厚い紙束が散らばってそれから




バタンとドアを閉じる。

『(天使ばかりに出会う)』

そうして白い空間に出会う。
これはもう、夢ではないかと思いたくなるくらいだ。

ドアの前に、一つお題が掛っている。
今度は、日本語ではない、神の言語で。

酷い、言葉をかいている。



【ソレについて言語化せよ】



だなんて、そんなずる過ぎる。
口頭で言えというのだろう。
なんて、酷い。



『私、自分を辞めるつもりなんてないの。』

魔女にだってなりたくないし
出来れば神様にだってなりたくない
私は人間で、あり続けたから。

人の感情を知った、人間だったのだから。
それは当然と言えば当然なのだ。


『でも、この世界でもし自分を辞めなければ生きれないというならば。』

私は

『この感情をこの場で手折り、自害する。』


それに、ドアの形状が歪んだ気がする。
一瞬だが、それはまずいと思ったのか、
それともこの、感情の不安定さが招いたのか。


『華樹神が次、産まれるなんてもう二度と在り得ない。
本当はそれでいいと思うし、次世代の子達にやらせればいい。』

それは本当に思っていることだ。
だから、これは夢物語に過ぎないこと。
死んだ後に見続けている、淡い夢なのだと。

そうでなければ、どうしてこうなっているのか、分からない。

『色褪せない、醒めない夢を、見続けてる。』

でも、それでもいいのだ。
それでも、いいと、許さねばならない。

『ならば、終わるまで見続ける。』

その終着点に、私は辿り着いて見せるというのだ。
其処が終わりとは、到底思えないけれど。

『人はこの状態をこう呼ぶ』


【受容】


『否認し、受け入れず逃げ続ける。
どうして私がこんな目に合わねばならないのか。
現実なんて認めれる訳がない。』

彼女は死んだ?元々存在しない?
そんなの在り得るわけがない。
此処にいる、でも触れられないのはそういうことで。

見えないのも、そういうことであって。

『だから取引をした。もう何も要らないから、どうかこの願いを叶えて欲しいと。』

何処にもいやしない、神になど願った。


『でも、それは無駄なことで、そんなの在り得なくて。
この時間が長く続くなんて、そんなの嫌過ぎる。
なら、辛く耐えれないならば、最初から全てなんて見なければいい。』


そう、最初から全部受け止めるからきつくなるのだ。
ならば、そうそれは、毒薬のようなもの。
最初は毒なのに、少しずつ入れて、馴染ませる。

分からなく認知なんてできなくなるくらいに
日常的に、通常に、組み込ませて溶け込ませる。
そうして、記憶は時間は、人格となりだす。


かけがえのない時間を、忘れたくないのだと。


『亡くしたことすら、受け入れる。』


この夢を、醒めない夢と言い聞かせるのだ。
だって最初から、夢なんて見ていないのだ。

そう、醒めない夢を、見続ける。
静かにただただ、じっと、ずっと。
穏やかに落ち着いたこの感情を、人は言うのだ。



『全てを受け入れた受容の段階。人が降り立つ、最終地点。』

でも、私はその先に待ち受けたものがあると思っている。
それの感情を、私は知らない。だから、この世界で前を向くのだ。
いつかの私が、もう決して泣くことのないように。

笑い続けて、生き続けるその為に。


『私は私を受け入れる。許さないその感情すらも。』

全てくるんで、包んで、見つめる。



そう言うと、ガチャリと重い音がする。
どうやらこの世界が終わるらしい。
少々ホッとして、メルはドアノブに手を掛ける。


開けた先には、





『…おかしいなぁ』


醒めない夢を、見ているだけなのに。



『なんで帰ってくるかなぁ〜〜〜〜〜〜』


おっかしいなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




『なんか二人に増えてる気がするしなぁ〜〜〜〜
私眼鏡かけたほうがいいのではなかろうか。』
「あの、現状を受け入れられないのはわかりますが
メル様、一応現実です。目を向けて下さい。
先程まで一緒に居た者達ですよ。」
「…お兄様、それは流石に些か可哀想では。」

そうメルは明後日の方向を向いて身体を使って酷くため息を吐いた。
それに近づいてサワアが更に追い詰めることをいうものだから
やめて差し上げろとコルンがつけ足したのだ。

『お兄さん達帰れてないんですか。』
「ええ、一人の空間に飛ばされまして。」
『お題クリアしたから来たと。』
「ええ、お二人ともですか?」
『私も』

あんな、お題なんて別にどうだっていい。
過ぎたこと、いや、受け入れた範囲内のこと。
この感情が、酷く、穏やかなことが、恐ろしいくらいで。

他はどうだっていい。

『それより、サワア様とコルン様お二人同時ということは…ちょっと一つ気になることが。』
「なんですか?」
『私お二人に会った後、ウイス様とモヒイト様に会いました。』
「あの子達にですか。それは一人ずつと?」
『ええ』
「ならば、このまま一人ずつ増えて全員が集まれば解放と言ったところでしょうかね?」
『恐らくは。』

まぁ、あと二回程あると思えば楽になるというもの。
数が分かる分からないでは話が違うのだ。

『お二人とも私が来るどれ程前に此方に来たんです?』
「体感ですと、大体数分、5分も経っていません。」
「先に私がついて、大体同じ時間に来たので、このまま5分待ちますか?」
「いや、先にお題をクリアした方がはやいのでは?」

それに、


「どうやらこの三人で、と言われているようですし。」

そう言ってコルンが前を向き、杖を持って話す。
其処には大きな三つのお題と、ドア、そして説明書きが書かれていた。


「メル様読めます?」
『読めるは読めますけれども、いや殴っていいですこれ。』
「別に殴るには構いませんが、貴方力が出ないのをご存じでは?」
『こういうのは気持ちです気持ちが問題!!!ああああああ!!!』
「まぁ、ご乱心になるのも納得というもの。」

彼女の嫌な処を突いてくるのだ。
彼女が嫌がるのは、人を巻き込む行為そのもの。
よって、コルンやサワア達のように、天使達を複数人
巻き込みだしたということによるものであって。

本当にこの部屋は上手く造られているとサワアは改めて感心した。

「そんな感心している暇ありませんよ、問題はこのお題です。」
「コルンさん、貴方文字が?」
「ええ、この範囲でしたら、ですが…まぁこれはまた」
『はっっっぐう』
「はいはい、分かりましたわかりましたので言わないで頂きたい。」


こうでかでかと書かれていたお題はこうだ。

三人でお題を達成するまで出られません

・誰かが誰かの髪をとかす
・自分以外の全員と抱き合う
・半径50p以内の距離で寝付くこと


「髪を梳かすのはすぐできますし、メル様後ろを向いていただいても?」
『ええ〜〜〜私はサワア様とコルン様の髪の毛をとかしたいのですが。』
「恐らくそうなるでしょうね。三人で、と書かれている以上は。」
「それなら抱き合う話は普通に抱き合うと書いていればいいのでは?」
「それだとわかりにくいと思ったのでは?」

誰かが誰かと抱き合うだけだと、
自分をはずしたものだと勘違いしかねない。
そう思った作者の意図ではと言ったのはサワアだ。

「まぁやれることを兎に角やるべきでしょう。
ほらメル様此方に大人しくお座りください。」
『ううう〜〜〜〜〜』
「嫌そうですね」
「ですがサラッとやらせてくれますよ?ほれ」
「……正直メル様に悪い虫が寄り付かないか、
私は本当に心配なのですが。」
「っくく、よいではないですか。別につけても。」
『え』
「っいい、のですか?」

そう驚いたのはコルンだけでなくメルもだった。
サワアがそんなことをいうなんてと思ったのだ。
それに、だってと続けてサワアが答える。

後ろを振り返ったメルの髪の毛を持って、
杖から櫛に変え、さらりとひと房取ってとかす。

「そんな虫はどうせ、此方で振り落とせばいいだけですし。」
『〜〜〜〜あっ、あ〜〜、あ〜〜〜????なるほど????』
「いや、メル様。お兄様の仰っていること、本当に分かっています?」
『いいえまったく????』
「…あのですね、貴方と言う方は本当に。」
「っくく、良いではないですか。
まぁ、とはいっても私がそんな虫を付けさせる前に、
他の子達が許さないのでは?」

ねぇ、コルンと言ったサワアがちらりとコルンの方を見て言う。
それに対し、コルンは色々考えているのか
目を閉じて「それは、そうですが」と苦し紛れに答える。

「どうせ下の子達もですが、
クスお姉様も心穏やかにとはいかないでしょうし。」
『え、クス様そんなに怖いの????』
「おや、ご存じないのですか?
クスお姉様は天使の中でも厳しい方ですよ。」
「普段は温厚ですがね、いざというときは言いますよね。」

いつかの日がどうやらあるらしい。
コルンは少々他に視線が移る。

「それにしても綺麗な髪ですね。何かつけてます?」
『いいえ?そうですかね?
そこまで実は手入れしてないんですよ。』
「おや、それはいけませんね?
女性の髪は命とヘレス様も仰っておりましたし。」
『いや〜ちょっとこういうのもあれですが。
ヘレス様アレは度が過ぎているだけでは』
「そんなことを仰っていると、痛い目合いますよ?」

そう言ったサワアに、告げ口するなと言うメルだが
くすくすと笑う処、間違いなく、これが終わったらいうだろう。
いやぁ、要らないことは彼に言うべきではない。

そう考えればまだコルンの方が優しいというものだ。
秘密を守ってくれるという意味でも。

『っ』
「っと、痛くなかったですか?」
『っいや、別に?私もっと早いですし。
貸してもらっても?』
「え、ええ」
『大体こうしてですね』
「メル様????」

メルはベットの上に上がり、そのまま胡坐をかいて身体を前に倒す。
その体制になると頭も下がるので、自然に髪が前に横に垂れてくる。
その間付け根の方からさっさと櫛で軽くといていく。

少々髪がバチバチ言っている音に、思わずサワアが止めようとする。

「メル様いけません、流石に雑にし過ぎです。」
「お兄様の仰る通りです。神以前に貴方は女性です。
ご自身の身体を傷つけるように、
そんな適当に扱わないで下さい。
髪の毛が櫛に絡んでいるではないですか。
それをベットに落とさない!!!」
『わあ過保護』
「誰が過保護ですか。至って普通のことを言っているのです。
…ちょっと待って下さい、今いつも通りにしました????」

ニコリと微笑むメルに、コルンが頭を抱えた後、杖を櫛に変える。

「全く、こう付け根から優しくですねぇ。」
『わあ』
「わあではありません!全く、
どういう生活をしていれば
そうなるんですかそう!!!」
『とかす暇なんて作らなかったので。』
「…失礼、言い過ぎました。」

ご無礼をと言うコルンにいやいやとメルは前を向いて話す。
左側を櫛でとくコルンに、メルは横髪を持って話す。

『でも白って綺麗だよねぇ、力がないというのに。』
「…おや、メル様」
『はいなんでしょうサワア様』
「つかぬ事をお聞きしますが、メル様は華樹神様ですよね?」
『ええそうです』
「華神は本来、力を使うとその髪色を
力に注ぎ込むとお聞きしていますが、
メル様もその類で?」
『一応そうだと思ってますが。』

何が聞きたいのですと聞いたコルンにいやですねとサワアがコルンに見せるように出す。

「髪色が白ではなく赤と黒に」
『っ!!!!』
「メル様!!!」

バッと身体を動かしたので、つい櫛が髪に絡まる。
ばちんと言ったのでかなりの痛みが伴っただろうに。

「右下の付け根ですよ。黒髪はですが。」
『…しくった、早くしないと。』
「お待ちください、その髪色はなんですか。」
「気付きませんか?華神という存在のあるべき形に戻りつつあるのですよ。」
「…なんと」
「メル様は最初から最後まで、力を使い続けていた。
そう、私達で例えるならば、常時身勝手の極意を使い続けているようにね。」

バレてしまっては仕方がない。
メルは観念し、ため息交じりに元の場所に戻り話し出す。

『…元々、この世界で生きている時は赤なんですよ。
力を使っていない状態はティーナ様達のような華神を見ればわかります。』
「加護天使達もですか?」
『勿論、恐らくカミカゼも力を落とさせたら髪色が変わるはず。
リコットが前に色を落とし、意識を失ったと聞いていますが、
あれは単純に力がなくなり髪色を落としてまで力を使える量もなかっただけ。』
「ということは、願いを力を使っている状態が、その姿だと。」

そういうことだ。

「では何故使い続けて?別に赤になってもいいのでは。」
『…嫌なんだよね、赤い髪の毛が。』
「何故です?綺麗だと思いますが。」
『だってあの二人の色には程遠い色だし。』
「…メル様」
『過ぎたことでしょう?馬鹿だと、愚かだと思っていい。』
「そんなこと思う訳ないでしょう。」

そう言ったコルンに、メルは続けて言う。

『赤は血に染まった色、その更に、戻った時間こそが、私の本来生きた時間。』
「…黒色を、隠し続けるために、常時力を使い続けていたと?」

たとえ、体調が悪くなったとしても??

それにメルが息を吐いたことが決定打であろう。

「っ貴方と言う方は、どれ程自分の身が酷い状況下だったかご存じで…!!!」
『そう言われるのが嫌だから!!…私はこうして徹底して変えてたの。』

本当は最近色が乱れつつあるというか、
赤色よりも黒色の頻度が多すぎるので
それを隠し通すためにというのが正しかった。

『黒色は本来魔女の印でもあるもの。悪い印象しか生まない。
それに白色は綺麗だし、夢のような色合いだからね。』
「…そうして、自身の力をセーブして、我々を守っていたと。
貴方という方は、何処までも自身を犠牲にする。」
「コルンの仰る通りです。
体調が悪い時は力を使わない方が身のためです。
此方の身にもなって頂きたい。」

左右に言われると、メルも流石に認めざるを得ない。
すいませんと軽く謝り肩を落とした。

『まぁ…そういうなら、酷い姿なのに。』

そう言ってメルは指を鳴らす。
するとキラキラと髪色が変化していくではないか。
力が出ないとは思っていたが、単に気がないだけであって
こういった力の源はかき消せないのだろう。

メルの髪色が赤と黒に混じる姿に、サワアだけでなくコルンも目を丸くした。


『一度こうすると暫く色が戻せなくなるから困るけど。
まぁ二人の言い分はわかるし、力も温存したいからするよ。』
「…メルさま、この色は」
『通常髪色は一色のみ、少々異常でね。
本来赤い髪だけなのに今黒が多くなりすぎてる。』
「このことをルトラール様達には?」
『いう訳ないじゃない。恐らく気付いてすらいない。』
「っ何故隠すというのです!!」

落ち着けとサワアが言うのに、コルンがぐっと止める。

『変わりたい赤よりも、変わりたくない黒を私は望んだらしい。』
「…何を言って」
『赤がもう1割にしか満たされてないのが恐ろしい話だけど。
まぁ、この色はガラじゃないなぁ。』
「ですが、お似合いだと思いますよ?眼も黒色でとても可愛らしいと思います。」
『ありがとう』

黒髪の黒い瞳はメルも気に入っているものだ。
素直に礼を述べる。

『本来の髪色に戻るのは魔女に酷く近い印であり危険な状態。
華神の通常状態で髪に白が混じることで、加護天使になる印と言われるように。
華神の通常状態で髪に黒が混じるというのは、魔女になる印でもあるの。』
「何故それを」
『単に心配されたくないというのと、
元々私の髪色は最初から黒い色だからねぇ。』

それに

私はあの時間を愛し、そして受容した状態。
赤い色が、綺麗にすっと黒に染まったのをみて、はぁとため息をついた。

『大丈夫、魔女になるのはあくまでもすべての全否定から。
この状況下では絶対に魔女になんてならないしなれない。』
「何故そう言い切れるのですか。ここでは叶わないというのに?」
「お兄様」
『だって私は受容した。もう、もう、大丈夫なの。』

弔いをした、此処で良いと願った。
理解をして、この場所に生きている。

ずっと、息継ぎをし続けているのだ。


『大丈夫って思ってもね、怖いから、ずっと力使ってた。
でも二人ともいるし、飲み込まれても片方が助けるでしょう?
ならばと思って、とりあえず力を抜いてみたってわけ。』
「信頼されているのは非常に喜ばしいことですが、
そういうことではですね…」
「…黒い、ですね。」

そうサワアが言うのに、ええとメルは答える。

『綺麗な黒色で、私が一番愛した色。光に照らすと茶色くみえたりするよ?』
「ほぉ、それは日の当たる場所でみてみたいものですね?」
『ふふ、まぁ見せるなんて今後二度とないでしょうがね。』
「おやおや、言ってくれますね?そう言われると、暴き甲斐があるというもの。」

サワアの言葉に、メルはさせないと答える。
決意したこの覚悟は、かたいものなのだ。

『アルトの様に、私は誰かに見せるなんてしたくなかったんだけどなぁ。』
「…メル様」
『私はこの髪色を私だけが愛して私だけが見ているこの時間全てをひっくるめて、愛していたのに。』

まったく、入り込ませるようなことというか。
そう言う状況下になった私にも落ち度があるというもの。
仕方がないと言われたらそれまでなのだが。

「ですが、気分はかなり楽なのでは?顔色は以前よりかなり良いですよ?」
「確かに、血色はかなりいいですね。もういっそのことこのままいけばいいのでは?」
『馬鹿、誰がするか。この状態で外に出たらルトなんて持ってるもの全部落として
全員招集してこの状況下がどうなったかコンコンと問い詰めてくるよ??』
「うっ」
「流石にそれはきついかもしれませんね。」

お説教をくらいたくてするわけでもない。
それは確かに引く気持ちも分からなくはない。

「ですが、かなり楽なのは確かでしょう?」
『まぁ、久しぶりにこんな楽に居られますけれども。』
「なら今だけでも、ね?」
『…お二人の髪の毛ちゃんととかさせてもらえたら。』
「おやおや、では私のを?」

勿論と言ってメルは櫛をもらい、サワアの髪の毛をとかす。
きれいきれい!えっなにしてるのこれ待って何食べてる?
そう聞きだすメルに、何もしていませんよ〜と伸ばして答えるサワア。

絶対嘘だと言い切るメルに、くすくすとサワアが笑って流す。

「…ほんと、無理をなさらないで下さいね。」

そう言ったコルンに、メルはニコリと微笑み返す。