悪夢は君を待っていた




『あ〜あ。や〜っちゃった、やっちゃった。』

そうシャボン玉をくっつけ指を鳴らし落とす彼らの中で言うメル。

『我はお前のことが愛おしくてたまらなかったから活かしたというのに。』
「われ?」
「……貴方、まさか」
『久しいな、ウイスよ。』

ニヤリと笑う彼女、エフェメラルではない。
メルでも、なんならミユでもない。
メルは前に、力を殺したと言っていた。

そう、力を。

『さて、我に等価交換を与えた彼女の可愛らしい願いの為に人肌脱ぐか。』
「っながっ」

軽く足で蹴り飛ばすメル、否ラコエ

カランコエとカタバミの華を咲き誇らせる彼女が笑う。

『ほ〜アレを止めたとは、修正呪文か?それとも逆戻りの肉体に変えた?
まぁいずれにせよ面倒なこたありゃせんな〜あっはははは!!!』
「め、めるが、めるがこわれ」
「違いますよ、アレはメル様でありメル様ではありません。」
「どういうこと?」
「前にメル様に付いていましたが、時々本当に稀に、浮上する方でした。」

ーウイス、行くぞ

「冷たく兎に角感情と言う感情がない。まるで神のような存在。」
「…まさか」
「人の身体には神の力等耐えられるわけがない。
そして同時に、元々を見るに、
メル様はとても感情表現の豊かな方。」







それが合わさると、どうなるか。





「メル様が、自分の力とは違う者と創り出すことで
彼女は人で在り続けることを成し得ているというもの。」
「ええっと、つまり?」
「ふふ、つまり、あの子もメル様である者。」
『や〜久しぶりに助けてって声が聞こえたんでな。
えらくせっぱ詰まっとるからなんだと思うて。』

蓋を開ければ、なんだこのありさまは。

『思い出したから、大事なコレを返します?』

ふざけるなと言った彼女が、
胸に咲いたカタバミをぐしゃりと掴み落とす。

『プラティアよ、お前はこの子の様に全てを投げ出せるか?』
「っぐ、なにを」
『出来るわけがない。お前は我の欲を満たせない。
此処にいる全ての生き物たちがソレを理解しておる。』

なあ、気付いているか?

『この子は一度も自分の欲を出してない。』

ニヤリと笑うメルに、ゾクリと恐怖を味わうプラティア

『人にしか願いを飛ばさない。
加えて自分の大事なソレしか渡さん。
本来ならば全く足りないのだが、
心優しい我はソレしか必要とせん。』

これは等価交換だ。

『お前を喰らう。片方に。』

笑った彼女の背後からツタがどんどん湧き出てくる。

ツタは綺麗に切られ、消えるのに、
どんどん湧き出るからきりがない。

右へ左へと避けては枯らしてを
プラティアが手を出しても止まらない。

元にまでたどり着かないのだ。
枯らしたとしても。
ギラギラと光り輝く金色の目が。

誰かを、知らしめる。

『プラティア、先に言っておくが、
お主が恐怖を感じるのは我ではない。』
「は?」
「どういうことだ」
『お前は賢い子だ。この意味だけで分かるよなぁ?』
「…あ」

どうした悟飯と言ったピッコロに嗚呼いやと悟飯が言う。
前にメルさんがぼやいたのを思い出してと。


ーあ〜あ、ねぇ悟飯君は天使と悪魔、天国と地獄どっちがいい?


「なんだそれは」
「いや、僕は天使や天国がいいって言ったら
それだと可哀想じゃんって」
「いや本当になんだそれは」

流石にピッコロだけでなくビルスも突っ込む。

「そういえば先程も仰っていましたね。」
「それで思い出して、メルさんこうも言ってたんです。」


ーね、もしも地獄の世界に天国があればどうしよう?


ゾクリと恐怖を感じ取った。


「それ地獄じゃねぇんじゃねぇのか?」
「そう思って僕も否定したんです。
でも、メルさんが言ったのは違う。」


ー天国の様な夢が叶うと知る現実を。


「二度と叶わない夢を抱き続けた者すらも愛せたら
それは何者にも代え難い向こう側の位置に居られる。」


夢物語だ


「そんなもの、願った所でどっちかに落ちる。」
「同感だな。地獄も天国も、
天使も悪魔も偏り過ぎてるが。
だから均衡が保たれている。」

シーソーのように、片方と
もう片方に同じものがあれば釣り合うもの。

だが、その真ん中に行けば、均衡などない。


あるのは、ただの、浄化のみになる。


「……マテいやまて」
「待ちませんよ、シャンパ様」
「いや馬鹿だがそれって」
「なんだ今更気付いたのか?」


青ざめる彼に、ビルスがにやりと笑って前を向いて言う。


「あいつは天使も悪魔も全部ひっくるめて
好きだって言う馬鹿なんだよ。」
『そういうこと』

シュンと音を立ててビルスの近くで
胡坐をかきながら出現するメル、
否ラコエがにやりと笑って言う。

『加えてあの絶対にそんなこと無いって言い切る無駄な目だよ〜
まぁそれがもしも、叶えば。叶えられるならば。ってつけた。』
「…は」
『等価交換』

そうだろう?

そう開いた目が金色が合う。

「まさか、メルは、辿り着いたというのか?」
「どういうことです?」
「…人間、精神を保つためにも怒りや感情等は
本来波の様に浮き沈みがある。
それを制限し、力を集中させたものが気にもなる。」

こんな感じでな。そういって
ピッコロは小さな気を手に集めて言う。

「だが、メルのやったことは違う。
自らを怒らせ、一番幸せな情景を切り取ったんだ。」
「切り取った彼女はそのまま酷い惨劇を創り上げる。
創り上げた状態というのに、怒り絶望し、気を高める。」
「それが一度ならわかる。」

そういう療法は聞いたことがあるからな。
だが、とちらり見るピッコロにメルがにやりと笑う。

「その情景だけを作り、しがみ付いた。
それしかないと言い聞かせ、
それしか欲しくないと思わせないように。」

願いは単純でそれが叶えば忘れ去る。
ならば忘れないような願いにすればいい。
そうそれこそ、


「地獄に出てくる天国のように。」
「…っまさか、彼女は、
一番幸せな処を嫌がったんですか?」

「加えて、地獄を慣らせば痛みが無くなる。
痛覚を遮断すればある程度の痛み等無意味。」

『…ご名答、流石知識魔め。』

「はっ、伊達に長生きはしとらんのでな。」

『メルは痛みを先に殺した。
おかげ様で痛みを感じない感覚が
我とのバトンタッチ。』

逆に言えば、痛みを殺しても尚、
殺した肉体を維持しているということ。
それ程酷い状態は、無いというのに。

『例えていうなら腐った死体を
ベットの隣で置いて寝ているのと同然のことだ。』
「いい!?そんなじょうたいで寝れんのか?!」
『寝るように鍛えたんだ。こういう』


奴を強制するためにな。

そういってラコエがピっと音を立てて下におろす。
プラティアがぐっと音を立てて下にめり込んだのだ。


『この子は非常に賢い。
敵を欺くなら味方から。味方を欺くなら己を。
己のその大きな力に気付いた子はすぐに自分と切り離した。
そうした方が感情の制限が非常に緩やかで
加えて作り変えやすいからなあ。』

おかげ様で精神との切り離しもすぐに成功した。

『ミユは事実、我の一かけらではある。
お主を出したのは我の作戦ではあるが。』

まぁ流石に精神が出来上がったのは正直予想外。
そう笑うラコエに、目を丸くするミユ。

『我としてはそのままにしておきたい。
ま、その話はまた今度だ。
先にこやつをどう煮込んで焼いて
食べようか迷っておるんだわ。』

「にっ!?」

『ん〜等価交換内容的には明らか今回で喰らわねばならん。
かと言って駄目だったら滅茶苦茶あやつに怒られるのは我じゃ。
あ〜〜〜怒られたくはないのじゃ怒られたくは〜〜〜〜。』

「其処迄貴方でも頭が上がらないのですか?」

『嗚呼?ああ、メルの考えることは何事もエグイのじゃ。
それこそ地獄に暗殺者に園児と花畑で手遊びさせるくらいのな。』

「うわあああ」


えぐい、そう引く破壊神達に、
ラコエがから笑いする。


『ははは、笑っとるがいい。…ちなみにじゃが、つい此間
我と共に糸巻き巻き永遠にさせられたばかりで出てきた
我の気持ちも考えてほしい。普通にきついんじゃ。普通に。』
「ぶっ」
『……』
「ああごめんなさいつい」
「何故笑ったんです?」
「糸巻き巻きってこうやるんです。」

そうくるくるする動作に、
ラコエがメルに付き合わされてやられたとなれば。
嗚呼と周りの声が伸びる。

『加えて振り付けどころか声だけじゃのうて
その思考回路全てにおいて同じというのじゃから
もうきついったらありゃしない。』

あんな舐め腐った感情など誰が同じにおっと失礼。

『ま、そういう訳で、我は今回話を遂行しなければならん。
すまんな、プラティア。申し訳ないが我の、
引いてはメルの中に入ってもらえんか?』
「っ誰が!!!」
『じゃあ逆に言う。大神官の力に封じられるか、
この体内に入って地獄の様な天国に永久を刻まれるか。』

選ばせてやるとは我も天使よのぉ。
そう嬉しそうに言う彼女に、
ぐっと誰がと言う。

『先に言うが、こやつを喰らうのは無理じゃ。
例えお前がプラティアだとしても。
雑草をも超える力を持っていたとしても。』
「なぜ」
『ソレはあくまでも植物の話。
こやつの感情はソレを越えた者じゃから。』

だからずっと我はこやつを殺せずにおるのじゃと愛おしそうに言う。

『ちょっと痛めつけても前を見る。其処を見る。
お主がいた場所を、じゃから会えて非常に嬉しい。
この子が願った陳腐な願いがお前とあらば
余りにもくだらなすぎるからのお!!!!』

ラコエが手を上にあげ下げる。
そして横に手を切ると、
彼女の身体が軽く華と共に散ったではないか。

『永遠に続くこの願いを、お主は叶えられず淘汰される。
こやつはそれすらも嫌がる。お主に切られても。壊されても。』
「…ラコエ」
『アルト、お主の事は覚えておる。いい子に育ったのお。』
「…っ」
『…プラティア、お前、こいつを喰らうならば我が喰らうぞ。
本気でいいんじゃな?こやつを食い尽くし、一つになれるならば。』

嗚呼という彼女に、はぁ〜〜〜〜とかなり長いため息が漏れる。

『だ、そうじゃが、それで異論はないのか?大神官よ。』
「構いません。寧ろよろしいのですか?」
『メル曰く「躾します」だそうじゃ。』
「あっ終わりましたね彼女。」
「ですね、お兄様も分かります?」
「はい。エフェメラルはキレたら抑え効かないので。」

彼女が躾というのに、サワアですら納得する。
それは、余程昔から培っていた考え方。
アルトが背中をゾワリと立ててすっと下がる。

『ふふふ、ま。原初ら!お前らも同意義だが良いか?』
「構わん。そいつは元々我々もてこずっていたんだ。」
「寧ろ躾直されて帰ってこれるなら願ったり叶ったりです。」
『いや帰ってこんじゃろうな。』
「は」
『お主は生きれない。この子の中で死ぬ。』

それ程、メルの精神は限りないのだという。
ま、仕方がないとメル、否ラコエが手を前に出す。


『お主も此処を望んだということじゃ。
還れないその地獄の様な天国に。』

にげようとすることもなく、
彼女は腰を掛ける。

『はっ、その敬意に表して、綺麗に葬ってやる。』

ありがたく想えそう声を荒げてすっと彼女の元に飛ぶ。
白い髪の毛が赤く染まりあがり、目は赤く光り輝きだす。