魔法使いになる
「メルさん、ウイスさんからお呼び出しです。」
『え?私が?』
「ええ、二日ほど休暇を渡します。」
帰ってきてはいけませんよ。
そういわれて、メルはルトラールに連れられて移動する。
「おや、これはこれは」
『はわ』
どうしたのこれ、そう駆け寄ったメルに、
はやあと変な声がアルトの口から漏れた。
「実は昨日からアルトさんが此方で
お泊りに来ていらっしゃるのですが、
それに今までの修行の成果を、と相手していまして。」
「予想以上の体力の無さに、お前を呼び出したってことだ。」
『あっっっりゃ〜〜〜〜』
お前、仕事さぼっただろ。
そういうメルに、ぎくりと反応したアルト。
全く、話が違う。
『も〜〜ちなみに体力無いって規模どこです?』
「悟空さんやベジータさんと組み手をしてすぐに息を切らしましてねぇ。」
『…………あるとさん?』
「ひえ」
『カミカゼ』
「あいよ」
そう呼んだメルに、カミカゼがそっと入る。そりゃあもう瞬間的に。
ニコリと笑うメルに、アルトが青ざめ逃げだす。
「ん?」
「なんだ、何が?」
「…まぁ、そうなりますよねぇ。」
呆れてため息を吐いて言うウイスに、悟空とベジータの首が傾く。
逃げ出したアルトが攻撃を受け止める先には、先程まで後ろに居たメルだった。
そのスピードの速さに、周りが驚く。
受け止めたのを、軽く流し、くるりと一回転するメルを無視し、
カミカゼに攻撃を貰っては受け止めを繰り返し始める。
右左上下、と徐々に速くなる動きに、アルトが声をあげなくなる。
隙がつける場所を伺いメルが攻撃を入れるも、片手で二人の攻撃を止める。
止めては流し、受け止めては移動をしてと、繰り返すその動きは空の上。
「はぇ〜〜〜〜」
「…動けるなら俺達とも!」
「それは無理でしょうね。」
「何故だ!!」
「アルトさんはまだ天使見習いです。
なんでしたら、人間でいうところの、
生まれてまだ一秒も経過してないくらいですよ。」
「…は」
「そんな彼女が、見知らぬ人の攻撃を受け止めて
一体どれ程の威力で抑えていればいいか、
なぁ〜〜んて、考えられるわけもないでしょう?
お二人ともまた死にたいのですか?」
そこまでいうウイスに、唖然とする。
確かに、先程まで組み手をしていたアルトの動きは違う。
なんなら気の扱いかたもかなり安定しているくらいだ。
「私と組み手をするだけでも、この私を
壊したらどうしよう、だなんて考える子ですよ?」
「ウイスさん頑丈だから大丈夫だろ?」
「ま、そのはずなんですがねぇ、
少々人間の頃のアドバンテージが強すぎたようです。」
「ようはうさん晴らしをさせろってことだよ。」
「ビルス様!!」
よっと言うビルスに、悟空が驚き声を上げる。
「あいつの所に行けばあいつの師匠に色々言われるのを心配しそうだし」
「かと言ってお父様の所にわざわざ行くとなれば、
かなり力をつけないと難しいですし。」
飽きられて捨てられるという恐怖を植え付けられている今、
彼女の一番良い対処法としては、カミカゼの元に遊びに来て、
メルと合流し、一緒に遊ばせてやるというのが最善と思ったのだ。
考えてるなぁと驚く悟空に、呑気なことだとビルスが言う。
それに対しては、ほんとだねぇとラストリアが答えた。
「アレの威力を見たことないからそう言えるんでしょうね。」
「ラストリアにトレイーズか!」
「様を付けなさい様を」
「っはは!わりぃ、オラちょっと覚えが悪くってよ。」
笑って誤魔化す悟空に、全くとトレイーズは呆れる。
トレイーズのため息に、ラストリアがまぁまぁと笑ってなだめた。
「どれ程の威力を抑えていると?」
「まぁ10として、今は2と言ったところでしょうか。」
「…俺が戦えばどうなる。」
「ベジータ!!」
「……1、にも満たないかと。」
「っくそ!!」
『ちなみに計測結果、現段階では
ビルス様以上、ウイス様未満ってところ。』
「っうおっびっくりした!!!!」
驚くビルスに、ごめんごめんとメルが笑って答える。
そのあとカミカゼに命令を下す。
『カミカゼー!割と威力上げていいよ!』
「俺に、さしず、すんなああああ!!」
『うっひゃ〜〜!怒ってらっしゃるう』
嬉しそうに笑うメルに、まだまだと言って攻撃をし返したアルト。
ちょ、おっっっも、お前どんだけ隠してたんだよ!
えぇ〜今?いまは、さぁん♡と嬉しそうに笑って伸ばすアルト。
杖を使って叩きに行ったりするところ、余裕そうなのに対し
カミカゼはお前ざけんな!と口が悪くなっている。
「メル様は参加されないのですか?」
『へへ、どっちかっていうと、私の体力がもうだめぇ。』
「おやおや、運動不足は貴方の方でしたか。」
『ふぇ〜〜皆体力多すぎぃ。』
倒れて笑うメルに、ウイスは立って覗き込み笑う。
『私は少しずつ体力上げるって決めてるんですぅ。
あの二人が馬鹿みたいに体力あるだけですう。』
「そういって、お前ちょっと痩せてねぇか?」
そういった悟空の言葉に、アルトとカミカゼの身体が止まる。
それにメルが驚き馬鹿っと悟空に叫ぶが。
「めぇる♡」
『ヒェ』
「たいじゅう、はかろっか♡」
急いで飛び起きたメルの行動もむなしく、
背後から急に飛んできたアルトに
そっと抱きしめられて、メルの顔が青ざめ止まる。
『あっや、あっわたしはそ』
「……アルト」
「ん〜〜〜旅の時より3キロは減ったねぇ。」
『ひぇ』
「メルさん?????」
ぼくたべてるよ。
そうそっぽをむくメルに、んん?とカミカゼとアルトが覗き込む。
それに嗚呼ごめんってええええと声が空に響いた。
+++++++++++++
「ほらほらこれも美味しいよ」
「ちゃんと食べないとだめですよほらこっちも」
『ふぁふう』
「おほほほほほ!これではどちらが神かわかりませんねぇ。」
「…ほんと君ら見てると気が抜けて仕方がないよ。」
食事の時間になった途端、メルが脱走するもんなので、
全力でアルトとカミカゼがタッグを組んで捕獲作戦を決行。
ものの数分で捕らえられたメルは、
カミカゼに捕まれて椅子に座らせる。
ちなみに逃げようとするならば
アルトがブザーを鳴らして知らせる
という地獄である。
あと最初の方滅茶苦茶煩かった。
『ぼくたべてう』
「まぁ量的にはもういいか」
『はう』
「カミカゼ、絶対まだ足りないって。」
『んびゃ!!』
「アルト、メルがもう言葉を発しなくなったからもう無理だ。
こいつキャパオーバーになると言語忘れるだろ。」
「いや忘れるってお前……」
現にメルは先程からちゃんと話せていない。
みゃう、だの、んびゃ、だの言葉ではないのは事実である。
「全く、どうやったらそんなに体重落ちるかなぁあ。」
『私神様なったんだよね?
神様食べなくても痩せなくていいよね!?』
「天使や破壊神の皆さんを見てわかりません?
痩せていたり太っていたりするでしょう?
つまり貴方もおなじものです。」
『びゃああああ食べたくないいいいいい』
「此間のアルトと真逆のことを言ってる……」
「おほほほほ!本当に面白い方ですねぇ。」
こっちは心配して言っているのにと言うカミカゼに、
ウイスは別にいいではありませんかと答える。
「確かに急激に痩せられると驚きますが、
少々時間も経っています。
それにまた旅に出られるのでしょう?」
今度もまた少し長めの休暇を貰う。
それに、三人ともうんと頷く。
喧嘩をしたり、何かをして嫌だといっても
そういうところは同じなのだから、
面白くてまたウイスは笑ってしまいそうになった。
「だけどよ、食わねぇと体力つかねぇぞ?」
「それは悟空さんの仰る通りです。メル様は少々小食ですし、
これを機に食事改善をすればよろしいのでは?」
「それがいい」
「じゃないと揚げ物旅決行するぞ」
『それはやだ』
「お前揚げ物嫌なのか……」
だって脂っこいと言うメルに、ちょっとわかるとアルトが言う。
「しつこいのがなんかねぇ、胃もたれって感じが」
「お前天使だろ…消化とかあるのか?」
「「え〜〜〜」」
「アルトがいうのはわかるがウイスお前もか!!!」
そう怒るビルスに、いいではありませんかとウイスがのんびりいう。
「天使もこの長い時の中、闘いもしません。
暇をつぶすということは必要なのですから。」
「そういや華神っちゅー奴はしんだのか?」
「お前……」
『や、変な話此処にいる奴らは華神だよ。』
「メル」
ラストリア、ミル、そして私。
この三人は少なくとも、華神に一度はなっている者達だ。
『力は全盛期よりかは半分以下ってところ。』
「それであの強さか」
『そ』
「噂によれば、最古の華神で一番お強かったのは
ハシュクロード様とお聞きしていますが。」
本当ですか?そう聞いたウイスには、それはまぁあってるとラストリアが答える。
「彼女の実力は本当だし、
貴方方天使や破壊神達の火力は知らないけど、
天使レベルなのは間違いないと思っていいですよ。」
「ま、加護天使も現在は天使。
威力は華神の皆様と同じく全盛期の半分以下です。」
本来はルトラール様が一番でしたし。
そういったトレイーズに、悟空が戦ってみてぇなぁとニヤニヤする。
それにはやめた方がいいとメルが答える。
「なんでだ?」
『アレと戦うってことは、大神官様レベルに到達しないと話にならん。』
「大神官様レベルってなると…」
「まぁまずは私を倒せるようになってから、ということですね。」
おほほほ、と高らかに笑うウイスに、
悟空は午後の修行を付けて貰おうとする。
それに俺が先だとベジータが言う。
「お二人とも本日は帰ってもらっても構いませんよ。」
「ああ?でもよぉ」
「数日お客様がおいでになっていますし、
それ以降でしたらお相手しましょう。」
「うっし、わかった!」
『じゃあ私はかえ、れないわ』
「え?」
『そういえば二日間お泊りしてこいって言われてた。』
すっかり忘れていた。あれまって。
『大神官様、まさか私が体重落ちてるからアルト達のところで増やしてこいと?』
「おほほほ、さぁ、どうでしょうね?
大神官様からはメル様を頼みます、
とだけお聞きしておりますので。」
『うわあ』
絶対そうじゃん。無理じゃん。
「まぁ、どうせ何もないなら風呂入って寝てくれば?」
『え?』
「はいる!!!」
『え??』
「どうせなら私達も参加していいかしら」
おやと嬉しそうに笑うウイス。
ラストリアがアルトとメルが入るならと声を上げたのだ。
「ほらミル、貴方も入りましょう?」
「ええ」
『ちょ私は休養が』
「お風呂も立派な休養ですよ〜」
それ、忙しい方の急用と言いたかったのでは。
そう思ったカミカゼだったが、彼女たちに歯向かうなど無謀である。
悟空とベジータは家に帰ろうとした時だった。
席を立った悟空に、まったとアルトが声を掛けたのだ。
「なんだ?」
「あの、えっと…」
「…そういえば、悟空さんの息子さんは今回も学者さんですか?」
「お?嗚呼悟飯のことか?」
「ええ、今現在彼女達三人はお勉強の最中です。」
『私が悟飯君の話を旅の途中で言ってね。』
そう付け加えるメルに、悟空が納得いく声を出す。
「おお!そういやメル、おめぇ確か悟飯と友達だったんだよな?」
『まぁ私というよりも正確には11番目だけどね。そうだよ。』
「悟飯の奴、メルのことが分かるかわかんねぇけど、心配してたっぽいし、
わかった。そうと決まれば俺からも声かけておくぞ!」
「よかったですね」
『ね』
メルはアルトの方を向いて笑う。
悟飯はメルから知識も理解も早くとてもいい子だと聞いていたのだ。
いつか、いつかでいいから、彼に会ってみたいと思っていた。
それが叶うとなれば、目をキラキラと輝かせる。
「はい!おねがいします!!」
「お、それじゃあな!」
そういって今度こそ悟空達が消える。
続いてメルの手を引いてアルトが早くお風呂にと走る。
そっちじゃないと今度はミルが走って追いかけた。
「あらあら、ではウイス様ビルス様お先に。」
「ええ、ゆっくりいらして下さい。」
ニコリと笑って手を振ったウイスに、帰ってきたアルトが手を振る。
メルは半分くたくたで、こっちを向けれそうになく、
ミルから押されてびええええええと悲鳴が遠くなっていくのを聞いた。
それに笑ってしまう。
「全く、こう煩いと眠れないよ。」
「よいではないですか。煩いとお仕事も捗るでしょう?」
「…けっ」
「おほほほほ!ですが、本当にアルトさんもメル様もお強くなられましたね。」
勿論貴方もそうちらりと目を向けたウイスの目線にはカミカゼがいた。
それに目をそらしてそんなことはないですと答える。
「僕はまだまだ、出来ていません。」
「おや、ご謙遜を。貴方は、
此方にきてから随分と成長なさっておいでですよ?
寧ろ身体が追い付かない程にまで、鍛え上げられています。」
「ビルス様とも戦って負けるというのに?」
「けど、あいつらと戦っている時のお前、滅茶苦茶強かったじゃないか。」
僕に手を抜いてるの?そういった声に、
圧力にとんでもないと立ち上がって否定する。
ただ、と手を握り締めて、俯く。
「…はぁ、破壊神とは聞いてあきれるね。」
「仕方がないでしょう、彼は元々加護天使の存在。
元々戦闘はしなくて良い立ち位置の方だったのです。」
まぁ、その前は、知りませんが。
そういったウイスに、少し反応したカミカゼ。
「ま、でもいんじゃない?筋は悪くないし。」
「え?」
「焦って間違えるよりも、確実に行ったほうがいいですからね。」
+++++++++++++
「わあああメルおっ」
『だまらっしゃい!!!!』
そう流石に拳骨を入れたメルに、いたいとアルトがなく。
それには擁護出来ないなぁとラストリアが笑う。
現在女性が入浴中。
広い風呂は最早そこら辺の温泉以上の広さである。
「それにしても久しぶりね、メル。」
『ラストリア様…』
「私も私も!メルがいなくて寂しかった。」
『ミル、貴方も…ええ、お久しぶり。』
そう笑って答え、笑うメルに、二人とも笑う。
「今はこうして華神の力はありませんが、
貴方と、それも新たな神の地位に参戦する中、
出会えるとは思いもよりませんでした。」
『あはは、すみません。』
本当に巻き込む予定はなかったのだ。
出来れば向こう側でのんびりくらしていて欲しかった。
だが、そうもいかなくなった。
「あちらでは色々整理をつけ、此方にきています。
暫く向こうには戻りませんし、荷物も処理しました。」
『そういえば向こう側からこっちに荷物は?』
「ある程度のものなら移動できます。
ものと言うよりも重量で限られていそうですがね。」
ほう
「大体計測して30sほどでしょうか。
なので衣服や大事な貴重品などは此方に持ってきました。」
「軽い家出か?」
「ふふ、そうですね。そんな感じです。ミルさんは此方の方ですか?」
『正確には私が移ったこの世界の住人。
それが華神の力を得たイレギュラーってところです。』
「なるほど…道を外れた、というわけですか。」
誰もかれも。そういったラストリアに、メルの目が変わる。
『ラストリア様、貴方達の花を私も見ています。ホトトギス、の花ですよね。』
「ええ、花言葉は「永遠に貴方のもの」」
「いつ聞いても綺麗だよね。」
「そういうミルさんは?」
「私はスイートポテトだよ。花言葉は「優しい思い出」「門出」」
「それを言うならスイートピーでは……?」
そう困惑を示すラストリア様に、メルは苦笑いをこぼす。
「そういやメルは?」
『私は12回分?』
「いや、エフェメラルとしては?」
そういったミルに、メルの身体が止まる。
「確かカランコエだったよね、それがどうかしたの?」
「いや…そういや、皆さ、お花なんだよね?」
「え、ええ」
「一人はぐれいない?」
そういった言葉に、いいえ、とラストリアが答える。
ほらなんだっけ、と言うミルに、もしかしてとアルトが答える。
「都佑って子のこと?」
「そう!!あの子の花、前に会った時聞いたんだ。」
たしか花が華じゃなかった。そういったミルに、メルが止まっていた時を動かす。
『…いや、草花ってことでしょう?』
「草花?なにそれ」
「ああ、アルトさんは花の品種をまだお勉強中でしたのよね?」
そう笑うラストリアにアルトがこくりと頷く。
「草花とは、花を咲かせる草、花や葉・実などを
観賞するために栽培されるものを指すのです。」
「それが、違うひとがいるって?」
『でもそれだと違う。草花は花に咲く草、
又は草に咲く花。要は花を咲かせる草のこと。
木にではなく、草というものに咲くから。』
メルが説明をするのに、だけどねとミルが続けて言う。
ぴちゃりと水滴の音がその場だけ響いて耳に到達する。
いやなくらいに、音が響く
「花じゃない草が、ひとり咲いているの、気付かないの?」
じわりと、胸に染みわたる変な感覚。
なんだ、なんだこれは、誰かが言っていた気がする。
ーそれはね、草なんだよ。
花じゃあないんだ。
ー
「あっメル!?!?」
おかしい、何かがおかしいとずっとずっと思っていた。
何度だって、何度も、この記憶に触れていた。
髪の毛も乾かさず、とにかく走って走って走る。
この地にも確か咲いていたはずだ。
この破壊の神様の近くにある森に、
ミルとして生活をしていた時に
花を生成して遊んでいた時があった。
正確には界王神や天使から教えて貰って種を蒔いては咲かせていた。
あの花は一度綺麗に駆除をしないとどんどんわいて咲き続ける。
それは、浸食し続ける苔のように。
どんどん広がって続けるのだ。
指を鳴らして本を手に取る。確か
『コファ様は洗練、クライオリー様は
平和と力に対して華が咲いていた。』
彼女らは全員、力に対しての華。
たいして、メルトリアはなんだ。
『メルトリアはまた逢う日まで。ミルはは優しい思い出!』
そう、自分が繋げていた時間の華は、
全て感情によって花が咲いていた。
違うと言いたいのは、その発芽する状態だ。
華神は願いを捧げ、祈りを捧げ、そして華が宿る。
その種は願いの核であり、核が消えれば華は消える。
核こそが、願いの根源であるもので、そこから力を得る。
願いが栄養素、そしてその栄養を華神は力として振るう。
だが、それはあくまでも「願い」なのであって。
メルが見続けていた彼女達は「感情」なのだ。
『っ!!なら!!!』
道が開けて、ピンク色の花畑が待ち受ける。
広がる綺麗な小さい草花の世界に、メルは息を切らす。
もしも、もしもだ。
この計算が正しければ、
それは、まだ終わっていないと?
いや、終わっている、確かに私で終わるのだ。
でもそれだと時間が合わない。
いや、なんだ。なんでこんな胸騒ぎがする。
心臓がどくどくと脈を打つ。怖い、怖いか?
違う違う違う。これは
「否定、ですね」
『っ』
「何故此処に、と言いたそうな顔ですね。
答えは分かっておいででしょうに。」
振り返ると、ウイスが立っていた。
腰が抜けて、花を潰している。
花には悪いが、ちょっと今動けない。
「髪の毛を乾かさずに走るとは、風邪をひきますよ。」
『…ひかない』
「神様になったから?」
『…それは』
「そんなに神が嫌いですか?」
『違う』
「ならば、神様になれば会えなくなるのが嫌ですか?それとも」
時間に忘れ、その想いを忘れたくないから?
そういったウイスに、ばっと顔を上げる。
嗚呼もう、とウイスは言ってメルの頬を触る。
「そんな泣かないでください」
『ないてなん、か』
「…確かに、神様は長いひと時を得ます。」
ぽろぽろと落ちる涙に、混乱する。
手を頬につけようとするのに、手首を取られて動けない。
前が見えなくなるから、涙を取り除きたいのに。
どんどんと溢れるこの感情を、私は止める術を知っている。
知っているのに、知っているはずなのに、止めたくない。
止めたくないと、思ってしまうのだ。
『(嫌なの、そうじゃない、そうじゃないって思ってるのに)』
「メル様…」
『(ねぇ、ウイス。聞こえてるのでしょう?どうか答えてよ。)』
涙を流しながら、メルはウイスに問う。
声に出ないこの思いを、感情というならば。
人は、この感情を、なんと形容するのだろうか?
『(たった一つが草ならば、どうしてあの子は華と認められたの?)』
それは一度目、最初の時間。
二人の約束の、大事なあの時間。
大きな広く、青い世界に、緑のじゅうたんが広がる場所。
黒髪の女性が温かく自分の名を呼んで答えてくれる。
何でも知っていて、どんなことでも手を取ってくれる。
優しい時間、愛された時間。
それがずっとずっと、壊れたビデオの様に再生される。
そうして、気付かぬうちに、間違えた記憶に
塗り替えられているかもしれないというのに。
それでも止めずに何度も何度も再生した。
『(嘘つきだから、あの子はこの世界に堕とされたというの?)』
要らない子と言われ、扉を閉められた子供。
落とされた花は、花ではないと知った時、子供は何を感じたか。
『(もし、もしも、もしも貴方がそう願うならば)』
私は、決して、手を取るべきでは、なかったのだ。
そう泣きだすメルに、ウイスはそっと近づく。
それにメルは服に縋り、頭を胸につけ泣き続ける。
優しく背中をさすられ、尚思うのだ。
ーそれは花じゃあない。
『(雑草が、神様として選ばれる訳がない)』
逆に言えば、それは生贄になる証拠。
もう決まり切っていた、事実だ。
自分のしようとしている結末が、
あまりにも残酷なことだと、気付いたのだ。
あの子を逃がそうとした。
しても、無駄なのに。
あの子は選ばれた。
もう、遅い。
『(決まり切っている)』
次の華樹神は、都佑なのだ。
彼女は草花の部類でも、雑草。
確かに、シロツメクサを持つ別の華神もいる。
だが、そこではない。そこは、違う道を外れた存在。
華神は確かに魂を行き来し、本来の決められた定めから外れた存在。
だが、それはあくまでもカモフラージュされた事実であるもの。
本題は違う、全王様の言っていることはこういうことだ。
『(感情に華を咲かせる歪を犠牲にしろというの…!?)』
それは、違うのだと。全否定されていると言っても過言ではない。
いや、もうそういうものだろうに、気付いている気付いているのだ。
その通りだと。
わかるから、苦しくて辛くなる。
「…私ではどうすることもできません。」
『っひ、っく』
「貴方は、本当にお優しいのですね。」
どうしてそう人のために泣くのですか。
そういってウイスは優しく問う。
そんなことないとメルは首を横に振ってこたえる。
そんなことはない、私は優しくない。
本当に優しいならば、あの手を、取らない方がよかった。
その手を、取らず、彼女は消えてなくなる。
泡のように、願いが呪いと変わる時。
約束を破った、人魚姫のように。
私はその手を取らなければ、
あの子は今もその願いが
叶うかもしれない場所に
居続けれたというのに。
私が願いを奪ったのだ。
私が、次の生贄を決めてしまった。
私は花を咲かせてしまったから。
感情に、身を任せて、華を咲かせたから。
嗚呼どうせなら、逆ならば、よかったのに。
『(あの子じゃなくて、私がなれれば、どれ程いいのか)』
ルメリアも、きっとその予定で私を作ったはずだ。
だが、全王様が気に入るのはほぼ確定で都佑。
現に都佑は時々全王様に会いに来ている。
嬉しそうに、でも寂しそうに我慢をしている。
それが途方もない時を続ける始まりだと知っても?
もう、知っていたら、彼女は助けを求めているのではないだろうか?
でも、それも、出来ないとしれば?
彼女は、彼女からまた作り出されるというのか。
この地獄が、煉獄が。
華神が、また、生まれるということ。
『(それだけは、皆絶対許さない。)』
だが、今こうしても意味がない。
華神を廃止するのはまぁ仮にできたとしてもだ。
現在の神の管轄的に自分たちがどうこうはしなくていい。
「…メル様、お気持ちはわかりますが、
それをするには些か無謀すぎます。」
『…でも』
「でもでもありません。
それをしてどうなるかわかるでしょう?」
まぁ、十中八九自分は愚か、
多くの宇宙が犠牲になるのは間違いない。
我慢して耐えるのもいいが、
彼女の一番笑える幸せな場所は一体何処にあるというのか。
『(いっそのこと、あの時間に戻してやりたい)』
「…メル様」
『(出来ないし、出来たとしても、あの子は絶対嫌がるから)』
それこそ、地獄だろう。
あんな、時間を見続けるなんて。
だから、此処が天国だと、言い聞かせてやらねばならない。
せめて、もう少し、もう少しだけでも。
長い夢を、見せてあげなければ。
それが、私の私達のしてしまった報いになる。
そう言い聞かせて立ち上がるメルに、ウイスは肩を持って補助する。
ふらつく彼女がそっと顔を上げる。
「…目が腫れてしまいますよ。」
『っ』
「大丈夫、とは言い切れませんが、
あの子もその場所よりかは、
幾分か楽なのではないでしょうか。」
そうだろうか、そうだと、おもいたい。
雑草と呼ばれたその花を。
『……っのね』
「はい」
『ムラサキカタバミって、ムラサキ色をしていないの』
「…ええ、ピンク色にみえますね。」
『これね、一度生えると繁殖して綺麗に取り除けないの。』
そうなんですねとウイスがそっと自分たちが立っていた場所の花を回復させる。
来た時ほどの綺麗な花畑に戻り、メルはぽろりと一粒涙をこぼした。
『だから、雑草だって人は言うんだぁ。
雑草は、花になんてなれない、
それはもう、花を咲かせた偽物。』
「…っ」
『偽物は、本物として本来の力を発揮させる。
一つではなく、多くの力を。
長い年月を駆けて、広げて。』
走って、走って、駆けあがったその先に。
待ち受けている場所は、酷い場所だと知って。
『私は、あの子を迎えに行きたい。』
たとえ創造する神様だとしても。
今度は、私が、私が天使になればいい。
キュインと音が鳴り、目の色が変化しそうになった途端、メルの意識が飛ぶ。
「流石に止めましたか。」
「…コルンお兄様」
「少々嫌な気配がしましたので、様子を見に。」
ちらりとウイスの腕の中で眠るメルを見つめる。
トンと音を鳴らし、髪を綺麗に乾かしてやる。
丁寧に、泣き腫れた顔も、元通りに。
「…すみません」
「いえ、にしても厄介な子達ですね。
まさか、華神が加護天使になる種であり、
そして加護天使が華神になる種でもあるなど。」
「ええ」
本当に、彼女達は知恵がつくのも早ければ、答えに辿り着くのも早い。
すやすやと眠るメルに、コルンは目をウイスに向ける。
「メル様の仰ったことは正しい。」
「では」
「ええ、一度目の人間が華樹神になる
可能性が非常に高いでしょう。」
「…そ、うですか。」
「おや、嫌そうですね?」
「いえ」
「あてられましたか」
そういったコルンにそういうわけではないと否定をする。
「ただ、可哀想な程に憐れだと。」
「…まぁ、自身の手を取るという行為が
どれ程の威力か、
今更気付いても遅いというものですがね。」