絆なんてと照れることもなく




アルト、そう声を掛けられてひょっこりと顔を出す。
フェルが手招きしてくれたのだ。

どうしたのだろうと思って覗き込むように壁の角を覗く

「こっちこっち」
「わっ!」

急に手を掴まれて、走り出されるので
驚いて、心臓が飛び跳ねた気分だ。


まぁ天使になってからというものの、
私は人間から遠ざかった為、心臓なんて
この身体何処を探してもないと思うのだが。


加護天使も、天使も、心臓を持たない。


それは、この世界のちょっぴりとした裏事情だ。

人間ではないから。
人間の存在から軽く逸脱した者達だから。
だから、心臓も、栄養を取る器官も全て要らない。

だというのに、私は何度も眠るし、食事もとる。
人間のまねごとをしているに過ぎないことは
私とて、重々承知していることだ。

そんな私を、彼女は、よく私に対して人間じみたことを教えてくれる。

お茶の種類が沢山あること。
お薬は過ぎれば毒になること。
栄養は、必ずしも口から摂取するだけではないこと。

この第8宇宙に来てから、随分と時が経ったと思う。
メル達も、華樹神になるという試練はかなりでかいらしく、
流石に12の時間を渡って、はい華樹神になりました。

というわけにもいかないらしい。

ここ最近暫くまた見れていない。
旅の話も、途中で止まったっきりである。

正式な儀式という儀式も、きちんとしていない。
あくまでも形的な略式をしただけだ。
力の大会も、延期が決定したのは
その華樹神の噂が出回った為だろう。

おかげさまで私達は暫く破壊神星から動けないでいた。



「ほらほら、ハシュクロード様がお花畑作ってくれたの!!」
「わぁ……!!!」

一面花畑とは、言ったものだ。
恐らく各宇宙の破壊神星も今現在、
こんな場所が所々にあるのだろうと
想像したら少々面白くなってしまった。

くすりと笑ったアルトに、
どうかした?と言われていいやと答えた。

「なんでもない!そんなことより、凄く綺麗だね。」
「ほんともう恐れ入るよ、流石ハシュクロード様だよね。
植物の華神シャクロラス様と仲良かったらしくてね?
この花畑もその子と約束してた所だったんだって。」

その話したらね?リキールったら
破壊する気が失せることをするな
って呆れてたんだよ。

そう笑うフェルに、それは嬉しそうだったので
思わずアルトもくすくすと笑った。


「いいなあ、私も約束したらよかったなぁ。」
「…そういえば、アルトって、元々加護天使だったんだよね?」
「うん。13宇宙の予定だった見習いだけどね!」
「…華神の最期って、知ってる?」

そう神妙な顔つきになったことで、アルトも顔色を変えた。
ううんと首を横に振って、話を続けながら手を出す。

「私が知っているのは、華神が願いを捧げて叶わないと魔女になること。」
「…そう、いや、言っていいのか分からないんだけど。」

何方にせよ、今後の可能性的には
全員が知っておいた方がいいんじゃないかって話が
うちの所で回っててねと、フェルが何の話かを続けて言う。

「華神はね、願いが叶うと加護天使になるんだ。」
「…え、あ、うん。」
「話はそれで終わりと思った?」

その通りで、頷くアルトに、此処からだよと話す。

「加護天使になった後、どうなったと思う?」
「え?しょ、消滅?」
「でも今現在、ラシル様とかなってる?」

華神ですらないハシュクロード様の傍に居て、だよ?
そういったフェルに、事の重大さをじんわりとだが、覚えていく感じがした。

「えっ、そ、それって、まずくない?」
「そう。普通だとね、加護天使に成ったら
華神が死んだら死ぬんだよ。
消滅というか、別世界に飛ばされちゃうんだって。
此間ラシル様達が別世界の話で
盛り上がっちゃってるの聞いちゃってさ。」

ならば、ならばだ。
例えばだ、ハシュクロード様がこの世界で死んで、
続けてラシル様も死んで、別世界で産まれたとして、
何故この世界に戻ってこれているのか。

それも悟空という人間が、ドラゴンボールという願い玉に祈ったから
というのが原因らしいのだが、それ以外にも奇跡が起きている。

「この現象、何処かの文献で見たなぁって思って私調べたの。」
「おお」
「そしたら、なんとなんと、本当に見つけちゃった人がいてね。」

その子に聞いたら、どうも華樹神が交代する時にこの現象が起きるんだって。

「ということは、華神も、加護天使も生き返ったり、
死ななかったりとなんか予定外が起きるのは、
この現状、華樹神という上がいないからってこと?」
「正確には、生まれ変わって、未継承の場合。」

ってことだろうって。そうフェルが言うのに、まぁ間違っていないとは思ったが。

「でもね、話を聞いてくとさ、不思議なことが分かったの。」
「なに?」
「ラシル様元々華神だったんだって。」
「ええええ?!?!?」

流石のことに驚いた。いやまて。

「そ、それって」
「そう、ラシル様が華神で、次が加護天使だったらさ
その前って一体誰だったんだろうね。」

その時だった、

ー大丈夫、貴方は強い子ですから。

ズキンと頭が酷く痛くなった。
そんな頭はないはずなのに、急に痛くなった頭を抱えるアルトに
ちょ大丈夫!?とフェルが寄り添ってくれるが、
なんだろう、声が、聞こえにくい。

ーきっと、あの人達も喜んでくれるでしょう。

なのに、彼の声ばかりが頭に広がって仕方がない。
遠ざかる景色に、身体を横に倒すしか術がないだなんて。
嗚呼、コルン様に見られたら怒られるんだろうなぁ。

ーだから大丈夫、何も心配などする必要ないのです。

そんな声に、息を吸って吐く。
嗚呼、大丈夫、大丈夫なのか。
私は此処に生きている。


「ーーなさい、アルト。アルト。」

ーアルト、君は振り返るんじゃないよ。

「…ん」
「コルン様どうしよう…!アルトが、あるとが!!」
「大丈夫ですから、貴方がしっかりしなくてどうするんです。
…それよりも、これは一体どういうことですか?」

アルトが急に倒れ、少々息が荒くなっている。
熱があるわけでもないし、
と言うか天使が熱を出すものではないのは事実である。

夢を見ているように魘されているようにも見えるが、
天使が眠ることはましてや夢など見るわけもない。

それらはすべて、人間に与えられたというものであって。
天使達は、与えられることを権利をはく奪された者達なのだ。


「わかりません、ただ、ただ加護天使の話してたんです。」
「加護天使の?」
「ええ、前の加護天使が、昔は華神だったんだって。
その話したら、急にアルトが…!」
「なるほど…だそうですが、どうされます?」

そう通信をいつの間にかしていたコルンが杖に声を掛ける。
その杖からの声主に、聞き覚えがあった。
少し低い声で、凛と話す人。


『…駄目だね、出来れば第七からカミカゼ連れてきてもらった方がいい。』
「わかりました」
『事は一刻を争う。私も連絡してみる。』
「お願いします。」

ぴっと音を立ててメルは身体を動かす。
何処へ行こうというのですか、と言った大神官にメルは頼み込んだ。

『すみません!アルトが、アルトが発作を起こしたんです!!』
「…発作、ですか?」
『ええ、あの子は、あの子は元華神なんですよね?』

それも、とっても前の。
そういったメルに、その情報が何処からかは後で聞くとして、要件を聞きましょうかと大神官が述べる。

『第七宇宙からウイス様に連絡を取りたいんです。』
「わかりました、私からお伝えしても?」
『お願いします!できれば界王神様に瞬間移動で来てもらえると』

その旨伝えます。そう頷いた大神官がすぐに連絡を取る。
ぱっと出てきたウイスに、何事でしょうかとウイスが訪ねる。

「少々緊急事態がおきまして」
「緊急?」
「今すぐカミカゼさんを連れて第8宇宙の破壊神星に行って欲しいのです。アルトさんが発作を起こした、とカミカゼさんにお伝えすればすぐにわかると思います。」
「わかりました、伝えます。」

その言葉に、ほっと安心したメルは床に身体を下した。

「おやおや、腰が抜けました?」
『そりゃ、抜けますよ…よかった。』

急に後ろからビュンと音がしたのに、恐らくカミカゼが反応したのだろう。
すぐにウイスはシンの元に飛び、カミカゼと共に破壊神星に向かうだろう。


+++++++++++++

息がしづらい。苦しい。つらい。なんで。どうして。
海の中にいないのに、海のような浮遊感と、息のしづらさを感じる。

ー貴方は賢いですね、やはり頼んで正解でした。

ですが、少々迷うのが厄介ですよね。
そういう彼の姿を、見つける。
手を伸ばそうとしても、重くて難しいったらありゃしない。


「もう、一体何時まで寝てるんですか!!」
「ぎゃわっ!!!!!」

ひっぱたかれて痛くて飛び起きた。
白い花畑の上から起き上がって、もうどうしてと振り返る。

其処に居た人は、

「か、みか、ぜ?」
「はい?一体何寝ぼけた顔をしているんですか貴方と言う人は。」

え、だって

「第8で、第7にいて、あれ」
「はぁ?寝ぼけたことを仰らないで下さい。
此処は第8でも第7でもありません。」

嘘だ、そう起き上がって空を見渡す。
感覚を研ぎ澄ませて見る間、衣服が見えて目を見開いた。

「此処は第1宇宙」

貴方は、華神じゃないですか。

+++++++++++++

か、しん。
わたし、が。

「ええ?まだ寝ぼけてるんですか?
惑星を破壊しにいくって話だったでしょう?」
「えっ、あっちょ」

急に腕を掴まれて歩こうとした
カミカゼだったが、ぴたりと止まる。
私が心配しているから、困った顔をしているから?
ため息を吐きながら、もうと抱きしめてきた。

「っ!?!?!?!?!」
「ほら、悪い夢でも見たんですか?」

此処にいますよ。ちゃんと。そういって背中を叩いてくれる。
あ、この背中を叩くの、前も感じた。

ー大丈夫だよ、ほらこうやって叩いたらさ、居るように感じない?

此処に、生きているんだぁって。
そう思い出す記憶に、涙があふれてきた。
それに気付いたカミカゼがぎょっとした顔になる。

「ちょ、ど、どうしたんですか、や、やっぱり本当に悪い夢でも」
「や、ちょ、いやちが、うんだけど」

悪い夢?あれは、夢だった?
いやそんなことはない。そんなことはないはずなのだ。
なのに、段々記憶が薄れていく。

一体誰を見ていて、何をしていたのか。
忘れていく、感覚が非常に怖くて。


「…アルトリア?」

どうされました?そう言われて顔を上げた。
アルトリアなんて、私はそういわない。
私は、私は

「アルト、だよ?ねぇ、カミカゼ?」
「………まぁ、いいでしょう。」

色々飲み込んだ感じがしたが、此方も良いとしよう。
そうでないと話が続かないからだ。


「ではアルト様、少々お仕事の続きをですね。」
「ひぇ」

嫌とは言わせない。そう頬を引き千切らんばかりにつねるカミカゼ。


「…ほら、夢なんかじゃないでしょう?」
「…かみかぜ?」

泣きそうな顔で、どうか此処を見つめて欲しいと言いたそうに笑う。
彼をみて、アルトはうんと頷いた。

オレンジ色の髪の毛が風に揺れてふわりと浮かんだ。