檻には貴方と星とを匿う




・・さい、起きて下さい

『…ん』
「メル様起きて下さい。」
『あれぇ、うい、すさ…?』

ふぁあとあくびをするメルに、おはようございますとウイスが答える。

『ウイスさんもこっちにこれたんですね。』
「ええ、先程ドアを開ければ此方に来まして。」
「ウイスさんが来たと同時に音が鳴り、上の文字も変わりましたよ。」
「一応彼にも今まで起きたことを説明しています。」

ということは、そこそこ眠っていたのかもしれない。
すぐに起きなくて申し訳ないと目をこするメルに
無理に起きなくてもいいですよとウイスが答える。

「まだ眠たそうですし、まぁといっても?
今ここで、貴方を襲っていいのであれば、の話しですが。」
『〜〜〜〜〜〜!!!!!』
「…ウイス、貴方いつもそうやってるんです?」
「おほほほ!そんなやっているわけがないじゃないですか〜!」

そう言ってウイスはいやだと言いたそうに手を前に折って笑い流す。


「まぁ、内容が内容ですから、さっさと終わらせますよ。」
『今何してたんです?』
「相手への不満を言うことですよ。私達は全員終わらせました。」

一体何を言ったのかは定かではないが、
まぁ私が聞いたら困るのかもしれない
余り触れない方が身のためだと判断し、メルは指を鳴らす。

本来の形に戻る。綺麗なひし形のワンピースの様な姿


なのに


『…やはり髪色も目も戻らないか。』
「メル様、お身体は?」
『悪くはない、夢も見なかった。』

疲れていたと言い聞かせるしかない。
メルは頭を掻いたあと、左右の髪留めをはずして消し去る。
櫛を取り出し、いつも通りの髪に形を戻しながら話を続ける。

『一応私からも言うけど、この髪色は
あくまでも私が力を使わないからの状態。
魔女になるつもりも必要性もないから気にしないで。』
「…ええ、それは存じ上げていますが。」
『まぁ、体調はすこぶるいいのは間違いない。
気分的には胸糞悪いし今すぐここを破壊したいが。』
「出来ればそれは止めて頂きたいですね。」

今は出ることを最優先すべきです。
そう言ったサワアに、勿論だとメルは答えた。

『で?相手への不満を言うのは良いけど、あと二つは?』
「輪になって手を繋ぐことと、アルプス一万尺をすると」
『ぶっ』
「メル様?」
『えぇ〜〜〜この面子で?アルプス?マジで?えっ待ってうっそだぁ。』

そうぶっと寝起きがてら水を取り出して飲んでいたメルが
聞いた直後勢いよく吹き出した。
コルンが答えたのに、嘘だと思い、自分の目で確かめるが、
まぁ言っていた通りに書かれていた。

それでも嘘だぁと思って言ってしまったが。

「アルプス一万尺というのはこの面子で出来ないのですか?」
『いや、あれどうだったかなぁ。いや、まず最後に、うんそうだ。
そうしようそうだよ気にしない
私は何も気にしない良いか落ち着け気にするなよしそうだ。』
「…なんだか先が思いやられる話ですが、まぁ、いいでしょう。」

とりあえずやっていたことを進めようと話を戻す。

『それにしても不満だよね?』
「ええ」
『全員ない』

そう言うと空からブブーッとブザーが鳴る。

「言い忘れていましたが、間違えるとブザー音が鳴ります。」
「ということは不満があると。」
『……ええ〜〜〜〜〜いやこれもパスしたい〜〜〜』
「諦めて下さい。誰に何の不満があるんです??」

ほらほらそう問いただすコルンに
いや〜〜〜〜と明後日の方向を見て笑いながらそっぽを向き続けるメル。

確か不満は満足できていない状態を指すものだ。
様は嫌味をいうこと。直して欲しい部分
例えばドアを綺麗に閉めないから毎回閉めて欲しいとか。
そんな日常的な不満が多かったりするが。


メルの言う不満は、そういう次元ではいことを、メルは確信していた。


『…ごめん、ちょっと待って。』
「はぁ」
『…コルンだけ不満ない』

そう言うと上からブザーがなる。
嗚呼なるほどと言って次と声を出すメル

『サワアだけ不満ない』

それにブザーが鳴り、ウイスだけと言ってもブザーが鳴った。


『私に不満はない』
「なにを」
「…待って下さい、鳴りませんね?」
『…よし、言うわ。』

此処での不満というのは、恐らく満たされているかどうかだ。
私は此処に来る前、サワアとコルンに出会う前に一つの部屋に入った。

自身を許容し、この胸に抱くものと共に生きることにした。
それは自分を満たすような形にもとれるし、実際そう思ったのだ。
それを思い出しながら言うと、何も音がなかったというもので。

流石にそれを事細かに彼らに話すなんてことはしたくない。

『単純に容量の問題かなと。』
「容量ですか?」
『そう、まぁブザーが鳴るだけましかな。嘘発見器だよこんなの。』
「そんな自身から嘘をわざわざ言います?本人が居る目の前で。」
『でも適当に言って分からないまま終わらすよりかはマシでしょう?』
「いやまぁそうですが……」

ならばと、メルは考えた。

『(サワアとウイスに不満がない)』

それにブザーが鳴る。待ちなさいとコルンが聞く。

「メル様何を考えました?」
『…サワア様とウイスさん二人に不満がないと考えたんです。
聞こうとして空に言うと、ブザーが鳴ったので、
声に出さなくても大丈夫だとはこれで判断できましたよ。』
「いえ、出来ればもうこの際言って下さい。」
『どっちだよこんちくしょう』
「メル様、切羽詰まるのはわかりますが、少々口が悪いですよ。」

いや仕方がないだろう。

『んんん、絞り切れない。』
「それ程我々に不満あるんですか…」
『いや逆、逆なのよ、本当に不満がないから困ってる。』

ブーとブザーが鳴るのにうるせえと声を荒げる。
がるるると普段怒りを表さないメルに対し
落ち着けとウイスとサワアがまぁまぁとメルをなだめた。

『ということは、やっぱ溶け込ませた刷り込みを引き出せってことか。』
「刷り込み?何をしていたんです?」
『んん?華神の願いは主に叶わないのが基本だってのは知ってるでしょ?』
「え、ええ」
『それを叶わせる為に私間違えて願ったの。でもこれって無理なんだよ。』
「何故ですか?」
『本来思っていることを力に変えるから、
思っていないことを願ったのが叶ってるに等しいもの。
だからこれは本来、違う紛い物であるはずで、力が出ないはずなの。』

ですが、現になっていますよねと言ったコルンにメルは続けて話す

『そう、だから私は刷り込ませたの。
これを叶えさせろ、そして願え狂え
己すらを虚像させろと。』
「っ」
『犠牲はつきもの。一応一つの感情が消えたけど、まぁ戻ってくるものだからした。
それの影響が残っててね、癖で色々なことをすり替えたりしてたの。』
「我々に嘘をつき続けていたと?」
『心外だねぇ、守るための一種の防衛反応と言ってもらいたい。
まあ簡単な話、考える前の思考回路を変えて考えさせるだけ。
余り目を向けないようにしただけだよ。』
「それは、人が出来ないものでは。」

というか、そうなれば、嘘ですらないのではと言ったサワアに
案外そうでもないとメルは言い切った。

『流石に一瞬は本当を考えるんだよ。大分抑え切った状態だったけど、それを外すとこうなる。』
「嗚呼、今の髪の毛がその姿だと。」
『そういうこと。ここまで来ると、本音と建前がくっきり分かれちゃうんだよね。』
「つまり、本来力を使う時は自身の力を最小限に留めさせる代わりに
自身の認識すらも狂わせ、制御及びセーブをしていたと?」

ウイスの言う通りだ。
頷くメルに、恐ろしいことをしますねぇとウイスが言う。

「ソレをして、狂わない訳がないでしょう?」
『そうだよ?私は最初から自分が狂っていないなんて思ってない。』
「…っ」
『最初から私は私を狂わせ認識を変えた状態を維持させた』

そうでもしないと、こんな時間を続けられる精神など持ち合わせられないだろうからね。

『要は切り替えの問題ですよ。
スイッチを切った状態なので、
嘘という判別に入ってしまう状態。

いやはやこれの問題は自分が嘘をついてるのか
本当なのか分からなくなるところなんだよなあ〜〜〜〜!!!!!!』


サラッと超重要なことを言わないで下さいとコルンに怒鳴られる。
いやあ、仕方がないというか、これ以外に方法がなかったからな。


『こうしなければ当の昔に私は魔女になってたよ?』
「ぐっ」
『ま、本当に不満がないはずなのにねぇ。あるんだねぇ。』

何処までを痛みに変換していないのか。

人で在りたいというのに、人から遠ざかる。
周りを救うために、そこまで自身の痛みを
消し去って何がしたいのだ。
コルンが言いたいのはそういうことだ。

幾ら無謀にもほどがあるというもの。
痛みは人にとって大事な器官の一つなのだ。
それをはずすとなれば、タガが外れるも同然。

つまりセーブできる本来の場所を通り越し、
最悪死に至ることだってあるということだ。


『慣らし過ぎた故の代償がまだ優しい方でしょう。』
「いえ、絶対悟飯さんやビーデルさんの
目の前で言わないで下さいね?
彼女らに言えば怒り狂いますよ?」
『いう訳ないじゃないですか、馬鹿なことはしません。』

なんなら貴方達全員、
私がこの姿になっている状態にすら
気付かなかったでしょうに。

そう言ったメルに、今度はウイスだけでなく
サワアやコルンもぐっと口を閉じた。

事実、彼女がこんな状態になっているのは
正直気付かなかったのはある。

「ソレを言われると、痛いですねぇ。」
『ま、徹底はするから良いとして。
んん〜なんだろ、これ正解だとなんかあります?』
「いいえ、否定する時になるだけですね。」
『うわ〜〜〜厄介過ぎる。マジか、えぇ?
これ順番的にサワア様から言っていいです?』

「別に構いませんが、
何か言いにくいことであれば
耳元でお聞きしますよ?」
『ううん、言いにくい…言いにくい?
言いにくい、言いにくいか?』
「もうそうやって考えている時点で
言いにくい内容では?????」

そう呆れて物が言えなくなりそうなコルンが
息を吐きだす様にメルに対して言う。

胡坐をかいていやでもなぁと唸る彼女の悩みには呆れるものだ。

『んん、言いにくい内容でもないですが、耳打ちでいいです?』
「ええ、これくらいでいいですか?」
『嗚呼充分ですすいません体制しんどいですよね。』
「構いませんよ」

サワアはメルが近づいたのと同時に身体をすっと下げる。
メルの位置に合わせて身体を曲げたのだ。
それに対して、配慮してもらって申し訳なく謝るメル。

問題ないと首を横に振ったサワアがメルの方に耳を傾けた。


「……………メル様?本気です???」
『いやだからこれ以外思いつかないんです。』
「それは不満ではなく、ただの願い事では???」
「メル様、貴方何を言ったんですか。」

サワアお兄様が混乱するなんて余程の事がない限りないんですが。
そう言ったウイスに、いやぁとメルは苦笑いで話を逸らす。

『おかしいなぁ、じゃあこっち?ごにょごにょごにょ』
「………メル様?」
『あっれ〜〜〜????』
「お兄様、ちなみに聞いても?」
「…少なくとも、不満ではないですね。
メル様、不満と言うのは人に直してもらいたいことです。
例えばコルンの場合、少々正直に話し過ぎるところがあるので
余りはっきり言い過ぎないで欲しいと言ったようなものです。」
「…散々聞きました。」

どうやら説教が始まっていたらしい。
少し目をそらして誤魔化すコルンに、メルはほぉと声を上げた。

「ですので、コルン達ばかり兄が居るのはずるいから
自分の兄になって欲しいなどとは
不満ではなくお願いなんですよ。
なんでしたらなれるわけないでしょうが。」
「ちょっ」
「メル様!?」

『ええ〜〜〜コレ不満じゃないの?』
「血も繋がってないでしょう。
ついでにいいますが、髪の毛を結わえる
くらいでしたら何時だって致します。」
『ええ〜〜〜〜〜〜』
「ええではありません。」

メルの不満が余りにも浅く、且つなんなら
不満ではない別物と言ってもおかしくない範囲で
呆れたサワアが指を立てて指導を始めた。

『ええ、じゃ、じゃあ…髪の毛結んで欲しいとかは?』
「私がですか?邪魔だからと仰っているので?」
『ああ違う違う違います〜〜〜うう難しい。』
「…メル様は少々我々の扱いを優しくし過ぎです。」

そう傷付くことはないですから、正直に言ってくださいというサワアに、
じゃ、じゃあとメルが話をする。

「………わかりました、善処します。」
『ふえ、す、すいません』
「いえ、私も不適切でしたし、改善します。
メル様、出来ればもう少し物事ははっきり仰って下さい。
そう言うと相手は勘違いしますから。」
『ふぁい』
「何を言ったのか非常に興味ありますけど、まぁいいですか。
次はコルンお兄様ですよね?」
「ええ」

メルへの不満というか、注意を言ったサワアは少し距離を取る。

『ううん、私も正直コルン様に関してはううん。』
「なんです先程お兄様から言われたこと早速忘れたんですか?」
『いや、私もサワア様達と同じでちょっとはっきり言いすぎるのが不満と言えば不満で。』
「ならそれでいいではないですか。」
『えっいいんですか』
「そう思っているならそうでしょう?別に否定するものではないと思いますが。」

ー*******

『…そ、そっか。それなら、うん。いいんだけど。』
「…メル様は考え過ぎです。もう少し思ったことを率直に言っても罰はあたらないかと。」
『善処します』
「よろしい」

さ、そうコルンがウイスの方を見る。
メルはウイスの方に近づき、えっとと声を出す。

「別に何でも構いませんよ。」
『うう』
「ほらほら、頑張って下さい。さぁさぁ」
「…ウイス、貴方遊ばないで下さい。」
「ですが、可愛らしいじゃありませんか〜」
『あわあわあわ』
「はぁ、この方が上とは本当にもう…」

世も末とでもいうのか。いや正しいと思う。

『じゃあ耳打ちでも?』
「ええ、構いませんよ。さ、どうぞ」

そう言って身体を折り曲げるウイスに、
メルは背伸びをして耳に手を当てて話す。

「…分かりました。善処します。
では私も代わりに耳打ちでも?」
『はい』

わかりました?そう言われた
メルはうんうんと頭を頷く。

それに伴い、ガチャリと音が鳴る。
どうやらこれで正解だったようだ。
ひと段落するメルだが、まだまだですよとコルンが言う。

「あと二つあります。」
「そうですね、まぁ正確には一つですし。」

そう言ってサワアは杖を飛ばし、両手をコルンとウイスに伸ばす。
それに対し、コルン、ウイスも杖を飛ばし、サワアの手を取った。

「メル様手を」
『ああ、はいはい。わぁお手ておっきいですねお二人ともも!』
「そりゃあそうでしょう。」
「おほほほ!メル様は小さいですねぇ」
『むっ私子供じゃないですからね!?』
「ふっ、子供の様に振る舞うのに何を言うんですか。」

あ〜いったなとぴょんぴょん飛ぶメル。
音が鳴りませんねと言ったウイスに、時間経過でしょうとサワアが答えた。

「この間に次のお題の話をしませんか?」
「いいですね」
『私は凄くよくないです』
「そんなことを言って、顔がにやけてませんか?」
『いやだってっ、くくくく、いやさぁ〜無理ですって!』
「何がですか。」

手をはずそうとするメルに、勿論それを許すわけもない。
そのため必然的に口元にウイスの手が軽く触れる。

『いやだって、アルプスですよ?いやそれこそ何時ぶりだろ〜〜〜
寧ろええ?例えていえばベジータさんと悟空さんが
二人で仲良くするくらいだろうか。』
「あの二人がですか?」
『いやたとえ話を作るのに想像して笑ってしまったんです。』
「して、どんなことをするんですか?」

そう聞いたのはコルンだった。

『嗚呼、手遊びはしませんよね。天使ですし。』
「ええ」
『子供が手で遊ぶもので、文字通り手を使った遊びです。
アルプス一万尺は二人一組の遊び。このまま音が鳴れば
ん〜ウイスさんご協力をお願いしても?』
「勿論、構いませんよ?」
『ただこれにはルールというか、クソ長いんですよ。』
「手遊びがですか?」
『はい。説明文が出てくれば良いですが、
全部で確か30種類程あったはず。』
「さっ!?」

多分コルン辺りは恥ずかしくて出来ないというメルに
言いますねとコルンが話をする。

『アルトとなら絶対余裕なんだけどねぇ』
「ほぉ?アルトに出来て私に出来ないとは
そんなことあり得るはずもないでしょう。」

『ただ問題は二人一組がどれ程か。
そしてそれが連続で成功させれるかどうか。
一応再度言いますが、これは子供の手遊びです。』

深い意味はなく、私も当時は気乗りしなかった。
二人なんて、必要ない。人ひとりで遊ぶには苦労しないから。

『いやでも、ううん。想像が出来ない。』
「何がです」
『とりあえず皆さんプライドをとりあえずおいてきてもらえます?』
「おけるものではないのですが」
『もう部屋の隅にでいいです。』
「聞いてます?」
『今滅茶苦茶思い出してるんですけど曲がおもいだせなぁ〜〜い』

そう言うとテレレレレと音楽が空から降りだすのにメルが声を出して笑いだす。


『あ〜〜〜〜やめて〜〜〜〜むり〜〜〜〜笑い殺される〜〜〜〜!!!!』
「なんでそんなに笑うんです。」
『いやぁコレし出したらアルトとあとクス様と滅茶苦茶やり込みたい。
もうアルプスしたい。もう手遊びほんとこれ好きだからぁ。』

そう右へ左へと足をじたばたさせるメルに、
落ち着きなさいとコルンが言う。

「大体何が」
『あ〜アルプス一万尺、小槍のう〜えで、アルペン踊りを、さぁおどりましょ』
「メル様?」
『ら〜んら、らん、らん、らん、らん、らん、らん
らーら、らん、らん、らん、らん、らん
ら〜ららん、らん、らん、らん、らん、らん
らん、らん、らん、らん、ら〜らん。』
「メル様何を言ってるんです???」
『だからアルプス一万尺。』

ガチャリと音が鳴ったのと同時に手を放すメル。

『あ〜もうこれほんと好きでやってたやつね。』
「何身体を左右に揺らしてるんですか。」
『今から振り付けを教えます。踊れ。』
「え、まさかそのアルプス一万尺というのは踊りなんですか?」
『そう、二人一組の子供が遊ぶ超楽しいお遊びです。』

因みに振り付けはこうね。
そう言ってメルが曲に対してゆっくりにしてと叫ぶ。
それに対し、メルが必要な速度になった。

『あ〜る〜ぷ〜す、いちまんじゃ〜く、こ〜や〜り〜の〜う〜〜え、で』
「っな」
『あ〜る〜ぺ〜ん〜お〜ど〜り〜を、さぁ、お、ど、り、ま、しょ!!へい!!』
「ほぉ、このような歌があるのですねぇ。」
「いや呑気に言っている場合ではないでしょう!
なんですかその陳腐な踊りは!!」


そう、メルがし出したのはかなりの幼稚な踊り。

胸の前で両手を合わせる。手を二回たたき、
そのあとに右手を前、左手はそのままで、
そのあと右手を左手の方に戻した後
すぐに一度手を叩く。

次は右手を戻し、左手を前に出すが
同じように戻すと同時に手を一度叩いている。

左手が帰ってきた後は、両手で前に出す。
前に出した後も、手を一度叩き、
今度は指を組んで前に出す動作をする。

今度は両手を二回叩き、
右腕を立てた状態で、左手を右ひじで触る。
すぐに反対の左腕を立て、右手で左肘を触った。

そのあと、腰に手を当て左右に揺らし、
左手を前に出すように伸ばし、
右手は左肘にあてるように手を置いた。

それから先は最初に戻り、
それを永遠と繰り返していくのだ。


「ですがしないと出れませんよ?」
「うぐっ」
「先程仰っていたことは何処へやら?」
「…ぐ」

嗚呼もう待って待ってと
メルが目を閉じて手を空に向かって振る。

『あ〜〜違う違う、ええどうだったっけ?
待って待って待って待って、絶対この速度じゃない。』
「…メル様、ちなみにどれ程の速度か、
歌だけでも歌ってもらえないですか?」
『ええ?ううん、えっと〜あるぷす、いや、あ〜るぷす、ん』

これくらいだったよな、そう
指を鳴らしながら速度と音を取るメル。
かなり真剣な様子に、馬鹿に出来ないと
コルンが少し思い考えていた処だった。

『…アルプス一万尺、小槍のう〜えで、アルペン踊りを
さぁ踊りましょ!らーんららんらんらんらんらんらん
らーららんらんらんらんらん、らーららんらんらんらんらんらん
らんらんらんらんらーーーらん!』
「そこそこ早いですね。」
『ひぃ!!この速度私小さい頃やってたの!!』

あとぴんぽんと音が鳴った以上、
この速さでしろというお達しである。
いや絶対中の人いるだろ。

お前ふざけんなてめぇ。

そう脳内で脅していたが、顔にも出ていたらしい。
嗚呼いけないいけない、天使の様にスマイルをと思ったが
流石にそれ程の余裕を持ち合わせているわけがない。

『あ〜にしてもちょっと気分上がるなぁ。
久しぶりにしたけど、これ結構派生があるんだよね。』
「ほぉ?派生とは、メル様が歌われていた歌詞とは違うものですか?」
『うん、私の場合は…』

アルプス一万尺、小山羊の上で、アルゼン踊りをさぁ踊りましょ。

『だったはず』
「小山羊の上でですか、何とまぁ可哀想なことを。」
『まぁ、私が何故、こんなにも
腹を抱える程に人前で笑っている
かというとですねぇ〜〜〜〜???』
「うっ」
『あの華樹神官もお墨付きを付ける程超絶プライドのたかぁい、
第8宇宙の天使であるコルン様が兄弟仲良く笑って歌って
踊ってくれると思うとそりゃあもう想像がつかなさ過ぎて
背筋をぞわぞわ駆け巡って面白いったらありゃしだっ!!!』
「一言どころか色々余計なことを。」

流石のコルンも嫌過ぎてメルにチョップを入れた。
まぁ入れる気持ちも分からなくはないが、
メルの言い分も分かるとは思う。

「確かに、クスお姉様やアルト様の様な方
であればメル様と一緒にその歌と踊るとは自然なもの。」
「お二人とも可愛らしいお方ですしねぇ。
メルさん、ひょっとしてベジータさん達の話は
まさかその踊りをしないだろうと思ってのことです?」
『そのとおり。』

にやりと笑い、Vサインを作るところを見ると、
どうやらメルのテンションは高い様子。
此処まで来ると下がるのはなかなかない。

『ですが、流石にしょっぱなからコルン様を使うのは嫌なので』
「つかっ、あのですねぇ。」
『ウイスさん、歌わなくていいので
一度一緒に踊ってもらえます?』
「ええ、私でよければ。」

というか何故歌ってはいけないのです?
それは私の記憶力の為にです。
はぁ

『あの子であれば別に歌ってもいいんですが。
まぁと言っても私これ実は好きではなくて
最初は嫌いで何度も何度も断ったものなんです。』

「おや、それにしてはとても可愛らしい踊りでしたよ?」
『う……そ、それがですね、振り付けもかなり厳しくてですね。
当時まだ4歳か5歳だったからよかったものの。
いやまて、8歳くらいでもやらされたな私。』

そう思い出すメルに、話を続けて下さいとウイスが答える。

『うう、そのとある人のせいで身体が覚えていたんです。』
「魂にまで刷り込ませるとは、とんでもない人ですね。」
『サワア様の仰る通りで、あの子本当にすごい子でしたよ。
なにせありとあらゆる嫌味を言ってきますし。』

別に私はどういわれても問題はないし、嫌われて当然なのだが。
そうまでして、私と遊ぶとはこれ如何にと思っていた。
私と遊んだところで、楽しいことなんて一つもないだろうに。

『当時私は感情というものがなかった時代。』
「…っ」
『人の感情を知らない人間の生まれです。
1度目ですらない、0番目の、始まりの時間。』

あの頃はよかったと思う。
人の身体でよくもまぁ色んなことをした。
失敗しかしない、成功なんて最後の方に
ちょろっとおこぼれ貰えたレベルのものだ。

『これは私にとって、人間ですらない状態の時の、
人間で在れた、一つの遊びなんです。』
「…思い入れのある、踊りなのですね。」
『ええ、だからこそ、面白くて。』


こうして、人の感情を持ち、神になり。
そして、大好きな人たちとたわいもない時間を共に過ごせる。
そんな幸せを、かみしめ続けられるなんて、そんな


『(私にとって、願ってもないようなことだ)』


と、

『と、いう訳で、ウイス様踊りましょ〜!』
「はぁい、と、言いますが、メル様振り付けを今一度確認をしても?」
『はい、いいですよ〜』
「こうです?」
『そうそう、手は二人で合わせるのでこれくらいでいいですか?』
「ええ、構いませんよ。そう言えば
そのメル様と一緒に遊ばれた方とは
どれくらいの距離でやられてました?」
『ん〜これくらいですね。当時は小さかったので。』

メルはかなり距離を近づける。
ウイスの腕が長いのは分かっていたが、
距離の形からすれば、まぁ30p以内での距離。

『流石にあの速度でこの距離はきついのでもう少し距離をとりましょう。』
「わかりました」
『私これ最後苦手なんです。』
「ああ、思い出してやられてた時も間違えたっておっしゃってましたよね。」
『そうそう、っだあああそういってる矢先にまた間違えたああああああ』
「おほほほほ!頑張って下さい、私も頑張りますので。」
『ええん』