くれた名前も返すから
目を醒ました。
空は青く、澄み渡っていた。
傍に居た人は、青い髪色をした青年の様な人だった。
「…貴方が、加護天使様ですか」
「……ええ」
ルトラール様が、隣に居る。
ニコリと微笑んでくれているのだが、此処は何処だろうか。
「今日から第1宇宙の華神を務めます。リホルトさんです。
リホルトさん、此方は加護天使のアルトさん。」
よろしくお願いしますそういって頭を下げるアルトに、
女性ですかと驚きを隠せない人に首を傾げた。
「ええ、少々諸事情がありまして。」
「んん?」
「気にしなくて良いですよ。」
そういわれたので、まぁ気にしないで良いのかもしれない。
白い花びらが頬を掠って空に上がった。
アルトさんと言われて振り返る。
紫色の目は、此方を見つめていた。
「お仕事、任せましたよ。」
「………はい」
何かを、考えていた。
でも、その何かが、分からなくて。
胸に空いたこの空間を、人は何というのだろうか。
「アルト様?」
「…行きましょう、此方が我々の家です。」
二人でいたはずの空間が、色褪せていく。
色鮮やかに咲いていた時間が、消えて無くなる。
その感覚が、酷く胸を締め付けていく。
忘れろと言い聞かせても、呪われたのだから難しくて。
本の内容から察するに、どうやらこの世界はあの時間から
もう、50億年も過ぎた場所らしい。
「…どうされたのですか?どこか、痛いところでも。」
身体の力が抜けて、座るアルトに、リホルトが困る。
アルトがぽろぽろと泣き出したのだ。
ぎょっとしたが、すぐにハンカチを出してそっと頬をぬぐう。
「就いて間もないと話をお聞きしています。
至らぬ点が多々あると思いますが、どうか」
「っ、あ」
「どうされました?」
「…あ、なたは…その」
「ゆっくりで構いませんよ。」
ニコリと笑ったリホルトに、アルトは問う。
ゆっくりと、涙を流して言うのだ。
「っここ、は、いま、いつ?」
「…アルト様がお眠りになられて、50億年が経過しているとはお話に聞いています。」
「っ、そう、そっ、そっかぁ。」
「それが、どうされました?」
そうだ、そうなのだ。正しい。正しいのだ。
でも、それでも涙が止まらない理由は決まっていて。
忘れていない。
誰もかれもが、昔を忘れても。
50億年もの呪いを、飛び越えてきた。
「なんでもなぁい!」
この
+++++++++++++
「アルト様、此方でよろしいと思います?」
「うん、リホルトはいい子だし、良いと思うよ。」
「いやですね…いい子かどうかは別の問題だと思うんですが。」
そうため息交じりに、破壊しようか相談をした話が流れる。
リホルトとは既に数億年の月日を共にしている。
カミカゼとは、数千年という月日で、一億年もいっていない。
でも、それでも、色褪せていても、覚え続けていた。
それが酷く、嬉しくて、何よりも、尊いもので。
「アルト様?」
「ん〜?なぁに?」
「ご機嫌ですが、何かありました?」
「いんや?なぁんもないよ。」
そんなことより、次の資料は。そういって星の資料を取らせにいく。
というのも、膨大なこの図書館の中が普通に入り切ることはなかったので、
リホルトと一緒に図書館を新たに作り、
そして今いるところはその新しい方と
古い方の書物を見比べていた場所に位置してる。
つまり渡り廊下的な位置にあり、アルトは古い方を熟知しているため
リホルトには新しい方を取ってこさせ、アルトはその間に本を取りに行くのだ。
コツコツと音を立てて歩いては軽く走る。
走らないという声を出す者は誰もいなくて。
「…初恋は叶わないって言うけど、本当なんだねぇ」
涙を零しては前を向いて歩く。
ごしごしと拭いたって別にどうでもいい。
誰も、誰も、それを咎める人はいないのだから。
そう、誰も。かれも。
「……っ、」
これは、毒だと思う。
メルからこういう話は聞いていなかった。
呪われ、時間を止められたものの末路を、私は知らない。
でも、もし、もしも、その時間を越えて、願いが続くならば。
彼は一体、何処で眠っているのだろうか。
「…忘れなきゃ」
もう、過ぎた願いなのだ。
こんなに思い続けたって苦しいだけだ。
嬉しいことなんて一つもありゃしなくて。
でも、それでも、覚えていたいと叫ぶのだ。
これは、人間に選ばれた証というもので。
今も引き継いでもってはいけないもので。
現に誰も、加護天使になった人たちは覚えていないという。
それが、どれ程の幸せであることか、彼らは知らない。
私だけが、取り残されて生き続けている。
息を、継続して、続けて。
「息継ぎなんて、もう忘れちゃったのに。」
それでも、息継ぎをして前に進むのだ。
ため息を吐いて、そっと本を手に取った。
しおりが落ちてきたのを見つけ、本に挟もうと手に取る。
「…っ、これって」
ぱさり、いやかさりと音がたつ。
用紙が手で擦れるような音だ。
其処には、神の言語ではない文字で書かれていた。
「…馬鹿、そんなの書いたら」
“何時だって帰れますよ”
「何処にだって帰れないよ…!!!」
「アルト様?見つかりました?」
「うん、ちょっと手間取っちゃってね。」
そういって笑って答えるアルト。
そうでしたかと遅かったので
見に来てくれていたリホルトにごめんねと謝る。
嬉しそうに誤魔化すのも、傷付けたくないから。
気付いた時には、教えてくれた彼女はいなくて。
「(貴方はこうも、強い人だったのね)」
何度も何度も何度も、その願いにその身を落とし、走り続けて。
そんなこと、私は出来ないし、この身体がもしまた変われば、どうなるかわからない。
もう辛くて苦しくて、怖いから逃げたいくらいなのに。
それでも、貴方は、12回もの時間を走り続けて、あの場所に辿り着いた。
それがどれ程の辛いことで、どれ程の凄いことなのか。
貴方は知らないのか、それとも
知ることすらも、その願いに淘汰させたのか。
「(いずれにせよ、これは使える)」
誰もかれもを騙すというのは少々胸が痛いものではあるが、
これは自分を守る防衛本能というものだろう。
記憶が未だ残る、この身体の異質を、私は抱え続ける。
周りに何と言われようが、これを私が侮辱すれば、もう終わりだと思う。
ならば、抱きかかえてしまえばいい。
あの日、沢山泣いた私を抱きしめてくれた彼のように。
「だと思うんですが、どうでしょうか。」
「いいと思うよ」
「またそうやって、僕の話を聞いてます?」
ー貴方と言う人は、私の話を聞いてるんですか?!!?!?!
「うん、聞いてる。だから言うんだよ。」
君が言ってくれることは、全部いいと思う。
だって、私は……ううん、僕は
「貴方の、加護天使なのだから。」
「……アルトさん」
「はぁい?」
「そういうの、何処で覚えてくるんですか?」
「あいぇー???」
「ま、いいですが。これでいいならあっちの方も…」
「あ、まった」
いやダメか?いやでもなそう悩むアルトに、
どうされました?とリホルトが問う。
「いや、中立とは言えど、これは些かルール違反になるのかと。」
「言うだけただと言うものでは?」
「んん〜〜〜〜いやでもなぁ。」
「別に構わないと思いますよ?」
そういったのは
「だっ、えっ、」
「ルトラール様!」
「多少の誤差程、流して差し上げます。」
「…星を、壊させてほしくない、とかもですか?」
「……内容に、よりますが。」
これはあれだ、賭けになるかもしれない。
もしも、彼に正直言ってしまえば、いやでも彼とて上の神様。
下手に嘘を言えばこっちの記憶を書き換えてくるのは明白。
ならば
「他の宇宙もこの星もですが、かなり古い星々があります。」
「ええ」
「いっそのこと、その星を丸ごと此方で管理するのは?」
「…各宇宙1つずつ、管理を?」
「ええ」
「華神達が?」
「華神でなくとも、加護天使でも引継ぎをする星を決めるのです。」
そうすれば、数多の適当な華神なんて考えなくて済む。
そういったアルトに、一理ありますねとルトラールは言う。
「確かに、ここ最近華神の質が非常に悪いんですよ。」
「そうなんですか…」
「ええ、アルトさん、そういうんですからめぼしい星があるんですよね?」
「え゛」
おや?そうではないのですか?
「私はてっきり、そうだと、思ったんですがねぇ?」
「……無理、この人もう無理。」
「っくくく、貴方くらいですよ。そうやって言ってくれる人は。」
本当に皆さん私のことを敬い続けてるんですよね。
いや絶対私のこと放置して楽しんでるだけですよね?
おや?それなら別にいいんですよ?消したって。
いやほんとにすみませんでした!!!!!!
そう左右で話が進むのに、笑いだしたリホルトの声で止まる。
「っふふ、す、すみません。いや、お二人とも凄く仲がよろしいんですね。」
「ちっ、違いますよ!ルトラール様はちょっとお茶目が過ぎるだけで」
「それはアルトさんの方では?」
「あーやめてくださいお願いします消すのだけは勘弁してくーーーださい!!!」
「人に頼んでいるような言い方ではないんですが…ま、いいでしょう。」
本題に戻りますよ。
「各宇宙、アルトさんが見つけて決めて下さい。12ならば手を打ちましょう。」
「え゛この宇宙何個あるのか分かってます???」
「ええ、24ですね。」
「半分を犠牲にしろと!!!!!!」
「ええ、別に構いませんよね?」
それに
「下手に多く起きすぎると、後で泣くのは貴方の方でしょう?」
「うう……痛いところをついてくるなもうほんとこの人って人は。」
「っくくく、ではそういうことで。」
そういって消え去ったルトラールにアルトは仕方がないと腰を上げる。
「ならばやってみせようホトトギス!!!!」
+++++++++++++
「ぜぇ、ぜぇ」
「…だ、大丈夫ですか?」
「るっ、るどらぁるざま」
なんどかしました。
そう倒れつつやってきたアルトに、
お疲れ様ですとニコリ笑って答える。
書類を手に取り、軽く見ても?と言われたのでうんと答えた。
あれから超特急で各宇宙を走った走った。
メルの話を記憶を頼りに、各宇宙の最古で止められていた所は
宇宙の番号は多少違えどあるにはあったのだ。
まぁ一部違ったのが、辛さの原因である。
「ふむ……いいですね。」
「っ!!!では!!!!」
「ええ、此方の12個であれば、此方で管理しましょう。」
それにどれもこれも、星としては此方も興味深い話ばかりです。
「頑張ってきましたし、何か褒美を上げれますが、何がいいですか?」
「何って…あ、いえ、別に。」
そういわれると流石に出てくるというものがない。
まぁ強いて言うならば、リホルトの仕事量を減らせとは思うが、
それは彼に頼めばいいものだし、現状より減らしたら
割と怒られる程、かなり簡略化されてしまった気がする。
「そういえば最近休暇を取っていませんが、前の様に取らないのですか?」
「……いえ、取る暇もありませんし」
「取るつもりもない、と。」
うっ、痛いところを突いてくるなほんとこの人。
メルが苦手だと言っていた理由も少々わかる。
見え透いた嘘をついているつもりはないのだが、
どうにもこうにも、バレている様にしか感じない。
「ふむ…では、こうしましょうか。
アルトさんは暫く休暇を強制的に取らせます。」
「っえ゛」
「少々働きすぎだとリホルトさんから苦情も頂いてます。
これを機に長い間息抜きをしてくればいいのでは?」
ああそれこそ
「旅をしてくればいいではないですか」
+++++++++++++
そうは簡単に言うてくれるが、
「私が旅しなくなったのも分かっている癖に何を言うんだか。」
正直、リホルトに旅の話はいっっっさいしていない。
なんなら私の方が引きこもってばかりで、
外に連れ出される羽目になっているくらいだ。
仕事をしていないというわけでもない。
ちゃんと家事炊事はしているし、洗濯もばっちしだ。
掃除だってコルン様がみたら驚くくらいには完璧である。
ただ、幾ら完璧にしたって、誰も褒めてくれるわけでもない。
もし褒めてくれたとしても、それは何とも言えない感情が浮かんでくるだけで。
そう考えたくなかったから、私は旅をすることをやめたのだ。
余りにも沢山の想い出が頭の中に詰まり過ぎていたから。
忘れるという人間の行動は本当によくできていると思う。
数十年生きるだけでも、忘れるだけでなんでもできるだろう。
嫌な記憶があれば、嫌なことをする気力も失せる。
そう、嫌でなくとも、大事だったとしても。
「この星を、この星たちを、私は止めるしか術がない」
封印してしまうという話を前にコルン様達から聞いていたが、
私が全てやり続けていることではなかろうかと最近思い出してきた。
この先どれ程の時間が流れるかは定かではないが、
まぁある程度のことは全部私が原因ということは事実であろう。
現に神の言語という前科が私についているのだから。
「…前科二犯」
……求刑に処した方がいいのではなかろうか。
いやでも、ああいうのって時効があったりするし、
いやでも普通に時効の範囲を超えた何かをしているだろうて。
「ま、そんなこと言っても無駄、か。」
此処は惑星ツヴェルク。
白い花を咲かせる、綺麗な星だ。
リホルトを見つけたのも、此処だし、カミカゼと出会ったのも、この場所だ。
だから、この星だけでもと思ったが、他の星も同じならば、と考えたのだ。
最古の惑星達、とでも名付ければいいのだろうか。
まぁ、そんなことをしたところで、何時かは消え去る星々。
想いを馳せなくてもいいのだが。
「…にしても、綺麗な絵だな」
その絵は、確かに綺麗だった。
陽だまりの中で、子供が涼しげに眠っている。
優しい時間で、確かこの星には記憶を留める種族が生きていたはずだ。
「もし、ご老人」
「おお?どうされた旅の者よ」
「この格好をした似たような髪と目の色の者が此処に訪ねてきてませんか?」
大分古い話ではあるが、これは賭けだ。
少々考えた老人がこっちへと言って通される。
露店から離れた、薄暗い森の中を歩き続ける。
「して、お主の名を聞いても?」
「…アルトです」
本名を名乗るわけにもいかない。
偽名でもあり、本名に近いこの名が良いと思った。
それに、アルトか、良い名じゃなと答える。
「お主は一人で此処に?」
「ええ」
「そうか…一人で、生きれるようになったようじゃな。」
そう青い目が此方を覗く。
何を知っているかは、知らないが。
でも、何かを知っている、感じは受け取れた。
「そう睨むでない。お主が来たら見せろと言われておったからな。」
もう古い古い、伝説の様な話じゃ。
確かに、この星はもう長い年月が経っている。
隕石が落ちたり湧いたり降ったりと、まぁ色々。
その為、原形を残しているのが凄い場所だってある。
「この家には、お主しか入れんように細工がされておる。」
わしらも噂しか聞いたことがない。
だぁれも、この部屋に入ることが許されていない。
「あれ、これでもドアノブないじゃないですか。」
「そこの家が全体的な絵画になっておるからの。
本当の、お前さんなら、そのドアを開けれるはずじゃ。」
じゃ、そういってお爺さんが消えていなくなる。
いや一体誰やねんとは思ったが、まぁと前を向く。
どうせ旅の道連れ世は情けだ。
違うって色んな方向からバッシングが来る声が聞こえるが、気にしない。
とにかく、この扉を開けるだ、け。
「…開けて、その先に、あるのが、ちがえば?」
それにぴたりと身体が止まった。
もし、もしもだ、
この先がメル達の世界であれば?
この世界とはおさらばになるだろうし、これ以上居てもいいメリットはない。
でも、これの先に、自分の知りたい場所があれば。
「………いや、待つか。」
アルトは決意した。
この場所を、キャンプ地とすると。