0点だと叱ってくれる
「いやキャンプ地とは言ったが、」
誰も家を建てろとは言ってなかろうて。
ルトラール様から緊急で休暇を言われ、
自分の手で家を建てて驚いてしまった。
簡易的ではあるが、家の広さはこじんまりとしている。
小さな人ひとりが住むにはちょうどいい広さだ。
二階建てになっており、二階の方にバルコニーを付けている。
其処から向かいの家が見えるというわけだ。
どうせ開けるなら、覚悟を決めてから行きたい。
なら、その覚悟が出来るまで、此処に居座ればいい。
旅をしなくなったのは、分かり切っている。
「旅をしたいのは、貴方が居たからなのに。」
貴方が居ない旅なんて、そんなのつまらないに決まっている。
一人でふらふらとついていったって、貴方は見つけてくれた。
この場所に、私の居る、此処に。何時だって来てくれた。
だから、だから私は笑って何度も何度もふらふらと旅だった。
メルと二人で旅をした時だってそうだ。
彼女が心配だからという意味もあるが、それよりもメルと旅をすれば楽しいと思ったから。
それは、カミカゼと二人で旅をした記憶を、思い出したかった為に?
「…だとしても、憐れだな」
この世界は、無常なのだ。
何時消えてもおかしくない星を、何故加護天使自らが願う。
中立というものから逸脱した存在が、何を言うのだろう。
消えてもおかしくないことを何度したって許されている。
この現象を、打破するならば、元の場所に戻るかもしくは
「あのドアを抉じ開けてでも入るか、か。」
正直中に人が居たら怖いし、額縁を壊すのは怖い。
記憶が中に入っているということは、
額縁を壊せば消えるということ。
それをさらっと出来る程、適当な生き方はしていないのだ。
「いずれにせよ、時間はあるにはあるが、長くはいれない。」
旅をしろと言われているのだ。
一応家を建ててしまったが、
これでも旅の目安として
後20か所くらいは行きたいところがある。
一応旅をしない間何もしていないというわけでもないのだ。
カミカゼが作ってくれていたレシピも完璧で、
自分が作っても美味しいので、よくリホルトには褒められた。
まぁ、その味は、再現出来なかったのだが。
欠けたパーツを幾ら望んだって、意味がない。
だって、それはもうないものなのだから。
「…もし、あそこにいたらば、旅、するかな。」
どんな顔をするのだろうか。
最初は、最初は流石に恋しくて恋しくて
まぁよくカミカゼの身体に無理でもしがみついて寝ていたもんだ。
嫌だと言ってもついていたので、途中で引っ付き虫とあだ名で呼ばれた始末。
まぁそれでもくっついて向こうが折れたんだが。
一緒に寝て、一緒に旅をして。
何処に居ても二人で仲良く時を過ごした。
それこそ、あっという間というべきなのだろう。
時はすぐに過ぎ去り、彼は居なくなった。
未来から過去に飛ばされ、唯一の頼みの綱が消えた。
そのおかげか、未来に希望を抱くことも、
ましてや手を伸ばすことだって、しなくなった。
それっきり、しなくなったのだ。
虚ろな目を、鏡でみても、虚ろに見えないのが、幸いか。
誰もかれもを騙せるような素振りが、自分の首を絞めると。
何とも皮肉なものだな、とアルトは一人心地に笑う。
傷付けたくないから、隠したのではない。
自分が知りたくないから、忘れるために隠したのに。
「切望に願った末路が、此処なんだろうなぁ。」
帰りたい、だなんて気力はとうに消え失せた。
此処が沢山想い出のある大事な場所になった。
きっとカミカゼはすぐに気付いたはずだ、
私が未来から来たものだと、すぐに。
あの、無言を貫いて諦めたあの時から。
だから、沢山を見つけては後悔をすると言ったのだ。
そうして、此処に辿り着いた。
「…開けた先に、待ち望んだものがなくても。」
それでも、私は後悔をしないのだろうか。
「…なんてね。」
目を閉じる。これはまじないだ。
いつか誰かが、起こしてくれることを願う。
そんな、小さなまじない。
+++++++++++++
「……朝、か」
ちゅんちゅんと鳥の鳴き声で目が覚める。
一応目ざめは良いが、
どうにも加護天使になってから
疲れと言うものを知らない。
これも毒かなとは思った。
毒を抜けば、一体楽になるのだろうか。
それは定かではない。
だって毒なんて抜けるわけがないのだから。
加護天使になれば、もう、終わりが見える。
そういえば、加護天使の先なんてあるんだろうか?
「そういや考えたこともなかったな」
華神の願いが叶えば、加護天使になる。
全てを忘れて、記憶をリセットして。
そうした先に、辿り着いた場所は?
一体何処に向かうのだろうか。
「消滅したりして」
それなら、楽に死ねるというもの。
寧ろその方がいいのかもしれない。
誰もいない世界でまた同じ場所を望んでも、仕方がない。
ならば、この身体ごと、消してしまえばいい。
そうして、そうして、笑えれば。
それで、楽になるのだろう。
きっと、きっと。そうだろう。
「…ならば、尚更向こうを見ないとね。」
あのドアを、開けないといけない。
消滅する身体ならば。いっそのこと。
+++++++++++++
「とはいったものの、」
きて早々だが、帰りたくなった。
徒歩十秒だから、帰ろうと思えば振り帰りゃあいいものだ。
ま、そうはしない。
もう決まってしまった。
金色のツタの生えたドアノブが此方を見ているのだから。
「…開けろと」
わさわさと出てくる植物が、イエスと言っている気がする。
余り気が進まないのは、呪われてそうだからか?
まぁ、私が消えて無くなったとしても、変わりはいるだろう。
リホルトはとても優秀だし、
正直加護天使が居なくても全然生きていけるレベルだ。
まぁもし、もしも後悔があるというならば。
「あの子とも、旅。してみたかったくらいか。」
目を開ける。ドアノブを手に取った。
予想以上に軽いドアに、あえて重くしてゆっくり開ける。
たとえこれが、呪われる原因になったとしても。
私はそれで、構わないと思って覚悟を決めたのだ。
此処に、全てを置いていっても。
私は、構わないのだから。
目を疑う、とはこのことだろうか。
それとも、その通りだと思うべきだろうか。
「…やはり、か。」
其処は宇宙の様な空間で、地面も空も夜空を映していた。
数多の方向から額縁が浮遊しているその空間に、ドアを閉じた。
綺麗に消えたドアに、にやりと笑って前を見た。
「此処が、君の居た時間か」
君が、覚悟を決めて呪った時間か。
空には自分達が旅をした場所が色とりどりに飾られて、いや浮遊していた。
大事に切り取ってもらえたのだろう。声も頑張れば聞こえそうだ。
映像のように映し出されている様々な額縁の中に、一際輝く、いや
目を引く場所があった。
「…あれは」
二人が出会った時間
白い花畑の真ん中で、手を伸ばそうとしているアルトが見える。
それに手を伸ばす手が手前に見えるのは、カミカゼ視点なのだろう。
ふと声が聞こえた
「ダメだ」
「…っかみっ」
違う、カミカゼではないと察知してすぐに声を止めた。
近くのように聞こえるだけで、これは過去の異質。
もう、過ぎた願いの塵砂でしかないのだから。
「どうして、そんな泣きそうな顔で手を伸ばすんですか」
「(これは…彼の考えか?)」
どうやらこの場所、というかこの絵画、
不思議なことに映像を心情追加で
映し出してくれるらしい。
なにその思春期ぶっころみたいな殺意剝き出しの額縁。
こんなの思春期の女子高生どころか
そこら辺の歩いてるおじさんですら
赤面で「もういっそのこと俺を殺せ!!!」
とか言い出しかねない。
「どうして、貴方はそんな顔で笑うんですか。」
「…カミカゼ、」
泣きそうに笑う自分が見える。
嬉しそうなのに、何処か悲しさがある。
嗚呼、会いたかったのに、貴方ではないのと言いたそうな顔。
それに、胸が締め付けられそうになる。
「僕ではない、誰かに、何を想いを馳せようとしてるんですか。」
「…それは」
「…別に、貴方がそれならそれでもいい。」
でも、でもね。
「僕は此処に生きているのです。僕を見て下さい。」
「っ」
か、しん。わたし、が。
そう寝ぼけたように浮ついた声で言うアルトに、
はぁという声が聞こえる。
「ええ?まだ寝ぼけてるんですか?
惑星を破壊しにいくって話だったでしょう?」
えっ、あっちょ
急に腕を掴まれて歩こうとしたカミカゼの動きがぴたりと止まる。
「…全く、貴方と言う人は、困った人だ。
そんな泣きそうな顔で、誰を見ているんですか。」
「(それは、貴方を)」
「まるで、僕が化けて出てきたみたいな顔をする。」
割と当てているところ、アルトはうっとした。
正直当たっているので、本当にこの加護天使、侮れないと思った。
っ!?!?!?!?!
「ほら、悪い夢でも見たんですか?」
そういって、アルトに抱き着いたカミカゼが
アルトの背中下を少し見てから、そっと背中を叩いた。
そういえば何故彼は背中を叩いてくれたのだろうか。
「…こうしてやると、赤子も泣き止むとは言いますが、
貴方がそれに引っ掛かるとは思いません。」
「…え」
「でも、やるだけやりましょう。
どうか、大丈夫なのだと、言い聞かせれば。」
そう思いながら、背中を叩いてくれていたのか。
やはりこいつ、出来る奴だな。
そう思っていたが、震える身体に驚いたのか、
身体というか映像が飛び跳ねる。
離れてみれば、ぼろぼろと
アルトが泣きだしてしまったのだ。
おおおおおいと声が聞こえる。
カミカゼの内心がとても心配の嵐でこっちも聞いて苦笑いが出てきた。
いやもう、そんなに心配しなくていいのにと。思えるほどに。
「ちょ、ど、どうしたんですか、や、やっぱり本当に悪い夢でも」
や、ちょ、いやちが、うんだけど
そう言ったアルトに、そんなわけないでしょうと声が聞こえる。
「貴方という人がそこまで泣くというのは余程のこと。
人前で抱きしめられても尚泣くというのは、もういっそ」
誰かが死んだみたいな、そんな、こと。
「…それは、私なのですか?それは、私だったのですか?」
「…カミカゼ、それは違う。それは、」
「それとも、もう二度と出会えないかもしれない絶望なのですか?」
…正解である。
実に単純。
もしもしそれならばと声が続く
「僕は此処に居続けます。僕は此処で、貴方を見続けます。」
「…カミカゼ」
「僕が貴方の世話も、何もかもして差し上げます。
そういう仕組みだったとしても、そうでなくとも。」
いつかずっと、一緒に居られるように。
僕がずっと、努力をし続けます。
「…アルトリア?」
どうされました?そう言われて顔を上げた。
アルトリアなんて、言わないのだ。言わない。
言わないはずなのに、妙にしっくりくるのだ。
アルト、だよ?ねぇ、カミカゼ?
その言葉に、カミカゼが驚いた感じがした。
「…そう、ですね。そうでしたか。」
やはりと声が聞こえた。
「貴方は未来から来た、迷子の神様だったのですね。」
「………まぁ、いいでしょう。」
色々飲み込んだ感じがしたが、
此方も良いとしよう。
そうでないと話が続かないからだ。
だから、飲み込んだ。
「ではアルト様、少々お仕事の続きをですね。」
「「ひぇ」」
流石のアルトもこればかりはひぇっと声が出る。
その分映像と同じようにハモった。仕方がない。
反射的に出てきたのだ、もう本能的に組み込まれてる。
嫌とは言わせない。
そう頬を引き千切らんばかりにつねるカミカゼ。
「…ほら、夢なんかじゃないでしょう?」
「…っ」
「僕は此処で、生きています。例え、貴方の知らない僕だとしても。」
今度こそ、アルトは涙を零した。
最近なるべく泣かないようにと我慢していたのがきたのか、
嗚呼すみませんと声が続けて聞こえる。
もういいんだって、もういいんだって言っても、聞かない。
これは、映像だから、過去の、産物でしかないものだから。
「ねぇ、聞こえているならば、言って下さい。
僕を頼って下さい、僕を、傍に居ることを許して。」
「(そんなの、私が許して欲しかったくらいなのに…!!!)」
「君がいつか、僕のことを忘れる時まで。」
忘れない、忘れるわけがない。
だからこうして旅を進められても、ふらりと辿り着いた。
想い出のある場所だから、此処しかないから。
帰る場所なんて、此処以外見つからないから。
「僕は君の傍に寄り沿い続けるのですから。」
「(だから、あの時大丈夫って言ってくれたの…?)」
もう、何処に行ったって、大丈夫だから。
その胸に、ずっと居続けられるから。
だから寂しいことも、苦しいこともなにもないって。
そういっても、貴方は何処にもいないのに。
夢にすら、会えなくなった
この額縁の先にすら、居ないというのに。
ぼろぼろと泣き続ける自分の声が惨めだ。
早く泣き止めと考えるも、そんなことできない。
彼は優しいと、前から思っていた。
だが、此処まで私のことを想ってくれていたとは、思わなくて。
酷く優しく、触れるその手が嬉しくて。
その感情を、切り取らなくてもいい。
忘れないように、居続ければいい。
そうした末路が、此処ならば。
私は、この先を、歩かねばならない。
何時か本当に、歩みを止めるその時まで。
「(いいよ、もういいよ)」
もう、大丈夫。そう思ったアルトは、ふと考えた。
この中の記憶を、もし、もし一つ選べれるのならば。
「…もういいよ、忘れない。」
でも、こればかりは、置いていかねばならない。
そっとアルトは胸から光を取り出し、額縁に入れた。
この数多にもある記憶の中に、一つだけ。
それを、置いてアルトは外に出る。
「……流石に、時間が流れないわけもないか。」
赤い空に、違和感を感じる。
通信が入ってきたのに、応答する。
ーアルトさんですか、よかった!無事で
「何か起きたのですか」
ー緊急事態です。第12宇宙で、第11宇宙の華神が淘汰されました。
第1宇宙も飛んでいきましてとの声に、すぐアルトも飛び出した。
「…私の馬鹿!!ほんとうに!!!!!」
これは恐らく、罠だ。
異質が取り除かれるというのは、逆に言えば守っていた。
私が、異質になることで、皆の枠を埋めていたのだ。
その枠が、一つ、一瞬でもはじかれれば?
ビーズが飛び散るように、離れ離れになる。
飛び出し勢いをつけても、消える感覚に舌打ちする。
間に合え間に会えと声を出しつつも、
とにかく速度を上げるしかない。
時すらも、飛び越えるような、速度で。