ところでそのプリンはなに?








あのですね、




「アルトさん?僕は言いましたよね?
お仕事してくださいって。」




なのに



「なんで貴方というお方は、
星のど真ん中で食べ物を
頬張っているんですか……!!!!!」


そう握り締めた右手に力が入り震えるのを見ながら
アルトは口の中にオレンジ色のゼリーを飲み込んで話す。

「んぐっ…だって、お腹空いてたから♡」
「空いてたなら私に言えばいいでしょう!!
そういう話の元で私は付き添いをしているのですよ!?!?」

第一とカミカゼが指を指して話をする。

「貴方達華神はそもそも、
あのお方から生まれた原初の由緒正しい者達です!!
僕は華神のレベルが余りにも低いからと言って
付け加えられた言わばおまけ程度のものです。
他の華神様達を見て下さい、そりゃあもう
破滅と希望をぐっちゃぐっちゃに
混ぜ込ませた宇宙を作り続けているのです」

なのに貴方と言う人は!!!!

「呑気に作った星で食べ物をむさぼらないでください!!!」
「えぇ〜〜この星可愛いし美味しいしいいじゃん!」
「ダメです!他の惑星からしても得がなさ過ぎます。」

ケチ!ケチで結構。

「こうして告げ口など、
私は本来華神だったから言えることであってですね。
話を聞くところによりますが、
本来の加護天使という方達は
基本的に中立を全うする手筈なのです。」
「へぇ〜〜」
「だから人の話をききんしゃいと!!!」

怒るカミカゼに、口の中へとプリンをぶち込む。
美味しい?とニコリ笑うアルトに、まぁ物に当たっても悪いというもの。
プリン自体は美味しいので、まぁ美味しいですがと答える。

「そうそう星を宇宙を作っては消してを
繰り返し続けたらミスしちゃうよ。」
「…と、いうと?」
「ん〜本当に大事な星?ってやつがあれば、
それは置いておいた方がいいじゃん?」

だから、それを見て回ろうと。
そういったカミカゼの顔が青ざめ、ドン引きする。

「貴方一体何億何兆年という月日を無駄にさせるおつもりですか…」
「ん〜でもある程度はバーンって作って放置して、間引きするんじゃないの?」
「そんな植物が育つ芽の間引きをするみたいに言いますけどねぇ……!!!」

本当に面倒だし難しいったらありゃしないのだ。

「最初のうちにぽんぽんと大事なものを見つけてしまえば、
後でろくでもないことになるのは分かっているでしょうに。」
「ん〜そうだろうかねぇ。」
「ええそうに決まっています。決まり切っていることです。」
「じゃあ、その大事なものを、ずっと持っているとでも?」

そういってアルトはスプーンをカミカゼに突きつける。
じっと見つめて、何処かを誰かを見ているように。

「後で出てきた大事なものと、
今の大事なものを比べる程、陳腐なものだと?」
「…全部なんて、抱え込める程器用ではないでしょうに。」
「ふふ、でも貴方がいてくれるんでしょう?」

私とタッグを組んで、この第1宇宙で。

「それなら、どんな敵も華神もなんなくクリアできちゃうよ。」
「…はぁ、先が思いやられますね。
本当に、今後もし師匠が出来れば頭が上がりませんよ。」
「う」

思い当たる節があったため、ちょっと唸ったのは許して欲しい。

「…宇宙はとめどなく続くものです。
それを所々止める、となれば
それなりの技量や力量が問われます。」
「それを練習するためにも、作り続けては破壊しろと?」
「ええ」
「でも幾つかの星や銀河は破壊と創造予定だよ?」
「それでも足りません。もっともっと、鍛錬を積んで下さい。」

そうして、何が出来るのだろうか。
何も成せなかった時、何になるというのだろうか。

アルトはふと思った。
フェル達はまだ華神達とは言えない子達だ。
ティーナ達の事を思い出し、メルが話していた内容から察するに、
どうもかなりの華神が淘汰され続けていた。

もしも。もしもここが、その始まりだと言うのならば。


「(私は、此処で見極めてあげなきゃいけない)」


これが本当に正しいことなのかどうか。


「…はぁ、言っても聞かないならば、好きになさい。
後で困ったと泣き縋ってもどうにだってできませんよ。」
「…うん、それで、いいよ。」


ー生きなさい、貴方は、何時かの為に生きるべき存在なのです。


「私は何度だって、後悔をしない生き方をするから。」
「…なら、そのプリンとやらを買って帰りますか。」

レシピも入手しましたしと言って、カミカゼが手を差し伸べる。
それに、アルトはうんと頷いて手を取った。


+++++++++++++


「ところで、そちらは何をしているのですか?」
「嗚呼、神の言語、知らないの?」

家に帰り、アルトは部屋の中の資料を見つめては整理していた。
あんまりにも汚い字だったので、つい書き直していたのだ。
ほぉと言ったカミカゼが見たこと無さそうに見つめていた。

「あれ、神の言語ってないっけ?」
「ええ、制定は正しくされていませんが、
候補なら今書かれているのがそうですよ。」

この言語ならば、見やすいですし、分かりやすいですね。
そうしましょうとカミカゼが華樹神に連絡を取りに行く。
あっ待ってと言っても聞かず、
アルトは下に置いていた本に躓き転んでしまった。

「ふぇ〜〜〜」

まさか私が原因で神の言語が決まったとは思っておらず、
アルト自身、もう少し何かあっただろうにと半泣きである。

「まぁ、でも…元の場所に帰る様に調べないと。」

元々、フェルと話をしていて、この場所に飛ばされたもの。
正直第8宇宙と第1宇宙が因果やらなんやらあるとは到底思えない。
ならば、この時間に何かの原因があるとみた。

アルトは資料を漁っては解読という名の清書を繰り返すのだ。
カミカゼが行ってしまったのはもう諦めるとして、
暫く数十年程は此処で本の虫になるのも、またいいと思った。


「…華神、かぁ。」

願いを叶えて欲しくて切望の中、華を咲かせた者達の総称。
その願いが、本当にかなった後、どうなるかを、彼女らは知っているのだろうか。

今の世界を、この世界の次が、どうなるかを。


「……勉強しよ」

ない頭を考えても無駄。
今は兎に角、書庫の中を綺麗にすべきだと思った。



+++++++++++++

「休憩にしませんか?」

これ、言葉をしゃべりなさい。
そう軽く頭を叩かれて顔を上げた。
少し心配そうな顔の、カミカゼと目が合う。

「…全く、詰めるのは構いませんが、限度という物を知りなさい。」
「うう」
「それにしても、えらい量を纏めましたね。」

軽く書庫の半分は経過した辺りだ。
これからどんどんと星の場所やら特殊なものやらが増え続けるだろう。
そういうのも相まって、此処は作ったのだ。

此処はアルトとカミカゼが一緒に作った図書館だ。


天井は突き抜けており、筒の様な場所のど真ん中に浮遊している。
小さな机の上にはいくつもの本を置いている。

「はぁ、やれば出来るとは思っていましたが、こうもやるとは。」
「煩い。集中力切らしたら五十億年呪い続けてやる。」
「ふふ、やれるものならやってみなさい。」

どうせできもしないくせに。
そういってアルトが放置していた本を手に取り、本を元ある場所に戻そうと動き出す。
それを見てどうとなることもないのに、アルトはちらりとカミカゼの方を見つめていた。


「…したら、お前も眠ってくれるのかな。」


アルトは目を閉じた。
そんなこと、できもしないくせに。とはよく言ったもので。
確かにアルトという性格上難がある者からして、無理がある。

呪い続けるどころか、すぐ先の事すら忘れるのに。
一体どうやって続けるというのだろうか。

まぁ、しても、いいけれども。

そうして私を、覚え続けてくれるのだとしたら。


それは








「…加護、天使…で、すか。」

アルトの髪の毛が白くなり続けた時のことだった。
ええとルトラールから声を掛けられた。

「それは加護天使の印です。
日を追うごとに髪色は白くなり、
目も紫色に染まるでしょう。」
「…加護天使になれば、どう、なるんでしょうか?」
「それは…貴方が一番、分かっているのでは?」

そう、何時しか紺色だった彼の前髪から覗き込まれた目に身体が止まる。
暗い紫色にも見えたその目が、何処か言っている気がしたのだ。


もう、決められたものなのだ。


願いは、叶えただろう?


「……わか、りました。」
「時期が来れば身体が消え去ります。
次身体を認知したとき、私の名を呼びなさい。」
「ルトラール様の?」
「ええ、そうすればお迎えに行きますよ。」
「…迎えに、こなければ?」
「その時は、その時です。」

ということは、魔女や悪魔になることだってあるということ。
それは、それまでで。加護天使になる器ですらなかった。

「…ならなくても、迎えに来なくてもいいと言えば?」
「…それはいけませんね。必ず選ばれたら迎えに行きますよ。」

何を言っても、何と言っても、ね。

そう笑って消えるルトラールに、アルトは項垂れた。
これは、決まり切っていることなのだという。
この時間を何年何十年と、途方もない時間を過ごした後、
彼女達に出会えるというもので。

「……どうして、そんな、願いをっ。」

私はただ、願っただけなのだ。
確かに、小さな、お願いだったはず。

でも、そんなこと、もう忘れてしまって。

切に願った願いは、もうこの感情を何と呼んでいいかすら忘れたのだ。


身体が徐々に薄くなっていく。
これが、加護天使になる時の状態かと他人事のように見ていた。

白い花畑の中、空を見て手を伸ばした。
其処には、彼らは存在していなくて。

この広い世界の中、独りぼっちで落ちてしまった私は、
一人このまま消えていなくなってしまうのか。
そんなのは嫌で、怖くて、辛いから。

だから、嗚呼でも、ダメだと思う。
願いを変えれば、それは華神ではなくなる。
でも、今更どうというのだろうか。

魔女になってしまえば、もう。


「ダメですよ」
「…っ」

貴方は其処に、行くべきなのです。

そういって後ろから抱きしめてくれた者に、アルトは固まった。
徐々に視界がぼやけていくのに、嗚呼もうと声が聞こえる。

「泣かないでください。泣き虫を直してもらわないと、次の華神が驚いてしまいますよ。」
「…っみ、かぜ」

加護天使の者達を見たことがある。
髪の毛は白くなり、目は紫色になる。
それは、形が変わるということであって、
この記憶も、全部、なくなってしまうということで。

それが怖くて、たまらなく怖くて泣いたのだ。

そっと抱きしめてくれたところを変えて、今度は抱き合う形になる。
顔が見えないことをいいことに、ぼろぼろと涙を流す。
静かに、でも沢山、泣いて泣いて、泣き続ける。

「忘れないように、願えばいいではないですか。」
「っふ、っ、っれ、も」
「貴方は多くの星を見て、多くの価値を知りました。
それは掛け替えのないものですし、捨てるには惜しいもの。」

ならば、もし、もしも、怖いというならば。

「私が、持ち続けて差し上げます。」
「……っ、でも、それっ」

ぷちりと、嫌な音がする。
華だ、華の音がした。
顔を青ざめるアルトに、もう遅いですよとカミカゼが笑った。

華を燃やしながら、手に込めて胸に置いて笑う。
手を伸ばしても、身体に縋っても、ちゃんと掴めない。


「どうか、貴方が、貴方らしくあり続けますように。」


ニコリと笑った後、カミカゼはそっとアルトに近づいた。
もう泣かないように、おまじないを添えて。


「……」
「ほら、泣き止んだ。」

消える自分の身体と同時に、
カミカゼの身体が背中からどす黒い鎖が生えてくる。
嗚呼いけない、これはいけないやつだと思っても遅くて。

「大丈夫、貴方は強い人ですから。」

違う、そんなことはない。
現に今だって泣き虫だし、迷子になるし、好き嫌いだって多い。

「僕が居なくたって、一人でやれますよ。」

そんなことはないのだ。
独りぼっちになって、生きれない。
生きれたとしても、それは知っていた人がいたからで。

「だから大丈夫」

僕が、貴方を呪います。

そういった後、カミカゼは目を閉じて笑いながら身体を投げ捨てる。
浮遊した身体から、鎖が胸で止まり、身体の色が灰色になって止まる。

嫌だ嫌だと、手を伸ばしても、透けて掴めなくて。
こんなこと、こんなことになるくらいならば、
もっともっと、彼のことをあしらってしまえば、

いや、きっとそんなことをしても無駄なことで。
近付き過ぎたのだ。そうだ、きっとそうだ。

嗚呼どうしてこうなるのか。
笑いあって兎に角前を向いて歩いて、
それが長く長く、続けばいいと思った。

色んな星を巡って、いろんな食べ物を知って、
彼もまた、生きているのだと知った。

甘いのが苦手なのは私が甘すぎるものを押し込んだトラウマからだったり、
空を見るのが好きなのだって、私が知っていた記憶を頼りに話したからで。

嗚呼違う、どれもこれも、大事だった。
彼の言う通りで、大事なものがもしも出来たら、
それを手放さざるを得ない時、本当に苦しくなるのだ。


胸にわだかまる、この痛みを、人は言う。





苦しいのではなく、







「すき、だから」




貴方と共に、旅をしたかった。




溶ける身体に、首を振った。


「どうか、どうか、お願いです」


この世界に神様がいるのならば。
どうか、願いを聞いて下さい。

手を胸において、目を閉じて言うのだ。


「この人と、出会わせてくれて、ありがとう」


お礼を、言いたかった。
ちっぽけな願いだとは思うし、呆れると思う。
一世一代の力をこんなことにつかって
貴方と言う人はって怒られると思うけど、
それでも、それでもいい。

寧ろ怒られた方がうれしいくらいだ。
何時ものように、動いて、私を見て、話を


「…っふ、だから、わたっ、しね?あな、たのこと」


話が、出来れば、どれ程良かったのだろうか。


涙が止まらず出てくる。
目を開けても閉じても同じなのに。
どうしても目をぱちくりと瞬きさせてしまう。

こんな場所見なくてもいいのに
いっそのこと、忘れてしまえれば。

嗚呼、でも、そんなこと許されない。

彼に、悪いから。


「だぁいすき」


だから、私は、いや私も願うのだ。



どうか、また。



もう一度。