累月が来るたび霞みますように
そうして、アルトはカミカゼと一緒に話を咲かせる。
「いやにしても、お前凄い勉強したな??」
「だから言ったじゃん。」
そういわれて確かに、嬉しくなる、そう、なるはずだった。
どうした?と聞かれていやね、とアルトがいうのだ。
「なんか、嬉しくないの」
「…どうして?」
「分からない、でもなんか、
満たされないってこういうのかな。」
落ち込むアルトに、
嗚呼少しわかるとカミカゼも思って言う。
「褒められるの想像したら猶更なる。」
「そうなの?」
「急にそこで期待して、現実違うと満たされなくなるんだろ。」
「そっか」
「…お前は充分努力してるさ。
じゃないとお前の師匠も此処に渡すつもりないはずだろ?」
そうかな、そうだよ。
「正直此処まで急成長しているとは思わなかったから、
驚いて声でねぇもん。」
「でてるのに?」
「……適当に言うくらいの、ってことだよ。」
それくらい、頭の容量持ってかれたということだ。
「アルト、自信もっていい。
なんなら今後の楽しみが増えた。」
「え?」
「僕の天使に、君は相応しいと思うよ。」
勿論、あの子も、対としてね。
そう笑うカミカゼに
アルトは目を輝かせた後、うんと頷く。
「ならあと二か月で大学卒業くらいは行こうか♡」
「んん、むぅり♡」
「だぁめ、はよやれ♡」
「やぁら♡」
嬉しそうに笑って言うが、
二人とも殺意が高めである。
「はあああああわあああ、
もう無理やだおべんきょきいいらあああいい」
「お前が言い出したんだろうが」
「でも先が長くて萎えた」
「萎えんないいからやれ」
いだいよおおおそう泣くアルトに、
はぁとカミカゼはため息を吐く。
「成長は間違いなくしてるし、メルも驚くだろ。」
「ほんと?」
「嗚呼」
それだと、いいなぁと微笑むアルトに、カミカゼは笑う。
「お二人ともお時間よろしいですか?」
「どうぞ?」
「すみません、お二人きりにしようとは思っていたのですが」
アルトがくるなど、
恐らくなかなかないと判断したウイスが
興味本位で入ってきたのだ。
あのすぃーつ美味しかったんです〜という話まで盛り上がる。
「あ、私が作ったんですよ」
「え」
「おや、アルトさんがですか?」
「はい。フェル様と一緒に
お菓子焼いたりしてます。
味見はコルン様に。」
「…ほぉ、それはそれは、大層」
「たまに失敗して顔青ざめてますけど。」
顔が青いのに更に青くなるとはこれ如何に。
「おまえ、師匠を殺す気だろ。」
「…どういうことです?」
「メルから調理場禁止命令出されてる。
旅の途中で料理してゲテモノ作ってな。」
成長したもんと言うアルトに、
聞くと、前は1回に1回は顔を青ざめていたらしい。
なんなら見た時から青ざめていたとか。
いやそれもうだめでしょ。
「でも最近は減ったんだよ?」
「へぇ、まぁそりゃウイス様が美味いって言うからなぁ。」
「ええ、と〜っても美味でしたので、こうしてお礼をと。」
「よかったぁ、コルン様に作り置きで何かいいかと相談して
前に作ったお菓子をって渡してくれたんです。」
ほっとしたように笑うアルトに、
そうでしたかとウイスが微笑む。
「ま、これを見たら猶更メルも驚くだろうな。」
「むっ、私だって出来ない子供でとどまらないんだからね。」
目指せぱーふぇくと!
そうキラキラと目を輝かせるアルトに、
カミカゼは紅茶を飲みながらぼそりとつぶやく
「…ならなくていいよ、
そんなひどいものになんて。」
「え?なんか言った?」
「いいや、お前ブスって言った。」
「んだとごら」
「おお?やるか?」
「お二人とも」
おっと失礼。
そう両手を上げる二人に、
本当に仲がよろしくて結構とウイスが言う。
そういえばこうして三人だけで
紅茶を楽しむなどもなかったはずだ。
「アルトさん、出来れば
悟空さん達と遊んで来て
らっしゃっても構いませんか?」
「え?あっ、ああ!そうでしたね!
そいじゃカミカゼまたあとで」
「ああ」
そういってアルトが
ドアを閉めて走って行ったのを察して、
出ていかせましたよね、とカミカゼが聞く。
「なんのことでしょう」
「気付いているくせに」
「いえいえ、なぁ〜〜〜〜んのことだか。
私さ〜〜〜っぱりわかりませんよ?」
まったく、本当に。
「まぁいいです。それでは僕も」
「あまり優しすぎると後が苦しくなりますよ。」
これは警告です。
そういったウイスの目は、
いつもよりも真剣な顔になっていた。
「コルンお兄様は妹に甘いですから、一応念のためと。」
「…彼女を、もう少し下に堕とせと。」
「そういうわけでは」
「あの子は、あのままでいいんです。」
「例え、それが悪魔になる引き金になりかねないとしても?」
そう言ったウイスに、今度はカミカゼが睨み付ける。
おお怖いというウイスの顔は、至って普通。
怖いなんて思ってもいなさそうに紅茶をすする。
「あの子は悪魔なんぞに堕とさせないですよ。」
「そうして、それがそうなると思わないのですか?」
「…」
「彼女に気付かれてもいいんですか?」
圧力という形が感じられるのを、カミカゼは気付いていた。
一応メルやアルトのことを考えて、カミカゼも動いていた。
「ま、今は大丈夫そうですが。」
「…対処はそれなりにしているつもりです。」
「つもり、ねぇ?」
「何です?喧嘩買いますよ?」
「私に一度も勝ててないくせによく言いますね。」
ギロリと睨むカミカゼだったが、
やめたと言って席を外す。
貴方とやって得などないのだから
嫌われちゃいましたか。
と、ウイスが笑うのだった。
+++++++++++++
『…ま、そうなるよな。』
そういうのは、それを見ていたメルだった。
メルもメルで、
大神官からプレゼントをもらい、部屋が増えた。
死ぬほどやめて下さいと謝ったのだが、
もう強制でもらってしまったのだ。
扱い的にはアルトと同じである。
『いい調子』
ーえ?ウイス様にですか?
ーそ、君は今のままでほんの少しだけアルトにお熱で在って欲しい。
ーえっ付き合わないよ?こんな屑と。
ーおいお前ひっぺがすぞ
ーこら。
そう旅の終わりに話を口裏を合わせていた話だ。
ーもし、甘くしていたらコルンは多分いける。でもウイスは無理。
ーその判定なんなんです?
ーウイスは良くも悪くも均等に見る。だから私ウイス絶対に近づきたくない。
ー嗚呼、まさか第七宇宙の時って
ー私は嫌過ぎてミルに全部まかせっきりだった。
マジかよマジです。
そういったメルに、
驚くのはアルトではなく、カミカゼだった。
メルの仕草的に、苦手なんてないと思っていたのだ。
寧ろあるほうが意外なくらいだ。
ーアレ危険視だからね。大神官様に凄いよく似てる。血が濃すぎる。
ーお前大神官様も苦手なんか
ーおういえ
ーで、どうして甘やかすの?
ー警告をくれるはず。悪魔になる要因としては、感情の安定もある。
どういうことか、それはいたって簡単である。
ー一定になると、波が安定するからか。
そう、波が安定すれば、溝が出来た時の差が引き金になる。
ー加えてアルトは気持ちを非常に高ぶらせてて欲しい。
そうやって、一番うれしい気持ちが、空振りするところを見せる。
ーそうすれば、奴はまんまと罠にはまる。
『そうしてはまっちゃったと〜〜
あ〜〜〜ゲームだぁ』
そう笑うのが止まらないメル。
はたから見たら病人である。
『(だが、計画通りで逆に怖いくらいまではある)』
このまま監視されると、
コルンも違和感を感じ、
恐らくアルトに目が行く。
その間に、彼女らの中身をすり替え、
元々そんなつもりではない二人が
更にその監視の目を盗み、計画を練り続ける。
気付いた時には終わっているというところだ。
まぁこれでも半分は超えるくらいなので、
ほぼ成功と言ってもおかしくはない。
まぁ問題は、だ
『(二人とも一応向こうで移動できる動きは可能)』
一人になるような動きは基本させないため、
仮に私がはぐれてもアルトとカミカゼがいればいい。
まぁ変な話、アルトさえ一人にさせなければいいということだ。
元々破壊神のサポートは天使。
正直な話、あの二人が仲良くないと話にならない。
なので、ある程度仲良くさせる演技をする
それに、現在進行形で
アルトのあの顔は演技半分だが、
本音も半分と言ったところだろう。
その不安は、疑問は、
人間に与えられたもの、
と言っても間違いはない。
その時間こそを、私は生き続けた。
だぁれも知らないという感覚が、酷く恐怖を煽るのだ。
期待して、悲しみを、そうして虚無を知る。
それは、人間が、人間として生きるために得た状態。
感情を、アルトは知っている。
だが、正直気になる点もある。
『…あいつ、妙に人間字見過ぎてないか?』
いやそれを言い出したら自分もだ。
そういや、今までの子達も、
感情を知る者は大体華を咲かせた。
胸の高まりが一定値を超えた時、
その花は咲き誇り、力を宿す。
その花は華として力を増し、
華は神の力を手に入れ、行き過ぎた感情に飲まれ、魔女になる。
魔女は悪魔を呼び覚まし、世界を宇宙を混沌に飲み込んでいく。
その混沌を打開するのが、まだ生きている華神と加護天使の攻撃。
この時点で漸く加護天使は戦闘可能になる。
変な話、華神が魔女として変化することが、宇宙の癌みたいなもの。
だが、それをして一体どうする?
悪い芽を摘むのは確かに正しい。
華神は願いが叶えば昇華し、向こう側の世界に行く。
それは加護天使も同じで、一度向こうに戻ればそこでおしまいのはず。
例外としては、ルメリアの存在。
彼女は全王様に気に入られ、人間である存在が神に認められた。
だが、人間の感情を深く持っていたルメリアが長生きなど出来ない。
ましてや、あの神の域に長期間など、精神が持ったとしても肉体が持たない。
すぐに死んで、魂だけが残り続けることになっただろう。
そうして?
そうして、彼女は、願いを託した。
なにを?それによって、話が変わってくる。
『…もしも、もしもだ。』
この世の全てを、彼女の手で願いが叶うとして。
そのエネルギーは一体どこから手に入れている?
仮に、仮に華神だとしてもだ。
向こう側の人間が願いを叶えて欲しさに
そうこちら側にぽんぽん送り込まれる、
というわけでもないだろう。
必ず仕組みがあるはずなのだ。
というかそうでないと、今頃華神であふれかえっているはずだ。
此処は別世界だというのに、あの世だと言い聞かされて。
この世界に、たどり着く彼女達の絶望は、一体なんというのだろうか。
『神の御業、そういや神隠しがあったな』
あれは、この世界に移動するということ。
神に魅入られた者が、
神の力を得て、力を振るうということ。
それなら神隠しにあって、
数十年の時を経て、戻ってきてもおかしくはない。
だが、華神達の時間的に、向こう側に返る時はもう遅いはずだ。
数億年という長い時を生きた華神も中には存在するだろうが、
まぁその時間長生きすれば途中で精神が壊れて、
魔女になるなりなんなり、自害するように向かすなりするか。
いずれにせよ、神が人を見つけてしまった
運の悪さが尽きているというのだろうか。
『まさか、ねぇ?』
あの12が、仮でもなんでもなく、「ほんもの」だとしたら?
今現在、華神だった者を集めても24人。
これを24時間一日だと考えれば?
いや、もっと広くだ、広く考えろ。一日とかの規模ではない、一日?
『四季か?』
確か一年は365日だ。流石に一日一人にしては換算がでかすぎる。
もっと、もっと短くでも多い数字があったはず。
嗚呼だめだ、思い出せない。
のどまで突っかかっていて、吐き出せないタンのようだ。
『ここら辺だな。まぁ、いずれにせよ勉強はしておいて損はない。』
メルは止めていた手を進めた。
この部屋も綺麗にまとまったと思う。
図書室のような広さに、正直めまいがする。
奥の方に荷物を置いて、手前は空にしている。
奥は円形になっており、二階建て。
二階部分には二か所ほど移動が出来て、
両面本が入れられるので、割とシンプルな小さな図書館。
流石に此処を全部使うなんて、そんな知識要らないのだが。
まぁ勉強はいいことだと誰かさんも言ってたし、良いだろう。
『にしても〜〜〜あの二人、
私の知識を越えつつあるのこ〜〜〜っわぁ。』
正直私の出来る範囲とすれば、
国語で行けば中学、いや高校止まり。
数学、英語は共に中学止まり
理科や社会が物にもよるが良くて進学高校止まり。
悪くて中学中間止まりって少々ばらつきがある程度。
大学入試レベルは私管轄外なので、
本当のマジもんの赤本の教材を書き直して
提出させているくらいだ。
『い〜〜〜や、パソコンくっそほし』
創造出来たらいけそうだけど、
絶対中身を考えるところ、
パーツを組み立てなんやら
しないといかないだろうな。
あと電波。電波大事絶対。
いや、気でなんとかなんない?
電波。いや止めた方がいいか。
確かかなりの微弱な電波だったはずだ。
こればかりは手作業が早い。
『…理科の分野、ねぇ?』
生物学と地学がアルトの得意分野。
それは生命を司ることでもある創造の範囲内。
正直私も生物学と地学は割と得意な方だ。
まぁ地学が最も得意だが。
『対してこっちはこっちかぁ』
カミカゼはもう文系まっしぐら。
語学に堪能しているから、星々での訳、まぁ天使の範囲内。
なんなら私は数学と、理科を少々ってところなので
破壊をした時の衝撃なんやらとかの計算に特化してなくもない。
『あれ、神様ひょっとして得意分野間違えて入れ替えた?』
まぁ、三人寄れば文殊の知恵とやらがある。
三人がいれば別になんとかなるだろう。
うんうん。そうだそうだ。そうに違いない。
そうだと言ってほしい。誰かそういってほしい。
安心させてほしい。というかそう言え。
言えよもう。安心させろ。やれ。
そうメルは深く考えてため息を吐いて椅子に深く腰掛けた。
『あ〜、一応カミカゼの範囲は終わりだな。』
ん?と気配を察知したメルが後ろを振り返る。
其処には、黒い衣服をまとったルトラールが立っていた。
「おや、バレましたか。」
『いつから?』
「先程来ましたよ。」
嘘ではないこと、わかるでしょう?
そういったルトラールに、少々考えて、そうだねと答える。
『お茶入れましょうか。』
「結構です。それよりも、随分と没頭しておられましたね?」
『う』
確かに、彼が直前に来る手前まで気付かなかった。
なんならノック音も気付かなかったレベルだ。
精進しないといけないなぁとため息を吐くと、
ルトラールがクツクツと笑っていいではないですかと答える。
「貴方が此処までのめり込むことがあるとは、
世界はまだまだ広いということですねぇ。」
『…要件は?』
「おやおや、貴方と言う方も冷たくなりましたね?
用がなければ来てはいけないと?」
『…偵察とかするくせに。』
悪い様に言いますねとルトラールにどうとでも思えばいいと思う。
本当に、人間じみているというか、何というか。
『ね』
「はい?」
『私のお父さんとお母さんって何処にいるのかな』
「………此処に」
そう覗き込む彼の目を逸らす。
そうやって記憶を上書きさせようとしても無駄だ。
通用しなくなりましたかと
さらっと言い出した奴の話は聞きたくない。
ねぇ今なんつったの???耳おかしくなった?????
「それを知ってどうするというのです?」
『別にどうもしないけど、まぁ興味本位。』
「…さ、ルメリアさんが勝手に子供生まれただの
さらっと仰っていましたのは事実ですが。」
それ勝手に孕んで来てねぇよな???
「流石にないとは思います。
彼女と出会ってから、この場所にいますし。」
『うわあ監禁』
「かんっ、って…しっ、あ、あのですねぇ?
彼女は望んで此方に居てくれるだけですよ。」
今失礼なって飲み込んだな?
飲み込んだよな???
『ならいいけど』
此処は自分の過ごしてきた場所の中で一番窮屈に感じる。
部屋を出れば広く、何処までも続きそうな豪邸。
しかも会えば大体人間の形はしていても、色が違う色が。
全員顔青ざめている。
『そんなことよりなんか?』
「嗚呼、お兄様が貴方をお呼びになっていましたので。」
急がなくていいですと言って席を立つのを止められる。
『お兄様って、大神官様のことでしょう?なら猶更』
「ま、私にしては此方の件が、気になるんですけどねぇ?」
『っあ!!』
「ふふ、まだまだですね。」
そう目を開くルトラールに、メルは少し睨む。
その手には、アルトの努力したノートが手にされていた。
彼が読み解けるわけもない、とは言いたいが、
彼は日本語を少々かじっているので、割と読める。
それが、誤算ではある。
「…日本語、とやらですか?」
『旅の途中で似たような言葉を見つけて、
話が盛り上がってお勉強する?ってことで。』
「嗚呼確か日本語とやらは砕けば
神の文字に似ていると仰っていましたよね?」
『………嗚呼、メルトリアの時辺りにね。』
強いて言うなら、そこしかない。
後は、ルメリアが言い出したとかだ。
それは流石に分からないから何とも言えない。
ニコリと笑ってそうですそうです
と、言う彼の裏が見えない。
見えないというのはある意味恐怖である。
人間、得体のしれないものに触れるのは死に値する。
まぁもっと正確に言うと、
「
死に一番近い場所に辿り着いてしまうということで。
ゾクリと感じた悪寒に、気が付けばかなりの距離を取っていた。
何重にも作った気の結界に、手が身体が震えて止まらない。
息がどんどんと上がっていく感覚、冷えていくこの感じ。
『(知ってる私知ってるこの感じ)』
崇高なものや人を恐れ、敬うこと。
恐れが勝るような気もするが、
同時に彼の行動に驚いたのも事実。
怖いと思ったのは、今に始まったことではない。
ルトラールに心を開かなかったのは、
何もメルトリアが原因ではない。
「何をそんなに怯えなさっておいでで?」
『(私が原因なのは間違いないのだ)』
各時間軸で、力を制御していたのは、
私が恐れていたから。
何になんて、そんなのは決まっていて。
「また華神になるのを、そんなに怖がってどうするのです。」
何度も何度も繰り返すこの時間が、
終わらないというのが怖いのだ。
気付いてしまっては、仕方がないというべきか。
少しだけ安心したのか震えが止まる。
『そう?私は華神よりも貴方の圧に恐怖感じたんですけれども。』
「おや、これは失敬。貴方がそうするので」
『わしのせいかい』
突っ込むメルに、クスリとルトラールが笑う。
ほんっっっとうに、彼の考えは分からない。
大神官も然りだが、彼ら天使の枠組みに入った人間は知らない。
知りたくないのかもしれない。
そうしたら、戻れなくなるから。
もう戻れないのに、一体何に怯えて暮らすのだろうか。
そこには、帰る場所すら、ないというのに。
『(ダメだ落ち着け、考えてはいけない)』
相手の流れに身を任せていいことはない。
メルは深呼吸をして気を落ち着かせる。
「ま、勉強にしては充分です。
此方から何も言うことはありませんし。」
『いや絶対いうつもりだっただろうて』
「っふふ、そう思います?」
そんな圧しか感じてないのですが。
おやしつれい。そういう会話があった後、メルは切り出した。
『アルトがあんんんんんまりにもひどいので、
カミカゼと相談を重ねに重ねたうえ、少々意地悪をと。』
「ほぉ?それはどんなものです?」
『ふふしりたい?』
ええ、とってもそう聞くルトラールに実はと声を飛ばす。
『コルン様を驚かせたくて』
「……………は?」
『いや〜〜アルトの話を聞く限り、
何にもないところでこけるわ
食器は落とすわ物は無くすわ、
方向音痴で迷いだすわ、
挙句の果てには時間すらも忘れて
仕事すっぽかすわの酷い有様で。』
確かに、聞いていたものは酷いものだった。
二人の嫌なところを全部出したと言っても過言ではない程。
確かに素質があったはずなのに、
どうしてこうなったと、
嘘偽りない彼のレポートを見て
何度ルトラールの頭が痛くなったことやら。
いやだが、そういう話では
『話を聞いていたら明らかにアルトの方が悪いのは一目瞭然。
でもそれを頭ごなしに指導するコルン様もコルン様ということで。』
「で?」
『ここは、いっそのこと、気分転換含めたお遊びで驚かせようと。』
「……嗚呼なるほど。言いたいことが分かりました。」
つまりメルの言いたいことはこういうことだ。
コルンに一泡吹かせたいと、
そういうことに、メルはニコリと笑う。
『でも急に頭がよくなっても困る。
彼が少しずつ褒めるとは考えれないので、』
「そうですか?」
『もしそうならいいですけれどもね。
私が怖いのは、出来たのにそれを否定し
続けられる時間が長いこと。です。』
それはあまりにも残酷で、出来れば避けたいところだ。
その時間を何度も何度も味わなくていいこと。
ならば、それを確実に避けるとすれば。
「本来の業務とは違うところで勉学に励み、
そして励んだことが業務に活かされるようにする。
勉学は遊びというカモフラージュに過ぎないと。」
『元は勉強だけど、遊んで勉強の方が楽しい。』
だから、その楽しいを植え付けるのだ。
『種はすくすくと育って実を実らせる。
気付いた時にはとっても賢くなっていて、
コルン様も周りもあっと驚きってところ!』
「…貴方らしい考えですね。」
『だてに数千年一緒にいてなかろうて。』
にやりと笑うメルに、
ええとルトラールが笑って答える。
「ですが何故日本語を?」
『急に神の言語って難しすぎる。
もっと簡単な言葉に直してから
飲み込ませるべきだと思って。』
「嗚呼、ろーまじ、と言うやつですね?」
そういうことだ。
『アレは逆に読めば日本語として通用する。
日本語が出来れば、
正直神の言語も出来るに過ぎない。』
「なるほど、基礎を固めると。」
『正確には基礎の基礎の基礎の
基礎を今しているんだがなぁ〜〜〜〜』
それら、いりません?
いやぜったいいる。とメルが答える。
『国語は神の言語を理解する読解力。
数学や理科は神の成し得る破壊や創造の計算。
社会はその惑星の文化を知るという知識欲。』
「なら英語とやらは必要ないのでは?」
英語やその他諸々は
もう正直必要ないと言い切って笑う。
そんなメルに、では何故とルトラールが聞く。
メルは間髪言わさずに言い切った。
『そりゃ気分転換』
「…呆れた、気分転換に気分転換を重ねたのですか。」
『へっへ!でもアルトの成績は格段に良い。
恐らく勉強し始めてから徐々に変化しているはず。』
「ええ、それは確かです。経過報告も良好ですから。」
おっと、流石にばれていたか。
そんなことはないと言いそうかなとは思ったが。
そこがバレるということはまぁそういうことか。
「これは何処までするのですか?」
『まぁ大学入試前後辺りまで。
カミカゼはもう終わりに近いから、
そのうちアルトのところに
家庭教師的な感じで使わせようかなと。』
「かてっ…そういえば、
ティーナ様達がいるではないですか。
彼女達に教えてあげればいいのでは?」
『…それは、いいよ。』
私がこうしてやっているのも、
気分みたいなところもある。
カミカゼやアルトと話をしていて楽しいとか、
こうやっていないと関係が終わりそうで怖いとか、
まぁ色々な気持ちが重なって
今に至っているというのはある。
だけど、だけどね。
『私は教えたかったの。知って欲しかった。
お勉強は楽しくて、それが誰かの助けになるって。』
「メル様…」
『色んな人の情報でこんがらがって諦めさせたくない。
だから、私とカミカゼとアルトの三人でしたの。』
これ内緒なのにそう笑うメルに、
クスリとルトラールが笑った。
「では秘密にしておいて差し上げます。」
『おやまぁ』
「なんです?教えてもいいんですよ?」
『あ〜すいませんすいませんすいませんすいません』
「っくく、」