優しいひとだけ通って




「それでは次へ」
『…ま、君が来るか。』

そう右側を見たメルの前には黒髪の女性が存在していた。


「あの子は…」
「…ルメリア様?どうされて」
「大丈夫ですよ彼女は。」


「その子は、いい子ですか?悪い子ですか?」
「悪い子です」

そうはっきりと言った人に、メルの顔が愉悦に入る。
まるでやっときたかというように、笑うのだから、怖いったらありゃしない。


「彼女は私の言う事も聞かず、人に迷惑をかける子供。それは悪い子です。」
『(そうだね、私は貴方の望みを叶えられなかった子供だ。)』
「それ以上もそれ以下もない。話は以上です。」
「…だ、そうですが。」

じっとメルは見つめていた。今まで誰もを目を逸らすというのに。
彼女ばかりは、嬉しそうに、ただ、見つめていたのだ。
目を合わせては、更に笑うのに対し、女性は冷たい目で見ては早く帰らせてという。

『帰らせてあげて下さい。すいません、私の為に』
「はぁ」
『大丈夫です、貴方は何時か、解放されます。私という存在から。』

ま、それは一時の者ですが、そう言ったメルに、何故という彼女。

『知っていますか?人間は静かになれば思い出したくないものを思い出すものです。』
「なにをくだらないことを。」
『私は忠告しましたよ?だって私は貴方が大好きだから。』

この世に貴方を嫌いになるなんてあるのだろうか。
いいや、何度も貴方を嫌いになって何度も貴方を好きになった。
もう何がどうだか、わかりゃしなくなった。

『ま、どうせ貴方は変わらない。私が変わらなかったように。』
「…失礼」

そういって綺麗に消えた女性に、ふぅとメルは胸を一つ下す。

「哀れだねぇ」
「何が」
「ん?アレは全部0の時間だ。それはつまり、彼女が死んだ時間に出会った人間達。」
「…まさか」
「そ。縋りついた場所は彼女だった。」

さっきの死んだ目をした女のね。
そう言ったアンダルシアの目には、先程見ていたメルがうつっていた。

愛おしそうな眼で、見つめる、幼子が。



++++++++++


それからというもの、様々な者達が証言をする。
ある人は嫌いだからある人は好きだからで変わる数字。


「…おい」
「50:50ですね。」
「いやテレフォン無いのか此処は。」
「そういう救いの慈悲はないですよ。」

なんだか違う話題を繰り広げられているが、気のせい。


「最後になりますね、メルさん、再度言いますが
この数字で貴方の全てが決まります。死ぬか神になるか。」
「っな!!」
「黙っとけ」
「だが」
「何かお伝え忘れて居ることがあれば、この場でお聞きしますが。」

どうします?そう言われて周りの視線が此方に向かう。
その感覚が酷く嫌で、結構騒いだつもりなのだが…。

『…何も言う事はないですよ。』
「おや、そうですか?その心は、言いたそうなのに?」
『…ええ。言わなくて、いいことですから。』

今までありがとうだなんて、本当になった時が嫌なのだ。
だからこれは、おまじない。


此処まで来て、死にたくないとか言い出す、愚かな私の縋り紐。


「…なるほど、だ、そうですが。」

どうします?

「サワアさん」































ん?


















「え……っと、何を、仰っているのか。」
「おや、貴方はあちら側でしょう?」
「えっ!?まっ!?!?」
「…いいのですか?」
「いいも何も、彼女が指示しているのです。」

そう言った大神官の目線にはサワアの胸元。
それは彼女が選んだ今まで出てきた者達がつけていた
青いバラが服に軽く添えられていたのだから。

「舞台へ」
「…わかりました。」

すっと降りてきた彼に、もう困惑して困り切っている。
それになんて顔をしているんですかと笑うサワアに
いやだってとメルは首をぶんぶんと振っている。

『えっ待って、ホントに待って、
待ってなんでほんとになんで?!?!!?』
「…ま、覚えてない状態で私を選んできたのは
驚きますが、人間で言う無意識とやらですかね?」
『いやだって私何処にも貴方の記憶がないんですよ!?!?!』

そう、そうなのだ。彼の記憶が何処に行ってもない。
だからこの状態で予想外なのだ。
あの場所にもない、自分の記憶の廻廊にもない。
何処にもない存在が、此処に降り立った。

しかも、均等になった平等の状態で。

「ええ、存じ上げています。私も貴方の方を見ましたし。」
『ええそうで……ん?待っていや待って。』
「待ちますよ。」
『…あれ、サワア様、まさかお兄さんひょっとして。』
「ふふ、スパゲッティ、美味しかったですか?」

声にならない声を出す彼女に、今度こそサワアは声を出して笑う。
本当に気付いていなかったとは、いやおかしいったらありゃしないのだ。
あんだけ確信していた目が、すぐに揺らぐなんて。

「ああすいません、すいません。
ですから叩かないで下さい。」
『〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!』
「っくく、さて…話を戻しましょうか。」

すっと台が出てくるのを見て、メルはそっと下がる。
ちらりと見上げた神の者に、サワアは告げる。


「彼女はいい子です。」
「ほお?」
「確かに私の事を忘れて居るのは正直ショックですが。」
『う゛』
「まぁそれは仕方がないことでもあり、
同時に作戦通り、願いが叶ったというもの。」
『…ん?作戦?』
「というのは?」
「花畑の中で、約束を交わしてくれたこと、
僕は今でも覚えてくれていて、嬉しいのですから。」


そう言った彼に、世界が変化する。
背後でけたけたと話をする声が聞こえる。
振り返りたくない、ダメだと警告が鳴り響く。

黒髪の子供が、相手が、変化していく。
白く、違う色の子が、出てくる。
まるで、そうしないと、いけなかったかのように。

本当の願いを、隠すための、ダミーを、覚え続けていたのというのに。


「一度目の人間が言いましたが、貴方はとても賢い人間だ。
願いですらも、騙し、その感情を綺麗に塞いだだけでなく
思考回路も剥がされた時のためにと書き換えた。」

だが、

「消した痕が残っていたら、そりゃあ見えちゃいますよね。」


ねぇと声が聞こえる。

ーまって!おはなできなあい

ーほら、かして?こうだよ。

わあ凄いという声が聞こえる。
違う違うと言ってメルは顔を手で塞いで俯いた。

ー母様!

そういって走る子供が下を通って前を行く。
それに続いて顔を上げた。

その場所に、嬉しそうな黒髪を揺らす彼女が手を広げる背後に、


『っ!!!』

白髪の、女性が彼女に切りかかったのだ。

どの威力に、子供は吹っ飛び、白髪の子供が受け取り着地する。

ーすまんな、許せ。

ーっ逃げなさい!!

でもと言う子供に気付いたのか女性が
小さな子供に対してクナイを投げた。

それに黒髪の子供が右手を取られ、
右手首に巨木に打ち付けられたまま止まる。


ーっエフェメラル!!!っぐ

ー華樹神様!!!っわ!!


知ってる、知っているんだ。
この情景をそういってメルは見上げる。

その世界に皆が見つめて、皆が見上げていた。


「…あの子は、まさか」
「ええ、あちらの外に見えたのがクスさん。
そしてあの立ち向かおうとしている子が」


第2宇宙の天使


「サワアさんですよ。」


++++++++++


「さわ、あ、様…!?」
「っですが、彼女は人間で、
いや、あの時間生きれるはずが!!」
「…記憶の廻廊に飛ばされたとしたら?」
「え?」
「っそうか!元々あの時間に生きていて、
そこから廻廊にいや、だとしても…」

それは、そういうことならば、

彼は彼女は、この方達は、

途方もない時間を、

過ごしているということで。


「…覚え続けていたというのか。」
「ヘレス様…」
「なるほど、そういうことなら、仕方がないの。」

広い世界の花畑の上で、死闘が広がっている。
何事だと入ってきたのは悟空達で、
彼らはこれから行われる
力の大会に入る予定だった参加者だ。
 
「これはなにが」
「メル様の記憶ですよ。」
「記憶?」
「周りの子達を巻き込んで見せてくる
一種のフラッシュバック状態だ。」
「その声は、ティーナか!」
「よっ、悟空、お前また強くなったな?」

そういって近づいて来たティーナに
へへと言って二人して軽く拳を合わせて挨拶をする。

「だがこれは一体…」
「神々の犯した罪の全てです。」
「大神官様!!」
「すいません、本当はもう少し早く終わる予定でしたが。」

ちょっと時間が延びちゃいまして。
そう言った大神官が空を見上げる。
未だ繰り広げられる、華樹神の力と天使の力。

映像とはいえども、フラッシュバック、
力が綺麗に上乗せされられてくる。

現実に在った状態に近い形というのもあり、
かなりの負荷がこのあたり一帯に集中してかかってくる。

それに気付いた大神官が軽く指を鳴らすと
悟空達一体にベールが入ってくる。

「その中ならば安全なハズです。貴方方には少々きつすぎるので。」
「ま、アタシらも結構きついがな。」

そうちらりと胸元を見るティーナ其処は、枯れそうになる状態で、
彼女の髪色が黒く染まり続ける感じに、声が上がる。

「耐えろお前ら」

何人かが魔女になりそうなのを、ティーナが叫ぶ。

「メルも耐えてる。」

そう見た者達の先には、


『っ触らないで!!』
「っですが!!」

崩れ落ち倒れるメルが、必死に前を向いていた。
苦しそうにしているのも、髪色が徐々に浸食されていたのだ。
黒と白が混じる中、目の色がチカチカと赤く
でもゆっくり点滅を繰り返す。

ーおまえをころし、私は、頂点に君臨する

そう言った彼女が、此方をみて、ゾクリと背筋が凍る。
これは映像なのに、その冷たい目が、私を見つめる。

ーま、大丈夫だ。お前は絶対に私に殺されてくれる。

なにを根拠にという声が掻き消える。
子供が強く叫んだのだ。

ーっまま!!

『ああ』

胸を強く握りしめるメルが目をぎゅっと閉じて蹲る。
背後で血液の匂いがぷんついてくるのに、想像しなくても分かる。

ルメリアが子供を、黒髪の子供を庇ったのだ。


そう、メルを、エフェメラルである状態を。


ーほら、そうやっ…ん?なんだお前は


『え?』

流石にそれは知らない。というのも、メルの状態は混乱していた状態。
記憶が混濁し、別に繋げていたのもうなずける。

その攻撃してきた奴の下に

『っだめ』

ーやめろ!!っかのじょを、ころすな!!!

すっと目が細まるサワアに、魔女になりつつある彼女がにやりと笑う。
ぱんと音を立てて壁に打ち付けられた子供がぼたりと落ちる。
丁度落ちたのは、ヘレス達がいる場所の真横いや、真下。

杖が飛び、強い威力に身体が痛みが勝っているのか、
びくりと跳ねるも動き出す感じが見えない。

ぐずっという声が聞こえる。悔しくて泣いているのか
と、少し上から見て、すぐに気付いた。

ギッと睨んで強い目で前を見ていたのだ。
力の差は歴然で、どうあがいたって負けるというのに。

「時間稼ぎをしてくれていたんですね…」
「クス様…」
「あの時、私はすぐに逃げ出しました。
お父様達を呼びに行かなければと足が向いたんです。
それが、よかったとは、私は思えなかった。」

怖くて逃げたに等しいのです。

そう言いながら彼女はその世界を見ながら話す。

「弟は、こんなにも強く立ち向かえたというのに。」
「クス様…」
「それは違いますよ」
「ハシュクロード様、」
「逃げるのもまた作戦です。
貴方が呼びにいかねば
これ以上の惨劇が待ち受けていた。」
「彼女の言う通りですよ、クスさん。」

大神官様と言ったクスに、ニコリと微笑み続けて話をする。

「華樹神のエリアはその願いの強さというのもあり、
外に口外するわけにもいきません。」
「…なるほど、なんでも願いが叶えば均衡が崩れるからな。」

そう言ったベジータに、大神官は頷き続けて言う。

「ええ、そして同時にその空間の力及び気は
外から感じ取れないようになっているのです。」
「だから内側に居た者が、外側に助けを求めに行かないと、と。」
「そして、その時間は早くても5分はかかります。」

あの威力は、たった、5分で起きたのかと、悟飯達は其処を見つめる。

「中の時間は扉近くにあるつまみを変えると時間の流れが変わります。」
「精神と時の部屋のようなものか?」
「かなり近いですね。それは恐らく劣化版でしょう。
大元はつまみがあり、かなり精密に時間の操作が可能です。」

そう、たとえば

「現在起きている時間を更に伸ばしたり、短くしたり、ね。」
「…っまさか」
「流石に5分にしては短すぎですからねぇ、
辿り着いた時、余り感じる余裕もなかったですが、
こうしてみれば、大体体感で2時間は耐え忍んでいたのかと。」
「にっ、この、圧を!?」

泣きそうになりながらも、藻掻く彼女をちらりと大神官は見た。
黒髪の子供が、必死に左手を伸ばして母親を掴もうとしている。
右手は壊死することもなく、何かの模様がじわじわと刻まれ続ける。

全て、仕組まれて起きてしまった事件の真相が、此処に広がっている。

「魔女は当時本当に判定が厳しかったんです。
どの判定で魔女と断言していいのか、定かでなかった。
そして彼女はとても優秀だった。気付かせなかったのです。」
「なぁ、大神官様、彼女って言ってるけどよ、あいつの名前ってあるのか?」
「っ馬鹿お前!!」
「…彼女の名前はプラティア。完成された魔女とも。」

ブンと音を立てて空に戻る彼女、
白い髪の毛が真っ黒に染まりあがることもない。
ただ、髪色が白いまま、目は赤く光り輝いていた。

一度は黒くなったというのに、
白に戻ったから魔女ではないと思っていたのだが、
その花の咲く状態が異常だと知る。

綺麗なドライフラワーと化して、止まっていたのだから。

「強さで言えば、現時点でも、我々全員でかかってすらも、敵いません。」
「そんなにか!!」
「ま、悟空さんとベジータさんはご存じでしょうが。」
「っ父さん!?!?」
「お前達また首を突っ込んで!!!」
「っへへへ、だが今回はウイスさんに頼まれたんだぞ?」
「え?」

そう悟飯達が驚く中、すいませんとペコリウイスがお辞儀をする。

「あの時は総戦力を兎に角すぐに集結させたかったので。」
「明らか強かったからな。」
「強いと言っても破壊はしなかったのですか?」
「しないのではない、出来ないんだ。」
「え?」
「華神のサイクルは皆さんご存じですか?」
「えっと、確か願いを言って、叶えて神様になって、
叶わないと魔女になって消えるでしたっけ?」
「ええ」

そう、それは、あくまでも、サイクルの話であって。
そう言った大神官に悟飯が気付いたのか目を開き止まる。


「完成された者達は、髪色すらも変えず、
ただひっそりと其処に立ち続けるのです。」
「そ、んな、じゃあ、どうして彼女は」
「この後私が封印しましたので。」
「大神官様がか!?」
「正確にはルトラールさんが、ですが。」

ちらりと向いた大神官の先には、
暗い表情をしたまま浮遊して眺めるルトラールがいた。
顎や唇を手で触って見るのは、集中している証拠である。


「余りにも強いと奇跡的に蘇生されては困ります。
なので此方で封印し、封印が解けたと同時に
緊急事態を発令しているんです。」
「なるほど、手元に置いておいた方が管理も楽でしょう。」
「ええ。」
「ですが、アレはまだたった一人だけ。完成された者は未だかつて一人です。」

かなり近い子は後5人いましたが。
そうさらっと恐ろしいことを言う彼に、まさかとビルスが青ざめる。

「ええ、11番目から見ていた貴方方ならわかると思いますが、
敵対していた者達は全て、魔女になり果てた者達の集まりです。」

その中でも逸脱しているのが、あの目の前で戦っているプラティア。


「悟空さん達に分かりやすくお伝えすれば、
以前ブロリーさんと言う方がいたでしょう?」
「あ、ああ、あの史上最悪の奴が、どうした」
「ソレに匹敵いえ、それ以上をもうわまった存在だとすれば?」
「…っん、な、そ、そんな、ばかな、ことが」
「現に起きていますし、貴方も一度戦った身。」

おわかりでしょう?あの火の海を。その悪魔を。
そう言ったウイスに、以前戦ったのを思い出す。

白い髪の毛がとてもきれいで、一つも焦げないというのに、
その胸に咲く華は、焦げすぎて墨になりそうなくらいに枯れていた。

プラティアは手に力を入れてピンピンと球体を出す。
それに杖を創り出したルメリアが植物を使って受け止め緩和及び消失させる。
その逆もまたしかり、ソレを続けても、圧倒的な差。

穴が開いたとしても、それでも立ち上がり、彼女を守ろうとする。
エフェメラルの目が赤く染まり続ける。
じわじわと、黒が、金へ、そして、赤くなり続ける。

そりゃあ、そうだろう。


「目の前で、お母さんと、大事な友達が血まみれになったら、そりゃあ…」
「っ!!」
「…けど、ならどうしてメルさんは生きて。」

ドンと言う音に、来たなと舌打ちが上から上がる。
何だと思っていたら、其処には


ーなにをしている

紺色の髪の毛を揺らす男性が空から杖を叩き落している。
それを頑張りもせず、ただ手で受け止めていた。同じ様に杖を創り出して。

ーなにって、なんだろうな?

そう言った女性、プラティアの下には、ゆっくりと眠る彼女、ルメリアがいた。
ただ魔女になることもなく、ただ息をして、いるのに、ルトラールの怒りに触れる。

入ってきてすぐに見えた子供の手。
その禁忌を何処で手に入れたと低い声を上げる。

一つ結わえていた紐が上に上がり、白い髪の毛が綺麗に紺色へ染まり切る。
紫色の目色は緑色に強く光り輝き、声を荒げながら空に手を上げ振り下ろした。


ー貴様は、何処でソレを完成させたというのだ!!!!


華樹神官がその姿になるというのは、正直これが最初で最後。
通常制御した状態であるものなのだ、白髪という状態は。
全てが終わった先の状態。それを、逆転させ、戻させた時。

髪は時間を色を取り戻し、目は希望を見つめる。
華はあるべきところから咲き誇り、姿は元の場所へと戻る。

ーっおお、こわいこわい!こわいねえ、ぱぁぱは♡

ーっ貴様!!……おい、待てお前まさか

華樹神の上に上り詰めるつもりか。

それはつまり、この神のシステム全てを崩し、
本当の木の根を全てに這わせるというもの。

それ即ち、理の書き換え。

大罪で済むものではない。

それは


ーその子を、エフェメラルを、取り込み殺すつもりか!!!!!


『っ!!!!』

怒る彼が手に力を籠め杖を創り上げる。
タンと音を立てた途端、エフェメラルの右手からクナイが消える。
ぱたりと落ちたエフェメラルの元に、
気付いた幼いサワアが起き上がり彼女の元に走って行く。

その間、ルトラールは力を使いながらも
プラティアの攻撃を防ぎつつも攻撃を繰り出す。

杖 対 杖 、 力 対 力 。

その威力は、凄まじく、軽く触れる前に、
その場にいるだけで消滅する程のもの。
そんな状態でも、エフェメラルとサワアが
生き残れたのは、その華樹の力によるもの。

樹に近ければ近いほど、恩恵を受けられるもので
どんな呪いも緩和するし、痛みも癒され消えて無くなるのだ。

なるべく近い所にと持っていこうとするエフェメラルに対して、
サワアが気付いたのか、涙を溜めて留めている。


ーっだ、めです、っぐ、かじゅ、しんさ、ま

ーっいいの、ですよ、ね?サワアさん

嫌という彼女に、ルメリアが名前を呼ぶ。

ーねぇ、はやく、連れてかなきゃ、はやっ!?

ーエフェメラル!!

その手には、右手は赤黒い文様が広がり、
ルメリアの肌に触れそうなのに気付いて後ろに飛び下がる。

来そうになったサワアに来ないでと強く言い切ったエフェメラル。

ーエフェメラル、こっちへ、おいで?

ーっやだ、やだよ、そんなことしたら、かあさまが

ーいいから、もう、ね?

分かるでしょうと言った言葉に、
エフェメラルだけでなくサワアも涙をぼろぼろと流す。
ぱたりと流しながらも起き上がった彼女の名前を呼んだ。


「…メル、様?」
『…、』

ふっと笑う、覚えていると、言いたそうに。
悲しそうに、分かっていると、噛み締めるように。


ーサ、わ、あ、さん

ーっなんっ、でしょうか。かじゅしん、さま

ーふふ、この子、さびしが、りやですから。

嗚呼駄目止めてと声が聞こえる。
どうか、かあさまをというエフェメラルの頭を
優しくルメリアが撫でることで、祈りが消えて無くなる。

子供が道を、間違えないように。
落ち着かせるように、そっと消す力。

ーどう、か、おぼ、えて、まっ、てて、ほし、い、ので、す。

ー…っ、そんな、こと。…わかりました。

ーっふ


このサワアとぐっと涙を服で拭い去り、言い切る。

ー何時か貴方が認める様な天使になり、エフェメラルをお守りします!!


「おお」
『…サワア様、なんで』
「…すいません、つい勢いで本音が出ちゃいまして。」

そう笑って困るサワアにメルがぱっと見つめる。
エフェメラルと優しい声が聞こえたから、呼ばれた気がしたのだ。


ーいいこね


嗚呼、この声だ。


ー貴方は、っ、つよ、いこ、だから、きっ、と、だい、じょうっぐ

ーっかあさま!!だめ、もうしゃべっちゃ!!!

ーっふふ、だ、いじょう、ぶ。あなた、はやさしい、こ、だから。


魔女になんかなったとしても、きっと戻ってくる。
だってそうでしょう?その花は、その感情は。
何時だって、その場所でしか咲き誇らせない。


ーだ、から、さ、わあ、さ、た、と、いき

ー……か、あさま?

ねぇ、ねぇおきてというエフェメラル。
泣きじゃくるわけもなく、そうだという彼女がとんでもないことをいう。


ーそう、これはえんぎね!

「…っ!!!」

ーね、きっとどっきりっていうものでしょう?ほんでみたわ!!

ー…エフェメラル、違う、違うよ。

ー違わない、そう、きっとこれはそう、悪い夢を見てるのよ。

くるくると回る彼女に、幼いサワアが首を横に振る。
だってだってとエフェメラルは強く言う。

ープラティアはあんなに悪い子じゃないもの!!

ーそうだね、私は悪くない。

ーっエフェメラル!!逃げろ!!!

その言葉にくるりと周り上を見上げるエフェメラル。
ぱちくりと見つめる金色に戻った目が、赤い瞳を見続ける。


白い髪の毛が真っ赤に染まっているのは、誰の色だろうか?
 

ー色変えした?

ーっふふふ、嗚呼、私が怖くないのか?

ーだって、これは演技なのでしょう?

ーっ、エフェメラル、なにを

ーこれは私を騙す一世一代の演技!夢でも幻でもないもの!!

『…嗚呼、そうだね。』

そうだ、そう言い聞かせるしか、術がなかった。
創り上げて修正を繰り返し、現実を否定するしかなかった。

嗚呼そうだねと言う彼女の微笑むその冷たい顔。

勘違いをして、脳を制御するしかなかった。

ーだから

なぁんにも、しんぱいなんて、しなくていいの!

そう笑って両手を広げて背中を見せるエフェメラル
それは認めたくないから、此処は大丈夫だと思いたくて。
空から落ちる光に気付いたのは小さな痛み。


「っ!!」
「そんな、ことが」

紫色の液体が身体にしみこむ。
何だろうと思って手を取った。
隣に倒れていたのを見て、首を傾げた。

ーあれ、さあ?ど、したの?

ーっ貴様!!

ーお前がねんねしているからだ。

可哀想に

ー殺められたくないなら大人しく明け渡せ。

ー誰がするか!!!!

そういってルトラールが彼女を飛ばし、一時的に時間停止を創り出した。
正確にはかなりの時を遅めた禁忌に近いものだが。

ーよく聞け天使の子供!!今すぐエフェメラルを連れて奥の部屋に入れ!!

ーっぐ、わ、かりました、メ、る、いくよ。

ーえ、でも。

ーエフェメラル

なあに、というエフェメラルがルトラールを見る。
此方を見て嬉しそうに笑って言う。

ー大丈夫、迎えに行くから。

嗚呼、と声が遠くで聞こえる。泣き崩れるのも無理はない。
きょとんとした子供はうんと分からなさそうにして手を引かれる。
ご丁寧に、左腕を持って。

エフェメラルはそっと、右手を伸ばして、止めた。