でしょうね。」

あの感じを見るに、恐らく変に泣かさせた方が恐ろしいものだ。
モヒイトはすぐに切り替え考えた打開策が割とよかったことに安心した。

「では次ですが…」
『ん』
「ん?どうしました?」

手招きするメルに、ドアの方を見ていたモヒイトは
メルに気付き顔を見た。近くに寄れということだろうかと
そっと身体を折る様に下げると、肩をぐっと押されて勢いよく下がった。

『ありがと、モヒイト』
「ーーーっ」

手を耳にあて、小さく言うメル。
礼を言う事はしていないのだがと思ったが
それよりも急にするとは、気の抜けない女性である。

「此方こそどういたしまして」
『嗚呼、そういうときはこう名前言わないと!』
「とは言いましても、貴方名前がいくつもあるでしょう?」

今はエフェメラルというも、前はいくつもの時間にその身をゆだねていた者。
メルと言うべきか、エフェメラルと言うべきか困っているモヒイトに
別にどうでもと言うが、そうではないというのだ。


「それとも、別の、【本当の名】を、言えばいいのかと。」
『………』
「そうなれば、お聞きをと思いましたが、どうでしょう?」
『そうだとしても、先に手あたり次第するのがいいのでは?』
「そうですね、こうですか?メル様?」
『〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!』

身体を倒し、手を掴んで耳に出来るだけ
口を寄せて囁くモヒイトにメルの顔が一気に赤くなる。
がちゃりと言わない処、やはり無理ですかと考える。

「これではエフェメラル様も無理でしょうし。」
『…モヒイト狡い。』
「メル様程ではないです。」
『わぁひどい!!』
「それはまぁ…すみません。」

目を閉じて明後日の方を見て謝るモヒイトに、ふんっと鼻を飛ばすメル。
怒っているかと思ったが、彼女がそうやる時は大抵怒っていない。

『バツとして先に秘密教えて』
「先にと申されましても、誰にも言っていない秘密ですよね?」
『そう』
「では、朗報と言いますか、貴方に少々酷な話を。
エル様が先日感情を取り戻しました。」
『え』


その言葉に、メルの顔が固まる。

あの、エルが、一度目いや最初の彼女に出会った私の様なエルが。

無だった感情が、本来の名に相応しい色を、知ったというのか。



「界王神はそれに気付いているかわかりませんが、
恋い慕っているように目の色が少々変わるので。」
『…そ、う。』

そう言う話で、余り良い話を聞いたことがない。
メルは、そっぽを向いた。

「では、貴方から秘密をお聞きしても?」
『…モヒイトって私サラッと言うの、どうしてかわかる?』
「急に何を仰るやら、そんなことわかるわけがないでしょう?
単に慣れたからとかではないのですか?」
『じゃあウイスさんはウイスって日常的に言います?
私ルトって言うけど慣れだと?』
「それは…」

確かに、言われてみればそうだ。
彼女がさらっと様付けをしている方達をはずして話すなんて
余程切羽詰まった時でしか言わないくらいで。

『知的な天才肌の貴方ならば、この意味を知れるでしょう?』
「…いえ、流石にというかメル様それは」
『貴方を描いた世界を見ていたと言えば?』


そう言えば、貴方はわかる?

そう目を見るメルに、モヒイトの目が少し上がった


『願いの球と小さな人間が神の位置に辿り着く話
破壊を司る者に付く者達。』
「…貴方が仰るのは、私達が描かれた物語があると?」
『モヒイト』

メルは笑ってニコリと嬉しそうに言う。
まるで、いとおしそうに、会えない者に、会えたように。

『嗚呼、魔法の様だよね。知ってる?モヒートの語源では
一説によると「軽い魔法をかける」という意味に由来してるんだって。』
「何を言って」
『これがスペイン語で混ぜるという意味を持つものに変化した。
モヒートってカクテルがあって意味があるんだよ。』
「メル様」



心の渇きを癒して



『語源を見た時、嗚呼その通りだと思った。
まるで軽い魔法に掛ったようにその時間を生きている。
その感情を混ぜて、飲み込んで、乾いた心が戻るように。』


その枯れた華が、また輝く日を、待ち遠しく想うように。


『貴方を見た時、会って話がしたいと思った。
貴方の知る知識を、私の知る知識と。
あとどれ程強いのかとかね。』
「…貴方は、一体。」
『私の名前は、言えないよ。』

でも、出れないのは困るなぁとメルは笑っていう。


『だからこれは貴方と二人の秘密ね。』
「…固く、誓いましょう。」
千代木都佑ちよぎみゆ
「……っ、そ、れは」
『ね、秘密、でしょう?』

そう言う彼女に、今度こそ目を見開いて驚いた。
その口を言うということは、そういうこと。

「貴方、死にたいのですか…!?」
『でもここから出るにはコレを言うしかない。』
「っ!!」
『そんな顔させたくないから言いたくなかったのになぁ。』

頬に手を当てるメルの手をモヒイトは取った。
寂しそうに言う彼女の言葉は、確かに言っていた人達が居ただろう。
その感情を、思い出さないためにも、彼女は伏せていたのだろうに。


言ってしまえば、其処に閉じ込める。
それを、この神は、何よりも嫌で、避けていた。
それを、自分が、この自分が。


「いいのですか」
『出れなくなるのに?
それとも、もう還れないことに?』
「っ」
『へへ、元々もう、還れないとわかり切ってた。
それが確実になり、あの日が切り取られるだけ。』

ごめんね、少しだけこうさせて。
そう言って頭を軽く抱きしめるメルに、
いえと答え、そっと背中をさするしかできない。

頭に顔を腕を乗せるように輪の中に入り込んだ彼女。
今さっと拒絶すれば、もう二度と会えない気がして。

いや、それも最初から。なんて考えたくないものだ。

『もう何処にも居ないから、私はソレに縋るしかないの。
最初から無かったなんてあんまりだから。
出られるようにドアまでしっかり作ったというのに。』

その先のドアなんて、何処にも通じていやしないというのに。

『あの人とは違う髪の毛ね。だから私は此処に入れるのかなあ。』
「っメル様」
『大丈夫、魔女になんてならないよ。』
「ですが、その感情と言うのは、些かいえ、毒では。」
『知ってるでしょう?モヒイトという天使ならば。
毒は少しずつ入れれば毒になんてなれない。』



受け入れること以外術を知らなくなるの



「っ」
『ね、どうか私の名前を呼んでくれる?』

大好きな名前を

私の愛した、私で在る本当の名前ほんみょう
「狡いですよ、そんなことを言ってしまえば、私は言う他ないではないですか。」
『へへ』

宿らせるしか、術がない者。
それが、彼女だというのか。

かつての天使が行った許されない過ちを
たったその一言で、許してくれるというのか。

願ったその小さな芽を、踏みつぶしたというのに。
それでも、それでも、いいのだと言い切れるのか。

途方もない時間に身を捧げても尚、彼女は願うというのか。



その温かな陽だまりの中で、両手を広げて。
待ち続け今も尚、笑って言うのか。


ねぇどうか、ほめてよほめて。

わたしをほめて。

あなたの、こを。


どこにもいきてやしないというのに。


もう、神になって、存在は亡くなったという姿を。



「…一つだけ我儘を聞いていただいても?」
『ええ』
「何故、何故貴方は許すのですか。
我々天使がした行為を、叶えて欲しいと思ったソレが叶わなかったのは天使の仕業。」
『皮肉にも、その天使になりたいと願ったのに?』
「っ!!!」
『ごめんね、でも私許してない。』
「…ではなぜ許すと嘘をつくのですか。」
『許すよ、天使は罪がないから。』

そう、メルは違う、その許す方向を。許さない願いを。


『私は過去わたしを救えなかった願いわたしを許すわけがないのだから。』
「…っ」
『だから罰を下した。私は私に。巻き込んだのは貴方達の方。』
「っ違います!!それは、それは貴方がそう言い聞かせているだけで真実ではない!!」
『違うよ』
「っいいえ、それはそうして私達天使に罪を着せない貴方の優しさでしょう。」
『違う優しくなんてないよ、ないんだよ。』
「そんなことありません、
ならば何故お兄様方に笑って差し上げるのですか。
何故こうして私を優しく抱きしめてくれるのですか。」

貴方と言う者ならば、天使を悪魔にだって堕とし、
狂わし、殺すことも抹消させることも造作もない地位。
なのに、それだというのに、そうしない。

「大事にされるべきものではないというのに。」
『私がどうしてモヒイトって呼び捨てしてるか、分かる?』
「何を何度も」
『軽い魔法をかけてって意味で言ってたんだよ。』
「……っメル様」
『ねぇ、だから、呼んでよ。』

そうパタパタと頬に涙が落ちる。
嬉しそうに頬を両手で触る。
壊れものを触るように、優しく肩を落として言うのだ。

諦めるように

もう、二度と、呼んでくれない名前を

『おねがい』

魔法に掛っただけだったと、その感情に蓋をして誤魔化してまでして。

その願いを、貫き通すだなんて。

そんな、そんな酷いことを、黙って見続けるなど。

するしか、ないのか。するしか、術を、見つけれないというのか。


そうして、その手で、手折ったというのか。


この方は、いや、この子は。


「…泣かないで下さい、呼びますから。」

そう目じりに溢れる涙をぬぐう。
モヒイトは気付いたのだ、此処まで言われて気付かない馬鹿だとも思った。

彼女はずっと、助けを求めていたのだ。
自分の名で、誤魔化して。
ずっと、叫んでいた。


もう一度、その名前を。
どうか、もう一度を。


「そうまでされたら、呼ぶ以外他ないでしょう?」
『へへ』

上を見るモヒイトに、メルは嬉しそうに笑みを浮かべる。

都佑ミユ都佑ミユ
(嗚呼どうしてこんなにも涙が溢れてくるの)

かみしめるように、その名前を言う彼に、メルは笑ってうんと言う。
ガチャリと言った音に顔が二人とも向いた。

「…行きますか。」
『うん』
「…あまりその顔でシドラ様達の方に顔を向けないで頂けますか?」
『え?私どんな顔してる?』
「誘っている顔を」
『えっ!?!?!?!?!!?』
「冗談ですよ。行きましょう」
『嗚呼酷い!もう第9も嫌いになるよ!!!』
「ソレ嘘ですよね?本当は好きな癖に。」
『〜〜〜〜〜〜〜!!!!!』
「っくく、私を騙そうだなんて早すぎますよ。」

目を細めて言うモヒイトに、メルはわなわなと
口をぱくぱくさせて反論できずに身体を動かす。
それを見て、モヒイトはついつい笑ってしまった。


彼女と言う者をかなり、知ったように感じる。
長い時間が、幕を下ろす。




都佑ミユ都佑ミユだなんて、良い名前ですね。