懺悔が祈りに変わる頃





そう、そう思っていました。


『まさか本当に会合まで何にもないとは。』
「驚きましたねぇ、はい衣装です。」

ありがとうございます。
そういったメルに、いえいえとウイスは答える。

ビルスもまた正装を着ていた。
頭に腰巻きと同じ模様を被る。

メルはギリシャ神話の神様にでも出そうな衣装を着ていた。
全体的に白い衣装で、胸元で金色の紐でワンピースをくくりつける。

片側、左側には銀色の布を括り付けた。
それは華神の色がまだないという意味らしく、
色が分かればその色に変化するとのこと。

Vネックの白い布は、それ以外肌を露出しない。
肩はそのまま肘まで薄いベールに身を包み、
肘以降はベル状に広がる程裾が広かった。

髪の毛は後ろに纏めてみる。
こうしてみると、長くなったものだ。

『あれ靴は?』
「ないようです。」
『はえ、皆裸足だったんだってか
ギリシャ神話にでも出てきそうな衣装だねえ』
「ぎりしゃ?なんですそれ」
『嗚呼、日本で知られてる神話ですよ。
ポセイドンとかああいうのかな。』
「ほお?メルさんは日本と呼ばれる処に住んでいたのですか?」
『うん…うん?あれでも、どうして?』

ほらいきますよそう手を引かれてあれよあれよと連れていかれる。

そうして辿り着いた場が、そう、全王宮である。

その場所の広さに、頭が上がって帰ってこない。
ふわりと上がるメルにこれとウイスが言う。
正装をしていた者達が、部屋に集まっているのが見えた。

なんか緊張してきたというメルに、まぁまぁとメリアは笑う。
メリアは付き添いというのもあり、メルとは違う衣装で、
その身を深い緑色の布にかぶさっていた。

『まだ咲かない種みたい。』
「メル?」
『なんでもない』

種なら茶色かと思ったメルは、ウイスの後ろに入る。

「大神官様、到着しました。」
「おや、メルさん来てくれましたか。」
『わわ、大神官様、の?ん?違うな??』

抱きしめるわけないもんな?そういったメルに気付かれますかと姿が変わる。

「ですが私もちゃんといますよ?」
『!!!!』
「ふふ、驚いていそうですよ。」
「ええ、よかった。」

そう髪の長い女性が微笑む。その姿に、そっと手を前に出してその女性に触れる。

「っメルさん!」
「構いませんよウイスさん」
「…どうされました?」
『あ、いや、なんで、だろ』
「っ!!」

ぽろぽろと涙が零れ落ちる。なぜか分からない。分からないのだ。
でも、この人にこうやって触れることは、一度や二度ではない気がした。

おかしい、おかしいのだ

『私、貴方に会ったこと無いのに』
「…ええ」
『わからない、わからないの、ごめ、ごめんなさ』
「いいのですよ…メルさん」
『でも、不思議、何度もあってる感じがするの。』

それも、場所が違う。そう言って笑うメルの胸にぶわり咲く。
その黄色い華に、大神官がすぐに手刀を入れようと動くも
ふわりと空をジャンプしてニコリと笑う。

「っメルさん!!」
「皆さん追いかけて!!」

タンと飛び出したメルに、何事かと扉を開けた場所の中にメルが入る。
ドアを閉め、その中に閉じ込めることは成功したが。

「すいません、メルさんを落ち着かせてもらえますか?」
「っな」
『っ』
「はっやいな?!?!」
「そうは言いましてもっ」
『ふふ』

笑って空を駆け巡り続けるメル。
そりゃあもうハエ並みのしつこさに苛立ちも出てくる。

「胸に咲いた華がみえるんですが」
「少々早い目覚めですねえ」
「大神官様?!っあなた、さまは」
「メルさん、とても嬉しそうですね。」

大天使様そう言う声に気付いたメルがぱっと浮遊する。
くるくると回り、声は出さずともその姿が変化していく。
白い髪の毛が、紺色の髪色を灯していくのに、目をぱちくりとした。

捕まえようとすればぱっと身体をすり抜ける。
まるで天使の使う、身勝手の極意を身に着けたように。
するすると動いて捕まえられる気配がない。

「本当に、似ていますね。恐ろしい程に。」
「似ている?一体どなたに…」
「メルさん、貴方の知る子がいますよ。」

ご挨拶しないのですか。そういった大天使に、メルがきょろきょろとする。
ぱっぱっと各神々の近くによっていく。
ちらりと身体を見ては消え、浮遊しては消えて、目線に入った姿を見て走り出した。

たったったと、音を立てた後、浮遊して空から見たそこは。


「…え……メ、ル?」
『…ただぁいま、さわあ』

そう花が咲くように笑って言うメル。
ぱっとサワアの前に浮遊するメルに、ぱたりと零れ落ちる。
その姿に、メルは少し静止した。

どうしたんですかと言うサワアに、お主顔と言われて手を触れる。
濡れた頬にもおとサワアは笑った。

「おかえりなさい、メルさん。」
『わわ!』
「ほら、捕まえましたよ♡」
『はにゃ〜〜〜!!』
「ありがとうございます。素晴らしい演技でしたね?」
「いえいえ…演技だとお思いで?」

本人のみぞ知るということにしておきましょう。
そう笑う大神官に、受け取るのはウイスだ。
猫が伸びた状態で飼い主の元に戻る感じが否めない。

「まあ帰るにはまだ早すぎるので、また旅立たせるつもりですがね。」
「大神官様?なにを」
「さ、メルさん。此方へ。」
『ん!!』

そうにんまりしてウイスの元から外れ走るメル
中央に来て立ち尽くするメルに、
天使らを含めた神々らは定位置に腰掛ける。

左右対称に膝まづいている彼らに、メルはきょろきょろしてみていた。

「メルさん」
『ん?』
「声を出しても構いませんよ?今は【外れて】おりますので。」
「なにを」
『…あ、あ〜ああ〜〜〜ふぁ〜〜〜〜〜〜〜〜』
「なっ!?!?」
『あにゃ…ども!スピスさん元気してる?』
「すっ!?!?!?」
「ええ、貴方もお元気そうで何よりですよ。」
『へへ!サワアも、クスねぇもいる!!』

ぺこりとお辞儀をする二人に、何事かと周りがざわつく。

『それより、私今廻廊中では?此処帰れないのでは???』
「そのこともあり、異例ということで招集したのですよ。」
『というか今いつでしょう』
「貴方の知る者はそこにいるお二人程です。」
『……そ、っか。』

皆、華を散らせましたそう言った大神官にメルは項垂れる。
紺色の髪色に染めた彼女の目は、
黄金ではなく、深い深い、緑色に染まりあがっていた。

「本当に成長すればするほどあの人に似ますね。」
『そう?んん〜所でその例の人は?』
「れいの?」
「少々おいたが過ぎたようでして、ペナルティーに。」
『…そっか。私がちゃんと入れるのも後何分だろう。
ま、そんなことどうでもいっか!どうせまた戻るんだし。』

この今も、悩んで前を見ようとしてるんだろうし。
そう言う彼女の、左側は金色のベールを帯びていた。
金色の花と白を交えたその華に、笑う。

『サワア!』
「…なんでしょう」
『元気してる?』
「……ええ、元気ですよ?」
『クスねぇも!』
「ええ」
『…ならいいっかぁ!もう少し長生きしててよ?お二人とも。』
「余り長いと飽きてしまいますよ?」

それはこまるねぇ!と笑うメルは、じゃあとペコリお辞儀をする。

『大神官様、そして大天使様。儀式を。』
「…よろしいのですね?」
『耐えます耐えて見せます。そのために、此処に来たのでしょうから。』
「…分かりました、大天使さん」
「はい此処に」

そう言って宝玉を出した彼女に、
メルは紐を解いて紺色の髪をあらわにする。
ぽいっと捨てた髪紐が綺麗に泡となり溶けて消える。

「では此処にて、華神の儀式を引き受けましょう。
引受人はこの私大神官と大天使が執り行います。」
『ありがたき幸せ、ですがその前に良いですか?』
「ええ」

メルはぱちんと指を鳴らし、後ろを向く。
其処には、今まで記憶を取り戻した子達が落ちていた。

「あれ、ここ…」
「…メルねぇメル起きてよ!!」
『私は此処だよ、メリア』
「え?でも」
『それは亡骸に近いからね。まぁそれにしとかないと私に負荷がかかると元も子もない話だしねぇ〜〜!!!』

あはははと笑うメルに、あれ笑う処間違えたと首を傾げる。

『少々【外れた時間】の為、こうしてお話出来るのは短い。』
「外れたって、何の話を」
『ねぇねぇすっぴーいいでしょ?皆も引き連れて!』
「ええ構いませんよ。どちらにせよ正式な華神としての授与もしていませんでしたし。」
『やたー』
「やたーじゃないわよ!!貴方あのお方が誰だと知ってるの!?」

というかちゃっかり髪色染まってない!?眼も!!そう言うメリアに大丈夫だよおと言う。

『大神官スピス様に、大天使リア様。ご健勝のこと何よりですよ。』
「いえいえ」
『名前はまだ言えない。でも、メルではあってるよ。』
「メル…」
『ごめんね、あっサワアにクスねえも言わないでよ!』
「わかっていますよ。」
「誰も言いません」

ならいいかあと笑うメル。
本名を二人は知っているということは、

「コルン様も名前を?」
『嗚呼コルン?んん?そんなやついるう?』

私は知らないというメルに、大神官がちらりとみた目線に会う。

『あ、君かあ』
「っ!!!」
『………わ〜〜〜。』
「な、なに、か…」
『…成程ねぇ、考えたねぇすっぴー』
「す」
「ええ、理解が早くて助かりますよ。」
『了解、コルン様』

うちの人が世話になってすいません。
そう笑って髪の毛を指さしたあと、
ふりふりと揺らして元の場所に戻る。


『さて私が戻る記憶は流石に負荷がかかり過ぎる。
戻れなかった方が怖いけど、戻した方がいいだろうねえ。』

私も私の言葉が聞きたいし。

「戻る前に先に貴方の想いを聞いても?」
「貴方の名前はなんですか?」

そして願いはそう言う彼等に、
メルは組んでいた腕を外し前に立つ。

『私は沢山の記憶に触れてきました。
この者達だけではない全てに触れるでしょう。』

背後に居た者達だけでなく、
ふわりと魂が色を持ちメルの元に近づく。


『それでもあの日の願いは変わらない。変えられないのです。
何度だって祈りましょう、何度だって想いましょう。
その為なら、あと2つの命を、受け取る覚悟はできています。』
「その言葉、忘れないで下さいね。」
『メル、私の名前は、メルですよ。大神官様』
「ええ」
『華樹の記憶を、完成させたその先で、どうか待っていて下さい。』

私も必ず、其処に行きます。そういったメルの言葉に、ふわりと髪色が変化する。
目を閉じていたのを開くと、先程の華も消え、黄金の光は溶けて銀色に変化した。

『…あれ?あれ皆どうして。』
「やっぱりこっちが落ち着く。」
「今はねぇ」
『え?え?え?あれまって知らない人いる。』
「ふふ、先程出会いましたよ?」
『あっ!そうだ!!天使みたいな天使さんだ!!!』
「ふっ」
『えなんで笑うの!?!ねぇなんで?!?!!?』

焦るメルに、いや本当にと笑う。

「変わらなくて本当に良かったですよ。メルさん。」
『あぇ〜〜〜〜?????』
「華神の取次ぎをとしていたところです。
貴方の名前を、貴方の願いを聞いても?」

そう言われて、メルの顔が曇った後、私と言う。

『まだ知らない人たちが沢山いるのです。
知ってる様な人たちも、沢山いるのに分からない。』

でもそのまま放置するなんて出来なくて。

『私は最初から最後まで、メルとして生きています。
願いは今はまだ、分からないですが、きっとあるんです。』

この胸に、確実に。そう言うメルに、誰もが声を挟まない。

『なので、知るまで分かるまで、この話は保留でも良いですか?』
「…それは、華神にならない、と?」
『んん〜〜〜はい!!!!』
「はいじゃないが!?!?!?」

いいの!?そう言う殴り込みにちかい感じで入ったメリアにいいとメルは言う。

『だって私がそういうのだもの。…ねぇ?』

そうちらりと左上を見るメルに、先程の姿を思い出した。

「メル、貴方…さっきのこと、覚えて。」
『あと二つ、命を取り戻します。そのまえに、二つ、取り戻さないとね。』

そういったメルが手に力を持ち、杖を出してトンと音を立てる。
髪色が紺色にも見える姿の前に出てきたのは。


「っフィズ?!?!!?」
『さあ、物語の続きを見てみましょう。』


++++++++++


『さぁ物語の続きを見てみましょう!』

そういったメルが杖を前に出す。
白い髪の毛の女性がこの場に居る全員に姿を見せていた。


フィズと呼ばれた子がちらりと振り向く。
それは何時しかの大神官その者だった。


「なんですか?おとさま」
「子供たちが貴方に会いたそうにするのでお連れしました。」
「わあ!おにいさま!!」
「元気そうでなによりですよ、フィズ。」

そう見に来たのはクスとサワアだった。
元気に走ってサワアの身体に飛びついたフィズが嬉しそうに笑う。
それにニコリと微笑み返す。

こうしてみると兄弟仲睦まじいように見える。
輪を持つ彼女の姿は、同じ天使で間違いがない。

「フィズさん、お二人に渡したいものがあったのでは?」
「渡したいもの?」
「あ!そうそう、かかさまと一緒に作ったのです」
「これは」
「どーなつと呼ばれる食べ物です!」

レシピをかかさまから貰ってそう笑うフィズに
ちらりとサワアが大神官の方を見る。

「彼女が教えて欲しいと言ったので教えただけですよ。」
「おいやでした?」
「…っ、いえ、有難く受け取っておきます。」
「〜〜〜!!!!!」

嬉しそうに笑うなあというのが第一印象。
メルはそのままその姿を見続ける。
どうせ、いずれにせよ、自分が見える。

そう周りを見ていたところ、その姿はいた。
じっと見つめて、虚ろに見える姿だ。
まるでもう、諦めたかのように見える。

やつれていると言えばもうそうだろう。
黄金の瞳はただ下を向いていた。
フィズに声を掛けることもなさそうだ。

と、なればフィズの人生を見ているに近い状態か。


「それにしてもドーナツとは、貴方も考えましたね?
意味、ご存じのはずでしょう?」
「…あれ、お兄様達まさか」
「ふふ、さあ?どうでしょう?」

顔を赤らめる二つのポニーテールを薔薇で纏めたフィズが困惑で大神官を軽く叩く叩く。
大神官は嬉しそうに笑って、子供の面倒を見ている父親に見えるのだから不思議でたまらない。

ドーナツの輪は、終わりが見えないことから、
永遠に続く愛、貴方のことが大好きという意味があった。

それを知ってフィズが渡したと分かるかどうかは知らない。
ただ少し考えた後照れくさそうにしたサワアのことを思い出したフィズが
バレたと思い、大神官に怒りを発散していたのだ。

「も〜ととさまったら、別にいいって言うけど、そういうもんだいじゃ、ないのに。」

ねぇそうだよね?

「其処に居ないで何か言えばいいのに。私はフィズ。貴方は?」
「…」
「名を割らない。それは知られたくないから?それとも知っても無意味だから?」

決められたものだから。
そういうと、びくりと反応した過去のメルに、当たりかとフィズが言う。

ドーナツを渡すフィズに過去のメルは首を横に振るも
がっと無理矢理口を開けて突っ込んだ。
その勢いには、やりすぎだろという声も上がる。

「ねぇドーナツの輪は終わりが見えないことから
永遠に続く愛、貴方の事が大好きって意味があるの。」
「…それが?」
「食べたら欠ける。永遠は終わってしまう。」

この意味貴方なら分かるよね?
そう微笑む彼女に、悪魔めと過去のメルが言う。
それにフィズがにんまりと嬉しそうに笑みをこぼす。

不敵な笑みを小さな頃からしていたとは思っていたが
こういうところで知っていたのかと、コルンらは気付いた。

「ねぇ貴方は何処から来たの?」
「しらない気付いたら此処に居た」
「へぇ嘘じゃなさそうね。」
「…私を殺せないか、天使だもんね。」
「あら、貴方を殺せる方法なんてあるの?」
「あるよ。」

この華を散らせば、そう胸に咲いていない華を触るメルに
ふうんというフィズ。それおとぎ話だよねと言う。

「え?おとぎ、はなし?」
「そう。昔昔、この世界には華に祈り願いを灯した儚い神様が暮らしてたって。
その神様は願いが叶えれば正式な天使に任命されるって。」
「っな!?!?」
「本当ですか!?大神官様!!!」

そういった破壊神や界王神に、現在の大神官がこくりと縦に頷いた。

「でもその前に、ちゃんとした天使になれるか分からないから
審査をしてみましょうってことで、偽物の輪を作った。
加護を持ち、その者を守れる者達、加護天使。」
「かご、てんし」
「そう。その先に天使になれるって聞いたけど、貴方はその前の者?にしては違うけど」

何処から迷い込んできたのだろう。そういったフィズに、迷子とぼやく。

「ああ、そう、迷子…うん、しっくりくるね。そうだよ、フィズ。私は迷子の子供なの。」
「…そうお名前、分かる?迷子なら送り届けるよ。」
「メル」

嗚呼、此処でも名前を言うのだろう。

「私の名前は、メルだよ。フィズ。」
「天使フィズです。よろしくね、迷子の可愛い人間のメルさん。」