まぼろしならあそこに立ってる
それから一か月後立ったある日。
「アルトさん」
「はい!」
「此方に」
そういってついて来いというコルンに、アルトは首を傾げる。
ぴょこぴょこと後ろをついてくる彼女を感じるのは、悪い気分ではない。
彼女を指導し始めて、もうかれこれ半年以上になる。
メル達の名前を出せば、すぐに力を出し予想外の行動に出る。
もう少し最初からそう動けばいいものを、コルンは思いながらも指導し続けた。
コルンの目が正しいというのは、途中からすぐにわかった。
メルがアルトとどれ程の長い旅をし続けて来たかは分からない。
だが、ルメリア様の話を聞くに、
どうやらルメリア様が死ぬ間際に
人と出会った時の人間が都佑という人間。
そして、ルメリア様が創り出したとされる子供が、
エフェメラル、名を付けたのが、都佑と呼ばれる人間。
そう、メルが長い旅を魂を形成させ、
ルメリアを復活させることになった
一度目の人間その者である。
すこし、ほんの少しだけ気になって、コルンは一度都佑の元に訪れ話を聞いた。
ーえ?メルの名前をどうして付けたかって?
ーええ、何か意味があるのでしょう?
ーないって言ったらわかる?
ーええ、我々天使をなんだとお思いで?嘘などついても意味がないでしょう。
なら猶更言わなくても心を見ればわかるのにと言う。
土足でどかどか中に入って、人の時間を見ればいいと。
人間にしてはかなりぶっとんだ思考回路だとは思う。
ーメルって品種の名前の花があるのは知ってるでしょ?
ー…ええ、カランコエという花ですよね?それが何か。
ー私本当は「貴方を守る」という意味であの子を付けたの。
でも、そういって目を細めて空を見ながら言うのだ。
まるで、その時間を思い出すように。
ー一瞬の時間だけでも、お友達になれたらいいなって意味で付けた。
エフェメラルという名を、
ーでも、私バカだから、略さないと覚えられなくて。
ーだから、メルと。
ーそう。これが真実。
メルは彼女との約束で、人と友達になったのだと。
姿形は見えなくて、だから人は言うのだと。
加護天使はルトラールが大神官に託した一つの綱だったそうだ。
その中で、一番小さくも、光を放っていた者がいた。
「(それが、この子だというのですか)」
神に、人の感情を持つ者がいれば、一体どんな宇宙が誕生するのだろうか?
そういったルメリア様の言葉を、ルトラール様は叶えた。
何度も何度も、仕える人が命を落とすとしても。
「(私なら耐えれません)」
きっと、妹弟だけでなく、クスお姉様だって。
なんなら兄である彼女の加護天使達だってそうだ。
全員彼女のような強さを持った者はいないだろう。
一度だけならまだしも、何度も何度も何度も。
傍に居て、命を落とし、違う場所に主の大切な物に憑依して過ごす。
そんなの、地獄以外の何物でもない。
動けないし、動けたとしても加護天使は緊急事態以外は天使と同様。
自ら動くということはしてはならないのだ。
そうして耐えに耐えた結果、この地に天使としてでも戻ってきた。
何度も何度も夢に描いたであろう、神との時間を。
「(だからこそ、私は鬼にだってなってやりますよ。)」
貴方が二度と、彼女らの手を放さない程に強く在って欲しいと願う。
もちろん師匠であるルトラールが太鼓判を押す天使が
どういうものかと気になることもあったが、
それ以上の素質を持っているのは間違いなくて。
だが、その使い方があんまりにも下手くそなもんだから、
ついつい構ってしまうのだ。
何処の破壊神に、界王神に、天使になるかは分からない。
だが、彼女たちがどうなろうと、強くあって損はない。
いつか自分が居なくなったとしても、生きれられるように。
強く、強く、育ってほしいと思うのだ。
それを、彼女は知って尚前を向いて立ち向かってくれる。
そのひたむきな心に、何度感動したか。何度思い考えたか。
「…ほんと、貴方は恐ろしいですね。」
「何かいいました?」
「いいえ、今度メル様達と旅にでると言いましたよね?」
「え?ええ」
「此方を渡しておこうと思いまして。」
「え?こ、これは」
そうついた場所は小さな部屋だ。
私の部屋ですと言ったコルンに
あっそうですか私の部屋うん、
えっ?私の部屋です!?私の!?
私の部屋です!?!?!?
と、何度も言ってアルトが驚き軽く空に飛ぶ。
「昔リキール様が食に興味を持った時がありまして、
それをメモしていました。第八宇宙の食文化についてです。」
「うわ…こんな大事なものをいいんですか?」
「どうせ他の宇宙にご迷惑をおかけするくらいならと思ったまでです。」
「あ、ありがとうございます!!お土産沢山持って帰ります!!!」
「土産話もですよ。」
はいと言って笑いお辞儀をして走って帰る。
廊下は走らないと叱るが、彼女ははぁいと言って空を飛び姿を消した。
「甘いこともあるもんだねー。」
「…放っておいてください。」
「嫌だね」
こんな面白いところ、そういったのは
窓際に顔を出してきていたリキールだった。
振り返り、リキールの方を半分ほど向いたコルン。
「師匠の願いとはいえ、こうも肩入れするとはねぇ?」
「…何か?」
「いいや、君も面白いことをするもんだとね。」
「荷が重い話です。」
「へぇ、君が弱音を吐くとは。」
まぁそれもそうか。
「彼女の力は確かに凄まじい。
悪い方向に向かないだけ、
本当に奇跡だと思っていいくらいだ。」
「優しすぎるところがまた難点ですがね。」
「っくく、お師匠に怒鳴られるからしごいてやってるんだろ?」
こっちは別にいいとリキールが話す。
「破壊する星もかなり少なくなった。
どうせ破壊対象なのかの勉強も含めて旅をさせてくるつもりだろう?」
「…分かっておられたら、尚更放っておいてくれませんか?」
「っくくく、だから嫌だと言ってるだろ。」
こんな面白いことを、放置している破壊神が居ると思う?
そうしっぽを振るリキールに、いいえとコルンは答えた。
「心配しなくとも帰ってくるさ。」
「心配などしているわけが…」
「あるね、妹が帰ってくるか心配そうな顔してる。」
大丈夫と言い切るリキールに、はぁとコルンはため息を吐いた。
確かに、正直この星でずっと修行だけをしていればいいと何度か思った。
だが、メルと一緒に旅をしている姿をみて、
その時間がずっと続けばいいと思ったのも事実だった。
「多くの時間を犠牲にして、こうして生きておられるのです。」
「…」
「神ともあろう者が、人間など下界の者に成り下がるなど…」
「それを変えようと思ったのが、華神と加護天使なのかもねぇ。」
そういったのはリキールの隣からひょっこり顔を出したフェルだった。
「神ですら無いものでも、神以上の力を持った時、
この世界がどうなるかを見届けたかったんじゃない?」
「ルメリア様達がということか?」
「まぁ、そうだけど一番は都佑ちゃんでしょう。」
「何故あの人間が?」
「ふふ、人間だからこそわかる感情。」
貴方には五億年早いわと言ってフェルは姿を消した。
彼女もまた、今日から休みに入るらしい。
久しぶりの静かな環境に、少しソワソワするのはリキールだけではなかった。