戻れないなら停めてしまおう
「さて、髪はとかしましたね。次ですが…」
『自分以外のハグとしましょうという訳でサワア様!!』
「はいどうぞ」
『わああああああ!!!!』
そう言って飛び込んでくるメルに、サワアが自ら両手を開く。
それに伴いメルは声を荒げてベットからサワアに飛び移ったのだ。
はしたないと怒るコルンだが、
いいではないですかとサワアは答え、
メルの背中をトントンと叩く。
「元気が何よりですし。」
『そういや案外大きいですねぇ、サワア様。
身長といい、こうハグでわかりますが、
後ろで手が繋げないんですが。』
「そうです?性別が違うから、ですかねぇ?
私は普通に自分の手なんて取れますよ?」
『お兄さんが大きいからつってるでしょうが…!!!』
「っくくくく」
私より皆大きいのほんともう!
そう怒るメルに、では小さくあればいいです?
と聞いたサワアだったが、どうやらそういう訳でもないらしい。
「では、コルンさんメル様を」
『んにゃ』
「…分かりました」
ハグしていたのを少し放し、メルはコルンの方を見る。
軽く両手を広げたコルンに、メルはベットの方を見てごそごそする。
何をしているかとコルンとサワアはメルをみていた。
どうも自分の位置が気になるらしく、間違えて踏まないように
何処にサワア達が座っているのかみていたようだ。
『ん』
「…メル様、もう少しお食べになった方がよろしいかと。」
『嗚呼!はっきりいう!!!酷い!!!』
「っくく、ですがコルンの言う通りですよ?
細すぎて折れてしまいそうで怖いのですから。」
ヘレス様でも流石にそこまで細くても力があります。
そう言ったサワアに、うう目標ヘレスさまぁと
泣き声を出すメルに今度こそ声を出してサワアは笑った。
「なんでしたらアルトよりも細いではないですか。」
『…ん?』
「なんです?」
『アルトと抱き着いたことがあると????』
「っ!!!あっいえ、それはですね」
『ねぇいつだい?いつだいた?ねぇどういったけいい???』
「メル様、問い詰めるのはよろしいですが、殺意が剥き出しです。」
失礼と顔を戻すメルに、コルンも少し息をなでおろす。
『でもまぁ確かにアルトよりもちょっと肉付き薄いかもなぁ。
一応食べてはいるんだけれどもね。』
「いっそのことメニューを改善してはいかがです?」
『んん、カロリーとかあまり考えたくなかったけど、
それこそアルトにも相談しようかなぁ。今度第8伺っても?』
「構いませんよ、アルトも喜ぶかと。」
やったあと笑うメルは、今度こそコルンから離れる。
じゃあと右手と左手が中央を通って交差する。
『はいどうぞ』
「…まぁ、余り見世物でもないのですが」
「仕方がないですね、はい。」
そうぽんぽんと二人して軽くハグをする。
二人とも思ったことだが、こうして抱きしめると
やはりメルの細さは異常だと感じるもので。
「もしこの世界から出たら、メニューを決めるお手伝いをしても?」
『え、いいんです??』
「ええ、いずれにせよ、第二にも遊びに来られるのでは?」
『そりゃあそうですけど。』
「我々天使は破壊神の付き人ですよ?お食事のメニューなど朝飯前です。」
そう言われて断ることもない。
メルは分かったと言って約束を交わした。
「では問題の、ですね。」
「ええ」
『半径50p以内でってこれくらいの距離ですかね。』
昔テレビで距離の話が話題になったことがある。
恋人の距離感や他人の距離感でも、物理的なものだ。
大体ペットボトルの高さが25pなので、縦二本分くらい。
それよりもというものだから、結構近いものだ。
『うう、お二人ともの位置だと
私めっちゃ小さく感じるの気のせいです??』
「至って正常です。といいますか、
メル様我々天使が寝ないのはご存じですか?」
『いや、知ってはいますが…
えっ待って本当にガチのやつ???』
「ええガチです。ですから寝て下さい。」
そう起き上がったメルに、そっと手をこまねくサワア
嗚呼すいませんと言って、メルはコルンとサワアの間に戻る。
頭の位置が少し下になっていて気になったが、
メル曰くこれくらいがちょうどいいとのこと。
『あ〜そうか、寝る行為は本来人間達知的生命体のもの。』
「ええ、天使と言えど、休息は取ります。
それは昼夜を問わない。
それは人間も同じことはわかりますよね?」
『勿論、というかそもそも
なんで人って寝るんですかねぇ。』
「貴方がそれを言います?」
「まぁ、本来眠っている間は完全に非生産的。
食料を調達することは愚か、
自身の身を守ることさえ出来ない
無防備な形をとっていますからね。」
それこそ天使達が疑問を持つものだというのに、
普通に寝ている彼女がいうものではとコルンは思ったのだ。
『単純に脳を休めたり、肉体的な疲労を改善させるために
とは聞いていますが、天使がそれ程疲弊するようなことしませんし。』
「ましてや我々天使は人間のような生命体ではないですからね。
食事をとることも必要としませんし、寝ることだって必要としない。」
「なので、寝たことがないのです。」
『ねたことがない??』
「ええ、なので、寝るという原理を是非ともご教授お願いしたく。」
そう言ったので、またメルが起き上がった。
寝ることを?待って?えまって???寝る?ええ?
と首を傾げながら腕を組んで困っていた。
寝るに寝れないので、またサワアがそっとメルを横にする。
ねる、ねるかぁと悩み天井をみて言うメル。
『人それぞれなんだよね、寝る行為。』
「というと?」
『こう意識を手放すというかですね』
「…それは失神しているのでは?」
『いや、気を失う状態が続くに似てる
ってどこかで聞いたことがあるんですよ。
それを続けてたらいけますかね。』
「では互いに痛めつけて
気絶させればいいですかね?」
『それを私が許すとでも?』
「ふふ、冗談ですよ。」
そうメルがコルンの方を向かず、くるりとサワアの方に向いた。
コルンからはメルの表情が見て取れないが、
サワアの笑い方を見るに、結構真面目に怒っているようだ。
『全く、夢も見れないのは
ある意味可哀想かもねぇ、天使って。』
「そういえば夢を見るのは寝れていないと
前にヘレス様が仰っていました。」
『その通りですよ、
確かノンレム睡眠だったかなんだったか。
眠りが浅いとその分夢を見るんです。
一説によると、脳が記憶を整理しているからとかなんとか。』
まぁ間違った情報だったりもするから、とメルは付け足して言う。
「メル様は最近夢を見たりはしないのですか?」
『んん、そういえばしませんね。
確かに前は夢見てたんですがねぇ〜。』
一体何時からだか。
『あんまりにも膨大過ぎて、記憶を整理しても
私が夢と判断してないかもですね。』
「まぁ、夢の様な現実味の無い感覚を感じたら
自身が寝ていると思っていいと?」
『現実味がないのが夢ですから。
ええ、それでいいです。
とりあえず目を閉じないと寝れませんので、
お二人とも目を閉じてください。』
あと私今から滅茶苦茶動くんですが、気にしないで。
そう言ったメルに、何をしているんです、とコルンが聞く。
『いえ、自分の寝れそうな位置をですね。』
「そんな位置があるんですか。」
『ううん、寝れない間違いなく寝れない。』
「いつもはどんな体制で寝ています?」
『こうくるまって寝てるんです。
こうすると間違いなく膝がコルン様の方にいくし、
足はサワア様の方にいくので、滅茶苦茶申し訳ない。』
なんなら上にかけていた毛布を
軽く抱きかかえて寝るのだ。
風邪をひきますよと言うコルンに、私も同意した。
『だからなるべく部屋を暖かくしたり、服を着るんです。
まぁと言っても本当に寝るならこの姿ですが。』
「ちょ、何脱いでるんですか!!!!」
『だから寝る準備』
「まさか裸で寝てます???」
『いいえだからこっちみないで。』
「あっはい」
そう起き上がって指を鳴らしたメルが外れる。
どうやら本格的に寝るために寝間着に着替えるらしい。
そういえば寝ている姿を正直見ていなかった二人だが、
一体どうと思っていると、なっとコルンが飛び起きて言う。
「メル様!?!??!ここを何処だとおおもいで?!?!」
『いやだからベットの上、寝る直前。』
「いや確かにそうですが。それ以前に…
いや、我々は天使ですが、あのですね。」
「コルン、何を言っても彼女には無駄ですよ。」
「いやですが」
「それにしても可愛らしい服ですね、
メル様のお気に入りですか?」
そう着替えてきたメルの衣装はというと、
コルン達の服装からすれば
もう肌が露出に露出しまくっていたのだ。
胸元で大きなリボンを作ったワンピース型の寝間着、
ネグリジェというべきか、
それにしてはレースがほぼない。
背中は大きくえぐれており、
ちょっと胸を下げたら
すぐに裸になりかねなかった。
『ええ、白くて可愛くて。』
「だとしても丈が短すぎやしませんか!下は!!!」
『履いてないですよ?ほら』
「〜〜〜」
「メル様、そうめくるものではないですよ。」
『だって履いてるかどうかって』
パンツは見せてない。だとしてもです。
めくる行為がいけないと
サワアに言われてメルはむぅと言う。
本気で指導した方がいいのでは、
とコルンは思っていたくらいだ。
「信用していただくのは構いませんが、
そう無防備にされては困るんですよ。」
『そんな無防備です?』
「ええそりゃあもう」
「寧ろこれで無防備ではないと
何故言い切れるのか些か問題ですが。」
「まぁ、丈が短いのは頷けますね。」
太ももが半分隠れる程の短さは、
ちょっとかがめば中が見えそうだ。
下着をつけているとはいえど、
それでも薄すぎるその衣装。
『ほんとは髪の毛こうやって結んでます。』
「…たまにフェル様達がその姿で朝食にこられたりしますが、
ひょっとして教えて貰いました?それとも教えました?」
『女の子は毛量があるとそのまま寝るなんて寝苦しいんです。
なので髪の毛をある程度纏めて寝たりすることがあります。』
たまたまアンダルシアやメルは
両方で三つ編みにして寝ているだけで、
それをみたアルトやフェルがまねているだけだろう。
そもそもフェルに入っていた時、
メルは寝るなんてしなくてよかった為
フェルにはそうやってさせるようにも指示した覚えもないし、
まぁ仮に出来たとしても、ただの流れで
楽な状態が三つ編みだっただけであろう。
『なのでこうして寝ることもあるんです。』
「櫛でといたので、尚更綺麗にみえますね。」
『本当はもっと雑にしないと寝れないのですいません。』
「ああ、折角といたのに……」
そうメルが頭をかきむしり、
ある程度ぼさぼさにする。
折角の髪の毛が台無しだというコルンだが、
メルはそうしないと落ち着かなくて
寝れないのだから仕方がないのだ。
軽くぼさぼさにしたあと、
左からさささと三つ編みを適当に編んでいく。
「左右違いますよ?」
『分かってます。それも含めて調整をしてるんです。』
右が違えば左、左が違えば右と、手で持って重さをはかる。
気に食わなければ返る。そうしてできたあ、と言った時には
先程綺麗にした髪の毛は面影すらなかった。
『大丈夫です、目覚めたらもっとぼさぼさになります!』
「いえそこではなくてですね…」
「今度こそ寝ますか?」
『はぁい』
そう言ってメルはサワアの方を向いて一度横になり、天井を向いた。
息を吸って吐いていると、そっとサワアから毛布をかぶせて貰えた。
『…もしかしてこれ出来る?』
「どうされました?」
『あでた』
メルは首を傾げて指を鳴らし取り出したのは一種のタオルケットだった。
少しくたびれているようにも見えるその白いタオルを少し大きくする。
コルンの方に置いて抱き着くように身体に引き寄せる。
『んん〜〜〜〜〜』
「何をしているんです?」
『昔寝てた時の体制、いや〜〜左側を向いて寝てたから
多分これのこうでこうだと思うんだけど、どうだったかなぁ。』
「そんな癖があるんですか。」
『寝るってことはその状態を維持するに等しいもの。
変に寝ると寝違えて痛い思いするんですよ。』
寝るプロからお伝えしますよと指を立てて真面目にいう彼女に
そんな大事かとコルンは半信半疑で聞く。
『まぁその前にあまり体制よくないと
寝れなかったりしますが』
「寝れないとどうしてます?」
『私の場合は寝る前に身体を温めたりします。
極稀にお腹が空いて寝れないことがあるので
そういう時はもう最終手段として食べて寝ますが。』
それは仕方がないのだ。寝れないのだから。
寝れるとならばなんだってやるものだ。
『あとは疲れさせたりしますね。
運動したりとかあとは…まぁはい。』
「なんです?そう押し込んで、はっきり言えばいいでしょう。」
『あっいやそのですね。』
そう右を見ては人が居て目をそらし、
左を見ては人がいるので目を逸らすメル。
此処に来て、心の中を見られていないのは非常に嬉しいことではある。
人間の生理現象には勝てないので、どうしようもない時は本当に奥の手があるのだが、
『お二人には到底考えなくていいことですよ。』
「そうです?それならいいですが。」
流石にそれをさせると色々問題なのだ。
万が一にもそれにはまったらこっちが困る。
毎日それをしないと寝れないなら不眠症まっしぐらだ。
言わぬが吉。
メルはぐっとこらえて話を逸らす
『目を閉じて、私は意識を落とすようにしてます。
こうまるで、後ろから落ちるように。』
「寝ていて後ろにおちることもないのにですか?」
『その感覚が一番寝る時に楽なんです。
まぁあくまでも私のやり方。
基本は目を閉じていれば気付けば寝ています。』
それが出来ないのが、天使なのだ。
なので例えばで話を出して、合えばいいと思っている。
『本来であれば手や足を温めれば眠くなりますが
天使が天使なので。血液が生命体がというわけでもない。』
「なので例えとして出してくれているんですよね?」
『ええ、まぁ私声を掛けて気付かねば寝たと思って下さい。』
まず私が多分寝ないと二人は寝れないだろうし。
そう、メルはこんな至近距離で落ち着かないのだ。
普段一人で寝ているというのもある。
まぁ二人ならまだ許せるのだ。
片方を見ないで寝れば別に一人で寝ていると思い込めるから。
だが、この至近距離で、この圧迫感となれば話が別だ。
意識して仕方がないとはありゃしない。
兎に角目を閉じて落ち着かせるしか術がないのだ。
一応寝れるように、はした。そう、
『(そういえば、目を閉じれば何時だってあの日を思い出してたな)』
何時しかの時間
夢にすら出てこないあの二人との時間
向こう側に行くように、意識を手放していた日
非日常的な日常を、繰り返していた時間
『(手放す様に寝たくなくなったのは、向こう側に行けるからだったなぁ)』
最近寝る時は、ゆっくりと落ちるように寝ている。
手放し、何かを掴むように寝ていたのだが、
それをすると別世界に飛ばされそうで最近は怖くてしていない。
何時もそうして寝ていたので、
寝方を変えて最近は寝つきが
更に拍車をかけて悪くなっているのだから。
こまったものではあるのだ。
『(皆寝たかな)』
そうちらりと後ろで寝ているコルンを見てはサワアの方を見て息を少し吐いた。
無言が何よりも痛いのと、あとは、嗚呼。
『(お母さんとお父さんの間で寝てたからか)』
川の字で、小さなころは寝て暮らしていた時期があった。
あの時は楽しくて、いろんな思い出が今でも思い出せる。
大事な記憶で、大事に抱え込んで生きている。
手を伸ばせば、すぐに頭を撫でて心配してくれる距離。
それが徐々に遠くなって、今はもう、力を使わないと見えない程。
幻想よりも、程遠い空想の居場所でしか、彼らは生きていない。
思い出さなくてもいい、ただ、すやりと眠れていたあの子を思い出す。
嬉しそうに笑っているのを、ただ、眺めながらメルは目をそっと閉じた。
+++++++++++++
「…寝ましたか?」
「ええ、ぐっすりと」
すやすやと寝息を立てるメルに、コルンがこっそりサワアに声を掛けた。
ぽろりと涙を流す彼女の目じりをそっと拭ってやる。
それでも起きることのない彼女のことをみて、息を吐いた。
「ふぅ、我々も寝れるように真似てみるしかないですね。
人間は大体8時間ほど寝るそうですし。」
「タイムリミットは8時間ですか、短いようで長いですね。」
「ええ、寝たことがないというのにアレしか情報ありませんしね。」
「全く、意識を飛ばす感覚も分からないというのに。」
「っくく、ですが此処迄気を許してくれるようになったという意味では、喜ばしいことだと思いますが?」
「…まぁ」
そう言われたらそうだ。
メルが、ましてやあの警戒心の強いメルがだ。
アルトもかなり警戒心が強いが、メルもなかなかだ。
加えてネグリジェと着物を着換えて本気でお題を成功させようとする。
肝の据わった女性だとは思っていたが、此処までとは。
「ですが本当に長かったですね、寝つきに4時間かかりましたよ。」
「ええ、これがいつもであれば、少々寝ている時間に誤差が生じますが。」
「まぁその話は何時かにしましょう。我々も早く寝るとしますか。」
「寝れる感じがしませんがね。」
「っくく、噂によると落ち着くイメージを考えていると寝れると聞きます。」
試します?するしかないでしょう。
そう言ったコルンに、サワアはおやすみなさいと答える。
それにコルンもおやすみなさいと答え、今度こそ静かになった。
「(せめて貴方が寝ている時間、何も悪いことがないように)」
我々もここで寝ますね。
無防備に、貴方と共に。
その身体を停止するように。
サワアは目をそっと閉じたのだった