似た水を生きてきた








「あの」
「気にしないで上げて、メルの悪い癖。」


いや、気にするわ。
そう言ったのはアンダルシア。

次の日、メルは沢山ご飯を食べては喉に詰まらせていた。
サラッとフェルが笑ってミルクを手渡す。

いや今日ミルクを出した覚えはないのだが
一体何処から出したのか、ご先祖様は問いただしていいものやら。


「そういや昨日はよく勉強できたの?」
『うん、一応朝からやるつもり。』
「じゃあその間どうしよ、」
「お前は後で鍛錬じゃな。」
「ひえ」
「メルは暫く此処で勉強詰めの許可を得たしな。」
『え誰に』
「今でいう大神官様に。」


わあ


「驚いておったぞ?なにせ私らは初めまして、だからな。」
『大神官様驚いたでしょうに。』
「ああ驚いた驚いた、そして、申し訳なさそうだったな。」
「シアちゃん……」
「…いい、もう、過ぎた、話だ。」


もう、とおい、はるか、昔になってしまった。

目覚めるのが、ちょっと、遅かっただけだ。


「ま、それはそれだ。お前にしても
言語が何がって言ってたが、読み解けるのか?」
『一応昨日作ったので、ある程度
作っては飲んでを繰り返そうと。』
「……私も暇ではないが、
それくらい聞かれても造作もないが。」
「ご先祖様、辞めといたほうがいいですよ。」

なぜじゃと聞くアンダルシアに、フェルが断言する。


「メルったらこういう所自分の知識に頼りたくなるんです。」
『だってあの地域の言語が合ってるかわかんないもの。
もし仮にあっていたら普通に読めるのに、そこが分からんし。』
「だというので、恐らく辞書を作り出す長さには。」
「……先が思いやられるな。」

ほんとうに、変な人間だ。
神々の知能を使えば、こんなもの、造作もないというのに。
自分の生きていた知識のみで、これほどの時間を無駄にするとは。

いや、そうしてきたからこそ、こうした人たちに囲まれるのか。



神の技を、使用せずに、その魂を、形成するとは、それは




「(いや、知らん方がいいな、これは)」



彼女は、末恐ろしいということは事実なのだ。


もし、もしも、その彼女が、堕ちるようならば。


「(この宇宙は、本当に全王様のみしか救うことはなくなるだろうな)」


「まぁ、それでも知識は叩き込まされますけども。
というよりも、メルは各時間に生きて居たので
てっきりもう読まれると思ったのですが……」
『…それはあくまでもフェルの中に、魂と一緒に居た状態での話。
中に入って居れば、ある程度その土地の身体と共に
すんなり翻訳できるっていうか速度の問題。』

まるで自分が話すかのようにね。

『でも今はその一致も不可能。
仮に華神の種を喰ってこの子と共鳴をしたとしても
其処までの知識を元の身体で効果が続くとは限らないし
なんなら華神の種は華神同士効果は効かない。』

「へぇ」

『やっても無駄なら私から覚えた方が早い。』

時間もあるし、読み解くのもありだ。
それはそれで楽しみが増えるというもの。

だから、こういうのに力を使わずに、自分で解くのだ。


そうメルは言って、席を立つ。
どうやら部屋に戻るらしい。

「詰め込み過ぎんようにな」
『分かってます。ごちそうさまでした。』
「ああお粗末様。食器は放置しとってよい。」
『すみません、お言葉に甘えさせて頂きます。』

夜は洗うんで、わかった。
そう端的な会話をして、消えたメル。


「…それにしてもメルの書かれる言語は一体どこのなんだろう?」
「知らなくていいよ」
「え?」
「覚えなくていい」

アルトは言い切った。

そう、あの言語は、この世界では役立たずだ。
まぁ幾つかの惑星を辿れば、彼女の知る
日本語に近づくか、全く同じ場所に行くことも
あるかもしれない。想像の話では、だが。

強いて言えるとすれば、
ティーナ達がいる場所くらいで。
其処は日本語が通用した。

だが、この世界ではどこにもない。

だから、神の言語として採用したのだ。


私が、貴方を忘れたくなかったから。


「分からなくていいんだよ」


寂しさを慰め暴走しない我儘の為だけに、
あの神の言語が、産まれてしまっただけなのだから。

だから、彼らには必要ない。

知らなくて、いい話なのだ。




「なら、いいけど」
「……」
「(それに、もし仮にティーナ様達が
言語を読み解けたとしても、この世界での
翻訳で描かれただけに過ぎない。)」

特に覚えなくてもいいというのは
まぁそっちの方が重きがある

そういうところだ。

「それよりも、幾つか薬草貰うのは悪いので
ちょっと野菜から何から手伝いますけど?」
「それなら、最初に幾つか取りに行くか。
フェルお前は部屋の掃除から諸々頼んでいいか。」
「わかったわ、しておくね。
あと何か昼食べたいのある?」
「いや外で食べてくる。
下手したら夜になるから、
先に食っておっていいぞ。」
「えっスーパーあるのここ!!!」
「馬鹿、あるわけなかろう」


というかなんだその言葉は。
えっとね!とアルトがメルに聞いた話をしながら外に出た。

その二人を見ては、少しため息を吐いた。


「さて、仕事しますかあ」


+++++++++++++


「えっと、後は二階か」

そう言って、フェルは階段を上がる。
上がった右側奥の部屋へと入った。

この部屋の左奥にはドアがあり、
そこが外階段になっている。

玄関前の正面からすれば、この場所は丁度
二階の右側から出ている外階段の部屋だ。

主に此処は薬剤でも外で素材を取って来て
下で泥を落とし、二階で天日干し兼
保管場所の位置をとっている所。

作業所と言えばそういうことにはなる。
その為、この部屋だけ一部砂埃がおおいのだ。


「にしても此処そんなに入らないのかな。」

えらい砂多いなと箒で綺麗に掃除をする。
部屋はシンプルで、窓際に長机と調理、
正確には伐採、採取した薬草を調理及び整理する場所。

その為、此処は水も通っている。
水拭きにはもってこいでもあるのだ。

ちなみに、下でわざわざ泥を落とすのは、
此処で落としていれば、泥だらけになり、
後片付けが面倒になるから。


まぁ、今の現状みたいになるというわけだ。


「あちゃーご先祖様ったら此処で此間から調理してるでしょ。」

尚更汚れるのは仕方がないことだ。
フェルは水雑巾で外階段手前にある水場で
泥や汚れを洗い流す。


「あとは、ここら辺の掃除か。」


フェルも勿論、アンダルシアと同じく魔法が使える。
正確には、気を練った魔法じみた気のエネルギーだが、
そういう細かいことはなかったことにしよう。

後々話に出てくる上に、小難しい話だからだ。


「いやにしても汚れてるな。絶対してないなこれ。」

埃が灰色になっている場所もある。
下手したらフェルが生きていた頃よりもほこっているかもしれない。

まぁあの時から結構この家は大きかった為、
この感じからしたら、仕方がないといえばしかたがないのだが。



「あとは、っとああ、おちちゃった」

そう緑色の本を落としたのを手に取る。
綺麗な字だなぁと思ってみていたが、
どうやら此処の住人が書いていた一種の日記だった。

「へぇ、ご先祖様の誰かかな…
そういや此処って平均何歳で死ぬんだろう。」

フェルの星は、主に大きく分けて3種族が生きている。
魔術系の魔法使い、剣を用いた聖騎士、そしてただの人間。
人間が、どちらかの種族に変わっていったりするし、
また逆に、どちらかの種族も人間に戻ったりもする。

人間は無で、力のない存在で、気を持たない種族だ。
なので、平穏で確実な東の奥に
人間の住む町があったりする。


フェルは生きていた頃も分からないし、
コルン曰く、人間は様々で、星にもよるが
長生きする種族は数億年の単位で生活しているし、
逆に短い種族は本当に数秒単位で死んでいくらしい。

その為、平均をとるとなれば少々骨が折れると言っていたが、


この星だとすれば、一体何歳なのだろう?

加えて、第8宇宙は徳の高い宇宙と聞く。
それは、犯罪が少なかったり、
バランスを崩壊させないことが多いと言っていたが、
そうなれば、人間の質が上がるということは
その時間を長生きする人達が多いということで。


「確か、メルの言ってた所は大体80歳だったよね。」

聞いた時はまぁリキールが驚いたものだ。
彼らの種族も、それなりに長生きとはいかないが、
それでも長生きして150は軽く超えると言っていた。

「ご先祖様って、5代くらいだったら、私凄い長生きだよなぁ。」

アルトが50億年ねむっていたというのもあるが、
それを逆算し続けていっても、
軽く100億年ほどは経過しているこの世界。

その前からあるというのだから、
この星の寿命はとんでもないことになっているはず。


ま、そんなこと考えても無駄なのだが。


「へぇ、此処の土地昔こうなってたのか。」


ある意味文献を漁るような形である。
フェルの記憶上だと、ここら辺は森だが
どうやら昔は森ではなく草原だったらしい。


「あ、ここら辺に入ってる瓶も洗っちゃおうかな。」

本を眺めているわけにもいかない。
古びた瓶を洗って再利用するのもまたいいことだし、
なんなら瓶は大量に作って損はないのだ。

軽く当てて、ヒビ入る瓶は砕いて砂にする。
予想以上に棚の中に眠っていた瓶がヒビ入っていたので、
アルト達が帰ってくる前に片付けようと、
フェルは片づけを再開した。


「いやおおい」

外階段から入って右側奥の棚にぎっしり詰まった薬草瓶。
その数おおよそ300ちょっと。
その大半が砂に変えられるため、大きめの瓶を先にとって綺麗にする。

水を入れて、洗って軽く天日干しをしている間、
どんどんと砂に変えていく作業。

「わあ、コルクも朽ち果ててるな」

そういえば、昨日だったか、
コルン様とアルト様二人で
獲ってきていたところの中に
樹皮があったなと思い出す。
あの樹皮が、実はこの薬草瓶の
コルクになっていたりするのだ。

後で加工して、コルクも作っておかないと。

そう思ったフェルは、朽ち果てたコルクを袋に入れて纏める。
これも後で粉にして、新しいものと混ぜ、再利用するのだ。


「ここら辺に入ってるの全部いれようかしら。」

ヘマも彼女達は必ずするだろう。
ある程度の量は置いておくが、
強度も考えておかないといけない。

メル達が帰るときは、
恐らく此処に長く戻らない可能性が高いし。



そう思うと、嗚呼とフェルは思い出す。


そういえば、この場所に居た時も、そこまで長くなかったなと。


「…いつか、また、帰ってくる日が、あればなあ」

そう思いながら、フェルは手を動かした。



+++++++++++++


「あれ、メルどうしたの?」
『ああ、食事にしようと思って
音がしたから誰が居るのかと思ってきてね。』
「分かった、なんにする?」

そう扉を開けたのはメルだった。
フェルは水で手を洗い、
火で体の余計な水分を飛ばしてから
メルの方に近づく。


その間、メルはえっとねぇと声を上げる。

『実はほぼつくちゃってて、
軽くサンドウィッチ作ったんだけど食べるかなって。』
「わ〜丁度お腹空いてたんだ、助かる。」
『何してたの?掃除?』
「うん、あの部屋さ、滅茶苦茶汚かったから掃除と、
ついでに整理してた。」
『整理?』

そうそうと言いながら話し続け、二階の階段を下りる。

「あの場所結構長い間使ってるのか、瓶も古くなってたから
コルクと同様に再利用として砂に変えてたの。」
『ああだからパリパリサラサラ音がしてたわけか。』
「えっ聞こえてた?」
『うん、定期的に聞こえたからつい笑ってた。』


くすくすと笑いながら、一階の食堂に入る。
机に置いていたサンドウィッチを手渡した。

『作り過ぎちゃってるから、どうしようね。』
「コルン様に言ってリキール様や他の方にお裾分けは?」
『別にいいけど、そんな使う暇あれば
向こう食べちゃうんじゃないの?』
「いいでしょ、どっちにせよアルト様と
ご先祖様は暫くかえってこなさそうだし。」

えっいつ。一応夜とは言ってたけど、下手したら数日。
わぁ在り得るの?普通に在り得るってアルト様が。
わぁおと言ったメルに、フェルが苦笑いする。

「なので、この量は流石にね。」
『じゃあ、頼んでいい?私もう少しやってくる。』
「もう、知恵熱出さない程度にね!」
『はぁい』


全くと言ったフェルが自分の首元からペンダントを取り出して声を掛けた。


「コルン様、聞こえますか?コルン様」

その声に、ブンと音がして、コルンの映像が映し出された。

ー何様ですか?フェル様

「すみません、メルがお昼ご飯作りすぎちゃったらしくて、
お構いなければ此方で昼食食べて頂ければと思いまして。」

ーアルト達がいるのでは?

「それが、ご先祖様とちょっとした外に出かけたので、
下手したら数日帰ってこなさそうな案件でして。」

ー………わかりました、お伺いします。

すみませんと言って通信が遮断される。
色々考えた後、のことだろう。
一日二日で申し訳ないとは思ったが、
まぁしゃーない話である。

アンダルシアは結構アルトを愛でていた様子は見て取れた。
昔がどういう振る舞いをしていたのか知らないが、
あの様子が前からと言われたら、まぁ積もる話もあるだろう。


それを、邪魔など此方が出来るわけもない。


「お待たせしました」
「うおっ、っやいですね」
「昼食を取りに来るだけですし、私一人で充分ですから。
そんなことより、メル様とお二人だけで大丈夫ですか?」
「まぁ、この速度で来て頂けるならば大丈夫ですし、
それに私達だって戦えますから!」
「……アンダルシア様レベルの方が来られても?」
「う」
「はぁ、明日の夜にも帰ってこなければ、連絡を下さい。」

流石にダメかと思ったフェルは返事を返した。

「それでは」

そう言ってさっと帰ったコルンに、
さてととフェルは声を上げた。


「ん〜!お仕事第二弾再開しますか!」



+++++++++++++


カチャカチャと音が聞こえ、メルも休憩するかと時計をみた。
時刻は三時になっており、流石にとペンを止めた。

ドアを開けて、音のなるほうへと進んだ。

『あ、いた』
「あら、メルどうしたの?」
『音がした第二弾。』
「あはは、ごめんごめん、勉強の邪魔だったでしょ。」
『いやいい、大分進んだから、あとは明日に持ち越し。』

流石に煮詰めすぎて忘れるよりもこれがいい。
それのほうがいいね。

そう笑うフェルに、メルはなにそれと聞く。

「ああ、これ?絶対ヘマする時に必ず役に立つやつ!」
『………それ、前に爆撃した奴の改良???』

この惑星、結構なものがあるのだが、
その中でもこの家では特に重宝していた修理道具だ。


まぁ普通に爆発するので、
そのまま回復せずに、
家が何度か吹っ飛んだことがあるのも、
記憶に新しいことではあるが。


「ほら、メルにもあげるよ。」
『え、あ、うん、』


ありがとうとメルは片言で交わす。
手のひらにある、幾つかの赤い禍々しい球を見て思う。





……この家、何回爆撃修理にあったんだろう。


『っていうか音なってない?』
「え?どこ?」
『ほら光ってるそれそれ』
「え??ああ、通信がっだっば!!」
『フェル!!!……ああ、もう』

いだい、でしょうね。


そう半泣きのフェルに、メルはでしょうねと答えた。
この少し狭い部屋の中で作業をしていたのだから、
そりゃあ急に動けば身体を倒してしまうというもの。

ゆっくり動きながら、流石に放置するのも悪いと思ったメルが
フェルから一言許可を貰って、通信を始める。

『なんでしょう』

ーメル様ですか、何かありました?

『いいえ、単純にフェルが作業に没頭してて、
気付かないで私と会話してたので、遅れただけです。
未だなにも問題はありませんが、どうされました?』

ー…それなら、良いのですが。

なにやら含みのある返しだが、まぁいいか。

ーそんなことより、先程のサンドウィッチありがとうございました。

『ああ、お口に合えば何よりです。』

ーいえいえ、相変わらず料理はお上手ですね。

『これでも最初より上達しましたので。と、そんな話ではないですよね?』

ー…ええ、アンダルシア様達はまだお帰りに?

『なってないです』

そうフェルに手を出すと、フェルがこくりと縦に振る。

『それがどうされました?何か問題が』

ーいえ、単純に、お二人だけというのが心配だったので。

嗚呼、そういうことか。

フェルはいつもならばよくコルン達の傍に居る。
こうして遠くに暫くいるなんてことはない話だ。

加えて、フェルはとてもまじめで、
コルン達が声を掛ければ作業を中断して聞きに徹するものだ。
つまり、そんな彼女が通信に気付かないということは
なんらかの事件があったと、コルンが判断したのだろう。


『いえ、別になんも問題ないです。
私もいますし、もし何かあれば
大神官様に直で飛ばしますよ。』

ーいえ、出来ればその前に私に声を掛けて頂きたいですが…ま、いいでしょう。

なにもなければいいのです。

そう言って通信が切れる。
それに、何かがあったかと考えたが、
此方で出来ることも限られるだろうし、考えないことにした。



『フェル、私も手伝うよ』
「えっでも」
『いいから、この星の薬草は魔術と同じって知ってるでしょ?』
「うん」
『薬草を制する者は魔術を制する。そして生命も。』

そう通信を切ったメルが、フェルにペンダントを渡す。

『私怖いんだ』
「メル…?」
『華神に、華樹神になって、誰かを手放さないといけないことが。』
「……そんなこと」
『ないわけがない、だから、こうして旅と言うか視察もきてる。』


私が、ちゃんと、上に立てるように。
こうして、長い長い旅を、今も続けているのだ。


「それは、私もだよ」
『フェル、』
「私、このままいけば、界王神じゃなくて、華神になれるんでしょ?」

その言葉にメルが目を見開く、
それにやっぱりと声を落とした。

『それをどうして』
「何となくだけど、気付いて。それでアルト様に声を掛けたの。」

そうして、ああなったと。

『なるほど』
「メルみたいに誰かに寄り添うなんて私は出来ない。
貴方は私や周りの人達に、傍に、居てくれた。」

でも本来の華神はそこではない。
貴方がしていたことは華神ではない。
そう言ったフェルにそうだね、とメルは俯いた。


そういうならば、メルトリアが凄いと思う。


彼女は花を咲かせて力を使った。
メルとしてお手伝いしていたが
それでも彼女の恩恵はデカかった。

星を見て、破壊し、そしてまた創造する。
その繰り返しをするだけの神様達だ。

フェルは寄り添ってくれたのが、
とても嬉しかったのだろう。

『ならさ、』

そう言ってメルはそっと
フェルの手を取って頬に当てた。

『どうか私を助けてよ』
「メル…」
『すべてなんて、助けられない。』


今は、特に。


そう言って目を閉じて言う。


だってあの子は、助けを伸ばした手を降ろした。
その手を、私は良しとしてしまった。
でも嫌で、その手を取って逃げ出した。

だから今更助けを求めるなんて、お門違いだと思う。

それでも、それでもいい。

あの場所に神様なんて、いなかった。

ならば

『ぜんぶなんていらない』

たったひとつが、かなうならば。

『私はそれだけでいい』
「メル…」
『フェルのお手手、暖かいね?』




貴方の手はまるで、





あの陽だまりに生きて居た母のよう。




『(なんて、私に母なんていやしないのに)』




それは、まるで都佑の母のようだった。
本当に優しい時間に生きて居た母のよう。
だからあの人のような手に、なれるのならば

きっとあの子の救いに、なれるのかもしれない。


嗚呼、まだ追いかけている。
それでもいい、それでも私は此処に居る。




生きて居るのだ。




嗚呼、私は此処に、生きてる。



「…うん、メルは冷たいね。」
『うん』
「何時か、いつか」



貴方が神様になったら



「私を、選んでくれる?」


その時は


『もちろん、かならず』


そうと笑ってフェルは今度こそ立ち上がった。


その時間距離を置いて待ち続けていた者を知らずに。