星を埋めた日のこと




コンコンと音が鳴るのに、メルは外に出た。
お呼ばれをされているらしい。
この家にも軽く別れを言わねばと思い、ちらりと絵画を見て手を伸ばして止めた。

『………、……。』

手を伸ばすなんて、もう、しなくていいのに。
一体何を考えているのやら。

『いこう』

その、酷い現実に。


メルは歩いて部屋を出る。鍵を一応閉めて、いや。
ガチャリと音がなってから前を歩く。

鍵なんて付けなくていい、常に開いた状態で締まっている。
それこそが、とても酷い状態だと思っている。
締まっていたほうが救われることだってあるのだ。

だってどうしようもできないだろう?

締まっていたほうが、何もできやしないのだから。



++++++++++


「来ましたね」
『来ない訳がないでしょう』
「そうでした。行きましょうか。」

大神官と他の天使達も集合していた。
大神官の背後を歩く形で周りの天使に囲まれたように歩く。
連行か?私何か罪でも犯したか?いやまあ犯したも同然か。

『(所詮0になり日付も変わり、新しい0へ変わり、
そして新しい1が始まり時を刻むと…嗚呼ほんとに
これで終わりかあ、なんかあっけないというか
早いというかなんというかなんだろう。)』

先程まで居た空間のほうをちらりと向いて止まるメルに
どうしました?と大神官が聞いて止まる。それに伴い天使達も。

じっと見つめる先は、もう帰ることはない場所。
知っているだろうか。

『大神官様』
「なんでしょう?」
『子供は後ろを振り返ることがあります。それはなぜか知っていますか?』
「急に何を」
「いいのですよ。…そうですね、不安、だからでしょうか?」
『…そうですね。』

そう、そうだ、不安なんだろう。
そうであればいい。

『行ってください』

後ろ指を指されているから不安?違う。
もう帰れないところに行くから怖い?違う。
それもどれも違うのだ。全てに否定がかぶさっていく。

そして、正しい答えはいつも一つだけ残ってしまう。


『(子供は待っているんです)』

置いて行っていないか、心配になって。
ふとした時に、立ち止まってしまうのだ。
声も聞こえないのに、何もないというのに。

振り返るのは、それは、意味があって。

ー**ちゃん、振り返るのはいいことよ。

そう何時しかのカウンセラーさんが言ってくれていた。
どうしてと言う私の目は未だ暗い闇を見つめた状態。
それを分かってか、ニコリと笑って答えてくれる。

ー止まることが出来る、凄い子なのよ。

人は歩み続ける者だと、彼女は言っていた。
でも時には人にも自分にも、止まれるものである人が、一番強い子になるのだと。

過去を見つめる者が弱いのではないのかと問うが、そうではないそうだ。

ー貴方は優しいのね。

そんなこと無い。そう思いながらコツコツと歩く音が止まる。
過去を見つめ続け縋り続けた末路は大体酷い結果しか残らない。


ー何時しか振り返ることはなくなるわ。


『…そうですね、先生。』


だから、そう言う音と共に、ギギギと古びた扉が開く音が聞こえる。


ー心配や不安も、全部今は思っていいのよ。


『…そうだよね、先生。』

メルはそっと、ゆっくり、首に手を当てて笑う。
この手で命を絶たなくてよくなったのだと。
もう、命は決まりきったのだと。


笑った。



++++++++++


場所が変わる。星々が浮かび上がる不思議な空間。
裁判を始めるという言葉に、なんだかふわりと浮かんだ状態。

嗚呼そう言えばカウンセラーで思い出したが、
0番目の時間ではあまり感情と言うものが感じれなかった。
それはミユがいたからというものだろうが、

いやはや、なんだかそれだけではないのだ。

とんでもないものが、眠ったかのような感じ。
まるで醒ませた方が悪いとでもいいたそうな感じなのだ。


「…よって、彼女の処遇的に消滅させる必要性がないかと。」
『…ん?』
「いやまぁそりゃそうだろうな。この資料を見ていてもどう考えたって普通の人間。」

仮に12全てを持ってきても、恩を売った状態からしても徳が高い位置にいる。

『いやでも、待って下さい、0番目の人間達の采配は。』
「しましたよ?ほら。」

そう後ろを振り返った彼からすっと光が落ちてくる。
ぱんとなって出てきたのは


『………っあ』

漆黒のストレートである、彼女だった。
通称、魔女。それは年齢が不明に見えるから。
あと、どんな者でも、その者に光を宿していく。
そんな恐ろしい魔法を使っているように見えたから。

だから、彼女のことを、皆は魔女と呼んでいた。
勿論嫌な方ではなく、寧ろ凄く良い方で。
神様とか崇めるものではない感じだった。

だって服は黒かったし。

「すいません、お呼びしまして。」
「いえ、此処は、夢ですか?」
「ええ、少々お付き合いしてもらっても?」
「構いません。」

そう言った彼女の背中しか見えなくて、そっと目を背けた。
本当は見なければいけないのに、怖い、怖いのだ。
否定されるのが、肯定されるのも怖い。

「彼女は悪い子ですか?いい子ですか?」
「…それは、環境を?それとも彼女自体の存在を?」

嗚呼そういう人だ。彼女は的確に考えを言うためなら先に質問をする。

「どちらも総合して、の方が好ましいです。」
「…環境からすれば、悪い子でしょう。」
『…っ』
「ですが、それは環境がというあくまでも変えられない状態でのみの話。」
「…と、いうと?」
「いい子と悪い子は定義がとても曖昧で、決めると後が進まなくなります。」

そう振り返る感じがして私も振り返った。
彼女の顔を見れないというか見る資格がない。
縮こまるメルの身体に、名前を呼ぼうとして止める彼女。

「大きくなりましたね。」
『…うん。』
「あんなに小さなかったのに、元気でいてくれてよかった。」
『……っ、うん。』
「此処が何処だか何が何だかは私にもわかりません。
ですが、貴方の感じを見て、何となく察します。」

貴方の望む答えは出せない。そう言った彼女の声が上から聞こえてきて、つい上を向いた。

「もう一度言いますね。」
『……なにを、』
「この子はとても優しく、賢い、そして強い子です。」
『あれっ!?お姉さん?!?!!?』

さらっと振り返って言う彼女に、とんでもないことを言い出す証言者だなとメルが飛び上がる様に叫んだ。

「この子が小3…いえ、10歳前後の時から15の5年間しか見ていませんが、最初見た時すぐに思いました。」

嗚呼この子は賢い子だと。

「何故ですか?」
「通常の子供であれば、知らない人には基本近寄りません。
勿論話すこともしなければ心を開くこともしない。」
「では彼女は心を開いたと?」
「いいえ、開くことなんてしない。彼女はすぐに私をみて悟ったのです。」

この人も、私を捨てるんだろうな。

『っ、』
「初めて出会ってすぐに先を見通して距離を置く。
それは一見普通に見えると思いますが、案外難しいものです。
会話をしないことにとても不安でした。」

そう、そうだった。

「でも彼女はただそう答える術を知らなかっただけ。
そして知らないから人に聞く。それは並大抵の勇気ではない。
相手が傷付かないように、自分の位置を常に更新する。」

それが、よくない場所にいれば、そりゃあ育つなんてできない。
そう買い被り過ぎだという私に対してそんなことはないですと答えられる。

「貴方はお友達のことを常に考えてくれていた。
周りの子が見えていないと言っても、私には見えなかった。
貴方は常に周りを見過ぎて疲れすぎていただけ。
人を見て、自分を正し、前を歩き、人の手を助けを取ろうとする姿勢。
それが出来るのは、中々いないんですよ。」

そうはいうが、流石にそんな子ではなかったとメルは否定する。

『貴方も知っているでしょう?あのくらい目を、酷い状態を。
誰もの答えが出来なかった私を。迷惑でしかなかった状態を。』
「それは、今は出来ないだけ。何時かは出来ることでしょう?」
『うぐっ、あ、あのですねぇ、確かにいやまぁそうなんですが』

そう、私の考え方はこの人の受け売りがほとんどだ。
だからこの人に勝てる相手ではないのは事実。

『あの状況下でも多くの人に迷惑をかけた。』
「迷惑をかけることが罪でしょうか?」
『あああああああクーリングオフううううううう!!!!!』
「っふふふ、元気そうでなによりです。」

隣に立つ彼女に、メルはぴょんぴょんと飛びながら怒りをあらわにする。

『もう!そうじゃないんです!
なんで先生がしょっぱななんですか!!
私悪い子だったのに!!証明出来ない!!』
「だって現に悪い子ではなかったですから。」
『ああああクーリングオフがきかないいいいいい』
「…ご乱心なんですが。」
「そのままで」

嬉しそうにする大神官に、コルンが冷や汗を流す。

「第一、何を根拠に、悪いと定義をするのです?」
『うぐ』
「人を殺したから?迷惑をかけたから?貴方は人を殺しましたか?」
『殺した』
「あら」
『私を、私の、一番大事にしなければいけない、私を。』

そう、そうなのだ。だから悪いのだ。
殺さないと生きれない訳ではなかっただろうに。
その選択しかとりたくなかったなんて。

「ですが、困りましたねぇ。もしこれが悪い子を証明するとしても、無理があります。」
『…え?』
「貴方は環境に合わせれなかったのではない。環境が貴方に合わなかったのです。」
「それは…一緒の事では?」
「いいえ?水の澄んだところにしか住めないアメンボが、泥水で生きれるでしょうか?」

嗚呼、本当に、この人は狡い。
誰だ人選を考えた奴は。
嗚呼私か!此畜生!!!狡い!!!

「生きれない処では死ぬ以外選択肢はありません。
なら水の澄んだところに近い場所で生きるしかない。」
『っ、それでも、それでも生きねばならないことだってある。』
「…。」
『そうだとしても殺さないで生きるべきだった。
あの子ではなく、私を殺して、あの子を活かす為に
しなければいけない行為だった。』
「それで、貴方は楽になります?」

それは

「確かに殺すことはよくないかもしれません。
ですが、そうするしかないのに、
それを否定するなんて、そんなの悲しいじゃないですか。」
『…っ、かな、しい…?環境に合わせる為に痛みを消し去るだけなのに?』
「っ!」
「落ち着いて」
「…ええ、環境に合わせるために、痛みを消すまでして耐えなくていい。
普通ならばそこで倒れるはずなのに、貴方はそれでも前を向くために見た。」

此方を、向いて、ずっと隣に居ようと必死にする。

「貴方は常に周りを考えそして常に合わせられるいい子です。
同時に自分に対して厳しすぎるので、そう言った点では悪いですが。」
『うう』
「少なくとも数千人以上の子供を見てきましたが、」

この子は

「私の見てきた中でも、とても賢く、いい子ですよ。」
「わかりました」
『っ待って!!!』

そう消そうとした大神官の手が止まる。

『…っ、先生。』
「どうしたの?」

嗚呼、本当に先生だ。あの明るい広い場所に積み木を出してくれていた先生。
ちらりとこっちを見た後、嬉しそうに手を大きく振ってくれた魔女。

沢山言いたいことがあるし、沢山思ってる。
どれもこれも言いたいことではなくて。


『ごめ、よく、嗚呼駄目だなあ』
「駄目じゃないよ、貴方はいい子で賢い子。」
『もう!…私ね、振り返ることかなり減ったんだ。
ほら先生に在った時はずっと振り返って止まってたでしょう?』
「ええ」

嗚呼そうだ、こんな感じで話していたのだ。

『きっと不安も寂しさも綺麗に埋まりつつあるんだ。』
「それはよかったね。」
『…うん!!でねでね、えっと、えとね』
「ゆっくりでいいよ、」

そうちらりと見た女性の視線は大神官の方だった。
それに気付いたのか、大神官は指をそっと下す。

『その、私…えっと……』
「うん、焦らなくていいよ。大丈夫。」
『うううう〜〜〜〜〜〜〜!!!!』
「っふふふ、元気だねぇ。」

メルが女性の周りをくるくる回って困る姿に
女性も嬉しそうに笑って言う。

『だって先生に会えるなんて思ってもなかったんだもん!!
えっどうしよう!あっ此間ご飯作ったの!!』
「あら、偉いね〜!」
『〜〜〜〜!!!!』
「…間違いなくアレが原因か。」
「でしょうね。」

メルの精神は、彼女の影響が高いというのは何となく周知される。
それもそうだ、此処は現実世界で、あの空間には居ない。
メルの居た世界の人格を綺麗に映し出した状態で、本物ではないとは言えど
それに気付いてか気付かずか、何方にせよ慌てて言うあの始末。

あの感じだとああやって話を聞いてくれていたのだろう。
ぐるぐると回っては走って止まって、後ろを向いて…いやまさか。

「…走って止まってを繰り返したってお前まさか」
「彼女のように、見てくれる人がいることを気付いた。」

だが、同時に、在り得ないと否定した。
でもこの場に居る、存在している。
それを否定したくない自分もどこかに居て。

同時に居ることを、怖がった彼女は、目で見るようになった。
それは、振り返るように、止まった時間が、追い付いてくるように。

じっと、彼女は止まって見守っていたのだ。

それを、誘導させるなんて、とんだ人間だと鼻で笑うアンダルシア。

彼女は此方を見れないはずなのに。

「…おい、あいつアタシをみたよな?今。」
「ええ、見ましたね。何ならニコリと微笑み会釈されましたね。」
「……は〜〜〜あいつ華神か魔女かなんかだろうよ!!」

はっはっはと笑うアンダルシアに隣に居たミスティが
そうですねぇと答える。

「ま、此処から彼女の時間が進んでいきます。証言は多いですから。」




「それじゃあ、元気でね。」
『うん!!先生も元気で!!!』
「ふふ、それでは。」

そういって綺麗に消えた後、すぐにコツコツと音が鳴る。

『げ』
「お」

酷い歪んだ顔に、指パッチンをしてくる男性。
ぴぎゃっと音がメルの喉から鳴る。

「すいません、少々お時間を頂きたいのですが。」
「構いませんよ、なんでしょう?」
「彼女の処遇に迷っていまして。」
「…お前何したんだ。」
『びえ〜〜〜先生そんな顔しないでもろて〜〜〜〜』

そう泣き笑いをするメルに、はあと深いため息を吐き続ける先生。
分かったと言ってなんですかと前を向いた。

「彼女をみて、貴方はいい子か悪い子かどちらを想いますか?」
「…そりゃあ、いい子でしょう。」
『え゛』
「ま、成績は悪いですが。」
『ああああやっぱ酷いこというううううええええん』
「煩い」

びと言って黙るメルに、この先生というやらもかとアンダルシアがため息を吐く。
一癖二癖処の器ではない者達がさっきから一人二人と出てくるのが恐ろしい。
こいつ、多分本当に戦闘を極めたらえげつないだろうな、と違うことを考えた。

「確かに、成績は悪いですし、
周りにもあまり馴染めているかと言えばそうでもない。
ですがきちんと前を向いてやろうと意識や意欲はあります。
そう言った点ではいい子であると私は思っていますよ。」
「そうですか、ちなみに、どちらの成績が悪いかお聞きしても?」
『大神官様!?!?!?!?!いだい!!!!』
「煩いからだ」
「っくくく、構いませんよ。」

軽く手刀をサラッと入れる彼に、メルはぎゃんと言ってまた隣で蹲って震える。
今度は両手で入れられた痛みに耐えるのか、頭に手を置いて震えて蹲るのだ。

「ん〜全体的に絶望的ですが、音楽や体育は成績いいですね。」
『ひどおい』
「あと理科、時々数学もですが。」
『うえ、先生其処も言うん?』
「聞いているから答えただけだ。文句は?」
『ないでーす。』

さらっと言うんだから、何人かがずっこける。
普通そこ反論があるから言うんじゃねぇのかというヤジも無視だ無視。

『でも先生はいはい』
「なんだ」
『私理科とか数学良かったって言える点数?あれ』
「まぁ100点中60は決していいとは思えんな。」
「ひっっっっく」
「黙っとけ…」

更にヤジが飛びそうなのを堪えさせる。

「だがどの教科も意欲が高く真面目にしているのも聞く。
大事なのは点数じゃなくて意欲や気持ちの問題だ。
お前は自信が無いからってすぐに尻尾を引っ込めて逃げ出すからな。」
『ううう』
「加えて知っているのに気付いているのに手を出さないと来た。
まあえてするのはいいが、それで酷い結果になるのに放置は駄目だろう。」
「的を得ている、というか、事実言ってる……」
「昔からそういうところがにじみ出てたんですねぇ〜〜〜」

ニコニコするウイスに、ビルスも耳を下げて聞いていた。

「ま、何をしたかは私は知りませんが」
『はぎゃ!!』
「この子が何か大きな過ちを犯したというなら、
それは仕方がないことが起きたと思っていいでしょう。」
「ほお?何か確実なことが?」
「見ての通りこの子は馬鹿ですが馬鹿ではありません。」
『ああい・・ん?』
「同じ過ちを繰り返すのが馬鹿というなれば、この子は違う。
人は必ず過ちを犯します。もしも、その過ちが故意的であるならば。
私の指導が至らなかったというもの、よって。」

罰なら私がそう頭を下げる彼に、メルがぞっと顔を青ざめてやめろという。
それにまたぴぎゃと言って今度は見えない壁に当たり後ろに倒れた。

「どうか私に罰を」
「…分かりました、ですが罰は与えません。」
「…そうですか。」
「此処で起きたことはお話しないように。」

覚えていたとしても、ね。そう言った大神官にこくりと頷いた男性。
それに、メルはいだいと言いつつ起き上がろうとしていたところ
また男性に指を鳴らされ、ぴぃと言ってこける。

首を横に振って待ってというメルの声に止まらず、
ただ後ろから手を振って消えて言った。

『あ〜あ〜消えちゃった。あの先生ほんと苦手!べ〜だ!!!』
「では次の証言者を。」

コツコツと音が鳴る左からの音だ。
ちらりと見たその子に、息が止まりそうになった。


「こちらへ」
『(何故いるというか、何故出て来れた)』

一度目はまだいい、まぁ二度目も。
だが、それはあくまでも人間だったからで。

キラキラとした金色の髪の毛が、サイドでポニーテールとなり、音符の髪留めを付けて纏めている。


「貴方は彼女のことをいい子と思いますか?悪い子と思いますか?」
「いい子です」
『(いやまて、そんな、違うこれは)』
「確かに私のことを無碍に扱ったこともありますが、それは故意的ではない。
それどころか、自分の技量が余りにも足りず、懺悔されたこともあります。」

押し付けたこともありますが、そう言われてぐっとそっぽを向いた。
さっきから本当にあまり見られたくない者達ばかり出てくる。
なんなら三人目は最早人ですらない。物だ物。そう、物だった。

「それでも、私に名前を付けるとなると、本を買ってきてまでして悩んでくれました。」
「ほお?」
『え!?!?待ってなんでそれ知ってるの!?!?!』
「あら、貴方が私の前で嬉しそうに笑って言ってくれたじゃないですか。
私と長い付き合いになるのだから、どうせなら想いの強い願いの込めた名前をと。」
『あーーー!ああああーーー!!!やめてええええええ!!!!』

ふふふと笑う彼女に、メルは半泣きでぶんぶんと彼女の身体を振る。

『えっ待って、じゃあ…』
「ええ。貴方が人に酷いことを言われても
人を責めずにこっそり泣きながら練習したり、
私の前に居た子を大事に使っていてくれたことだったり、
私が病院に行くってなってギャン泣きしたことも全部覚えていますよ♡」
『ああああああああああああああああああああああ』
「う、嬉しそうだな……」
「反対に彼女は泣いてますがね」

もう恥さらしもいい所だろう。
彼女もまた、此方を見れないだというのに、
ちらりと此方を、見えるように見てくるその目。

メルのように、じっと見つめる目に、ウイスは少し目を細める。
それに気付いているのか、にやりと笑ってまた前を向いた。

「アレは物だからな。こっちが見えてもおかしくはない。」
「ティーナ、お前」
「よ、移動してもいい許可が出たからこっち来てみた。」

華神達は左側、破壊神達は右側の方に偏っていたのに、
そっと入ってきたティーナに、少しざわつく。

「ものとは、一体どういう?」
「メルが大事にしていた物だったということだ。
まぁそれに魂が宿るというのも間違いはない。
あの形は流石に自分で生成したのだろうがね。」

つまり、形はメルが創り、魂は作られた、いや産まれたものと。

「おいおいおい、あいつとんでもないことするんだな。」
「嗚呼、だから余計に泣いてる!!あ〜面白いったらありゃしねぇ!!」
「随分笑っているけど、喧嘩買われたりしないの?」
「ないないあいつに限って『そんなことあったりね』〜〜あsdlふぁsdふぉ」

急に出てきたメルに、ティーナの身体が軽く吹っ飛んだ。

「おや、メルさん此方に来ていいんですか?」
「いやソティラスが悪口聞こえるから殺すとか物騒なこと言い出したから忠告しに。」
「殺すって…」
「っておいまて、今お前なんて言った。」

名前を、というビルスに嗚呼とにやりメルは笑う。

『ソティラス、彼女は私の、「救世主」であるんだ。』
「…まさか、あの、旅に、出てきた。」

そう、店の主人に飛んだあの別世界の話。
楽器を持って旅をしたあの時の。

『向こう側の世界達が来る予定だから、まぁ物は例外だと思ってたが、どうやら駄目らしい。』
「…大変だね、君も。」
『まぁね、じゃ。』

もーそてぃ〜だめだよ?思ったら本当に殺しちゃうから。
軽くとんでもないことをいう彼女に、ソティラスはごめんごと嬉しそうに笑って誤魔化す。

「大神官様」
「なんでしょう?」
「私は物ですし、押し入れに入れられたままになりました。」
『う』
「でも、一緒に歌って一緒に時間を共にした時の彼女は
とても綺麗だったのを私は断言できます。
だって強く思っていた。私の事も、誰かも分からない人のことも。」
「ほお?」
「誰か分からない、でも誰かがいつか分かった時、もしもその時貴方がいれば。」

貴方に紹介したいんだ。

そう笑って言うソティラスに、メルは少し目を丸くした。

『そ、んな、こと…いっ、た、……ね?』
「うん。言ってたよ?」
『…ごめん、まだ、まだ、ね?』
「…そっか。待ってるね?」

その場所で。ずっと。そういって消える彼女に、うんとメルは笑って言う。



首に手を当てて。