箱庭の恋人たち
暫くして、コンコンとドアのノック音がして体制に入る。
一応杖は前に出して、自身の力を注ぎまくって……
「ストップ!エフェメラル様、客人です。」
『…とと、客人?』
ほれと、ドアを開けて、下を見ていたサワアの目線から出てきた人は
『ビーデル!?』
「こんにちは…ってメル!!どうしたのその顔!!」
白いじゃない…って吐いたの!?
そう慌てて駆け寄るビーデルに、すいませんと
更に後ろからパンと悟飯、そしてウイスが来ていた。
「すいません、ブルマさんにご相談した際に
丁度ビーデルさん達もお聞きしていらしたらしくて。」
『あちゃ、教えたかったのに。』
「おめでとうって言いたいけど、
とりあえず温かいタオルと冷たいのも取ってくるね。」
「嗚呼でしたらこの私めに指示を頂きたく。」
「貴方は?」
「ビーデルさん、此方はメルさんの
旦那さんになられる方ですよ。私の兄です。」
「第2天使ガイドを務めさせて頂いております。
ウイスの兄、サワアです。
メルが世話になったと聞いています。
その節は大変世話になりました。」
「わわ!ビーデルと申します!よろしくお願いします。」
いえいえ此方こそ、メルには助けて貰って…
そう互いにぺこぺこしているのをベットから見ているメルだが…
なんか凄い自室で凄い話をしている気がする。
そう軽くペコリ会釈をするサワアに、
ビーデルがウイスさんに軽く聞いてみると
とんでもない返しが帰ってきたことに驚き謝る彼女。
「ビーデルさんは人間で、メルさんが11番目の頃に
仲の良い幼馴染として助けて貰っていた話を
メルさんからも聞いていました。」
尚且つ彼女は妊娠経験があります。
もしよければとお伺いをブルマさん経由で
相談したいと思いまして。
連絡を取っていたのです。
そう説明するウイスに、今度はビーデルが話をする。
「丁度ブルマさん所に用事があってね、話を聞いて
ウイスさんに急いで来てもらってきたの。」
時間的にそんな経っているとは思ってもなかった。
どうやら吐き気とかその他諸々で
とんでもない時間が経過しているらしい。
「私もそこそこ酷かったですけど、
とりあえず何か食べたいものは?」
『ない』
「分かった。オレンジジュースね。」
『なんでそうなるかな?!!?!??!』
「サワアさん、って呼べばいいんですか…?」
「ええ、構いませんよ。私はビーデルさんとお呼びしても?」
「ええ!温かいタオルと冷たいタオルを
用意してもらってきても構いませんか?
あとできれば冷たい水の入った
ボウルとかがあればいいです。」
「わかりました。用意してきます。」
「ウイスさんは向こうで杖に入れてくれた
オレンジジュース出して貰っても構いませんか?」
「ええ、構いませんよ。他の物も出しましょうか?」
「わあ、助かります!」
「では。」
そうサワアがその場から荷物を軽く持って居なくなる。
持ってきていた食べ物をと身体を起こしてベットから出ようとすると、
ふわりと身体が浮いて、そのまま落ちそうになるのを抑えて貰った。
「…大丈夫ですか?」
『えと、あ…うん。あり、がとう。』
「こらメル!じっとしてなきゃ駄目だよ!」
『え?あ、ご、ごめん…?』
「あーどうしよう。サイダーとかでも飲めるかなぁ。」
『えっサイダーあるの。』
「メルさんのご妊娠をお聞きして、
色んな食べ物を持ってきてくれたのですよ。」
そういって机にそれぞれ種類の豊富な飲み物や小さな食べ物が置かれる。
サワアの入れてくれた飲み物をとりあえず取ってもらってみたが。
『…っ』
「匂いが駄目?飲めそうにない?」
『…うう、でも大丈夫。』
「もう!そういう時は、大丈夫じゃないの。
無理に飲まなくったっていいのよ?
サワアさんだって飲めなくても大丈夫だと思うし。」
「寧ろ無理に飲んで吐き出した方がお兄様も心配されますよ。」
『う、うう…じゃ、じゃあ……ごめん。』
流石に二人に言われると引く。
メルはそっとウイスに手渡して、
先程言っていたオレンジジュースを貰って飲んでみる。
『…あ、美味しい。』
「本当!?じゃあオレンジジュースはクリアね。」
『サイダーもいけるかも。』
割といけるものが手あたり次第見つかって嬉しくなる。
好き嫌いは激しいが、飲みたいのに飲めなかったり
食べたくても食べれなかったりが
結構激しくなっていることに絶望を感じ始めている。
うう、食べたいのにってのがまた辛いが、仕方がない。
帰ってきたサワアがビーデルさんと声を掛ける。
「一通りのものは持ってきました。」
「ありがとうございます。すいませんがこれ片付けてもいいですか?」
「別に構いませんが、お気に召しませんでした?」
「匂いで駄目っぽそうだったので。」
「パンたべる!!!」
「こらパン!!」
『いいよ、寧ろ食べて貰えると私が助かる。君は天使だな???』
「違いますよ、人間です。」
そう確実にはっきり否定するサワアに、メルはだよねぇと笑う。
腹を抱えて笑うなんて気力もない、ただ吐くように笑うだけの気の抜けた感じ。
気分は少しは良くなっているだろうが、
マシになった程度なのは見て取れた。
「なんだったら吐いてでも食べそうな勢いだったので止めたんです。」
「先程言っていましたよ。全く、貴方と言う人はすぐ無理をしようとして…。」
『うう…だって、折角サワア作ってくれたから。』
「これしき幾らでも作りますよ。」
「ほらだから言ったでしょ?」
『ううう……』
呆れながらもはっきり言うサワアに、メルは何も言えなくなる。
「そちらの食品のレシピ等はありますか?良ければメモを取りたいのですが。」
「えっどうしよう…殆どが作った物ではないので…」
『…オレンジジュースって果肉さえ絞ればいける?』
「いや、詳しく調べてはないから分からないけど…」
『後で華神らにも聞いてみるか。それこそティーナの方がいいかもなぁ。』
「てぃーな?」
「メルさんのご友人、というところでしょうか。」
人間でわかりやすくいうと、とウイスが続けて言うのに、
成程とビーデルは納得するが、正直全く違う位置に居ることを
彼女達が知ったら恐れ多くて引くかもしれないのが少々怖いが…
まぁ今気にすることではないとメルは思って、
更にオレンジジュースを一口飲む。
「レシピの方は何とか調べて、えっとどちらに…」
「ではブルマさんに連絡を取ってもらい、
私の方に教えて頂けますか?直接受け取りに行きます。
その後お兄様の方に渡せば構いませんよね?」
「ええ、その手筈で。」
「わかりました!」
『大丈夫?ビーデル、迷惑にならない?』
無理しなくていいんだよ?
そう言うメルは、未だ吐き気がするのか、
胃の周りをさすってベットに腰をかけたまま起き上がっている。
それを見かねたパンが、
メルの着ていた黄色いタオルケットを
そっと舞空術を使いながら肩にかけてくれたのだ。
ありがとうと優しくお礼を言ったメルに、
どういたしまして!と笑って返すパン。
「気遣いの出来る素晴らしい娘さんですね。」
「すいません、じっとしていろって言っても聞かなくて…」
「いえいえ、此方も言う事を聞かない子を
見ていますので、お互い苦労しますね?」
『サワアさん????』
「子供以上に言う事聞かないからですよ?」
うぐう。
「私に関しては大丈夫よ。
何ならメル、一人で全部やろうとするんだから。
寧ろなんでもお願いしてくれたら楽なんだけど。」
「ほら、ビーデルさんにも言われてますよ?」
「にもって…他にも?」
「ええ、華神らいや、華樹神である
メルさんの部下達華神、加護天使らにもね?」
『わあ、悪いんだあウイスさぁん。』
「おほほほほほ!失礼。ですが事実でしょう?」
まぁ実際はそうである。
『えっとまぁ…じゃあ、お、お願い…し、よう、かな?』
「…ま、及第点ね。メルにしては。」
「び、ビーデルさん…でもメルさん、おめでとう。」
『悟飯君…!』
「一時はどうなるかと心配だったけど
…杞憂だったようで良かった。」
『…うん!!』
「ま、最悪自害しそうにはなっていたがなぁ〜〜?」
「なっ、だ、誰だ!!!」
『ばっ!?ちょ、プラティア!!!』
ぷらてぃ?誰だと言う悟飯に、
アタシにたてつこうって?
と威嚇するプラティアに、警戒する悟飯達だが
「おやめください、お姉様。」
「お、お姉様?!?!」
「大神官様の子であり、
一番上の天使、プラティアさんですよ。」
「だから違うって言ってるだろうが!!
アタシはもう天使から人間になって
華を咲かせ魔女になった者だって。天使じゃあない。」
「ですが元々の生まれは天使、でしょう?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
『ぷっははははは、無理だって、プラティア〜。
ウイスさんに口で下等なんざ百億年早いって絶対。』
「い〜や絶対勝てる。」
元気でよろしいと笑うウイスに、三人してクスクス笑う。
『にしてもプラティアどうして?』
「嗚呼?お前の感じがどうもおかしかったからな。
連絡しても返ってこなかったし、
何かあったと思って急いで帰って来たんだ。
まぁ…その感じが的中していて驚いたが。」
ちらりとベットの近くに落ちてあった
袋の中と、その外にあった華を見て言う。
「…桃のカスミソウ、か。」
『プラティア、貴方華の言葉を。』
「知ってるに決まってるだろう。
お前の脳内もちゃっかり見ているからな?」
『うわあ〜人の記憶土足で入るか?普通。』
「アタシは元々天使なんだろう?
土足もくそもへったくれもないだろうが。」
『そりゃそうか。』
ニヤリと笑うメルの表情に、
ビーデルや悟飯は目を丸くしてみていた。
それもそのはず、彼女達にする目ではない。
きょとんとした目元ではない、
キリっとして、その者をただ見つめる様な姿。
「…メル、そんな顔したんだ。」
『え?待って待ってどの顔どの顔何処の顔???』
「その顔」
『じゃかしい。ぜってぇちげぇ。』
「…そっか、嗚呼〜なんだか寂しいなぁ。
まるでメルが一人で何処か遠くに行ったみたいで。」
「あながち間違ってないですよね。」
「え」
「華もオキザリス、ですし。」
『ちょっと煩いですよ天使のお二人。』
おや、これは失礼と笑いを堪えて
謝罪するサワアに軽くメルがひっぱたく。
嫌になったり照れたりすると
叩きだすのは昔らからの癖だ。
「でも、本当に元気そうでよかった。」
『ビーデル…』
「また、寝ちゃってたらサワアさん達悲しんじゃうし。」
『…うん、悲しませないように、居るようにしてるんだよ。』
「エフェメラル様…」
『子供がいるのも何よりだけど、それと同じくらいに、此処にいるって決めたのは私だから。』
ずっと怖くて、彷徨い続けた。
自分がだれで、どんな人か。
分からなくて、居座る場所を追い求めた。
その間多くの人を助けたなんて、知りもしないで。
助け続けた先に、その助けた人達とこうして巡り合えている。
本当に、奇跡が起き続けていると私は思っている。
助けられても、ありがとう、ってお礼が言えないのは、辛いだろうから。
『もう、何処にもいかないって、私決めたんだから。』
「…その言葉、どうかお忘れなきように。」
『……ん。』
「…では、僕たちはそろそろ。」
「タオル交換してもらいながら面倒みてもらいなよ?」
『ばっ!びーで、う』
「っメルさん!?」
起き上がろうとして、
ふらりと倒れたメルをサワアが受け止め、ベットに寝かしつける。
急に熱っぽくなってきたのをみて、ぶり返したのだろうと判断した。
「ウイスさん」
「わかりました、お兄様我々はこれで。」
「ええ、すいません、お礼をしながら見送りたいのですが。」
「いえいえ、メルさんに付いていらしてください。それでは。」
「おだいじに。」
そういってパンがメルのベットにそっと花を置いて帰って行くのを、
ベットの中から、そっと見ていて、目を閉じた。
熱っぽくなってきている中、ひやりと額が冷えて気持ちがいい。
絞った冷たいタオルが身体を冷やしてくれて気分のいいこと。
風邪っぽい感じがするのは、気のせいだろうか。
確か風邪になったら妊婦だと
薬は飲めないのできついとか聞いたことがあるんだが。
普通に妊娠したくなかったのはそれが心配だったりもする。
「…そのまま眠って貰っても構いませんよ?」
『っ、で、も』
「大丈夫です。此処にいますから。」
『ほんと?』
「ええ、何処にもいきませんよ。」
『なら、いっ、か……』
「…ねま、したね。」
はぁ、一時はどうなるかと思いましたが。
何とかなって良かった。
「後でビーデルとやらから妊娠関係洗いざらい聞いてくるか。」
「…余り煽ることは止して下さいよ?プラティア様。」
「おや、お前はお姉ちゃんって言わないんだなあ?昔みたいに。」
「ばっ!なにっ……メルが起きる様なことを言わないで下さい。」
うん、と声を上げるメルに、サワアはコソコソとプラティアに話をする。
「それで?帰ってきたとは、それだけではないんですよね?」
「…6魔女の存在を突き止めてきた。」
「…妙な胸騒ぎはそれでしたか。」
それで?
「正直第7に向かわせたくはないが、
これで調子が良くなれば一度は行きたがるだろうな。」
「…危険なんですか、その魔女は。」
「割とな。だが、他よりかはまだマシだからなぁ。」
「ちなみに他の場所を伺っても?」
「…第4、第5、第6、第7、第8だ。」
「また場所刻みに…」
「特に第8は行かない方がいい。
こいつと敵の相性が最悪過ぎるのが分かった。」
「…分かりました。一応警戒はしておきます。
この件について兄弟達には?」
「お前にしか言っていない。」
それはつまり
「信用されているとでも。」
「好きに捉えるがいい。…私とて、
みてみたいと、思ってしまったんだよ。」
魔女になっても、完成されたとしても。
それでも、手を伸ばしてしまった。
彼女の言う「普通」という時間に。
「日向でしか咲かないこの子がずっと笑う時間を。
何処までも、永遠に、見てしまいたいと。」
「プラティア様……」
「まぁ、お前を殺そうとしていた姉ですらない
魔女に悪魔に堕ちた奴が、今更何を言うかって話だがな。」
でも、彼女の中は、酷いくらいに居心地が良くて。
残酷なくらいに、現実を突きつけて来ていた。
こんなことは、ただの理想でしかない。
空想論であり、ままごとでしかない。
存在などしてはいけない。
彼女はそんな場所に、存在し続ける。
ずっと笑い続けて、その悪魔を飼いならしている。
その綻びが、解ける時
果たしてこの世界が生きていけるかどうか…
自分のせいで、全てが消えてしまうくらいならば。
大好きな人達が悲しむなんて、
「嫌だから、こいつは自分の胸に
ナイフを突き立てるんだろうよ。」
「我々が悲しむと知っていても?」
「…どうせその時は、完全に記憶を消されてしまう。」
「…っ、置き去りにすら、させないと?」
「こいつは、そう言う子。だろう?」
自分なんて、最初から存在しなかったのだと。
絵画の絵に、メルの居た場所だけが空白になる。
そんな世界なんて、生きて良い価値等在るわけがない。
だが、記憶が綺麗に存在事無くなるのならば、話が別で。
一人で生きていくなんて、想像もしたくない。
でも、きっともし、そうなれば、何も知らないのだから。
きっと何事もなく、普通に暮らしていくのだろうな。
「狡過ぎますよ。」
「だからさせたくないんだよ。
サラッと笑っているが、
アタシより酷いこと考えるからなこいつ。」
「存じ上げています。」
「殺しに行くのか?」
「まさか!それこそ消滅してこの子を泣かせてしまえば
貴方方も無理矢理蘇生させて私を半殺しにするでしょう?」
「そうでなくても死にかけループはするだろうがな。」
それは辛いですねえ。