あなたのためのわたしでいたい
ううんと困る声を上げる。
今日も今日とて普通の日常。
朝から叩き起こされ、ご飯を食べて仕事をする。
仕事しすぎるのは厳禁ということで
一応アラームでも駄目で何しても駄目。
それで相談をと昔よく遊んでいたシャクロラスにしたところ
「それもう学校のチャイムとかにしたら?」
という目から鱗が落ちる勢いの納得を思いつき
導入したら一発で思考切り替わって歓喜湧いた。源泉並みに。
チャイムが鳴って鳴り終わってを家で聞くか普通。
いや今更か。今更普通の生活とか考えたら終わりだ。終わってる。
『あ〜〜でも大分できたからなあ。』
流石に資料を纏めて経過報告と行くかと身体を起こしていると、
目の前に真っ白な髪の毛と青い肌に。
「こんにちは」
『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!』
「っふふふ、お元気そうで何よりです。」
大神官様がドアップで見えて心臓が止まりそうになるくらいには後ろに下がった下がった。
屋根の上なので上がると言った方がいいのだが、そんなの気にしている暇はない。
『だっだだだだだ大神官様!!!』
「おや、此間みたいにしてくれるのではなかったのですね?」
『だっ…だ、……だい、さま…?』
「ええ、貴方のダイ様ですよ?」
『うわあん、大神官様迄いじめるう』
おやおや、ご冗談を。
そうクスクスと笑う大神官に、メルは身体を起こす。
『何か御用ですか?』
「メルさんの方が御用かと思いまして。」
『おんやまあ〜〜気付いてらっしゃりましたか。』
「何となく、ね。それより其処から降りるのですか?」
下に降りるメルに、大神官もそっと降りる。
ベランダの一部に天窓とかもあるが、其処からも降りない。
自室の近くに置いてある棚の上に足を下ろし、
そのままタッタと軽快に降りていったメルに
大神官が意外だと声を上げた。
『え?う、ん?そうですけど。』
「いつも?」
『ええ』
「舞空術を使わないのですか。」
『………ああ!!!!』
「もしやお忘れに?」
『そりゃあもうばっちし!!!』
クスクスと笑う大神官に、メルもへらへらと笑って見せた。
親指と人差し指をくっつけて言ったことにも
忘れていたことにまた笑ってしまった。
「アルトリアさんは?」
『色んな方面にお使いに使わせています。
貴方方の時間と此方は大きく違いますので。』
「此方の時間を遅くしているのですか。」
『向こう側の一日が此方では一年程に設定しています。』
「…其処迄長くしたのですか。」
『色々考えたいことがありましてね。』
特訓も兼ねてというのもあるが…
資料の鬼みたいな量を一人で整理となれば話が変わってくる。
確かにキチキチしていはしたが、こうまで多いと手に負えないのだ。
『ある程度綺麗にしたら元の時間に戻す予定です。
それまではこうして伸ばすことにちゃんと許可通したハズですが。』
「ええ伝わっていますよ。」
『はい紅茶でよろしかったですよね?』
「ええ、ありがとうございます。」
メルさんは?
ふっふっふ。カフェオレというやつです。
人に寄りますが夜に呑むと寝れませんよ。
おやおや、天使は寝ないので別に気にしなくてもいいですね。
うわあ、酷い。
そうくだらない話を返し続ける二人。
サアと風が頬を髪をくすぐってくる。
「楽しそうでなによりです。」
『…消滅、させてくれないのですね。』
「したいのですか?」
『困ってます。昔は本当にしてほしかったんですよ。』
「存じていますよ。ビルスに急かさせていたんですよね。」
『怒ります?』
「いいえ。寧ろ生きていてくれて、本当に嬉しいのです。」
あんなことがあったというのに。
「貴方はそれでも、あの子達を愛おしいと思ってくれているのですから。
本当に、心から感謝してもしきれません。」
『なにを仰る、当然のことですよ。』
「天使を好きになることに?誕生日がそうだから?」
『…ま、そういうことにしておいてください。』
「お人が悪いですね。」
『悪い子ですから。』
口の笑みが消えずに、カフェオレを一口二口飲んだ。
綺麗に味が消える前に、話が変わる。
「子を孕んでいるのですよね。」
ザアと風の音が変わる。
流石に天使に気付かれるとは思わなかったが。
「アルトさんのおつかい、とてもではないですが、
一週間で此方に帰る話ではないですよね?
必ず道草を食う内容で、二週間程になるはずですが。」
その間に、お子を産ます予定だったのですか?
そう言いたそうな目に、メルは何も言わない。
いや、言えないのだ。その現実を見たくなかった。
やはり、この腹にはもう生きているのかと。
『正直白い世界の状態も含むと誰の子かマジでわかりませんけどね。貴方含めて。』
「…それは向こうの私が失礼なことをしました。」
『まあ全部仕方がない話だったんですけどね。』
白い世界はお題をクリアしないと本当に出れない仕組みだったし。
いや最後の方はクリアしなくても出れたが、
それはあくまでも向こう側のエフェメラルが時間稼ぎしたかったから
というものであってだな。わかる色々言いたいことはわかる。でも耐えて欲しい。
私だって性行為しなくてもいいじゃんとは思ったもん…!!!!!
「ですが、教えずに流すなんて、そんな酷いことを良く思いついたものですね?」
『………大神官様、どうして。』
「おや、貴方を一体どれ程見てきたと思っているんですか?」
貴方の御父上からも承っていますので。
嗚呼、色々口を出してきたのか。
そう目を背けるメルに、大神官が続けて話す。
「子の判定、聞きたいですか?」
『…誰かも分かるんですか?』
「ええ」
『…教えて下さい。』
「コルンさんです。」
向こう側の
その言葉に、嗚呼と声が漏れて下を見た。
出来ればサワア辺りが嬉しかったのだが、
流石にそうは問屋が卸さないものであって。
『殺しに来てくれたのですか?』
「させませんよ。」
『地獄ですね』
「全王様も貴方が生きて欲しいと望んでいます。」
『だから下ろす私を監視しに?』
「…」
『無言は肯定と取りますよ。』
成程、流石にばれてしまったか。
プラティアも今現在外に出して全王様やら
外の天使ら、華神らに挨拶周りにいかせており、
本当に実質私一人になっているこの現状。
向こうとのコンタクトも勿論とれる状態だと
分かってしまったが故でもあるにはあるが。
「なんでしたら今すぐにとはいきませんが、
数日後此方に迎えに来てもいいんですよ?」
『私が死ぬとも思わないのですか?』
「させないように、忠告にきたのですよ。」
下ろしたくても、下せないくせに、私も狡い人だと思う。
勿論サワアの事は好きだし、何なら父親になって欲しいまである。
多分色々考えて最終的になってくれそうではあるのだが、
流石に私が其処を許すわけにもいかないのだ。
血の繋がっていないと知れば、どれ程の痛みを知るか。
私は誰よりも何よりも、その痛みを知っているのだから。
子供にまで、その想いをさせたくなんてない。
『私好きなんです。皆みーんな、好きでたまらない。』
「…ええ、存じています。」
『だからと言って、コルンとサワア二人と
結ばれるとかも考えてません。
どちらか一人にしようとしています。』
まぁ、私の選んだ道は、
そのどちらでもないという選択肢ではあるのだが。
それすらも、彼は知っていて、此方を見つめ続けているのだ。
嗚呼、本当に、面倒なものだ。
『…今流石に男か女かはわかりませんよね?』
「流石に小さすぎますからね。
気を頼りに誰の子かと告げただけです。
それに今日ですよね?授かったのは。」
おっと、恐ろしい本当に恐ろしい人だ。
妊娠は早くて三週間程で分かってしまう。
帰って来てからお茶会やらお泊り会やらと
色々していたら二週間が経過した。
そして三週間目に突入する前くらいから
アルト達が外に出払って、
今現在外では私が帰って来てから
三週間が過ぎようとしている途中である。
そう、中の時間では、
大体1か月程は経過していたのだ。
合計で凡そだが一か月半程度。
もう中に居るというのも、
妊娠の初期症状が出ていて何となくは察してはいた。
気付いてすぐに、胸が痛くて辛くて怖かった。
誰も居ないこの世界が、何よりの救いでしかなかったのに。
誰も入れさせないように、していたのに。
『どうして入れたんですか?貴方はこの場所に入れる状態ではなかったはずですが。』
「確かに少々てこずりましたね。」
『えっ無理矢理来たんですか????』
「少々」
えっガチじゃあん……うっそだぁ。
「嘘ではありませんよ。貴方の事ですから、
アルトさんを出す時点で察しは付いていました。
まぁ最初に気付いて報告を入れてくれたのはモヒイトさんですが。」
『あ〜〜〜寄りにもよってモヒイト………』
頭のキレる彼の事だ、大よその検討を付けて彼に報告したのだろう。
急いでするよりも確実にことを考え、なるべく早く適切な処置をと。
なんならこの場所の時間設定は華樹の樹がみえる
この場所たった一つしかない出入口にしかないのだ。
全王宮と華樹の樹が繋がっているあの一つしかない。
あそこを管理しているのは主に二人。
私と、アルトリアその二人しか権限は与えられていない。
例え全王様や大神官様達であっても、変えることは出来ないはず。
「それであっていますよ。なので猶更、事の重大さを知りましてね。」
『…流石に此処にいるとか言いませんよね?』
「子を下す気なら、ね?」
『……今自害してもいいんですよ?』
「自害出来るなら、ご自由に。」
させないつもり、だろうが。
バッと後ろに下がり、彼から距離を取る。
裏庭なので逃げるには難しいが、
一気に決めさせてもらうしかない。
この場所全体を黄金の草へと敷き詰め直す。
幸いなことにこの草に耐性が徐々について来ていて
ある程度の思考は出来る様になったのだが…
『っあ』
「いけませんね、何時の間にこんなことを?」
速さが数段上であったのを、忘れていた。
軽く首後ろを叩かれた後、金色の首輪をつけられたのか
身体の自由がなくなり、そのまま倒れ込んでしまった。
大神官様の足元しか見えないというか、
身体の自由がきかないので、動くのも難しい。
加えて一度黄金の草を生やした状態ではある。
思考回路があやふやになり、視界が朧げになって仕方がない。
うつらうつらとするメルを見て、ふむと声を漏らす。
「確かに貴方を放置するのは些か危険というものですね。」
『…っだ、い、さま?』
「メルさん、貴方は貴方が思っている以上に、
多くの子達が貴方に親しみを持っています。」
『っわ、た、し、なん、かが』
「確かに、他の世界とかかわることは、本来厳禁です。
華神達は一応とある場所の神と親交を結んでの契約上での話ですし。」
なんだ、その話は。まて、そういえば前に大神官様の部屋に近い書庫に入ろうとしていた気がする。
その話はまさか、その書庫にある話か?
「その通りですよ。貴方がルメリアさん、
いえ貴方の母上様が消えかけた魂と共に
降りた下界の異世界との記録も全てしまっています。」
ということは、だ。
向こうの神様は私達にメリットがないように見えるが意外とある。
私とルメリア様が居るこの世界をA、
ティーナ様達の世界をB
私の居た世界をCという名前にしよう。
AからB、AからCへの行き来は可能。
だが肉体と言うよりかは精神、
魂での行き来しか出来ない。
AからCに子供を下す。
Cで育った魂はAに戻す。
それだけだとAは場所を貸してメリットがない。
「ええ、其処迄合っていますよ。続けて。」
だからCは、その神の仕組みを、子供に描かせることにした。
その描いた仕組みやら情報は、Aの神は承認済み。
知識を渡す代わりに、母親と子供の安全を兎に角
大事にという契約を結んだということだろう。
そうしたらCの神々も、仕組みを理解し、
もし可能ならAから貰っても良いかと言われるだろうが、
恐らく言われたら借りもあるのでやることにはなるだろう。
そうだろう?
「…ええ、素晴らしいですね。本当に書庫を見ていないのですか?」
それが見ていないんだなこれが。
Bの多くが華神の生きている生息地。
元々Aの人間がBに通じるトンネルを
無理矢理作りやがったのが
今回の原因になっているはず。
なんならCやら華樹神やらがこれのせいで
出来る羽目になったはずだが、そこは今回省いて説明をする。
Aの人間はBに居る人間が神になる素質を持つとなぜか思っていた。
本当にBの人間を連れてきて、実験していったらまさかまさか当たっていて。
Bの人間がもつ感情と、神が落とした種と共鳴するようになった。
共鳴し合った種とBの人間が力を持ったのが、現在の華神。
そして、その種を持つ大本の樹木自体が、華樹という樹そのもの。
そう、その種を作ったその神こそが、
『る、とらあ、る…』
私の父親に当たる人である、ということになる。
考えたくなかった。多くの人達が犠牲になるとは。
その尻拭いをさせられるどころか、
子供まで巻き込むことになっているということに
気付くのが遅すぎて阿保たれと思うしかない。
「何から何まで正解ですよ。お見事です。
ではそんな貴方に質問ですが、
現在の華樹はルトラールさんで
間違いない様に聞こえますが、
その仕組みはわかりますか?」
…多分でよければですが。
恐らく、華樹になれる者が樹木の「種」を生成できるというものだろう。
ルトラールはルメリアに託し、そしてルメリアはエフェメラルに託した。
継承していくなら、同じ華、というのが本来正しいのではあろうが。
何処かで人間の血の様に、華も進化していく形に変わったのだろう。
華を持つ者達が変わりに変わって、樹木も「種」も変化を…あれ、まてよ?
変化するなら、本当に、私の力で何とかなるのではないか?
いやでも駄目だ。こういうのは「等価交換」がお決まりだ。
何なら頑張ったら華樹、人間になるんじゃないのか?
やろうと思えば本当に話せそうで怖いんだが。
きゃーーーしゃべったーーーーーがしたい気がしなくもない。
いや絶対それがしたいだけだろう私。
「其処迄わかるのならば、何故華樹に貴方自らを差し出さないのですか?」
『っえ、ま、っ、て。わた、し、華樹神、じゃ』
「確かに地位は華樹神であっています。
ですが華樹は未だにルメリアさんの状態です。」
嗚呼成程、華樹自体が変わり切っていないのか。
新しい栄養が取れていて華樹も困惑しているのだろうなあ。
ならその変える儀式も執り行わなければいけない。
嗚呼でも、この子を、産むなんて、私には出来るのだろうか?
正直普通にサワアの子供も見てみたい気がしてきて
本当に屑野郎と思い出してきたんだが。
「別に構わないのでは?私は見てみたいですが。」
私が無理。IF世界の人間に投げつけるしかない。
正直女の子でも男の子でもどっちでもいいが、
両方と妻子なんてちょっと欲張りすぎやしないか。
「人間のしきたりに其処迄はめる意味があるかわかりませんが。」
『だと、しても…さわ、も、こっる、も、イや、でしょ?』
「それはわかりません。彼等に聞いてみなければ、ね?」
そう振り返る彼に、メルは漸く起こした身体がふらりと落ちるのが防がれる。
『っは、っ、な、んで?』
「モヒイトから聞いて駆けつけました。」
会いたくなかった
今、会いたくなかったと、メルは強く想ってしまった。
そんな自分が酷く嫌で、怖くて、涙がぽろぽろと零れ落ちる。
そっと抱きしめてくれる彼に、ごめんなさいと首を横に振るしかない。
「…仕方がないのです。貴方はそうするしか生きる術など見つけれなかったのでしょう?」
『っで、も。』
「確かにされたことは殺したくなるくらいには嫌でしたが、時間を置いて考えてきました。」
頑張って起き上がろうとした私の手を取ったサワアが軽く抱き上げる。
「私は貴方を、ずっと見てきました。貴方がいいのです。」
別に子供は幾らだって作れますし。
そう額をつけてくれるサワアに、メルはそっと目を閉じた。
「それに、純粋な彼の子でもない可能性だってあるでしょうし。」
『…っえ?』
「ふふ、何も弟に先駆けられたとは言っていないのですよ。」
待て待て待て待て待て待て待て待て。
避妊していたとかほざいていたが、お前まさか。
「っくくく、今更気付いたのですか?
何処に愛おしい人が目の前に居るというのに
子を孕ませないとでも?」
「まあ、そういうこともあって灸を据えさせていたのですよ。」
『(嗚呼それは確かに灸を据えるわ。そりゃあそうだ。)』
言うなら、お兄ちゃんの子供を襲ったみたいなもんだろ。
流石にお父さんでも看過できないよね。そりゃあ怒るだろうなあ。
「ですが、流石に我々での話では収まりませんので」
『っあ!!』
「お三方にと、お話をと」