違和の怪物なら背中に飼ってる




つきました。
そういったカミカゼに、や、やっと降りたとアルトがひぃひぃいう。
それと同じく、人酔いしたのはなにもアルトだけではない。

「さ、流石に堪えますね……」
『二人とも軟弱』
「「貴方とは訳が違うの/んですよ!!」」

メルの言葉に叫ぶ二人。
此処は白樺ヶ岡しらかばおか駅だ。
少しなだらかな坂を下りつつ、交通の少ない場所に救いを感じた。

「いやもうなんなんですかあの人間の多さは!」
「ひとひとひとひとひとひとひと」
「アルトさんを見てください。明らか壊れてます。」
『大丈夫、元から。』
「だからと言って無茶ですよ!?!?」

えっまさかと青ざめるカミカゼにいやとメルは説明する。

『流石にすぐ慣れろとは言わん。』
「でもあれ程の量に耐えれる程の忍耐力を得ろと。」
『多少はね。それに向こうの金銭が持っていけないからね。』
「加えて野宿ですか鬼ですね。」
『ま、そこら辺もなんとかなる。』
「いやいや、ならないでしょうが。」

馬鹿なのかいや馬鹿だった。
そういいながら歩く三人。
目の前は、綺麗な桜並木が広がっていた。

「それにしても綺麗だね」
「ええ」
『桜ってさ、栄養がある場所ほどきれいに咲くってしってた?』
「それは花ならなんでもそうでは?」
『死体が埋まっていると綺麗にさくって』
「…メルさん???」

ニコリと笑うメルに、
茶化しではなく割とガチの迷信を言うところ、
本当に肝が据わってきたと思う。

「にしてもこっちで合ってるの?」
『うん、お、此処にも咲いてるんだ。』

へぇと思いながらメルはそっとしゃがんで花を触る。
なんだろうと思ってアルトが見る。それにうわぁと笑う。

「可愛いね!」
『…うん、可愛い。』
「お花ですか、知ってるんですか?」
『…いいや、知らない。』
「またまたぁ嘘を」
『ほんとうに』

ピンク色の花を見て、目を細めた。
記憶を掘り起こしても、そこだけは黒いクレヨンで塗りつぶされる。
音も思い出せず、ノイズ音で頭が煩くなるだけだ。

この花は確かに覚えている。
なのに、どうしてか思い出せないのだ。
おかしいんだよなぁ。

『他の花は詳しく説明できるのに』
「…でも、これ花にしては引き抜きやすいね」
「……あると!??!?!!?」

何引っこ抜くんですか!いやお土産。
そんな野花を引き抜かないでください!
そう叫ぶカミカゼに、ええとアルトが
萎えたような中途半端に気の抜ける音を伸ばす。

「だってお花はお花だよ。喜ぶって」
「いいえ、喜ぶわけないでしょう、第一相手は神ですよ!?
そんな小さな花を渡して喜ぶわけ。」
『…そうだよ、』
「メル?」
『喜ぶわけない』

喜んで貰っては、困る。

そう花をそっと触って目を閉じる。
それに、アルトはそっとメルに近づき、身体を預けて目を閉じた。
大丈夫と、言いたそうに傍に居続けるそれに、仕方がないとため息を吐き
カミカゼも反対からメルの肩に触れて目を閉じる。

その場に現れたのは、綺麗な部屋の中だ。
誰かが誰かに対して、ピンク色の花を渡している。
それを、

「(あっ)」

ぺしゃりと落として、何かを言っている。
言っている音が分からなくて、
指を指されているのも分からない。

小さな子が何かを言う、でも、
指を指したものが手を横に振って
部屋の奥に入っていく。

バタンと扉の音がして、黒い景色に戻る。
メルの記憶が、終わったようだ。

そっと目を開ける彼女はニコリと寂しそうに微笑んだ。
一体どこの、とは言えない。言ってはいけないのだろう。

だが、それは確かにメルも感じ取った感情だ。
酷く胸が痛んだろう、酷く殺意に満ち溢れただろう。
小さな子供が、否定されて離れるなんて時間は苦しすぎる。

何度、彼女はその時間を繰り返したのか。
カミカゼは、知らない。

『いこう』
「ええ」
「そうだね」

彼女は、悲しみそれに寄り添った。
友人が、寂しそうに泣く傍で、怒りを押し殺して。
悪くない子を、悪くないと言い聞かせて。

華に願いを祈りを捧げた者達の最期は酷いものだ。
だが、それ以上に、彼女たちは花に思い入れがある。
メルも…いや、一度目は願ったのだろう。

花に、華に、いや、花ですらない草すらにも。
絶対にないはずなのに、祈ってしまった。
どうか、こうなってほしいと。

叶わない願いを、何度も。

「(報われる、なんてありえないのかもしれない)」

でも、それだとしても、今だけは、今だけでも
幸せにどうか笑って過ごせられる時間が続ければいい。
どうか、それが続くものだと思いたい。
いや、そうではないといけないのだ。

三つ葉の葉が夕暮れが近いのかしらないが、
ちらほらと折りたたまれている。
そのピンク色から白の小さな花が、
細い菊の上に房状に咲いている。

花は大体色の名前が付きやすい。
いや、花の色に、色の名前が付きやすいと言うべきか。
菫色という名前があるのがいい例だ。

菫という花がある。
その色が余りにも綺麗だったからか、
いつしか菫色という色の名前がついていた。

そういえば、菫はヴァイオレットという言葉があった。
どこかでヴァイオレットの話を聞いたことがあったのだが、
一体何処だったか、カミカゼは忘れた。


+++++++++++++

『ついたね』
「わあああ」
「綺麗ですね」

辿り着いたのは、夕暮れに見える花畑だった。
白樺の林を潜り抜けた先に、綺麗な花畑が咲き誇っていたのだ。
この環境下では、白樺は生えないはずなので、
恐らくどこかからの友好の証として、
植林として植えられたのだろう。

何処かにそんな標識があった気がする。

「そういえば、夕方に見える金星はなんというのですか?」
「金星?」
「星の名前ですよ。朝は明けの明星と仰っていましたが、暗がりの明星ですか?」
『いいや、宵の明星っていうよ。』

空は沢山の名前がついている。春はあけぼのいやそれは違うが。
兎に角いろんな名前がついている。明朝とか?いやそれも違う。
そう思いながら、嗚呼そういえばと言う。

『黄昏時とかあったなぁ懐かし』
「たそがれどき?」
『夕方の薄暗くなる時間帯のことを昔の人は言ったんだよ。』

諸説あるが、黄昏時は黄色が太陽を表し、
昏が位を意味する言葉ではある。
それを単純に「おうこん」とか「きこん」と読まないのは
誰彼時と表記するとかなんとかで。

『其処にいる彼は誰だろう。良くわからないと言った薄暗い夕暮れの事象をそのまま言葉にしたことだとかなんとかっていう意味。』
「へぇ〜わからん」
『薄暗くなるから、黄昏時になれば帰れって言われる。』
「どうして?」
『いい子にしていないとね、悪い悪魔に連れてかれちゃうからって。』

にやりと笑って言うメルに、アルトは少し寒気を覚える。
それは風が冷たかったからだと、言いたい。

『私達もホテルに帰ろう。』
「そうですね、荷物も整理しないと。」
『明日は軽くお土産コーナー巡り行って、次の朝で帰るよ。』
「わかりました。」

正確には四泊五日であるのだが、少々早めに切り上げよう。
そうと決まればメルは準備が早い。すたすたと踵を返して歩き出す。

「ねぇカミカゼ」
「なんです?」
「悪い子になったら、どうなるのかなぁ」
「…それは、」
「連れてかれて、悪魔になったら、どうな」

そう言い切る前に、ダメですよとカミカゼは言う。
数日前に聞いていた話を思い起こす。


ーえ?魔女と、悪魔、ですか。

ーええ、前にメル様は危険な状況下におりましてね。

ーそれが今回の旅でなると?

ーいや、どっちかといえば天使見習いのほうだ。

ーアルトですか?いやそうは見えませんが…

ーメルさんと非常によく似ていらっしゃいます。


あやふやな時間には、気を付けて下さい。
そういったウイスの忠告通りになった。
ダメだよと言ってカミカゼは言う。

だれが悪魔になど、堕としてやるものか。
彼女は天使で、今後悪魔になるなんてありえない。
そんな枠はあったとしても、僕が破壊してしまう。

この子は誰よりも笑って宇宙を僕と共に駆け巡ってくれる
心優しい天使であるべき存在なのだから。


「み、かぜ?」
「帰りましょう」


帰りはすぐそこ。
ねぇ、そうでしょう?



僕の華神様。

+++++++++++++



『あ〜にしても時間過ぎるの早いよね。』
「あっという間に旅も終わりましたね。」
「後半マジで速かった。」

そういう三人は帰りの支度をしていた。
くまから何から本当に土産が多いのが笑う。
あとこれの金銭全部稼いできたというのも笑う。


普通にアルトが金銀財宝
ざっくざっく出してきたから止めたのだ。


確かに天使の力はとても魅力的だが、
それだと壊滅思考回路を生み出す。

少なくとも、最終的に行く場所は
金銭の感覚が非常に大事になる。

スリは間違いなく会わないし、
なんならあってもひねりつぶせる力を
三人ともとれるようにしごかれているからいいとして。

いや逆に囚われたりなんなりするって、
逆にどうなんだって話だ。

もう神様から降りたほうがいい。
そんな階段降りるみたいに
さらっと言わんでほしいかもしれないが。

「特にこのくまさん!かわいいねぇ」
「なんか部屋の圧迫感を感じさせる奴もいますけどね。」
『縮小とかかけたいと思わないの意外だな。』

なんかやれっていいそうなのに。
邪魔じゃない?そういったメルに、言うわけないでしょと答える。

「あのアルトが一生懸命頑張って取ってきたんですよ?
それを無碍になど出来るわけがないでしょうよ。」
「……」
『わぁ、天然キラー登場』
「何がですか…妙に訳の分からないことを言わないでもらいたい。」

困惑する彼に、メルはなんでもと答える。
衣服やらジッパーの音が妙に響く。
服は確かに要らないし、なんなら着替えられる。
でも、こういうのを気にして選んで買うというのは気分が変わるものだ。

二人の顔も、最初会った時よりかなり良くなったと思う。
課題は確かに山積みではあるものの、良い気分転換だろう。

「今度はコルン様から頂いた星にもいこうね」
『…そうだね』

そういってメルはおやすみと声を掛けた。
明日は家に帰る予定だ。

そう、家に。






『かえりたくないなあ』

メルはこっそり抜け出して空を見上げて言う。
此処は月も星空もほぼ似ている。
本当に、空を飛べないのではと思えるほどに。

そんなことはないし、なんならウイスさんが出てきた時点でこれは現実なのだ。

でも、それでも、どうしても思い出してしまう。
彼女との時間が、どの時間を過ごしても一番だと。

『そりゃあ元が人間だった神様と、
純粋な彼女の感情を拾ったんだから、
しゃーないちゃしゃーないけれども。』

認めたくはないが、認めざるを得ないと言ったところだ。

『まるで常世の空間だなぁ。』

何処かで見たことがある。
この世界は神様の存在があると。
現世と常世、つまり現在の場所と、
幽霊が居る世界があり、死後の世界があるのだと。

まぁこの世界は勿論蓋を開ければそうなのだが、
向こう側の世界ではよくではないものの、
ちょっと小説を知ろうとして検索して
かじればまぁ出てきた話ではある。

空間や時間のような部分は、
神域に繋がる境界線的なものだと考えていた。

自然の山河や森がよく迷い込めば
開けた場所に出てなんちゃらという
都市伝説やら神隠しやらの話が出る。

そのがらりと風景が変わるような場所こそが
神のいる場所で、そこにいざなわれているだけだと。
だから神隠しは、誘われてついていったにすぎないのだと。

そんな話をどこかーでかじったが。

『間違ってないよなぁ』

誘われてついていったは正しい。
都佑の状態をみて、どう考えてもそうだろう。
彼女は沢山考えて、こっち側を了承した。

両親に愛されていないと思ってはいないだろう。
それならばあんな願いなど考えることもない。
愛されていた時間があったからこそ、
もう一度、もう一度と願いに縋る。

神の場所は永遠で、時の無い世界があると言う話もある。
時がないということは昼と夜の二つしかないから、
一つは黄泉の国、所謂地獄のような場所で、荒ぶる神が住まうとか。

まぁ、間違っていないどころか、本当に地獄はあるし、天国もある。
そしてその魂は決められた場所に、記憶を消し去り新しい場所におくられる。
そうして輪廻転生はある。

まぁ、あるとしてもたまぁに閻魔大王がミスをして、
記憶を引き継いで生まれ直す奴がいるくらいだ。

その中に、私達華神達は入らない。
その理を外された者達の総称を彼らは知らない。


『…わざわいを持つ神を忘れた者達。』

超過したもの、と言う意味での、華神ということを、彼らは知らない。
これは、ルメリアが生前というか、生きてはいるが
彼女が力を振るっていた時期の記憶だ。

彼女がつけた力はあまりにも膨大で、
最初の華神達は耐えきれずどんどんと死んでいったらしい。
だが、途中で生き残った子供が居たそうだ。

その子は何もないのに、そこに居続けられる。
ナニかを越えた、いや逸脱したとも感じられるもの。
その意味で、耐えれた者達を、理を外されたこともあり、
ルメリアは普通をせめてと、別世界に送り込んだ。

全ては、夢であったんだと、言い聞かせるように。
そうして、何度も繰り返されるように作り出されたものに過ぎない。

それが、私というそんざい。

ひと時だけの、儚い存在なのだ。

それが、永遠と生き続けるなど、名前負けというか色々おかしい気がする。

『ま、名前も変わるし、華神も変わるが。』

もし、もしも、赤本が酷い話を組み込まれていたら。
いや、考えても無駄な行為だとは思う。
嗚呼でも、本当にあれば、恐ろしいことだと思う。

正直最後の方は少なかった。
だから安心していたのに、それは書き記した人がいたからで。
もしそれが、書き記せば記すほど、長くなれば?

なんなら、二つ目とか出てたらいや考えたくない。
増えるなんてそんな困るわ。
普通にやめてほしい…というか、

『いやまて…普通に、なんで人間なんだ?それも肌系の人間。』

嫌な予感がする。あれ、確か、神話であったよな。
人間が神様になるお話。
いやでもあれは人間が神様の名前を付けちゃって
それに神様が怒ったからどうのこうのだ。

花か?いやでも花の関係は確かそんな人は関係ない。
なんだ、なんでこんな胸騒ぎがする。

『なんなら、ルメリア様って確か変な話ルトラールのところに嫁いだ感じだよな?』

全王様に気に入られ、死んだルメリアの魂をなおも使い続け、
それにすり減り消えかけていくのを怒った全王様が元に戻せという話から来ている。

ルメリアの魂が回復するには途方もない時間がかかり、
もしそれが出来れば戻ってくると約束を交わしたのだと。

なら、その時から人間が生きていたということだ。
そりゃあまぁ全王様も世代交代くらいするとはおも…まて?

『華神は、何時から作られた?』

いやいやいやいやいやいや、気にしないほうがいい。
やでも、これ真実なのはわかる。わかるが、

『一度整理しよう。
全王様いた、大神官様とルトを作り出した。
ルトはルメリアと結婚した。ここまではおけ。』

そうそのはず。

『でも、ルメリアを蘇生させるために、12の魂が必要か…?
確かルメリアは元々人間だよな、
というかルメリアってどこかで聞いたことがあるが、
嗚呼向こうにいかんと分からんなこればっかは。』

如何せんウイスなりコルンなり名前の意味がちゃんとあるのが恐ろしい。
彼らのカクテル用語も、向こうに行けば内容だってわかる。
其処にヒントが隠されていると言っても過言ではないだろう。

『しかもなんで12なんだ…いや、そもそも、12ではないとしたら?』

この時間、人間の時間は一日が24時間だ。
昼と夜を足してのだから、片方だけで12。
つまり、片側の時間だけを一つとして、12?

ならばあとの12は?その二つが一つになるとは、それ即ち、
一日が完成するということで、それこそが、完成?

『(まさか今は人間だったというのか?)』

そうしてキープされ続けた時間を、本当に完成させるために、
人間達の魂を使ってまでして、彼女を神の地位に上げるとでも。

いやいや、そんな考えはない。
いやだが、願いの力は異常極まりない。

仮に人間だとしても、あの神々の場所に長期間入れるなど難しいだろう。
ルトラールが認めて、天使を、華神を作り出している時点で、
恐らくルメリアも神様と位置付けて全く問題ないはずだ。

ではなぜ、こうして戻ってきて、役を交代する必要性がある?
今の神々が、ぬるいとでもいうのだろうか?

それとも。


『…知ったところで、どうするんだろ。』

それもそうなのだ、
自分が立ち向かうにしてはあまりにも高すぎる。
一人では間違いなく無謀も無謀。
なんなら知れば消されるのは待ったなしだろう。

此処は事を慎重に、穏便に済ませるのが得策だろう。

メルはため息を吐いてどうしようかなあと月を見た。

『貴方に会えたら、私はどうなっちゃうかなぁ。』

きっと泣いちゃうだろうな。
そう思いながらメルは目を閉じる。


其処に人が居るとしらずに。