続け、救いはすぐそこだ




「それで、何処から行くと?」
『…ひとまず、4から行くことにする。』

ひとしきり泣いてすっきりしたメルは、
飲み物を飲んで落ち着いた所で
コルンから声を掛けられたので答えた。

皆の者、水はいいぞ。水は。
生きとし生ける者、水を飲め水を。

「正気?」
「というと?」
「あの中で一番普通であり、少々不気味だったんです。」
『だとして私が1や6とか言ったら?』

「羽交い絞めにして止める」
「意識失わせて止める」
「金の首輪締めてサワア様に管理させる」
「大神官様辺りに誓約付けて貰ってから記憶軽く消す。」
『ん〜〜〜〜!!!!やり方が全部えぐいんじゃ!!!!』

特に後半になるにつれて酷い!!!
どうしてそうなるかなぁ!?!?!?!

そう叫ぶメルに、いやだってねぇと
廻廊である皆が目を合わせる。

「6は爛れて焼け焦げ、ガラスもヒビが入ってたし。」
「1は墨汁で外は落書きだらけ、文字は更に上から消されて見えない。」
「加えてガラスをぶち破ってあの黒い蔦のような手が襲ってくる。」
「危険極まりなさ過ぎる。」
『おっしゃるとおりです』

まぁ、危険度からして、どう考えても1は後回しだろう。

「なら10辺りから行くのはどうなんです?」
『いや〜〜〜それはちょっと。』
「んん?」
『見たことあるフォルムがですね、白と紫がですね、あのですね。』

凄く嫌な予感がして、出来れば後回しにしたいのだ。

『なので順番的には、4、10、6,1がいいかなと。』
「8と9は?」
『どこかで挟みたい。でも、多分それをするなら…』

4,10,8,9,6,1

この順番が妥当だとは思う。

「0はないのですか?」
『多分、ほかの廻廊思い出す間に
全部思い出す感じがするから、見に行くのは
12全てが終わって完成してからがいいなと。』
「ほお?」
『それに、12は0と同じみたいなものだし。』

妙に0は居心地がいい感じがするのだ。
というか、12を見れば同時に0が判明しそうなのもある。

『ま、24時は0時であり12時。
その時間が終わり、始まる。
原初であり終焉の時間である者。』
「メル?」
『それらを完成させるには、まず時間を決めること。
どうせ4も酷いのだし。出来れば9や1を潰して
4や10を後回しにしたいくらいだ。
だって10は私でありあの子の誕生日なのだし、
4は桜のある時間で、残酷で幸せなあの子が
あの時間、あの日を終わらせた唯一の』
「メル。」

あ、と顔を上げる。
深く考え過ぎていた、最近の悪い癖になりつつあるものだ。

「とにかく、メンタルが落ち着いた時辺りに決行だね。
一度試しにまだ見てない記憶らに他の廻廊者が入れるか確認してから。いいね?」
『はあい』

何故私が指示を貰わねばならないのだろうかとは思っても無駄だ。

++++++++++

処変わって、風呂場。
いやこの場所本当に凄いものであってだな。
部屋に入る左側手前の扉を開けると大浴場に迎える。
因みに入って左が男性右が女性浴場だ。

いや温泉いらん。普通の風呂をよこせ。

そう思っていると、割と女性風呂がコンパクトになるから不思議。
いやそういうんじゃないのよ、全体的にコンパクトにしてほしい。

まぁ大勢で来られた時が怖いか。
仕方がないと思いつつ、メルは風呂に浸かる。
廻廊者達はその中に一応いると言い出したので放置した。

正直止めたさ。あんなことがあったからね。
でも、尚更居ると言い出したのは意外にも
ミシュメールとメルトリアの二人だった。

ー何時暴れるかも分からないし、狙い的にはメル一択だった。

ーメルは極力入る時にしか入らないようにした方が良いと思う。

我々は華を自由に扱えそうだしという二人の話は確かで、
あの時華を出していたというのに空を飛べていたのだ。
あの空間結構自由が効くと見た。

そういうのもあり、彼女らには居心地も良いのだろう。
メルはそれ以上引き留めることはなかった。

それに、あの中に居られると私は私で考えられるというものだ。
華樹の方に入っているので、私の中には誰もいない。
今はもう、誰一人としていないのだ。

強いて言うならカランコエが居るくらい。
でも、そのカランコエも一度ルメリアに引っ張られている。
入っているのかいないのか分からないが、
応答する返事も何もない以上、いないに等しいだろう。

『ふう…なんか久々に一人だな。』

風呂場は決まって一人であるべきなのだが。
ま、それにしても一人の心はとても穏やかだ。
もう少し騒がしかった感じがするが、気のせいではないのだろう。

一体何処が騒がしかったのだろうか、ソレは知らないが。

『…第4章、か。そう言えば父様ととさま、確か魔術を使うだなんだ言ってたな。』

華神らは特定の詠唱があるとかなんとか。
魔術や魔法といった部類を得意とするとか。
だが今まで見てきた中は無い。

下手したら、いや、それは合っているだろうな。

次から、華神らの本来使う技量が見えるというもの。
そして、更に真相へと導かれるというものであり。

『なんだかオラわくわくすっぞ!…だな!』

何時しか聞いたフレーズを言って見る。
いやあ、あの気を扱えるなんて夢のようだ。
もう今度悟空にかめはめ波習ってみようか、な、なんて。

『あれ、なんで悟空って呼べばしっくりくるんだろう?』

確か悟空さんって呼んでたのに。
ま、別に今はいいか!

風呂から上がり、衣服を整える。
そういや、下着とか諸々無いなと思いついた。

『創造で作れなくもないが、布でしかねぇな。』

かと言って天使らに作らせても星が違う。
やはり買いに行くのがベストか…いやでも絶対やだ。
大体の結末が見えているのだ。

いやでも、と思っているとなんかぬるっと気持ち悪い感触が
太ももと同時に背筋を伝う。

『…う、そ、でしょ?』

その赤黒い鮮血を、私はみたくもなかった。

とりあえず、白いタオルはお亡くなりになるだろう。
致し方がない。他の湿気を兎に角ふきに拭きまくった後
下着も着々と着て、下の下着はもうお亡くなりになる確定だ。

尚更買いにいかねばならなくなった。どうしてくれよう。

『あれ?ウイスさんにサワア様、帰ってらしてなかったんですか?』
「ええ、少々よ、うじが」
「メル様、何処怪我してるんですか。」
『え?あ。』

流石にタオルをくるんで出しても匂いでばれてしまうか。
いや違うんですという前に身体を掴まれるというか

『あっ!?えっ!ちょ!!!』
「失礼。」

さらっと姫抱きされて、そのままスタスタとベットに降ろされる。
杖を出したウイスがぴたりと止まる。

「白状なさい。どうして黙っていたのです?」
『あう、だから怪我してないんですってば』
「いいえ、ならその血はどう説明するのですか」
「……あの、お兄様」
「なんです、今忙しいので後にして下さい」
「いえ、こっちの話が先です。」

そう振り返ったサワアに対し、メルさんとウイスがメルの方を見る。

「貴方、肉体を取り戻したのですか?」

++++++++++

「肉体を?どういうことです。」
「いえ、その、人間、特に我々の星に居る
地球人特有の……生理現象が彼女に起きて居まして。」
『うう…だからどこも外傷しとらんと言ってるんですよ。』

そう少し身体を起こしていたのを今度こそベットに降ろす。
それにごぽりと嫌な感覚が出てきてさっとタオルを下に敷いた。
間違いなくこの白が全て鮮血で染まる。

いや、鮮血ならまだ可愛らしいかもしれない。
もうこんなの黒だよ黒。もう赤黒いゲテモノだよ。

『月経通称生理です。ウイスさん、
ご存じなら大体の物って出せますか?』
「ええ勿論。着替えにもなりますよね?」
『出来れば私の想像通りの奴が欲しいです。』
「承知しました。」

本当は自分で創造したいのだが、今は事が事なのだ。
ポンポンと馴染みの物が出てきて割と助かる。
何なら下着とか上の衣服まで替えを貰えた。
もう何なのこの人天使かこの野郎。

「ええ天使ですし。そんなこと言ってないで着替えては?」
『しますします。』

とりあえず隣の部屋にと思ったが、身体が止まる。
ぴたりと止まったことで、メル様と声がかかるも手で止める。

『まってほんとまって』
「…無理なら連れていくくらいします。」
『あ、でも汚れちゃう』
「これしきなんとでもないですよ。」

サワアはメルをもう一度抱き上げ、そのまま隣の部屋のドアを念力で開ける。
そっとドアの前で下ろし、終わったら声を掛けて下さいと言って締めた。

それに痛みが少し引いた途端メルは大急ぎで着替える。
こういうのは時間が勝負なのだ。

上を脱いで、上を股の間に折り曲げて敷く。
下着を脱いで、その上に。新しい下着の前に
一度布で股を拭き、新しい下着をつけつつも
ナプキンをセットして取り付ける。

その間に滴る鮮血は無かった。流石私。天才である。

そう難しい手術を終えたオペの後みたいな達成感を覚えた。
まぁオペなんてしたこともないはずなのだが。まぁいい。

メルは下に何もついていないことを知り、
ドアの向こうにいるサワアに声を掛けた。

『出来ました』
「はい」
『あれ、やっぱり抱き上げます?』
「痛いでしょう?」

あんな産まれた小鹿みたいな動きを
一々されては此方も反応に困りますので。
そりゃそうだ。

メルはひょいと荷物を抱えつつ、
サワアに抱き上げられたままウイスの元に行く。
荷物を彼に渡せということらしい。

『すいません、汚れたものをお渡しして…』
「いえいえ、構いませんよ。お役に立てて何よりです。
そんなことより、とんでもないですねえ?」
『え?』
「その魂を包む肉体を作るなんて、ましてや、
下から上まで中身の隅から隅まで、生命と瓜二つ。」

まるで、そう生きていたかのように。

そう言うウイスに、メルはどきりとした。
今までの人間達を見ていたというよりかは、
少しほんの少しだけ、昔を思い出しながら湯船につかっていたのだ。

そりゃあこうもなるというものだろう。

「ま、おめでたいことに変わりありませんがね。」
『え?』
「本来の肉体を戻したということですよ?」
『え?待って何処の?』
「私の知る限りでは貴方の知る言葉でいうと0というものですが。」
『…ま?』
「ま、ですね。」

マジらしい。わお、すげぇな。
待って、それ逆にまずくない?
廻廊から外れないかと思ったが、流石にソレはないでしょうとウイスが言う。

「もし廻廊から外れるとすれば、華樹やら何かしらの影響がかかるはず。」
「それに華神らが何が何でもと願っているのです。
貴方が廻廊から外れたくても外れるなら願わないと外れないもの。」
『あ〜なら、いっ、く』
「メル様!?」
「お兄様安心して下さい。人間特有のものです。痛みますか?」
『んん』

メルは片手で腹を強く抑え、身体をサワアにゆだね、
片手で服を掴んでいたのに力が入る。
力を入れたくなくてそっと手を放そうとしたのを止められた。

「そのまま掴んでいても構いませんよ。痛むのでしょう?」
「緩和は出来ますが、しますか?」
『し、なくて、いっ、いい』

人間特有の痛みに身体を慣らしておいた方が良いこともある。
息が出来なくなるくらいは流石に困るが、
其処迄いけば流石にウイスらも手を出すだろう。

というか脳内でこうして考えていることくらい
彼等も分かっているから、手出ししないというもので。

「…本当なら緩和させるべきなんでしょうがねぇ。」
「貴方の頼みとあらば、抑えるしかないでしょう。」

何時の間に清潔なっているのか分からないベットに降ろされ、
そのまま上にシーツをかぶせられる。

「今日はそのままゆっくりなさって下さい。
何か欲しいものとかあります?」
『ふ、たりと、も、かえ、らなくて、いい、の?』
「そんな状態で帰れば叱られますし、
そもそもそんな状態で帰りたくないですよ。」
『でも……』

大体こういう痛みは一人でも耐えられるものだ。
今までずっと耐えてきたものだし、今回も同じ。

それに、そう、そうだ。

『(欲しいものなんて要らないよ)』

私はあそこに全て置いて来たから。
その願いの為に、欲しいものなんて全てくれてやったのだ。
今更お願いや、必要なものなんてないというもの。

どうせ、此処には出てこない。

私の願うものなんて、食べ物なんて。
あの人達が居る、温かい場所は、求めてはいけないし、
此処で手に入れたらいけないというものだ。

『…お腹温めるものくらいなら。』
「…はぁ、貴方というお人は本当に欲がないですね。」
「昔からです?」
「昔はもう少しありましたが…いや、無いに等しいですね。
今は拍車をかけて無くなって皆無に等しいですが。」
『うう』
「我々が貴方の想像している願いを叶えられない訳がないというのに。
その手間を取って疲れるなんてありえないというのに。」
『でも…』
「ウイスさん、食事を作ってきてもらえますか?
出来れば彼女の思ったものを。」
『さわあっ…っく』

ほら急に動くから痛みだすんです。

そう言うサワアに、メルは腹に手を置いてまたベットに身体を落とす。
蹲り続けるメルに、分かりましたとウイスはサワアに言い、隣の部屋へと席を外す。

サワアは水の入ったペットボトルを宙にぱっと出してきた。
ソレを手に取り、軽くタオルで包みシーツの中に滑り込ませる。
サワアの手と同時に触れて分かった。お湯の入ったペットボトルだ。

「貴方が想像した中で一番わかりやすかったので。」
『あ、あり、がとう…』
「いえいえ、どういたしまして。」
『…あったかい』
「それはよかった。」

何も考えなくていい、不安なんて軽く身体からふわりと溶け上がってしまうように。
うとうととしてきた瞼を何とか開けようとしていると、声がかかる。

「寝てしまってもいいんですよ。」
『…ね、むく、ないもん』
「っくく、置いてかれると思ってるんです?」
『……うん』
「…っ!……貴方が帰って来たというのに、誰が置いていくというのですか。」

ずっと待っていました。何年も何十年も。
貴方が帰って来ないと、思った日も何度かあった。
それでも、帰って来ると待っていれたのです。

「何処にも行きませんよ。」
『…ん』

良かった。何処にも行かない。
優しく微笑みかけてくれた、紫色を見つめながら、そっと目を閉じる。
お腹の温かみに、身体の力が今度こそ抜けて、意識が落ちる。

ケタケタと笑い声がする。
誰かが話をしている。
嬉しそうに楽しそうに。

嗚呼、その場所に行きたい。
でも、いかなくていいんだ。
手を前に伸ばしていたのを下す。

白い空間に、ぽつりといる。

周りを見渡しても何もないと思って少し歩いていると、
目の前に大きな額縁がその姿を現した。

『…なにもない』

絵画の姿は何処にもない。
何かが飾られていたのだろうか。
ガラスだけで、後ろに封をするものすらない。
なんならガラス単体で額縁に挟めるものではないというのに。

廻廊の中にこれから入って行かなければならないというのに。
嗚呼そう言えば、1の先には降りていなかったが、変な空間があった。
青いドアが一つ、その場所は凄く怖い感じがしたから行きたくはないが、

その下に、変な紋章が描かれていたのを覚えてる。

それを解き放ったら、どうなるのだろうか。
その地下には、私の想い出がぎっしり詰まってくれているのだろうか?

それとも、此処がその場所だとしたら、
私の記憶は何一つないということになってしまう。

嗚呼そうか、怖いのか。

0に等しい状態と、想うことが、酷く恐ろしいのか。

大丈夫。大丈夫だよ。私。
サワア達が居るから、大丈夫。
あれ、でも私何時からサワアって呼び捨てて声を掛けていたんだっけ?

そういえばぐったりとしたあの瞬間、サワアが優しく声を掛けてくれていた気がする。
なんて呼んでくれたのかは分からないが、その言葉が、とてもとても懐かしくて。

その名前を呼んで欲しい。

こんな世界に居るだけではいけない。

もっと色とりどりの世界を見に行かなければいけない。

此処に、この額縁を置いて?


『…ううん、何時かまた、此処に来るね。』

その時には、この大きな額縁の中に、色とりどりの世界を描いて。
私はこの場所で、ゆっくりと目を閉じることになるだろう。
そんな、そう、そんな、最期が見えた、気がした。

所で目が覚める。

天井は何もない。真っ白いと言えば白の空間が見える。

「お目覚めですか?」

気分はどうです?顔色は良さそうですが。

そう言う彼女に、サワアは?と、予想以上に幼く高い声が聞こえた。
自分で言った感じに感じれなかったが、目を丸めた彼女の反応からするに
恐らく自分が言ってしまったのだろう。

とても不安で、その不安がきっと当たっているのだろうなと、
何処か諦めたような感覚を、想わせるような、不安そうな声。

「…破壊神に呼ばれた為、お戻りになりました。」
『…そっか』

嬉しそうに笑ってみる。胸がじんわりと痛みを広げていくのがおかしい。
そう、おかしい。おかしいのだ、どうして痛むのだろうか。
そもそも胸ではなくて、下の方が痛むはずなのに。

ペットボトルはとっくの前に生ぬるくなっていた。

「今新しい物をお出しします。」
『いいですよ、無理しなくて。』
「…いえ、痛みだすでしょう。お兄様からもお受けしていますので。」

要らない、そう言っても貰えるのだから不思議だ。
交換をと思って出すと、要らないと言われた。

「持っておきたいのでしょう?そのままにして差し上げては?」
『え?でも生ぬるくなってるから。』
「いいのですよ。そのままで。」

そう言われると、元の場所に戻すほかない。
持っていればいる程、不思議と胸の痛みが酷くなるというのに。
どうしてしまったのだろうか。この身体は、この感情は。

ぽたぽたと感情が滲んで、その言葉を知っているからこそ、言いたくない。

嫌だ、こんなもの、持っておきたくない。
嗚呼そうか、だから金色の紐にして、ソレを封じたのだ。
何も知らないままでいた方が幸せなことだってあるのだと。

金色の紐は、確かに大事なものだった。
でも、どうして貰ったのかも分からない。

誰が、どういう経緯で、なんて。

『おいてっちゃった』
「…そう思われているとは思えませんがね。」
『そう?』
「ええ、お兄様のあんなお顔、少なくとも
私は、一度たりとも見たことがありませんので。」
『…あの、お姉さんお名前は。』
「おや、申し遅れました。私はヴァドスと申します。」

以後お見知りおきを。そう微笑んで髪を揺らして教えてくれた天使さんが言う。
コンコンとノック音が入り、失礼しますと声が聞こえる。

「お姉様、替えを…っと、メルさん起きてらしたのですね。」
『ウイスさん…ったたた』
「あらあら、無理して起き上がらなくていいのですよ。」
「そうですよメルさん。アルメリア様から言付かってきましたが、
その肉体はあくまでも貴方とアルメリア様お二人の力で作ったもの。」
『つまり、仮の肉体でもあると?』
「ええ」
「本来、私が落としたソレは肉体も込みだったはずですが。」

一体何処に落としてきたんですか貴方と言う子は。
そう言うのは、何時の間に入っていたのか
壁際に背中を置いて話していたルトラールだった。

「気分は良さそうですね。」
『…。』
「別にお父様でも、とと様でも、ルトラールでもなんでもいいですよ」
『じゃあ間を取ってレトルトラール』
「…早速殴られたいのですか貴方と言う子は。」

きゃ〜!

「ま、何処で肉体を落としたかは知りませんが、
恐らく廻廊の中に入っていると思います。」
『じゃあそれを取りに戻れと。』
「月経が来ているのがおかしいくらいですからね。
きちんとした肉体は年月を駆けて成長しているはず。」

私の計算が正しければ、サワアらと同い年程に成長するはずですが。
まぁその時間よりも長かったり短かったりする可能性は充分あります。

「とにかく、数日間はきっちり養生し、
それから動くように…と言っても、どうせ
貴方なら、そうするおつもりでしょうが。」
『おやまぁ、バレてらっしゃった。』
「貴方のことですので、適当に
ペンやら用紙やらをお持ちしました。」

どうせ動くに動けないでしょうが。ないよりかはましかと。
そう言ってスケッチブックとペンを渡してくれた。わぁ神だ神だ。

「貴方達二人も帰って貰って結構ですよ?」
「では、お言葉に甘えて。」

失礼しましたと言ってドアから律儀に帰って行くのを見た後、
メルはルトラールの方を向いた。

『お話は?』
「…バレていましたか。」
『そうでないと入ってこない人だと思って。』
「ええ……貴方、本名が何か分かっていますか?」
『…いいえ。』

正直サワアが言っていた言葉がそうだろうが、
あの時痛みとか云々を飛び越えて嬉しさ手一杯溢れまくって
全く話を聞いていなかったというのもある。

その為、一切聞いていないというと
ならいいのですとルトラールは答えた。

「正直本名を知ってしまうと此処で誓約をと思いましたが。」
『ひえ』
「嘘偽りなさそうですし、大丈夫そうですね。」
『どうして、本名を知ったらダメなんですか?』
「…華神ら全員、我々華を持つ者達は名付けをされます。
それは華を守るためのものでもあり、
華の強さを保つための物でもあるのです。」
『はなを、まもる。』

ええ

「本名は華本来の力を持ったもの自体であり、
その力は願いによりけりで変化します。
コップ一杯分と限定していたり、
源泉みたいに湧き続けていたりと様々。」

その力は、時に悪い方向に向くことだってあるという。

「己の本当の名を知る時、その力に押し潰されて
しまわないかと、少し不安なのでしょうね。」
『ルトラール…』
「貴方なら乗り越えられると、信じているのですがね。
どうしようもないくらいに、怖くなるのですよ。」
『…その気持ち、分からなくもないよ。』
「え?」
『私も怖いの。手を伸ばして、取れる位置に居る。
傍に居る近くにいるのに、それが叶わなかった時
どうしていいかわからなくて。』

その時間が、壊れてしまうのが、一番怖くてたまらなくて。

それならば、どうせ、一瞬で崩れるならば。
そうならないように、そこに置いていけばいいと思った。
でも、忘れたくないから、忘れさせたくないから。

せめて、せめて、一番嬉しかった物に変えてしまえと。

そう思っても、結局は忘れてしまうものであって。
私は一体誰がどういう関係かも、分からないというのに。

「…全部分かろうとしなくていいのですよ。」
『でも、皆知ってそうにいうのに。』
「ゆっくりでいいのです。誰も慌ててなんていません。」
『…ほんと、ほんとにね?此処だけの話だよ?』
「ええ、ええ、いいですよ?」

メルは身体を丸めていたのを少しほどき、
腹に置いてあったペットボトルを取り出して言う。

『これ、貰えてとっても嬉しかったの。』
「おや、それは?」
『お腹温める用のペットボトル。中にお湯が入ってるの。』
「誰に貰ったのですか?」
『今のお腹はヴァドス様で、こっちは…サワア、から。』
「…そうですか。」
『なのにね?おかしいの。』

どうしようもなく、涙が溢れてくる。
触れば触る程、胸が痛くて苦しくなる。
抱きしめればもっと痛いのに、どうしてか嬉しくてたまらない。

まるで此処に居てくれるかのように感じれるのだ。

なのに、この胸はぽっかりと空いたみたいに感じれて、怖くてたまらない。

「ええ、ええ…そうですか。」
『こんな痛み、要らないのに…必要だって、言ってるの。』
「貴方がですか?」
『…うん。わたしが。』
「…答えを知りたいと?」
『ううん。知りたくないの。
知りたくなんてないのにね?知ってるんだよ。』

おかしいでしょ?笑ってしまうでしょ?
でも口になんて出してやらない。

「おや、狡いお人ですね?言ってあげないと?」
『言わないし聞かない。』
「もっと酷い子になりましたねぇ。」
『うん。そうして諦めて貰うつもりなの。』
「…メル、貴方まさか。」
『ねぇ、どうか置いて行って欲しいの。』

置き去りに、その想いごと、全て全て、此処に仕舞って。
綺麗に閉じて、綺麗に閉まって。笑えるようにする。

そうして私はずっと、歩いて来たのだから。

『一緒になんて、苦しくて辛い……怖いよ。』
「…ですが、そんな泣き言聞いちゃくれませんよ。」

世界は、非常に残酷なんですから。

そう手で身体をさすってくれる。
この手が、あの人だったらいいのになんて
酷いことを考えてしまう、この感情が嫌だ。

消えて無くなってしまえばいいと、どれ程考えればいいのだろうか。

寝たら消えて無くなってしまわないかなと思う。
でもきっと、そうはいかないのだろう。

『こわい、こわいよ…』
「…怖くないですよ、何一つ。」
『』

たすけて、なんて声にすらならない。
口で動かすと、愛おしそうな目で頬にキスを落としてくれた。
瞼がまた重くなる、もう寝たくなんてないのに。

まるでこれは夢だと言わされているような気がして。

嗚呼、そうだ、夢ならどれだけいいだろうか。
目が覚めた時には、広い花畑の上で、二人で花冠を作るのだ。

お互いに作りあって、交換しあいっこをするのだ。

嗚呼、そんな、ゆめなら、いいのに。

夢だけで、私は、満足してしまわなきゃ、いけないというのに。























「…満足しなくていいのですよ。」

私を、いや、僕を。

「必要としてくれている、その想いだけで。


僕は救われるというのに。